説明

編構造モデル生成プログラム、編構造モデル生成装置、及び編構造モデル生成方法

【課題】編構造がリアルに再現された経編物の3次元モデルを生成することができる編構造モデル生成プログラム、編構造モデル生成装置、及び編構造モデル生成方法を提供する。
【解決手段】初期モデル生成部160は、経編物の経方向の1列の糸経路を示す糸経路情報及び糸経路情報により示される1列の糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報に従って、仮想3次元空間内に糸経路を折れ線で表した経編物の初期モデルを生成する。位置修正部170は、前記初期モデルを構成する糸経路上の特徴的な位置に糸の質点を設定し、現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点を接続することにより経編物の力学モデルを生成し、各質点の位置を修正する。3次元モデル生成部180は、位置が修正された質点に接続されるエッジによって示される糸経路に糸表面を表す面を形成し、前記経編物の3次元モデルを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経編の編物の3次元モデルを生成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータグラフィックスの分野では、織物や編物といったファブリックの微細構造を仮想3次元空間内でモデリングしてファブリックの3次元モデルを生成し、この3次元モデルを用いて衣服のシミュレーションを行う試みがなされている。
【0003】
非特許文献1には、NURBS(非一様有理Bスプライン;Non-Uniform Rational B-Spline)により、経編の編物(経編物)の基本的な形状を3次元的に再現した3次元モデルを生成する手法が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、トリコット地やラッセル地のような複雑な経編地を、編機で編む前にパソコン上でその編み上がり状態を具体的に視ることができる装置が開示されている。
【非特許文献1】“Goketepe.O,Harlock.SC”,Three-Dimensional Computer modeling of warp knitted structures, Textile Research Journal,Mar2002(”ゴケテペ・ハーロック、経編構造の3Dコンピュータモデリング”、2002年3月テキスタイルリサーチジャーナル)
【非特許文献2】「経編用組織展開ツールの開発」、吉田勝紀、http://kouryu.pref.fukui.jp/research/g/jp/sen12.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1の手法では、経編物を構成する現物の糸の力学的特性を何ら考慮することなく経編物の3次元モデルが生成されており、経編物の構造をリアルに再現することができないという問題があった。また、非特許文献2の手法は、経編物の2次元モデルを生成するものであり、3次元モデルを生成することはなされていない。
【0006】
本発明の目的は、編構造がリアルに再現された経編物の3次元モデルを生成することができる編構造モデル生成プログラム、編構造モデル生成装置、及び編構造モデル生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による編構造モデル生成プログラムは、仮想3次元空間に経編物の編構造モデルを生成する編構造モデル生成プログラムであって、前記経編物の経方向の糸経路を示す糸経路情報を取得する経路情報取得手段と、前記糸経路情報により示される糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報を取得する配列情報取得手段と、前記糸経路情報及び前記配列情報に従って、前記仮想3次元空間内に前記糸経路を折れ線で表した前記経編物の初期モデルを生成する初期モデル生成手段と、前記初期モデルを構成する糸経路上の特徴的な位置に糸の質点を設定し、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点を接続することにより経編物の力学モデルを生成し、各質点の運動方程式を解くことにより各質点の位置を修正する位置修正手段と、前記位置修正手段により位置が修正された質点に接続されるエッジによって示される糸経路に糸表面を表す面を形成し、前記経編物の3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明による編構造モデル生成装置は、仮想3次元空間に経編物の編構造モデルを生成する編構造モデル生成装置であって、前記経編物の経方向の糸経路を示す糸経路情報を取得する経路情報取得手段と、前記糸経路情報により示される糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報を取得する配列情報取得手段と、前記糸経路情報及び前記配列情報に従って、前記仮想3次元空間内に前記糸経路を折れ線で表した前記経編物の初期モデルを生成する初期モデル生成手段と、前記初期モデルを構成する糸経路上の特徴的な位置に糸の質点を設定し、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点を接続することにより経編物の力学モデルを生成し、各質点の運動方程式を解くことにより各質点の位置を修正する位置修正手段と、前記位置修正手段により位置が修正された質点に接続されるエッジによって示される糸経路に糸表面を表す面を形成し、前記経編物の3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段とを備えることを特徴とする(請求項11)。
【0009】
本発明による編構造モデル生成方法は、仮想3次元空間に経編物の編構造モデルを生成する編構造モデル生成方法であって、コンピュータが、前記経編物の経方向の糸経路を示す糸経路情報を取得するステップと、コンピュータが、前記糸経路情報により示される糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報を取得するステップと、コンピュータが、前記糸経路情報及び前記配列情報に従って、前記仮想3次元空間内に前記糸経路を折れ線で表した前記経編物の初期モデルを生成するステップと、コンピュータが、前記初期モデルを構成する糸経路上の特徴的な位置に糸の質点を設定し、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点を接続することにより経編物の力学モデルを生成し、各質点の運動方程式を解くことにより各質点の位置を修正するステップと、コンピュータが、前記位置修正手段により位置が修正された質点に接続されるエッジによって示される糸経路に糸表面を表す面を形成し、前記経編物の3次元モデルを生成するステップとを備えることを特徴とする(請求項12)。
【0010】
これらの構成によれば、経編物の経方向の糸経路を示す糸経路情報が取得され、糸経路情報により示される糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報が取得される。そして、糸経路情報が示す糸経路と配列情報が示す配列位置とに従って、仮想3次元空間内に糸経路を折れ線で表した経編物の初期モデルが生成され、初期モデルを構成する糸経路上の特徴的な位置に糸の質点が設定され、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点が接続されて経編物の力学モデルが生成され、各質点の運動方程式を解くことにより各質点の位置が修正され、位置が修正された質点に接続されるエッジよって示される糸経路に糸表面を表す面が形成され、経編物の3次元モデルが生成される。
【0011】
すなわち、現物の糸の力学的特性が運動方程式に取り込まれ、この運動方程式を解くことにより経編物の3次元モデルが生成されているため、編構造がリアルに再現された経編物の3次元モデルを生成することができる。
【0012】
また、前記経編物は、前記経方向と前記緯方向とに直交する高さ方向に積層された複数の経編層から構成され、前記糸経路情報は、各経編層における経方向の1列の糸経路を示し、前記配列情報は、前記糸経路情報により示される糸経路の各経編層における緯方向の配列位置を示すことが好ましい(請求項2)。
【0013】
この構成によれば、経方向と緯方向とに直交する高さ方向に積層された複数の経編層からなる経編物の経編モデルを生成することができる。
【0014】
また、前記糸経路は、経方向に一定間隔で配列された複数のループと、各ループを糸経路に沿って蛇行するように繋ぐブリッジとから構成されるノーマルラップを含み、前記糸経路情報は、各ループ上の2つの端点を示す第1及び第2の端点の緯方向における位置を示す第1及び第2の位置データを、糸経路に沿って順次配列することで前記ノーマルラップを表すことが好ましい(請求項3)。
【0015】
この構成によれば、ユーザは、各ループ上の特徴的な2つの位置を示す第1及び第2の端点の緯方向における位置を示す第1及び第2の位置データを糸経路に沿って配列するという簡便な入力操作を行うだけで、糸経路情報を入力することができる。
【0016】
