説明

線状体の架橋度測定方法およびこれに用いる架橋度測定システム

【課題】線状体の架橋度をリアルタイムで測定する。
【解決手段】線状体の架橋度測定システムは、導体の外周に絶縁層を有する線状体1の表面にレーザー光を照射するレーザー光照射部2と、線状体1からの反射光強度を測定する反射光強度測定部3と、反射光強度測定部3から出力する反射光強度から規格化した反射光強度を演算処理する演算処理部4とを備え,演算処理部4は、受光素子31から出力するアナログ信号としての反射光強度信号を増幅する増幅器41と、増幅された反射光強度信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ42と、A/Dコンバータ42から出力するデジタル信号から所定の演算処理を行なうCPU43と、CPU43の演算処理に基づいて絶縁層のTanδやTgを表示するディスプレイ44とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状体の架橋度測定方法およびこれに用いる架橋度測定システムに係り、特に、エナメル皮膜の色変化からエナメル皮膜の架橋度を推定することができる線状体の架橋度測定方法およびこれに用いる架橋度測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エナメル線は、導体とその外周にワニスで塗布されたエナメル皮膜(絶縁層)とを備えており、このような構成のエナメル線は約500°Cの高温炉中に、10〜20分間通すことで架橋されることになる。
【0003】
ところで、このような構成のエナメル線の製造においては、導体の外周にエナメル皮膜を最適な架橋度で被覆するために、エナメル線のサンプルから誘電正接(Tanδ)や転移温度(Tg)を測定し、このTanδやTgからエナメル皮膜の架橋度を推定することが行なわれている。ここで、Tanδは、絶縁体内部での電気エネルギーの損失の度合いを示し、また、Tgは、後述するようにガラス転移が生じる温度を示している。
【0004】
従って、エナメル皮膜の架橋度の測定は、エナメル線の製造・検査においては、重要な検査項目の1つとされている。
【0005】
図5は、従来におけるエナメル皮膜のTanδの測定方法を模式的に示す説明図である。
【0006】
同図において、エナメル線のサンプル10はU字状に湾曲され、当該湾曲部が金属容器20内に充填した水銀30中に浸漬され、サンプル10の一端部は絶縁クランプ40で把持され、他端部はエナメル皮膜10bの剥離により露出された導体10aが電極50を介して電気的に把持されている。なお、図中、符号60は絶縁部材、70はプラグを示している。
【0007】
このような状態で、水銀30を加温上昇させて、導体10aと対地間に交流電圧を印加することで、静電容量(エナメル皮膜10b)に流れる電流と、回路に流れる全電流との位相差からエナメル線のサンプル10のTanδ曲線を描き、当該Tanδ曲線のグラフからエナメル皮膜の架橋度を推定することができる(例えば、非特許文献1)。
【0008】
しかしながら、このようなTanδの測定による架橋度の推定方法は、測定精度が良好であるものの、エナメル線をサンプリングした上でTanδを測定することから、エナメル線の全数および全長に亘って測定することができず、また、生産ラインを流れているエナメル線に対してリアルタイムでの測定が困難であり、さらに、生産中にエナメル皮膜の架橋度の改善を行うことができないという難点があった。
【0009】
一方、Tgの測定から架橋度を推定する方法は、エナメル皮膜のガラス転移が生じる温度、すなわち、高分子物質としてのエナメル皮膜を加熱した場合にガラス状の硬い状態からゴム状に変わる現象が生じる温度を測定するものであるため、測定精度が良好であるものの、エナメル線をサンプリングした上でTgを測定しなければならないため、前述のTanδの測定方法と同様の難点があった。
【0010】
【非特許文献1】International Electro technical Commission, IEC Standard,Publication251−1,Second edition:Method of test for winding wires,Part1:Enamelled round wires,Geneve,Suisse(1978)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の難点を解決するためになされたもので、生産ライン中での絶縁層の架橋度の測定を容易に行なうことができるとともに、生産中に絶縁層の架橋度の改善を行うことができ、また、製品の全数検査を行うことができる線状体の架橋度測定方法およびこれに使用する架橋度測定システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様である線状体の架橋度測定方法は、導体の外周に絶縁層を有する線状体の表面にレーザー光を照射し、線状体の反射光強度から、絶縁層の架橋度を測定するものである。