説明

締結構造

【課題】制振部材に対して直交二軸方向の予荷重を掛けた状態で二つの部材を締結し、圧縮方向にのみならず剪断方向での制振効果に優れた締結構造を提供する。
【解決手段】互いに連結される二つの部材の間に制振合金からなる制振部材を介在させた状態でこれら二つの部材を締結する締結構造であって、前記二つの部材の少なくともいずれか一方に、前記制振部材を圧縮させる圧入代をもって嵌合させる圧入部が形成され、その圧入部に前記制振部材の一部を圧入した状態で前記二つの部材が前記制振部材を介在させて締結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制振合金を介在させて二つの部材を締結する締結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、振動伝達経路に制振材料を挿入して経路途中での振動伝達感度の低減を図る技術は公知となっている。また、制振合金などの制振材料の減衰能には静的歪依存性があり、高い減衰性能のもとで制振材料を使用するためには予め最適な静的歪量を与えておく(予荷重をかけておく)必要があることもすでに知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているハブユニットでは、振動吸収部の内周面及び外周面の少なくともいずれかが、外輪の外周面及び嵌合孔の内周面の少なくともいずれかに嵌合圧着する筒状に形成されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−306382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載されているように、制振合金を介在させてハブを車軸ケースに取り付ける場合、円筒状に形成した制振合金をその半径方向に加圧した状態で車軸ケースに嵌合させ、あるいは円筒部の端部に形成されたフランジ部をその厚さ方向に加圧した状態で車軸ケースに取り付け、このような制振合金を介して軸受などの他の部材を取り付けている。これは、制振合金の振動減衰能が静的歪依存性があることに起因しており、いわゆる予荷重を掛けておくことにより高い制振特性を生じさせるためである。しかしながら、特許文献1に記載されているように、従来では、制振合金からなる制振部材の厚さ方向に予荷重を掛けるなど、一方向に予荷重を掛けるのが一般的である。そのため、例えばボルトによって締結する場合、ボルトの軸線方向に予荷重を掛けることができるが、そのボルトによって締結された二つの部材が、ボルトに対して直角な面の方向に振動する場合、制振部材には予荷重が掛かっていない方向に振動による荷重が作用するので、制振部材の示す振動減衰能が低いものとなり、効果的な制振を行えない可能性がある。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、制振部材に対して直交二軸方向の予荷重を掛けた状態で二つの部材を締結し、圧縮方向にのみならず剪断方向での制振効果に優れた締結構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、互いに連結される二つの部材の間に制振合金からなる制振部材を介在させた状態でこれら二つの部材を締結する締結構造において、前記二つの部材の少なくともいずれか一方に、前記制振部材を圧縮させる圧入代をもって嵌合させる圧入部が形成され、その圧入部に前記制振部材の一部を圧入した状態で前記二つの部材が前記制振部材を介在させて締結されていることを特徴とする締結構造である。
【0008】
請求項2の発明は、前記制振部材は、それぞれ制振合金からなり、かつ相互に半径方向に予荷重が生じるように圧入代をもって圧入された内周側部材と外周側部材とによって少なくとも二重構造に構成されていることを特徴とする締結構造である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、二つの部材の間に介在された制振合金からなる制振部材には、それら二つの部材を締結することによる荷重で圧縮力が予荷重として作用する。また、その制振部材は少なくとも一方の部材に対して、圧入代をもって圧入されているので、圧縮方向とは直角な方向すなわち剪断方向に予荷重が付与される。したがって圧縮方向と剪断方向との二方向に予荷重が掛けられ、その予荷重に応じた減衰能を示すので、剪断方向での振動をも減衰させ、ひいては前記二部材の制振を効果的に行うことができる。
【0010】
また、請求項2の発明によれば、制振部材自体が、内周側部材と外周側部材との圧入より剪断方向の予荷重を生じさせているので、これを上記の二部材の間に介在させ、かつ少なくとも一方の部材に圧入することにより、剪断方向の予荷重を更に増大させ、優れた減衰能を生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎにこの発明を具体的に説明する。この発明の締結構造の例を図1に模式的に示してある。図1は、この発明の締結構造を示す概略断面図である。図1において、締結構造1は、所定の部材2と他の部材3とを締結するボルト4によって挟み付けて締結されている。この所定の部材2は、たとえば金属製からなる振動を伝達し易い部材である。また他の部材3も同様に、たとえば金属製からなる振動を伝えやすい部材である。そして、これら所定の部材2と他の部材3とはある一定の間隔をあけて配置されている。この所定の部材2と他の部材3とはボルト4によって締結されている。そして、このボルト4によって締結される所定の部材2と他の部材3との締結する部分には、圧入代をもって嵌合させる嵌合凹部5が設けられている。この嵌合凹部5には、制振合金からなる制振部材6が最適な静的歪量となるように前記二つの部材2,3を締結することによる荷重で圧縮力が予荷重7として作用する。ここで制振合金は、従来より知られている合金材料固有の内部摩擦減衰機構に基づき振動を減衰させる合金からなっている。
