説明

線条類の切断工具及びスロットロッド切断方法

【課題】 例えば、光ファイバ用スロットロッド等の切断対象となる線条類を、正確、安全にしかも一人の作業者で効率よく切断できる線条類の切断工具及びスロットロッドの切断方法を提供する。
【解決手段】 切断部12と、切断部12に一体連結されて該切断部12を切断操作する操作部14と、を含む本体部16と、切断部12に一体的に設けられ、操作部14の切断操作と無関係に線条類(110)の切断位置近傍であって切断部12の横並び位置(N1)を把持離脱自在に把持する把持部18と、を有し、把持部18により線条類(110)を把持させた状態で把持部18を支持する本体部16の操作部14を一方の手で握り、他方の手Hdで切断すべき線状類の一部(N2)を把持した状態で線状類(110)を切断可能とすることを特徴とする線条類の切断工具10から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、架空敷設されるケーブル類や光ファイバ用スロットロッド等の線条類を切断する際に用いられる線条類の切断工具及びスロットロッド切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に示すように、例えば、電柱P間に架空敷設された通信用の光ファイバケーブル100から新しく各家庭H等の端末に光ファイバを引き落とす際には、該架空された光ファイバケーブル100に光ケーブルの分岐、接続、切換、収容等を行なうためにクロージャ101が取り付けられる。例えば、架空光ファイバケーブル100は、図9に示すように、中心に鋼線103を有した支持線部102と、光ファイバ心線108を有するケーブル部104と、が首部106を介して一体的に設けられている。ケーブル部104では、弾性材で形成されたスロットロッド110の外周側に螺旋状の溝111が複数個刻設されており、その溝内にテープ状の光ファイバ心線108が螺旋状に巻きつき配置され、その外周を外被114で被覆して保護されている。さらに、スロットロッド110の中心には、ケーブルの心となる鋼線等からなるテンションメンバ112が配置されている。
【0003】
図10に示すように、クロージャを架空光ファイバケーブル100に取り付ける作業では、取り付け位置の首部を切断して支持線部102とケーブル部104を分離し、光ファイバ心線に張力がかからず十分に余長がとれるように、光ファイバケーブルを取り付け中心位置に向けて左右両側から引き寄せて撓ませる。クロージャが取り付けられる部分に対応してたるみ部分のケーブル部の外被を剥ぎ取ってスロットロッド110を露出させる。そしてスロットロッドを撓ませた状態で、光ファイバ心線108を外被を剥ぎ取った部分に対応してスロットロッドの溝から離脱させて、例えば、クリッパー等の切断工具でスロットロッド110を切断する。そして、スロットロッドを切断した後に、光ファイバ心線はクロージャ内で配線、収納等される。
【0004】
上記作業において、スロットロッドを切断する工程では、クリッパー等でスロットロッドを切断した直後に撓ませた状態のスロットロッドがその切断分離により強く跳ね返って、近くに配置されている光ファイバ心線を損傷、切断してしまうおそれがあった。さらに、切断工具自身が光ファイバ心線に触れて損傷させるおそれがあった。また、光ファイバ心線が作業者の手や袖に引っかかったり等して不意に切断工具の切断刃の間に入ってしまってそのまま切断されてしまうおそれがあった。光ファイバケーブルは一部でも損傷されると利用できなくなってしまうので、新たなケーブルが必要となり、ケーブルの敷設にかかる費用、労力、時間等に多大な損失が発生する。また、切断後のスロットロッドの跳ね返りを防ぐために光ファイバケーブルの切断位置両側を他の作業者が両手で把持する場合には、作業者が2人必要であるから切断作業が煩雑で非効率なものとなっていた。
【0005】
