説明

線維芽細胞成長因子21の突然変異タンパク質

本発明は、野生型のヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少したヒト線維芽細胞成長因子21の新規な突然変異タンパク質に関する。タンパク質及びそれらをコードする核酸種が開示される。また、本発明は、上記核酸配列の増殖及び上記突然変異タンパク質を産生するためのベクター及び宿主細胞を具現化する。2型糖尿病、肥満症、又はメタボリック症候群を治療する方法もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母において発現する場合、野生型線維芽細胞成長因子21と比較して、脱アミド化が減少した線維芽細胞成長因子21の新規な突然変異タンパク質の同定に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維芽細胞増殖因子は、発達中の組織及び成ヒト組織で幅広く発現するポリペプチドであり(Bairdら、Cancer Cells、3:239−243、1991)、血管新生、有糸分裂誘発、パターン形成、細胞分化、代謝調節及び組織損傷の修復を含む多数の生理学的機能において重要な役割を果たしている(McKeehanら、Prog.Nucleic Acid Res.Mol.Biol.59:135−176、1998)。刊行物によれば、FGFファミリーは、現在、23のメンバーから構成されている(Reussら、Cell Tissue Res.313:139−157(2003))。
【0003】
線維芽細胞成長因子21(FGF−21)は、肝臓において選択的に発現することが報告されており(Nishimuraら、 Biochimica et Biophysica Acta、1492:203−206, (2000)、国際公開第01/36640号パンフレット、及び国際公開第01/18172号パンフレット)、虚血性血管疾患、創傷治癒、並びに肺、気管支、又は肺胞細胞機能の損失及びその他多くの障害に関連した疾患の治療として記載されている。最近では、FGF−21は、インスリンの有無に関わらず、治療後のマウス3T3−L1脂肪細胞のグルコース摂取を刺激し、ob/obマウス並びにdb/dbマウス、及び8週齢のZDFラットにおける摂食時の血糖値並びに空腹時血糖値、トリグリセリド、及びグルカゴンレベルを減少することが示されることから、用量依存的な方法で糖尿病及び肥満症の治療法として、FGF−21の使用についての基礎をもたらす(国際公開第03/011213号パンフレット)。
【0004】
組換えDNA技術の開発によって、外来性の生成物をコードする外因性のDNA配列が導入される宿主細胞において、FGF−21の突然変異タンパク質などの外来性の生成物の産生が可能である。この技術の利点は、高収率、極めて精製された状態、及び低リスクのウィルス汚染などの汚染において、生成物を産生することが可能であるという点である。これらの組換え技術は、原核生物細胞や真核宿主細胞において組換えタンパク質を産生するために広く用いられる。
【0005】
しかしながら、これらの技術による組換え生成物の大量産生は、これらの外因性のDNA配列の発現効率の問題、及び組み換え生成物が産生される宿主細胞による組換え生成物の細胞内分解によって、現在も制限される。加えて、精製処理における組換え生成物の分解は、問題となる場合もある。例えば、アスパラギン酸塩(Asp)及びグルタミン酸塩(Glu)の残基を生成するアスパラギニル(Asn)及びグルタミニル(Gln)の残基のアミド分解によって、ペプチド及びタンパク質の構造の構造的及び生物学的に重要となる改変を引き起こす。いくつかのタンパク質でアミド分解が自発的に発生するにもかかわらず、組換えタンパク質の発現及び精製において問題が深刻化する可能性がある(Robinson, N.E.,ら、 PNAS 98(22): 12409−12413−208, 2001; Robinson, N.E.,ら、 PNAS 98(8): 4367−4372, 2001)。更に、組換え産生されたタンパク質のアミド分解の不安定性は、長期保管後の組換えタンパク質の分解の起因となり、好ましい薬理学的製剤溶液の開発上の問題になると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、野生型FGF−21と比較して脱アミド化の程度が減少したFGF−21の突然変異タンパク質を提供することによって、組換え型タンパク質に関連する脱アミノ化の問題を解決する。出願人らは、脱アミド化が減少したFGF−21の突然変異タンパク質が、工業発酵の状態で生成され、2型糖尿病、肥満症、及びメタボリック症候群を含むがこれに限定されない障害に罹患した被検者を治療するのに有用である生物活性を維持することができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の実施形態において、本発明は、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドであって、Asn121に対するAsn又はGln以外の任意のアミノ酸置換を含み、アミノ酸の番号付けが、配列番号1に基づき、前記前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少した突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。
【0008】
本発明の第2の態様は、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドであって、アルギニン19、チロシン20、ロイシン21、チロシン22、スレオニン23、アスパラギン酸24、アスパラギン酸25、アラニン26、グルタミン27、グルタミン28、アラニン31、ロイシン33、イソロイシン35、ロイシン37、バリン41、グリシン42、グリシン43、グルタミン酸50、グルタミン54、ロイシン58、バリン62、ロイシン66、グリシン67、リジン69、アルギニン72、フェニルアラニン73、グルタミン76、アルギニン77、アスパラギン酸79、グリシン80、アラニン81、ロイシン82、グリシン84、セリン85、プロリン90、アラニン92、セリン94、フェニルアラニン95、ロイシン100、アスパラギン酸102、チロシン104、チロシン107、セリン109、グルタミン酸110、プロリン115、ヒスチジン117、ロイシン118、プロリン119、アスパラギン121、リジン122、セリン123、プロリン124、ヒスチジン125、アルギニン126、アスパラギン酸127、アラニン129、プロリン130、グリシン132、アラニン134、アルギニン135、ロイシン137、プロリン138、又はロイシン139の2個以上のアミノ酸に対するシステイン置換と共に、Asn121に対するAsn又はGln以外の任意のアミノ酸置換を含み、アミノ酸の番号付けが、配列番号1に基づき、前記前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少した突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。