また、前記第1の位置データは、前記第2の位置データよりも糸経路の上流側に位置し、前記ノーマルラップの糸経路情報は、注目する第1のループ及び前記第1のループよりも糸経路の下流側に位置する第2のループ間を繋ぐ注目ブリッジの緯方向における糸経路の方向と、前記第1のループを構成する第1の端点から第2の端点に向かうベクトルの方向とが同一方向である場合、前記第1のループを開き目とし、前記注目ブリッジの緯方向における糸経路の方向と、前記第1のループを構成する第1の端点から第2の端点に向かうベクトルの方向とが反対方向である場合、前記第1のループを閉じ目とすることを特徴とが好ましい(請求項4)。
【0017】
この構成によれば、第1及び第2の位置データの配列順序を変えることで、開き目と閉じ目とを表すことができる。
【0018】
また、前記経編物を構成する各糸経路の色を示す色情報を取得する色情報取得手段を更に備え、前記初期モデル生成手段は、前記色情報に従って各糸経路の色を設定することが好ましい(請求項5)。
【0019】
この構成によれば、ユーザにより設定された色情報に従って、経編物を構成する各糸経路の色を設定することができる。
【0020】
また、前記力学モデルは、糸の太さを考慮しない粗力学モデルと糸の太さを考慮した密力学モデルとを含み、前記位置修正手段は、各質点の位置が所定範囲内に収束するまでは、前記粗力学モデルを用い、各質点の位置が前記所定範囲内に収束した後は、前記密力学モデルを用いることが好ましい(請求項6)。
【0021】
この構成によれば、運動方程式の解が所定範囲内に収束するまでは、粗力学モデルを用いて質点の位置が修正され、運動方程式の解が所定範囲内に収束した後は、密力学モデルを用いて質点の位置が修正されるため、位置の修正を修正する処理を高速、かつ高精度に行うことができる。
【0022】
また、前記力学特性は、糸に加わる張力と前記張力による糸の伸びとの関係を示す糸の伸張特性を含み、前記粗力学モデルは、糸経路の屈曲部位に配置された1個の質点と、各質点を糸経路に沿って接続するエッジとによって構成され、前記エッジはバネ成分を含み、前記バネ成分は弾性係数が前記伸張特性によって定められていることが好ましい(請求項7)。
【0023】
この構成によれば、経編物の構造をある程度リアルに再現することができる。
【0024】
前記力学特性は、前記伸張特性に加えて、糸に加わる張力と前記張力による糸径との関係を示す糸径特性、及び交差する糸の交差点において糸に加わる張力と前記張力による糸径との関係を示す交差伸張特性を含み、前記密力学モデルは、各屈曲部位に配置された第1〜第3の質点と、前記第1〜第3の質点間を繋ぐ第1〜第7のエッジとを備え、前記第1のエッジは、注目する第1の屈曲部位から一方に延びる糸経路の径方向に沿って配置され、前記第2のエッジは、前記第1の屈曲部位から他方に延びる糸経路の径方向に沿って配置され、前記第1の質点は、糸経路の内周側であって、前記第1及び第2のエッジの一端を繋ぐように配置され、前記第2及び第3の質点は、糸経路の外周側であって、前記第1及び第2のエッジの他端に配置され、前記第3のエッジは、前記第2及び第3の質点間を繋ぐように配置され、前記第4のエッジは、前記第1の屈曲部位における第1の質点と、前記第1の屈曲部位から一方に延びる糸経路に沿って隣接する屈曲部位である第2の屈曲部位における第1の質点とを繋ぐように配置され、前記第5のエッジは、前記第1の屈曲部位における第2の質点と、前記第2の屈曲部位における第2の質点とを繋ぐように配置され、前記第6のエッジは、前記第1の屈曲部位における第1の質点と、前記第1の屈曲部位から他方に延びる糸経路に沿って隣接する屈曲部位である第3の屈曲部位における第1の質点とを繋ぐように配置され、前記第7のエッジは、前記第1の屈曲部位における第3の質点と、前記第3の屈曲部位における第3の質点とを繋ぐように配置され、前記第1及び第2のエッジは、初期長が前記糸径特性によって定められた第2のバネ成分を含み、前記第3のエッジは、初期長が前記交差伸長特性によって定められた第3のバネ成分を含み、前記第4〜第7のエッジは、弾性係数が前記伸張特性によって定められた第1のバネ成分を含むことが好ましい(請求項8)。
【0025】
この構成によれば、糸の太さを考慮した経編物の力学モデルをリアルに再現することができる。
【0026】
また、前記糸経路は、前記ブリッジが前記ループを介さずに前記経方向に向けて蛇行するように接続されたブラインドラップを含み、前記ノーマルラップを構成するループは、水平面とほぼ平行に配列され、前記ノーマルラップを構成するブリッジは、水平面とほぼ直交する方向に延びた2本の脚部と、2本の脚部の上端を水平面とほぼ平行な方向で繋ぐ天井部とから構成され、前記ブラインドラップを構成するブリッジは、水平面とほぼ平行であり、前記初期モデル生成手段は、前記ブラインドラップを構成する注目する第1のブリッジと前記第1のブリッジの一端に接続された第2のブリッジとによって囲まれる3角形の内部領域に、前記脚部が存在する場合、前記3角形の内部領域に存在する脚部のうち、前記第1及び第2のブリッジの接続点に最も近い脚部を特定し、特定した脚部と、前記第1及び第2のブリッジの接続点とを接続することが好ましい(請求項9)。
【0027】
この構成によれば、ブラインドラップを構成する注目する第1のブリッジと第1のブリッジの一端に接続された第2のブリッジとによって囲まれる3角形の内部領域に、脚部が存在する場合、3角形の内部領域に存在する脚部のうち、第1及び第2のブリッジの接続点に最も近い脚部が第1及び第2のブリッジの接続点と接続されるため、ブラインドラップをノーマルラップに違和感なく拘束させることができる。
【0028】
前記位置修正手段は、前記ブラインドラップを構成するブリッジ同士の接続点に質点を設定し、前記運動方程式を解くことが好ましい(請求項10)。
【0029】
この構成によれば、ブラインドラップを構成するブリッジ同士の接続点に質点が設定されて運動方程式が解かれるため、ノーマルラップによってブラインドラップを拘束することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、編構造がリアルに再現された経編物の3次元モデルを生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、本編構造モデル生成装置がモデリング対象とする現物の経編物の編構造を示した図である。図1に示すように経編物は、ほぼ「コ」文字形状のループL(L1〜L3)と、ループ同士を接続するほぼ「コ」文字形状のブリッジBr(Br1〜Br3)とから構成されている。図1に示す経編物においては、ブリッジBr1は、ループL1の右端から延び、ループL1の内側を潜って、ループL1の上側に位置するループL2と繋がっている。また、ブリッジBr3は、ループL1の左端から延び、ループL1の左斜め下に位置するループL3の左端と繋がっている。また、ブリッジBr2は、ループL2の左端から延び、ループL2の左斜め上に位置するループ(図略)と接続されている。
【0032】
図2は、本編構造モデル生成装置が生成対象とする経編物の編構造を立体的に示した模式図であり、(a)はトリコットと呼ばれる片面多層構造の経編物の編構造を示し、(b)は2層構造トリコットの編構造を示している。図(a)、(b)に示すように、ループL1〜L4は水平面と平行に配列され、ブリッジBr1〜Br4は水平面とほぼ直交する方向に延びた2本の脚部ASと、2本の脚部ASの上端を、水平面とほぼ平行な方向で繋ぐ天井部HTとから構成されている。
【0033】
図2(a)、(b)に示すループL1〜L4は千鳥状に緯方向の位置をずらしながら経方向に連続して配列され、ループL1及びL2間がブリッジBr1により接続され、ループL2及びループL3間がブリッジBr2により接続され、ループL3及びループL4間がブリッジBr3により接続されている。
【0034】
図2(b)に示す両面多層構造の経編物は、トリコットからなる2枚の経編層が積層された構造を有している。図2(b)に示す経編物においては、図略の一方の経編層から延びる糸T1が、図示する他方の経編層を構成するループL4と重なると共に、一方の経編層から延びる糸T2が他方の経編層を構成するループL2と重なることで、2つの経編層が連結されていることが分かる。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態による編構造モデル生成装置のハードウェア構成を示すブロック図である。本編構造モデル生成装置は、通常のコンピュータ等から構成され、入力装置1、ROM(リードオンリメモリ)2、CPU(中央演算処理装置)3、RAM(ランダムアクセスメモリ)4、外部記憶装置5、表示装置6、及び記録媒体駆動装置7を備える。各ブロックは内部のバスに接続され、このバスを介して種々のデータ等が入出され、CPU3の制御の下、種々の処理が実行される。
【0036】
入力装置1は、キーボード、マウス等から構成され、ユーザが種々のデータを入力するために使用される。ROM2には、BIOS(Basic Input/Output System)等のシステムプログラムが記憶される。外部記憶装置5は、ハードディスクドライブ等から構成され、所定のOS(Operating System)及び編構造モデル生成プログラム等が記憶される。CPU3は、外部記憶装置5からOS等を読み出し、各ブロックの動作を制御する。RAM4は、CPU3の作業領域等として用いられる。
【0037】
表示装置6は、液晶表示装置等から構成され、CPU3の制御の下に種々の画像を表示する。記録媒体駆動装置7は、CD−ROMドライブ、フレキシブルディスクドライブ等から構成される。
【0038】
