説明

繊維、不織布及びその用途

【課題】不織布の製造時に発煙が低減され、しかも、しかも初期親水性及び耐久親水性が共に優れるオレフィン重合体不織布に好適な繊維及び不織布を開発することを目的とする。
【解決手段】オレフィン系重合体100重量部に対して、R−COO−(C2nO)−CO−Rで表されるポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルを0.5〜5重量部含むオレフィン系重合体組成物からなる繊維、当該繊維からなる不織布及びその用途に関する。
[式中、Rは炭素数が13〜17のアルキル基であり、(C2nO)のnは2〜4の整数であり、xは10〜23である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
紡糸性が良好で、紡糸時の発煙が抑制され、且つ、初期親水性及び耐久親水性に優れる繊維、かかる繊維を含む不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表されるオレフィン系重合体から得られる不織布は通気性、柔軟性、軽量性に優れることから各種用途に幅広く用いられている。そのため、不織布には、その用途に応じた各種の特性が求められるとともに、その特性の向上が要求されている。
【0003】
一方、オレフィン系重合体からなる不織布は、本質的に疎水性であるので、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生材料のトップシート、ワイパーなどに使用するには、親水処理することが必須である。
【0004】
オレフィン系重合体を親水化処理する方法の一つとして、特定の範囲の平均分子量を有するポリオキシエチレンのジ脂肪酸エステルを用いる方法(特許文献1:特表平9−503829号公報、あるいは特許文献2:特表2006−508194号公報)が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の実施例1及び実施例5に記載されている不飽和カルボン酸のジエステルである平均分子量400のポリエチレン酸化物のジオレイン酸エステルをポリプロピレンに添加してスパンボンド不織布を製造した場合は、紡糸時の発煙が多く、得られるスパンボンド不織布の初期親水性が非常に劣り、熱処理などにより「活性化」しない限り親水性が全く得られないことがわかった。
【0006】
一方、特許文献2に記載された発明は、ポリプロピレンスパンボンド不織布などの繊維の柔軟仕上げに用いるものであって、親水化処理を目的とするものではないと記載されている。そして、公表特許公報の段落[0014]には、ポリエチレングリコール(分子量400)とデカン酸(炭素数:10)またはラウリン酸(炭素数:12)との反応生成物の使用が特に好ましい、と記載されている。
【0007】
特許文献2に記載の、平均分子量400のポリエチレングリコールのジラウリン酸エステルをポリプロピレンに添加して得られるスパンボンド不織布は、柔軟性の他に、初期親水性や耐久親水性は良好であるものの、高温で押出成形し紡糸する際の発煙が多く、この発煙成分が製造設備を汚染するため、安定的な生産を持続することが困難であることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平9−503829号公報
【特許文献2】特表2006−508194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、不織布の製造時に発煙が低減され、しかも、不織布の製造後短時間に親水性(初期親水性)が発現し、且つ、熱処理の有無に関わらず親水性が持続(耐久親水性)するという、耐発煙性に優れ、しかも初期親水性及び耐久親水性が共に優れるオレフィン重合体不織布に好適な繊維及び不織布を開発することを目的とし、種々検討した結果、
親水剤として、非イオン系界面活性剤として特定のポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルを添加・混合することにより、本発明の目的を達成し得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、オレフィン系重合体100重量部に対して、下記化学式(1)で表されるポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルを0.5〜5重量部含むオレフィン系重合体組成物からなる繊維、当該繊維を含む不織布及びその用途を提供することにある。
【0011】
R−COO−(C2nO)−CO−R 式(1)
[式中、Rは炭素数が13〜17のアルキル基であり、(C2nO)のnは2〜4の整数であり、xは10〜23である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明に係わる特定のポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルを含むオレフィン系重合体組成物は、不織布などの繊維を紡糸する際の発煙が抑制され、しかも、得られる繊維及び不織布は、製造後の親水性の発現時間が3時間以下と極めて短く、しかも、80℃で2時間熱処理する前後も親水性が持続し、初期親水性及び耐久親水性が共に優れるという特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<オレフィン系重合体>