【0009】
本発明の第3の態様は、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドであって、1又は複数のアミノ酸に対して、グリシン42、グルタミン54、アルギニン77、アラニン81、ロイシン86、フェニルアラニン88、リジン122、ヒスチジン125、アルギニン126、プロリン130、アルギニン131、ロイシン139、アラニン145、ロイシン146、イソロイシン152、アラニン154、グルタミン156、グリシン161、セリン163、グリシン170、又はセリン172の1又は複数のアミノ酸位置に対する荷電及び/又は極性かつ無電荷の置換と共に、Asn121に対するAsn又はGln以外の任意のアミノ酸置換を含み、アミノ酸の番号付けが、配列番号1に基づき、前記前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少した突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。
【0010】
本発明の第4の態様は、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドであって、Ser167に対するSer又はThr以外の任意のアミノ酸置換と共に、Asn121に対するAsn又はGln以外の任意のアミノ酸置換を含み、アミノ酸の番号付けが、配列番号1に基づき、前記前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少し、O型グリコシル化の能力が減少する突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。
【0011】
本発明の第5の態様は、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドであって、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Ala−Ser167Ala、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Val−Ser167Ala、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Ser−Ser167Ala、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Asp−Ser167Ala、及びLeu118Cys−Ala134Cys−Asn121Glu−Ser167Alaから選択され、アミノ酸の番号付けが、配列番号1に基づき、前記突然変異のタンパク質が野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少し、O型グリコシル化の能力が減少する突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。
【0012】
その他の実施形態は、第1、第2、第3、第4、及び第5の態様の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、及び前記ベクターを有する宿主細胞を提供する。別の実施形態はポリペチドを生成する工程であって、前記ポリペチドを産生する能力がある細胞を生成し、前記ポリペチドをコードするベクターを含むDNAを生成する工程を提供する。
【0013】
更に別の実施形態は、肥満症、2型糖尿病、インスリン耐性、高インスリン血症、グルコース不耐性、高血糖、又は代謝症候群からなる群の1又は複数を罹患する患者を治療するための方法であって、このような治療の必要がある患者に、治療上有効量の第1、第2、第3、又は第4の態様のヒトFGF−21の突然変異タンパク質を投与することを含む方法を導く。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願明細書において開示及び主張される本発明の目的のために、以下の用語が定義される。
【0015】
FGF−21は、27アミノ酸リーダー配列を含む208アミノ酸のポリペプチドである。ヒトFGF−21は、マウスFGF−21と約79%のアミノ酸相同性を示し、ラットFGF−21と約80%のアミノ酸相同性を示す。ヒトFGF−21は、本発明の突然変異タンパク質の好ましいポリペプチド鋳型であるが、当業者によって、他の哺乳類のFGF−21のポリペプチド配列に基づいて突然変異タンパク質を容易に生成できることが認識されよう。
【0016】
本発明の突然変異タンパク質のアミノ酸位置は、以下に示すように成熟ヒト181アミノ酸FGF−21のポリペプチドから決定される(配列番号1)。
【化1】

【0017】
成熟ヒト181アミノ酸FGF−21のポリペプチドをコードするDNA配列は、配列番号2である。
CACCCCATCCCTGACTCCAGTCCTCTCCTGCAATTCGGGGGCCAAGTCCGGCAGCGGTACCTCTACACAGATGATGCCCAGCAGACAGAAGCCCACCTGGAGATCAGGGAGGATGGGACGGTGGGGGGCGCTGCTGACCAGAGCCCCGAAAGTCTCCTGCAGCTGAAAGCCTTGAAGCCGGGAGTTATTCAAATCTTGGGAGTCAAGACATCCAGGTTCCTGTGCCAGCGGCCAGATGGGGCCCTGTATGGATCGCTCCACTTTGACCCTGAGGCCTGCAGCTTCCGGGAGCTGCTTCTTGAGGACGGATACAATGTTTACCAGTCCGAAGCCCACGGCCTCCCGCTGCACCTGCCAGGGAACAAGTCCCCACACCGGGACCCTGCACCCCGAGGACCAGCTCGCTTCCTGCCACTACCAGGCCTGCCCCCCGCACTCCCGGAGCCACCCGGAATCCTGGCCCCCCAGCCCCCCGATGTGGGCTCCTCGGACCCTCTGAGCATGGTGGGACCTTCCCAGGGCCGAAGCCCCAGCTACGCTTCC