なお、編構造モデル生成プログラムは、CD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体8に格納されて市場に流通される。ユーザはこの記録媒体8を記録媒体駆動装置7に読み込ませることで、編構造モデル生成プログラムをコンピュータにインストールする。また、編構造モデル生成プログラムをインターネット上のサーバに格納し、このサーバからダウンロードすることで、編構造モデル生成プログラムをコンピュータにインストールしてもよい。
【0039】
図4は、図3に示す編構造モデル生成装置の機能ブロック図を示している。編構造モデル生成装置は、処理部100、記憶部200、入力部300、及び表示部400を備えている。処理部100は、CPU3から構成され、経路情報取得部110、配列情報取得部120、糸情報取得部(色情報取得手段)130、特性取得部140、バネ特性算出部150、初期モデル生成部160、位置修正部170、3次元モデル生成部180、及び表示制御部190の機能を備える。これらの機能はCPU3が編構造モデル生成プログラムを実行することで実現される。
【0040】
経路情報取得部110は、入力部300により受け付けられたユーザからの操作入力に従って、モデリングの対象となる経編物の経方向の1列の糸経路を示す糸経路情報を取得する。本実施の形態においては、糸経路はノーマルラップとブラインドラップとを含む。ノーマルラップは、図1及び2に示すように、経方向に一定間隔で配列された複数のループLと、各ループを糸経路の方向に従って蛇行するように繋ぐブリッジBrとから構成される。ブラインドラップは、ノーマルラップのブリッジBrにおいて、2本の脚部ASが存在しないブリッジがループLを介さずに経方向に向けて蛇行するように接続された構成を有している。図16は、ブラインドラップの立体的な編構造の模式図である。図16に示すように、ブラインドラップは、ブラインドラップを構成するブリッジBBr同士の接続点BPがノーマルラップのブリッジBrの脚部ASにひっかかるような糸経路を有している。
【0041】
図5は、ノーマルラップの糸経路情報のデータ構造を示した図である。図5に示す糸経路情報は、経方向と緯方向とに直交する高さ方向に積層された4枚の経編層から構成された経編物の糸経路情報を示している。
【0042】
1行目に記載された「<L0>」のタグで囲まれたデータ群は、経編物の最下層(第L0層)における経方向の1列の糸経路の糸経路情報を示す。2行目に記載された「<L1>」のタグで囲まれたデータ群は、第L0層の上の層である第L1層における経方向の1列の糸経路の糸経路情報を示す。3行目に記載された「<L2>」のタグで囲まれたデータ群は、第L1層の上の層である第L2層における経方向の1列の糸経路の糸経路情報を示す。4行目に記載された「<L3>」のタグで囲まれたデータ群は、第L2層の上の層である第L3層における経方向の1列の糸経路の糸経路情報を示す。
【0043】
図6は、糸経路情報の説明図であり、(a)は図6に示すL0〜L3は、図5の第L0層〜第L3層の糸経路情報により示される糸経路を簡略的に示した図であり、(b)は閉じ目と開き目とを示した図である。図6(a)に示すL0〜L3において、緯方向に付された目盛は緯方向の座標を示し、経方向に付された目盛は経方向の座標を示している。
【0044】
図6(a)に示すように、各経編層を構成するノーマルラップの1列の糸経路は、経方向に一定間隔で配列された複数のループLと、各ループLを糸経路の方向に沿って蛇行するように繋ぐブリッジBrとから構成される。そして、ノーマルラップの糸経路情報は、1列の糸経路を構成する各ループLの2個の端点である第1及び第2の端点P1及びP2の緯方向における位置を示す第1及び第2の位置データを、糸経路の方向D1に従って配列することで1列の糸経路を表している。ここで、糸経路の方向D1は、ブリッジBrが経方向に向かう方向を指す。
【0045】
ここで、第1の端点P1は、第2の端点P2よりも糸経路の方向D1の上流側に位置し、ループL1の緯方向における右端又は左端の端点を示す。また、第2の端点P2は、第1の端点P1よりも糸経路の方向D1の下流側に位置し、ループL1の緯方向における右端又は左端の端点を示す。また、糸経路情報は、経方向の1列の糸経路の最小単位を示し、糸経路情報を経方向に経編物の経方向の幅に従って所定回数循環させることで、1列の糸経路が示される。
【0046】
図5に示すノーマルラップの糸経路情報において、第L0層の糸経路情報は、まず「0,1」が配列されているが、これは、図6に示すように、糸経路の方向D1の最上流に位置するループL1の第1及び第2の位置データが「0」及び「1」であることを示している。また、第L0層の糸経路情報は、「0,1」に続いて「2,1」が配列されているが、これは、最上流のループLの次のループL2の第1及び第2の位置データが、「2」及び「1」であることを示している。
【0047】
なお、本実施の形態では、隣接するループL間の経方向における間隔は、図6に示す経方向の1目盛分の長さにされている。従って、第L0層の糸経路において、ループL1とループL2との経方向における間隔、すなわち、ループL1とループL2とを繋ぐブリッジBrの経方向における長さは、図6に示す経方向の1目盛分の長さになっている。
【0048】
また、図5に示す糸経路情報において、第L1層の糸経路情報は、「7,8」、「10,11」、「7,6」、「9,10」から構成されているが、これは、図6に示すように、第1及び第2の位置データを「7,8」、「10,11」、「7,6」、「9,10」とするループL1〜L4が、この順番で糸経路の方向D1に従って配列されていることを示している。
【0049】
また、図5に示す糸経路情報において、第L2層の糸経路情報は、「11,12」、「8,7」、「10,11」、「7,6」から構成されているが、これは、図6に示すように、第1及び第2の位置データを「11,12」、「8,7」、「10,11」、「7,6」とするループL1〜L4が、この順番で糸経路の方向D1に従って配列されていることを示している。
【0050】
また、図5に示す糸経路情報において、第L3層の糸経路情報は、「9,10」、「6,5」、「8,9」、「5,4」から構成されているが、これは、図6に示すように、第1及び第2の位置データを「9,10」、「6,5」、「8,9」、「5,4」とするループL1〜L4が、この順番で糸経路の方向D1に従って配列されていることを示している。
【0051】
また、図6(a)のL0に示すように、糸経路情報は、注目する第1のループCL1及び第1のループCL1よりも糸経路の方向の下流側に位置する第2のループCL2間を繋ぐ注目ブリッジCBrの緯方向における糸経路の方向D11と、第1の端点P1から第2の端点P2に向かうベクトルの方向D12とが同一方向である場合、第1のループCL1を開き目とする。
【0052】
一方、図6(a)のL1に示すように、糸経路情報は、注目する第1のループCL1及び第1のループCL1よりも糸経路の方向D1の下流側に位置する第2のループCL2間を繋ぐ注目ブリッジCBrの緯方向における糸経路の方向D11と、第1の端点P1から第2の端点P2に向かうベクトルの方向D12とが反対方向である場合、第1のループL1を閉じ目とする。
【0053】
なお、ブラインドラップの糸経路情報は、ブラインドラップを構成するブリッジBBr同士の接続点BPの緯方向における位置を示す位置データを、糸経路の方向D1に沿って配列することで、1列の糸経路を表される。すなわち、ブラインドラップの糸経路情は、接続点BPの位置データを、同じ値を有する第1及び第2の位置データで表し、糸経路の方向D1に従って第1及び第2の位置データを配列することで表される。例えば、経路情報が「3,3;6,6;4,4;7,7」であるブラインドラップにおいては、接続点BPの緯方向における位置が「3」、「6」、「4」、「7」であり、接続点BPがこの順番でブリッジBBrにより接続される。
【0054】
図4に示す配列情報取得部120は、入力部300により受け付けられたユーザからの操作入力に従って、1列の糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報を取得し、配列情報記憶部220に記憶する。ここで、配列情報は、糸経路情報により示される1列の糸経路の各経編層における緯方向の配列位置を示す。図7は、配列情報のデータ構造を示した図である。図7に示す配列情報は、経方向と緯方向とに直交する高さ方向に積層された4枚の経編層から構成された経編物の配列情報を示している。
【0055】
図7において、1行目に記載された「<L0>」のタグで囲まれた1行のデータ群は、経編物の最下層(第L0層)における配列情報を示す。2行目に記載された「<L1>」のタグで囲まれた1行のデータ群は、第L0層の上の層である第L1層における配列情報を示す。3行目に記載された「<L2>」のタグで囲まれた1行のデータ群は、第L1層の上の層である第L2層における配列情報を示す。4行目に記載された「<L3>」のタグで囲まれた1行のデータ群は、第L2層の上の層である第L3層における配列情報を示す。
【0056】
また、図7において、各列は緯方向の位置を示し、例えば1列目は、緯方向の座標が「0」の位置を示している。図7において、第L0層の配列情報は、1〜22列目のデータが全て「1」であるため、第L0層の緯方向の座標が「0」〜「21」の位置に、第L0層の糸経路情報によって示される糸経路が配列される。
【0057】
