説明

縮合多環芳香族化合物の精製及び製造方法

【課題】縮合多環芳香族化合物を精製及び製造する方法を提供する。
【解決手段】縮合多環芳香族化合物を精製する本発明の方法は、(a)縮合多環芳香族化合物の粗生成物を提供するステップ、(b)二重結合を有する化合物であって、上記縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加する化合物を提供するステップ、(c)縮合多環芳香族化合物と二重結合を有する化合物とを混合して、これらの化合物の付加生成物が少なくとも部分的に溶解している混合液を得るステップ、並びに(d)この混合液から、精製された縮合多環芳香族化合物を分離して得るステップを含む。また、縮合多環芳香族化合物を製造する本発明の方法は、本発明の方法によって縮合多環芳香族化合物の粗生成物を精製するステップを含む。また更に、縮合多環芳香族化合物を製造する本発明の他の方法は、縮合多環芳香族化合物の付加生成物から縮合多環芳香族化合物を得るステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合多環芳香族化合物の精製及び製造方法、特に有機半導体化合物として好適に用いられる縮合多環芳香族化合物の精製及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体化合物は、有機薄膜トランジスタ(TFT)、有機キャリア輸送層、有機発光デバイス等のための有機半導体層への利用に関して、様々な研究がなされている。特に、有機半導体化合物からなる有機半導体層を有する薄膜トランジスタは、低コスト且つ軽量のデバイスとして、現在のシリコンベーストランジスタを代替することが期待されている。また、有機半導体層は、軽量で且つフレキシブルであること等、有機材料に特有の利点を活用することで、スマートタグ、軽量ディスプレイ等への応用も期待されている。
【0003】
したがって、有機半導体層を形成するための有機半導体化合物に関しては多くの研究がなされている(特許文献1〜5、及び非特許文献1)。これらの有機半導体化合物のなかでも、縮合多環芳香族化合物が、材料の安定性、キャリアの移動度等に関して好ましいことが分かってきている。
【0004】
なお、ディールス−アルダー反応と呼ばれる反応が、有機合成の分野で知られている。この反応は、共役二重結合をもった化合物の1位及び4位に、二重結合又は三重結合を有する化合物を付加して、6員環の環式化合物を生成するものである。また、このディールス−アルダー反応を用いて、ナフタレンに対してヘキサクロロシクロペンタジエンを付加させることが提案されている(非特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−89413号公報
【特許文献2】特開2008−290963号公報
【特許文献3】国際公開第2006/077888号
【特許文献4】特開2008−290963号公報
【特許文献5】国際公開第2008/050726号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Facile Synthesis of Highly π−Extended Heteroarenes, Dinaphtho[2,3−b:2‘,3‘−f]chalcogenopheno[3,2−b]chalcogenophenes, and Their Application to Field−Effect Transistors”, Tatsuya Yamamoto, and Kazuo Takimiya, J. Am. Chem. Soc., 2007, 129 (8), pp 2224−2225
【非特許文献2】“Dienophilic Reactions of Aromatic Double Bonds in the Synthesis of β−Substituted Naphthalenes”, A. A. Danish, M. Silverman, Y. A. Tajima, J. Am. Chem. Soc., 1954, 76 (23), pp 6144−6150
【非特許文献3】“Tandem Diels−Alder−Diels−Alder Reaction Displaying High Stereoselectivity: Reaction of Hexachlorocyclopentadiene with Naphthalene.”, Lacourcelle, Claire; Poite, Jean Claude; Baldy, Andre; Jaud, Joel; Negrel, Jean Claude; Chanon, Michel, Acta Chemica Scandinavica 47, 0092−0094
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記記載のように、有機半導体層を形成するための有機半導体化合物としては、縮合多環芳香族化合物が好ましいことが分かってきている。また、このような用途で用いられる縮合多環芳香族化合物では、非常に高い純度が求められている。
【0008】
縮合多環芳香族化合物を製造するためには多くの方法が提案されているが、当然に、最終的な縮合多環芳香族化合物において不純物となる物質を合成反応において用いている。このような不純物を除去するためには、溶媒洗浄、真空昇華精製等が行われている。しかしながら、縮合多環芳香族化合物は結晶性が高く、したがって結晶構造中に不純物を抱き込んでしまうことがある。このように結晶中に抱き込まれた不純物は、溶媒洗浄等の従来の精製方法では充分に精製できないことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者は、付加脱離反応を用いることによって縮合多環芳香族化合物を精製及び製造できることを見出して、本発明に想到した。
【0010】
下記の式(I)の縮合多環芳香族化合物を精製する本発明の方法は、下記のステップ(a)〜(d)を含む:
ArArAr (I)
(Ar〜Arは下記に記載のとおり);
(a)式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物を提供するステップ、
(b)二重結合を有する化合物(II)であって、式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加する化合物(II)を提供するステップ、
(c)式(I)の縮合多環芳香族化合物と二重結合を有する化合物(II)とを混合して、これらの化合物の付加生成物が少なくとも部分的に溶解している混合液を得るステップ、並びに
(d)混合液から、精製された式(I)の縮合多環芳香族化合物を分離して得るステップ。
【0011】
縮合多環芳香族化合物を製造する本発明の方法は、本発明の方法によって縮合多環芳香族化合物の粗生成物を精製するステップを含む。また、縮合多環芳香族化合物を製造する本発明の他の方法は、縮合多環芳香族化合物の付加生成物から縮合多環芳香族化合物を得るステップを含む。
【0012】
なお、本発明に関して「付加化合物」は、式(I)の縮合多環芳香族化合物に、二重結合を有する化合物(II)が二重結合を介して脱離可能に付加されてなる構造を有する任意の化合物を意味しており、その具体的な合成方法によっては限定されるものではない。また、この付加化合物は、式(I)の縮合多環芳香族化合物に二重結合を有する化合物(II)が1分子付加した構造を有する付加化合物だけでなく、式(I)の縮合多環芳香族化合物に二重結合を有する化合物(II)が2分子、3分子、4分子、又はそれよりも多く付加した構造を有する付加化合物であってもよい。
【0013】
また、本発明に関して、「芳香族環」は、ベンゼン環と同様に共役している環を意味するものとし、例えばベンゼン環と並んで、フラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環のような複素芳香族環を挙げることができる。また本発明に関して、「立体異性体」は、同一の構造式を有する化合物がその中の原子又は原子団の立体配置を異にすることによっておこる異性を意味し、光学異性体、幾何異性体、及び回転異性体等を包含する。
【発明の効果】
【0014】
縮合多環芳香族化合物を精製する本発明の方法を、溶媒洗浄、真空昇華精製等の従来の精製方法に代えて、又はこれらの従来の精製方法に加えて用いることによって、従来は達成できなかった精製を達成できる。これは、式(I)の縮合多環芳香族化合物を精製する本発明の方法では、二重結合を有する化合物(II)が式(I)の縮合多環芳香族化合物に付加することによって、式(I)の縮合多環芳香族化合物の極性が増加し且つ/又は結晶性が低下して、二重結合を有する化合物(II)及び随意の溶媒に対する式(I)の縮合多環芳香族化合物の溶解性が増加することによると考えられる。
【0015】
また、式(I)の縮合多環芳香族化合物を製造する本発明の方法によれば、従来は達成できなかった純度を有し、且つ/又は従来は除去することが難しかった不純物が除去されている式(I)の縮合多環芳香族化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の精製方法のスキームを概念的に示す図である。
【図2】図2は、実施例1のDNTT(精製物1〜3)についてのNMR(核磁気共鳴分光分析)結果を示す図である。
【図3】図3は、実施例1で得られたDNTT−フェニルマレイミド1付加物(DNTT−1PMI)(Endo体、Exo体)についての脱離特性を示す図である。
【図4】図4は、参考例1A及び参考比較例1Aで得た電界効果トランジスタ(FET)の構造の概略図である。
【図5】図5は、参考例1Aで得られた電界効果トランジスタの出力特性を示す図である。
【図6】図6は、参考例1Aで得られた電界効果トランジスタの伝達特性を示す図である。
【図7】図7は、参考例10Aで得られた電界効果トランジスタの出力特性を示す図である。
【図8】図8は、参考例10Aで得られた電界効果トランジスタの伝達特性を示す図である。
【図9】図9は、参考例10Aで得られた有機半導体膜中の残留付加化合物についてのNMR結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《精製方法》
下記の式(I)の縮合多環芳香族化合物を精製する本発明の方法は、下記のステップ(a)〜(d)を含む:
ArArAr (I)
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Arは、1個の芳香族環からなる置換又は非置換の芳香族環部分、及び2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
ArとArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合芳香環を形成しており、且つ
ArとArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合芳香環を形成している);
(a)式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物を提供するステップ、
(b)二重結合を有する化合物(II)であって、式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加する化合物(II)を提供するステップ、
(c)式(I)の縮合多環芳香族化合物と二重結合を有する化合物(II)とを混合して、これらの化合物の付加生成物が少なくとも部分的に溶解している混合液を得るステップ、並びに
(d)混合液から、精製された式(I)の縮合多環芳香族化合物を分離して得るステップ。
【0018】
《精製方法−ステップ(a)》
ステップ(a)では、式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物を提供する。ここで提供される式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物は、任意の合成方法で得ることができる。一般的に、式(I)の縮合多環芳香族化合物は、ハロゲン元素及び/又は金属元素又はその化合物、及び/又は芳香族化合物を、反応媒体、原料、触媒等として用いる合成方法で得られている(例えば上記の特許文献1〜5及び非特許文献1、特に特許文献2を参照)。したがって本発明の精製方法によれば、式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物に不純物として含有されるこれらの元素又は化合物を、少なくとも部分的に除去することができる。
【0019】
なお、ステップ(a)で用いられる式(I)の粗生成物は、予め精製されていること、例えば溶媒洗浄によって予め精製されていることが、本発明の方法による精製を促進するために好ましいことがある。
【0020】
式(I)の縮合多環芳香族化合物については、下記でより具体的に例示する。
【0021】
《精製方法−ステップ(b)》
ステップ(b)では、二重結合を有する化合物(II)であって、式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加する化合物(II)を提供する。なお、式(I)の縮合多環芳香族化合物に二重結合を有する化合物(II)が「脱離可能」に付加することは、式(I)の縮合多環芳香族化合物と二重結合を有する化合物(II)との付加生成物が、例えば減圧及び/又は加熱によって、式(I)の縮合多環芳香族化合物を分解させずに、二重結合を有する化合物(II)を脱離させることが可能であることを意味している。
【0022】
二重結合を有する化合物(II)については、下記でより具体的に例示する。
【0023】
《精製方法−ステップ(c)》
ステップ(c)では、式(I)の縮合多環芳香族化合物と二重結合を有する化合物(II)とを混合して、これらの化合物の付加生成物が少なくとも部分的に溶解している混合液を得る。この付加生成物については、下記でより具体的に例示する。
【0024】
二重結合を有する化合物(II)と共に溶媒を用いることもできるが、二重結合を有する化合物(II)を単独で用いることもできる。ここで使用できる溶媒としては、ステップ(c)で得られる付加生成物を溶解できる任意の溶媒を用いることができる。例えば使用可能な溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、酢酸エチル等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1、4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン(すなわち1,3,5‐トリメチルベンゼン)等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;及びジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の含ハロゲン溶媒を考慮することができる。
【0025】
また、式(I)を有する化合物の粗生成物からの不純物の除去を促進するためには、二重結合を有する化合物(II)のラジカル重合による自己重合によるポリマー化を抑制する目的で、ヒドロキノンのようなラジカル捕捉剤を共に用いることもできる。
【0026】
ステップ(c)では、式(I)の縮合多環芳香族化合物と、二重結合を有する化合物(II)との混合の際に、加熱及び/又は光照射によって、付加脱離反応を促進することもできる。ステップ(c)の混合液の温度は、付加反応速度、成分の安定性、成分の沸点等を考慮して決定することができ例えば、20℃以上、50℃以上、100℃以上であって、180℃以下、200℃以下、又は220℃以下の温度にすることができる。またこの混合液は、所定の期間にわたって保持すること、例えば1分以上、10分以上、30分以上、1時間以上であって、1日以下、3日以下、5日以下、又は10日以下の期間にわたって保持することができる。
【0027】
参考までに、このステップ(c)の混合液において式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物から不純物が分離されるスキームの概念図を図1に示すが、本発明はこれに限定されない。
【0028】
図1の式の左辺100は、不純物を包含している結晶の状態の式(I)の縮合多環芳香族化合物(粗生成物)と二重結合を有する化合物(II)との混合物の初期の状態を示している。このような混合物では、図1の式の中辺200で示されるように、二重結合を有する化合物(II)が式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加することによって、式(I)の縮合多環芳香族化合物の結晶性が低下し且つ/又はこの化合物の極性が増加し、それによって式(I)の縮合多環芳香族化合物が混合液中で溶解した状態になる。
【0029】
二重結合を有する化合物(II)は、式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加しており、したがって図1の式の左辺100の状態、中辺200の状態、及び右辺300の状態は互いに平衡の関係にある。しかしながら、不純物の量は、二重結合を有する化合物(II)及び随意の溶媒と比較して一般に少量であるので、式(I)の縮合多環芳香族化合物が図1の式の中辺200の状態から結晶化する際に不純物が取り込まれる確率は比較的低く、したがって平衡は図1の左辺100の状態から、図1の中辺200及び右辺300の状態に偏っていくことが理解される。
【0030】
《精製方法−ステップ(d)》
ステップ(d)では、ステップ(c)で得られた混合液から、精製された式(I)の縮合多環芳香族化合物を分離して得る。ここで、図1の右辺300の状態にある精製された結晶状態の式(I)の縮合多環芳香族化合物は、混合液に対する溶解性が低く、したがってろ過等によって分離することができる。
【0031】
なお、図1の中辺200の状態にある付加化合物は、例えば減圧及び/又は加熱によって、式(I)の縮合多環芳香族化合物を分解させずに、二重結合を有する化合物(II)を式(I)の縮合多環芳香族化合物から脱離及び除去させることができる。これは、上記記載のように、二重結合を有する化合物(II)は式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加されていることによる。
【0032】
ここで、加熱及び/又は減圧によって化合物(II)を脱離及び除去させる場合には、式(I)の縮合多環芳香族化合物を実質的に分解させない任意の条件を用いることができる。したがって化合物(II)の脱離及び除去は例えば、80℃以上、100℃以上、120℃以上、又は140℃以上であって、200℃以下、220℃以下、240℃以下、260℃以下の温度で加熱を行うことができる。また、化合物(II)の脱離及び除去は例えば、真空下又は大気圧下において行うことができる。また更に、化合物(II)の脱離及び除去は例えば、窒素雰囲気下又は大気雰囲気下において行うことができる。
【0033】
なお、ステップ(d)で得られた精製された式(I)の縮合多環芳香族化合物は、更に精製すること、例えば昇華精製法によって更に精製することができる。
【0034】
《付加生成物》
本発明に関して付加生成物は、下記の式(I)の縮合多環芳香族化合物に、二重結合を有する化合物(II)が二重結合を介して脱離可能に付加されてなる構造を有する:
ArArAr (I)
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Arは、1個の芳香族環からなる置換又は非置換の芳香族環部分、及び2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
ArとArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合芳香環を形成しており、且つ
ArとArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合芳香環を形成している)。
【0035】
付加化合物において、式(I)の縮合多環芳香族化合物に二重結合を有する化合物(II)が「脱離可能」に付加されていることは、付加化合物が、例えば減圧及び/又は加熱によって、式(I)の縮合多環芳香族化合物を分解させずに、二重結合を有する化合物(II)を脱離させること、特に二重結合を有する化合物(II)を脱離及び除去することが可能であることを意味している。
【0036】
例えば、付加化合物は、式(I)の縮合多環芳香族化合物の例である下記の式(I−4)の化合物に、二重結合を有する化合物(II)の例である下記の式(II−1)の化合物が付加されてなり、それによって下記の式(III−1)を有する化合物又はその立体異性体である:
【0037】
【化1】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素あり、且つ
縮合ベンゼン環部分は、置換又は非置換である)
【0038】
【化2】

(Rはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択される);
【0039】
【化3】

(Y及びR、並びに縮合ベンゼン環部分は、上記のとおり)。
【0040】
また例えば、付加化合物は、式(I)の縮合多環芳香族化合物の例である下記の式(I−4)の化合物に、二重結合を有する化合物(II)の例である下記の式(II−6)の化合物が付加されてなり、それによって下記の式(III−6)を有する化合物又はその立体異性体である:
【0041】
【化4】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素であり、且つ
縮合ベンゼン環部分は、置換又は非置換である);
【0042】
【化5】

(R及びRはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択される);
【0043】
【化6】

(Y、R及びR、並びに縮合ベンゼン環部分は、上記のとおり)。
【0044】
《式(I)の縮合多環芳香族化合物》
式(I)の縮合多環芳香族化合物に関し、Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環、特に2〜4個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択される。Ar及びArは、ディールス−アルダー反応を行ったときに、ジエン部分又は求ジエン部分として、この部分に、二重結合を有する化合物(II)を脱離可能に付加させることができるようにして選択できる。ここでは、芳香族環は特に、置換又は非置換のベンゼン環である。また、ArとArは同じであっても異なっていてもよい。
【0045】
したがってAr及びArはそれぞれ独立に、置換又は非置換の下記の(b1)〜(b4)からなる群より選択されるベンゼン環部分であってよい:
【化7】

【0046】
また、式(I)の縮合多環芳香族化合物に関し、Arは、1個の芳香族環からなる置換又は非置換の芳香族環部分、又は2〜5個、特に2〜3個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分である。
【0047】
したがって、Arは、置換又は非置換の下記の(a1)〜(a4)からなる群より選択される芳香族環部分又は縮合芳香族環部分であってよい:
【化8】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲン、特に酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)から選択される元素、より特に硫黄であり、Yは全て同じでも、一部が異なっていてもよい)。
【0048】
好ましくは式(I)の縮合多環芳香族化合物は、有機半導体化合物、すなわち半導体としての性質を示す有機物化合物である。また、式(I)の縮合多環芳香族化合物は、置換又は非置換の下記の式(I−1)〜(I−5)の縮合多環芳香族化合物からなる群より選択できる。これらの縮合多環芳香族化合物は安定性が高く、したがって付加化合物からの二重結合を有する化合物(II)の脱離、特に熱による脱離、より特に比較的高温且つ/又は長時間の熱による脱離の際にも、安定に維持することができる。したがって、これらの化合物を用いる場合、付加化合物からの二重結合を有する化合物(II)の脱離を高い割合で行うことができる。
【0049】
【化9】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素、特に酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)から選択される元素、より特に硫黄であり、Yは全て同じでも、一部が異なっていてもよい)。
【0050】
式(I)の縮合多環芳香族化合物、及びその合成に関しては、特に限定されないが、特許文献1〜5及び非特許文献1を参照することができる。
【0051】
なお、式(I)の縮合多環芳香族化合物の芳香族環部分及び/又は縮合芳香族環部分の置換は例えば、ハロゲン、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のエステル基、炭素原子数1〜20のエーテル基、炭素原子数1〜20のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、及び炭素原子数1〜20のスルフィド基からなる群より選択される置換基によってなされている。
【0052】
《二重結合を有する化合物(II)》
二重結合を有する化合物(II)は、式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加できる任意の化合物であってよい。したがって例えば、二重結合を有する化合物(II)は、特にディールス−アルダー反応によって、式(I)の縮合多環芳香族化合物に求ジエン体(ジエノフィル)又は共役ジエン体として、脱離可能に付加する任意の化合物であってよい。また、二重結合を有する化合物(II)は、特に式(I)の縮合多環芳香族化合物のAr、Ar及びArのうちの少なくとも1つの芳香族環部分又は縮合芳香族環部分、より特に式(I)の縮合多環芳香族化合物のAr及びArのうちの少なくとも1つの縮合芳香族環部分に脱離可能に付加できる任意の化合物であってよい。
【0053】
二重結合を有する化合物(II)が求ジエン体である場合、二重結合を有する化合物(II)は、下記の式(II−A1)及び(II−B1)のいずれかの化合物であってよい:
【化10】

(R、R、R及びRはそれぞれ独立に、結合、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択され、
及びRは、互いに結合して環を形成していてもよく、且つ
及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい)。
【0054】
ここで、上記の式(II−A1)の化合物は、炭素−酸素二重結合部分の存在によって、その炭素原子に隣接する炭素−炭素二重結合部分が比較的求電子的であり、したがって求ジエン体としてディールス−アルダー反応を促進するために好ましいことがある。同様に上記の式(II−B1)の化合物は、酸素の存在によって、この酸素原子に隣接する炭素−炭素二重結合部分が比較的求電子的であり、したがって求ジエン体としてディールス−アルダー反応を促進するために好ましいことがある。
【0055】
また、二重結合を有する化合物(II)が求ジエン体である場合、二重結合を有する化合物(II)は、下記の式(II−A2)及び(II−B2)のいずれかの化合物であってよい:
【化11】