アミノ酸は、3文字コード又は標準的な1文字コードを使用して示すことができる。突然変異は、元のアミノ酸の3文字コード、アミノ酸番号、置換アミノ酸の3文字コードの順で示される。各突然変異タンパク質の番号付けは、成熟野生型ヒトFGF−21の181アミノ酸配列に基づく。例えば、位置167(即ちSer167)のセリンに対する非極性/疎水性アミノ酸(アラニン(Ala))との置換は、Ser167Ala又はS167Aとして示される。位置118のロイシン及び位置134のアラニン(Leu118、Ala134)に対する硫黄を含むアミノ酸(システイン(Cys))との二置換は、Leu118Cys/Ala134Cys、L118C/A134C、又はL118C−A134Cとして示される。
【0018】
「ヒトFGF−21突然変異タンパク質」は、野生型の成熟タンパク質の少なくとも1個のアミノ酸が、別の1個のアミノ酸で置換されているヒトFGF−21を含むものと定義する。FGF−21突然変異タンパク質の例は、米国特許出願公開第60/528、582号、米国特許出願公開第60/606、805号、及び米国特許出願公開第60/606、830号に記載されており、これらは参照することにより本願明細書に援用される。一般的に、突然変異タンパク質は、野生型タンパク質のいくつかの修飾特性、修飾構造、又は修飾機能を有する。例えば、突然変異タンパク質は、有利な生理活性プロフィールを維持しながら、濃縮溶液(例えば、非疎水性の媒介された凝集)中での物理安定度を強化又は改善することができる。突然変異タンパク質は、薬理学的な防腐剤(例えば、m−クレゾール、フェノール、ベンジルアルコール)と高い親和性を有することから、貯蔵の間にタンパク質の物理化学的特質及び生物活性を維持する保存製剤の調製が可能である。酵母において発現する場合、突然変異タンパク質は、O型グリコシル化の程度を減少させることができる。突然変異タンパク質は、野生型FGF−21と比較して、脱アミド化を減少させることができる。脱アミド化の処理は、タンパク質の安定性/活性に影響を与える可能性があり、Asn又はGlnの残基において発生しうることが十分に認識された現象である。Asnの脱アミド化は発生する場合が多く、脱アミド化率は、タンパク質の第1、第2、及び第3の構造体に極めて依存する。このような脱アミド化によって、ペプチド又はタンパク質構造が構造的又は生物学的に重要な改変が生じる可能性がある。従って、野生型と比較して脱アミド化が減少した突然変異タンパク質は、生物学的な力価を維持しながら、構造的な改変を減少させる。本願明細書に使用されるこれらの用語は、限定するものではなく、得られる突然変異タンパク質が野生型タンパク質の1又は複数の修飾された特質を専ら有するとされる。
【0019】
「生物活性ペプチド」は、修飾特性及び突然変異タンパク質の生物学的な力価を維持する本発明の突然変異タンパク質のペプチドと定義する。
【0020】
「脱アミド化される又は脱アミド化」とは、タンパク質/ペプチドにおけるAsn又はGlnの残基の分解を意味する(Robinson, et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 12409−12413)。例えば、アスパラギンの脱アミド化への分子内経路は、中間体のスクシンイミドの生成を経由して、アスパラチル及びイソアスパラチルの残基が混在につながる(Harris, et al. (2001) J. of Chromatography 752:233−245)。負の改変を行う脱アミド化によって、ペプチド及びタンパク質の構造の構造的及び生物学的に重要な改変が生じ、安定性及び/又はタンパク質の活性の減少又は喪失を導く可能性がある。脱アミド化は、製剤化される治療薬の調製中にex vivoで発生し、医薬品の製造及び貯蔵に悪影響を与える可能性がある。更に、脱アミド化はin vivoで発生し、タンパク質の有効性及び作用持続時間に影響を及ぼす可能性がある。
【0021】
「治療上有効量」は、治療の利益を患者に与えるために必要な活性薬剤の最小量である。例えば、「治療上有効量」は、2型糖尿病、肥満症、若しくは代謝症候群に罹患或いは罹患する傾向がある、又は罹患を予防する患者に病理学的な症状、疾患進行、上記障害に関連した生理学的症状、或いは上記障害の罹患に対する抵抗力の改善を誘発、寛解、或いは生じさせる量である。本発明の目的において、「対象者」又は「患者」は、好ましくはヒトである。
【0022】
「2型糖尿病」は、インスリンが有効的であるにもかかわらず、過剰なグルコース産生を特徴とし、不適切なグルコースクリアランスの結果として、循環グルコースの濃度が過度に高い状態にある。
【0023】
「グルコース不耐性」は、グルコースに対する異常な過敏症と定義できる。
【0024】
「高血糖」は、血液中の糖(グルコース)が過剰量であると定義される。
【0025】
「低血糖症」(低血糖とも呼ばれる)は、血糖値の低下により身体活動のための十分なエネルギーを生成できない場合に発症する。
【0026】
「高インスリン血症」は、血液中のインスリンが正常濃度以上であると定義される。
【0027】
「インスリン耐性」は、インスリンの量は正常であるが、生物学的応答が正常以下である状態と定義される。
【0028】
「肥満症」は、ヒト被験者に関して、所定の集団の理想体重より20パーセント以上の体重である状態と定義できる(R.H. Williams, Textbook of Endocrinology, 1974, p.904−916)。
【0029】
「代謝症候群」は、以下の少なくとも3つの症候群と定義できる。
腹部脂肪−多くは男性の場合、ウエスト約101.6cm(40インチ)以上
高血糖−断食後、少なくとも110ミリグラム/デシリットル(mg/dl)
高トリグリセリド−血流中、150mg/dL以上、低HDL−40mg/dl未満、及び血圧130/85以下
【0030】
本発明は、脱アミド化が減少した突然変異タンパク質であって、脱アミド化の位置が天然型のFGF−21と比較して異なる突然変異タンパク質を提供する。本発明において特定される脱アミドの位置は、Asn121である。出願人らは、野生型FGF−21と比較して、Asn121位に対するGln又はAsnを除くアミノ酸の置換によって、発現した突然変異タンパク質の脱アミド化を有意に減少させることを発見した。
【0031】
従って、第1の好適な態様で、本発明は、ヒトFGF―21又はその生物学上活性ペプチドの突然変異タンパク質であって、Asn121位に対するGln又はAsnを除くアミノ酸の置換を含み、アミノ酸の番号付けが、配列番号1に基づき、前記前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少した突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。第1の実施形態の好ましい突然変異タンパク質は、Asn121Ala、Asn121Val、Asn121Ser、Asn121Asp、及びAsn121Gluである。