また、図7において、第L1層の配列情報も、1〜22列目のデータが全て「1」であるため、第L1層における緯方向の座標が「0」〜「21」の各位置に、第L1層の糸経路情報によって示される1列の糸経路が配列される。また、図7において、第L2層の配列情報は2列目と7列目とが「1」になっているため、第L2層の緯方向の座標が「1」と「6」の位置に、第L2層の糸経路情報によって示される1列の糸経路が配列される。また、図7において、第L3層の配列情報は14列目と19列目とが「1」になっているため、第L3層の緯方向の座標が「13」、「18」の位置に、第L2層の糸経路情報によって示される1列の糸経路が配列される。
【0058】
図8は、図5に示す糸経路情報と図7に示す配列情報とに従って配列された糸経路からなる経編物の3次元モデルを示した図である。図5に示す第L0層の糸経路情報により示される1列の糸経路を図7の第L0層の配列情報に従って配列すると、図8(a)に示すような3次元モデルが得られる。また、図5に示す第L1層の糸経路情報により示される1列の糸経路を図7の第L1層の配列情報に従って配列した後、第L0層と第L1層とを重ねると、図8(b)に示すような3次元モデルが得られる。また、図5に示す第L2層の糸経路情報により示される1列の糸経路を図7の第L2層の配列情報に従って配列した後、第L0層〜第L3層を重ねると、図8(c)に示すような3次元モデルが得られる。また、図5に示す第L3層の糸経路情報により示される1列の糸経路を図7の第L3層の配列情報に従って配列した後、第L0層〜第L3層を重ねると、図8(d)に示すような3次元モデルが得られる。
【0059】
なお、図6(a)に示す糸経路情報における緯方向の座標の目盛幅と図7に示す配列情報の緯方向の座標の目盛幅とは同一であり、図6(a)に示す緯方向の座標は、図7に示す配列情報の緯方向における相対的な位置を示している。
【0060】
例えば、配列情報の座標系において緯方向の座標が「3」の位置に、図6(a)に示す糸経路情報により示される糸経路を配列する場合、配列情報の座標系において緯方向の座標が「3」の位置に、図6(a)に示す糸経路情報の座標系において緯方向の座標が「0」の位置がくるように、糸経路が配置される。この場合、図6(a)に示す糸経路情報の座標系おける緯方向の座標が「1」の位置は、配列情報の座標系においては、緯方向の座標が「4(=3+1)」の位置に配置されることになる。なお、糸経路情報の座標系における経方向の座標は、配列情報の座標系における経方向の座標と同じ位置を示す。
【0061】
図4に戻り、糸情報取得部130は、入力部300により受け付けられたユーザからの操作入力に従って、経編物を構成する糸の色を示す糸情報を取得する。図9は、糸情報のデータ構造を示した図である。糸情報は、図9(a)に示す糸定義情報と図9(b)に示す色配置情報とを含む。
【0062】
糸定義情報はインデックスデータと、糸名称データと、色成分データとを含む。インデックスデータは、糸定義情報によって定義される各糸を識別するために、各糸に一意に与えられた数値からなるデータであり、図9(a)に示す変数「Index」に格納される。図9(a)に示す糸定義情報においては、インデックスデータを「0」、「1」とする2種類の糸が定義されている。
【0063】
糸名称データは、糸定義情報によって定義される各糸の名称を示すデータであり、図9(a)に示す変数「name」に格納される。図9(a)に示す糸定義情報においては、インデックスデータが「0」の糸に対して「a」の名称が付与され、インデックスデータが「1」の糸に対して「b」の名称が付与されている。
【0064】
色成分データは、糸定義情報によって定義される各糸の色を構成する色成分をRGB表色系で示すデータであり、図9(a)に示す「Color」のタグによって定められる。図9(a)に示す糸定義情報においては、インデックスデータが「0」の糸に対して「R=0.5」、「G=0.2」、「B=0.1」の色成分が定められ、インデックスデータが「1」の糸に対して「R=1.0」、「G=0.5」、「B=0.9」の色成分が定められている。
【0065】
色配置情報は、レイヤー情報と、ウェール情報と、インデックスデータとを備える。レイヤー情報は経編層を示し、図9(b)に示す変数「Layer」に格納される。ウェール情報は緯方向における糸の配列位置を示し、図9(b)に示す変数「Wale」に格納される。インデックスデータは、糸定義情報のインデックスデータと同様であり、図9(b)に示す変数「Index」に格納される。
【0066】
図9(b)の1行目には、Layer=1、Wale=0、Index=1と記載されているが、これは、第L1層の緯方向の座標が「0」の位置に配列される糸経路の色等が、糸定義情報のインデックスデータ=1において定義されることを示している。また、図9(b)の3行目には、Layer=1、Wale=2、Index=2と記載されているが、これは、第L1層の緯方向の座標が「2」の位置に配列される糸経路の色等が、糸定義情報のインデックスデータ=2において定義されることを示している。
【0067】
図4に戻り、特性取得部140は、入力部300により受け付けられたユーザからの操作入力に従って、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性を取得し、特性記憶部240に記憶する。ここで、力学特性には、糸に加わる張力と前記張力による糸の伸びとの関係を示す糸の伸張特性、糸に加わる張力と前記張力による糸径との関係を示す糸径特性、及び交差する糸の交差点において糸に加わる張力と前記張力による糸径との関係を示す交差伸張特性が含まれる。
【0068】
図10は、伸張特性の説明図である。伸張特性は、引っ張り試験機を用いて、糸の一端を固定して他端を引っ張り、糸に加えた張力と糸の伸びとを測定することで得られる。図11は、図10の手法を用いて現物の糸の伸張特性を測定したときの測定結果を示すグラフである。図11に示す伸張特性は、長さ20mmの3種類の糸に0gf〜50gfの張力を、伸張速度10mm/minで加え、張力と糸の伸びとを測定することで得られたものである。なお、図11において縦軸は張力を示し、横軸は糸の伸び(伸度)を示している。図11に示すように、伸張特性は、張力が10gf以下の領域においては下に凸の曲線を描いて増大しているが、張力が10gf以上の領域においては、ほぼ一定の割合で増加していることが分かる。
【0069】
図12は、糸径特性の説明図である。糸径特性は、引っ張り試験機を用いて、糸の一端を固定して他端を引っ張り、拡大倍率200倍、解像度2560×1960のデジタルカメラで糸を撮影し、張力毎の糸の太さを測定することで得られる。
【0070】
図13は、図12の手法を用いて現物の糸の糸径特性を測定したときの測定結果を示すグラフであり、縦軸は糸径を示し、横軸は張力を示している。図13に示すように糸径特性は、指数関数的に減少しており、40gf以上の領域においては糸径がほぼ一定になっていることが分かる。
【0071】
図14は、交差伸張特性の説明図である。図14に示すように、交差伸張特性は、2本の糸をループ状に交差させ、2本糸の両端を張力を変えながら引っ張り、拡大倍率200倍、解像度2560×1960のデジタルカメラで糸を撮影し、交差部分における張力毎の糸の太さを測定することで得られる。
【0072】
図15は、図14の手法を用いて現物の糸の交差伸張特性を測定したときの測定結果を示すグラフであり、縦軸は交差部分の糸径を示し、横軸は張力を示している。図15に示すように、交差伸張特性は指数関数的に減少しており、40gf以上の領域においては糸径がほぼ一定になっていることが分かる。
【0073】
図4に戻り、バネ特性算出部150は、特性記憶部240から伸張特性、糸径特性、及び交差伸張特性を読み出し、読み出した伸張特性、糸径特性、及び交差伸張特性から後述する経編物の力学モデルの各エッジを構成するバネ成分の弾性係数及び初期長を求め、バネ特性記憶部250に記憶する。
【0074】
初期モデル生成部160は、配列情報記憶部220から糸経路情報及び配列情報を読み出し、読み出した糸経路情報及び配列情報に従って、仮想3次元空間内に糸経路を折れ線で表した経編物の初期モデルを生成する。本実施の形態において仮想3次元空間は、各々直交するx軸、y軸、z軸によって表され、x軸を緯方向とし、y軸を経方向とし、x−y平面を水平面とする。
【0075】
図17は、初期モデル生成部160により生成される初期モデルを示す図であり、(a)は初期モデルをz軸方向から見た場合を示し、(b)は初期モデルをy軸方向から見た場合を示している。図17(a)に示すように、初期モデルは、仮想3次元空間のx−y平面上に配列された複数のループLと、ループL同士を接続するブリッジBrとから構成され、糸経路の外周を示す外周線GLと糸経路の内周を示す内周線NLとによる折れ線によって表される。ここで、外周線GLと内周線NLとの間隔は糸の太さに相当している。
【0076】
ループLは、下側が開放されたほぼ「コ」の字形状を有し、長手方向がy軸方向とほぼ平行に配置された2個の経矩形領域SS1と、長手方向がx軸方向と平行に配置された緯矩形領域SS2と、2個の経矩形領域SS1と1個の緯矩形領域SS2とを連結する2個の三角形領域Tr1と、2個の経矩形領域SS1及びブリッジBr間を連結する2個の三角形領域Tr2とを備えている。すなわち、三角形領域Tr1〜Tr3は、糸経路の屈曲する部位(屈曲部位)に配置される。
【0077】
ブリッジBrは、図17(b)に示すように、ほぼ「コ」の字形状を有し、長手方向がz軸方向とほぼ平行である2個の脚矩形領域SS3と、長手方向がx−y平面と平行である1個の天井矩形領域SS4と、2個の脚矩形領域SS3と1個の天井矩形領域SS4とを連結する2個の三角形領域Tr3とを備えている。
