説明

線維性疾患および線維増殖性疾患を処置および診断するための方法

本発明は、繊維性肺疾患を診断および処置するための組成物および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連発明
この出願は、2006年11月30日に提出された米国仮出願番号60/872019号の優先権を主張するものである。なお、これらの開示内容は出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、国立衛生研究所により付与された承認番号HL73848、HL080206、AR055075、CA87879およびHL66027の下に一部助成されたものである。米国政府は本発明における所定の権利を有する。
【0003】
本発明の分野
本発明は、線維性疾患または線維増殖性疾患を有する被験体を処置および診断する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
技術背景
米国内の45%の死亡は、多くの組織および器官系に影響を与え得る線維増殖性疾患によると見積もられている。線維症は、ほぼ全ての組織および器官系に影響を与える。線維症が罹患率および死亡率の主な原因となる疾患には、慢性B型またはC型肝炎、腎臓疾患、心臓疾患および全身性硬化症によりもたらされる間質性肺疾患、肝硬変、肝線維症が挙げられる。また、線維増殖性疾患には、全身および局所強皮症、ケロイドおよび肥大型性心筋症、アテロ−ム性動脈硬化症、再狭窄および黄斑変性症、ならびに網膜および硝子体網膜症を含む眼疾患も包含される。他の線維症には、手術による過剰な瘢痕化、化学療法薬誘発性線維症、照射誘導性線維症、および損傷および熱傷が包含される。また、線維化した組織再構築により、癌転移に影響を与え、移植レシピエントにおける慢性移植片拒絶反応を加速させる[28]。
【0005】
線維症は、喘息、塵肺症および様々な感染を含む多くの慢性肺不全に関する病原論の中心的なものである。しかし、典型的な線維化した肺疾患は、線維化間質性肺疾患、通常の間質性肺炎(UIP)および非特異的間質性肺炎(NSIP)の線維化した亜型(fibrotic variant)を包含する。これらの病気は病因が知られておらず、また進行性肺線維症を特徴とし、通常呼吸不全や早死に至る。これらの疾患の臨床的経過を変える際に明らかに有効な処置はなく、その病原論についての十分な理解が早急に必要である[1]。
【0006】
調節不全組織再形成は、線維性肺疾患発症の基本である:UIPおよび線維性NSIPは、密集または緩い線維症の形態で細胞外マトリクスが顕著に蓄積するが、比較的穏やかな白血球浸潤に関する組織学的特性を共有する[2]。それらは、UIPにおける病変の変化に富んだパターンにより区別され、ここで正常領域は、白血球浸潤のある領域および進行性線維症を有するその他の領域と並置されているが、線維化したNSIPはその分布は均質である[3-5]。さらに、高濃度の線維芽細胞数と局所損傷および新規コラーゲン生成と関連のある筋線維芽細胞とから構成される線維芽細胞の病巣の病変障害は、線維性NSIPよりもUIPにおいてより顕著である[6-8]。
【0007】
肺線維芽細胞および筋線維芽細胞の起源は、線維症、例えば肺線維症の病原論において重要な論点である。これらの細胞は、内在する肺線維芽細胞から専ら派生されると過去には考えられていたが、最近の研究により、肺上皮細胞[9]から、および循環する前駆体細胞である線維芽細胞[10]から分化できることが示された。線維芽細胞は、単球の形態を有する骨髄由来細胞であって、白血球および造血幹細胞の表面マーカーだけでなくコラーゲン-Iをも発現する;また、異なる細胞型に分化できる[11-13]。ブレオマイシン誘導性肺疾患の線維症のマウスモデルにおいて、マウスおよびヒト両方の線維芽細胞は、肺にトラフィッキングでき、そして肺中のコラーゲン沈着およびα-平滑筋アクチン(αSMA)発現細胞の蓄積に関与し得ることは、以前から示されている[10]。さらに、これらの細胞動員は、肺内のケモカインリガンドであるCXCL−12および線維芽細胞上の受容体であるCXCR4の相互作用により媒介される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
当分野では、線維症の診断および処置方法についての必要性が長い間感じられてきた。本発明はこれらの必要性をみたすものである。
【0009】
本発明の要約
本願発明は、これに限定しないがヒトの線維化間質性肺疾患を含む線維性疾患および線維増殖性疾患への線維芽細胞の関与を含む。本出願において開示された試験は、線維芽細胞誘引性ケモカインであるCXCL−12の発現、循環する線維芽細胞の存在および数、ならびにCXCL−12受容体であるCXCR4のその発現について、UIPおよび線維性NSIP患者由来のヒト肺組織および末梢血液を、正常コントロールと比較したものである。いずれの特定の理論に縛られることなく、本明細書に開示したデータは、循環する線維芽細胞の数が、線維性疾患を有する患者における新規バイオマーカーであり得ることを示している。
【0010】
本願発明は、線維性疾患を有する患者の線維化した器官および血漿の両方において、特に肺線維症患者の肺および血漿において、CXCL−12の発現が増強したことを開示する。CXCL−12レベルは、これらの患者の末梢血液において非常に高い循環する線維芽細胞の数と関連があった。間質性肺疾患患者における大部分の循環する線維芽細胞は、筋線維芽細胞マーカーであるα-平滑筋アクチンに対してネガティブであって、比較的未分化の表現型を示唆している。いずれの特定の理論に縛られることなく、本明細書に開示したデータは、線維芽細胞がヒト線維症の病因論に関与することを示唆している。
【0011】
上記議論の結果はヒト肺線維症モデルにて行った実験に関するが、当業者は、この結果が線維症および線維症症状の広い範囲に適用できることを認識するであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施態様において、本発明は、線維性疾患または線維性障害を有する被験体の診断方法を含んでいる。ある局面において、線維性疾患または線維性障害は、循環する線維芽細胞の数を決定することにより診断される、ここで、線維性疾患または線維障害をもたない第二の被験体中の循環する線維芽細胞の数に対して、被検体中の循環する線維芽細胞の数における増加が、第一の被験体が線維性疾患または線維障害であるという指標である。第一の被験体とは、試験被験体であり、第二の被験体はコントロール被験体である。組織または末梢血液サンプルを使用して、試験被験体およびコントロール被験体における循環する線維芽細胞の数を決定できる。組織または末梢血液サンプルは、循環する線維芽細胞の数をアッセイする前に当業者には既知の方法(例えば、静脈穿刺または生検)により得ることができる。当業者には既知の方法(フローサイトメーターを含むが、これに限定しない)を使用して、試験サンプル中の線維芽細胞の数を決定できる。
【0013】
別の態様において、線維性疾患または線維障害は、CXCL−12の循環量を決定することにより診断される、ここで、線維性疾患または線維障害をもたない第二の被験体中の循環するCXCL−12の量に対して、患者中の循環するCXCL−12の量における増加が、該第一の被験体が線維性疾患または線維障害を有するという指標である。ある局面において、該被験体とはヒトである。第一の被験体は試験被験体であり、第二の被験体はコントロール被験体である。組織または末梢血液サンプルを使用して、試験被験体およびコントロール被験体中のCXCL−12レベルを決定できる。組織または末梢血液サンプルを、CXCL−12のレベルをアッセイする前に当業者には既知の方法(例えば、静脈穿刺または生検)により得ることができる。タンパク質レベルを決定するための当業者には既知の方法には、ELISA、免疫組織化学染色およびウェスタンブロッド分析を包含するが、これらに限定するものではない。これらの方法を使用して、試験サンプル中の線維芽細胞の数を決定できる。
【0014】
ある局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数は、正常な患者中の数よりも少なくとも約10%多い。ある局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数は、正常な患者よりも少なくとも約20%多い。ある局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数は、正常な患者よりも少なくとも約30%多い。ある局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数は、正常な患者よりも少なくとも約40%多い。ある局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数は、正常な患者よりも少なくとも約50%多い。ある局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数は、正常な患者よりも少なくとも約2倍多い。ある局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数は、正常な患者よりも少なくとも約5倍多い。別の態様において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数は、正常な患者よりも少なくとも約10倍多い。
【0015】
本発明は、循環する線維芽細胞を同定および定量するための組成物および方法を提供する。ある局面において、循環する線維芽細胞は、コラーゲン-Iを発現するCD45+細胞として選択される。本発明は、さらに、線維芽細胞のCXCR4+およびCXCR4-サブセットを含む。別の態様において、循環する線維芽細胞はαSMAも発現する。他の教示は、当分野の技術者に利用可能であって、またよく知られている。
【0016】
ある局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環するCXCL−12の量は、正常な患者よりも少なくとも約10%多い。別の態様において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環するCXCL−12の量は、正常な患者よりも少なくとも約20%多い。ある局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環するCXCL−12の量は、正常な患者よりも少なくとも約30%多い。別の局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体における循環するCXCL−12の量は、正常な患者よりも少なくとも約50%多い。別の局面において、線維性疾患または線維障害を有する被験体における循環するCXCL−12の量は、正常な患者よりも少なくとも約100%多い。ある局面において、線維性疾患または線維性障害を有する被験体中の循環するCXCL−12の量は、正常な患者よりも少なくとも約500%多い。別の態様において、線維性疾患または線維障害を有する被験体中の循環するCXCL−12の量は、正常な患者よりも少なくとも約1000%多い。本発明は、循環するCXCL−12を検出および定量するための方法および組成物をさらに提供する。
【0017】
一実施態様において、線維性疾患または線維障害は、被験体の肺、肝臓、腎臓、心臓、眼、血管系、胆嚢または皮膚に影響を与える。本発明の一実施態様において、線維性疾患または線維障害は、1以上の器官または系に影響を与える。本発明の方法によって診断および処置され得る線維性疾患には、特発性肺線維症、線維化間質性肺疾患、間質性肺炎、非特異的間質性肺炎の線維化した亜型、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、石綿症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈性肺高血圧、肝線維症、肝硬変、腎線維症、糸球体硬化症、x腎臓線維症、糖尿病性腎症、心臓疾患、線維化した心臓弁膜症、全身性線維症、リウマチ性関節炎、手術による過剰な瘢痕化、化学療法薬誘発性線維症、照射誘導性線維症、黄斑変性症、網膜および硝子体網膜症、アテロ−ム性動脈硬化症ならびに再狭窄が包含されるが、これらに限定するものではない。
【0018】
本発明の別の実施態様において、線維性または線維増殖性の疾患とは、肺疾患、例えば線維化間質性肺疾患である。ある局面において、線維化間質性肺疾患はUIPである。別の態様においては、それはNSIPである。
【0019】
一実施態様において、線維性肺疾患または線維性肺障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の少なくとも一つの下位群は、線維性肺疾患または線維性肺障害を有さない被験体中の循環する線維芽細胞よりも、筋線維芽細胞への分化の程度が高いことを示す。
【0020】
一実施態様において、本発明は、線維性疾患または線維性障害を有する被験体を処置することを含む。ある局面において、該処置は、被験体中の循環する線維芽細胞の数を低下させることを含む。別の局面において、該処置は、該被験体中の循環する線維芽細胞の数を減少させること、および血漿CXCL−12レベルを低下させることを含む。別の局面において、該処置は、該被験体中の循環する線維芽細胞の数を減少させること、またα-SMAを発現するかまたは筋線維芽細胞に分化される循環する線維芽細胞の全パーセンテージを低下させることを含む。ある局面において、該処置は、線維芽細胞増殖を阻害することができるか、または循環する線維芽細胞に毒性である、有効量の少なくとも1つの化合物、薬剤、ペプチド、抗体、アプタマーまたは他の薬剤、またはその組合せ物を、該被験体に投与することを含む。
【0021】
また、本発明は、被験体中の循環する線維芽細胞の数を低下させることにより、被験体における線維性疾患または線維障害の影響を予防または低下させることを包含する。別の局面において、該方法は、該被験体中の循環する線維芽細胞の数を減少させること、および血漿CXCL−12レベルを低下させることを含む。別の局面において、該方法は、被験体中の循環する線維芽細胞の数を低下させること、およびα-SMAを発現するかまたは筋線維芽細胞に分化される循環する線維芽細胞の全パーセンテージを低下させることを含む。ある局面において、該方法は、循環する線維芽細胞に対して毒性である線維芽細胞増殖を阻害することができる有効量の少なくとも1つの化合物、薬物、ペプチド、抗体、アプタマーまたは他の薬剤、またはその組合せ物を、該被験体に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1.線維化間質性肺疾患における肺のCXCL−12。(a)UIP患者の肺中のCXCL−12タンパク質の免疫組織化学的検出。(b)肺均質物中のELISAにより測定した肺のCXCL−12レベル。箱ひげ図は、各々25th-75thおよび10th-90th百分率を示す;小さな四角および横線は、平均および中央値を各々示す。NSIP、線維化した非特異性間質性肺炎患者からの肺生検;UIP、組織学的UIP患者からの肺生検;、p<0.05、正常な肺サンプルとの比較(正常な肺についてはn=92、線維化したNSIPについてはn=13、UIPについてはn=56)。
【0023】
【図2】図2.線維化間質性肺疾患における血漿CXCL−12のレベル。データは、5人の患者/グループの平均±SEMを示す。「UIP/NSIP」、UIPまたは線維化したNSIP患者;*、p<0.05、正常なボランティア由来のサンプルとの比較。
【0024】
【図3】図3.線維化間質性肺疾患における循環する線維芽細胞。パネル(a)および(b)循環するCD45+コラーゲン-I+細胞およびCD45+コラーゲン-I+OcSMA+細胞の各々の数を示す。箱ひげ図は各々25th-15thおよび10th-9Oth%を示す;小さな四角および横線は、平均および中央値の各々を示す。「UIP/NSIP」、UIPまたは線維化したNSIPを有する患者;*、正常なボランティア(n=5人の患者/グループ)と比較したp<0.05.