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様である線状体の架橋度測定方法において、導体の表面からの反射光強度をI、絶縁層表面からの反射光強度をIとしたときに、I/Iとして規格化した反射光強度を求め、規格化した反射光強度からあらかじめ相関係数を求めた値により絶縁層のTanδを測定するものである。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1の態様である線状体の架橋度測定方法において、導体の表面からの反射光強度をI、絶縁層表面からの反射光強度をIとしたときに、I/Iとして規格化した反射光強度を求め、規格化した反射光強度からあらかじめ相関係数を求めた値により絶縁層の転移温度を測定するものである。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様の何れかの態様である線状体の架橋度測定方法において、導体の表面からの反射光強度および絶縁層表面からの反射光強度を演算処理部に入力し、演算処理部で規格化した反射光強度を演算処理するものである。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様の何れかの態様である線状体の架橋度測定方法において、絶縁層はエナメル被膜で形成されているものである。
【0017】
本発明の第6の態様は、第1の態様乃至第4の態様の何れかの態様である線状体の架橋度測定方法において、絶縁層は架橋ポリエチレン絶縁体で形成されているものである。
【0018】
本発明の第7の態様である線状体の架橋度測定システムは、導体の外周に絶縁層を有する線状体の表面にレーザー光を照射するレーザー光照射部と、線状体の反射光強度を測定する反射光強度測定部と、反射光強度測定部から出力する反射光強度から規格化した反射光強度を演算処理する演算処理部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の態様乃至第6態様の線状体の架橋度測定方法および本発明の第7の態様の線状体の架橋度測定システムによれば、導体の外周に絶縁層を有する線状体の表面にレーザー光を照射し、線状体の反射光強度から、絶縁層の架橋度を測定することができることから、極めて単純な構成で、高速に(リアルタイムに)かつ安価に線状体の架橋度を測定することができる。従って、本発明の線状体の架橋度測定方法および線状体の架橋度測定システムによれば、生産ライン中での絶縁層の架橋度の測定を容易に行なうことができるとともに、生産中に絶縁層の架橋度の改善を行うことができ、また、製品の全数検査を行うことができる。
さらに、本発明の線状体の架橋度測定方法および線状体の架橋度測定システムは、光強度を測定することで、絶縁層の架橋度を測定し得ることから、測定周波数は受光素子の速度やA/Dコンバータで決定され、実質的に数kHz程度のリアルタイムで測定を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の線状体の架橋度測定方法および線状体の架橋度測定システムを適用した好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明における架橋度測定システムのブロック図を示している。
【0022】
先ず、線状体1としてのエナメル線は、導体とその外周にワニスで塗布された絶縁層としてのエナメル皮膜とを備えている。このような構成のエナメル線は、約500°Cの高温炉(不図示)中に、10〜20分間通して架橋することで、絶縁層としてのエナメル皮膜の架橋度が大きくなるほど黒っぽく変色することになる。
【0023】
本発明の線状体の架橋度測定システムは、エナメル皮膜の色変化から架橋度を推定するためのもので、導体の外周に絶縁層を有する線状体1の表面にレーザー光を照射するレーザー光照射部2と、線状体1からの反射光強度を測定する反射光強度測定部3と、反射光強度測定部3から出力する反射光強度から規格化した反射光強度を演算処理する演算処理部4とを備えている。
【0024】
レーザー光照射部2は、半導体レーザー等から成る光源21と、光源21から照射されるレーザー光を集光するための集光レンズ(不図示)とを備えており、反射光強度測定部3は、線状体1の表面に照射されたレーザー光の反射光強度を測定する受光素子(フォトダイオード)31を備えている。
【0025】
演算処理部4は、反射光強度測定部3から出力する反射光強度を平均化し、平均化した反射光強度を情報処理して表示する機能を有しており、具体的には、反射光強度測定部(受光素子)31から出力するアナログ信号としての反射光強度信号を増幅する増幅器41と、増幅された反射光強度信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ42と、A/Dコンバータ42から出力するデジタル信号から後述の演算処理を行なうCPU43と、CPU43の演算処理に基づいて後述の絶縁層のTanδやTgを表示するディスプレイ44とを備えている。ここで、増幅器41はA/Dコンバータ42に接続され、A/Dコンバータ42にはCPU43を介してディスプレイ44が接続されている。