(R、R、R及びRはそれぞれ独立に、結合、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択され、
及びRは、互いに結合して環を形成していてもよく、且つ
及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい)。
【0056】
ここで、上記の式(II−A2)の化合物は、2つの炭素−酸素二重結合部分の存在によって、それらの炭素原子の間の炭素−炭素二重結合部分が比較的求電子的であり、したがって求ジエン体としてディールス−アルダー反応を促進するために好ましいことがある。同様に上記の式(II−B2)の化合物は、2つの酸素の存在によって、それらの酸素原子の間の炭素−炭素二重結合部分が比較的求電子的であり、したがって求ジエン体としてディールス−アルダー反応を促進するために好ましいことがある。
【0057】
また更に、二重結合を有する化合物(II)が求ジエン体である場合、二重結合を有する化合物(II)は、下記の式(II−A3)及び(II−B3)のいずれかの化合物であってよい:
【化12】

(R及びRはそれぞれ独立に、結合、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択され、
及びRは、互いに結合して環を形成していてもよく、
nは、1〜5の整数であり、且つ
Zは、結合(−)、酸素(−O−)、メチレン性炭素(−C(R−)、エチレン性炭素(−C(R)=)、カルボニル基(−C(=O)−)、窒素(−N(R)−)、及び硫黄(−S−)からなる群より選択され、且つnが2又はそれよりも大きいときにはそれぞれ異なっていてもよい(Rはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択される))。
【0058】
ここで、上記の式(II−A3)の化合物は、2つの炭素−酸素二重結合部分の存在によって、それらの炭素原子の間の炭素−炭素二重結合部分が比較的求電子的であり、したがって求ジエン体としてディールス−アルダー反応を促進するために好ましいことがある。同様に上記の式(II−B3)の化合物は、2つの酸素の存在によって、それらの酸素原子の間の炭素−炭素二重結合部分が比較的求電子的であり、したがって求ジエン体としてディールス−アルダー反応を促進するために好ましいことがある。また上記の式(II−A3)又は(II−B3)の化合物は、二重結合が環状構造の一部となっていることによって、構造的に安定しており、したがってこれらの化合物を脱離可能に式(I)の縮合多環芳香族化合物に付加させるために好ましいことがある。
【0059】
なお、共役ジエン型の二重結合を有する化合物(II)は、ディールス−アルダー反応において、式(I)の縮合多環芳香族化合物との組み合わせに応じて、式(I)の縮合多環芳香族化合物に求ジエン体及び/又は共役ジエン体として付加する。
【0060】
二重結合を有する化合物(II)は、環状部分を有する化合物であってよい。二重結合が環状構造の一部となっていることは、二重結合を有する化合物(II)を構造的に安定させ、それによって二重結合を有する化合物(II)を脱離可能に式(I)の縮合多環芳香族化合物に付加させるために好ましいことがある。
【0061】
したがって例えば、二重結合を有する化合物(II)は、下記の式(II−1)〜(II−12)のいずれかの化合物であってよい:
【0062】
【化13】

(R及びRはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択される)。
【0063】
二重結合を有する化合物(II)は、共役ジエン型の化合物、例えば式(II−1)〜式(II−3)及び式(II−8)のいずれかの化合物であってよい。また、二重結合を有する化合物(II)は、求ジエン型の化合物、例えば式(II−4)〜式(II−6)、式(II−9)、及び式(II−10)〜式(II−12)のいずれかの化合物であってよい。また更に、二重結合を有する化合物(II)は、環状部分を有する化合物、例えば式(II−1)〜式(II−6)、式(II−8)、及び式(II−10)〜式(II−12)のいずれかの化合物であってよい。
【0064】
なお、式(II−1)〜(II−12)のいずれかの化合物のR及びRに関して、炭素原子数4〜10の芳香族基の置換基に関しては、式(I)の縮合多環芳香族化合物の芳香族環部分又は縮合芳香族環部分を置換していてもよい置換基を参照できる。
【0065】
以下では、下記の式(II−1)〜(II−12)のいずれかの化合物について、より詳細に説明する。
【0066】
《式(II−1)の化合物》
【化14】

(Rは上記のとおり)
【0067】
特に、式(II−1)の化合物に関し、Rはそれぞれ独立に、水素及びハロゲンからなる群より選択される。Rがハロゲンである場合、Rはそれぞれ独立に、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及びそれらの組み合わせからなる群より選択される元素、特にフッ素(F)、塩素(Cl)及びそれらの組み合わせからなる群より選択される元素、より特に塩素であってよい。したがって、式(II−1)の化合物は例えば、ヘキサフルオロシクロペンタジエン、ヘキサクロロシクロペンタジエン、ヘキサブロモシクロペンタジエン、5,5−ジフルオロテトラクロロシクロペンタジエン、又は5,5−ジブロモテトラクロロシクロペンタジエン、特にヘキサクロロシクロペンタジエンであってよい。また、Rが全て水素である場合には、式(II−1)の化合物は、シクロペンタジエンである。
【0068】
《式(II−2)の化合物》
【化15】

(Rは上記のとおり)
【0069】
特に、式(II−2)の化合物に関し、Rはそれぞれ独立に、水素及びハロゲンからなる群より選択される。また、Rが全て水素である場合には、式(II−2)の化合物は、フランである。
【0070】
《式(II−3)の化合物》
【化16】

(R及びRは上記のとおり)
【0071】
特に、式(II−3)の化合物に関し、Rはそれぞれ独立に、水素及びハロゲンからなる群より選択される。また特に、Rは炭素原子数1〜10のエステル基、例えばメチルエステルである。したがって特に上記の式(II−3)の化合物は、Rが水素であり且つRが炭素原子数1〜10のアルキルエステル基である化合物、すなわちカルボン酸アルキルピロール、例えばRが水素であり且つRがメチルエステル基であるカルボン酸メチルピロールであってよい。
【0072】
《式(II−4)の化合物》
【化17】

(R及びRは上記のとおり)
【0073】
特に、式(II−4)の化合物に関し、Rが水素以外の基、すなわち比較的かさばる基であることは、式(I)の縮合多環芳香族化合物と式(II−4)の化合物との付加生成物から、加熱等によって式(II−4)の化合物の脱離を促進するために好ましいことがある。
【0074】
《式(II−5)の化合物》
【化18】

(Rは上記のとおり)
【0075】
特に、式(II−5)の化合物に関し、Rがいずれも水素である化合物は、無水マレイン酸である。したがって式(II−5)の化合物は、無水マレイン酸又はその水素基が置換された化合物として考えることができる。
【0076】
《式(II−6)の化合物》
【化19】

(R及びRは上記のとおり)
【0077】
特に、式(II−6)の化合物に関し、Rはそれぞれ独立に、水素及びハロゲンからなる群より選択される。また特に、Rは、炭素原子数1〜10のアルキル基、又は炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、例えばヒドロキシフェニル基である。
【0078】
したがって例えば、上記の式(II−6)の化合物は、Rが水素であり且つRがメチル基であるN−メチルマレイミド、Rが水素であり且つRがエチル基であるN−エチルマレイミドであってよい。また例えば、上記の式(II−6)の化合物は、Rが水素であり且つRが炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基である化合物、すなわち芳香族マレイミド、特にRが水素であり且つRがフェニル基であるN-フェニルマレイミド、又はRが水素であり且つRがヒドロキシフェニル基であるヒドロキシフェニルマレイミドであってよい。
【0079】
《式(II−7)の化合物》
【化20】

(Rは上記のとおり)
【0080】
特に、式(II−7)の化合物に関し、Rは、炭素原子数1〜10のアルキル基からなる群より選択される。したがって特に上記の式(II−7)の化合物は、Rがアルキル基である化合物、すなわちN−スルホニルアシルアミド、例えばRがメチル基であるN−スルホニルアセトアミドであってよい。
【0081】
《式(II−8)の化合物》
【化21】

(Rは上記のとおり)
【0082】
特に、式(II−8)の化合物に関し、Rはそれぞれ独立に、水素及びハロゲンからなる群より選択される。Rがハロゲンである場合、Rはそれぞれ独立に、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及びそれらの組み合わせからなる群より選択される元素である。また、Rが全て水素である場合には、式(II−8)の化合物は、アントラセンとなる。
【0083】
《式(II−9)の化合物》
【化22】

(Rは上記のとおり)
【0084】
特に、式(II−9)の化合物に関し、Rは、炭素原子数1〜10のアルキル基からなる群より選択される。したがって特に上記の式(II−9)の化合物は、Rがアルキル基である化合物、すなわちトリシアノカルボン酸アルキル−エチレン、例えばRがメチル基であるトリシアノカルボン酸メチル−エチレンであってよい。
【0085】
《式(II−10)の化合物》
【化23】

(R及びRは上記のとおり)
【0086】
《式(II−11)の化合物》
【化24】

(Rは上記のとおり)
【0087】
特に、式(II−11)の化合物に関し、Rはそれぞれ独立に、水素及びハロゲンからなる群より選択される。また、Rが全て水素である場合には、式(II−2)の化合物は、炭酸ビニレンである。
【0088】
《式(II−12)の化合物》
【化25】