【0025】
(発明の詳細な説明)
略語および頭字語
αSMA-α-平滑筋アクチン
DAB−3,3'-ジアミノベンジジン
NSIP-非特異性間質性肺炎
UIP-通常の間質性肺炎
【0026】
定義
本発明の説明および特許請求の範囲において、以下の用語が下記の定義に従って使用さ
【0027】
本明細書において使用されるように、、冠詞「ある(aおよびan)」は、その冠詞の1つもしくは1を超える(即ち、少なくとも1つ)の文法的対象物を指すために本明細書において使用される。例えば、「あるエレメント」とは、1つのエレメントまたは1以上のエレメントを意味する。
【0028】
「約」とは、本明細書において、近似的に、〜の辺り、大体、または前後を意味する。この「約」が数値域とともに使用される場合には、それによって示された数値の上下限が広がることによってその範囲が変更される。例えば、一態様では、この「約」は、数値を表示値の上下に20%の変動分変更するために本明細書において使用される。
【0029】
本明細書において使用されるとおり、「アミノ酸」は、以下の表に示されるように、その正式名称、それに対応する3文字コード、またはそれに対応する1文字コードによって表される。
【表1】


【0030】
本明細書において使用される表現「アミノ酸」は、天然および合成のアミノ酸の両方、ならびにDおよびL型アミノ酸の両方を含むことを意味する。「標準的アミノ酸」は、天然に存在するペプチドにおいて一般的に見出される20種の標準的L−アミノ酸のいずれかを意味する。「非標準的アミノ酸残基」は、それが合成的に調製されるかまたは天然の供給源から誘導されるかにかかわらず、標準的アミノ酸以外の任意のアミノ酸を意味する。本明細書において使用されるように、「合成アミノ酸」はまた、塩、アミノ酸誘導体(例えば、アミドなど)、および置換を含むがそれらに限定されない化学的に修飾されたアミノ酸を包含する。本発明のペプチド内に含有されるアミノ酸、特にカルボキシまたはアミノ末端のアミノ酸は、それらの活性に有害な影響を及ぼすことなく、ペプチドの循環半減期を変更することができるメチル化、アミド化、アセチル化または他の化学基との置換によって、修飾することができる。さらに、ジスルフィド結合は、本発明のペプチドにおいて存在してもよく、または存在しなくてもよい。
【0031】
「アミノ酸」とは、「アミノ酸残基」と互換可能に使用され、遊離アミノ酸も、さらにペプチドのアミノ酸残基も指し得る。この用語が遊離アミノ酸を指しているのか、またはペプチドの残基を指しているのかは、この用語が使用されている文脈から明らかであろう。
【0032】
アミノ酸は、以下の一般構造を有する:
【化1】

【0033】
アミノ酸は、側鎖Rに基づいて、次の7つのグループに分類され得る。(1)脂肪族側鎖、(2)ヒドロキシル(OH)基含有側鎖、(3)硫黄原子含有側鎖、(4)酸性またはアミド基含有側鎖、(5)塩基性基含有側鎖、(6)芳香環含有側鎖、および(7)プロリン(側鎖がアミノ基と縮合されているイミノ酸)。
【0034】
本明細書で用いるとき、用語「保存アミノ酸置換」は、以下の5群のうちの1つの中での交換として本明細書では定義する:
I.小分子脂肪族(small aliphatic)、非極性またはわずかに極性の残基:
Ala、Ser、Thr、Pro、GIy;
II.極性、陰性荷電残基およびそのアミド:
Asp、Asn、GIu、GIn;
III.極性、陽性荷電残基:
His、Arg、Lys;
IV.高分子(large)、脂肪族、非極性残基:
Met Leu、lie、VaI、Cys
V.高分子、芳香族残基:
Phe、Tyr、Trp。
【0035】
本発明のペプチド化合物を記載するために使用される命名法は、各アミノ酸残基の左にアミノ基を、右にカルボキシ基を示す従来の慣例に従う。本発明の選択した特定の実施形態を表す式において、前記アミノ−およびカルボキシ−末端基は、具体的には示していないが、特に断りのない限り、それらが生理学的pH値においてとるであろう形態であると考えられる。
【0036】
「塩基性」または「正電荷」アミノ酸とは、本明細書において、R基がpH7.0において正味の正電荷を有するアミノ酸を指し、そのようなアミノ酸には、限定されるものではないが、標準アミノ酸であるリジン、アルギニン、およびヒスチジンが含まれる。
【0037】
本明細書において使用されるように、化学化合物の「類似体」とは、一例として、構造が別のものに似ている化合物であるが、必ずしも異性体とは限らない(例えば、5−フルオロウラシルはチミンの類似体である)。
【0038】
本明細書において使用されるように、「生物製剤(biologies)」なる用語は、生物学的な治療物質をいう。生物分子には、これに限定しないが、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体、アプタマーおよび毒素が含まれる。
【0039】
「細胞培養」および「培養」とは、本明細書において使用されるように、人工的なin vitro環境における細胞の維持管理を指す。しかしながら、この「細胞培養」なる用語は、一般用語であり、個々の細胞のみならず、組織、器官、器官系または生物全体の培養を含めた培養を含めて使用することができ、このような培養に関して、場合により、「組織培養」、「器官培養」、「器官系培養」または「器官型培養」が「細胞培養」と同義的に使用されてもよいということが理解されよう。
【0040】
語句「細胞培養培地」、「培養培地」(いずれの場合においても複合「培地」)および「培地処方物」は、細胞を培養するための栄養液を指し、同義的に使用され得る。
【0041】
本明細書において使用されるように、「コントロール」なる用語は、当業者には既知の陽性または陰性コントロールであり、コントロールの細胞、組織、サンプルまたは被験体を指すことができる。該コントロールは、試験細胞、組織、サンプルまたは被験体を調べるのと正確にまたはほぼ同時に調べられてよい。また、コントロールは、例えば、試験細胞、組織、サンプルまたは被験体を調べる時期と離れた時期に調べてもよく、コントロールの調査結果は、記録された結果を試験細胞、組織、サンプルまたは被験体の調査によって得られた結果と比較し得るように、記録され得る。例えば、当業者には認識されようが、コントロールには、参照データベースに保存される1以上のコントロール被験体からのデータ(例えば、循環する線維芽細胞の数および/またはCXCL−12の量)も含めてよい。このコントロールは、試験被験体(例えば、同じ性別、同じ種、同じ一般年齢および/または同じ一般的な健康でありうる)と類似しているが、線維症を示さないことが判っている被験体であり得る。
【0042】
当業者には理解されようが、本発明の方法を改変して、試験被験体を、試験被験体と類似する(例えば、同じ性別、同じ種、同じ一般年齢および/または同じ一般的な健康でありうる)が、十分に特徴づけられた線維症、例えば線維症の特定の段階を有することが判っているコントロール被験体と比較することができる。この実施態様において、線維症の診断または線維症の段階決定は、この線維芽細胞レベルまたはCXCL−12レベルが、試験被験体およびコントロール被験体との間で統計的にほぼ同じレベルであるかどうかを決定することにより為される。
【0043】
「線維化(性)」疾患または「線維増殖性」疾患とは、結合組織による瘢痕形成および細胞外マトリクスの過剰産生を特徴とする疾患を指す。線維性疾患は組織損傷の結果としておこる。実際には、あらゆる身体の臓器で起こり得る。線維性疾患または線維増殖性疾患には、これに限定しないが、特発性肺線維症、線維化間質性肺疾患、間質性肺炎、非特異的間質性肺炎の線維化した亜型、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、石綿症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈性肺高血圧、肝線維症、肝硬変、腎線維症、糸球体硬化症、x腎臓線維症、糖尿病性腎症、心臓疾患、線維化心臓弁膜疾患、全身性線維症、リウマチ性関節炎、手術による過剰な瘢痕化、化学療法薬誘発性線維症、照射誘導性線維症、黄斑変性症、網膜および硝子体網膜症、アテロ−ム性動脈硬化症、ならびに再狭窄が挙げられる。線維性疾患または線維性疾患、線維増殖症または線維増殖性疾患ならびに線維症は、本明細書において同義的に使用される。
【0044】
「試験」細胞とは、調べられる細胞である。「試験」サンプルとは、調べられるサンプルである。一実施態様において、試験サンプルとは、試験が行われている疾患または障害を有すると考えられる被験体から得られる。「試験被験体」とは、調べられる被験体である。
【0045】
「疾病指標」細胞とは、組織中に存在する場合に、その組織が存在している(またはその組織を得た)動物が疾患または障害に罹患していることを示す細胞である。
【0046】
「病原性」細胞とは、組織中に存在する場合に、その組織が存在している(またはその組織を得た)動物において、疾患または障害の病因となるか、または関与する細胞を指す。
【0047】
組織が、その細胞を「通常含む」とは、1以上の細胞が、疾患または障害に罹患していない動物の組織中に存在する場合である。
【0048】
本明細書において使用される「化合物」とは、一般に考えられるあらゆる種類の物質または薬剤、薬物として使用するための化学物質、薬物または候補物、ならびに前記組合せ物および混合物を指す。
【0049】
単語「検出する」およびその文法的変形の使用は、定量を伴わない種類の測定を指すことを意味し、一方、単語「決定する」または「測定する」(それらの文法的変形を含む)の使用は、定量を伴う種類の測定を指すことを意味する。
【0050】
本明細書において使用される「検出マーカー」または「レポーター分子」は、マーカーを伴わない類似の化合物の存在下でマーカーを含んでなる化合物の特異的検出を可能にする原子または分子である。検出マーカーまたはレポーター分子としては、例えば、放射性同位元素、抗原決定基、酵素、ハイブリダイゼーションに利用可能な核酸、クロモフォア、フルオロフォア、化学発光分子、電気化学的に検出可能な分子、および改変された蛍光偏光または改変された光散乱を提供する分子が挙げられる。
【0051】
「疾患」および「障害」は、本明細書では同義的に使用される。疾患、症状、または障害は、疾患または障害の症状の重症度、患者によりかかる症状を経験する頻度、またはその両方が低下される場合に、「緩和される」かまたは「処置される」。
【0052】
本明細書において使用したとおり、「有効量」とは、選択された効果または所望の効果をもたらすのに十分な、化合物または薬剤の量を意味する。用語「有効量」は、本明細書では「有効濃度」と互換可能に使用される。
【0053】
「フラグメント」および「セグメント」は、少なくとも1つのアミノ酸を含んでなるアミノ酸配列の一部、または少なくとも1つのヌクレオチドを含んでなる核酸配列の一部である。用語「フラグメント」および「セグメント」は、本明細書において交換可能に使用される。
【0054】
本明細書において使用される「機能的な」生物学的分子は、それが特徴付けられる特性または活性を示す形態の生物学的分子である。例えば、機能的酵素は、該酵素が特徴とする特徴的な触媒活性を示す酵素である。
【0055】
本明細書において使用される「相同な」は、2つのポリマー分子の間、例えば、2つの核酸分子、例えば、2つのDNA分子もしくは2つのRNA分子の間、または2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列類似性を指す。2つの分子の両方におけるサブユニット位置が同じ単量体サブユニットで占有される場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれにおける位置がアデニンで占有される場合、それらは該位置で相同である。2つの配列間の相同性は、一致するまたは相同な位置の数の一次関数であり、例えば、2つの化合物の配列における位置の半分(例えば、10サブユニット長のポリマーにおける5つの位置)が相同である場合、2つの配列は50%相同であり、90%の位置、例えば、10のうち9が一致するかまたは相同である場合、2つの配列は90%の相同性を共有する。例えば、DNA配列3’ATTGCC5’および3’TATGGCは50%の相同性を共有する
【0056】
本明細書において使用される「相同性」は、「同一性」と同じ意味で使用される。
【0057】
2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の同一性パーセンの決定は、数学的アルゴリズムを使用して、達成することができる。例えば、2つの配列を比較するのに有用な数学的アルゴリズムは、カールリン(Karlin)およびアルツシュル(Altschul)のアルゴリズムであり(1990年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA87:2264−2268)、カールリン(Karlin)およびアルツシュル(Altschul)(1993年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:5873−5877)におけるように改変される。このアルゴリズムは、アルツシュル(Altschul)ら(1990年、J.Mol.Biol.215:403−410)のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み入れられ、例えば、米国国立バイオテクノロジー情報センターNCBI)ワールドワイド・ウェブサイトにおいて評価することができる。BLASTヌクレオチド検索は、次のパラメータ:gap penalty=5、gap extension penalty=2、miSMAtch penalty=3、match reward=1、期待値10.0、およびword size=11を使用して、NBLASTプログラム(NCBIウェブサイトにおいて「blastn」と称される)により実施し、本明細書に記載の核酸に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索は、次のパラメータ:期待値10.0、BLOSUM62評価マトリックスを使用して、XBLASTプログラム(NCBIウェブサイトにおいて「blastn」と称される)により実施することができる。比較目的のためギャップありのアラインメントを得るために、Gapped BLASTを、アルツシュル(Altschul)ら(1997年、Nucleic Acids Res.25:3389−3402)に記載のように利用することができる。あるいは、PSI−BlastまたはPHI−Blastを使用して、分子間の遠い関係(Id.)および共通のパターンを共有する分子間の関係を検出する反復検索を実施することができる。BLAST、Gapped BLAST、PSI−Blast、およびPHI−Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータ(例えば、XBLASTおよびNBLAST)を使用することができる。