【0026】
ここで、本発明は、後述するように、色変化から架橋度を推定するものであって、色変化自身を検出するものではない。すなわち、色変化自身を検出する場合は少なくとも3色以上の波長光が必要となるが、本発明においては単純に色変化によって単一波長光の反射光強度が変化するという極めて単純な原理によるものである。
【0027】
次に、このような構成の本発明の線状体の架橋度測定システムを用いて線状体の架橋度を測定する方法ついて説明する。
【0028】
先ず、生産ラインを流れる線状体1としてのエナメル線を模式するため、当該エナメル線はステッピングモーター駆動の移動台5上に載置され、かかる移動台5は線状体1の長手方向に沿って所定の速度で移動されている。なお、この実施例では、測定面近辺を数回測定し、これらの測定値の平均値を演算処理部に入力することで雑光を減少させている。
【0029】
図2は、線状体1としてのエステルエナメル線に対する規格化した反射光強度とTanδとの関係を示す説明図である。ここで、エステルエナメル線を構成する導体の表面からの反射光強度をI、架橋されたエステルエナメル線表面からの反射光強度をIとすると、エステルエナメル線に対する規格化した反射光強度はI/Iとして表すことができる。このように、規格化した反射光強度(I/I)は、導体としての裸銅線表面の反射光強度で規格化しているため、裸銅線表面の酸化変色の影響を受けない原理となっている。
【0030】
同図において、横軸は規格化した反射光強度(I/I)を、縦軸はTanδを示している。また、図中の1、2種は、JIS1種(Class1)、JIS2種(Class2)を示しており、これらはエステルエナメル線のエナメル皮膜の厚さの違いを示している。具体的には、JIS1種におけるエナメル皮膜厚さは、導体サイズが直径0.5mm〜3.2mmの場合は、22〜60μmとされ、JIS2種におけるエナメル皮膜厚さは、導体サイズが直径0.5〜3.2mmの場合は、15〜33μmとされている。
【0031】
図2より、エステルエナメル線は、大雑把には、同一の架橋度でもエナメル皮膜が厚い場合は色変化が大きくなっている(エナメル皮膜が黒っぽく変化している)という傾向を把握することができる。
【0032】
ここで、最小二乗法によって、規格化した反射光強度(I/I)とTanδとの関係(回帰曲線)を求めると、JIS1種、JIS2種に対してそれぞれ次式が得られる。すなわち、JIS1種のエステルエナメル線に対しては、
Tanδ=exp{7.955(I/I)−6.152}・・・(1.1)
JIS2種のエステルエナメル線に対しては、
Tanδ=exp{9.259(I/I)−7.723}・・・(1.2)
が得られる。
【0033】
このように、JISのエステルエナメル線においては、JIS1種、JIS2種の両種に対して一義的な関係があるので、これを校正曲線として利用すれば、反射光強度からTanδを推定することができる。
【0034】
図3は、Tgと規格化された光強度(I/I)との関係を示す説明図である。同図において、横軸は規格化した反射光強度(I/I)を、縦軸はTgを示している。ここで、図3に示す回帰曲線は、次式で表すことができる。
【0035】
先ず、JIS1種に対しては
Tg=−161.11(I/I+118.46(I/I)+111.38・・・(2.1)
JIS2種に対しては
Tg=−146.35(I/I+108.47(I/I)+118.88・・・(2.2)
図3より、JIS1、2種間で多少の変化が認められるものの、大雑把にはJIS1、2種間で全く同様の傾向を示していることが判る。具体的には、架橋度が大きくなって反射光強度が小さくなると、Tgが大きくなるという傾向を示している。従って、このような方法においても、(1.1)(1.2)式と同じように、(2.1)(2.2)式を校正曲線として利用することによって、反射光強度からTgを一義的に推定することができる。
【0036】
以上のように、本発明の線状体の架橋度を測定する方法によれば、(1.1)(1.2)式および(2.1)(2.2)式をソフトウエアに組み込んだシステムを構築することにより、規格化した反射光強度(I/I)からリアルタイムで、換言すればオンラインでTanδやTgを測定することができる。
【0037】
図4は、TanδとTgとの関係を示す説明図である。ここで、Tgは、前述の(1.1)(1.2)式および(2.1)(2.2)式から、次式で表すことができる。
【0038】
Tg=−8.9914Ln(Tanδ)+110.66・・・(3)
同図において、横軸はTanδを、縦軸はTgを示している。また、図中のR=0.9954は相関係数を示している。
【0039】
同図より、この場合には、JIS1種、2種の区別をすることなく、両者で全く同一の直線上に乗っていることがわかる。具体的には、Tgはlog(Tanδ)に対して99%以上の相関関係にあることがわかる。なお、これらの関係は、図2および図3からも容易に推測し得るように、JIS第1種、JIS2種に関わりなく同じ関係になっている。