【0032】
本発明の第2の態様は、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドであって、アルギニン19、チロシン20、ロイシン21、チロシン22、スレオニン23、アスパラギン酸24、アスパラギン酸25、アラニン26、グルタミン27、グルタミン28、アラニン31、ロイシン33、イソロイシン35、ロイシン37、バリン41、グリシン42、グリシン43、グルタミン酸50、グルタミン54、ロイシン58、バリン62、ロイシン66、グリシン67、リジン69、アルギニン72、フェニルアラニン73、グルタミン76、アルギニン77、アスパラギン酸79、グリシン80、アラニン81、ロイシン82、グリシン84、セリン85、プロリン90、アラニン92、セリン94、フェニルアラニン95、ロイシン100、アスパラギン酸102、チロシン104、チロシン107、セリン109、グルタミン酸110、プロリン115、ヒスチジン117、ロイシン118、プロリン119、アスパラギン121、リジン122、セリン123、プロリン124、ヒスチジン125、アルギニン126、アスパラギン酸127、アラニン129、プロリン130、グリシン132、アラニン134、アルギニン135、ロイシン137、プロリン138、又はロイシン139の2個以上のアミノ酸に対するシステイン置換と共に、Asn121に対するGln又はAsn以外の任意のアミノ酸置換を含み、アミノ酸の番号付けが、配列番号1に基づき、前記前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少した突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。
【0033】
また、当業者によって、天然のシステイン、システイン75、及びシステイン93は座位として用いられ、特性を改善できる新規なジスルフィド結合を導入できることが認識されよう。システイン93又はシステイン75の同時変化を伴う、セリン85又はフェニルアラニン73におけるシステイン置換の各々の導入が具体的に意図され、この場合、前者の部位は、他のアミノ酸で置換される。
【0034】
Cys75−Cys93における自然由来のタンパク質に加えて、設計されたジスルフィド結合を有するFGF−21の突然変異タンパク質は、米国特許出願第60/528,582号明細書に記載されている。第2の態様で最も好ましい突然変異タンパク質は、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Asp、Leu21Cys−Leu33Cys−Asn121Asp、Ala26Cys−Lys122Cys−Asn121Asp、又はLeu21Cys−Leu33Cys/Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Aspである。
【0035】
本発明の第3の態様は、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドであって、1又は複数のアミノ酸に対して、グリシン42、グルタミン54、アルギニン77、アラニン81、ロイシン86、フェニルアラニン88、リジン122、ヒスチジン125、アルギニン126、プロリン130、アルギニン131、ロイシン139、アラニン145、ロイシン146、イソロイシン152、アラニン154、グルタミン156、グリシン161、セリン163、グリシン170、又はセリン172の1又は複数のアミノ酸位置に対する荷電及び/又は極性かつ無電荷の置換と共に、Asn121に対するAsn又はGln以外の任意のアミノ酸置換を含み、アミノ酸の番号付けが、配列番号1に基づき、前記前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少した突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。
【0036】
荷電アミノ酸は、正荷電アミノ酸又は負荷電アミノ酸と定義される。正荷電アミノ酸は、ヒスタジン、リジン、アルギニン、及びこれらの非天然発生の類似体(例えば、γアミノ酪酸、オルニチンなど)を含むと定義される。負荷電アミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びこれらの非天然発生の類似体(例えば、アミノアジピン酸)を含むと定義される。極性かつ無電荷アミノ酸は、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、及びこれらの非天然発生の類似体を含むと定義される。第3の態様の好ましい突然変異タンパク質は、Gln54Glu−Asn121Asp、Leu139Glu−Asn121Asp、Ala145Glu−Asn121Asp、Leu146Glu−Asn121Asp、Ile152Glu−Asn121Asp、Gln156Glu−Asn121Asp、Ser163Glu−Asn121Asp、及びIle152Glu−Ser163Glu−Asn121Aspである。
【0037】
本発明の第4の態様は、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドであって、Ser167に対するSer又はThr以外の任意のアミノ酸置換と共に、Asn121に対するAsn又はGln以外の任意のアミノ酸置換を含み、アミノ酸の番号付けが、配列番号1に基づき、前記前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少し、O型グリコシル化の能力が減少する突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。第4の態様の好ましい突然変異タンパク質は、Asn121Asp−Ser167Ala、Asn121Asp−Ser167Glu、Asn121Asp−Ser167Asp、Asn121Asp−Ser167Asn、Asn121Asp−Ser167Gln、Asn121Asp−Ser167Gly、Asn121Asp−Ser167Val、Asn121Asp、Ser167His、Asn121Asp−Ser167Lys、及びAsn121Asp−Ser167Tyrである。
【0038】