【0058】
2つの配列間の同一性パーセントは、上記と類似の技術を使用して、ギャップを認めるかまたは認めずに決定することができる。同一性パーセントを算出する際は、典型的に、正確な一致が計数される。
【0059】
「阻害する」とは、本明細書において、所望の機能を低下または遮断する化合物またはあらゆる薬剤の能力を意味する。好ましくは、阻害が、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、さらに好ましくは少なくとも50%であって、最も好ましくは該機能が、少なくとも75%阻害される。
【0060】
「タンパク質を阻害する」とは、本明細書において、タンパク質の合成、レベル、活性または機能を阻害するあらゆる方法または技術、ならび目的とするタンパク質の合成、レベル、活性または機能の誘導または刺激を阻害する方法をさす。また、該用語は、目的とするタンパク質の合成、レベル、活性または機能を調節することができるあらゆる代謝または調節経路をさす。該用語には、他の分子との結合および複合体形成が含まれる。それ故、用語「タンパク質阻害剤」とは、これを用いることにより、タンパク質の機能またはタンパク質の経路機能の阻害をもたらすあらゆる薬剤または化合物を意味する。
【0061】
しかし、この用語は、これらの機能の各々が、または全てのこれらの機能が同時に阻害されなければならないということを意味するものではない。
【0062】
本明細書において使用されるように、「イメージング剤」なる用語は、細胞に送達された場合に、該細胞の検出を促進する物質の組成物を意味する。多くのイメージング剤は知られており、該文献に説明されている。一例には、色原体の基質に関する反応を触媒することができる酵素、例えばβガラクトシダーゼを使用され得る。別の例としては、化合物、即ち直接検出できる化合物の存在、例えば、γ線を放射するかまたは蛍光を発する化合物などを使用して、適切な検出装置を用いて検出できる。
【0063】
「単離核酸」は、天然に存在する状態でその側面に配置する(flank)配列から分離されている核酸セグメントまたはフラグメント、例えば、フラグメントに普通に隣接する配列(例えば、それが天然に存在するゲノムにおいてフラグメントに隣接する配列)から取り出されているDNAフラグメントを指す。用語はまた、核酸に天然に付随する他の成分、例えば、細胞においてそれに天然に付随するRNAもしくはDNAまたはタンパク質から実質的に精製されている核酸にもあてはまる。従って、用語は、例えば、ベクター、自律複製するプラスミドもしくはウイルス、または原核細胞もしくは真核生物のゲノムDNAに組み入れられるか、あるいは他の配列とは独立した個別の分子(例えば、PCRもしくは制限酵素消化によって生成されるcDNAまたはゲノムもしくはcDNAフラグメント)として存在する組換えDNAを含む。それはまた、さらなるポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部分である組換えDNAを含む。
【0064】
他で指定しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、相互の縮重バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列は、イントロンを含んでもよい。
【0065】
本明細書において、「取扱説明書」は、本明細書に列挙する様々な疾患または障害の緩和をもたらすためのキット中の本発明のペプチドの有用性を伝達するために使用することができる刊行物、記録、図表、または任意の他の表現媒体が含まれる。所望により、または代替的に、取扱説明書には哺乳類の細胞または組織における疾患または障害を緩和する1以上の方法が記載されていることもある。本発明のキットの取扱説明書は、例えば、本発明のペプチドを含有する容器に固定され得るか、またはペプチドを含有する容器と共に搬送され得る。あるいは、取扱説明書は、取扱説明書および化合物がレシピエントによって共同で使用されることを意図して、容器とは個別に搬送されてもよい。
【0066】
本明細書において使用される「リガンド」は、標的化合物または分子に特異的に結合する化合物である。リガンドが異種の化合物のサンプルにおいて化合物の存在を決定する結合反応において機能する場合、リガンド(例えば、抗体)は、化合物と「特異的に結合する」または「特異的な反応性である」。
【0067】
本明細書において使用されるように、「調節する、またはプロセスを行う」とは、そのモジュレーター/エフェクター、例えば薬剤、化合物、抗体、生物学的に活性な核酸、例えばアンチセンス分子、RNAi分子、またはリボゾーム、アプタマー、ペプチド、または該ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを認識する低分子量有機化合物によるプロセスを、刺激または阻害または遮断することを意味する。
【0068】
本明細書において使用されるように、「核酸」なる用語は、RNAならびに一本鎖および二本鎖DNAおよびcDNAもふくむ。さらに、「核酸」、「DNA」および類似の用語もまた、核酸アナログ、即ちホスホジエステル骨格以外を有するアナログを含む。例えば、当該分野において公知であり、骨格においてホスホジエステル結合の代わりにペプチド結合を有するいわゆる「ペプチド核酸」も本発明の範囲内にあると考えられる。
【0069】
「ペプチド」なる用語は、通常短いポリペプチドを指す。
【0070】
「ポリペプチド」とは、アミノ酸残基から構成されたポリマー、関連のある天然構造変異体、および合成非天然のペプチド結合により結合したそのアナログ、関連のある天然構造の変異体、およびその合成非天然アナログをさす。合成ポリペプチドは、例えば自動化ポリペプチド合成機を用いて合成できる。
【0071】
用語「タンパク質」は、通常、大きなポリペプチドを指す。
【0072】
「組換えポリペプチド」とは、組換えポリヌクレオチドの発現により産生されるものである。
【0073】
ペプチドは、2以上のアミノ酸からなる配列を含み、ここで該アミノ酸は天然または合成(非天然)アミノ酸である。
【0074】
本明細書において使用する用語「医薬上許容される担体」は、リン酸緩衝食塩溶液の様な標準的な医薬用担体、水、油/水型または水/油型エマルジョンのようなエマルジョン、および多様なタイプの湿潤剤のいずれも含む。該用語はまた、ヒトを含む動物における使用について米国連邦政府の規制当局により承認され、米国薬局方に収載されている任意の物質を包含する。
【0075】
末端アミノ基に関して「保護基」とは、本明細書において使用されるように、末端アミノ基が、ペプチド合成において伝統的に使用される様々なアミノ末端保護基の任意のものと結合されているペプチドの末端アミノ基を指す。かかる保護基には、例えば、アシル保護基(ホルミル、アセチル、ベンゾイル、トリフルオロアセチル、スクシニル、およびメトキシスクシニルなど);芳香族ウレタン保護基(ベンジルオキシカルボニルなど);および脂肪族ウレタン保護基、例えば、tert-ブトキシカルボニルまたはアダマンチルオキシカルボニルが含まれる。好適な保護基については、Gross and Mienhofer, eds., The Peptides, vol. 3, pp. 3-88 (Academic Press, New York, 1981)を参照されたい。
【0076】
本明細書において使用する用語「精製」などの用語は、生来もしくは天然の環境において分子または化合物に通常関連する他の物質と比べて分子または化合物が多いことに関する。用語「精製」は、必ずしも、特定の分子の完全な純度がその工程中に達成されたことを示すものではない。本明細書において使用される「高度に精製された」化合物は、純度90%を超える化合物を指す。
【0077】
用語「制御する(regulate)」とは、目的とする機能または活性を、刺激または阻害することをさす。
【0078】
本明細書において使用されるように、「サンプル」とは、好ましくは、被験体からの生体サンプルを指し、正常組織サンプル、病変組織サンプル、生検材料、血液、唾液、糞便、精液、涙、および尿が含まれるが、これに限定されるものではない。また、サンプルは、目的の細胞、組織、または体液を含む被験体から得られたあらゆる他の材料源でもあり得る。
【0079】
本明細書において使用されるように、「特異的結合」なる用語は、特異的に第二の分子を認識するかまたは結合するが、サンプル中で別の分子を実質的に認識または結合しない分子を意味するか、または細胞調節プロセスの一部としての2以上のタンパク質の間の結合を意味し、ここで該タンパク質はサンプル中のその他のタンパク質を実質的に認識または結合しない。
【0080】
本明細書において使用されるように、「標準的」なる用語は、比較のために用いられるあるものを指す。例えば、試験化合物を加える場合に結果を比較するための、投与または添加および使用される既知標準薬剤または化合物であり得るか、またはパラメータまたは機能に対する薬剤または化合物の効果を測定する場合に、コントロール値を得るために測定される標準的パラメータまたは機能であり得る。標準は、また「内部標準」、例えばサンプルに既知量で添加され、目的のマーカーが測定される前にサンプルを処理または精製もしくは抽出法に供する際に精製または回収率のようなことを決定するのに有用である薬剤または化合物も指すことがある。内部標準とは、内在性のマーカーとを区別し得る、例えば放射性同位体により、標識されている目的物の精製マーカーであることも多い。
【0081】
「刺激する」とは、本明細書において、コントロール値と比べて高いように活性または機能レベルを誘導または増大させることを意味する。この刺激は直接または間接的機構によるものであってよい。一態様では、前記活性または分化は、コントロール値と比べて少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、さらに好ましくは少なくとも50%刺激される。「刺激因子」とは、本明細書において、目的とするプロセスまたは機能の刺激をもたらすあらゆる化合物または薬剤を指す。
【0082】
診断または処置のための「被験体」とは、ヒトを含む哺乳動物である。
【0083】
用語「症候(symptom)」とは、本明細書において使用されるように、患者により経験され、かつ疾患の指標となる、あらゆる病的な現象または正常な構造、機能や感覚からの逸脱を指す。これに対して、兆候とは、疾患の客観的証拠である。例えば、鼻血は兆候である。該患者、医師、看護士および他の観察者にとって明白なものである。
【0084】
本明細書において使用されるように、用語「処置する」には、特定の疾患、障害または症状の予防、または特定の疾患、障害または症状に関連のある症候の緩和および/または前記症候の防止または除去が含まれる。「予防的」処置は、疾患の兆候を示していないかまたはその疾患の初期兆候しか示していない被験体に、その疾患に関連する病変を発症する危険性を減少させる目的で施与される処置である。
【0085】
「治療的」処置とは、前記兆候の減退または除去に関する目的のために、病変の兆候を示す被験体に施与される処置である。
【0086】
化合物の「治療上有効な量」とは、該化合物が投与される被験体に利益的効果を提供するのに十分な化合物の量である。
【0087】
本明細書に記載した内容と類似または等価なあらゆる方法および材料を、発明の実施または試験において使用できるが、好ましい方法および材料を本明細書に記載する。
【0088】
本発明が、目的を実行するために、および言及した結果物および利点、ならびに明細書において固有のものを得るために十分に適合されることは、当業者は容易に認識されるでろう。本発明は、他の特定の形態においてその精神またはその重要な特性から逸脱せずに実施され得る、従って本発明の範囲を示す場合に、参照すべきは、前記本明細書の内容というよりもむしろ、添付の請求の範囲により為されるべきであろう。
【0089】
本発明に従って、上記のとおりに、また下記実施例において議論したように、従来の臨床的、化学的、細胞的、組織化学的、生物化学的、分子生物学、微生物学的、および組換えDNA技術を用い得る、これらは当分野の技術者には知られている。かかる技術は、文献において十分に説明されている。
【0090】
線維性疾患の診断および処置方法
本発明は、循環する線維芽細胞レベルおよびCXCL−12レベルが線維性疾患患者の末梢血液および線維化した組織中で、有意に上昇するという予想外の発見に基づいて、線維性疾患または線維増殖性疾患または線維増殖性障害を有する被験体を診断する方法に関する。
【0091】