(R及びRは上記のとおり)
【0089】
《縮合多環芳香族化合物の製造方法1》
式(I)の縮合多環芳香族化合物を製造する本発明の第1の方法は、本発明の方法によって式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物を精製するステップを含む。
【0090】
《縮合多環芳香族化合物の製造方法2》
式(I)の縮合多環芳香族化合物を製造する本発明の第2の方法は、式(I)の縮合多環芳香族化合物に二重結合を有する化合物(II)が脱離可能に付加されてなる構造を有する付加生成物から、この化合物(II)を脱離及び除去すること、特に加熱及び/又は減圧によってこの化合物(II)を脱離及び除去することを含む。
【0091】
加熱及び/又は減圧によって化合物(II)を脱離及び除去させる場合には、式(I)の縮合多環芳香族化合物を実質的に分解させない任意の条件を用いることができる。したがって化合物(II)の脱離及び除去は例えば、80℃以上、100℃以上、120℃以上、又は140℃以上であって、200℃以下、220℃以下、240℃以下、260℃以下の温度で加熱を行うことができる。また、化合物(II)の脱離及び除去は例えば、真空下又は大気圧下において行うことができる。また更に、化合物(II)の脱離及び除去は例えば、窒素雰囲気下又は大気雰囲気下において行うことができる。特に、大気圧の大気雰囲気下において化合物(II)の脱離及び除去を行うことは、式(I)の縮合多環芳香族化合物の製造を容易にするために好ましい。
【0092】
式(I)の縮合多環芳香族化合物を製造する本発明の第1及び第2の方法では、式(I)の縮合多環芳香族化合物を粉末として得ることができる。但し、これらの本発明の方法で得られる式(I)の縮合多環芳香族化合物の形態は粉末に限定されない。
【0093】
《付加化合物の第1の合成方法》
付加化合物は、式(I)の縮合多環芳香族化合物を、二重結合を有する化合物(II)と混合するステップを含む方法によって製造できる。このとき、二重結合を有する化合物(II)は、溶媒中に溶解して用いることもできるが、単独で用いることもできる。ここで、この溶媒としては、二重結合を有する化合物(II)を溶解できる任意の溶媒を用いることができる。例えば使用可能な溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、酢酸エチル等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1、4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン(すなわち1,3,5‐トリメチルベンゼン)等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;及びジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の含ハロゲン溶媒を考慮することができる。
【0094】
付加化合物の合成においては、式(I)の縮合多環芳香族化合物と、二重結合を有する化合物(II)との混合の際に、加熱及び/又は光照射によって、反応を促進することもできる。付加化合物の合成の際の反応温度は、生成速度、成分の安定性、成分の沸点等を考慮して決定することができ例えば、20℃以上、50℃以上、100℃以上であって、180℃以下、200℃以下、又は220℃以下の温度にすることができる。また反応時間は例えば、1分以上、10分以上、30分以上、1時間以上であって、1日以下、3日以下、5日以下、又は10日以下にすることができる。
【0095】
なお、この付加生成物は、本発明の精製方法のステップ(c)においても得られている。
【0096】
《中間体付加化合物、及び付加化合物の第2の合成方法》
中間体付加化合物は、下記の(I’)の化合物に二重結合を有する化合物(II)がこの二重結合を介して付加されてなる構造を有する:
ArQ (I’)
{Arは、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つ
Qは、下記の式を有し、且つArの縮合芳香環の一部を構成している:
【化26】

(Yは、カルコゲンから選択される元素である)}。
【0097】
具体的には例えば、式(I’)の化合物は、下記の式の化合物であってよい:
【化27】

【0098】
この中間体付加化合物は、式(I’)の化合物に二重結合を有する化合物(II)を付加させて得ることができる。この付加反応の反応条件については、式(I)の化合物に二重結合を有する化合物(II)を付加させる反応に関する記載を参照できる。
【0099】
上記の付加化合物を、上記の中間体付加化合物から合成する方法は、下記の工程(a)及び(b)を含む:
(a)中間体付加化合物2分子を反応させて、下記の式の化合物を得ること:
ArQ=QAr
(Q=Qは、下記の構造を示す:
【化28】

)、そして
(b)上記式ArQ=QArの得られた化合物をヨウ素と反応させること。
【0100】
この方法によれば、下記の式(I(a1))の縮合多環芳香族化合物に二重結合を有する化合物(II)がこの二重結合を介して脱離可能に付加されてなる構造を有する付加化合物を製造することができる:
ArAr2(a1)Ar (I(a1))
(Arは、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Ar2(a1)は、下記の式(a1)の縮合芳香族環部分であり、且つ
【化29】

ArとAr2(a1)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合芳香環を形成している)。
【0101】
なお、上記の付加化合物を上記の中間体付加化合物から合成する方法の条件等に関しては、非特許文献1の記載を参照することができる。すなわち例えば、工程(a)における中間体付加化合物2分子の反応は、テトラヒドロフラン中において、テトラクロロチタン/亜鉛(TiCl/Zn)触媒を用いて行うことができる。また、工程(b)における式Ar(Q=Q)Arとヨウ素との反応は、トリクロロメタン(すなわちクロロホルム)(CHCl)中において行うことができる。
【0102】
《有機半導体膜の製造方法》
有機半導体膜を製造する本発明の方法は、本発明の方法によって縮合多環芳香族化合物を製造し、そして得られた式(I)の縮合多環芳香族化合物から、例えば蒸着法によって、有機半導体膜を得るステップを含む。
【0103】
《有機半導体デバイスの製造方法》
有機半導体デバイスを製造する本発明の方法は、有機半導体膜を生成する本発明の方法によって有機半導体膜を生成するステップを含む。またこの方法は随意に、有機半導体膜の上側又は下側に、電極層及び/又は誘電体層を形成するステップを更に含むことができる。
【0104】
《有機半導体デバイス》
本発明の方法で製造される有機半導体デバイスは、1つの態様では、有機半導体膜を有する有機半導体デバイスであって、有機半導体膜が、付加化合物から二重結合を有する化合物(II)が脱離した構造を有する式(I)の縮合多環芳香族化合物で作られており、且つ有機半導体膜が付加化合物を含有している。
【0105】
ここで、有機半導体膜が付加化合物を含有していることは、有機半導体膜が検知可能な量で付加化合物を含有していることを意味する。したがって例えば付加化合物のモル比は、1ppm超、10ppm超、100ppm超、1,000ppm超、又は10,000ppm(1%)超であってよい。また、付加化合物の割合は、10mol%以下、5mol%以下、3mol%以下、1mol%以下、0.1mol%以下、又は0.01mol%以下であってよい。
【0106】
このような有機半導体デバイスは、式(I)の縮合多環芳香族化合物と並んで付加化合物を含有しているにもかかわらず、有機半導体デバイスとしての特性を有することができる。すなわち、有機半導体デバイスの有機半導体膜を付加化合物から製造する場合、付加化合物の熱脱離反応が完全には進行しなくても、有機半導体デバイスは半導体デバイスとしての特性を有することができる。これは、有機半導体デバイス又はその有機半導体膜の製造を容易にするために好ましい。
【0107】
特に有機半導体デバイスは、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、ゲート絶縁膜、及び有機半導体膜を有する薄膜トランジスタであって、ゲート絶縁膜によってソース電極及びドレイン電極とゲート電極とを絶縁し、且つゲート電極に印加される電圧によってソース電極からドレイン電極へと有機半導体を通って流れる電流を制御する薄膜トランジスタである。また特に有機半導体デバイスは、有機半導体膜を活性層として有する太陽電池である。
【実施例】
【0108】
《実施例及び比較例》
目的化合物の構造は、必要に応じて1H−NMR(1H−核磁気共鳴スペクトル)、及びMS(質量分析スペクトル)により決定した。使用した機器は以下のとおりである。
H−NMR :JNM−A−600 (600MHz)
MS :Shimazu QP−5050A
【0109】
《実施例1》
(DNTTの生成)
非特許文献1のSupporting Informationに示される手法にしたがって、出発原料としての2−ナフトアルデヒド(MW=156.18)9.59g(61.4mmol)を用いて、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)(MW=340.46、構造式を下記に示す)4.03g(11.8mmol、収率38.56%)を得た。
【0110】
【化30】

【0111】
(溶媒洗浄によるDNTTの精製)
このようにして得たDNTTを、クロロホルム及びヘキサン溶媒で洗浄し、そしてフィルターろ過した。この時点でのDNTT(精製物1)の色は、灰色がかかった黄色であった。純粋なDNTTは黄色であり、したがってこのDNTT(精製物1)灰色の着色は、DNTTの製造の間に用いたヨウ素を、DNTT固体が抱きこんでいることが原因と考えられる。また、図2で示すように、NMR(核磁気共鳴分光分析)によれば、このDNTT(精製物1)が芳香族性不純物を含んでいることが確認された。このDNTT(精製物1)の不純物含有率は、H−NMRデータのプロトン比に基づいて計算すると約11mol%であった。
【0112】
(本発明の方法によるDNTTの精製)
このDNTT(精製物1)500mgに対して、N−フェニルマレイミド(PMI)(MW=173.16)2.54g(118.3mmol、DNTT基準で1000mol%)、ラジカル補足剤としてのヒドロキノン(MW110.1)16.2mg(N−フェニルマレイミド基準で1mol%)、及びメシチレン溶媒を加えて混合液を得、この混合液を窒素雰囲気において160℃で2時間にわたって攪拌した。これにより、N−フェニルマレイミドによるDNTTに対するDiels−Alder付加反応を行った。
【0113】
その後、ろ過により混合液の固形物を取得し、得られた固形物をクロロホルムで洗浄した。この固形物は、NMRによりDNTT(精製物2)であることが確認された(収量422.3mg、収率84.4mol%)。このDNTT(精製物2)は、黄色を呈しており、ヨウ素と推定される着色成分が除去されたことが確認された。また、図2で示すように、NMR(核磁気共鳴分光分析)によれば、DNTT(精製物2)では、DNTT(精製物1)に見られた不純物である芳香族性有機成分が除去されたことも確認できた。
【0114】
(昇華によるDNTTの精製)
DNTTで、有機半導体特性を得るためには、さらなる高純度化が不可欠である。したがって、上記のようにして得られたDNTT(精製物2)を更に、昇華精製法を3回行って精製して、DNTT(精製物3)とした。
【0115】
(FET素子の作製)
DNTT(精製物3)を用いて、蒸着法により、トップコンタクトボトムゲート型電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)素子を作製した。
【0116】
具体的には、300nmのSiO酸化膜付nドープシリコンウェハー(面抵抗0.005Ω・cm)に対して、UVオゾン処理を20分にわたって行って(アイUV−オゾン洗浄装置OC−250615−D+A、アイグラフィックス株式会社)、UVオゾン処理シリコン基板を得た。また、オクタデシルトリクロロシラン(ODTS、信越化学LS−6495)10mmol/トルエン溶液を調整して、この溶液中に、UVオゾン処理シリコン基板を24時間浸漬させた。その後、真空蒸着法(サンユー電子、抵抗加熱方式蒸着装置:SVC−700TM/700−2)により、DNTT(精製物3)で約50nmの薄膜を作製し、そしてチャネル幅50μm及びチャネル長1.5mmのソース/ドレイン金電極をDNTT上(トップコンタクト)に作製した。
【0117】
このFET素子において半導体特性を測定したところ、p型半導体の特性を示した。また、キャリア移動度は1.3cm/Vsであり、オン/オフ比は10であった。
【0118】
《実施例2》
実施例1の本発明の方法によるDNTTの精製で得られたろ過液を、HPLC(高速液体クロマトグラフィ、Agilent 1100 Series HPLC:High Performance Liquid Chromatography, SHISEIDO CAPCELL PAK C18 TYPE UG120、溶媒:アセトニトリル/水)により分取して、下記の式のジナフトチエノチオフェン−フェニルマレイミド1付加物(DNTT−1PMI、立体異性体Endo体、Exo体、Mw=513.63、収量113.2mg、収率15.0mol%)を得た。
【0119】
【化31】