本発明の更なる実施形態は、ヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドであって、本発明の第1の態様、本発明の第2の態様、本発明の第3の態様、及び本発明の第4の態様の組合せを含み、前記前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少した突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドを提供する。この実施形態の好ましい突然変異タンパク質は、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Ala−Ser167Ala、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Val−Ser167Ala、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Ser−Ser167Ala Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Asp−Ser167Ala、及びLeu118Cys−Ala134Cys−Asn121Glu−Ser167Alaである。
【0039】
本発明の態様は、野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少したFGF−21の突然変異タンパク質に関するが、野生型FGF−21と比較して突然変異タンパク質の生物学的な効力を維持することも、同様に考慮すべき重要な要素である。従って、本発明の突然変異タンパク質の生物学的な効力は、in vitroにおける3T3−L1細胞アッセイ(実施例2)において測定される突然変異タンパク質のグルコース摂取に作用する能力、及び/又は、ob/obマウスアッセイ(実施例3)においてインビボで測定される血漿血糖値と血漿トリグリセライドの低下によって定義される。
【0040】
本発明に従って投与されるFGF−21の突然変異タンパク質は、当技術分野において周知の手段によって生成され、及び/又は単離されてもよい。突然変異タンパク質を生成する最も好ましい方法は、組換えDNA技法を用いるものであり、当業者に周知である。このような方法は、Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley & Sons, Inc.)に記載されており、参照として本願明細書に組み入れられる。
【0041】
加えて、好ましい実施形態は、本願明細書において記載されている突然変異タンパク質に由来する生物活性ペプチドを含む。このようなペプチドは、記載されている置換のうち少なくとも1つを含有し、突然変異タンパク質は、生物学的活性を有する。ペプチドは、当業者にとって周知の手段によって生成されてもよく、例えば、酵素消化、化学合成、又は組換えDNAの方法論を含むが、これに限定されない。
【0042】
一定の線維芽細胞成長因子のペプチドフラグメントが生物学的に活性であることは、当技術分野において確立されている。例えば、Bairdら、 Proc. Natl. Acad. Sci (USA) 85:2324−2328 (1988)、及びJ. Cell. Phys. Suppl. 5:101−106 (1987)を参照されたい。従って、突然変異タンパク質の断片又はペプチドの選択は、従来技術において周知の基準に基づく。例えば、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)は、神経ペプチド、内分泌ペプチド、及びサイトカインの不活性化に関与するセリン型プロテアーゼであることが公知である(Damme et al. Chem. Immunol. 72:42−56, (1999))。FGF−21のN末端は、DPP−IVに対する潜在的な基質となる2つのジペプチドを含み、4個のアミノ酸によってN末端で切断されているフラグメントを生じる。予想外に、この野生型FGF−21のフラグメントは、生物活性を保持することが証明されており(表1)、従って、本発明の実施形態は、本発明のいずれの態様のアミノ酸置換と共に、4個のアミノ酸(des−HPIP)によってN末端において切断されている本発明の突然変異タンパク質である。更に、出願人らは、N末端から5個以上のアミノ酸を切断すると、生物活性に否定的な影響を与えることを発見した。4個以下のアミノ酸によってN末端で切断される本発明の好ましい突然変異タンパク質は、des−HPIP−Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Asp及びdes−HPIP−Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Asp−Ser167Alaである。
【0043】
また、本発明は、上記突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドを包含し、これらは、RNAの形態又はDNAの形態であってもよく、DNAは、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAを含む。DNAは、二本鎖又は一本鎖であってもよい。本発明の突然変異タンパク質をコードするコード配列は、遺伝コードの冗長又は縮重の結果として異なっていてもよい。
【0044】
本発明の突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、突然変異タンパク質のコード配列のみ、突然変異タンパク質のコード配列と機能性ポリペプチドなどの付加的なコード配列、又はリーダー配列若しくは分泌配列或いはプロタンパク質配列、突然変異タンパク質のコード配列及び突然変異タンパク質のコード配列のイントロン又は非コード配列5’及び/又は3’などの非コード配列を含んでもよい。従って、「突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド」という用語は、突然変異タンパク質のコード配列だけでなく、付加的なコード配列及び/又は非コード配列を含むポリヌクレオチドも含むポリヌクレオチドを包含する。
【0045】
更に、本発明は、示される置換を含むポリペプチドのフラグメント、類似体、及び誘導体をコードする記載されたポリヌクレオチドの変異体にも関する。ポリヌクレオチドの変異体は、上記のヒトFGF−21の配列、非天然型の変異体、又は切断されている変異体の天然型の対立遺伝子変異体であってもよい。従って、本発明は、上記突然変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及びこのようなポリヌクレオチドの変異体も含み、変異体は、開示された突然変異タンパク質のフラグメント、誘導体、又は類似体をコードする。このようなヌクレオチド変異体は、いかなる態様に示されるアミノ酸置換のうちの少なくとも1つが存在する限り、欠失変異体、置換変異体、切断変異体、及び付加変異体又は挿入変異体を含む。