本発明は、試験被験体中の循環する線維芽細胞の数を決定すること、および線維性疾患を有さないコントロール被験体中の循環する線維芽細胞の数を比較することを含んでなる、線維性疾患または線維性障害を有する試験被験体を診断する方法を包含する。試験被験体由来の組織サンプルを得ること、および該サンプルとコントロール被験体由来のサンプルとを比較することにより、循環する線維芽細胞の数を決定した。該組織サンプルは、末梢血液サンプルでありうる。該組織サンプルは、当業者には既知の方法を用いて静脈穿刺または生検から得ることができる。線維芽細胞計測数は、細胞計測数を決定するために、当業者には既知の方法により定量され得る。線維芽細胞計測数を、直接的に(例えば、線維芽細胞を計測することにより)または関節的に(例えば、線維芽細胞のインジケーターを計測することにより)決定できる。一実施態様において、フローサイトメーター、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)、または磁性活性化細胞ソーティング(MACS)により線維芽細胞の数を決定した[10、22、23、29]。
【0092】
試験被験体が、コントロール被験体よりも多く末梢血液の循環する線維芽細胞の数を有することが判った場合に、被験体は、線維性疾患または症状を有すると決定できる。試験被験体は、正常な患者よりも、循環する線維芽細胞の数が、少なくとも約5%またはそれ以上、少なくとも約10%またはそれ以上、少なくとも約20%以上、少なくとも約30%以上、少なくとも約40%以上、少なくとも約50%以上、少なくとも約60%以上、少なくとも約70%以上、少なくとも約80%以上、少なくとも約90%以上、または少なくとも約100%以上多い。他の実施態様において、線維性疾患または線維障害を有する被験体における循環する線維芽細胞の数は、正常な患者よりも、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約6倍、または少なくとも約7倍以上多い。一実施態様において、線維性疾患または線維性障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数は、正常な患者中の循環する線維芽細胞の数よりも少なくとも約10倍多い。
【0093】
本発明には、試験被験体中のCXCL−12の量を決定すること、および線維性疾患を有さないコントロール被験体中のCXCL−12の量と比較することを含んでなる線維性疾患または線維性障害を有する試験被験体を診断する方法が含まれる。CXCL−12の量を、組織サンプルを試験被験体から得ること、および該サンプルをコントロール被験体由来のサンプルと比較することにより決定した。該組織サンプルは、末梢血液サンプルであってよい。該組織サンプルは、当業者には既知の方法を用いて、静脈穿刺または生検から得ることができる。こうして、CXCL−12の量を、当業者には既知の方法により、例えば酵素結合免疫吸着剤アッセイ(ELISA)、放射免疫測定(RIA)、免疫組織化学染色、および蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)により決定した[10]。
【0094】
一実施態様において、線維性疾患または障害を有する被験体中の循環するCXCL−12の量は、正常な患者よりも、少なくとも約10%以上、少なくとも約20%以上、少なくとも約30%以上、少なくとも約40%以上、少なくとも約50%以上、少なくとも約60%以上、少なくとも約70%以上、少なくとも約80%以上、少なくとも約90%以上、少なくとも約100%以上、または少なくとも約500%以上多い。他の実施態様において、線維性疾患または障害を有する被験体中の循環するCXCL−12の量は、正常な患者よりも少なくとも約1000%以上多い。
【0095】
本発明の診断方法は、試験被験体が線維性疾患を有するかどうかを決定するだけに使用できるのではなく、線維性疾患の重症度または進行を提示するためにも使用できる。疾患の重症度が増加するかまたは線維症が進行すると、該循環する線維芽細胞の数ならびにCXCL−12の量もまた増加すると考えられている。本発明の一実施態様において、循環する線維芽細胞の数および/またはCXCL−12の量を使用して、重症度または進行の未知の段階で既知の線維性疾患を有する試験被験体の該疾患状態を決定できる。この実施態様において、既知の線維性疾患を有する試験被験体の試験サンプル由来の循環する線維芽細胞の数および/またはCXCL−12の量を、既知の段階で同一の線維化した疾患を有するコントロール被験体の循環数および量と比較した。コントロール被験体と、試験被験体中の統計的に同じ循環する線維芽細胞の数および/または統計的に同じCXCL−12の量は、試験被験体が、コントロール被験体と同じ線維性疾患の段階を有するいう指標である。
【0096】
本発明は、治療を施与することにより、循環する線維芽細胞の数を低下させる線維化した疾患または症状に罹患している被験体中の線維化した疾患または症状を処置する方法も包含する。該治療は、薬剤または生物製剤(例えば、抗体、抗センス核酸、RNAi、毒素、ペプチド、融合タンパク質、擬態ペプチド、アプタマー等)であり得る。本発明の一実施態様において、該治療は、線維芽細胞のトラフィックキングを改変する。
【0097】
一実施態様において、該治療は、処置前の被験体中の循環する線維芽細胞の数と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、または少なくとも約50%またはそれ以上の循環する線維芽細胞の数を低下させる。また他の実施態様において、該治療により、処置前の被験体中の循環する線維芽細胞の数と比較して、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、または少なくとも約5倍、循環する線維芽細胞の数が低下する。
【0098】
当業者には認識されるであろうが、線維性疾患に罹患している被験体に所為される治療は、治療上有効な用量で投与されるべきである。該治療は、線維性疾患に関連する症候および苦痛を緩和でき、このように予防剤として作用することができる。
【0099】
一実施態様において、該治療はまた、該被験体中のCXCL−12を循環するレベルを低下させる。本発明の一実施態様において、本発明は、線維芽細胞のトラフィッキングに必要なケモカイン受容体の発現を遮断する。
【0100】
一実施態様において、該治療は、CXCL−12の量を、処置前の被験体中のCXCL−12の量と比べて、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、または少なくとも約50%またはそれ以上低下させる。本発明の一実施態様において、CXCL−12は血漿CXCL−12である。
【0101】
また他の実施態様において、該治療は、またα-SMAを発現する循環する線維芽細胞の全パーセンテージを低下させる。一実施態様において、該治療は、処置前の被験体中でα-SMAを発現する循環する線維芽細胞の全パーセンテージと比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、または少なくとも約50%またはそれ以上、α-SMAを発現する循環する線維芽細胞の全パーセンテージを低下させる。
【0102】
本発明の処置方法は、再発防止の手段として使用して、線維性疾患または障害の重症度または進行を低下させることができる。例えば、循環する線維芽細胞の全数を低下させる治療剤は、線維性疾患または障害を発症させるリスク患者または線維性疾患または障害を進行させるリスク患者に投与することができる。例えば、循環する線維芽細胞の全数を低下させる治療剤は、手術、化学療法、または放射線処置の前、中および後の患者に投与され得る。かかる剤は、線維症と関連のある急性事象、例えば心筋梗塞または急性肺損傷の期間中または後に投与され得る。さらに、本発明は、一次疾患と関連がある二次線維症を予防する薬剤または生物分子の投与を包含する。
【0103】
本発明の方法に従って診断および処置され得る疾患、障害、および症状のいくつかの例示は、明細書中で言及される。本発明は、現在未知の、かつて知られる他の疾患、障害および症状としてこれらの例に限定されるものとして構成されるべきでなく、本発明の方法を用いても処置され得る。
【0104】
線維性疾患は、事実上、身体の各臓器および系でおこり得る。本発明の方法は、例えば、肺、心臓、腎臓、肝臓、皮膚、および胆嚢をふくめた身体および血管系の全ての臓器において、線維性疾患を診断、予防および処置するために使用され得る。本発明の方法により診断、予防または処置され得る線維性疾患および症状には、これに限定しないが、特発性肺線維症、線維化間質性肺疾患、間質性肺炎、非特異的間質性肺炎の線維化した亜型、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、石綿症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈性肺高血圧、肝線維症、肝硬変、腎線維症、糸球体硬化症、x腎臓線維症、糖尿病性腎症、心臓疾患、線維化心臓弁膜疾患、全身性線維症、リウマチ性関節炎、手術による過剰な瘢痕化、化学療法薬誘発性線維症、照射誘導性線維症、黄斑変性症、網膜および硝子体網膜症、アテロ−ム性動脈硬化症、ならびに再狭窄が挙げられる。
【0105】
さらに、本発明は、線維症を予防および処置する方法に関するものであるが、該方法は血管新生と関連のある疾患および障害を予防および処置するために拡張され得ることが意図され得る。プロ血管新生因子は、線維性組織により誘起され、例えば癌などの血管新生に関連のある二次的病変の発症をもたらし得る。さらに、癌関連線維芽細胞は、いくつかの癌と関連がある。従って、本発明の方法は、循環する線維芽細胞の数を低下できる薬剤または生物分子を投与することにより、線維性疾患に対して二次的に血管新生事象を処置および予防する方法を包含する。
【0106】
抗体
モノクローナル抗体を調製するために、培養中の連続細胞株により、抗体分子の産生のために提供するあらゆる技術を利用することができる。例えば、ハイブリドーマー技術は、KohlerおよびMilstein (1975、Nature 256:495-497)により初めて開発されたもので、トリオーマー技術、ヒトB細胞ハイブリドーマー技術(Kozbor et ah、1983、Immunology Today 4:72)、およびEBV−ハイブリドーマー技術(Cole et ah、1985、in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss、Inc.、pp. 77-96)を用いて、ヒトモノクローナル抗体を生成することができる。他の実施態様において、モノクローナル抗体は、国際出願番号PCT/US90/02545に記載の技術を利用して無菌動物中で産生され、これらはその全ての文献を引用により本明細書に組み込まれる。
【0107】
本発明に従って、ヒト抗体は、ヒトハイブリドーマーを利用すること(Cote et al、1983、Proc. Natl. Acad. ScL U.S.A. 80:2026-2030)またはヒトB細胞をEBVウイルス・イン・ビトロによる形質転換すること(Cole et al、1985、in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss、Inc.、pp. 77-96)により使用および獲得され得る。さらに、好適な生物学的に活性なヒト抗体分子由来の遺伝子と共にSLLPポリペプチドのエピトープに特異的なマウス抗体分子からの遺伝子をスプライシングすることにより、「キメラ抗体」産生のために開発された技術(Morrison et al、1984、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81 :6851-6855; Neuberger et al., 1984、Nature 312:604-608; Takeda et al、1985、Nature 314:452-454)を用いることができる;かかる抗体は本発明の範囲内にある。特異的モノクローナル抗体が開発されておれば、従来技術による突然変異体およびその改変体の調製もまた利用できる。
【0108】
一実施態様において、一本鎖抗体(米国特許第4,946,778、その全てを引用することにより出典明示により本明細書に組み込まれる)の産生について概説された技術を適合させて、タンパク質に特異的な一本鎖抗体を生成する。他の実施態様において、Fab発現ライブラリィの構築について概説された技術(Huse et al、1989、Science 246:1275-1281)を利用して、特異的抗原、タンパク質、誘導体または本発明のアナログについて所望の特異性を所有するモノクローナルFabフラグメントを迅速かつ簡単に同定できる。
【0109】
抗体分子のイディオタイプを含有する抗体フラグメントは、既知の技術により製造され得る。例えば、かかるフラグメントは次のものを包含するが、これらに限定するわけではない:抗体分子のペプシン消化により産生され得るF(ab')2フラグメント;F(ab')2フラグメントのジスルフィド結合を還元することにより製造され得るFab’フラグメント;パパインおよび還元剤をもちいて抗体分子を処置することにより製造され得るFabフラグメント;およびFvフラグメント。
【0110】
ポリクローナル抗体の製造は、所望の動物に抗原を用いて接種し、該抗原を特異的結合する抗体を単離することにより達成される。
【0111】
タンパク質またはペプチドの完全長またはペプチドフラグメントに対するモノクローナル抗体は、よく知られているいずれかのモノクローナル抗体の調製方法、例えばHarlow ら (1988、In: Antibody、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、NY)およびTuszynski ら (1988、Blood、72:109-115)などに概説されているような方法を用いて調製され得る。所望のペプチドの定量を、化学合成技術を用いて合成できる。あるいは、所望のペプチドをコードしているDNAをクローニングして、大量のペプチドを生成するために好適な細胞中で適切なプロモーター配列から発現させることができる。該ペプチドに対するモノクローナル抗体は、本明細書にて参照される標準的方法を用いて、該ペプチドにより免疫化されたマウスから生成される。