【0078】
ここで、ループLを構成する経矩形領域SS1の長手方向の長さ及び緯矩形領域SS2の長手方向の長さは、当該ループLを表す第1及び第2の位置データの差に応じて予め定められた値が設定される。また、ブリッジBrを構成する脚矩形領域SS3の長手方向の長さは、予め定められた値が設定される。また、ブリッジBrを構成する天井矩形領域SS4の長手方向の長さは、当該ブリッジBrの長さに応じて予め定められた値が設定される。
【0079】
図4に示す位置修正部170は、初期モデル生成部160により生成された初期モデルを構成する糸経路上の屈曲する部位に糸の質点を設定し、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点を接続することにより経編物の力学モデルを生成し、各質点の運動方程式を解くことにより各質点の位置を修正する。
【0080】
ここで、各質点の運動方程式は式(1),(2)によって表される。
【0081】
【数1】

【0082】
式(1)、(2)において、iは第i番目の質点を示し、fは質点に加わる外力を示し、mは質点の質量を示し、vは質点の速度を示し、cは質点の粘性抵抗を示し、ki,jは第i番目の質点に後述するエッジを用いて接続された第j番目の質点を示し、xは第i番目の質点の仮想3次元空間内における位置を示している。式(1)に示すm,c,ki,jは予め定められた値が採用される。fについては後述する。
【0083】
式(3),(4)は式(1),(2)の差分方程式を示し、位置修正部170は、実際には式(3),(4)に示す差分方程式を解くことで、質点の位置を修正する。式(3),(4)に示すtは時間を示し、Δtは微小時間を示す。
【0084】
ここで、力学モデルは、糸の太さを考慮しない粗力学モデルと糸の太さを考慮した密力学モデルとを含み、位置修正部170は、運動方程式の解が所定範囲内に収束するまでは、粗力学モデルを用いて質点の位置を修正し、運動方程式の解が所定範囲内に収束した後は、密力学モデルを用いて質点の位置を修正する。
【0085】
図18は、力学モデルの説明図であり、(a)は粗力学モデルを示し、(b)は密力学モデルを示している。図18(a)に示すように粗力学モデルは、図17(a)、(b)に示す初期モデルを構成する三角形領域Trの各々に1個の質点MPを配置し、これらの質点MPを糸経路に沿ったエッジEで接続することで構成される。なお、三角形領域Tr1〜Tr3を総称するときは、三角形領域に「Tr」の符号を付す。ここで、エッジEは、図18(a)に示すようにバネ成分B1が含まれる。バネ成分B1の弾性係数は、バネ特性算出部150により伸張特性を用いて算出された弾性係数が採用される。また、バネ成分B1の初期長は、質点MP同士を接続するエッジの長さに応じて予め定められた値が採用される。
【0086】
一方、密力学モデルは、図18(b)に示すように、図17(a)、(b)に示す各三角形領域Trの3個の頂点に配置された質点MP1〜MP3と、これらの質点MP1〜MP3間を繋ぐエッジE1〜E7とで構成される。
【0087】
すなわち、エッジE1(第1のエッジ)は、注目する屈曲部位に配置された三角形領域TrC1から一方に延びる糸経路(α)の径方向に沿って配置されている。また、エッジE2(第2のエッジ)は、三角形領域TrC1から他方に延びる糸経路(β)の径方向に沿って配置されている。また、質点MP1(第1の質点)は、糸経路の内周側であって、エッジE1,E2の一端を繋ぐように配置されている。また、質点MP2(第2の質点)及び質点MP3(第3の質点)は、糸経路の外周側であって、エッジE1及びE2の他端に配置されている。
【0088】
エッジE3(第3のエッジ)は、質点MP2及び質点MP3間を繋ぐように配置されている。エッジE4(第4のエッジ)は、三角形領域TrC1における質点MP1と、三角形領域から一方に延びる糸経路(α)に沿って隣接する三角形領域TrC2おける質点MP1とを繋ぐように配置されている。また、エッジE5(第5のエッジ)は、三角形領域TrC1における質点MP2と、三角形領域TrC2における質点MP2とを繋ぐように配置されている。
【0089】
また、エッジE6(第6のエッジ)は、三角形領域TrC1における質点MP1と、三角形領域TrC1から他方に延びる糸経路(β)に沿って隣接する三角形領域TrC3における質点MP1とを繋ぐように配置されている。また、エッジE7(第7のエッジ)は、三角形領域TrC1における質点MP3と、三角形領域TrC3における質点MP3とを繋ぐように配置されている。
【0090】
エッジE1及びエッジE2は、初期長が糸径特性によって定められたバネ成分B2を含む。エッジE3は、初期長がバネ特性算出部150により交差伸長特性を用いて算出されたバネ成分B3を含む。エッジE4〜E7は、弾性係数が特性算出部150により伸張特性を用いて算出されたバネ成分B1を含む。つまり、バネ成分B1は、粗力学モデルを構成するバネ成分B1と同一である。
【0091】
なお、粗力学モデルにおいてブラインドラップはブリッジBBrの接続点BPに1個の質点MPが設定され、密力学モデルにおいてブラインドラップはブリッジBBrの接続点BPに2個の質点MPが設定される。
【0092】
図4に戻り、3次元モデル生成部180は、位置修正部170により位置が修正された質点に接続されるエッジによって示される糸経路に糸表面を表す面を形成し、経編物の3次元モデルを生成し、3次元モデル記憶部260に記憶する。
【0093】
表示制御部190は、3次元モデル記憶部260から経編物の3次元モデルを読み出し、読み出した3次元モデル等を表示部400に表示する。記憶部200は、主に外部記憶装置5から構成され、経路情報記憶部210,配列情報記憶部220、糸情報記憶部230、特性記憶部240、バネ特性記憶部250、及び3次元モデル記憶部260を備えている。
【0094】
経路情報記憶部210は、経路情報取得部110により取得された経路情報を記憶する。配列情報記憶部220は、配列情報取得部120により取得された配列情報を記憶する。糸情報記憶部230は、糸情報取得部130により取得された糸情報を記憶する。特性記憶部240は、特性取得部140により取得された現物の糸の力学特性を記憶する。バネ特性記憶部250は、バネ特性算出部150により算出された経編物の力学モデルの各エッジを構成するバネ成分の弾性係数等を記憶する。3次元モデル記憶部260は、3次元モデル生成部180により生成された経編物の3次元モデルを記憶する。
【0095】
入力部300は、図3に示す入力装置1から構成され、経路情報、配列情報、糸情報、及び現物の糸の力学特性等を入力するためのユーザからの操作入力を受け付ける。表示部400は、図3に示す表示装置6から構成され、表示制御部190の制御の下、種々の画像を表示する。
【0096】
図19は、本編構造モデル生成装置の動作を示すフローチャートである。まず、入力部300が、経路情報を入力するためのユーザからの操作入力を受け付けると(ステップS1でYES)、経路情報取得部110は、入力部300により受け付けられた操作入力に従って経路情報を取得し、経路情報記憶部210に記憶する(ステップS2)。この場合、経路情報取得部110は、図5に示すような経路情報を取得する。詳細には、表示制御部190は、経路情報を入力するための操作画像を表示部400に表示し、経路情報取得部110は、この操作画像をユーザに操作させることで経路情報を取得する。ここで、表示制御部190は、図6(a)に示すような経方向及び緯方向の座標が付された複数の升目から構成される操作画像を表示部400に表示し、経路情報取得部110は、糸経路を構成するループLの第1及び第2の端点P1及びP2を、マウス等を用いてユーザに指定させることで、糸経路情報を取得する。
【0097】
一方、ステップS1において、入力部300が、経路情報を入力するためのユーザからの操作入力を受け付けない場合(ステップS1でNO)、処理がステップS1に戻される。
【0098】
次に、入力部300が、配列情報を入力するためのユーザからの操作入力を受け付けると(ステップS3でYES)、配列情報取得部120は、入力部300により受け付けられた操作入力に従って配列情報を取得し、配列情報記憶部220に記憶する(ステップS4)。この場合、配列情報取得部120は、図7に示すような配列情報を取得する。詳細には、表示制御部190は、配列情報を入力するための操作画像を表示部400に表示し、配列情報取得部120は、この操作画像をユーザに操作させることで経路情報を取得する。
【0099】
一方、ステップS3において、入力部300が、配列情報を入力するためのユーザからの操作入力を受け付けない場合(ステップS3でNO)、処理がステップS3に戻される。
【0100】
次に、入力部300が、糸情報を入力するためのユーザからの操作入力を受け付けると(ステップS5でYES)、糸情報取得部130は、入力部300により受け付けられた操作入力に従って糸情報を取得し、糸情報記憶部230に記憶する(ステップS6)。この場合、配列情報取得部120は、図7に示すような図9(a)、(b)に示すような糸情報を取得する。詳細には、表示制御部190は、糸情報を入力するための操作画像を表示部400に表示し、糸情報取得部130は、この操作画像をユーザに操作させることで糸情報を取得する。
【0101】
