説明

縦型低温液体貯槽の支持構造

【課題】支持スカートのオーバースペックを解消でき、また支持スカートの外槽を支持する部分近傍の構造を簡素化して施工性の向上を図る。
【解決手段】低温液体を貯蔵する内槽が支持スカート5を介して基礎上に支持され、その内槽1を囲繞する外槽10が、支持スカートに支持されている。支持スカートが上側の内槽スカート部と下側の外槽スカート部とに分割されている。内槽スカート部の板厚は外槽スカート部の板厚よりも小となるように設定されている。内槽スカート部と外槽スカート部の間に放熱板を兼ねるアニュラープレートが介装されている。外槽アニュラープレートに、外槽の底板15が支持されるとともに、外槽の側板から下方に延びるコーン14が支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦型低温液体貯槽の支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体窒素,液体酸素、LNG等の低温液体を収容する貯槽の支持構造として、下記特許文献1には、低温液体を収容する縦型の内槽が支持スカートを介して基礎上に支持され、内槽を囲繞する外槽が設けられ、外槽の底板が支持スカートに接続されるとともに、支持スカートの外周に放熱兼補強リング部材が設けられ、放熱兼補強リング部材と外槽の側板下部とがコーンで連結された構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−153298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1に開示された縦型低温液体貯槽の支持構造にあっては、低温に強いものの比較的高価であるステンレス鋼からなる支持スカートが内槽の下端から基礎まで達するようにかつ一定の板厚をもって配置されており、オーバースペックとなっていた。
また、支持スカートのある高さ位置では、支持スカートの内側に中間部材を介して外槽の底板が接続されるとともに、支持スカートの外側に放熱兼補強リングを介してコーンが接続されており、支持スカートと外槽の底板との間に介装される中間部材並びに支持スカートとコーンとの間に介装される放熱兼補強リング部材がそれぞれ幅狭であることもあって、支持スカートのある高さ位置に複数の部材が集中することとなり、その部分の構造が複雑になる不具合があった。
また、上述したように支持スカートのある高さ位置に複数の部材が集中しており、それら部材どうしを溶接しなければならず、狭いスペースでの溶接作業を強いられることとなり、施工性が悪いという不具合もあった。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、支持スカートのオーバースペックを解消でき、また支持スカートの外槽を支持する部分近傍の構造を簡素化して施工性の向上を図ることができる縦型低温液体貯槽の支持構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る縦型低温液体貯槽の支持構造は、低温液体を貯蔵する内槽が支持スカートを介して基礎上に支持され、その内槽を囲繞する外槽が、前記支持スカートに支持される縦型低温液体貯槽の支持構造において、前記支持スカートが上側の内槽スカート部と下側の外槽スカート部とに分割されるとともに、前記内槽スカート部の板厚が前記外槽スカート部の板厚よりも小となるように設定され、前記内槽スカート部と前記外槽スカート部の間に放熱板を兼ねるアニュラープレートが介装されていることを特徴とする。
【0007】
前記縦型低温液体貯槽の支持構造によれば、支持スカートが上側の内槽スカート部と下側の外槽スカート部とに分割されており、内槽スカート部と外槽スカート部をそれぞれその強度に適する板厚にすることが可能となる。すなわち、内槽スカート部をある板厚に設定し、内槽のスカート部の板厚よりも厚く外槽スカート部を板厚を設定することが可能になる。
また、内槽スカート部と外槽スカート部の間に放熱板を兼ねるアニュラープレートが介装されており、内槽スカート部から外槽スカート部へ伝わる冷熱がこのアニュラープレートを介して外部へ積極的に発散される。
【0008】
また、前記アニュラープレートは、前記支持スカートから内方へ張り出す内側張出し部と、前記支持スカートから外方へ張り出す外側張出し部とを備え、前記内側張出し部に前記外槽の底板が支持されるとともに、前記外側張出し部に前記外槽の側板から下方に延びるコーンが支持されている。