一方、特許文献1には電線や電話線等のケーブルを切断するのに用いられるケーブルカッタが開示されている。特許文献1のケーブルカッタは、軸着された固定刃部4と可動刃部6とを有し、駆動歯車11と可動刃部6に設けられた扇形歯車12とを噛合させ、ハンドル付操作棒16を介して駆動歯車を駆動させて可動刃部6を固定刃部4に対して開閉させる。さらに、固定刃部4と可動刃部6には、それぞればね式把持部材15が設けられ、可動刃部の全閉時にばね式把持部材15が互いに対向して押止し合って可動刃部の回転を規制して、駆動歯車と扇形歯車とが外れるのを防ごうとするものであった。また、ばね式把持部材は線材を切断する際に線材を把持して、線材の切断完了後に切断された線材が落下するのを防ごうとするものであった。この特許文献1のケーブルカッタを用いて、図10に示すような光ファイバ心線を離脱させたスロットロッドを切断する際には、光ファイバ心線を避けつつ、固定刃部と可動刃部との間にスロットロッドを配置させる。そして、スロットロッドがばね式把持部材の把持中心位置にくるように微調整しながら、ハンドルを両手で操作して刃及びばね式把持部材を共に閉動作させて該スロットロッドを切断させる。
【特許文献1】特開2002−160119号公報(明細書[0046]〜[0052]、図3〜図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図10のようなスロットロッド110の切断作業は高所で不安定なバケット等の上での作業であるとともに、架空光ファイバケーブル自体も不安定な状態であるから、上記のような刃及び把持位置等の調整は煩雑で時間がかかるとともに確実性に劣るものであった。すなわち、特許文献1ではばね把持部材でスロットロッドの把持を確実に行なうのが困難であり、スロットロッド切断直後に跳ね返りを起こして、光ファイバ心線を損傷、断線等させるおそれが高いものであった。さらに、ケーブルカッタが光ファイバ心線に触れて損傷させたり、不意に光ファイバ心線が刃の間に入ってしまってそのまま切断されてしまうおそれもあった。上記のように光ファイバケーブルは一部でも損傷されると利用できなくなってしまうので、新たなケーブルが必要となり、ケーブルの敷設にかかる費用、労力、時間等に多大な損失が発生するという問題が発生する。また、仮にばね式把持部でスロットロッドの切断端部の一方を把持できたとしても、他方の切断端部がフリー状態のままであるが、作業者は両手でカッタを操作するため、結局はスロットロッドを把持するために他の作業者が必要となり、作業が煩雑で非効率的なものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば、スロットロッド等の切断対象となる線条類を、正確、安全にしかも一人の作業者で効率よく切断できる線条類の切断工具及びスロットロッドの切断方法を提供することである。さらに、他の目的は、切断を行なわない線条類を保護して、切断対象の線条類のみを正確に切断できる線条類の切断工具セットを提供することである。また、他の目的は、光ファイバ心線を保護しつつ、スロットロッドのみを正確に切断できるスロットロッドの切断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、切断部12と、切断部12に一体連結されて該切断部12を切断操作する操作部14と、を含む本体部16と、切断部12に一体的に設けられ、操作部14の切断操作と無関係に線条類(110)の切断位置近傍であって切断部12の横並び位置(N1)を把持離脱自在に把持する把持部18と、を有し、把持部18により線条類(110)を把持させた状態で把持部18を支持する本体部16の操作部14を一方の手で握り、他方の手Hdで切断すべき線状類の一部(N2)を把持した状態で線状類(110)を切断可能とすることを特徴とする線条類の切断工具10から構成される。切断工具は、例えば、架空、地上、地下に敷設される光ファイバ用スロットロッド、電力線、電話線、通信線、その他種々の線条類の切断に適用しうる。
【0009】
その際、把持部18は、その把持中心が切断部による切断中心と略心合わせされた位置に設定されていると好適である。なお、線条類の切断の際に、把持部の把持中心と切断部による切断中心とが略心合わせされた位置に設定されるように構成されていればよく、例えば、収納、保管時等には互いに心合わせされていなくても良い。
【0010】
また、切断部12は枢軸20回りに開閉する一対の切断刃22a、22bからなるとともに、把持部18は該枢軸20を共通軸として開閉する一対の把持片28a、28bからなり、把持片28a、28bは常時互いに閉着するように弾性的に付勢されていることとしてもよい。把持片は、例えば、巻きばね、板ばねその他のばね部材、その他の弾性部材で付勢されていても良い。弾性的な付勢力の強さは任意に設定してもよいが、例えば、把持片の開放操作がスムーズに行なえるとともに切断刃による切断作業時の衝撃等で把持しているスロットロッドが外れない程度の強さで設定されるとよい。
【0011】