【0040】
以上のように、本発明の線状体の架橋度測定方法によれば、反射光強度を測定するだけで、線状体の絶縁層としてのエナメル皮膜の架橋度、換言すれば、Tanδ(誘電正接)やTg(転移温度)を一義的に推定することができることから、リアルタイムで測定を行なうことができ、ひいては、本発明を生産ラインに適用することで、製品の品質管理や、さらにはパーソナルコンピュータ等の演算処理部から出力される信号を生産ラインの製造装置(入力側)にフィードバックすることで、高品質の製品、すなわち、最適に架橋された絶縁層を有する線状体を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、特許請求の範囲内で、次のように、変更、修正を加えることができる。
【0042】
第1に、前述の実施例においては、エナメル線の架橋度を測定する場合について述べているが、本発明はこれに限定されず、例えば、導体の外周に架橋ポリエチレン絶縁体を有するCVケーブルの架橋度を測定する方法にも適用することができる。
【0043】
第2に、前述の実施例においては、光源から半導体レーザーを照射する場合について述べているが、光源から照射するレーザーはルビーレーザー等の固体レーザーやヘリウムネオンレーザ等の気体レーザーでも同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施例における線状体の架橋度測定システムのブロック図。
【図2】本発明の一実施例におけるエステルエナメル線に対する規格化した反射光強度(I/I)とTanδ(誘電正接)との関係を示す説明図。
【図3】本発明の一実施例におけるエステルエナメル線に対する規格化した反射光強度(I/I)とTg(転移温度)との関係を示す説明図。
【図4】本発明一の実施例におけるTanδとTgとの関係を示す説明図。
【図5】従来におけるTanδの測定状況を示す模式図。
【符号の説明】
【0045】
1・・・線状体
2・・・レーザー光照射部
21・・・光源
3・・・反射光強度測定部
31・・・受光素子
4・・・演算処理部
41・・・増幅器
42・・・A/Dコンバータ
43・・・CPU
44・・・ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に絶縁層を有する線状体の表面にレーザー光を照射し、前記線状体の反射光強度から、前記絶縁層の架橋度を測定することを特徴とする線状体の架橋度測定方法。
【請求項2】
前記導体の表面からの反射光強度をI、前記絶縁層表面からの反射光強度をIとしたときに、I/Iとして規格化した反射光強度を求め、前記規格化した反射光強度からあらかじめ相関係数を求めた値により前記絶縁層のTanδを測定することを特徴とする請求項1記載の線状体の架橋度測定方法。
【請求項3】
前記導体の表面からの反射光強度をI、前記絶縁層表面からの反射光強度をIとしたときに、I/Iとして規格化した反射光強度を求め、前記規格化した反射光強度からあらかじめ相関係数を求めた値により前記絶縁層の転移温度を測定することを特徴とする請求項1記載の線状体の架橋度測定方法。
【請求項4】
前記導体の表面からの反射光強度および前記絶縁層表面からの反射光強度を演算処理部に入力し、前記演算処理部で前記規格化した反射光強度を演算処理することを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか1項記載の線状体の架橋度測定方法。
【請求項5】
前記絶縁層は、エナメル被膜で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4何れか1項記載の線状体の架橋度測定方法。
【請求項6】
前記絶縁層は、架橋ポリエチレン絶縁体で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4何れか1項記載の線状体の架橋度測定方法。
【請求項7】
導体の外周に絶縁層を有する線状体の表面にレーザー光を照射するレーザー光照射部と、前記線状体の反射光強度を測定する反射光強度測定部と、前記反射光強度測定部から出力する反射光強度から規格化した反射光強度を演算処理する演算処理部とを備えることを特徴とする線状体の架橋度測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−214807(P2006−214807A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26359(P2005−26359)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(501112596)株式会社ユニマック (2)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】