【0112】
本明細書に記載した方法を用いて得たモノクローナル抗体をコードする核酸は、当分野で利用できる技術を用いて、クローニングおよび配列決定され得る。この技術は、例えば、Wrightら(1992、Critical Rev. in Immunol. 12(3,4): 125-168)およびここで引用された文献において概説されている。さらに、本発明の抗体は、Wrightら(上掲)およびそこで引用されている文献、ならびにGuら(1997、Thrombosis and Hematocyst 77(4):755-759) に概説された技術を用いて「ヒト化」され得る。
【0113】
ファージ抗体ライブラリーを作成するために、cDNAライブラリーは、細胞、例えば、ファージ表面、例えば所望の抗体上で発現される所望のタンパク質を発現するハイブリドーマーから単離されたmRNAから初めて得られた。mRNAのcDNAコピーは、逆転写酵素を用いて生成される。イムノグロブリンフラグメントを特定するcDNAはPCRにより得られ、得られるDNAは、好適なバクテリオファージベクター中にクローニングされ、イムノグロブリン遺伝子を特定するDNAを含むバクテリオファージDNAライブラリーを生成する。異種DNAを含むバクテリオファージライブラリーを作成する方法は、当業者には十分知られており、例えばSambrookら(1989、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、NY)に概説される。
【0114】
所望の抗体をコードするバクテリオファージは、その対応する結合タンパク質への結合、例えば抗体に対する抗原が利用できるような手法にて、タンパク質がその表面に提示されるように構築されうる。このように、特異的抗体を発現するバクテリオファージが対応する抗原を発現せしめる場合に、細胞の存在下でインキュベートされる。バクテリオファージは、該細胞に結合する。抗体を発現しないバクテリオファージは該細胞には結合しない。かかるパンニング技術は当分野ではよく知られている。
【0115】
上記したようなプロセスは、M13バクテリオファージディスプレイ(Burton et al.、1994、Adv. Immunol. 57:191-280)を用いるヒト抗体の産生のために開発された。主にcDNAライブラリーは、抗体産生細胞の集団から得られたmRNAから製造される。mRNAはイムノグロブリン遺伝子をコードしており、即ち該cDNAは同じものをコードする。増幅されたcDNAを、その表面上でヒトFabフラグメントを発現するファージライブラリーを構築するMl3発現ベクターにクローニングした。目的とする抗体を提示するファージを、抗原結合により選択し、可溶性ヒトFabイムノグロブリンを生成する細菌中で増殖させる。即ち、従来のモノクローナル抗体の合成に対して、この方法は、ヒトイムノグロブリンを発現する細胞よりもむしろ、ヒトイムノグロブリンをコードするDNAを不死化する。
【0116】
この提示した方法は、抗体分子のFab部分をコードするファージの生成を説明するものである。しかし、本発明は、Fab抗体をコードするファージの生成のみに限定されるとものであると解釈すべきではない。むしろ、一本鎖抗体(scFv/ファージ抗体ライブラリィ)をコードするファージは、本発明に包含される。Fab分子は、完全なIg軽鎖を含んでいる、即ち、それらは軽鎖の可変および定常領域の両方を含むが、重鎖の可変領域および第一定常領域ドメイン(CH1)のみを包含する。一本鎖抗体分子は、IgFvフラグメントを含むタンパク質の一本鎖を含む。IgFvフラグメントには、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域のみが包含され、そこに含まれる定常領域を持たない。scFvDNAを含むファージライブラリーを、Marks et al.、1991、J. MoI. Biol. 222:581-597に記載の方法に従って作成した。所望の抗体の単離のためにそのように生成したファージのパンニングを、FabDNAを含むファージ・ライブラリーについて説明したものと同様の方法で行った。
【0117】
本発明は、合成ファージディスプレイライブラリーを包含するように構築されるべきであって、ほぼ全ての可能な特異性を包含するように(Barbas、1995、Nature Medicine 1 :837-839; de Kruif et al. 1995、J. MoI. Biol.248:97-105)、重鎖および軽鎖可変領域を合成することができる。
【0118】
抗体の産生において、所望の抗体についてのスクリーニングは、当業者には既知の技術、例えばELISA(酵素結合免疫吸着剤アッセイ)により達成され得る。本発明に従って作成された抗体には、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ(即ち、「ヒト化」)、および一本鎖(組換え)抗体、Fabフラグメント、およびFab発現ライブラリーにより生成したフラグメントが包含されるが、これらに限定するものではない。
【0119】
ペプチド
本発明のペプチドは、Stewartら(固体相ペプチド合成、2nd Edition、1984、Pierce Chemical Company、Rockford、Illinois);およびBodanszkyおよびBodanszky(The Practice of Peptide Synthesis、1984、Springer-Verlag、New York)らにより概説された標準的かつ十分確立された技術、例えば固体相ペプチド合成(SPPS)により容易に調製され得る。はじめに、好適に保護されたアミノ酸残基は、そのカルボキシル基により、架橋ポリスチレンまたはポリアミド樹脂のような誘導体化された不溶性ポリマー支持体に付着される。「好適に保護された」は、アミノ酸のα−アミノ基、および任意の側鎖官能基の両方における保護基の存在を指す。側鎖保護基は、一般に、合成全体を通して使用される溶媒、試薬および反応条件に対して安定であり、最終的なペプチド産物に影響を及ぼさない条件下で脱離可能である。オリゴペプチドの段階的合成は、最初のアミノ酸からのN保護基の脱離、所望されるペプチドの配列での次のアミノ酸のカルボキシル末端のそれへの結合によって行われる。このアミノ酸もまた好適に保護される。次に加わるアミノ酸のカルボキシルを活性化させて、反応基中の構造によって、例えば、カルボジイミド、対称酸無水物またはヒドロキシベンゾトリアゾールまたはペンタフルオロフェニルエステルなどの「活性エステル」基中の構造により、支持体結合アミノ酸のN末端と反応させることができる。
【0120】
固相ペプチド合成方法の例として、α−アミノ保護基としてtert−ブチルオキシカルボニルを利用したBOC方法、および9−フルオレニルメチルオキシカルボニルを利用してアミノ酸残基のα−アミノを保護するFMOC方法が挙げられ、両方法とも当業者に周知である。
【0121】
また、Nおよび/またはCブロッキング基の導入は、固体相ペプチド合成方法に従来のプロトコルを用いて達成され得る。C末端ブロッキング基の組み入れのために、例えば、所望のペプチドの合成は、通常、樹脂からの切断によって所望されるC末端ブロッキング基を有するペプチドが生じるように、化学的に修飾されている支持樹脂を固相として使用して達成される。C末端が第一級アミノブロッキング基を担持するペプチドを提供するために、例えば合成は、ペプチド合成が完了された時に、フッ化水素酸による処置により所望されるC末端アミド化ペプチドが遊離できるようにp−メチルベンズヒドリルアミン(MBHA)樹脂を使用して行われる。同様に、C末端でのN−メチルアミンブロッキング基の組み込みは、HF処置時に、N−メチルアミド化C末端を有するペプチドを遊離するN−メチルアミノエチル誘導体化DVB(樹脂)を使用して達成される。エステル化によるC末端のブロッキングもまた、従来の手順を使用して達成することができる。これは、所望されるアルコールとの以後の反応によりエステル官能基を形成させることを可能にするために、樹脂からの側鎖ペプチドの遊離を可能にする樹脂/ブロッキング基の組み合わせを使用することが必要とする。メトキシアルコキシベンジルまたは等価なリンカーによって誘導体化されたDVB樹脂と組み合わされたFMOC保護基は、この目的のために使用することができ、ジクロロメタン中TFAによって生じる支持体からの切断を伴う。次いで、例えば、DCCによる好適に活性化されたカルボキシル官能基のエステル化は、所望されるアルコールの添加、続いて、エステル化されたペプチド産物の脱保護および単離によって処理することができる。
【0122】
N末端ブロック基の組み入れを達成することができるが、合成されたペプチドはなお、例えば、適切な無水物およびニトリルによる処置によって、樹脂に付着される。N末端においてアセチル−ブロッキング基を組み入れるために、例えば樹脂に結合したペプチドを、アセトニトリル中20%無水酢酸で処置することができる。次いで、Nブロックされたペプチド産物を樹脂から切断し、脱保護し、続いて単離することができる。
【0123】
化学的または生物学的合成技術のいずれかから得られたペプチドが所望されるペプチドであることを保証するために、ペプチド組成の分析を行うべきである。かかるアミノ酸組成分析は、ペプチドの分子量を決定するために高分解能質量スペクトル分析法を用いて行うことができる。あるいは、またはさらに、ペプチドのアミノ酸含有量は、酸性水溶液においてペプチドを加水分解し、HPLC、アミノ酸分析器を使用して、混合物の成分を分離し、同定し、定量することによって、確認することができる。該ペプチドを配列順に分解し、順にアミノ酸を同定するタンパク質シークエネーターを使用して、ペプチドの配列を明確に規定することもできる。その使用前に、該ペプチドを精製して夾雑物を除去する。これに関して、ペプチドは、適切な規制当局によって設定された基準を満たすように精製されることが理解されよう。例えば、C4−、C8−またはC18−シリカのようなアルキル化シリカカラムを使用する逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む多くの従来の精製手順のうちのいずれか1つを使用して、要求されたレベルの純度を達成することができる。有機含有量を増加させる勾配移動相、例えば、通常、少量のトリフルオロ酢酸を含有する水性緩衝液中のアセトニトリルを一般に使用して、精製が達成される。また、イオン交換クロマトグラフィーを使用して、それらの電荷に基づいて、ペプチドを分離することもできる。
【0124】
もちろん、ペプチドまたはその抗体、誘導体、もしくはフラグメントは、活性に影響を及ぼさずに修飾されるアミノ酸残基を組み入れ得るということが理解されよう。例えば、末端を、「所望されない分解」から、NおよびC末端を保護および/または安定化するのに適切なブロッキング基、即ち、化学置換基を含むように誘導体化してもよい。「所望されない分解」なる用語は、化合物の機能に影響を及ぼす可能性のあるその末端における化合物の任意のタイプの酵素的、化学的または生化学的分解、即ち、その末端における化合物の配列分解を包含することを意味する。
【0125】
ブロッキング基には、イン・ビボで該ペプチドの活性に悪影響を及ぼさないペプチド化学の分野において従来使用される保護基が包含される。例えば、好適なN末端ブロッキング基は、N末端のアルキル化またはアシル化によって、導入することができる。好適なN末端ブロック基の例として、C-C分岐または非分岐アルキル基、ホルミルおよびアセチル基のようなアシル基、ならびにアセトアミドメチル(Acm)基のようなそれらの置換形態が挙げられる。アミノ酸の脱アミノアナログもまた、有用なN末端ブロック基であり、ペプチドのN末端に結合され得るかまたはN末端残基の代わりに使用され得るかのいずれかである。好適なC末端ブロック基は、C末端のカルボキシル基が組み入れられても組み入れられてなくてもよく、エステル、ケトン、またはアミドを含む。エステルまたはケトンを形成するアルキル基、特に、メチル、エチルおよびプロピルのような低級のアルキル基、ならびに第一級アミン(−NH)のようなアミドを形成するアミノ基、ならびにメチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルエチルアミノのようなモノ−およびジ−アルキルアミノ基などがC末端ブロック基の例である。アグマチンのような脱炭酸化されたアミノ酸アナログもまた、有用なC末端ブロッキング基であり、ペプチドのC末端残基に結合することができるかまたはその代わりに使用することができるかのいずれかである。さらに、末端における遊離のアミノおよびカルボキシル基は、ペプチドから完全に取り出して、ペプチド活性に対する影響を伴わないその脱アミノおよび脱炭酸形態を得ることができることが理解されよう。
【0126】
他の修飾もまた、活性に悪影響を及ぼさずに組み入れることができ、これらは天然のL異性体形態の1以上のアミノ酸をD−異性体形態のアミノ酸により置換することを包含するが、これに限定するものではない。このように、ペプチドは、1以上のD−アミノ酸残基を包含し得るか、または全てD型で存在するアミノ酸を含んでなり得る。本発明に関するペプチドのレトロ逆形態は、例えば全てのアミノ酸がDアミノ酸形態で置換される逆転ペプチドにもまた包含される。
【0127】
また、本発明の酸付加塩は、機能的等価物として包含する。このため、本発明のペプチドは、該ペプチドの水溶性塩を提供するために、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、または酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などのような有機酸で処置され、本発明における使用に適切である。
【0128】
本発明はまた、タンパク質およびペプチドのホモログを提供する。ホモログとは、保存アミノ酸配列の差違によるか、または配列に影響しない修飾によるか、またはその両方により、天然のタンパク質またはペプチドとは異なり得る。