本発明の繊維及び当該繊維を含む不織布を形成するオレフィン系重合体は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン及び1−オクテン等のα−オレフィンの単独若しくは共重合体であり、具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1−ブテンランダム共重合体等のエチレンの単独重合体あるいはエチレン・α−オレフィン共重合体等のエチレン系重合体;プロピレンの単独重合体(所謂ポリプロピレン)、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテンランダム共重合体(所謂ランダムポリプロピレン)、プロピレンブロック共重合体、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体等のプロピレン系重合体;1−ブテン単独重合体、1−ブテン・エチレン共重合体、1−ブテン・プロピレン共重合体等の1−ブテン系重合体;ポリ4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。
【0014】
これらオレフィン系重合体の中でも、プロピレン系重合体が、成形時の紡糸安定性や不織布の加工性及び通気性、柔軟性、軽量性、耐熱性に優れる不織布が得られるので、好ましい。
【0015】
本発明に係るオレフィン系重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、親水性を促進または抑制する助剤、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料、柔軟剤、撥水剤、フィラー、抗菌剤等の添加剤あるいはオレフィン系重合体以外の重合体を必要に応じて配合することができる。
【0016】
<プロピレン系重合体>
本発明に係わるプロピレン系重合体としては、融点(Tm)が125℃以上、好ましくは130〜165℃の範囲にあるプロピレンの単独重合体若しくはプロピレンと少量のエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2以上(但し炭素数3を除く)、好ましくは2〜8(但し炭素数3を除く)の1種または2種以上のα−オレフィンとの共重合体である。
【0017】
本発明に係わるプロピレン系重合体は、溶融紡糸し得る限り、メルトフローレート(M
FR:ASTMD−1238、230℃、荷重2160g)は特に限定はされないが、通常、1〜1000g/10分、好ましくは5〜500g/10分、さらに好ましくは10〜100g/10分の範囲にある。
【0018】
本発明に係わるプロピレン系重合体の中でも、融点(Tm)が125〜155℃、好ましくは130〜147℃の範囲にあるプロピレンと少量のエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2以上、好ましくは2〜8の1種または2種以上のα−オレフィンとのプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体が、柔軟性、初期親水性に優れる不織布が得られるので、とくに好ましい。
【0019】
プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体におけるα−オレフィンの含有量は、融点(Tm)が上記範囲にある限り、特に限定はされないが、通常1〜10モル%の範囲にある。より好ましくは1〜5モル%である。
【0020】
<ポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステル>
本発明に係わるポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルは、下記化学式(1)で表されるポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルである。
【0021】
R−COO−(C2nO)−CO−R 式(1)
[式中、Rは炭素数が13〜17のアルキル基であり、(C2nO)のnは2〜4の整数であり、xは10〜23である。]
式(1)中、R基としては、具体的には、CH3‐(CH212基(トリデシル基)、CH3‐(CH213基(テトラデシル基)、CH3‐(CH214基(ペンタデシル基)、CH3‐(CH215基(ヘキサデシル基)、CH3‐(CH216基(ヘプタデシル基)、及びCH3‐(CH217基(オクタデシル基)である。
【0022】
初期親水性を考慮すると、R基が、CH3‐(CH212基(トリデシル基)、CH3‐(CH213基(テトラデシル基)、CH3‐(CH214基(ペンタデシル基)、及びCH3‐(CH215基(ヘキサデシル基)が好ましくい。
【0023】
式(1)中、(C2nO)基は、具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドの付加物、好ましくはエチレンオキサイドの付加物であって、平均分子量が400〜1000、好ましくは600〜800である。
【0024】
Rの炭素数が11のCH3‐(CH210基(ウンデシル基)を有するポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルは、紡糸時の発煙が激しく、且つ、得られる不織布は親水性、とくに、耐久親水性が劣る。一方、Rの炭素数が18のCH3‐(CH217基(オクタデシル基)あるいはCH3−(CH27CH=CH(CH27基を有するポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルは、紡糸時の発煙は抑制されるが、得られる不織布は初期親水性及び耐久親水性に劣る。
【0025】