また、把持片28a、28bのいずれかを開放操作する開放レバー32が設けられていることとしてもよい。把持片が線条類を把持させる構成としては、互いに枢軸回りに開閉してもよい。把持片のいずれかを開放操作することにより、切断中心との心合わせ構成を設計しやすいとともに、片手での簡単な操作を実現できる。
【0012】
さらに、本発明は、線条類の切断工具10と、切断しない他の線条類(108)を収束、開放自在に束ね保持し切断工具10による切断作業時の作業動作による影響を及ぼさないようにする収束保護部材40と、を備えたことを特徴とする線条類の切断工具セットから構成される。収束保護部材は、例えば、他の線条類を束ねるように巻きつけられる帯状体や硬質素材からなる筒状体等その他任意の構成でもよい。収束保護部材は、例えば、切断工具の操作部に着脱自在な構成とすると持ち運びに便利である。例えば、収束保護部材を帯状に形成して、操作部に巻きつけて保管、持ち運び等することとしてもよい。
【0013】
また、本発明は、光ファイバ心線108を担持するスロットロッドから光ファイバ心線108を離脱させて該離脱させた部分のスロットロッド110を切断する光ファイバ用スロットロッドの切断方法であり、スロットロッド110に係合して把持する把持部18と、これを一体的に付設させた操作部14付きの切断部12と、を有する切断工具10を用意し、切断位置周辺の光ファイバ心線を収束保護部材40で束ねる工程と、スロットロッド110の切断位置の両側について、一方側(N2)を片手Hdで把持しつつ、他方側(N1)を切断部12に一体的に付設された把持部18に把持させる工程と、他の片手で操作部14を介して切断部12を切断操作する工程と、を含むことを特徴とするスロットロッドの切断方法から構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の線条類の切断工具は、切断部と、切断部に一体連結されて該切断部を切断操作する操作部と、を含む本体部と、切断部に一体的に設けられ、操作部の切断操作と無関係に線条類の切断位置近傍であって切断部の横並び位置を把持離脱自在に把持する把持部と、を有し、把持部により線条類を把持させた状態で把持部を支持する本体部の操作部を一方の手で握り、他方の手で切断すべき線状類の一部を把持した状態で線状類を切断可能とする構成であるから、例えば、切断直後に切断分離されたスロットロッド等の線条類を確実に把持して跳ね返りを防止して、切断しない光ファイバ心線等の他の線条類の損傷、切断を良好に防止できる。同時に一人の作業者で効率よく切断作業を行える。また、操作部の切断操作と無関係に把持部を操作できるので、線条類の把持操作も簡単に行なえる。さらに、切断部による切断動作を安定して行え、高所位置等の不安定な作業現場でも確実かつ円滑に切断作業を行える。また、簡単な構成で、低コストで製造できる。
【0015】
また、把持部は、その把持中心が切断部による切断中心と略心合わせされた位置に設定されている構成とすることにより、切断位置の微調整が不要であり、作業の確実性及び効率を向上させる。
【0016】
また、切断部は枢軸回りに開閉する一対の切断刃からなるとともに、把持部は該枢軸を共通軸として開閉する一対の把持片からなり、把持片は常時互いに閉着するように弾性的に付勢されている構成とすることにより、把持部による線条類の把持離脱操作の操作性がよいとともに、線条類の把持を確実に行なえる。また、線条類の種々の異なる径に対応して把持することができる。さらに、把持部の構成を簡単、低コスト構造で具体的に実現できる。
【0017】
また、把持片のいずれかを開放操作する開放レバーが設けられている構成とすることにより、片手での簡単な操作で把持部による線条類の把持離脱操作が行なえる結果、高所位置等の不安定な場所でも切断作業の作業性を向上できる。
【0018】
さらに、本発明は、線条類の切断工具と、切断しない他の線条類を収束、開放自在に束ね保持し切断工具による切断作業時の作業動作による影響を及ぼさないようにする収束保護部材と、を備えたことから、切断しない他の線条類を束ねて保護して誤切断を良好に防止でき、切断工具によって切断対象の線条類のみを確実に切断できる。さらに、切断作業時に切断しない他の線条類を厳重に注意しなくてもよく、切断作業をスムーズに行える。
【0019】