【0046】
本発明のポリヌクレオチドは、配列が発現制御配列に作動可能に結合させた後に哺乳類、細菌、真菌、又は酵母の細胞において発現することができる。これらの発現ベクターは、典型的には、エピソームとして、又は宿主染色体のDNAの必須部分として、宿主生物において複製可能である。一般に、発現ベクターは、選択マーカー、例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、及びジヒドロ葉酸還元酵素を含み、所望のDNA配列で形質転換されたこれらの細胞の検出を可能にする。本発明の突然変異タンパク質を発現するために使用される酵母細胞は、メタノール資化酵母、酵母、分裂酵母、及びピキア・アンガスタ(Pichia angust)を含む。
【0047】
酵母宿主細胞は、プロモーターなどの発現制御配列を有する適切なベクターを含み、必要であれば、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ又は他の糖分解酵素、及び複製開始点、終結配列などを含む。本発明の好ましい酵母宿主は、発現ベクターが宿主染色体DNAに組み込まれるメタノール資化酵母である。クロコウジカビ、トリコデルマ・レッセイ、及びスエヒロタケは、真菌宿主の例であるが、その他を選択して使用してもよい。
【0048】
対象となるポリヌクレオチド配列(例えば、FGF−21の突然変異タンパク質及び発現制御配列)を含むベクターを、宿主細胞の型に応じた周知の方法によって宿主細胞に移すことができる。例えば、塩化カルシウム法によるトランスフェクションは、原核細胞に対して一般的に利用されるが、他の細胞の宿主のためにリン酸カルシウムによる処置又はエレクトロポーレーションを使用してもよい。多様なタンパク質精製法を用いることができ、このような方法は当該技術分野にて周知であり、例えば、Deutscher、Method in Enzymology 182:83−9(1990)及びScopes、Protein Purification:Principles and Practice、Springer−Verlag、NY(1982)に記載されている。選択される精製工程は、例えばFGF−21の突然変異タンパク質に使用される生産プロセスの性質に依存する。
【0049】
FGF−21の突然変異タンパク質を含む組成物は、患者の臨床症状、FGF−21の突然変異タンパク質の組成物の送達部位、投与方法、投与計画、及び医師に公知の他の因子を考慮して、優れた医療に合う方法で処方及び投薬されるべきである。従って、本願明細書の目的におけるFGF−21の突然変異タンパク質の「治療上有効量」は、このような考慮によって決定される。
【0050】
FGF−21の突然変異タンパク質及び本発明の医薬組成物は、2型糖尿病、肥満症、代謝症候群の患者を治療する一般的に意図される目的を達成するいずれの手段によって投与してもよい。好ましい投与経路は、非経口であり、本願明細書において、静脈内、筋肉内、腹腔内、気管内、皮下、及び関節内への注射並びに注入を含む投与様式に言及して定義される。投与用量は、レシピエントの年齢、健康、及び重量に、平行治療の種類(もしあれば)、治療頻度、及び要求される効果の性質に依存する。本発明の範囲内の組成物は、FGF−21の突然変異タンパク質が、2型糖尿病、肥満症、又は代謝症候群の治療に対する所望の医学的効果を達成する有効量で存在する全ての組成物を含む。個々の必要性は患者によるが、本成分の全ての有効量の最適範囲の決定は、当業者である臨床医の能力の範囲内にある。
【0051】
本発明のFGF−21の突然変異タンパク質は公知の方法に従って調製され、薬理学的に有用な組成物を調製する。所望の製剤は、任意の薬理学的に許容できる担体、防腐剤、賦形剤、又は安定剤を含む適切な希釈剤又は高純度の水溶液で再構成される安定した凍結乾燥物である。[Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition (1980)]。本発明の突然変異タンパク質は、及び安定性及び投与性を許容できるように調整されたpHの薬理学的に許容できる緩衝液と組み合わせてもよい。
【0052】
一般的に、非経口投与において、FGF−21の突然変異タンパク質は、所望の純度で、注射可能な単位用量形態(溶液、懸濁液、又はエマルジョン)において、薬理学的に許容できる担体、即ち、使用用量及び使用濃度でレシピエントに対して非毒性であり、かつ、製剤の他の成分と適合する担体と共に、1又は複数の種類を混合して処方される。好ましくは、1又は複数の薬理学的に許容できる抗菌性薬剤を添加してもよい。フェノール、m−クレゾール、及びベンジルアルコールは、好ましい薬理学的に許容できる抗菌性薬剤である。
【0053】
任意的に、イオン強度又は等張力を調整するために、1又は複数の薬理学的に許容できる塩を添加してもよい。製剤の等張性を調整するために、1又は複数賦形剤を更に添加してもよい。グリセリン、塩化ナトリウム、及びマンニトールは、等張性を調整する賦形剤の例である。
【0054】
当業者は、FGF−21の突然変異タンパク質を含む治療用組成物の薬理学的な有効用量及び投与処方計画を、優れた医療及び個々の患者の臨床症状によって決定して容易に最適化することが可能である。投与されるFGF−21の突然変異タンパク質の適切な用量によって血糖値を低下させ、迅速かつ効率的なグルコース利用によってエネルギー消費を増加させると考えられるため、2型糖尿病、肥満症、及び代謝症候群を治療するのに有用となる。本発明のFGF−21タンパク質の一般的な用量は、成人に対して約0.01mg/日〜約1000mg/日である。好ましくは、約0.1mg/日〜約100mg/日、より好ましくは、約1.0mg/日〜約10mg/日である。用量は、最も好ましくは、体重当たりで約1〜5mg/日である。投与されるFGF−21の突然変異タンパク質の適切な用量によって血糖値を低下させ、迅速かつ効率的なグルコース利用によってエネルギー消費を増加させると考えられるため、2型糖尿病、肥満症、及び代謝症候群を治療するのに有用となる。
【0055】
他の態様は、医薬として使用するための、本発明のFGF−21、又はその生物活性ペプチドの突然変異タンパク質を提供する。更に別の態様は、肥満症、2型糖尿病、又はメタボリック症候群に罹患した被験者の治療用医薬を製造するための、有効量の本発明のヒトFGF−21の突然変異タンパク質、又はその生物活性ペプチドの使用を提供する。
【0056】
本発明を詳細に説明するため、以下の実施例を参照することによって明確に理解されるが、これらの実施例は、例示目的のみにおいて本願明細書に含まれ、本発明を限定することを意図しない。