(C2nO)基の分子量が400以下の場合、得られる不織布の初期親水性は優れるが、成形時の発煙が多いため、安定生産上好ましくない。また、得られた不織布を水中に浸漬すると経時的に親水剤成分が溶出する。水への溶出が多いと、製造時や使用時に水と接触した際、その残留水が白濁したりして、排水の際に特別な処理が必要になる場合があるため好ましくない。一方、(C2nO)基の分子量が800以上の場合、成形時の発煙や水中での親水剤の溶出は少ないが、得られる不織布の親水性が劣ったり、原料を押出機に導入して溶融成形する際に原料の食込み不良が著しくなり良好な繊維及び不織布が得られないため、好ましくない。
【0026】
また、R−COO−(C2nO)−Hで表されるポリアルキレングリコールのモノ飽和脂肪酸エステルは、押出成形性に劣り、良好な繊維及び不織布が得られない。成形できた場合でも成形時の発煙が多いため安定生産上好ましくない。
【0027】
<オレフィン系重合体組成物>
本発明に係わるオレフィン系重合体組成物は、前記オレフィン系重合体100重量部に対して、前記ポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルを0.5〜5重量部、好ましくは1〜3重量部含む組成物である。
【0028】
ポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルの量が0.5重量部未満では、親水性が劣る。一方、上限は特に限定はされないが、5重量部を超えると、親水性が飽和するともに、得られる繊維及び当該繊維を含む不織布の表面に滲み出すポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルの量が多くなり、成形加工性が低下する。
【0029】
本発明に係るオレフィン系重合体組成物を用意する場合は、前記ポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルを、5重量%を超える、例えば、10〜70重量%と高濃度に含むペレット状のマスターバッチとしておくと、繊維及び不織布の製造時にポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルの添加及び前記オレフィン系重合体との混合が容易となるので好ましい。ポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルのマスターバッチに用いるオレフィン系重合体は、前記オレフィン系重合体に限らず、他のオレフィン系重合体を用いてもよい。かかるマスターバッチに用いるオレフィン系重合体は目的とする繊維及び当該繊維を含む不織布に応じて、MFRを適宜選択し得る。
【0030】
本発明に係るオレフィン系重合体組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料等の添加剤あるいはオレフィン系重合体以外の重合体を必要に応じて配合することができる。
【0031】
<繊維及び不織布>
本発明の繊維及び当該繊維を含む不織布は、前記オレフィン系重合体と前記ポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルを含むオレフィン系重合体組成物の繊維及び当該繊維を含む不織布である。
【0032】
本発明の繊維及び当該繊維を含む不織布は、初期親水性に優れるが、使用するオレフィン系重合体と前記ポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルとの組合せによって初期親水性が不足する場合は、得られた不織布を、熱処理することで親水性を発現させることができる。この場合の熱処理の条件は、使用するオレフィン系重合体の性状によるが、一般的には40〜90℃の温度で5分から2時間程度行うのが好ましい。
【0033】
本発明の繊維は、通常、繊度が0.5〜5デニールの範囲にある。本発明の繊維は短繊維であってもよいが、長繊維であることが、得られる不織布からの繊維の脱落等がないので好ましい。
【0034】
本発明の繊維は、サイド・バイ・サイド型の少なくとも2成分以上の繊維からなる捲縮繊維であっても良い。好ましくは、プロピレンの単独重合体とプロピレン・エチレンランダム共重合体からなるサイド・バイ・サイド型の捲縮繊維を含んでも良い。本発明の繊維は、かかる捲縮繊維とその他の非捲縮繊維との混繊繊維であっても良い。また、繊維の断面形状は丸型の他にV字型、十字型、T字型などの異型断面であっても良い。
【0035】
本発明の不織布は、用途により、種々公知の交絡方法、例えば、ニードルパンチ、ウォータージェット、超音波等の手段を用いる方法、あるいはエンボスロールを用いる熱エンボス加工またはホットエアースルーを用いることにより一部熱融着する方法により交絡しておいてもよい。かかる交絡方法は単独でも複数の交絡方法を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
熱エンボス加工により熱融着する場合は、通常、エンボス面積率が5〜30%、好ましくは5〜20%の範囲にある。刻印形状は、円、楕円、長円、正方、菱、長方、四角、キルト、格子、亀甲やそれら形状を基本とする連続した形が例示される。
【0037】
本発明の不織布は、種々用途により、単独でも他の層と積層して用いてもよい。
【0038】
本発明の不織布と積層される他の層は、具体的には、例えば、編布、織布、不織布、フィルム、紙製品等を挙げることができる。本発明の不織布と他の層を積層する(貼り合せる)場合は、熱エンボス加工、超音波融着等の熱融着法、ニードルパンチ、ウォータージェット等の機械的交絡法、ホットメルト接着剤、ウレタン系接着剤等の接着剤による方法、押出しラミネート等をはじめ、種々公知の方法を採り得る。本発明の不織布は、ホットメルト接着剤や押出しラミネート等、高温物質と接触する工程を経た後も、親水性が持続するので、製品の品質管理上、利便性が高い。