また、本発明は、光ファイバ心線を担持するスロットロッドから光ファイバ心線を離脱させて該離脱させた部分のスロットロッドを切断する光ファイバ用スロットロッドの切断方法であり、スロットロッドに係合して把持する把持部と、これを一体的に付設させた操作部付きの切断部と、を有する切断工具を用意し、切断位置周辺の光ファイバ心線を収束保護部材で束ねる工程と、スロットロッドの切断位置の両側について、一方側を片手で把持しつつ、他方側を切断部に一体的に付設された把持部に把持させる工程と、他の片手で操作部を介して切断部を切断操作する工程と、を含むスロットロッドの切断方法から構成されるから、スロットロッドの切断直後に切断分離されたスロットロッドの跳ね返りを防止して、光ファイバ心線の損傷、切断等を良好に防止できる。同時に一人の作業者で効率よく切断作業を行える。さらに、切断部による切断動作を安定して行え、高所位置でも確実かつ円滑に切断作業を行える。また、光ファイバ心線を束ねて保護して該光ファイバ心線の誤切断を防止できる。しかも、切断作業時に光ファイバ心線に厳重な注意を払わなくてもよいから、切断工具によるスロットロッドのみの切断を確実かつスムーズに行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の線条類の切断工具及びスロットロッドの切断方法の実施の形態について説明する。本発明の線条類の切断工具は、例えば、光ファイバ用スロットロッド等の線条類の切断に適用され、図8ないし図10で示した光ファイバケーブルの新規端末等への接続、配線等の作業において、光ファイバ心線108を担持するスロットロッド110から光ファイバ心線108を離脱させて該離脱させた部分のスロットロッド110を切断するのに好適に適用される。スロットロッドの切断時に切断両側を把持部及び手で把持することにより、切断作業の際の切断分離されたスロットロッドの跳ね返りによる光ファイバ心線の損傷、切断を良好に防止できる。
【0021】
図1ないし図7は本発明の線条類の切断工具の実施の形態を示している。本実施形態において、図1に示すように、線条類の切断工具(以下、単に「切断工具」ともいう)10は、切断部12と、操作部14と、を含む本体部16と、切断部12に一体的に設けられた把持部18と、を有している。本実施形態の切断工具10は、図5に示すように、一人の作業者Wが把持部18によりスロットロッド110を把持させた状態で把持部18を支持する本体部16の操作部14を一方の手で握り、他方の手Hdで切断すべきスロットロッドの一部を把持した状態でスロットロッドを切断する。
【0022】
図1、図3に示すように、切断部12は、本実施形態では、枢着部19の枢軸20回りに開閉する一対の切断刃22a、22bを有しており、間に挟んだスロットロッド(線条類)を挟み切るように設けられている。切断刃22a、22bは、例えば、ステンレス鋼や鉄等の金属からなり、対向内側に刃先23を有している。切断刃22a、22bには、互いに交差して延設された連設部24a、24bが一体形成されており、上下に開閉するように交差部分を枢軸20で枢支して連結されている。連設部24a、24bには操作部14が一体的に連結されている。
【0023】
操作部14は、切断部12に一体連結されて該切断部12を切断操作する操作手段であり、本実施形態では、それぞれの切断刃22a、22bに一体連結された一対の操作ハンドル26a、26bを含む。図1において、操作ハンドルはそれぞれ切断部の連設部と接続されており、下側の操作ハンドル26aが上側の切断刃22aと一体連結され、上側の操作ハンドル26bが下側の切断刃22bと一体連結されている。すなわち、本実施形態では、本体部16は、枢軸20を介して一端側に操作部14となる操作ハンドル26a、26bが形成されるとともに、他端側に切断部12となる切断刃22a、22bが設けられて構成されている。本実施形態では、操作ハンドル26a、26bは、例えば、ステンレス鋼、鉄等の硬質金属で形成されており、握り部分表面はビニル樹脂等で被覆されている。操作ハンドル26a、26bの枢軸20回りの開閉操作に伴って切断刃22a、22bが開閉動するようになっており、作業者が片手で操作ハンドル26a、26bを握持動作することで簡便に切断操作を行なえるようになっている。
【0024】