【0120】
DNTT−1PMI(Endo体及びExo体)についての分析結果をそれぞれ下記の(1)及び(2)下記に示す。
【0121】
(1)DNTT−1PMI(Endo体)
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.30 (S、1H )、8.23(S、1H)、7.95(m、1H)、7.89(m、1H)、7.50(m、2H)、7.47(m、2H)、7.25(m、2H)、7.12(t、J=7.3Hz,1H)、7.07(dd、J=7.3Hz、7.7Hz,2H)、6.50(d、J=7.7Hz、2H)、5.30(d、J=3.3Hz,1H)、5.22(d、J=3.3Hz,1H)、3.54(dd、J=3.3Hz,8.1Hz,1H)、3.51(dd、J=3.3Hz、8.1Hz、1H)
MS(70eV、DI): 514.10m/z
【0122】
(2)DNTT−1PMI(Exo体)
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.33(s、1H)、8.25(s、1H)、7.97(m、1H)、7.90(m、1H)、7.49(m、2H)、7.42(m、1H)、7.40(m、1H)、7.31(m、1H)、7.30(m、2H)、7.26(m、2H)、6.53(m、2H)、5.22(d、J=3.3Hz、1H)、5.18 (d、J=3.3Hz、1H)、3.59(dd、J=3.3Hz,8.4Hz,1H)、3.56(dd、J=3.3Hz、8.4Hz、1H)
MS(70eV、DI): 513.05m/z
【0123】
質量分析(MS)の検出値(514.10m/z及び513.05m/z)は、DNTT−フェニルマレイミド1付加物(DNTT−1PMI)(Mw=513.63)と一致していた。
【0124】
このDNTT−1PMI(Endo体及びExo体)の熱脱離特性は、図3で示されているように、Endo体については195℃〜260℃で重量減少が31.9wt%であり、Exo体については155℃〜260℃で重量減少が32.7wt%であることが、示差熱天秤分析(Rigaku TG−DTA TG8120、窒素雰囲気、1℃/minの昇温分析)により確認された。
【0125】
DNTT−1PMI(MW=513.63)からPMIが逆Diels−Alder反応により熱脱離する場合の重量減少の計算値は33.7wt%であり、これは分析結果と一致している。また、熱脱離後の試料に関しては、NMRによりDNTTと一致することが確認された。
【0126】
DNTT−1PMI(Endo体、Exo体)は、窒素雰囲気において260℃まで加熱して、精製されたDNTT(精製物2’)64.2mgを得た。このDNTT(精製物2’)は、黄色を呈しており、ヨウ素と推定される着色成分が除去されたことが確認された。また、図2で示すように、NMR(核磁気共鳴分光分析)によれば、DNTT(精製物2’)では、DNTT(精製物1)に見られた不純物である芳香族性有機成分が除去されたことも確認できた。
【0127】
ろ過よって得られた固形物からのDNTT(実施例1の精製物2)と、DNTT−1PMIから得たDNTT(実施例2の精製物2’)とを合計すると、収量486.5mg、収率97.3mol%であった。
【0128】
《比較例1》
本発明の方法によるDNTTの精製を行わないことを除いて実施例1と同様にして、すなわち実施例1のDNTT(精製物1)を3回にわたって昇華精製法により精製して、DNTT(精製物3’)を得た。昇華精製した後のDNTTでは、灰色の着色はやや薄くなったものの、灰色成分は除去することができなかった。
【0129】
このようにして得たDNTT(精製物3’)を用いて、実施例1と同様にして、蒸着法によりFET素子を作製した。このFET素子において半導体特性を測定したところ、p型半導体の特性を示した。また、キャリア移動度は0.023cm/Vsであり、オン/オフ比は10であった。したがって、比較例1のFET素子は、実施例1のFET素子と比較して有意に劣っていた。
【0130】
《比較例2》
実施例1のDNTT(精製物1)を、窒素雰囲気のメシチレン溶媒中において160℃で2時間にわたって攪拌して、精製した。この精製では、DNTT(精製物1)の灰色の着色が変化せずに維持された。したがって、この精製では、このDNTT(精製物1)固体に抱き込まれているよるヨウ素は除去されなかったと考えられる。
【0131】
《参考例》
以下の参考例では、式(I)の縮合多環芳香族化合物と二重結合を有する化合物(II)とが付加した構造を有する付加生成物について示す。
【0132】
目的化合物の構造は、必要に応じて1H−NMR(1H−核磁気共鳴スペクトル)、MS(質量分析スペクトル)、及び元素分析により決定した。使用した機器は以下のとおりである。
H−NMR :JEOL ECA−500 (500MHz)
MS :Shimazu QP−5050A
元素分析 :Parkin Elmer2400 CHN型元素分析計
【0133】
また、付加反応について行ったコンピュータシュミレーションでの条件は、下記の通りである。
【0134】
〈半経験手法〉
プログラム: MOPAC3.0
ハミルトニアン: AM1
構造最適化: EF法で構造最適化
【0135】
〈非経験手法〉
プログラム: Gaussian03
相関交換関数: B3LYP
基底関数系: 6−31G(d)
構造最適化: Bernyアルゴリズム
【0136】
このコンピュータシュミレーションでは、原料化合物の生成熱、及びこれらの化合物の付加生成物の生成熱を求め、それによってこの付加生成物を生成する反応の実現可能性を評価した。ここでは、原料化合物の生成熱の合計と、これらの化合物の付加生成物の生成熱との差(相対生成熱)の値が、−20kcal/mol(吸熱)よりも大きい場合、すなわち付加反応が発熱反応であるか又はわずかに吸熱反応である場合には、この付加生成物を生成する反応が実現可能であると考えられる。また、この相対生成熱の値が比較的小さく、例えば相対生成熱の値が−20kcal/molよりも大きい吸熱反応又は20kcal/mol以下の発熱反応である場合には、この付加反応が可逆的であると考えられる。なお、MOPACは炭素及び水素のみを考慮した場合には非常に信頼性が高いものの、それ以外の元素が含まれる場合には、Gaussianの信頼性が高い。
【0137】
《参考例1A》
特許文献2に示される手法により合成したジナフトチエノチオフェン(DNTT、MW=340.46、構造式を下記に示す)100mg(0.293mmol)に、ヘキサクロロシクロペンタジエン(HCCPD、MW=272.77、構造式を下記に示す)20g(47.66mmol)を加え、反応温度を24時間にわたって160℃に保った。
【0138】
【化32】

【0139】
その後、反応生成物を放冷して、ヘキサクロロシクロペンタジエン2付加ジナフトチエノチオフェン(DNTT−2HCCPD(TTs)、Mw.886.00、20mg、0.0225mmol、収率=7.7%、構造式を下記に示す)を得た。
【0140】
【化33】

【0141】
尚、上記のようにして得たDNTT−2HCCPD(TTs)は、高速液体クロマトグラフィ(Agilent 1100 Series HPLC:High Performance Liquid Chromatography, SHISEIDO CAPCELL PAK C18 TYPE UG120、溶媒:アセトニトリル/水)により精製した。
【0142】
DNTT−2HCCPD(TTs)についての分析結果を下記に示す:
H−NMR(500MHz,CDCl): δ8.43(s,1H),8.39(s,1H),8.33(s,1H),8.24(s,1H),8.05(m,1H),7.96(m,1H),7.55(m,2H),4.20(d,J=9.5Hz,1H),4.16(d,J=9.5Hz,1H),3.64(d,J=8.9Hz,2H)
Anal.Calcd for C3212Cl12: C,43.37;H,1.37
Found: C,41.9;H,1.3
MS(70eV、DI): 340m/z
【0143】
質量分析(MS)の検出値(340m/z)は、DNTT(分子量340.46)と一致しており、DNTT−2HCCPD(TTs)が質量分析(70eV、DI)の条件に曝されることで、HCCPDが脱離してDNTTを再生していることが示されている。
【0144】
上記合成で得られたDNTT−2HCCPD(TTs)を、0.2質量%の濃度になるようにトルエンに溶解させて、半導体素子作成用溶液を調整した。
【0145】
次に、300nmのSiO酸化膜付nドープシリコンウェハー(面抵抗0.005Ω・cm)に対して、UVオゾン処理を20分にわたって行った(アイUV−オゾン洗浄装置OC−250615−D+A、アイグラフィックス株式会社)。また、オクタデシルトリクロロシラン(ODTS、信越化学LS−6495)10mmol/トルエン溶液を調製し、この溶液中に、UVオゾン処理を行ったシリコン基板を24時間浸漬させた。その後、真空蒸着法(サンユー電子、抵抗加熱方式蒸着装置:SVC−700TM/700−2)により、チャネル長50μm及びチャネル幅1.5mmのソース/ドレイン金電極を、シリコン基板上に作製した。
【0146】
このシリコン基板を40℃に加熱しながら、チャネル部分に、半導体素子作成用溶液を滴下して溶媒を揮発させ、DNTT−2HCCPD(TTs)からなる薄層を形成した。このようにして作製した素子を、真空下において180℃で1時間にわたって加熱処理し、有機半導体素子を作製した。得られた有機半導体素子の概略を図4に示す。この図4で示す有機半導体素子では、シリコンウェハーである基材(ゲート電極)7上に、酸化ケイ素である誘電体層5が形成されており、この誘電体層5上に、ソース及びドレイン電極2及び3、そして有機半導体1が積層されている。
【0147】
有機半導体特性の測定を行ったところ、p型半導体を示した。キャリア移動度は、2×10−5cm/Vsであり、オン/オフ比は113、閾値電圧14.4Vであった。電界効果トタンジスタ(FET)としての出力特性及び伝達特性をそれぞれ、図5及び6に示す。ここで、図5は、縦軸がドレイン電流(I(A))を示しており、横軸がドレイン電圧(V(V))を示している。また図6は、縦軸がドレイン電流(I(A))を示しており、横軸がゲート電圧(V(V))を示している。
【0148】
《参考比較例1A》
HCCPDを付加させていない単独のDNTTを0.2質量%の濃度でトルエンに加えたが、ほとんど溶解しなかった。したがって、単独のDNTTは、溶液法で用いることができなかった。
【0149】
《参考例1B》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とヘキサクロロシクロペンタジエン(HCCPD)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0150】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.29kcal/molとし、HCCPDの生成熱は5.86kcal/molであるとした。
【0151】
【表1】

【0152】
表1の付加位置については、下記の化学式で示すように、「c」は中央の位置、「z」は近い硫黄(S)原子に対して同じ側(zusammen)の末端の位置、「e」は近い硫黄(S)原子に対して反対側(entgegen)の末端の位置で、DNTTにHCCPDが付加していることを示している。
【0153】
【化34】

【0154】
また、表1において、「anti」は、DNTTの共役面に対して逆側からHCCPDが付加していることを示しており、「iso」は、DNTTの同じ側の末端に2つのHCCPDが付加していることを示している。また更に、3つ以上のHCCPDが付加している場合の「anti」は、隣接する反対末端間でのHCCPD間の結合配座が「anti」であることを示している。
【0155】
表1の結果からは、DNTTにHCCPDが1つのみ付加する場合には、近い硫黄(S)原子に対して同じ側の末端の位置(付加位置「z」、記号「DNTT−1HCCPD(T)」)、及び近い硫黄(S)原子に対して反対側の末端の位置(付加位置「e」、記号「DNTT−1HCCPD(Tb)」)で、DNTTにHCCPDが付加することが理解される。また、この付加生成物に対して更にもう1つのHCCPDが付加する場合には、既にHCCPDが付加している末端と同じ末端(付加位置「iso」)に更に、HCCPDが付加することが理解される(記号「DNTT−2HCCPD(TTs)」)。
【0156】
DNTTにHCCPDが2つ付加する場合にはHCCPDが既に付加している末端と同じ末端(付加位置「iso」)に更にHCCPDが付加するというこの結果は、参考例1Aで得られた結果に対応している。したがって、ディールス−アルダー反応におけるコンピュータシュミレーションの適用の妥当性が理解される。
【0157】
《参考例2A》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT、MW=340.46)1750mg(5.14mmol)、N―スルホニルアセトアミド(NSAA、MW105.12、構造式を下記に示す)17.83g(169.62mmol、3300mol%)、及び金属触媒試薬CHReO(ACROS A0245387、MW249.23)12.81mg(0.05mmol)を、クロロホルム溶媒中において混合し、窒素下において63℃で15.5時間にわたって還流した。これにより、DNTTとNSAAとのディールス−アルダー付加反応を行った。
【0158】
【化35】

【0159】
その後、ろ過により固形物を取得し、これをクロロホルムで洗浄した。得られた緑色の固体1.82gは、原料を含む不純物であることが確認された。
【0160】
ろ過液にヘキサンを添加して再結晶させ、ろ過により0.2636gの黄色の固形物(31.5mg)を得た。この固形物をHPLCにより分取し、DNTTにNSAA1分子が付加した付加化合物31.5mg(DNTT−1NSAA、Mw=445.58、収率1.4mol%)を得た。この付加化合物の構造式を下記に示す。
【0161】
【化36】

【0162】
得られたDNTT−1NSAAについての分析結果を下記に示す。
【0163】
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.42(s,2H),8.38(s,2H),8.05(m,2H),7.95(m,2H),7.54(m,4H),2.03(s,3H)
MS(70eV、DI): 339.85m/z
【0164】
質量分析(MS)の検出値(339.85m/z)は、DNTT(分子量340.46)と一致しており、DNTT−1NSAAが質量分析(70eV、DI)の条件に曝されることで、NSAAが脱離してDNTTが再生していることが示されている。
【0165】
《参考例2》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とN−スルホニルアセトアミド(NSAA)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0166】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、NSAAの生成熱は−49.27kcal/molであるとした。
【0167】
【表2】

【0168】
表2の付加位置については、下記の化学式で示すようにDNTTの炭素を番号付けし、NSAAの窒素(N)原子及び硫黄(S)原子が配位する炭素を特定した。
【0169】
【化37】

【0170】
表2の結果からは、DNTTにNSAAが付加する反応が実現可能であり、この場合には、DNTTの中央の位置にNSAAが付加することが理解される。
【0171】
《参考例3》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とシクロペンタジエン(CPD、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0172】
【化38】

【0173】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、CPDの生成熱は37.97kcal/molであるとした。
【0174】
【表3】

【0175】
表3の付加位置については下記に例示する。なお、表3の記号「CPD−CPD」は、2つのCPDが付加した付加生成物を示している。
【0176】
【化39】

【0177】
表3の結果からは、DNTTにCPDを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0178】
《参考例4》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とフラン(FRN、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0179】
【化40】

【0180】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、FRNの生成熱は2.96kcal/molであるとした。
【0181】
【表4】

【0182】
表4の付加位置については下記に例示する。なお、表4の記号「FRN−FRN」は、2つのFRNが付加した付加生成物を示している。
【0183】
【化41】

【0184】
表4の結果からは、DNTTにFRNを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0185】
《参考例5》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とアントラセン(ANTH、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0186】
【化42】

【0187】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、ANTHの生成熱は62.92kcal/molであるとした。
【0188】
【表5】

【0189】
表5の付加位置については下記に示す。
【0190】
【化43】

【0191】
表5の結果からは、DNTTにANTHを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0192】
《参考例6》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とトリシアノ−カルボン酸メチル−エチレン(TCPM、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【化44】

【0193】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、TCPMの生成熱は40.24kcal/molであるとした。
【0194】
【表6】

【0195】
表6の付加反応の反応条件における「光」及び「熱」はそれぞれ、光及び熱によって付加反応を進行させられることを意味している。表6の付加位置については下記に例示する。
【0196】
【化45】

【0197】
表6の結果からは、DNTTにTCPMを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0198】
《参考例7》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とカルボン酸メチルピロール(NMPC、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0199】
【化46】

【0200】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、NMPCの生成熱は−30.46kcal/molであるとした。
【0201】
【表7】

【0202】
表7の付加反応の反応条件における「光」及び「熱」はそれぞれ、光及び熱によって付加反応を進行させられることを意味している。表7の付加位置については下記に例示する。
【0203】
【化47】

【0204】
表7の結果からは、DNTTにNMPCを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0205】
《参考例8》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とヒドロキシフェニル−マレイミド(HOPMI、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【化48】

【0206】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、HOPMIの生成熱は−38.13kcal/molであるとした。
【0207】
【表8】

【0208】
表8の付加反応の反応条件における「光」及び「熱」はそれぞれ、光及び熱によって付加反応を進行させられることを意味している。表8の付加位置については下記に例示する。
【0209】
【化49】

【0210】
表8の結果からは、DNTTにHOPMIを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0211】
《参考例9》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)と炭酸ビニレン(VC(ビニレンカーボネート)、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0212】
【化50】

【0213】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、VCの生成熱は−59.30kcal/molであるとした。
【0214】
【表9】

【0215】
表9の付加反応の反応条件における「光」及び「熱」はそれぞれ、光及び熱によって付加反応を進行させられることを意味している。
【0216】
表9の付加位置については、下記の化学式で示すとおりである。
【0217】
【化51】

M位:2−7
L位:4−5
Z位:3−6
T位:3−4、又は5−6
C位:7b−14b
【0218】
表9の結果からは、DNTTにVCを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0219】
《参考例10A》
特許文献2に示される手法により合成したジナフトチエノチオフェン(DNTT、MW=340.46)500mg(1.47mmol)、N−フェニルマレイミド(PMI、MW=173.16、構造式を下記に示す)2.54g(14.7mmol、1000mol%DNTT基準)、ラジカル補足剤としてのヒドロキノン(MW110.1)16.2mg(N−フェニルマレイミド基準で1mol%)を、メシチレン溶媒中で混合し、窒素下において160℃で2時間にわたって撹拌した。これにより、DNTTとPMIとのディールス−アルダー付加反応を行った。
【0220】
【化52】