【0039】
本発明の不織布と積層される不織布としては、他のスパンボンド不織布、メルトブロー不織布、湿式不織布、乾式不織布、乾式パルプ不織布、フラッシュ紡糸不織布、開繊不織布等、種々公知の不織布を挙げることができる。
【0040】
かかる不織布を構成する材料としては、種々公知の熱可塑性樹脂、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン及び1−オクテン等のα−オレフィンの単独若しくは共重合体である高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1−ブテンランダム共重合体、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体等のポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、熱可塑性ポリウレタンあるいはこれらの混合物等を例示することができる。これらのうちでは、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等が好ましい。
【0041】
本発明の不織布と積層される他のスパンボンド不織布として、捲縮繊維より成る不織布を用いると、得られる積層体は、柔軟性、嵩高性、及び触感に優れる。また、熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーそれぞれの長繊維の混合繊維より成る不織布を延伸加工したものを用いると、得られる積層体は、前記特徴に加えて、伸縮性に優れる。
【0042】
本発明の不織布を吸収性物品、例えば、使い捨ておむつのトップシート、セカンドシートあるいは吸収体を包むシート(コアラップ)に用いる場合は、繊度を0.5〜3デニール、目付を7〜30g/mの範囲とすることが好ましい。
【0043】
また、本発明の不織布を吸収性物品の吸収体を包むシート(コアラップ)に用いる場合は、前記メルトブロー不織布と積層して用いてもよい。
【0044】
本発明の不織布と積層されるフィルムとしては、本発明の不織布の特徴である親水性を生かす、通気性(透湿性)フィルムが好ましい。かかる通気性フィルムとしては、種々公知の通気性フィルム、例えば、透湿性を有するポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーからなるフィルム、無機あるいは有機微粒子を含む熱可塑性樹脂からなるフィルムを延伸して多孔化してなる多孔フィルム等を挙げることができる。多孔フィルムに用いる熱可塑性樹脂としては、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体あるいはそれらの組成物等のポリオレフィンが好ましい。
【0045】
本発明の不織布は、本発明の目的を損なわない範囲で、ギア加工、印刷、塗布、ラミネート、熱処理、賦型加工などの二次加工を施して用いてもよい。
【0046】
<不織布の製造方法>
不織布の原料として短繊維を用いる場合は、種々公知の製造方法、例えば、湿式法あるいは乾式法(カード)により製造し得る。
【0047】
<長繊維不織布の製造方法>
本発明の長繊維不織布は、種々公知の不織布の製造方法により製造し得るが、スパンボンド法により製造する方法が、生産性に優れる点で好ましい。
【0048】
本発明の長繊維不織布をスパンボンド法により製造する場合は、オレフィン系重合体組成物の単繊維からなるスパンボンド不織布を製造する場合は1つの押出機で180〜250℃、好ましくは190〜230℃で溶融し、紡糸ノズルを有する180〜250℃、好ましくは190〜230℃に設定した紡糸口金から0.4〜1.5 g/分、好ましく0.5〜0.8g/分の単孔吐出量で吐出させて、繊維を紡出し、紡出した繊維を10〜40℃、好ましくは20〜40℃の冷却用エアにより冷却するとともに、2000〜7000m/分、好ましく3000〜6000m/分の高速エアにより繊維を牽引細化して所定の繊度とし、捕集ベルト上に捕集して所定の厚さ(目付)に堆積させた後、ニードルパンチ、ウォータージェット、超音波等の手段を用いる方法、あるいはエンボスロールを用いる熱エンボス加工またはホットエアースルーを用いることにより一部熱融着する方法等の交絡方法で交絡することにより製造し得る。
【0049】
<吸収性物品>
本発明の吸収性物品は、前記不織布、好ましくは長繊維不織布をトップシート及び/又はセカンドシート、あるいは吸収体を包むシート(コアラップ)に用いてなる吸収性物品である。本発明の吸収性物品は、使い捨ておむつ、パンツあるいは生理用品、尿取りパッド、ペット用シートなどを含む。
【0050】
とくに、使い捨ておむつのトップシート、セカンドシートあるいは吸収体を包むシート(コアラップ)に用いる場合、オレフィン系重合体組成物の繊維からなる不織布を用いる場合は、オレフィン系重合体100重量部に対して、ポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルを、0.7〜3重量部の範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
なお、実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定した。また、以下
(1)親水性の測定では、人工尿として、表面張力が70+/−2mN/m塩化ナトリウムの水溶液(9g/リットル)を用いた。