【0057】
本願明細書で言及される特許及び刊行物の全てが、参照として明白に組み入れられる。
【実施例】
【0058】
実施例1
酵母におけるFGF−21の突然変異タンパク質の発現及び精製
メタノール資化酵母、メチロトローフ酵母、又は出芽酵母などの酵母においてFGF−21の突然変異タンパク質を発現させる。ピキア・パストリスにおける産生には、市販されているシステム(Invitrogen, Carlsbad, CA)によって、組換えタンパク質の高レベル発現を促進する強力なAOX1(アルコールオキシダーゼ)プロモーターを有するベクターを使用する。また、高レベルな構成的発現のために、GAP遺伝子(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)由来プロモーターを使用するベクターも利用できる。ピキアの多コピー型の発現ベクターにより、ゲノムに組み込まれる対象の遺伝子の複数のコピーをもつ株を得ることができる。組換えピキア株において対象となる遺伝子のコピーの数を増加させることにより、タンパク質発現レベルを増加することができる。更に別の酵母発現系は出芽酵母である。発現ベクターは、GAL1遺伝子由来のプロモーター及びエンハンサー配列を含む。GAL1プロモーターは、ガラクトースで誘導する際の強力な転写活性によって、最も広く使用される酵母プロモーターのうちの1つである。
【0059】
解析特性(質量スペクトル解析)は、ピキア・パストリスにおいて発現するFGF−21が切断されていることを示す(野生型のN末端における4個のアミノ酸除去)。マウス3T3−L1脂肪細胞アッセイ法(実施例2を参照されたい)においてアッセイされる場合、この切断されているFGF−21の変異体は、野生型FGF−21と同じレベルでグルコース摂取を刺激する(表1)。
【0060】
実施例2
マウス3T3−L1脂肪細胞におけるグルコース摂取
American Type Culture Collection(ATCC、Rockville、MD)から3T3−L1細胞を入手する。細胞をダルベッコ変法イーグル培地中に10%の鉄が富化したウシ胎児血清を含む増殖培地(GM)において培養する。標準的な脂肪細胞分化のために、細胞がコンフルエントとなった2日後(0日目と称す)に、細胞を10%ウシ胎児血清、10μg/mlインスリン、1μMデキサメタゾン、及び0.5μMイソブチルメチルキサンチンを含有する分化培地(DM)に48時間曝した。次いで、細胞を10%ウシ胎児血清、及び10μg/mlのインスリンを含有する後分化培地(post differentiation medium)中で維持した。
【0061】
グルコース輸送アッセイ法−0.1mMの2−デオキシ−D−[14C]グルコースの蓄積によってアッセイされるヘキソース摂取は、以下のとおりに測定される。12ウェルプレート内の3T3−L1脂肪細胞を37℃に温めて、0.2%のBSAを含むKRP緩衝液(136mM NaCl、4.7mM KCl、10mM NaPO4、0.9mM CaCl、0.9mM MgSO、pH7.4)で2回洗浄し、0.2%のBSAを含むLeibovitzのL−15培地において大気中37℃で2時間インキュベートし、0.2%のBSA緩衝液を含むKRPで再び2回洗浄し、KRP、0.2%のBSA緩衝液中で、Wortmanninの非存在下(MeSOのみ)又は存在下において大気中37℃で30分間インキュベートする。次いで、インスリンを100nMの終濃度となるように15分かけて添加し、2−デオキシ−D−[14C]グルコースの摂取を最後の4分間測定する。10μMサイトカラシンBの存在下で測定した非特異的取り込みを、全ての値から減算した。タンパク質濃度は、Pierceのビシンコニン酸によるアッセイ法で決定する。摂取量は、各実験について3回又は4回、定期的に測定する。
【0062】
本発明のFGF−21の突然変異タンパク質のin vitroにおける能力を表1の野生型FGF−21と比較する。表1に示すように、本発明の突然変異タンパク質は、野生型FGF−21と比較して様々な生物学的な効力を維持した。
【0063】
【表1】

*N末端の4個のアミノ酸によって切断されている
** EC50 WT/EC50突然変異タンパク質
【0064】
実施例3
ob/obマウスモデル
雄ob/obマウスを使用した肥満症モデルにおける実験を行い、媒体及びインスリン対照群と比較して、FGF−21で処置した後の血漿グルコースレベル及びトリグリセリドレベルを観察する。雄ob/obマウス(7週間目)の試験群には、媒体(0.9%のNaCl)のみ、又は、FGF−21の突然変異タンパク質(0.125mg/kg)(0.1mL、毎日一回)を皮下に7日間注射した。7日目の化合物を最後に注射した1時間後に断尾して採血し、標準的なプロトコルを使用して血漿グルコースレベルを測定した。媒体対照と比較して、血漿グルコースレベルを低下させるFGF−21の突然変異タンパク質の能力を本モデルによって示す。媒体対照と比較して、血漿グルコースレベルを低下させるFHF−21の突然変異タンパク質の能力を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
実施例4
FGF−21の突然変異タンパク質の脱アミド化
FGF−21の突然変異タンパク質Leu118Cys−Ala134Cys−Ser167Alaの溶液安定性の実験を、様々なpH及び温度範囲で様々な溶媒状態下において実施する。pH6−8のPBSにける25℃で4週間貯蔵した場合、7.5%を超える分解が観察される。脱アミド化の程度を、少なくとも7つの別々のピークを示す逆相クロマトグラフィで測定する。LC/MS/MSによって分解生成物を分析し、主な分解生成物は、脱アミド化された分子(Asn121)と特定される。5℃の溶液における18ヵ月の貯蔵後、ほぼ19.4%の分解が観察される。
【0067】
脱アミド化が発生すると、Asn121は、Asp121又はIsoAsp121に変換される。IsoAsp121は非天然型のアミノ酸であるため、Asn121より好ましくないPKを有する場合がある。このように、Asn又はGln以外の天然由来のアミノ酸はAsn121で置換され、その結果、野生型FGF−21より脱アミド化が減少した突然変異タンパク質となるが、Asnにおける脱アミド化と比較して、Glnの脱アミド化が低い割合で発生すると認識される。Asn121に対する置換は、精製処理におけるFGF−21の化学的な不安定性を改善するのみならず、長期貯蔵において安定した医薬溶液製剤、本発明のFGF−21の突然変異タンパク質の多用途の医薬溶液製剤のための重要な態様を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチドであって、Asn121に対するAsn又はGln以外の任意のアミノ酸置換を含み、アミノ酸の番号付けが配列番号1に基づき、前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少した、突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチド。