一方、ステップS5において、入力部300が、糸情報を入力するためのユーザからの操作入力を受け付けない場合(ステップS5でNO)、処理がステップS5に戻される。
【0102】
次に、入力部300が、現物の糸の力学特性を入力するためのユーザからの操作入力を受け付けると(ステップS7でYES)、特性取得部140は、入力部300により受け付けられた操作入力に従って、現物の糸の伸張特性、糸径特性、及び交差伸張特性を取得し、特性記憶部240に記憶する(ステップS8)。
【0103】
次に、初期モデル生成部160は、配列情報記憶部220から糸経路情報及び配列情報を読み出し、読み出した糸経路情報及び配列情報に従って、仮想3次元空間内に糸経路を折れ線で表した経編物の初期モデルを生成する(ステップS9)。例えば、初期モデル生成部160は、図7に示す配列情報においては、第L0層の緯方向の座標が「0」の位置には1が設定されているため、図5に示す第L0層の糸経路情報によって示される糸経路を表した折れ線を仮想3次元空間に配置するというようにして仮想3次元空間内に糸経路を示す折れ線を配置していき経編物の初期モデルを生成する。
【0104】
ここで、初期モデル生成部160は、図9に示す糸情報に従って、糸経路の色を決定する。例えば、初期モデル生成部160は、図9(b)においては、第L1層の緯方向の座標が「0」の位置に配置する糸経路には、図9(a)に示すindex=1で定義される色(R=1.0、G=0.5、B=0.1)を設定するように定められているため、当該糸経路に当該色を設定する。
【0105】
図21(a)、(b)は、初期モデル生成部160により生成された初期モデルの一例を示した図である。図21(a)、(b)に示すように、初期モデルは、平面上に配列された複数のループLと、ループL同士を接続するブリッジBrとから構成されていることが分かる。図21(a)に示す初期モデルにおいては、緯方向の座標が「0,1」、「2,1」等を跨ぐように配列されたループLからなる1列の糸経路が示されている。
【0106】
図21(b)に示す初期モデルにおいては、2列の糸経路が示され、一方の糸経路は、緯方向の座標が「0,1」間を跨ぐようにループLが配列されループ群LG1と、緯方向の座標が「8,9」を跨ぐように配列されたループ群LG2と、これらのループ群LG1,LG2の各々を構成するループLを交互に接続するブリッジBr1とからされていることが分かる。また、図21(b)に示す2列の糸経路のうち他方の糸経路は、緯方向の座標が「0,1」間を跨ぐように配列されたループ群LG1と、緯方向の座標が「1」〜「8」の間に配列されたループ群LG3と、ループ群LG1,LG3の各々を構成するループLを交互に接続するブリッジBr2とから構成されていることが分かる。
【0107】
次に、初期モデル生成部160は、ステップS1において取得された経路情報にブラインドラップが存在する場合は(ステップS10でYES)、ブラインドラップとノーマルラップとを接続する処理を実行し(ステップS11)、ブラインドラップが存在しない場合は(ステップS10でNO)、処理をステップS12に進める。ここで、初期モデル生成部160は、第1及び第2のデータとして同じ値を有するデータ群からなる糸経路情報が存在する場合、この糸経路情報が示す糸経路はブラインドラップであると判定する。
【0108】
図22は、ブラインドラップとノーマルラップとを接続する処理の説明図であり、(a)〜(f)の順番に処理が進行している。まず、初期モデル生成部160は、糸経路情報及び配列情報に従って、図22の(a)に示すようにブラインドラップの糸経路を配列する。この場合、図22(a)に示すように、ブラインドラップを構成するブリッジBBrのうち、注目する第1のブリッジBBr1と、第1のブリッジBBr1の一端(接続点BP)に接続された第2のブリッジBBr2と、ノーマルラップを構成するブリッジBrとが接続されていないことが分かる。
【0109】
次に、初期モデル生成部160は、図22(b)に示すように、各ブリッジBrを構成する2個の脚部ASと、1個の天井部HTとをそれぞれ1本の直線セグメントに分割する。図22(b)においては、天井部HTは省略している。
【0110】
次に、初期モデル生成部160は、図22(c)に示すように、第1のブリッジBBr1と第2のブリッジBBr2とによって囲まれる3角形の内部領域TDに脚部ASが存在するか否かを判定する。
【0111】
次に、初期モデル生成部160は、脚部ASが存在すると判定した場合、図22(d)に示すように内部領域TDに存在する脚部ASのうち、接続点BPに最も近い脚部ASを特定する。
【0112】
次に、初期モデル生成部160は、図22(e)に示すように接続点BPに最も近い脚部ASの一端AS1と接続点BPとを直線セグメントで接続すると共に、脚部ASの他端AS2と接続点BPとを直線セグメントで接続する。
【0113】
次に、初期モデル生成部160は、図22(f)に示すように、脚部ASの一端AS1のx座標とy座標との値が接続点BPのx座標とy座標との値に等しくなる位置に、脚部ASの一端の位置を移動させると共に、脚部ASの他端AS2のx座標とy座標との値が接続点BPのx座標とy座標との値に等しくなる位置に、脚部ASの他端AS2の位置を移動させる。
【0114】
これにより、図22(f)に示すように、接続点BPと脚部ASとが接続され、ブラインドラップとノーマルラップとが接続されることになる。
【0115】
図23は、ノーマルラップとブラインドラップとが接続された初期モデルを示した図である。図23に示すようにノーマルラップを構成するブリッジBrの脚部ASがブラインドラップを構成するブリッジBBrの接続点BPと接続され、ノーマルラップがブラインドラップにより拘束されていることが分かる。
【0116】
次に、図19に示すステップS12において、バネ特性算出部150は、特性取得部140により取得された伸張特性を用いて図18(a)、(b)に示すバネ成分B1の弾性係数を算出し、特性取得部140により取得された糸径特性を用いて図18(b)に示すバネ成分B2の初期長を算出し、特性取得部140により取得された交差伸張特性を用いて図18(b)に示すバネ成分B3の初期長を算出する。
【0117】
ここで、バネ特性算出部150は、図11に示すモデリング対象となる経編物に使用される糸の伸張特性において、直線領域の傾きからバネ成分B1の弾性係数を算出する。また、バネ特性算出部150は、図13に示す糸径特性において、張力が0のときの糸径をバネ成分B2の初期長として算出する。また、バネ特性算出部150は、図15に示す交差伸張特性において、張力が0のときの糸径をバネ成分B3の初期長として算出する。
【0118】
次に、位置修正部170は、位置修正処理を実行する(ステップS13)。図20は、位置修正処理を示すフローチャートである。まず、位置修正部170は、初期モデル生成部160により生成された初期モデルを構成する三角形領域Trに1個の質点MPを設定し、設定した質点MPを糸経路に沿ったエッジEで接続し、粗力学モデルを生成する(ステップS31)。ここで、質点MPの位置としては、三角形領域Trの例えば重心を採用することができる。
【0119】
次に、位置修正部170は、各質点MPにおいて、式(3),(4)に示す運動方程式をたて、f、v、x、xに初期値を与え、運動方程式を解くことにより時間tにおける各質点MPの位置を求める(ステップS32)。次に、位置修正部170は、各質点MPにおける運動方程式の解が第1の範囲内に収束していない場合(ステップS33でNO)、外力fを算出する(ステップS34)。なお、第1の範囲としては、運動方程式の解を時系列的に並べた場合に、前後における解の差分がある程度小さくなったことを示す予め定められた値が採用される。図24は、外力の算出処理の説明図である。
【0120】
ここで、位置修正部170は、図24に示すように、ノーマルラップを構成する各ブリッジBrの天井部HTに断面が糸の断面に相当する大きさを有する直方体OBを設定し、天井部HTが収縮することにより直方体OB同士が交差した場合は、交差する直方体OBの両端の質点MP,MPにおいて、交差が回避される方向、すなわち、天井部HTが収縮する方向と反対側の方向に所定の大きさを有する外力f、fを付与する。一方、位置修正部170は、交差しない直方体OBに関してはその直方体OBの両端の質点MP,MPに外力f、fを付与しない。なお、直方体が交差しているか否かの判定は、例えばOBB(Oriented Bounding Box)を用いて行われる。次に、位置修正部170は、時間tにΔtを加算し(ステップS35)、処理をステップS32に戻す。なお、Δtに関しては、予め定められた値が採用されている。
【0121】
ステップS33において、運動方程式の解が第1の範囲に収束した場合(ステップS33でYES)、初期モデル生成部160は、位置修正部170により質点MPの位置が修正された粗力学モデルの屈曲する部位に三角形領域Trを設定すると共に、各質点MPを接続するエッジEに沿って、各三角形領域Tr間に経矩形領域SS1、緯矩形領域SS2、脚矩形領域SS3、天井矩形領域SS4を設定し、再度初期モデルを生成する(ステップS36)。
【0122】
次に、位置修正部170は、図18(b)に示すように、質点MPの位置が修正されたステップS36で生成された初期モデルにおいて、三角形領域Trの3個の頂点に質点MP1〜MP3を配置し、これらの質点MP1〜MP3間をエッジE1〜E7で接続することで密力学モデルを生成する(ステップS37)。
【0123】