【0053】
また、(1)親水性の測定は、不織布を製造してから24時間経過後48時間以内(加熱処理なし)、及び不織布を製造してから24時間以上経過した不織布を設定温度80℃で2時間加熱処理した後取り出して2時間以内(加熱処理あり)の2条件で測定した。
(1)親水性
不織布より試料(50mm×200mm)を採取した。45度に傾斜させて固定した板上に、アドバンテック社製No.2濾紙を5枚重ねて置き、その上に試料を置いて、試料の長手方向の両端を前記濾紙と一緒に板上に固定した。試料面より約10mmの高さから5mlガラスピペットにて人工尿を1滴(約0.3ml)落下させ、液滴の吸収状態を以下の基準で評価した。
【0054】
○:液滴落下後、1秒以内に試料下部に吸収される
△:液滴落下後、1秒を超え1分以内に試料下部に吸収される
×:液滴落下後、1分を超えても試料下部に吸収されない(液滴が表面を転がり落ちる)
(2)押出性能
親水剤マスターバッチを混合した原料を200℃に設定した押出機に投入し、その際の押出状態を以下の基準に基づき評価した。
【0055】
○:スクリューの回転と共に溶融材料が押出される。
【0056】
×:スクリューを回転させても溶融材料が押出されず、押出機内でスリップする
(3)発煙性
スパンボンド法により200℃にて溶融した材料を紡糸した際のノズル部からの発煙状態を以下の基準に基づき評価した。
【0057】
○:親水剤を練り込みしない状態とほぼ同等の発煙状態
×:発煙が著しく認められる、または認められないが8時間以内に停止し、紡糸部に付着した発煙成分を清掃する必要がある状態
(4)目付け(g/m2
不織布の任意の位置から100mm×100mmの試料を10枚採取し、それぞれの質量(g)を測定した。それらの平均値を求め、1m2当りの質量に換算して目付け(g/m2)とした。
(5)水中への溶出
不織布の任意の位置から100mm×100mmの試料を1枚採取し、10mlの人工尿中に8時間室温にて浸漬した。浸漬後の溶液に白濁が認められるかどうか、親水剤を含まない不織布をブランクとして比較観察し、以下の基準に基づき評価した。
【0058】
○:白濁が認められない
×:白濁が認められる
[実施例1]
平均分子量600のポリエチレングリコールのジミリスチン酸エステル(R=CH3‐(CH212:ジエステル‐1)20重量%、および融点(Tm):142℃、MFR:60g/10分のプロピレン・エチレンランダム共重合体(PP−1):80重量%に酸化防止剤(Ciba社製、商品名Irgafos 168)を0.05重量部加え、230℃で溶融混練して押出し、ペレット状のマスターバッチ(親水剤―1)を用意した。
【0059】
次いで、融点(Tm):142℃、MFR:60g/10分のプロピレン・エチレンラ
ンダム共重合体(PP−1)90重量部に対して、前記親水剤−1を10重量部加えて混合してプロピレン重合体組成物(組成物−1)を得た。
【0060】
押出性能を評価するために、組成物‐1を、単軸押出機(スクリュー径30mm、L/D=30)に投入し、押出量4.4kg/hr、樹脂温度200℃にて加熱溶融させたところ、押出機スクリューへの組成物−1の食込み状態は親水剤を加えない時と同様で良好(○)であった。
【0061】
次いで、組成物‐1を用いて、スパンボンド法により溶融紡糸し、長繊維を得た。このとき、紡糸ノズル出口より、親水剤−1に由来する白煙はほとんど認められず添加しなかった場合と差がなかった。紡糸に続いて、熱エンボス加工を行い、目付けが20g/mの長繊維不織布を得た。次いで、刻印形状が菱形、エンボス面積率が18%、エンボス面積(刻印一つ当たりの面積)が0.41mmのエンボスロールを用いて、エンボスロールおよび平滑ロールの温度を125℃、線圧力を60N/mmとして、熱エンボス加工した。長繊維不織布を製造してから24時間経過後、48時間以内に親水性を測定した(熱処理なし)。また、製造してから24時間以上経過した長繊維不織布をオーブン(エスペック社製、タバイセイフティオーブン STS222)内の中央付近に吊り下げ、設定温度80℃で2時間加熱処理した後、取り出して2時間以内に同様の測定を行った(加熱処理あり)。
【0062】
得られた長繊維不織布の物性を、前記記載の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量800のポリエチレングリコールのジミリスチン酸エステル(ジエステル‐2)を用いる以外は実施例1と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表1に示す。
【0064】
[実施例3]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量600のポリエチレングリコールのジステアリン酸エステル(R=CH3‐(CH216、ジエステル‐3)を用いる以外は実施例1と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表1に示す。
【0065】
[実施例4]
実施例1で用いたPP−1に替えて、融点(Tm):160℃、MFR:60g/10分のプロピレン単独重合体(PP−2)を用いる以外は実施例3と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
[比較例1]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量200のポリエチレングリコールのジミリスチン酸エステル(ジエステル‐4)を用いる以外は実施例1と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表2に示す。