【請求項2】
前記突然変異タンパク質が、Asn121Ala、Asn121Val、Asn121Ser、Asn121Asp、及びAsn121Gluからなる群から選択される、請求項1に記載の突然変異タンパク質。
【請求項3】
ヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチドであって、アルギニン19、チロシン20、ロイシン21、チロシン22、スレオニン23、アスパラギン酸24、アスパラギン酸25、アラニン26、グルタミン27、グルタミン28、アラニン31、ロイシン33、イソロイシン35、ロイシン37、バリン41、グリシン42、グリシン43、グルタミン酸50、グルタミン54、ロイシン58、バリン62、ロイシン66、グリシン67、リジン69、アルギニン72、フェニルアラニン73、グルタミン76、アルギニン77、アスパラギン酸79、グリシン80、アラニン81、ロイシン82、グリシン84、セリン85、プロリン90、アラニン92、セリン94、フェニルアラニン95、ロイシン100、アスパラギン酸102、チロシン104、チロシン107、セリン109、グルタミン酸110、プロリン115、ヒスチジン117、ロイシン118、プロリン119、アスパラギン121、リジン122、セリン123、プロリン124、ヒスチジン125、アルギニン126、アスパラギン酸127、アラニン129、プロリン130、グリシン132、アラニン134、アルギニン135、ロイシン137、プロリン138、又はロイシン139の2個以上のアミノ酸に対するシステイン置換と共に、Asn121に対するAsn又はGln以外の任意のアミノ酸置換を含み、そのアミノ酸の番号付けは配列番号1に基づき、前記突然変異タンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少した、突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチド。
【請求項4】
前記突然変異タンパク質が、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Asp、Leu21Cys−Leu33Cys−Asn121Asp、Ala26Cys−Lys122Cys−Asn121Asp、又はLeu21Cys−Leu33Cys/Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Aspからなる群から選択される、請求項3に記載の突然変異タンパク質。
【請求項5】
ヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチドであって、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Ala−Ser167Ala、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Val−Ser167Ala、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Ser−Ser167Ala、Leu118Cys−Ala134Cys−Asn121Asp−Ser167Ala、及びLeu118Cys−Ala134Cys−Asn121Glu−Ser167Alaからなる群から選択され、そのアミノ酸の番号付けは配列番号1に基づき、前記突然変異のタンパク質は野生型ヒトFGF−21と比較して脱アミド化が減少し、酵母において発現する場合、O型グリコシル化の能力が減少する、突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチド。
【請求項6】
前記突然変異タンパク質が、4個以下のアミノ酸によってN末端で切断されている、請求項1〜5のいずれかに記載の突然変異タンパク質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、単離された核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の発現ベクターによって安定にトランスフェクトされた宿主細胞であって、前記宿主細胞が、前記核酸によってコードされるヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチドを発現させる、宿主細胞。
【請求項10】
ヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチドを生成する方法であって、前記突然変異タンパク質の発現に適している条件下において請求項9に記載の宿主細胞を培養することと、前記細胞の培養から前記突然変異タンパク質を回収することと、を含む方法。
【請求項11】
(a)請求項1〜6のいずれかに記載のヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチドと、(b)薬理学的に許容できる担体と、を含む、医薬組成物。
【請求項12】
肥満症、2型糖尿病、又はメタボリック症候群を治療する方法であって、それを必要とする患者に、治療上有効量の請求項1〜6のいずれかに記載のヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチドを投与することを含む、方法。
【請求項13】
医薬として使用するための、請求項1〜6のいずれかに記載のヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチド。
【請求項14】
肥満症、2型糖尿病、又はメタボリック症候群の患者の治療用医薬を製造するための、請求項1〜6のいずれかに記載の有効量のヒトFGF−21の突然変異タンパク質又はその生物活性ペプチドの使用。

【公表番号】特表2008−522617(P2008−522617A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545564(P2007−545564)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/044116
【国際公開番号】WO2006/065582
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】