【0221】
反応後、ろ過により固形物を取得し、これをクロロホルムで洗浄した。この固形物は、NMRによりDNTT(原料)であることが確認された(収量422.3mg、収率84.54mol%)。
【0222】
ろ過液を、HPLC(高速液体クロマトグラフィ、Agilent 1100 Series HPLC:High Performance Liquid Chromatography, SHISEIDO CAPCELL PAK C18 TYPE UG120、溶媒:アセトニトリル/水)により分取し、DNTTにPMI1分子が付加した付加化合物113.2mg(DNTT−1PMI、Mw=513.63、収率15.0mol%)を得た。
【0223】
得られたDNTT−1PMIは、2種の立体異性体(それぞれ「立体異性体A」及び「立体異性体B」とする)の混合物であった。これらの立体異性体についての分析結果を下記に示す。なお、NMRの結果から、立体異性体Aがendo体であり、且つ立体異性体Bがexo体であると推定される。
【0224】
DNTT−1PMI(立体異性体A)
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.30 (S、1H )、8.23(S、1H)、7.95(m、1H)、7.89(m、1H)、7.50(m、2H)、7.47(m、2H)、7.25(m、2H)、7.12(t、J=7.3Hz,1H)、7.07(dd、J=7.3Hz、7.7Hz,2H)、6.50(d、J=7.7Hz、2H)、5.30(d、J=3.3Hz,1H)、5.22(d、J=3.3Hz,1H)、3.54(dd、J=3.3Hz,8.1Hz,1H)、3.51(dd、J=3.3Hz、8.1Hz、1H)
MS(70eV、DI): 514.10m/z
【0225】
DNTT−1PMI(立体異性体B)
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.33(s、1H)、8.25(s、1H)、7.97(m、1H)、7.90(m、1H)、7.49(m、2H)、7.42(m、1H)、7.40(m、1H)、7.31(m、1H)、7.30(m、2H)、7.26(m、2H)、6.53(m、2H)、5.22(d、J=3.3Hz、1H)、5.18 (d、J=3.3Hz、1H)、3.59(dd、J=3.3Hz,8.4Hz,1H)、3.56(dd、J=3.3Hz、8.4Hz、1H)
MS(70eV、DI): 513.05m/z
【0226】
質量分析(MS)の検出値はいずれも、DNTT−1PMI(Mw=513.63)と実質的に一致している。
【0227】
示差熱天秤分析(Rigaku TG−DTA TG8120)を用いて、窒素下において1℃/minの昇温分析を行って、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)の熱脱離特性を評価した。これによれば、DNTT−1PMI(立体異性体A)では、195℃から260℃の温度範囲において、重量減少が31.9wt%であった。また、DNTT−1PMI(立体異性体B)では、155℃から260℃の温度範囲において、重量減少が32.7wt%であった。結果は図3に示すようなものであった。DNTT−1PMI(MW=513.63)から、PMIが逆ディールス−アルダー反応により熱脱離した場合、重量減少は−33.7wt%(計算値)であるので、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)での分析結果は、加熱によってPMIが脱離したことを示している。また、NMRによれば、熱脱離後の試料がDNTTと一致することが確認された。
【0228】
DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)をそれぞれ用いて、下記のようにして、ボトムコンタクトボトムゲート型FET(Field effect Transistor)素子を作製した。
【0229】
基材は、300nmのSiO酸化膜付nドープシリコンウェハー(面抵抗0.005Ω・cm)のSiO酸化膜上に、チャネル長50μm及びチャネル幅1.5mmのソース/ドレイン金電極を作製して得た(ボトムコンタクト)。
【0230】
この基材を50℃に加熱しながら、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)のクロロホルム3wt%溶液を、基材のチャネル部に滴下し、速やかに揮発させて膜を得、そしてこの膜を加熱して有機半導体膜を得た。ここで、DNTT−1PMI(立体異性体A)ついては、窒素下において、200℃で2時間の加熱を行った。また、DNTT−1PMI(立体異性体B)については、窒素下又は大気下において、160℃で2時間の加熱を行った。
【0231】
得られた有機半導体膜の特性を評価すると、p型半導体特性を示した。また、キャリア移動度は0.01〜0.0001cm/Vsであり、且つオン/オフ比は10〜10であった。すなわち、DNTT−1PMI(立体異性体B)については、窒素下において加熱を行った場合だけでなく、大気下において加熱を行った場合にも、半導体特性が得られた。電界効果トタンジスタ(FET)としての出力特性及び伝達特性をそれぞれ、図7及び8に示す。ここで、図7は、縦軸がドレイン電流(I(A))を示しており、横軸がドレイン電圧(V(V))を示している。また図8は、縦軸がドレイン電流(I(A))を示しており、横軸がゲート電圧(V(V))を示している。
【0232】
また、偏光顕微鏡によるチャネル部の観察によれば、加熱して有機半導体膜を得た後では、有機半導体膜の全面に微小な結晶が形成されていることが確認された。したがって、加熱によってDNTT−1PMIからPMIが脱離して、DNTTの結晶が生成していることが確認された。
【0233】
DNTT−1PMI(立体異性体B)から得られた有機半導体膜を有する上記のFET素子に関して、有機半導体膜中における残留DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)の有無について、NMRにより確認した。結果を図9に示す。なお、この図9において、「DNTT」、「DNTT−1PMI(A)」、「DNTT−1PMI(B)」、及び「FET DNTT−1PMI(B)」はそれぞれ、DNTT、DNTT−1PMI(立体異性体A)、DNTT−1PMI(立体異性体B)、及びDNTT−1PMI(立体異性体B)から得られた有機半導体膜についての分析結果を示している。
【0234】
図9によれば、DNTT−1PMI(立体異性体B)から得られた有機半導体膜では、DNTTに相当するNMRピークのみでなく、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)両方に相当するNMRピークが観測される。すなわち、有機半導体膜中にDNTT−1PMI(立体異性体A及びB)が残留している場合であっても、十分な半導体特性を提供できることが確認された。ここで、DNTTは溶解性が低く、したがってNMRによってピークが観察されにくい。一方で、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)は溶解性が高いため、溶解分に相当したNMRピークが観測されている。このため、このNMR結果からは、有機半導体膜におけるDNTT−1PMIとDNTTとの比は判断できない。なお、図9の「DNTT」のピークは、ノイズが大きくなっていることから理解されるように、他のピークと比較して倍率を大きくしている。また、有機半導体膜での検出されているDNTT−1PMI(立体異性体A及びB)のNMRピークの大きさが、DNTTのピークと相対してほぼ同程度であることより、残留成分のDNTT−1PMI(立体異性体A及びB)は、微少量であることが分かる。
【0235】
《参考例10B》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とN−フェニルマレイミドとの付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0236】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、PMIの生成熱は5.83kcal/molであるとした。
【0237】
【表10】

【0238】
表10の付加位置については、下記の化学式で示すとおりである。
【0239】
【化53】

M位:2−7
C位:7b−14b
Z位:3−6
MM位:2−7及び9−14
ZZ位:3−6及び10−13
MZ位及びZM位:2−7及び10−13
【0240】
表10の結果からは、1分子のDNTTに1分子のPMIを付加する付加反応、及び1分子のDNTTに2分子のPMIを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0241】
《参考例11》
ナフトアルデヒド(NAL、構造式を下記に示す)とN−フェニルマレイミド(PMI、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0242】
【化54】

【0243】
同様にして、3−メチルチオ−2−ナフトアルデヒド(MTNAL、構造式を下記に示す)とN−フェニルマレイミド(PMI、構造式を下記に示す)との付加反応を、コンピュータシュミレーションによって確認した。
【0244】
【化55】

【0245】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、NALの生成熱は9.58kcal/molとし、MTNALの生成熱は12.28kcal/molとし、PMIの生成熱は5.83kcal/molであるとした。
【0246】
【表11】

【0247】
表9の付加反応の反応条件における「熱」は、熱によって付加反応を進行させられることを意味している。
【0248】
表11の付加位置は、下記のとおりである:
M位:1−4
Z位:8−5
【0249】
表11の結果からは、NALにPMIを付加する付加反応、及びMTNALにPMIを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。また、表11の結果からは、下記のEndo体及びExo体が、いずれも形成されることが理解される。
【0250】
【化56】

【0251】
《参考例12》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT、MW=340.46)500mg(1.47mmol)、N−メチルマレイミド(MMI、MW=111.1)1.63g(14.7mmol、DNTT基準で1000mol%)、ラジカル補足剤としてのヒドロキノン(MW110.1)16.2mg(N−メチルマレイミド基準で1mol%)を、メシチレン溶媒中において混合し、窒素下において160℃で2時間にわたって撹拌した。これにより、DNTTとMMIとのディールス−アルダー付加反応を行った。
【0252】
その後、ろ過により固形物を取得し、クロロホルムで洗浄した。この固形物は、NMRによりDNTT(原料)であることが確認された(収量343.5mg、収率.68.7mol%)。
【0253】
ろ過液を、HPLCにより分取し、DNTTにMMI1分子が付加した付加物化合物113.2mg(DNTT−1MMI、Mw=451.56、収率28.5mol%)を得た。この付加化合物の構造式を下記に示す。
【0254】
【化57】

【0255】
得られたDNTT−1MMPは、2種の立体異性体(それぞれ「立体異性体A」及び「立体異性体B」とする)の混合物であった。これらの立体異性体についての分析結果を下記に示す。なお、NMRの結果から、立体異性体Aがendo体であり、且つ立体異性体Bがexo体であると推定される。
【0256】
DNTT−1MMI(立体異性体A)
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.28(s,1H),8.19(s,1H),7.94(m,1H),7.88(m,1H),7.47(m,2H),7.46(m,1H),7.42(m,1H),7.21(m,2H),5.18(d,J=2.9Hz,1H),5.11(d,J=2.9Hz,1H),3.37(dd,J=2.9Hz,7.7Hz,1H),3.35(dd,J=2.9Hz,7.7Hz,1H),2.53(s,3H)
MS(70eV、DI): 451.00m/z
【0257】
DNTT−1MMI(立体異性体B)
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.32(s,1H),8.23(s,1H),7.95(m,1H),7.89(m,1H),7.49(m,2H),7.33(m,1H),7.31(m,1H),7.17(m,2H),5.11(d,J=3.3Hz,1H),5.07(d,J=3.3Hz,1H),3.43(dd,J=3.3Hz,8.4Hz,1H),3.40(dd,J=3.3Hz,8.4Hz,1H),2.52(s,3H)
MS(70eV、DI): 451.30m/z
【0258】
質量分析(MS)の検出値はいずれも、DNTT−1MMI(Mw=451.56)と実質的に一致している。
【0259】
参考例10Aでのようにして示差熱天秤分析を用いて、DNTT−1MMIの熱脱離特性を評価した。これによれば、DNTT−1MMI(立体異性体A)では、220℃から260℃の温度範囲において熱脱離が起こった。なお、DNTT−1MMI(立体異性体B)のサンプル微量であったため、熱脱離特性の評価が行えなかった。
【0260】
DNTT−1MMI(立体異性体A)に関しては、参考例10Aでのようにして有機半導体膜を得て、半導体特性を評価した。ここで、有機半導体膜を得るための加熱は、窒素下において、225℃で2時間にわたって行った。得られた有機半導体膜の特性を評価すると、p型半導体特性を示した。また、キャリア移動度は、0.01〜0.0001cm/Vsであり、且つオン/オフ比は10〜10であった。
【0261】
《参考例13》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT、MW=340.46)500mg(1.47mmol)、N−シクロヘキシルマレイミド(CHMI、MW=179.22)2.63g(14.7mmol、DNTT基準で1000mol%)、ラジカル補足剤としてのヒドロキノン(MW110.1)16.2mg(N−フェニルマレイミド基準で1mol%)を、メシチレン溶媒中において混合し、窒素下において160℃で2時間にわたって撹拌した。これにより、DNTTとCHMIとのディールス−アルダー付加反応を行った。
【0262】
その後、ろ過により固形物を取得し、クロロホルムで洗浄した。この固形物は、NMRによりDNTT(原料)であることが確認された(収量478.5mg、収率.95.7mol%)。
【0263】
ろ過液を、HPLCにより分取し、DNTTにCHMI1分子が付加した付加化合物28.9mg(DNTT−1CHMI、Mw=519.13、収率2.1mol%)を得た。この付加化合物の構造式を下記に示す。
【0264】
【化58】

【0265】
得られたDNTT−1CHMIについての分析結果を下記に示す。なお、DNTT−1CHMIに関しては、立体異性体は得られなかった。
【0266】
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.31(s,1H),8.23(s,1H),7.95(m,1H),7.89(m,1H),7.48(m,2H),7.33(m,1H),7.32(m,1H),7.17(m,2H),5.08(d,J=3.4Hz,1H),5.05(d,J=3.4Hz,1H),3.51(m,1H),3.33(dd,J=3.4Hz,8.3Hz,1H),3.30(dd,J=3.4Hz,8.3Hz,1H),1.68(m,4H),1.58(m,1H),1.09(m,3H),0.84(m,2H)
MS(70eV、DI): 519.20m/z
【0267】
質量分析(MS)の検出値は、DNTT−1CHMI(Mw=519.13)と実質的に一致している。
【0268】
参考例10Aでのようにして示差熱天秤分析を用いて、DNTT−1CHMIの熱脱離特性を評価した。これによれば、DNTT−1CHMIでは、200℃から280℃の温度範囲において熱脱離が起こった。
【0269】
DNTT−1CHMIに関して、参考例10Aでのようにして有機半導体膜を得て、半導体特性を評価した。ここで、有機半導体膜を得るための加熱は、窒素下において、210℃で2時間にわたって行った。得られた有機半導体膜の特性を評価すると、p型半導体特性を示した。キャリア移動度は、0.01〜0.0001cm/Vsであり、且つオン/オフ比は10〜10であった。
【0270】
《参考例14》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT、MW=340.46)2000mg(5.87mmol)、N−ベンジルマレイミド(BZMI、MW=187.19)10.99g(58.7mmol、DNTT基準で1000mol%)、ラジカル補足剤としてヒドロキノン(MW110.1)64.8mg(N−ベンジルマレイミド基準で1mol%)をメシチレン溶媒中において混合し、窒素下において160℃で4時間にわたって撹拌した。これにより、DNTTとBZMIとのディールス−アルダー付加反応を行った。
【0271】
その後、ろ過により固形物を取得し、クロロホルムで洗浄した。この固形物は、NMRによりDNTT(原料)であることが確認された(収量980mg、収率.49.0mol%)。
【0272】
ろ過液を、HPLCにより分取し、DNTTにBZMI1分子が付加した付加化合物659.2mg(DNTT−1BZMI、Mw=527.10、収率21.3mol%)を得た。この付加化合物の構造式を下記に示す。
【0273】
【化59】

【0274】
得られたDNTT−1BZMIについての分析結果を下記に示す。なお、DNTT−1BZMIに関しては、立体異性体は得られなかった。
【0275】
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.31(s,1H),8.22(s,1H),7.95(m,1H),7.89(m,1H),7.48(m,2H),7.23(m,2H),7.18(t,J=7.3Hz,1H),7.14(dd,J=7.3Hz,7.3Hz,2H),6.99(m,2H),6.75(d,J=7.3Hz,2H),5.08(d,J=3.3Hz,1H),5.05(d,J=3.3Hz,1H),4.28(s,2H),3.44(dd,J=3.3Hz,8.4Hz,1H),3.41(dd,J=3.3Hz,8.4Hz,1H)
MS(70eV、DI): 527.95m/z
【0276】
質量分析(MS)の検出値は、DNTT−1BZMI(Mw=527.10)と実質的に一致している。
【0277】
参考例10Aでのようにして示差熱天秤分析を用いて、DNTT−1BZMIの熱脱離特性を評価した。これによれば、DNTT−1BZMIでは、190℃から260℃の温度範囲において熱脱離が起こった。
【0278】
DNTT−1BZMIに関して、参考例10Aでのようにして有機半導体膜を得て、半導体特性を評価した。ここで、有機半導体膜を得るための加熱は、窒素下において、200℃で2時間にわたって行った。得られた有機半導体膜の特性を評価すると、p型半導体特性を示した。それぞれのキャリア移動度は、0.01〜0.0001cm/Vsであり、オン/オフ比は10〜10であった。
【0279】
《参考例15》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT、MW=340.46)500mg(1.47mmol)、N−t−ブチルマレイミド(TBMI、MW=153.18)2.25g(14.7mmol、DNTT基準で1000mol%)、ラジカル補足剤としてのヒドロキノン(MW110.1)16.2mg(N−t−ブチルマレイミド基準で1mol%)をメシチレン溶媒中において混合し、窒素下において160℃で4時間にわたって撹拌した。これにより、DNTTにTBMIとのディールス−アルダー付加反応を行った。
【0280】
その後、ろ過により固形物を取得し、クロロホルムで洗浄した。この固形物は、NMRによりDNTT(原料)であることが確認された(収量486mg、収率.97.2mol%)。
【0281】
ろ過液を、HPLCにより分取し、DNTTへのTBMI1分子が付加した付加化合物2.1mg(DNTT−1TBMI、Mw=493.64、収率0.29mol%)を得た。この付加化合物の構造式を下記に示す。
【0282】
【化60】

【0283】
DNTT−1TBMIについての分析結果を下記に示す。なお、DNTT−1TBMIに関しては、立体異性体は得られなかった。
【0284】
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.31(s,1H),8.22(s,1H),7.95(m,1H),7.89(m,1H),7.48(m,2H),7.35(m,1H),7.33(m,1H),7.18(m,2H),5.06(d,J=3.3Hz,1H),5.02(d,J=3.3Hz,1H),3.23(dd,J=3.3Hz,8.8Hz,1H),3.16(dd,J=3.3Hz,8.8Hz,1H),2.59(s,9H)
【0285】
《参考例15》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT、MW=340.46)500mg(1.47mmol)、無水マレイン酸(MA、MW=98.06)1.44g(14.7mmol、DNTT基準で1000mol%)、ラジカル補足剤としてのヒドロキノン(MW110.1)16.2mg(無水マレイン酸基準で1mol%)をメシチレン溶媒中において混合し、窒素下において160℃で4時間にわたって撹拌した。これにより、DNTTとMAとのディールス−アルダー付加反応を行った。
【0286】
その後、ろ過により固形物を取得し、クロロホルムで洗浄した。この固形物は、NMRによりDNTT(原料)であることが確認された(収量472.2mg、収率.94.4mol%)。
【0287】
ろ過液を、HPLCにより分取し、DNTTにMA1分子が付加した付加化合物32.2mg(DNTT−1MA、Mw=438.52、収率5.0mol%)を得た。この付加化合物の構造式を下記に示す。
【0288】
【化61】

【0289】
得られたDNTT−1MAについての分析結果を下記に示す。
【0290】
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.31(s,1H),8.22(s,1H),7.95(m,1H),7.89(m,1H),7.48(m,2H),7.23(m,2H),7.00(m,2H),5.09(d,J=3.3Hz,1H),5.05(d,J=3.3Hz,1H),3.44(dd,J=3.3Hz,8.4Hz,1H),3.41(dd,J=3.3Hz,8.4Hz,1H)
MS(70eV、DI): 341.31m/z
【0291】
質量分析(MS)の検出値は、DNTT(分子量340.46)と一致しており、DNTT−1MAが質量分析(70eV、DI)の条件に曝されることで、MAが脱離してDNTTが再生していることが示されている。
【符号の説明】
【0292】
1 有機半導体
2 ソース電極
3 ドレイン電極
5 誘電体層(酸化ケイ素)
7 シリコンウェハー基材(ゲート電極)
10 有機半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のステップ(a)〜(d)を含む、下記の式(I)の縮合多環芳香族化合物の精製方法:
ArArAr (I)
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Arは、1個の芳香族環からなる置換又は非置換の芳香族環部分、及び2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
ArとArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合芳香環を形成しており、且つ
ArとArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合芳香環を形成している);
(a)前記式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物を提供するステップ、
(b)二重結合を有する化合物(II)であって、前記式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加する化合物(II)を提供するステップ、
(c)前記式(I)の縮合多環芳香族化合物と前記二重結合を有する化合物(II)とを混合して、これらの化合物の付加生成物が少なくとも部分的に溶解している混合液を得るステップ、並びに
(d)前記混合液から、精製された前記式(I)の縮合多環芳香族化合物を分離して得るステップ。
【請求項2】
ステップ(a)において提供される前記式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物が、ハロゲン及び/又は金属の元素又はその化合物、及び/又は芳香族化合物を不純物として含有している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
二重結合を有する前記化合物(II)が求ジエン体として、式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加する化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
二重結合を有する前記化合物(II)が、下記の式(II−A3)及び(II−B3)のいずれかの化合物である、請求項3に記載の方法:
【化1】

(R及びRはそれぞれ独立に、結合、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択され、
及びRは、互いに結合して環を形成していてもよく、
nは、1〜5の整数であり、且つ
Zは、結合(−)、酸素(−O−)、メチレン性炭素(−C(R−)、エチレン性炭素(−C(R)=)、カルボニル基(−C(=O)−)、窒素(−N(R)−)、及び硫黄(−S−)からなる群より選択され、且つnが2又はそれよりも大きいときにはそれぞれ異なっていてもよい(Rはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択される))。
【請求項5】
二重結合を有する前記化合物(II)が、共役ジエン体として、式(I)の縮合多環芳香族化合物に脱離可能に付加する化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
二重結合を有する前記化合物(II)が、環状部分を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
二重結合を有する前記化合物(II)が、下記の式(II−1)〜(II−12)のいずれかを有する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法:
【化2】

(R及びRはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、水酸基、アミド基、メルカプト基、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数2〜10のアルキニル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数4〜10の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数1〜10のエステル基、炭素原子数1〜10のエーテル基、炭素原子数1〜10のケトン基、炭素原子数1〜10のアミノ基、炭素原子数1〜10のアミド基、炭素原子数1〜10のイミド基、及び炭素原子数1〜10のスルフィド基からなる群より選択される)。
【請求項8】
Arが、置換又は非置換の下記の(a1)〜(a4)からなる群より選択される芳香族環部分又は縮合芳香族環部分である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法:
【化3】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素)。
【請求項9】
Ar及びArがそれぞれ独立に、置換又は非置換の下記の(b1)〜(b4)の縮合ベンゼン環部分からなる群より選択される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法:
【化4】

【請求項10】
減圧及び/又は加熱によって、前記式(I)の縮合多環芳香族化合物から、二重結合を有する前記化合物(II)を脱離させることができる、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記式(I)の縮合多環芳香族化合物が有機半導体化合物である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記式(I)の縮合多環芳香族化合物が、置換又は非置換の下記の式(I−1)〜(I−5)の化合物からなる群より選択される、請求項11に記載の方法:
【化5】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素)。
【請求項13】
前記芳香族環部分又は縮合芳香族環部分の置換が、それぞれ独立に、ハロゲン、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のエステル基、炭素原子数1〜20のエーテル基、炭素原子数1〜20のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、及び炭素原子数1〜20のスルフィド基からなる群より選択される置換基によってなされている、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
ステップ(c)において更に溶媒を混合する、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法によって前記式(I)の縮合多環芳香族化合物の粗生成物を精製するステップを含む、前記式(I)の縮合多環芳香族化合物の製造方法。
【請求項16】
下記の式(I)の縮合多環芳香族化合物に二重結合を有する化合物(II)が脱離可能に付加されてなる構造を有する付加生成物から、前記化合物(II)を脱離させることを含む、下記の式(I)の縮合多環芳香族化合物を製造する方法:
ArArAr (I)
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Arは、1個の芳香族環からなる置換又は非置換の芳香族環部分、及び2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
ArとArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合芳香環を形成しており、且つ
ArとArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合芳香環を形成している)。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の方法によって、前記式(I)の縮合多環芳香族化合物を製造し、得られた前記式(I)の縮合多環芳香族化合物から有機半導体膜を得る、有機半導体膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−148743(P2011−148743A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12166(P2010−12166)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】