【0129】
例えば、タンパク質またはペプチドの一次配列を変化させるが、通常その機能を変化させない保存的アミノ酸の変更が作成される。このため、10もしくはそれ以上の保守的アミノ酸変更は通常、ペプチド機能に影響を及ぼさない。
【0130】
修飾(通常、一次配列を変更しない)は、イン・ビボ、もしくはイン・ビトロでのポリペプチドの化学的誘導体化、例えば、アセチル化、またはカルボキシル化を含む。また、グリコシル化の修飾、例えば、その合成およびプロセシング中またはさらなるプロセシング工程において、ポリペプチドのグリコシル化パターンを修飾することによって作製されるものが包含される;例えば、グリコシル化に影響を及ぼす酵素、例えば、哺乳動物のグリコシル化または脱グリコシル化酵素に暴露することによって、作製されるものが含まれる。
【0131】
また、治療剤としてタンパク質分解に対するその耐性を改良するように、または溶解特性を至適化するように、またはそれらをより好適にするように、通常の分子生物学的技術を用いて修飾されているポリペプチドまたは抗体フラグメントも包含される。かかるポリペプチドのホモログには、天然のL−アミノ酸、例えばD−アミノ酸または非天然合成アミノ酸等以外の残基を含有するものも包含される。本発明のペプチドは、本明細書において列挙される具体的に例示した方法のいずれかの生成物に限定されない。
【0132】
本明細書に記載したように得られた実質的に純粋なタンパク質は、タンパク質精製のための既知の後記方法により精製され得る。ここで、免疫学的、酵素的または他のアッセイを使用して、その方法中の各段階にて精製を追跡できる。タンパク質精製方法は、当業者にはよく知られており、例えばDeutscherら(ed., 1990、Guide to Protein purification、Harcourt Brace Jovanovich、San Diego)により概説されている。
【0133】
核酸
本発明は、本発明のペプチド、タンパク質、および抗体をコードする核酸を提供する。「核酸」とは、デオキシリボヌクレオシドまたはリボヌクレオシドから構成されるか、ホスホロジエステル結合または修飾結合(例えば、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、シロキサン、カルボネート、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋したホスホロアミデート、架橋メチレンホスホネート、架橋ホスホロアミデート、架橋ホスホロアミデート、架橋メチレンホスホネート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオエート、架橋ホスホロチオエートまたはスルホン架橋等)およびかかる結合の組合せ物から構成される、あらゆる核酸を意味する。用語「核酸」は、5つの生理学的に生じる塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)以外の塩基から構成される核酸もまた特に包含し得る。
【0134】
本発明は、用いられる核酸の性質により制限されることを意図しない。標的核酸は、ネイティブまたは合成核酸であり得る。核酸は、ウイルス、細菌、動物または植物由来のものであり得る。該核酸は、DNAまたはRNAであり、二本鎖、一本鎖または特に二本鎖形態で存在できる。さらに、該核酸はウイルスまたは他のマクロ分子の一部として見出され得る。例えば、Fasbenderら[1996、J. Biol. Chem. 272:6479-89 (アデノウイルスの形態にあるDNAのポリリシン縮合)]を参照されたい。
【0135】
本発明において有用な核酸は、一例として、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド、例えばアンチセンスDNAおよび/またはRNA;リボゾーム;遺伝子治療のためのDNA;ウイルスのDNAおよび/またはRNAを包含するウイルスフラグメント;DNAおよび/またはRNAキメラ;mRNA;プラスミド;コスミド;ゲノムDNA;cDNA;遺伝子フラグメント;一本鎖DNAを包含するDNAの様々な構造形態、二本鎖DNA、スーパーコイルドDNAおよび/またはトリプルヘリカルDNA;Z−DNA;等を包含するが、これらに限定するものではない。核酸は、大量に核酸を調製するために使用されるあらゆる従来手段により製造され得る。例えば、DNAおよびRNAは、市販購入し得る試薬および十分当業者には既知の方法による合成機器(例えば、Gait、1985、オリゴヌクレオチド合成:A PRACTICAL APPROACH (IRL Press、Oxford、England)を参照されたい)により化学的に合成され得る。RNAは、プラスミド、例えばSP65(Promega Corporation、Madison、WI)を持ちいるイン・ビトロ転写により、高収率で提供され得る。
【0136】
特定の環境においては、高いヌクレアーゼ安定性が望まれる場合に、修飾ヌクレオシド間結合を有する核酸が好まれ得る。修飾ヌクレオシド間結合を含有する核酸は、当業者にはよく知られている試薬および方法を用いて合成され得る。例えば、ホスホネートホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミデートメトキシエチルホスホロアミデート、ホルムアセタール、チオホルムアセタール、ジイソプロピルシリル、アセトアミデート、カルバメート、ジメチレン-スルフィド(-CH2−S−CH2)、ジイネチレン-スルホキシド(-CH2-SO−CH2)、ジメチレン-スルホン(-CH2-SO2-CH2)、2'-O−アルキル、および2'−デオキシ2'-フルオロホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含有する核酸を合成するための方法は、当業者には十分知られている(Uhlmannら、1990、Chem. Rev. 90:543-584; Schneiderら、1990、Tetrahedron Lett. 31:335 およびこれらに引用された文献を参照のこと)。
【0137】
核酸を、当業者にはよく知られているような方法あらゆる好適な手段により精製できる。例えば、核酸は逆相またはイオン交換HPLC、サイズ排除クロマトグラフィーまたはゲル電気泳動により精製され得る。もちろん、精製方法は精製されるべきDNAのサイズに部分的に依存することが当業者には認識されよう。
【0138】
「核酸」なる用語もまた、5つの生理学的に生じる塩基 (アデニン、グアニン、チミン、シトシンおよびウラシル)から構成される核酸を特に包含する。
【0139】
医薬組成物
本発明は、本発明の方法を実施するための医薬組成物の使用も包含し、該組成物は、好適な化合物またはそのアナログ、誘導体または修飾物、および医薬的に許容し得る担体を含んでいる。
【0140】
本明細書において使用されるように、用語「医薬的に許容し得る担体」とは、好適な化合物を組合せることができ、後に該組合せ物を使用して好適な化合物を哺乳動物に投与できる化学組成物を意味する。
【0141】
本発明を行うために有用な医薬組成物は、1ng/kg/日および100mg/kg/日の間の用量を送達するために投与され得る。一実施態様において、本発明は、哺乳動物の皮膚組織または血液組織の照射中、哺乳動物の化合物感受性疾患に罹患する組織中に1μm〜10μmのヒペリシン濃度となる用量の投与を想定する。
【0142】
本発明の方法において有用である医薬組成物は、経口固体製剤、眼用、座薬、エアロゾル、局所または他の類似製剤において全身投与され得る。かかる医薬組成物は、薬物投与を増強および促進するために知られる医薬的に許容し得る担体および他の成分を含有してもよい。他の可能な製剤、例えばナノ粒子、リポソーム、再封赤血球(resealed erythrocyte)および免疫学を基にした系などを使用して、本発明の方法に従って好適なヒペリシン誘導体を投与することもできる。
【0143】
本明細書に開示された疾患の処置のために哺乳動物に製剤および投与され得る本明細書に記載した方法のいずれかを用いて同定された化合物を、ここに記載する。
【0144】
本発明は、活性成分として、本明細書に開示した疾患の処置のために有用な化合物を含む医薬組成物の調製および使用を含む。かかる医薬組成物は、被験体に投与するのに好適な形態で活性成分単独から構成してもよく、また該医薬組成物は、活性成分および1以上の医薬上許容し得る担体、1以上のさらなる成分またはこれらのいくつかの組合せを含みんでもよい。該活性成分は、生理学的に許容し得るエステルまたは塩の形態で、例えば、当業者にはよく知られている生理学的に許容し得るカチオンまたはアニオンとの組合せにおいて該医薬組成物中に存在し得る。
【0145】
本明細書において使用する場合、用語「生理学的に許容される」エステルまたは塩は、組成物を投与しようとする被験体に有害ではない医薬組成物の他の任意の成分に適合性がある活性成分のエステルまたは塩の形態を意味する。
【0146】
本明細書に記載の医薬組成物の製剤は、任意の既知の方法によって調製され得るか、またはその後、薬理学の分野において開発され得る。一般に、そのような調製方法は、活性成分を担体または1つもしくはそれ以上の他の付属成分とを会合させ、次いで必要または所望であれば、製品を所望される単一または複数の投与単位に形成または包装する工程を含む。
【0147】
本発明書において提供される医薬組成物の記載は、原則として、ヒトに対する倫理的投与に適する医薬組成物に関するが、当業者であれば、そのような組成物はすべての種類の動物への投与に一般に適切であることを理解するであろう。組成物を多様な動物への投与に適切にするためのヒトへの投与に好適な医薬組成物の修飾は、十分理解されており、熟練した薬学者であれば、単なる通常の(存在すれば)実験を伴うそのような修飾を設計および実施することができる。本発明の医薬組成物の投与が考慮される被験体としては、ヒトおよび他の霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、およびイヌのような商業的に関連の哺乳動物ならびにニワトリ、アヒル、ガチョウ、およびシチメンチョウのような商業関連のトリを含むトリが挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
本発明の方法において有用である医薬組成物は、調製され、包装されるか、または経口、直腸、膣、非経口、静脈内、局所、肺、鼻内、口内、眼、髄腔内または別の投与経路に適切な製剤で販売され得る。他の考慮される製剤としては、計画されたナノ粒子、リポソーム調製物、活性成分を含有する再封赤血球、および免疫学的に基づく製剤が挙げられる。
【0149】
本発明の医薬組成物は、単一の単位用量、もしくは複数の単一単位用量としてバルク形態で調製、包装、または販売され得る。本明細書において使用される「単位用量」は、予め決定された量の活性成分を含んでなる医薬組成物の個別の量である。活性成分の量は、一般に、被験体に投与される活性成分の用量か、または例えば、そのような用量の2分の1または3分の1であるようなかかる量の簡便な分画に相当する。
【0150】
本発明の医薬組成物中の活性成分、医薬上許容される担体、およびさらなる任意の成分の相対量は、処置される被験体の同一性、サイズ、および病態ならびにさらに組成物が投与されるべき経路に依って変動する。例えば、該組成物は、0.1%〜100%(w/w)の活性成分を含んでなり得る。
【0151】
活性成分に加えて、本発明の医薬組成物は、1つもしくはそれ以上のさらなる医薬上活性物質をさらに含んでなり得る。特に考慮されるさらなる物質は、制吐剤ならびにシアン化物およびシアン酸塩のスカベンジャーのようなスカベンジャーを含む。
【0152】
本発明の医薬組成物の制御放出または徐放性製剤は、従来の技術を使用して作製され得る。
【0153】
経口投与に適切な本発明の医薬組成物の製剤は、錠剤、ハードまたはソフトカプセル、カシェ剤、トローチまたはドロップ(それぞれ、予め決定された量の活性成分を含有する)を含むがこれらに限定されない個別の固体用量単位の形態で、調製、包装、または販売され得る。経口投与に適切な他の製剤としては、散剤または顆粒製剤、水性もしくは油性懸濁液、水性もしくは油性溶液、またはエマルジョンが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において使用される「油性」液体は、炭素含有液体分子を含んでなり、水よりも乏しい極性特徴を示すものである。
【0154】
本発明において使用されるように、医薬組成物の「非経口投与」は、被験体の組織の物理的破壊および組織における裂け目を介する医薬組成物の投与によって特徴付けられる任意の投与経路を含む。従って、非経口投与としては、組成物の注入、手術的切開を介する組成物の適用、組織貫通非手術的創傷を介する組成物の適用などによる医薬組成物の投与が挙げられるが、これらに限定されない。特に、非経口投与は、限定されないが、皮下、腹腔内、筋肉内、胸骨内注入、および腎臓透析輸注技術を含むことが考慮される。
【0155】
非経口投与に適切な医薬組成物の製剤は、滅菌水または滅菌等張性食塩水のような医薬上許容される担体と組み合わされた有効成分を含んでなる。そのような製剤は、ボーラス投与もしくは連続投与に適した形態で調製、包装、または販売され得る。注入可能な製剤は、アンプルもしくは保存剤を含有する複数用量の容器におけるような単位剤形で、調製、包装、または販売され得る。非経口投与のための製剤としては、懸濁液、溶液、油性または水性ビヒクル中のエマルジョン、ペースト、およびインプラント可能な徐放性もしくは生分解性製剤が挙げられるが、これらに限定されない。そのような製剤は、懸濁剤、安定剤、または分散剤を含むが、これらに限定されない1つもしくはそれ以上の追加成分をさらに含んでなり得る。非経口投与のための製剤の一実施形態では、有効成分は、再構成された組成物の非経口投与の前の適切なビヒクル(例えば、滅菌されたパイロジェンを含まない水)による再構成のための乾燥(即ち、散剤または顆粒)形態で提供される。