アニュラープレートによって、外槽の底板が支持されるとともに外槽の側板から下方に延びるコーンが支持されるので、外槽の底板および側板の荷重はそのままアニュラープレートが受けることとなり、内槽並びに外槽側板等の荷重がアニュラープレートを介して外槽スカート部へ伝わり、さらに外槽スカート部から基礎へ伝わる。
また、アニュラープレートにおける外槽の底板が支持される箇所と外槽の側板から延びるコーンが支持される箇所が、互いに離間するとともに支持スカートとの接合部分からも離れる。
【0009】
また、前記内槽スカート部はステンレス鋼により製作され、前記外槽スカート部は炭素鋼により製作されていることが好ましい。
極低温下での使用を余儀なくされる内槽スカート部には、比較的高価かつ低温でも高強度を発揮するステンレス鋼を用い、使用温度が低くならない外槽スカート部には比較的安価でありながら充分な強度を有する炭素鋼を用いる。つまり、使用される温度域に応じ、内槽スカート部及び外槽スカート部にそれぞれ最適な材料を用いる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、支持スカートの上下部分でそれぞれ板厚を変えるので先行技術の欠点であるオーバースペックを解消することができる。例えば、内槽スカート部に比較的高価であるステンレス鋼を用いる場合、板厚を小さくすることに伴う材料費の低減が多大となり、多いなる利点が得られる。また、支持スカートの外槽を支持する部分近傍の構造が簡素化するので施工性が向上する。
また、内槽スカート部と外槽スカート部の間に介装されたアニュラープレートが、内槽スカート部から外槽スカート部へ伝わる冷熱を外部へ積極的に発散するので、内槽スカート部からの冷熱により外槽スカート部が低温になって結露するのを回避できる。
外槽スカート部を工場で予め製作し、ブロック化して現地に搬入することで現場工数の削減が可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、アニュラープレートにおける外槽の底板が支持される箇所と外槽の側板から延びるコーンが支持される箇所が、互いに離間するとともに支持スカートとの接合部分からも離れるので、アニュラープレートに外槽の底板とコーンをそれぞれ溶接するとき、並びにアニュラープレートを外槽スカート部や内槽スカート部に溶接するときに、それらの溶接箇所同士が干渉して熱の影響を受けるのを回避できる。また、溶接箇所同士が離間するので、それらを溶接する際の施工性が向上する。さらに、支持スカートの外槽を支持する部分近傍の構造が簡素化するので施工性がより一層向上する。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、内槽スカート部に比較的高価かつ低温でも高強度を発揮するステンレス鋼を用いるとともに、外槽スカート部に比較的安価でありながら充分な強度を有する炭素鋼を用いるので、所定の強度を維持しつつ無理なくコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る縦型低温貯槽の支持構造の実施形態全体を示す一部を断面した側面図である。
【図2】前記実施形態の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
図1は、LNG、液体酸素、液体窒素などに採用される200〜2400KLの中型の低温貯槽における縦型低温液体貯槽の支持構造の全体断面図を示し、図2は、その要部の拡大断面図を示したものである。
図1において、1はLNG、液体酸素、液体窒素等の低温液体を収容する内槽であり、この内槽1は上部鏡板2と下部鏡板3とその上下の鏡板2,3を結ぶ側板4とで形成される。内槽1は円筒状の支持スカート5を介して基礎6上に支持される。
【0015】
支持スカート5は、内槽1の側板4の径と略同じに径となるように形成され、その下端のベースプレート7が基礎6に設けた図示せぬアンカーボルトに固定される。
【0016】
内槽1の外側には内槽1を囲繞するように外槽10が設けられ、それらの内外槽1,10間にパーライト粒等が充填されてなる保冷材層11が形成される。
【0017】
外槽10は、屋根部12と、側板13と、側板13の下端と支持スカート5とを結ぶ逆円錐台状のコーン14と、支持スカート5内に設けられた底板15と、コーン14及び底板15の間に介在されるリング状の外槽アニュラープレート16で形成される。
【0018】
内槽1の上部には、液受入用やBOG排出用の図示せぬ配管が接続され、その配管が、保冷材層11を通して外槽10の外方まで延出される。また内槽1の底部には送液や液払出用の図示せぬ配管が接続され、その配管が支持スカート5に形成した開口を通して外槽10の外方まで延出される。