本実施形態において、把持部18は、切断部12と一体的に設けられており、図5に示すように、操作部14の切断操作と無関係にスロットロッドの切断位置(X)近傍であって切断部12の横並び位置N1を把持離脱自在に把持する。図1、図2、図4に示すように、把持部18は、本実施形態において、切断部12の横(図2上、左側)に切断部と対向状に近接して配置されている。把持部18は、切断部12の枢軸20を共通軸として開閉する一対の把持片28a、28bを含む。本実施形態では、把持片28a、28bは、枢軸20に巻きつき状に配置された巻きばね38により常時互いに閉着するように弾性的に付勢されている。本実施形態では、把持片28a、28bは、ある程度の強度を有する金属ブロック体または板体からなり、把持するスロットロッドの長手方向に向けてある程度の長さを有して形成されている。本実施形態では、下側の把持片28bには該把持片28bを前記巻きばね38の付勢力に抗して開放操作させる開放レバー32が設けられている。把持部18は、その把持中心が切断部12による切断中心と略心合わせされた位置に設定されている(図2上、把持中心線200参照)。本実施形態では、把持片28a、28bを含む把持部18は、操作ハンドルによる開閉操作の際に、枢軸20を共通軸として、上側の切断刃22a、連設部24a及び操作ハンドル26aと供回りするようになっている。さらに、本実施形態では、上側の把持片28aの把持面と上側の切断刃22aの刃先とが正面視で略揃った位置に設定されている。切断刃22a、22bの枢軸20回りの開閉動作に係わらず、把持片28a、28bの把持中心と切断刃の切断中心とがあたかも略心合わせされた状態となる。把持片28a、28bは、切断刃22aに対して枢軸20回りに揺動できるようになっており、切断部12によるスロットロッドの切断時に切断刃22aの刃先23が上側の把持片28aの把持面より突出しうるようになっている。さらに、把持片の切断刃22aに対する位置を保持するようにばね部材34で付勢されている。ばね部材34は、例えば、コイルばねからなり、一端側を上側の切断刃22aからの連設部24aに接続され、他端側を上側の把持片28aに形成された延長部35に接続されている。なお、把持部18は、固定状に設けることによって、切断部の切断中心と把持中心位置とを心合わせされた位置に設定する構成としてもよい。把持部18にスロットロッドを把持させておくことで不安定な作業場所でも目的とする切断位置Xに対する切断部のずれが生じにくく、切断部12によるスロットロッド切断動作を確実かつ円滑に行なえる。
【0025】
図1において、開放レバー32は下側の把持片28bに一体的に固定されて斜め上方側に延設されている。開放レバー32を片手で前(F)方向に向けて押動することにより、巻きばね38に抗して上側の把持片28aに対して下側の把持片28bを開動させて把持部を開放する。一方、上側の把持片28aには開放レバーを含む下側の把持片28bと交差状に斜め下方に向けて延長部35が設けられている。延長部35には、切断刃22aの連設部24aの下面側に係止されるように横方向に向けて規制片36が突出されている(図2参照)。開放レバー32の押動操作時には、延長部の規制片36によって上側の把持片28aが共に回動するのを規制し、上側の把持片28aと切断刃22aとの位置関係を保持しつつ、下側の把持片28bの開放動作を円滑に行なわせる。開放レバー32を介して把持部18を開放した状態でスロットロッドの切断位置に対応して位置合わせし、手を離すだけでスロットロッドを把持することができる。これにより、把持部18によるスロットロッドの把持離脱操作を簡単に行なえる。さらに、把持片28a、28bは弾性的に開閉してスロットロッドの種々の径のものに対応して把持できる。把持部18は、切断部12によりスロットロッドを切断した際に、切断分離された一方のスロットロッドを把持しておくことでスロットロッドの跳ね返りを防止して、近接している光ファイバ心線の損傷、切断等を防止する。なお、把持部とは他方側の切断分離されたスロットロッドについては、上記のように操作部14を片手(例えば、右手)で操作できるので、空いた片手(左手)Hdで把持して跳ね返りを防止することができる。すなわち、一人の作業者Wだけで切断位置Xの両側を把持した状態と操作部14による切断操作とを同時に行うことができる。なお、把持片28a、28bの対向内側はそれぞれ略く字状に凹設されて形成され、スロットロッドとの当接面にはゴム板等の弾性部材30が取り付けられている。スロットロッド110を把持した際に密着して、スロットロッドの切断作業時に生じる衝撃等で不意に離脱するのを防ぐ。なお、上記実施形態では、開放レバーは押動作で把持部を開放させたが、開放レバーの引き動作により把持部を開放させることとしてもよい。また、それぞれの把持片に開閉レバーをつけて、各開閉レバーを開閉動させて把持部を開放するようにしてもよい。また、把持片は円弧状やその他任意形状に形成してもよく、その他線条類を把持しやすい構成としてもよい。