【0012】
そして、前記各部材2,3あるいはその少なくとも一方の部材と制振部材6とを締結する部分に嵌合凹部5が設けられている。この嵌合凹部5は、ボルト4の軸方向4aに設けられると同時に所定の部材2と他の部材3の締結する部分にも設けられるが、その位置は前記所定の部材2の剪断方向2aであり、また他の部材3の剪断方向3aである。この圧入代5を介してボルト4の軸方向4aと前記各部材2,3の剪断方向2a,3aの2方向に亘るように制振部材6が予荷重7を加えられながら前記各部材2,3あるいはその少なくとも一方の部材の間に挿入されている。そして、制振部材6は、ボルト4の軸方向4aと前記各部材2,3との剪断方向2a,3aから矢印(図面)のごとく予荷重7がかけられているので制振性能を向上させることができる。そして、この状態で所定の部材2から他の部材3に振動が伝わる場合、制振合金からなる制振部材6のボルト4の軸方向4aとその軸方向4aと直角の剪断方向3aとは、制振部材6が予荷重7を掛けられているので直交二軸方向の振動減衰能が高く図2に示すごとく制振効果の最適歪量となるように設定される。これにより所定の部材2から他の部材3に振動が伝わる場合には最適歪量の制振部材6がボルト4の軸方向4aとその軸方向4aと直角の剪断方向3aである直交二軸方向で振動を減衰させることができる。
【0013】
図3および図4は、この発明の第2実施例を示す概略断面図および概略斜視図である。各図に示すように、前記第1の実施例で説明した部分と同じ部分は同じ符号を付して詳細な説明を省略する。前記第1の実施例にある締結構造1の1重の嵌合凹部5では十分な歪量を確保できずに制振部材6の各部材2,3の剪断方向2a,3aの歪量が十分でないなどの場合に、制振部材6を2重構造とし、それに伴い嵌合凹部5を2重に設けられている。この2重に設けられる嵌合凹部5の内側の嵌合凹部5の位置は、図4に示すように円盤形状の締結構造1の回転中心軸8から所定の間隔をあけて嵌合凹部5aが設けられている。この嵌合凹部5aを境部9として内周側部材(半径方向内側)の制振部材6aが圧入される。そして、この境部9の半径方向の外側には外周側部材(半径方向外側)である制振部材6bが圧入されていて、これにより制振部材6が2重構造となっている。このように、制振部材6は2重構造に形成されるために制振性能がより向上させることができる。そして、核となる中心側の制振部材6aと、その周りの制振部材6bとの境部9に予荷重7をかけることにより、制振部材6の歪量を増大させ、さらに制振性能を向上させることができる。そして、この状態で所定の部材2から他の部材3に振動が伝わる場合、制振合金からなる制振部材6のボルト4の軸方向4aとその軸方向4aと直角の剪断方向3aとは、制振部材6が予荷重7を掛けられているので直交二軸方向の振動減衰能が高く制振効果の最適歪量となるように設定される。これにより所定の部材2から他の部材3に振動が伝わる場合には最適歪量の制振部材6がボルト4の軸方向4aとその軸方向4aと直角の剪断方向3aである直交二軸方向で振動を減衰させることができる。
【0014】
また、締結構造1は前記の実施例に限定されず、たとえば中心側の制振部材6aの予荷重7を相対的に強くかけて、その周りの制振部材6bの予荷重7を相対的に弱くかけて、内側と外側で強弱のある制振部材6で構成される締結構造1とすることもできる。または、反対に中心側の制振部材6aの予荷重7を相対的に弱くかけて、その回りの制振部材6bの予荷重7を相対的に強くかける制振部材6で構成される締結構造1とすることもできる。
【0015】
さらに、締結構造1を構成する制振部材6は前記実施例に限定されず、その回転中心軸8から半径方向にさらに3重となる構成にしたり、または4重となる構成にしたりと、幾重にも構成させることができる。そして、それに伴う効果は、さらなる制振性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一例を模式的に示す概略断面図である。
【図2】この発明の減衰能の最適歪量を示す図である。
【図3】この発明の他の実施例を模式的に示す概略断面図である。
【図4】この発明の他の実施例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0017】
1…締結構造、 2…所定の部材、 2a…剪断方向、 3…他の部材、 3a…剪断方向、 4…ボルト、 4a…軸方向、 5…嵌合凹部、 5a…嵌合凹部、 6…制振部材、 6a…制振部材、 6b…制振部材、 7…予荷重、 8…回転中心軸、 9…境部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに連結される二つの部材の間に制振合金からなる制振部材を介在させた状態でこれら二つの部材を締結する締結構造において、
前記二つの部材の少なくともいずれか一方に、前記制振部材を圧縮させる圧入代をもって嵌合させる圧入部が形成され、その圧入部に前記制振部材の一部を圧入した状態で前記二つの部材が前記制振部材を介在させて締結されていることを特徴とする締結構造。
【請求項2】
前記制振部材は、それぞれ制振合金からなり、かつ相互に半径方向に予荷重が生じるように圧入代をもって圧入された内周側部材と外周側部材とによって少なくとも二重構造に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の締結構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate