説明

編物

【課題】溶出により得られたシャープな多葉断面糸による軽量かつ薄くてソフトで、マイルドで上品な光沢、及び、さらっとした肌触りを持ち破裂強力特性に優れた編物を提供する。
【解決手段】横断面が葉の頂点のなす角αが90度以下である葉1を3つ以上有する形状である多葉断面フィラメント糸を少なくとも30重量%以上含む編地であって、かつ破裂強力が250kPa以上、目付けが130g/m以下であることを特徴とする編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャープな多葉断面フィラメント糸による軽量かつ薄くてソフトで、マイルドで上品な光沢とさらっとした肌触りを持ち破裂強力特性に優れた編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より編物はストレッチ性に優れることから、インナー用途やスポーツ用途、セーターなどに多用されて来た。しかし、織物に比べて構造的に嵩高になるために薄地化や軽量化を図ることはむずかしかった。これまで、編物において軽量化をはかるためには中空糸が多用されてきた。例えば、特許文献1に中空繊維の製造方法として紡糸口金により中空繊維を製造する方法が、特許文献2に芯鞘複合糸を製糸した後に芯部を溶出除去することにより中空糸を製造する方法が記載されている。いずれもある程度の軽量化は可能であるが嵩高になり、軽量化と薄地化の両方を兼ね備えるには至らず、断面は丸断面のため光沢のない編物であった。また、光沢を得るために異型断面糸を用いた編物が従来から種々検討されてきており、多葉断面糸についても多くの検討がされているが、いずれも異型口金による直接紡糸のため口金吐出直後のポリマー粘度が低いため丸みを帯びた断面形状となり光沢性には劣るものであった。
一方、溶出成分を含む芯鞘型複合糸から得られた、断面形状を制御したフィラメント糸が特許文献3に記載されている。しかし、高い破裂強力を有する、軽量な編物については開示されていない。
【特許文献1】特許第3653842号公報
【特許文献2】特開2005−42222公報
【特許文献3】特開2003−313721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、溶出により得られたシャープな多葉断面糸による軽量かつ薄くてソフトで、マイルドで上品な光沢とさらっとした肌触りを持ち破裂強力特性に優れた編物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0005】
すなわち、多葉断面フィラメント糸が少なくとも30重量%以上を含む編物であって、該多葉断面の形状は横断面が葉の頂点のなす角αが90度以下である葉を3つ以上有する形状で下記(1)〜(2)式を満たすものであり、かつ破裂強力が250kPa以上、目付けが130g/m以下であることを特徴とする編物である。
(1)0.5r≦amax
(ただし、フィラメント横断面の外接円半径をrとし、フィラメント横断面の各葉が隣の葉と共有する2点B(Ci−1と共通)、C(Bi+1と共通)がそれぞれ各葉の頂点Tで結ばれる線分のうち最も長いものをamaxとした。)
(2)Σ2S/KN≦1.7
(ただし、フィラメント横断面の各葉が隣の葉と構成する2点B(Ci−1と共通)、C(Bi+1と共通)を結ぶ線分Bの長さをKとし、各葉が線分Bで切り取られる部分の面積をS、各葉の頂点Tと線分Bの中点との距離をLとした。またフィラメント横断面がもつ葉の数をNとした。)
また、本発明の多葉断面フィラメント糸は、芯鞘型複合糸の鞘成分を溶解させて製造されたポリアミド繊維からなり、その芯鞘複合型多葉断面フィラメント糸の複合比率が重量比で、芯成分:鞘成分=30:70〜50:50であることを特徴とするものである。
前記多葉断面フィラメント糸のトータル繊度が10〜75デシテックス、単繊維繊度が0.5〜4.0デシテックス、前期編地の度目のウエルが40〜85本/2.54cmおよびコースが40〜150本/2.54cmであって、厚さが0.15〜0.75mmであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、シャープな多葉断面フィラメント糸による編物のため非常に軽量かつ薄くてソフトで、マイルドで上品な光沢とさらっとした肌触りを持ちかつ破裂強力特性に優れたこれまでにない編物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
本発明の編物に用いられる多葉断面フィラメント糸は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミド類、ポリアクリロニトリル、その他いかなる合成重合体(ポリマー)の繊維であっても良いが、発色性、強度の面からポリアミド繊維であることが好ましい。また、繊維に用いられる重合体はホモポリマーだけでなく、これらの共重合体であってもよい。また、公知の艶消し剤、耐光剤、耐熱剤、制電防止剤などを目的により添加することができる。
【0009】
本発明の編物に用いられる多葉断面フィラメント糸は、その横断面が、葉の頂点のなす角αが90度以下である葉を3つ以上有する形状のものであり、好ましくは葉の数は5つ以上である。ここで葉とは、図1に示すように、糸横断面において凸状の突起となっている部分を指す。また、角αは葉の頂点Tと各葉が隣の葉と共有する2点B(C−1と共通)、C(Bi+1と共通)によりなす角Bと定義する。葉の頂点のなす角αが90度未満である葉が2つ以下の場合には編物にした時に肌との接点が点にならないためさらっとした肌触りが得られず、また光沢が強くなりすぎてマイルドで上品な光沢を得ることができない。葉の頂点をなす角は糸の横断面の写真から測定することができる。
【0010】
多葉断面フィラメント糸の外接円半径をr、フィラメント横断面の各葉が隣の葉と共有する2点B(C−1と共通)、C(Bi+1と共通)がそれぞれ各葉の頂点Tで結ばれる線分のうち最も長いものをamaxと図2、図3で示すように定義する。この時、本発明における多葉断面フィラメント糸は、
(1)0.5r≦amax
を満たすものであり、0.5r>amaxの時には、葉の長さが小さいため肌との接触が多くなりさらっとした触感が得られない。また、葉の長さが大きいと繊維内部への反射光が複雑となり光沢に深みが増しマイルドで上品な光沢が得られる。
【0011】
また、フィラメント横断面の各葉が隣の葉と構成する2点B(Ci−1と共通)、C(Bi+1と共通)を結ぶ線分Bの長さをKとし、各葉が線分Bで切り取られる部分の面積をS、各葉の頂点Tと線分Bの中点との距離をLとし、フィラメント横断面がもつ葉の数をNとしたとき、本発明における多葉断面フィラメントは、
(2)Σ2S/KN≦1.7
を満たすことが重要であり、好ましくはΣ2S/KN≦1.5である。Σ2S/KN=1の時、葉が正確な三角形となり、Σ2S/KN>1.7のときには、葉が丸みを帯びシャープでないため、編物としたときにさらっとした触感やマイルドで上品な光沢を得ることができない。
【0012】
また、S、K、L、Nについては、糸を繊維長さ方向に垂直に切断し、この切断面を観察し、写真にとり、写し取られた断面について、面積、長さを実測することにより求めることができる。具体的には、面積は、株式会社内田洋行の「DIGITAL PLANIMETER」等で測定できる。実測した値から、S/KNをi=1〜Nについてそれぞれ計算し、これを合計することでΣ2S/KNが求められる。例えば図2の(a)の場合、S、K、L、S、K、L・・・S、K、Lを実測し、S1/K1N、S2/K22N・・・S/KNを計算し、それらを合計することでΣ2S/KNが求められる。
【0013】
また、本発明においては、多葉断面フィラメント糸を少なくとも30重量%以上含む編物であることが重要であり、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。多葉断面フィラメントの構成重量が30重量%以下の時、多葉断面糸の特徴が認められず、軽量感、さらっとした触感、マイルドで上品な光沢などの特徴が得られない。
【0014】
なお、本発明の編物の破裂強力は、250kPa以上であることが重要である。編物の破裂強力が250kPa未満では着用中に破れたりし、また、破裂強力は1500kPa以下が好ましい。1500kpaを超えると編物が粗硬になる。ここで破裂強力とは、JIS L1018「ニット生地試験方法」(1999)に従ってA法(ミューレン形法)に基づいて測定した値をいう。また、本発明の編物は、目付けが130g/m以下であることが好ましい。目付けが130g/m以下であれば一般的に編物として軽量感を感じることができる。より好ましくは100g/m以下である。編物組織により異なるが、多葉断面フィラメント糸100%使いの編物であれば70g/m以下が可能で非常に軽量感を得ることができる。また、目付けは30g/m以上とすることで染色加工時の工程通過性や、縫製上の取り扱い性、可縫性が良好となる。ここで目付とは、JIS L1018「ニット生地試験方法」(1999)に従って1m当たりの質量を求めた。
【0015】
上記範囲の目付けを維持しつつ、上記範囲の破裂強力を有し、さらに光沢をも有する編地は、上記の多葉断面フィラメント糸を用いることにより、特に上記の多葉断面フィラメント糸を編地重量に対して少なくとも30重量%以上用いることにより達成可能となったものである。また、多葉断面フィラメント糸のトータル繊度が10〜75デシテックス、単繊維繊度が0.5〜4.0デシテックスとすることで、ソフトでさらっとした肌触りや上品な光沢を兼ねそろえた、軽量で高い破裂強力を有する編地を得ることができる。
【0016】
本発明の編地は、多葉断面フィラメント糸を複数本あわせたマルチフィラメントとして用いることが好ましい。多葉断面フィラメント糸のトータル繊度が10〜75デシテックス、単繊維繊度が0.5〜4.0デシテックスであることが好ましい。より好ましくは、トータル繊度が10〜56デシテックス、単繊維繊度が0.5〜2.0デシテックスである。トータル繊度が10〜75デシテックス、単繊維繊度が0.5〜4.0デシテックスの両方を兼ね備えないとソフトで薄く軽量でかつ破裂強力を250kPaに維持することができない。
【0017】
また、編地の度目のウエルが40〜85本/2.54cmおよびコースが40〜150本/2.54cmであって、厚さが0.15〜0.75mmであることで、ソフトで薄くて軽量な編物が得られる。
【0018】
また、本発明においては、多葉断面フィラメント糸を得るには後述するように芯鞘型複合糸を用いることが望ましいが、軽量感を得るためにはその芯成分と鞘成分の複合比率=30:70〜50:50が望ましい。本発明の編地の破裂強力を250kPa以上に保つためには、芯成分と鞘成分の複合比率=40:60、更に好ましくは芯成分と鞘成分の複合比率=50:50にし、各葉の部分を太くすることがより好ましい。
本発明における多葉断面フィラメントの製造方法の一例としては、例えば次の通りである。すなわち、溶出可能な成分を鞘に、鞘成分を溶出する時に使用する溶出剤に不溶もしくは鞘成分に比べて極めて溶解性の小さい成分を多葉部分(芯成分)として芯鞘複合紡糸し、その後鞘成分を溶出処理することによりシャープな多葉断面状の芯成分を残すことができる。なお、芯成分の素材に用いるポリマーとしては、前述の重合体(ポリマー)を使用することができ、鞘成分溶出剤については芯成分に応じて適宜選択することができる。中でも、芯成分がポリアミド、鞘成分がポリエステルやポリ乳酸からなる芯鞘型複合糸が好ましい。また、溶出処理は公知の溶出処理、例えばアルカリ溶出処理を採用することができる。これらのポリマー、特に鞘成分ポリマーに対して、アルカリ溶出処理速度を促進させるために必要に応じて共重合させたり、添加剤などを含ませることができる。この溶出処理において、鞘成分を完全に溶出することが重要である。鞘成分が残留していると軽量感と光沢感が得られない。また、芯鞘型複合糸においては芯成分は鞘成分に囲まれているため、表面張力により芯成分の葉の先端や谷部分が丸くなろうとするのが阻害され、芯成分(多葉部分)はシャープな形状を維持することができる。芯成分が丸くなろうとするのが阻害される観点から、鞘成分に用いるポリマーは芯成分に用いるポリマーよりも高粘度であることが望ましい。また、鞘成分溶出前の芯鞘型複合糸の断面は、丸、四角、扁平、Y字その他どのような形状であっても特にかまわないが、芯成分の形状を保持する点から丸断面が好ましい。また、前記の溶出処理は、編成前よりも編成後に行うことが好ましい。
【0019】
本発明の編地は、特に編組織等には限定されるものではない。例えば、丸編地であれば、シングル丸編地、ダブル丸編地、あるいは成形丸編地でもよく、また、経編地であれば、シングルトリコット地、ダブルトリコット地、シングルラッセル地、あるいはダブルラッセル地を使用することができ、横編地であれば、シングル横編地、ダブル横編地、あるいは成形横編地を使用することができる。
【0020】
また、編組織は、丸編地の天竺組織、天竺リバーシブル組織、フライス組織、インターロック組織、リバーシブル組織、その他変化組織、縦編地のハーフ組織、バックハーフ組織、クインズコート組織、サテン組織、サテンネット組織、パワーネット組織、あるいはその他変化組織等、特に限定されることはない。ただ、編成後50〜70重量%の鞘成分を溶出することから、破裂強力を250kPa以上を得るために通常よりも度目アップをはかることが好ましい。編成時のループ長やランナー長を通常の編成条件よりも15%以上短くすることにより度目アップが可能となる。また用途によりストレッチ性が要求される場合は、ポリウレタン系弾性を交編させることが好ましい。また用途により、溶出により溶解しないポリアミド系繊維や、綿、麻などと交編することも好ましい。本発明においてのアルカリ溶出処理、精練や染色などの加工は、通常の編地の加工法に準じて行えばよく、特に特別な設備などは必要ではない。この染色段階での付帯加工として柔軟仕上げ加工が好ましい。
【0021】
本発明の編地においては、高減量により糸と糸の隙間が大きくなるため、シャープな葉先と葉先が引っかかって伸びた編地が戻りにくくなるワライと言われる現象が起きる場合には、シリコン系柔軟仕上げ剤などにより加工をほどこすことが好ましい。これにより、糸と糸が滑りやすくなりワライの現象は解消される。その他用途により撥水加工、防汚加工、抗菌加工、消臭加工、防臭加工、難燃加工、吸汗加工、吸湿加工、防カビ加工、紫外線吸収加工など、さらに、後加工としてカレンダー加工、エンボス加工、シワ加工、起毛加工、プリント加工、あるいはオパール加工など、要求特性に応じて適宜付与することが望ましい。
【0022】
本発明の編地は、次のように幅広い用途に展開可能である。例えば、運動着類、インナーウエア類、ホームウエア類、ユニフォームウエア類、アウターウエア類に、資材用ではサポーター類、靴下類などに好ましく使用することができる。また、その他、裏地類、靴材類、手袋類などにも問題なく使用できる。運動着類ならば、ランニングシャツ・パンツ、競技シャツ・パンツ、ゴルフシャツ、テニスシャツ、サイクルシャツ、アウトドアシャツ、ポロシャツ、Tシャツ、野球用アンダーシャツ、トレーニングウエア、スエットシャツ・パンツなど。インナーウエア類ならば、一般婦人用のスリップ、キャミソール、ペチコート、ショーツ、アンダーパンツ、タイツ、Tシャツ、丸首シャツ、U首シャツ、ボディスーツ、ガードルなどや、一般紳士用のTシャツ、丸首シャツ、U首シャツ、ランニングシャツ、アンダーパンツ、タイツ、ブリーフ、トランクス等、さらに、また、これらのインナーの転用を含めたアスレチック、アウトドア、スキーなどのスポーツ用インナー類、さらには、屋外作業、屋内作業などの作業用インナー類など。ホームウエア類ならば、室内着、パジャマ、ネグリジェ、ガウンなど。アウターウエア類ならば、婦人服、紳士服、子供服、作業服など。裏地類ならば、スポーツウエア用、婦人服用、紳士服用、子供服用、礼服用、学生服用、作業服用裏地などに好ましく使用することができる。軽量でさらっとした肌触りとマイルドで上品な光沢を持つことから、婦人服のアウターウエアであるドレスや、インナーウエア類のスリップ、キャミソール、ペチコートなどには特に好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明中の各評価は次の方法で行った。
(1)目付け
JIS L1018「ニット生地試験方法」(1999)に従って1m当たりの質量を求めた。
(2)厚さ
JIS L1018「ニット生地試験方法」(1999)に従って厚さ測定器を用い0.7kPaの圧力をかけて5箇所測定し、平均値を求めた。
(3)破裂強力
JIS L1018「ニット生地試験方法」(1999)に従ってA法(ミューレン形法)に基づいて測定した。すなわち、まず15cm×15cmの試験片を5枚採取する。試験片の表を上にしてシワおよびたるみを生じないようにし、ポリウレタンの交編していない編物は、張力を加えずミューレン型破裂試験機に取り付ける。ポリウレタンを交編している編物は、張力を加えないと、ミューレン型試験機のゴム膜よりも伸びがあるため測定不能となるので、編物表面にあらかじめ直径2cmの円を描き刺繍枠に固定後、その円を直径3cmの円に拡大して張力を加えた状態で刺繍枠に再固定したままで、ミューレン型破裂試験機に取り付けて圧力を加え、ゴム膜が試験片を破断した時の強力を測定し(A)、その後試験片を取り外しゴム膜だけの強力(B)を求める。次の式により破裂強力(C)を算出し、5枚の平均値を破裂強力として示した。
破裂強力(C)=(A)−(B)
A:ゴム膜が試験片を突き破る強さ(kPa)
B:破断時のゴム膜だけの強さ(kPa)
(4)ソフト性評価
編物のソフト性についてモニター10人に対し官能で比較評価した。
かなりソフトなものを3点、ややソフトなものを2点、どちらでもないものを1点、ソフトでないものを0点とし、10人の平均を記載した。
(5)肌触り性評価
編物のさらっとした肌触り性についてモニター10人に対し官能で比較評価した。
かなりさらっとしたものを3点、ややさらっとしたものを2点、どちらでもないものを1点、ぬめりがあるものを0点とし、10人の平均を記載した。
(6)光沢性評価
編物の光沢性についてモニター10人に対し官能で比較評価した。
マイルドで上品な光沢があるものを3点、マイルドで上品な光沢がややあるものを2点、光沢がないものを1点、ギラギラした光沢があるものを0点とし、10人の平均を記載した。
【0024】
(7)半径r、amax、S、K、L、Σ2S/K
多様断面フィラメントを繊維長さ方向に垂直に切断し、この切断面を走査型顕微鏡で拡大観察し、800倍に拡大して写真撮影した後、その写真をさらにコピー機で400倍に拡大した。その拡大した断面について、外接円を描き半径rを求めた。フィラメント横断面の各葉が隣の葉と共有する2点B(Ci−1と共通)、C(Bi+1と共通)およびB(Ci−1と共通)、C(Bi+1と共通)を結ぶ線分Bの長さをK、各葉の頂点Tと線分Bの中点との距離をLとを測定した。面積Sは、株式会社内田洋行の「DIGITAL PLANIMETER」で測定した。実測した値から2S/Kをi=1〜Nについてそれぞれ計算し、これを合計することでΣ2S/KNが求められる。例えば図2の(a)の場合、S、K、L、S、K、L・・・S、K、Lを実測し、S1/K1N、S2/K22N・・・S/KNを計算し、それらを合計することでΣ2S/KNが求められる。なお、多様断面フィラメントを繊維長さ方向に垂直に切断する時、切断により変形したものは測定より省いた。
【0025】
実施例1
98%硫酸相対粘度が2.62のナイロン6を8葉星状芯部に、ポリエチレンテレフタレートを鞘部に配置されるように設計された紡糸口金を用いて、重量比でナイロン6が30重量%、ポリエチレンテレフタレートが70重量%、紡糸温度290℃で溶融吐出し、冷却、給油、交絡後、非加熱ローラーで引き取り、160℃に加熱されたローラーとの間で1.4倍に延伸して、巻取速度4000m/minで巻き取り、56デシテックス、18フィラメントの図4(a)に示す形状の芯鞘複合糸を得た。得られた糸で42Gの丸編機でループ長が100ループで180mmになる条件でスムースを編成した。この生機を精錬後、水酸化ナトリウム60g/Lを用いて、鞘部分のポリエステル成分を完全に溶解させた。続いて酸性染料(Nylosan Blue N−GFL 167%(クライアントジャパン株式会社製))1重量%、昇温速度1℃/分、染色温度90℃、染色時間30分で染色後、180℃で仕上げセットを行い、ウエル71本/2.54cm、コース58本/2.54cm、目付け40g/m、厚さ0.25mmの編物を得た。破裂強力は300kPaであった。多葉断面フィラメントの横断面をSEM写真(図4(a‘))に撮り横断面の葉を頂点となす角度αを測定した結果、8箇所の角度は最小のものが17度、最大のものが29度であった。その他の評価結果を表1に示す。
【0026】
実施例2
重量比でナイロン6が50重量%、ポリエチレンテレフタレートが50重量%である以外は実施例1と同じ条件で溶融紡糸した糸を得た。得られた56デシテックス18フィラメント図4(b)に示す形状の芯鞘複合糸と33デシテックスのポリウレタン弾性糸(“ライクラ”(登録商標)、オペロンテックス社製)で32Gのトリコット機で、2ウエイトリコットハーフを編成した。ランナー長は480ヶのループでナイロンポリエステル複合糸が130cm、ライクラが63cmであった。この生機を精錬、中間セット後、水酸化ナトリウム60g/Lを用いて、鞘部分のポリエステル成分を完全に溶解させた。実施例1と同条件で染色後、185℃で仕上げセットを行い、ウエル66本/2.54cm、コース130本/2.54cm、目付け128.5g/m、厚さ0.63mmの編物を得た。破裂強力は280kPaであった。実施例1と同様に多葉断面フィラメントの横断面をSEM写真に撮り横断面の葉を頂点となす角度αを測定した結果、8箇所の角度は最小のものが43度、最大のものが50度であった。評価結果を表1に示す。
【0027】
実施例3
33デシテックス、18フィラメントである以外は実施例1と同じ条件で溶出紡糸した重量比ナイロン6が30重量%、ポリエチレンテレフタレートが70重量%である図4(a)に示す形状の糸を得た。得られた糸と17デシテックス、8フィラメントの丸断面のナイロン6の糸を一本交互に42Gの丸編機でループ長が100ループで170mmになる条件でスムースを編成し、実施例1と同条件で染色加工を行った。得られた編地はウエル83本/2.54cm、コース61本/2.54cm、目付37g/m、厚さ0.26mmの編物を得た。破裂強力は290kPaであった。実施例1と同様に多様断面フィラメントの横断面をSEM写真に撮り横断面の葉を頂点となす角αを測定した結果、8箇所の角度の最小のものが15度、最大のものが25度であった。その他の結果を表1に示す。
【0028】
比較例1
重量比でナイロン6が20重量%、ポリエチレンテレフタレートが80重量%である以外は実施例1と同じ条件で溶融紡糸した糸を得た。得られた56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合糸で実施例1と同条件でスムースを編成し染色加工を行った。得られた編地はウエル75本/2.54cm、コース56本/2.54cm、目付け27g/m、厚さ0.14mmの編物を得た。破裂強力は179kPaであった。実施例1と同様に多葉断面フィラメントの横断面をSEM写真に撮り横断面の葉を頂点となす角度αを測定した結果、8箇所の角度は最小のものが11度、最大のものが16度であった。その他の評価結果を表1に示す。
【0029】
比較例2
重量比でナイロン6が70重量%、ポリエチレンテレフタレートが30重量%である以外は実施例1と同じ条件で溶融紡糸した糸を得た。得られた56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合糸で実施例2と同条件で2ウエイトリコットハーフを編成、染色加工を行った。得られた編地はウエル61本/2.54cm、コース134本/2.54cm、目付け182g/m、厚さ0.99mmの編物を得た。破裂強力は392kPaであった。実施例1と同様に多葉断面フィラメントの横断面をSEM写真に撮り横断面の葉を頂点となす角度αを測定した結果、8箇所の角度は最小のものが81度、最大のものが87度であった。その他の評価結果を表1に示す。
【0030】
比較例3