【0026】
さらに、本実施形態では、図5に示すように、上記の切断工具10による切断作業時には光ファイバ心線108を保護する収束保護部材40が利用される。収束保護部材40は、スロットロッドから離脱させた光ファイバ心線108を収束、開放自在に把ね保持し、該切断作業時の作業動作による影響を及ぼさないようにする保護手段である。これにより、スロットロッドと切断しない光ファイバ心線とを明確に分けた状態で切断工具10によるスロットロッド110のみの切断を確実に行うことができ、光ファイバ心線の誤切断を防止できる。本実施形態において、収束保護部材40は、図6、図7に示すように、両端側を接続部42を介して接続される収束帯44を含む。収束帯44は例えば、布、皮、不織布、ビニル樹脂等の合成樹脂、その他の軽量で自在に撓む素材からなり、複数本の光ファイバ心線を束ねた状態で巻きつけて、両端側を重ねた状態で接続される。本実施形態では、接続部42は、例えば、収束帯44の両端側に表裏互い違いに配置された面ファスナ46a、46bからなり、接続離脱が簡単に行なえるようになっている。なお、接続部は、例えば、ボタン、フック、紐、その他着脱操作が簡単に行なえるものであればよい。
【0027】
次に、本実施形態に係る線条類の切断工具の作用及びスロットロッドの切断方法について説明する。例えば、図10に示すように架空光ファイバケーブルの中間位置での接続、配線作業等において、クロージャ等の取り付け位置に対応してケーブル部を撓ませて外被を剥ぎ取り、露出させたスロットロッド110から該露出部分に対応する部分の光ファイバ心線108を離脱させ、該スロットロッド110を切断する場合には、図5に示すように、まず、スロットロッドの切断位置に近接している離脱させた光ファイバ心線108を収束保護部材40で束ねておく。これにより、光ファイバ心線108が切断工具10によるスロットロッドの切断作業時の作業動作の影響を受けにくくなり、切断工具による光ファイバ心線の損傷や誤切断等を良好に防止できる。そして、切断工具10の操作ハンドル26a、26bを開いて切断部12を開いた状態とし、切断部側をスロットロッドに近付ける。把持部18の開放レバー32を前に押圧して把持片を開き、把持片28a、28bの間にスロットロッドを収容させる。開放レバー32から手を離すとばね付勢により把持片が閉じてスロットロッドの一部N1を把持する。把持部でスロットロッドの一部を把持し、しかも把持部の把持中心と切断部の切断中心が心合わせされて設定されているので、切断部12がスロットロッドに対して位置決めて微妙な位置設定が不要となる。これにより、高所等の不安定な場所でも後の切断部による切断作業を確実に行える。作業者Wは、例えば、操作部14を右手で握り、把持部と切断部を挟んで反対側のスロットロッドの一部分N2を左手(Hd)で把持する。すなわち、スロットロッドの切断位置の一方側(N2)を片手Hdで把持しつつ、他方側(N1)を右手で握っている本体部の切断部12に一体的に付設された把持部18に把持させることとなり、一人の作業者Wだけで切断位置Xの両側を把持した状態と、本体部の操作部による切断操作とを同時に実現できる。手で把持する位置は、ある程度切断部に近い位置で操作部の操作が行ないやすいような位置でよい。そして右手の操作部を強く握り込んで切断刃を閉動作させてスロットロッドを切断する。この際、切断分離されたスロットロッドは、一方(N2)は左手Hdで把持するとともに、他方(N1)は切断部12と一体となった把持部18で把持しているので、該スロットロッドの跳ね返りによる光ファイバ心線の損傷、切断等を良好に防止できる。このようにして、一人でも効率よく切断作業を行える。なお、スロットロッド110を把持する手Hdは、少なくとも切断直前から把持すればよく、例えば、スロットロッド中心のテンションメンバを切断する際の強い握り込み動作の前に把持するようにしてもよい。切断作業終了後には、収束保護部材を離脱して光ファイバ心線を開放して、その後の作業、例えば、クロージャ取り付け作業等が行われる。
【0028】