次に、位置修正部170は、各質点MP1〜MP3において、式(3),(4)に示す運動方程式をたて、f、v、x、xに初期値を与え、運動方程式を解くことにより時間tにおける各質点MP1〜MP3の位置を求める(ステップS38)。次に、位置修正部170は、各質点MP1〜MP3における運動方程式の解が第2の範囲内に収束していない場合(ステップS39でNO)、外力fを算出し(ステップS40)、時間tにΔtを加算し(ステップS41)、処理をステップS38に戻す。なお、第2の範囲としては、第1の範囲よりも小さく、運動方程式の解が得られたことを示す予め定められた値を採用することができる。また、ステップS40における外力fの算出処理はステップS34と同様であるため、説明を省略する。
【0124】
図25は、図20のフローチャートにより粗力学モデルが変形される様子を示した図であり、(a)は変形前の粗力学モデルを示し、(b)は変形後の粗力学モデルを示している。図25(a)、(b)に示すように、各質点MPの運動方程式を解くことにより各質点を繋ぐエッジEが収縮していることが分かる。図26は、運動方程式を解くことにより変形されたブラインドラップを含む密力学モデルを示した図である。図26に示すようにノーマルラップがブラインドラップにより拘束されて収縮して変形していることが分かる。
【0125】
図19のステップS14に戻り、3次元モデル生成部180は、位置修正部170により質点MP1〜MP3の位置が修正された密力学モデルにおいて、質点MP1〜MP3同士を接続するエッジE1〜E7に従って糸経路に糸表面を表す面を形成し、経編物の3次元モデルを生成する。図27は、3次元モデル生成部180による処理の説明図である。
【0126】
まず、3次元モデル生成部180は、図27に示す質点MP1と質点MP2との距離を直径とする円Cr1を糸の断面として設定すると共に、質点MP1と質点MP3との距離を直径とする円Cr2を糸の断面として設定する。
【0127】
次に、3次元モデル生成部180は、エッジE4,E5の両側に位置する2個の円Cr1の外周を滑らかに接続するような面を糸の側面として形成する。次に、3次元モデル生成部180は、エッジE6,E7の両側に位置する2個の円Cr2の外周を滑らかに接続するような面を糸の側面として形成する。次に、3次元モデル生成部180は、同一の三角形領域Trに設定された円Cr1とCr2との外周を滑らかに繋ぐような面を糸の側面として形成する。
【0128】
図28は、3次元モデル生成部180により生成された3次元モデルを示した図である。図28に示すように、糸の太さが再現された3次元モデルが生成されていることが分かる。
【0129】
図29はブラインドラップを含む経編物の3次元モデルを示している。図29に示すように、ノーマルラップがブラインドラップによって拘束されて形状が変形し、模様を形作っていることが分かる。
【0130】
以上説明したように本編構造モデル生成装置によれば、経編物の経方向の1列の糸経路を示す糸経路情報が取得され、糸経路情報により示される糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報が取得され、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が取得される。そして、糸経路情報が示す糸経路と配列情報が示す配列位置とに従って、仮想3次元空間内に糸経路を折れ線で表した経編物の初期モデルが生成され、初期モデルを構成する糸経路上の特徴的な位置に糸の質点が設定され、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点が接続されて経編物の力学モデルが生成され、各質点の運動方程式を解くことにより各質点の位置が修正され、位置が修正された質点に接続されるエッジよって示される糸経路に糸表面を表す面が形成され、経編物の3次元モデルが生成される。
【0131】
すなわち、現物の糸の力学的特性が運動方程式に取り込まれ、この運動方程式を解くことにより経編物の3次元モデルが生成されているため、編構造がリアルに再現された経編物の3次元モデルを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本編構造モデル生成装置がモデリング対象とする現物の経編物の編構造を示した図である。
【図2】本編構造モデル生成装置が生成対象とする経編物の編構造を立体的に示した模式図であり、(a)はトリコットと呼ばれる片面多層構造の経編物の編構造を示し、(b)は2層構造トリコットの編構造を示している。
【図3】本発明の実施の形態による編構造モデル生成装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示す編構造モデル生成装置の機能ブロック図を示している。
【図5】ノーマルラップの糸経路情報のデータ構造を示した図である。
【図6】糸経路情報の説明図であり、(a)は図6に示すL0〜L3は、図5の第L0〜第3の糸経路情報により示される糸経路を簡略的に示した図であり、(b)は閉じ目と開き目とを示した図である。
【図7】配列情報のデータ構造を示した図である。
【図8】図5に示す糸経路情報と図7に示す配列情報とに従って配列された糸経路からなる経編物の3次元モデルを示した図である。
【図9】糸情報のデータ構造を示した図である。
【図10】伸張特性の説明図である。
【図11】図10の手法を用いて現物の糸の伸張特性を測定したときの測定結果を示すグラフである。
【図12】糸径特性の説明図である。
【図13】図12の手法を用いて現物の糸の糸径特性を測定したときの測定結果を示すグラフであり、縦軸は糸径を示し、横軸は張力を示している。
【図14】交差伸張特性の説明図である。
【図15】図14の手法を用いて現物の糸の交差伸張特性を測定したときの測定結果を示すグラフであり、縦軸は交差部分の糸径を示し、横軸は張力を示している。
【図16】ブラインドラップの立体的な編構造の模式図である。
【図17】初期モデル生成部160により生成される初期モデルを示す図であり、(a)は初期モデルをz軸方向から見た場合を示し、(b)は初期モデルをy軸方向から見た場合を示している。
【図18】力学モデルの説明図であり、(a)は粗力学モデルを示し、(b)は密力学モデルを示している。
【図19】本編構造モデル生成装置の動作を示すフローチャートである。
【図20】位置修正処理を示すフローチャートである。
【図21】初期モデル生成部160により生成された初期モデルの一例を示した図である。
【図22】ブラインドラップとノーマルラップとを接続する処理の説明図であり、(a)〜(f)の順番に処理が進行している。
【図23】ノーマルラップとブラインドラップとが接続された初期モデルを示した図である。
【図24】外力の算出処理の説明図である。
【図25】粗力学モデルが変形される様子を示した図であり、(a)は変形前の粗力学モデルを示し、(b)は変形後の粗力学モデルを示している。
【図26】運動方程式を解くことにより変形されたブラインドラップを含む密力学モデルを示した図である。
【図27】3次元モデル生成部による処理の説明図である。
【図28】3次元モデル生成部により生成された3次元モデルを示した図である。
【図29】ブラインドラップを含む経編物の3次元モデルを示している。
【符号の説明】
【0133】
100 処理部
110 経路情報取得部
120 配列情報取得部
130 糸情報取得部
140 特性取得部
150 バネ特性算出部
160 初期モデル生成部
170 位置修正部
180 3次元モデル生成部
190 表示制御部
200 記憶部
210 経路情報記憶部
220 配列情報記憶部
230 糸情報記憶部
240 特性記憶部
250 バネ特性記憶部
260 3次元モデル記憶部
300 入力部
400 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想3次元空間に経編物の編構造モデルを生成する編構造モデル生成プログラムであって、
前記経編物の経方向の糸経路を示す糸経路情報を取得する経路情報取得手段と、
前記糸経路情報により示される糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報を取得する配列情報取得手段と、
前記糸経路情報及び前記配列情報に従って、前記仮想3次元空間内に前記糸経路を折れ線で表した前記経編物の初期モデルを生成する初期モデル生成手段と、
前記初期モデルを構成する糸経路上の特徴的な位置に糸の質点を設定し、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点を接続することにより経編物の力学モデルを生成し、各質点の運動方程式を解くことにより各質点の位置を修正する位置修正手段と、
前記位置修正手段により位置が修正された質点に接続されるエッジによって示される糸経路に糸表面を表す面を形成し、前記経編物の3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする編構造モデル生成プログラム。
【請求項2】
前記経編物は、前記経方向と前記緯方向とに直交する高さ方向に積層された複数の経編層から構成され、
前記糸経路情報は、各経編層における経方向の1列の糸経路を示し、
前記配列情報は、前記糸経路情報により示される糸経路の各経編層における緯方向の配列位置を示すことを請求項1記載の編構造モデル生成プログラム。
【請求項3】
前記糸経路は、経方向に一定間隔で配列された複数のループと、各ループを糸経路に沿って蛇行するように繋ぐブリッジとから構成されるノーマルラップを含み、