【0156】
医薬組成物は、滅菌された注入可能な水性もしくは油性懸濁液または溶液の形態で、調製、包装、あるいは販売され得る。この懸濁液または溶液は、既知の技術によって製剤化され得、有効成分に加えて、本明細書に記載の分散剤、湿潤剤、または懸濁剤のような追加成分を含んでなり得る。そのような適切な滅菌された注入可能な製剤は、例えば、水もしくは1,3−ブタンジオールのような非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒を使用して調製され得る。他の許容される希釈剤および溶媒としては、リンゲル液、等張性塩化ナトリウム溶液、および合成モノまたはジ−グリセリドのような固定油が挙げられるが、これらに限定されない。有用である他の非経口的に投与可能な製剤は、微結晶形態中、リポソーム調製物中、または生分解性ポリマーシステムの成分として活性成分を含んでなり得る製剤を含む。徐放またはインプラントのための組成物は、エマルジョン、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、または難溶性塩のような医薬上許容されるポリマーまたは疎水性材料を含んでなり得る。
【0157】
局所投与に適切な製剤としては、リニメント剤、ローション剤、クリーム、軟膏もしくはペーストのような水中油型もしくは油中水型エマルジョン、および溶液または懸濁液のような液体または半液体調製物が挙げられるが、これらに限定されない。局所的投与可能な製剤は、例えば、約1%〜約10%(w/w)の活性成分を含んでなり得るが、活性成分の濃度は、溶媒中の活性成分の溶解度の限界値ほどに高くあり得る。局所投与のための製剤は、本明細書に記載の1つもしくはそれ以上の成分をさらに含んでなり得る。
【0158】
典型的には、動物、好ましくはヒトに投与され得る本発明の化合物の用量は、動物の体重の1キログラムあたり1μg〜約100gの量の範囲である。一方、投与される正確な用量は、動物のタイプおよび処置する疾患状態のタイプ、動物の年齢および投与経路を含むが、これらに限定されない多くの因子に依存して変動する。好ましくは、化合物の用量は、動物の体重の1キログラムあたり約1mg〜約10gまで変動する。よりこのましくは、用量は、動物の体重の1キログラムあたり約10mg〜約1gまで変動する。
【0159】
化合物は、毎日数回の頻度で動物に投与され得るか、またはそれは、1日1回、1週間に1回、2週間ごとに1回、1月に1回のようなより少ない頻度で、または数箇月に1回もしくはさらに1年に1回もしくはそれ以下のような、さらにより少ない頻度で投与され得る。投与の頻度は、当業者には容易に明らかであり、処置する疾患のタイプおよび重症度、動物のタイプおよび年齢などであるがそれらに限定されない任意の数の因子に依存するであろう。
【0160】
キット
本発明はまた、本発明の組成物および哺乳動物の細胞または組織に該組成物を投与することを説明する取扱説明書を含んでなるキットを含む。別の実施形態では、このキットは、組成物を投与する前に本発明の組成物を溶解または懸濁するのに適切な(好ましくは無菌の)溶媒を含んでなる。
【0161】
本発明において使用される「取扱説明書」は、刊行物、記録、図面、または本明細書において引用される多様な疾患もしくは障害の緩和をもたらすため、キットにおける本発明のペプチドの有用性を伝達するために使用することができる発現の他の任意の媒体を含む。場合により、またはあるいは、取扱説明書は、哺乳動物の細胞もしくは組織における疾患または障害の緩和に関する1つもしくはそれ以上の方法について説明し得る。本発明のキットの取扱説明書は、例えば、本発明のペプチドを含有する容器に固定され得るか、またはペプチドを含有する容器と共に搬送され得る。あるいは、取扱説明書は、取扱説明書および化合物がレシピエントによって共同で使用されることを意図して、容器とは個別に搬送され得る。
【0162】
さらなる記載なしに、当業者は、前記および下記の例示的実施例を為すことができ、本発明の化合物および実際の請求の範囲に記載した方法を用い得ると考えられる。従って、下記実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に挙げたもので、開示物の残りのあらゆる方法において限定を意図するものではない。
【0163】
実施例
材料および方法
患者およびサンプル
患者はUCLAで間質性肺疾患の診療所から募集され、全て試験が治験審査委員会により認証された。線維性肺疾患患者由来の肺組織サンプルを、間質性肺疾患の診断のための肺生検の切開中に取得し、また正常サンプルを悪性腫瘍と離れた部位にある気管支癌のために肺葉切除をうけた患者から得た。サンプルを、ホモジネートし、先に記載したような完全緩衝液中で超音波処理した(Roche Diagnostics、Indianapolis、Indiana、USA) [14]。ホモジネートを、900xg、15分間で遠心分離し、1.2μm滅菌アクロディスク(Gelman Sciences、Ann Arbor、Michigan、USA)をとおして濾過した。また、我々は、5人の正常ボランティアおよび5人の線維化間質性肺疾患罹患患者からのヘパリン処理した静脈血液(10ml)を得た。線維化間質性肺疾患罹患患者のうちの4人の患者を、臨床的、X線写真的および組織学的特徴を根拠としてUIPと診断し、1人の患者を、組織的病変を根拠として線維性NSIPと診断した。前記したように[15、16]、サンプルを処理し、遠心分離によるFACS分析のために軟膜白血球細胞集団を単離した。夾雑物を含む赤血球細胞を除いて、次いで該細胞を洗浄し、0.1%FBSを含有するPBS中で1x10/mlの濃度とした。肺ホモジネートおよび血漿サンプルを、ELISAの為に処理されるまで−70℃で凍結した。サンプルを、前記したように[17]、CXCL−12レベルについてアッセイした。
【0164】
免疫組織化学染色
パラフィン埋包組織を、前記したように[18]、CXCL−12の免疫組織化学的局在性のために処理した。要するに、組織セクションを、キシレンで脱ワックスし、エタノールの段階的濃度をとおして再水和した。スライドを、1:1の完全メタノールと3%H2で30分間固定し、PBSですすぎ、次いで非特異的結合部位を、室温で30分間のインキュベーションにより、ユニバーサルブロッキング試薬を用いてブロッキングした(Biogenex、San Ramon、CA)。ブロッキング工程の後に、1:500希釈のコントロール(ヤギ)またはヤギ抗hCXCL−12血清のいずれかを一次抗体として加え、スライドを、30分間室温でインキュベートした。次いで、スライドをPBSですすぎ、ビオチン化抗ヤギIgG(Vector ABC Elite Kit、Vector Laboratories、Burlingame、CA)を用いて重層し、さらに30分間インキュベートした。スライドを、2回PBSですすぎ流し、次いで30分間室温にてストレプトアビジン結合ペルオキシダーゼで処理した。次に、PBSを用いて3回洗浄し、スライドを基質色原体3,3'-ジアミノベンジジン(DAB、Vector Laboratories)を用いて比色分析の検出に供した。スライドを、DAB溶液中に室温で5-10分間インキュベートし、発色させ、蒸留水ですすぎ流し、反応を停止させた。マイヤーズヘマトキシリンを対比染色液として使用した。
【0165】
フローサイトメトリー
循環する線維芽細胞を、以前に公開された方法[17]に従って、フローサイトメトリーにより同定した。要するに、白血球を、抗CXCR4-FITC(R&D Systems)および抗CD45-PerCP(BD Biosciences)により染色した。つぎに、該細胞を、コラーゲン-I(Col I、Rockland)およびαSMA(R&D Systems)の細胞内染色の前にcytofix/cytoperm(BD Biosciences)を使用して透過させた。次いで、CoI-IおよびαSMAを、非結合ウサギ抗ヒトCoI-Iおよびマウス抗ヒトαSMA Absに続いて、Alexa Fluor 610-R-フィコエリトリンヤギ抗ウサギまたはマウス(Molecular Probes)を用いて染色した。サンプルを、Cellquest softwareを用いるFACS Calibur flow cytometer 上で処理した。
【0166】
統計学的分析
データを、Statview 統計パッケージ(Abacus Concepts、Berkeley、California、USA)を用いて、Dell PC(Dell、Round Rock、Texas、USA)コンピューターにて分析した。比較を、対応のないスチューデントt-検定により評価した。該結果を、p値が0.05未満であれば統計的に有意とみなした。
【0167】
結果
肺線維症の動物モデルにおいて該肺へ線維芽細胞を動員する際に、ケモカインリガンド、CXCL−12の役割が示されたので、線維性肺疾患罹患患者から得た保管サンプル中の生検組織中のCXCL−12の肺発現を比較することにより開始した。免疫組織化学により検出されたとおり(図1a)、臨床的および組織学的診断UIPを有する患者由来の肺組織中でCXCL−12の大量の蓄積を見出した。定量的にこの知見を評価するために、UIPおよび線維性NSIPを有する患者からの肺組織におけるCXCL−12のタンパク質レベルを比較し、それらを正常な肺組織(図Ib)中のレベルについて比較した。64%および77%が、正常な肺と比較して、線維性NSIPおよびUIP各々を有する患者の肺中のCXCL−12レベルで各々増加することに注目されたい。興味深いことに、CXCL−12のレベルは、NSIPおよびUIPとの間で差違はなかった。
【0168】
線維性肺疾患を有する患者における肺のCXCL−12のこの高い発現が、線維芽細胞トラフィッキングと相関するかどうかを試験するために、次にパイロット試験を行い、ここでUIPまたは線維性NSIPに罹患している5人の患者由来の末梢血液を事前採取し、それらを5人の正常なボランティアと比較した。血漿ケモカインレベルが肺線維症[19]中の組織レベルと相関することが以前に示されていたので、血漿CXCL−12レベルを、グループ間で比較することにより開始した。血漿CXCL−12レベルは、正常な患者よりもUIPおよび線維性NSIPを有する患者において2.4倍高く(図2)、肺組織において、我々の見解を裏付けるものであった。
【0169】
次に、我々は、コラーゲン-I発現CD45+細胞を計測することにより2つのグループ中の線維芽細胞の循環する数を比較した[17]。際だって、線維性肺疾患を有する患者は、健康なボランティアと比較した場合に、循環する線維芽細胞の数の程度が顕著に高いことを示した(図3a)。循環する線維芽細胞がより多いCXCR4-ポジティブおよびより少ないCXCR4-ネガティブサブセットから構成されることを、我々は以前に報告している[13]。広範囲の循環する線維芽細胞プールは、CXCR4発現サブセットにおいて最も顕著であったが、CXCR4-ネガティブサブセットにおいても見られた(図3a)。
【0170】
肺線維症において多くの肺線維芽細胞が筋線維芽細胞表現型を有しており、また筋線維芽細胞の収縮特性は肺線維症の進行において重要であると考えられている[6、20、21]。循環する線維芽細胞は培養物およびイン・ビボの両方において筋線維芽細胞に分化することができるため[22、23]、2グループ内の循環する線維芽細胞の分化の程度もまた、筋線維芽細胞マーカーであるα-SMAの発現を評価することにより比較した(図3b)。このαSMA発現線維芽細胞は、両グループで循環する全線維芽細胞の小さなサブセットを構成した。患者および正常なボランティアの間の全αSMA線維芽細胞またはαSMA線維芽細胞のCXCR4またはCXCR4サブセットの間の統計的有意差を観察しなかったが、線維化間質性肺疾患罹患患者中のαSMA細胞の循環数が高くなるという傾向がみられた。これは、線維化間質性肺疾患罹患患者において、より多い循環する線維芽細胞の数が、筋線維芽細胞表現型への分化に関する早期の証拠を示し得ることを示唆している。
【0171】
考察
線維芽細胞は、造血細胞および線維芽細胞両方に対するマーカーを発現する骨髄誘導性循環細胞の近年同定された集団である。先の証拠は、循環する線維芽細胞と、線維芽細胞および筋線維芽細胞へのその分化による、創傷修復、強皮症および喘息の生物学的特徴とを関連づけている(文献[11、12]を参照されたい)。線維芽細胞は、さらに含脂肪細胞および抗原提示細胞を含めた異なる細胞型へ分化することができる[13、24]。
【0172】
近年、我々は、ブレオマイシン誘導性肺線維症のマウスモデルにおいて肺の瘢痕化に関与するものとして線維芽細胞を同定し、またこのモデルの場合に[10]CXCL−12-CXCR4軸を介してマウスおよびヒト両方の線維芽細胞が肺にトラフィッキングできることを示した。線維形成剤の肺内投与により、線維性肺疾患の試験のための主要動物モデルが提示されるものの、それらは、経時的進行および組織学を含めたいくつかの重要な点でヒトの疾患とは異なる[25、26]。この点から、現行の試験において線維化間質性肺疾患罹患患者における線維芽細胞の関連性を試験することを考えた。我々は、線維化間質性肺疾患罹患患者の肺および血漿において、線維芽細胞誘引性ケモカイン、CXCL−12の発現が増加したこと見出した。さらに、これらの患者中の循環する線維芽細胞プールの著しい拡大を見出した:通常〜0.5%の循環する白血球を構成する線維芽細胞[11、12]は、我々のコホートにおいて6−10%の白血球を構成した。実際には、これらの細胞は、このコホート中で観察された末梢血単球増加(このコホートにおいて、絶対単球計測数4.54±0.44x10細胞/L;参照範囲0.10-1.10x10細胞/L、p=0.004)に関与し得る。我々の知識では、この事実は、ヒト間質性肺疾患において線維芽細胞が関与するという証拠を報告した初めてのものである。
【0173】