【0068】
[比較例2]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量400のポリエチレングリコールのジミリスチン酸エステル(ジエステル‐5)を用いる以外は実施例1と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表2に示す。
【0069】
[比較例3]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量1000のポリエチレングリコールのジミリスチン酸エステル(ジエステル‐6)を用いて、長繊維不織布の製造を試みたが、押出機のスクリューを回転させても、溶融材料が押出されず、押出機内でプロピレン重合体組成物がスリップし、長繊維不織布を得ることができなかった。
【0070】
[比較例4]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量1000のポリエチレングリコールのジステアリン酸エステル(ジエステル‐7)を用いて、長繊維不織布の製造を試みたが、押出機のスクリューを回転させても、溶融材料が押出されず、押出機内でプロピレン重合体組成物がスリップし、長繊維不織布を得ることができなかった。
【0071】
【表2】

【0072】
[比較例5]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量600のポリエチレングリコールのジミリストレイン酸エステル(R=CH3−(CH23CH=CH(CH27:ジエステル‐8)を用いる以外は実施例1と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表3に示す。
【0073】
[比較例6]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量400のポリエチレングリコールのジラウリン酸エステル(R=CH3‐(CH210:ジエステル‐9)を用いる以外は実施例1と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表3に示す。
【0074】
[比較例7]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量400のポリエチレングリコールのジオレイン酸エステル(R=CH3−(CH27CH=CH(CH27:ジエステル‐10)を用いる以外は実施例1と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表3に示す。
【0075】
[比較例8]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量400のポリエチレングリコールのモノラウリン酸エステル(モノエステル‐1)を用いる以外は実施例1と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表3に示す。
【0076】
[比較例9]
実施例1で用いたジエステル‐1に替えて、平均分子量800のポリエチレングリコールのモノミリスチン酸エステル(モノエステル‐2)を用いる以外は実施例1と同様に行い長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の物性および結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の繊維及び当該繊維を含む不織布は、繊維を紡糸する際の発煙が抑制され、しかも、得られる繊維および不織布は、優れた初期親水性および耐久親水性を示し、衛生材料として、幅広い用途に、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系重合体100重量部に対して、下記化学式(1)で表されるポリアルキレングリコールのジ飽和脂肪酸エステルを0.5〜5重量部含むオレフィン系重合体組成物からなる繊維。
R−COO−(C2nO)−CO−R 式(1)
[式中、Rは炭素数が13〜17のアルキル基であり、(C2nO)のnは2〜4の整数であり、xは10〜23である。)
【請求項2】
オレフィン系重合体が、プロピレン系重合体である請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
プロピレン系重合体が、融点(Tm)が125〜155℃の範囲にあるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体である請求項2に記載の繊維。
【請求項4】
化学式(1)において、(C2nO)基のnが2である請求項1に記載の繊維。
【請求項5】
化学式(1)において、Rの炭素数が13〜16である請求項1に記載の繊維。
【請求項6】
繊維が長繊維である請求項1〜5のいずれかに記載の繊維。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の繊維からなる不織布。
【請求項8】
請求項7に記載の不織布を、トップシート及び/又はセカンドシートに用いてなる吸収性物品。
【請求項9】
請求項7に記載の不織布を、吸収体を包むシートに用いてなる吸収性物品。


【公開番号】特開2011−63911(P2011−63911A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216099(P2009−216099)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】