【0019】
次に、図2により、支持スカート5に外槽10を支持する構造を詳しく説明する。
支持スカート5は、上側の内槽スカート部18と下側の外槽スカート部19とに分割されている。これら上下に分割された内槽スカート部18と外槽スカート部19との間に前記外槽アニュラープレート16が介装される。
外槽アニュラープレート16は、支持スカート5の内側及び外側の両方へ張り出した構造になっている。すなわち、外槽アニュラープレート16は、前記支持スカート5から内方へ張り出す内側張出し部16Aと、前記支持スカート5から外方へ張り出す外側張出し部16Bとを備える。
【0020】
外槽10の側板13の下部には補強リング20が取り付けられ、この補強リング20にはコーン14の外周部が取り付けられ、コーン14の内周部は外槽アニュラープレート16の外側張出し部16Bに取り付けられる。つまり、外側張出し部16Bによって前記コーン14の外周部が支持される。
【0021】
外槽10の底板15の外周部は、底板15と保冷材層11の底部との断熱性を考慮して内槽1の下部鏡板3より十分下方に位置するように、外槽アニュラープレート16の内側張り出し部16Aに取り付けられる。つまり、内側張出し部16Aによって前記外槽10の底板15の内周部が支持される。
【0022】
内槽1及び支持スカート5の内槽スカート部18には、極低温に強い材料例えばSUS304が用いられ、外槽10、補強リング20、コーン14、外槽スカート部19、外槽アニュラープレート16は比較的安価でかつ強度を有する炭素鋼が用いられる。また、内槽スカート部18の板厚Waは、外槽スカート部19の板厚Wbよりも小となるように設定されている。例えば、内槽スカート部18の板厚Waは18mmに設定され、外槽スカート部の板厚Wbは20mmに設定されている。
【0023】
次に、前記実施形態の縦型低温液体貯槽の支持構造の作用について説明する。
内外槽1,10間の保冷材層11に、外気温、外気圧の変化に対する呼吸用として窒素ガスを所定圧となるまで封入した状態で、内槽1内に低温液体Lを収容する。
収納された低温液体Lは、内槽1を介して保冷材層11によって周囲を囲繞されているため、充分低温状態に保たれる。
【0024】
ここで、支持スカート5が上側の内槽スカート部18と下側の外槽スカート部19とに分割されており、内槽スカート部18と外槽スカート部19がそれぞれ各用途にあった板厚に設定されかつ別の材料によって製作されている。すなわち、この実施形態では、内槽スカート部18の板厚Waが外槽スカート部19の板厚Wbよりも小となるように設定され、しかも、内槽スカート部18がSUS304により製作されるとともに外槽スカート部19が炭素鋼により製作されている。このように支持スカート5を上下部分で板厚を変えしかもそれぞれ別の材料で製作しているので、従来技術の欠点であるオーバースペックを解消することができる。
【0025】
つまり、支持スカート5のうち上側の内槽スカート部18には内槽1及び内槽内に貯蔵される低温液体Lの荷重がかかり、下側の外槽スカート部19には、それら内槽スカート部18及び低温液体Lの荷重の他に、さらに外槽10や保冷材層11の荷重もかかる。ここで、支持スカート5を一体に形成する場合、その厚さは大きな荷重がかかる外槽スカート部19の板厚Wbによって決定される。つまり、内槽スカート部の板厚Waは強度的にそれほど板厚を厚く設定する必要がなくても、外槽スカート部19の板厚Wbと同じ板厚に設定せざるを得ない。これは明らかに過剰設計である。特に、それら支持スカート部を例えば、高価なステンレス鋼で製作する場合、大幅なコスト高を招いてしまう。ところが、この実施形態では、内槽スカート部18の板厚Waが外槽スカート部19の板厚Wbよりも小となるように設定しているので、過剰設計を回避でき、無理なくコストダウンを図ることができ、かつ、支持構造全体の軽量化を図ることもできる。
加えて、低温下での使用を余儀なくされる内槽スカート部18には比較的高価かつ低温でも高強度を発揮するSUS304を用い、使用温度がそれほど低くならない外槽スカート部19には比較的安価でありながら充分な強度を有する炭素鋼を用いており、この点においても、過剰設計を回避しつつコストの低減を図ることができる。
【0026】
また、支持スカート5を上側の内槽スカート部18と下側の外槽スカート部19とに分割し、それら内槽スカート部18と外槽スカート部19の間に外槽アニュラープレート16を介装し、この外槽アニュラープレート16によって、外槽の底板15を支持させるとともに、外槽の側板13から下方に延びるコーン14を支持させる構造となっている。したがって、先行技術として説明した外槽の底板の外周部や外槽のコーンの内周部が一箇所に集中する支持構造に比べて、支持スカート5の外槽支持部分近傍の簡素化を図ることができ、同時に施工性の向上を図ることができる。
また、外槽スカート部19をあらかじめ工場で製作し、それらをブロック化した状態で現場に搬入することで、現場での工数を削減することも可能となる。
【0027】
また、内槽スカート部18と外槽スカート部19の間に介装された外槽アニュラープレート16が、内槽スカート部18から外槽スカート部19へ伝わる冷熱を外部へ積極的に発散するので、内槽スカート部18からの冷熱の影響を受けて外槽スカート部19が結露するといった事態を回避できる。
【0028】
また、この実施形態では、外槽アニュラープレート16を、支持スカート5から内方へ張り出す内側張出し部16Aと、支持スカート5から外方へ張り出す外側張出し部16Bとを備える構成とし、内側張出し部16Aに外槽の底板15を支持させるとともに、外側張出し部16Bにコーン14を支持させているので、外槽アニュラープレート16における外槽の底板15が支持される箇所と外槽のコーン14が支持される箇所が、互いに離間するとともに支持スカートとの接合部分からも離れることとなる。このため、外槽アニュラープレート16に外槽の底板15やコーン14をそれぞれ溶接するとき並びに外槽アニュラープレート16を内槽スカート部18や外槽スカート部に溶接するときに、それらの溶接箇所同士が干渉して熱の影響を受けるのを回避でき、また、溶接箇所同士が離間するので、それらを溶接する際の施工性が向上する。
【0029】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、本発明は、この実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、外槽スカート部19を単なるリング状としているが、これに限られることなく、外槽スカート部を、必要に応じて所要箇所をリブ等の補強部材によって補強する形状にしてもよい。
また、前記実施形態では、内槽スカート部18をSUS304により製作しているが、これに限られることなく、他のステンレス鋼、さらには液体貯槽時における低温条件下でも所要の強度を有する鋼材によって製作しても良く、さらに、外槽スカート部19と同じ材料で製作しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0030】
1 内槽
4 側板
5 支持スカート
6 基礎
10 外槽
11保冷材層
13 側板
14 コーン
15 底板
16 外槽アニュラープレート(アニュラープレート)
16A 内側張出し部
16B 外側張出し部
18 内槽スカート部
19 外槽スカート部
L 低温液体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液体を貯蔵する内槽が支持スカートを介して基礎上に支持され、その内槽を囲繞する外槽が、前記支持スカートに支持される縦型低温液体貯槽の支持構造において、
前記支持スカートが上側の内槽スカート部と下側の外槽スカート部とに分割されるとともに、前記内槽スカート部の板厚が前記外槽スカート部の板厚よりも小となるように設定され、
前記内槽スカート部と前記外槽スカート部の間に放熱板を兼ねるアニュラープレートが介装されていることを特徴とする縦型低温液体貯槽の支持構造。
【請求項2】
前記アニュラープレートは、前記支持スカートから内方へ張り出す内側張出し部と、前記支持スカートから外方へ張り出す外側張出し部とを備え、
前記内側張出し部に前記外槽の底板が支持されるとともに、前記外側張出し部に前記外槽の側板から下方に延びるコーンが支持されていることを特徴とする請求項1に記載の縦型低温液体貯槽の支持構造。
【請求項3】
前記内槽スカート部はステンレス鋼により製作され、前記外槽スカート部は炭素鋼により製作されていることを特徴とする請求項1または2に記載の縦型低温液体貯槽の支持構造。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−112474(P2012−112474A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262939(P2010−262939)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】