前記糸経路情報は、各ループ上の2つの端点を示す第1及び第2の端点の緯方向における位置を示す第1及び第2の位置データを、糸経路に沿って順次配列することで前記ノーマルラップを表すことを特徴とする請求項1又は2記載の編構造モデル生成プログラム。
【請求項4】
前記第1の位置データは、前記第2の位置データよりも糸経路の上流側に位置し、
前記ノーマルラップの糸経路情報は、注目する第1のループ及び前記第1のループよりも糸経路の下流側に位置する第2のループ間を繋ぐ注目ブリッジの緯方向における糸経路の方向と、前記第1のループを構成する第1の端点から第2の端点に向かうベクトルの方向とが同一方向である場合、前記第1のループを開き目とし、前記注目ブリッジの緯方向における糸経路の方向と、前記第1のループを構成する第1の端点から第2の端点に向かうベクトルの方向とが反対方向である場合、前記第1のループを閉じ目とすることを特徴とする請求項3記載の編構造モデル生成プログラム。
【請求項5】
前記経編物を構成する各糸経路の色を示す色情報を取得する色情報取得手段を更に備え、
前記初期モデル生成手段は、前記色情報に従って各糸経路の色を設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の編構造モデル生成プログラム。
【請求項6】
前記力学モデルは、糸の太さを考慮しない粗力学モデルと糸の太さを考慮した密力学モデルとを含み、
前記位置修正手段は、各質点の位置が所定範囲内に収束するまでは、前記粗力学モデルを用い、各質点の位置が前記所定範囲内に収束した後は、前記密力学モデルを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の編構造モデル生成プログラム。
【請求項7】
前記力学特性は、糸に加わる張力と前記張力による糸の伸びとの関係を示す糸の伸張特性を含み、
前記粗力学モデルは、糸経路の屈曲部位に配置された1個の質点と、各質点を糸経路に沿って接続するエッジとによって構成され、
前記エッジはバネ成分を含み、
前記バネ成分は弾性係数が前記伸張特性によって定められていることを特徴とする請求項6記載の編構造モデル生成プログラム。
【請求項8】
前記力学特性は、前記伸張特性に加えて、糸に加わる張力と前記張力による糸径との関係を示す糸径特性、及び交差する糸の交差点において糸に加わる張力と前記張力による糸径との関係を示す交差伸張特性を含み、
前記密力学モデルは、
各屈曲部位に配置された第1〜第3の質点と、前記第1〜第3の質点間を繋ぐ第1〜第7のエッジとを備え、
前記第1のエッジは、注目する第1の屈曲部位から一方に延びる糸経路の径方向に沿って配置され、
前記第2のエッジは、前記第1の屈曲部位から他方に延びる糸経路の径方向に沿って配置され、
前記第1の質点は、糸経路の内周側であって、前記第1及び第2のエッジの一端を繋ぐように配置され、
前記第2及び第3の質点は、糸経路の外周側であって、前記第1及び第2のエッジの他端に配置され、
前記第3のエッジは、前記第2及び第3の質点間を繋ぐように配置され、
前記第4のエッジは、前記第1の屈曲部位における第1の質点と、前記第1の屈曲部位から一方に延びる糸経路に沿って隣接する屈曲部位である第2の屈曲部位における第1の質点とを繋ぐように配置され、
前記第5のエッジは、前記第1の屈曲部位における第2の質点と、前記第2の屈曲部位における第2の質点とを繋ぐように配置され、
前記第6のエッジは、前記第1の屈曲部位における第1の質点と、前記第1の屈曲部位から他方に延びる糸経路に沿って隣接する屈曲部位である第3の屈曲部位における第1の質点とを繋ぐように配置され、
前記第7のエッジは、前記第1の屈曲部位における第3の質点と、前記第3の屈曲部位における第3の質点とを繋ぐように配置され、
前記第1及び第2のエッジは、初期長が前記糸径特性によって定められた第2のバネ成分を含み、
前記第3のエッジは、初期長が前記交差伸長特性によって定められた第3のバネ成分を含み、
前記第4〜第7のエッジは、弾性係数が前記伸張特性によって定められた第1のバネ成分を含むことを特徴とする請求項5記載の編構造モデル生成プログラム。
【請求項9】
前記糸経路は、前記ブリッジが前記ループを介さずに前記経方向に向けて蛇行するように接続されたブラインドラップを含み、
前記ノーマルラップを構成するループは、水平面とほぼ平行に配列され、
前記ノーマルラップを構成するブリッジは、水平面とほぼ直交する方向に延びた2本の脚部と、2本の脚部の上端を水平面とほぼ平行な方向で繋ぐ天井部とから構成され、
前記ブラインドラップを構成するブリッジは、水平面とほぼ平行であり、
前記初期モデル生成手段は、前記ブラインドラップを構成する注目する第1のブリッジと前記第1のブリッジの一端に接続された第2のブリッジとによって囲まれる3角形の内部領域に、前記脚部が存在する場合、前記3角形の内部領域に存在する脚部のうち、前記第1及び第2のブリッジの接続点に最も近い脚部を特定し、特定した脚部と、前記第1及び第2のブリッジの接続点とを接続することを特徴とする請求項3記載の編構造モデル生成プログラム。
【請求項10】
前記位置修正手段は、前記ブラインドラップを構成するブリッジ同士の接続点に質点を設定し、前記運動方程式を解くことを特徴とする請求項9記載の編構造モデル生成プログラム。
【請求項11】
仮想3次元空間に経編物の編構造モデルを生成する編構造モデル生成装置であって、
前記経編物の経方向の糸経路を示す糸経路情報を取得する経路情報取得手段と、
前記糸経路情報により示される糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報を取得する配列情報取得手段と、
前記糸経路情報及び前記配列情報に従って、前記仮想3次元空間内に前記糸経路を折れ線で表した前記経編物の初期モデルを生成する初期モデル生成手段と、
前記初期モデルを構成する糸経路上の特徴的な位置に糸の質点を設定し、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点を接続することにより経編物の力学モデルを生成し、各質点の運動方程式を解くことにより各質点の位置を修正する位置修正手段と、
前記位置修正手段により位置が修正された質点に接続されるエッジによって示される糸経路に糸表面を表す面を形成し、前記経編物の3次元モデルを生成する3次元モデル生成手段とを備えることを特徴とする編構造モデル生成装置。
【請求項12】
仮想3次元空間に経編物の編構造モデルを生成する編構造モデル生成方法であって、
コンピュータが、前記経編物の経方向の糸経路を示す糸経路情報を取得するステップと、
コンピュータが、前記糸経路情報により示される糸経路の緯方向における配列位置を示す配列情報を取得するステップと、
コンピュータが、前記糸経路情報及び前記配列情報に従って、前記仮想3次元空間内に前記糸経路を折れ線で表した前記経編物の初期モデルを生成するステップと、
コンピュータが、前記初期モデルを構成する糸経路上の特徴的な位置に糸の質点を設定し、現物の糸を測定することで得られる現物の糸の力学特性が付与されたエッジを用いて各質点を接続することにより経編物の力学モデルを生成し、各質点の運動方程式を解くことにより各質点の位置を修正するステップと、
コンピュータが、前記位置修正手段により位置が修正された質点に接続されるエッジによって示される糸経路に糸表面を表す面を形成し、前記経編物の3次元モデルを生成するステップとを備えることを特徴とする編構造モデル生成方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図24】
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【図27】
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【図1】
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【図6】
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【図8】
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【図15】
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【図17】
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【図21】
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【図23】
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【図25】
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【図26】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2008−129881(P2008−129881A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314826(P2006−314826)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(501260510)デジタルファッション株式会社 (13)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】