以上説明した本発明の線条類の切断工具及びスロットロッドの切断方法は、上記した実施形態のみの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の本質を逸脱しない範囲において、任意の改変を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の線条類の切断工具及びスロットロッドの切断方法は、例えば、光ファイバ心線を担持するスロットロッドから光ファイバ心線を離脱させて該離脱させた部分のスロットロッドを切断する光ファイバ用スロットロッドを切断するのに適用しうる。さらに、切断工具は、電力線、電話線、その他種々の線条類の切断に適用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る線条類の切断工具の正面説明図である。
【図2】図1の線条類の切断工具のA−A線矢視図である。
【図3】図1の線条類の切断工具の要部の背面図である。
【図4】図1の線条類の切断工具の要部の作用説明図である。
【図5】切断工具及び切断方法の作用説明図である。
【図6】収束保護部材の平面図である。
【図7】収束保護部材の正面図及びその作用説明図である。
【図8】架空光ファイバケーブルの端末への引き落とし説明図である
【図9】架空光ファイバケーブルの断面拡大図である。
【図10】架空光ファイバケーブルの接続、収容、引き落とし作業等において、スロットロッドを撓ませて光ファイバ心線を離脱した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
10 線条類の切断工具
12 切断部
14 操作部
16 本体部
18 把持部
20 枢軸
22a、22b 切断刃
28a、28b 把持片
32 開放レバー
40 収束保護部材
108 光ファイバ心線
110 スロットロッド
X 切断位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断部と、
切断部に一体連結されて該切断部を切断操作する操作部と、を含む本体部と、
切断部に一体的に設けられ、操作部の切断操作と無関係に線条類の切断位置近傍であって切断部の横並び位置を把持離脱自在に把持する把持部と、を有し、
把持部により線条類を把持させた状態で把持部を支持する本体部の操作部を一方の手で握り、他方の手で切断すべき線状類の一部を把持した状態で線状類を切断可能とすることを特徴とする線条類の切断工具。
【請求項2】
把持部は、その把持中心が切断部による切断中心と略心合わせされた位置に設定されていることを特徴とする請求項1記載の線条類の切断工具。
【請求項3】
切断部は枢軸回りに開閉する一対の切断刃からなるとともに、把持部は該枢軸を共通軸として開閉する一対の把持片からなり、
把持片は常時互いに閉着するように弾性的に付勢されていることを特徴とする請求項1または2記載の線条類の切断工具。
【請求項4】
把持片のいずれかを開放操作する開放レバーが設けられていることを特徴とする請求項3記載の線条類の切断工具。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の線条類の切断工具と、
切断しない他の線条類を収束、開放自在に束ね保持し切断工具による切断作業時の作業動作による影響を及ぼさないようにする収束保護部材と、を備えたことを特徴とする線条類の切断工具セット。
【請求項6】
光ファイバ心線を担持するスロットロッドから光ファイバ心線を離脱させて該離脱させた部分のスロットロッドを切断する光ファイバ用スロットロッドの切断方法であり、
スロットロッドに係合して把持する把持部と、これを一体的に付設させた操作部付きの切断部と、を有する切断工具を用意し、
切断位置周辺の光ファイバ心線を収束保護部材で束ねる工程と、
スロットロッドの切断位置の両側について、一方側を片手で把持しつつ、他方側を切断部に一体的に付設された把持部に把持させる工程と、
他の片手で操作部を介して切断部を切断操作する工程と、を含むことを特徴とするスロットロッドの切断方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−198125(P2006−198125A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12261(P2005−12261)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000196716)西部電気工業株式会社 (6)
【出願人】(591083772)株式会社永木精機 (65)
【Fターム(参考)】