実施例1と同じナイロン6が30重量%、ポリエチレンテレフタレートが70重量%で溶融紡糸した56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合糸と33デシテックスのナイロン6の糸と33デシテックスのポリウレタン弾性糸(“ライクラ” (登録商標)、オペロンテックス社製)で32Gのトリコット機で、2ウエイトリコットハーフを編成した。ランナー長は480ヶのループでナイロンポリエステル複合糸が144cm、ナイロン糸が102cm、ライクラが80cmであった。この生機を精錬、中間セット後、水酸化ナトリウム60g/Lを用いて、鞘部分のポリエステル成分を完全に溶解させた。実施例2と同条件で染色後、185℃で仕上げセットを行い、ウエル60本/2.54cm、コース125本/2.54cm、目付け190g/m、厚さ0.92mmの編物を得た。破裂強力は372kPaであった。実施例1と同様に多葉断面フィラメントの横断面をSEM写真に撮り横断面の葉を頂点となす角度αを測定した結果、8箇所の角度は最小のものが17度、最大のものが29度であった。評価結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明が提供する多葉断面フィラメントの横断面形状の一例を示す横断面図である、(a)は8葉、(b)は6葉の例を示す。
【図2】本発明で定義した多葉断面フィラメントの横断面形状を示す記号を説明する横断面図であり、(a)は8葉、(b)は6葉の例を示す。
【図3】本発明で定義した多葉断面フィラメントの葉の部分を示す記号を説明する横断面図である。
【図4】本発明の実施例で用いた芯鞘複合糸の断面概略図およびSEM写真である。
【符号の説明】
【0033】
1:葉
T1〜T8:各葉の頂点
α:葉の頂点のなす角度
r:外接円の半径
K1:B1とC1の長さ
S1:葉が線分B1C1で切り取られた部分の面積
L1:葉の頂点T1と線分B1C1の中点との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面が葉の頂点のなす角αが90度以下である葉を3つ以上有する形状であり、下記(1)〜(2)式を満たすことを特徴とする多葉断面フィラメント糸を少なくとも30重量%以上含む編物であって、かつ破裂強力が250kPa以上、目付けが130g/m以下であることを特徴とする編物。
(1)0.5r≦amax
(ただし、フィラメント横断面の外接円半径をrとし、フィラメント横断面の各葉が隣の葉と共有する2点B(Ci−1と共通)、C(Bi+1と共通)がそれぞれ各葉の頂点Tで結ばれる線分のうち最も長いものをamaxとした。)
(2)Σ2S/KN≦1.7
(ただし、フィラメント横断面の各葉が隣の葉と構成する2点B(Ci−1と共通)、C(Bi+1と共通)を結ぶ線分Bの長さをKとし、各葉が線分Bで切り取られる部分の面積をS、各葉の頂点Tと線分Bの中点との距離をLとした。またフィラメント横断面がもつ葉の数をNとした。)
【請求項2】
前記多葉断面フィラメント糸が、芯鞘型複合糸の鞘成分を溶解させて製造されたポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1に記載の編地。
【請求項3】
前記芯鞘型複合糸の複合比率が重量比で、芯成分:鞘成分=30:70〜50:50であることを特徴とする請求項2に記載の編地。
【請求項4】
前記多葉断面フィラメント糸のトータル繊度が10〜75デシテックス、単繊維繊度が0.5〜4.0デシテックス、かつ編地の度目のウエルが40〜85本/2.54cmおよびコースが40〜150本/2.54cmであって、厚さが0.15〜0.75mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−162158(P2007−162158A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358537(P2005−358537)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】