現在の報告は、今後の研究のための多くの示唆を有する。第一に、肺線維症の病原における線維芽細胞機能のメカニズムは、非常に興味深いものである。細胞外マトリクスの線維芽細胞生成および線維芽細胞/筋線維芽細胞としての収縮特性に加えて、線維芽細胞は、おそらくこれらの病気において血管新生または継続的免疫応答の役割を果たす可能性がある[24、27]。第二に、ヒト肺線維症の最終的肺病変への、線維芽細胞、局所前駆体細胞および既存の肺線維芽細胞の相対的な関与はいまだ確立されてない。第三に、これらの疾患進行においてCXCR4およびCXCR4の線維芽細胞サブセットの役割が決定されるべきである。最終的に、骨髄からの放出、内皮付着および循環からの放出を含めた線維芽細胞トラフィキングのメカニズムおよびケモカイン濃度勾配への応答に関するメカニズムの研究は、これらの深刻な疾患において治療的介入のための新規標的を提示し得る。
【0174】
各々および個々の特許、特許出願および明細書中に引用された文献の開示を、それら全てを出典明示により本明細書の一部として組み込む。
【0175】
見出し部分は、参照として本明細書に包含され、特定の区分を位置づける際の助けとなる。
【0176】
これらの見出し部分は、下記に記載した概念の範囲を制限する意図はなく、これらの概念は他の章の全体を通して明細書に適用できる。
【0177】
開示した実施形態に関する先の記載は、あらゆる当業者に対して本発明を為すかまたは使用するために提供できる。これら実施形態に対する様々な修飾は、当業者には直ちに明らかであり、本明細書で定義した一般的な原理は、本発明の精神または範囲からは逸脱せずに他の実施態様に適用され得る。従って、本発明は、本明細書に提示した実施形態に限定する意図はなく、本明細書で開示した原理および新規態様と一致する最も広い範囲に合致されるべきである。
【0178】
参考文献一覧
本明細書および後記の全体を通じて引用した文献は、その出典明示により、その全体において本明細書の一部とする。
【0179】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維性疾患または線維性障害を有する被験体中の循環する線維芽細胞の数を決定することを含む該被験体を診断する方法であって、ここでコントロール被験体中の循環する線維芽細の数と比較した該被験体中の循環する線維芽細胞の数の増加が線維性疾患または線維性障害の指標である、方法。
【請求項2】
線維性障害が、肺、肝臓、腎臓、心臓、胆嚢、血管系、眼または皮膚の繊維芽増殖性障害である、請求項1の方法。
【請求項3】
線維性障害が、特発性肺線維症、線維化間質性肺疾患、間質性肺炎、非特異的間質性肺炎の線維化した亜型、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、石綿症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈性肺高血圧、肝線維症、肝硬変、腎線維症、糸球体硬化症、x腎臓線維症、糖尿病性腎症、心臓疾患、線維化心臓弁膜疾患、全身性線維症、リウマチ性関節炎、手術による過剰な瘢痕化、化学療法薬誘発性線維症、照射誘導性線維症、黄斑変性症、網膜および硝子体網膜症、アテロ−ム性動脈硬化症、ならびに再狭窄からなる線維性障害の群から選択される、請求項1の方法。
【請求項4】
被験体中の循環する線維芽細胞の数が、コントロール被験体中の循環する線維芽細胞の数よりも、少なくとも約10%より多く、少なくとも約20%より多く、少なくとも約30%より多く、少なくとも約40%より多いか、または少なくとも約50%より多い、請求項1の方法。
【請求項5】
被験体中の循環する線維芽細胞の数が、コントロール被験体中の循環する線維芽細胞の数よりも少なくとも約2倍多いか、少なくとも約3倍多いか、少なくとも約4倍多いか、または少なくとも約5倍多い、請求項1の方法。
【請求項6】
循環する線維芽細胞が、末梢血液線維芽細胞である、請求項1の方法。
【請求項7】
循環する線維芽細胞が、コラーゲン-1発現CD45細胞である、請求項1の方法。
【請求項8】
循環する線維芽細胞が、フローサイトメトリーにより同定される、請求項1または7の方法。
【請求項9】
被験体中のα-SMAを発現する循環する線維芽細胞のパーセンテージを決定することをさらに含んでおり、ここでコントロール被験体中のα-SMAを発現する循環する線維芽細胞のパーセンテージと比較して、被験体中のα-SMAを発現する循環する線維芽細胞のパーセンテージにおける増加が、線維性疾患または線維性障害の指標である、請求項1の方法。
【請求項10】
α-SMAの発現の増加が、循環する線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化の増加に関する指標である、請求項9の方法。
【請求項11】
コントロール被験体が、線維性疾患または線維性障害を示さない被験体である、請求項1の方法。
【請求項12】
被験体中の循環するCXCL−12の量を決定することを含む、線維性疾患または線維性障害を有する被験体を診断する方法であって、ここでコントロール被験体中の循環するCXCL−12の量と比較して、被験体中の循環するCXCL−12の量における増加が、線維性疾患または線維性障害の指標である、方法。
【請求項13】
線維性障害が、肺、肝臓、腎臓、心臓、眼、胆嚢、血管系または皮膚の線維化した障害である、請求項12の方法。
【請求項14】
線維性障害が、特発性肺線維症、線維化間質性肺疾患、間質性肺炎、非特異的間質性肺炎の線維化した亜型、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、石綿症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈性肺高血圧、肝線維症、肝硬変、腎線維症、糸球体硬化症、x腎臓線維症、糖尿病性腎症、心臓疾患、線維化心臓弁膜疾患、全身性線維症、リウマチ性関節炎、手術による過剰な瘢痕化、化学療法薬誘発性線維症、照射誘導性線維症、黄斑変性症、網膜および硝子体網膜症、アテロ−ム性動脈硬化症、ならびに再狭窄からなる線維性障害の群から選択される、請求項12の方法。
【請求項15】
被験体中の循環するCXCL−12の量が、コントロール被験体中の循環するCXCL−12の量よりも少なくとも約10%より多いか、少なくとも約20%多いか、少なくとも約30%多いか、または少なくとも約50%多い、請求項12の方法。
【請求項16】
被験体中の循環するCXCL−12の量が、コントロール被験体中の循環するCXCL−12の量よりも、少なくとも約2倍多いか、少なくとも約3倍多いか、少なくとも約4倍多いか、または少なくとも約5倍多い、請求項12の方法。
【請求項17】
循環するCXCL−12が血漿CXCL−12である、請求項12の方法。
【請求項18】
コントロール被験体が、線維性疾患または障害を持たない被験体である、請求項12の方法。
【請求項19】
被験体中の循環する線維芽細胞の数を決定することを含む繊維増殖性障害に罹患している被験体中の繊維増殖性疾患の進行を決定する方法であって、ここで該被験体中の循環する線維芽細胞の数が時間と共に増加することが、繊維増殖疾患または障害の進行の指標である、方法。
【請求項20】
繊維増殖性障害が、肺、肝臓、腎臓、心臓、眼、胆嚢、血管系または皮膚の繊維増殖性障害である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
繊維増殖性障害が、特発性肺線維症、線維化間質性肺疾患、間質性肺炎、非特異的間質性肺炎の線維化した亜型、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、石綿症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈性肺高血圧、肝線維症、肝硬変、腎線維症、糸球体硬化症、x腎臓線維症、糖尿病性腎症、心臓疾患、線維化した心臓弁膜症、全身性線維症、リウマチ性関節炎、手術による過剰な瘢痕化、化学療法薬誘発性線維症、照射誘導性線維症、黄斑変性症、網膜および硝子体網膜症、アテロ−ム性動脈硬化症ならびに再狭窄からなる繊維増殖性疾患の群から選択される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
被験体中の循環する線維芽細胞の数が、繊維増殖性障害を有さないコントロール被験体のものより、少なくとも約10%よりも多いか、少なくとも約20%多いか、少なくとも約30%多いか、少なくとも約40%多いか、または少なくとも約50%多い、請求項19記載の方法。
【請求項23】
被験体中の循環する線維芽細胞の数が、繊維増殖性障害を持たないコントロール被験体の循環する線維芽細胞の数よりも少なくとも約2倍多いか、少なくとも約3倍多いか、少なくとも約4倍多いか、または少なくとも約5倍多い、請求項19記載の方法。
【請求項24】
循環する線維芽細胞が、末梢血液線維芽細胞である、請求項19記載の方法。
【請求項25】
循環する線維芽細胞が、コラーゲン-1発現CD45細胞である、請求項19記載の方法。
【請求項26】
循環する線維芽細胞がフローサイトメトリーにより同定される、請求項19および25記載の方法。
【請求項27】
被験体中のα-SMAを発現する循環する線維芽細胞のパーセンテージを決定することをさらに含んでおり、ここで被験体中のα-SMAを発現する循環する線維芽細胞のパーセンテージにおける増加および被験体中の循環する線維芽細胞の数における増加が、線維増殖性疾患または障害の進行の指標である、請求項19記載の方法。
【請求項28】
α-SMAの発現の増加が、循環する線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化の増加に関する指標である、請求項27の方法。
【請求項29】
被験体中の循環するCXCL−12の量を決定することをさらに含んでおり、ここで循環するCXCL−12の量における増加および被験体中の循環する線維芽細胞の数における増加が、線維増殖性疾患または障害の進行の指標である、請求項19記載の方法。
【請求項30】
被験体中の循環する線維芽細胞の数を、コントロール被験体中の循環する線維芽細胞の数と比較することをさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項31】
コントロール被験体が、線維増殖性疾患の既知の段階を有する、請求項30の方法。
【請求項32】
循環する線維芽細胞の数を低下させる化合物または生物製剤を投与することを含む、線維性または線維増殖性の疾患または障害に罹患する被験体を処置する方法。
【請求項33】
化合物または生物製剤が、α-SMAを発現する循環する線維芽細胞の全パーセンテージをさらに低下させる、請求項32の方法。
【請求項34】
化合物または生物製剤が、血漿CXCL−12レベルをさらに低下させる、請求項32の方法。
【請求項35】
線維性または線維増殖性の疾患または障害が、肺、肝臓、腎臓、心臓、眼または皮膚の線維性または線維増殖性の疾患または障害である、請求項32の方法。
【請求項36】
線維性または線維増殖性の疾患または障害が、特発性肺線維症、線維化間質性肺疾患、間質性肺炎、非特異的間質性肺炎の線維化した亜型、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、石綿症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈性肺高血圧、肝線維症、肝硬変、腎線維症、糸球体硬化症、x腎臓線維症、糖尿病性腎症、心臓疾患、線維化心臓弁膜疾患、全身性線維症、リウマチ性関節炎、手術による過剰な瘢痕化、化学療法薬誘発性線維症、照射誘導性線維症、黄斑変性症、網膜および硝子体網膜症、アテロ−ム性動脈硬化症ならびに再狭窄からなる線維性障害の群から選択される、請求項32の方法。
【請求項37】
循環する線維芽細胞の数を低下させる化合物または生物製剤を含む、線維性または線維増殖性の疾患または障害の処置のための医薬組成物。
【請求項38】
化合物または生物製剤が、α-SMAを発現する循環する線維芽細胞の全パーセンテージをさらに低下させる、請求項37の医薬組成物。
【請求項39】
化合物または生物製剤が、血漿CXCL−12レベルをさらに低下させる、請求項37の医薬組成物。
【請求項40】
線維性または線維増殖性の疾患または障害が、肺、肝臓、腎臓、心臓、眼または皮膚の線維性または線維増殖性の疾患または障害である、請求項37の医薬組成物。
【請求項41】
線維性または線維増殖性の疾患または障害が、特発性肺線維症、線維化間質性肺疾患、間質性肺炎、非特異的間質性肺炎の線維化した亜型、嚢胞性線維症、肺線維症、珪肺症、石綿症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈性肺高血圧、肝線維症、肝硬変、腎線維症、糸球体硬化症、x腎臓線維症、糖尿病性腎症、心臓疾患、線維化心臓弁膜疾患、全身性線維症、リウマチ性関節炎、手術による過剰な瘢痕化、化学療法薬誘発性線維症、照射誘導性線維症、黄斑変性症、網膜および硝子体網膜症、アテロ−ム性動脈硬化症ならびに再狭窄からなる線維性障害の群から選択される、請求項37の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−511389(P2010−511389A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539524(P2009−539524)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/086167
【国際公開番号】WO2008/067559
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(501149684)ユニバーシティ オブ バージニア パテント ファウンデーション (35)
【出願人】(500025503)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (26)
【Fターム(参考)】