説明

繊維ガイド

【課題】 硬質粒子を含有する繊維を案内する繊維ガイドの耐摩耗性を改善し寿命を伸ばす。
【解決手段】 接糸部がアルミナを65〜96質量%およびジルコニアを4〜35質量%含有する焼結体からなり、該焼結体におけるアルミナの平均粒径およびジルコニアの平均粒径が1.2μm以下であることを特徴とする繊維ガイドである。焼結体の結晶粒界に亀裂が発生してもこの亀裂の進展が抑えられて脱落しにくくなり、接糸部の耐摩耗性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス製の繊維ガイドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維の製造工程においては、高速で走行する繊維を案内するために、オイリングノズル,ローラガイド,ロッドガイドおよびトラバースガイドなどの様々なタイプの繊維ガイドが繊維機械に取り付けられて使用されている。
【0003】
例えば、合成繊維の紡糸工程において使用されるオイリングノズルは、溶融原液を紡糸ノズルから噴出させて得られた複数の繊維を収束して、この収束した繊維がスムーズに走行するように、また、走行途中で切れてしまうことを防止するために、収束した繊維にオイルを付着させる機能を有して繊維を案内している。
【0004】
図3は、従来の繊維ガイドの一例であるオイリングノズルを示す、(a)は斜視図であり、(b)は(a)におけるA−A’線での断面図であり、(c)は繊維を案内してオイルを付着させる状態のオイリングノズルを断面で示した模式図である。オイリングノズル50は、繊維100を案内するためにオイリングノズル50に形成した溝状の案内面を接糸部51として、この接糸部51の入口側に開口するオイル供給孔52と、接糸部51に備えられたオイル溜まり53とを有しており、全体をアルミナまたはジルコニアなどのセラミックスで一体的に形成したものである。
【0005】
なお、接糸部51の入口側とは、繊維100が接糸部51に入って行く側であり、図3(c)においては図の右側である。この図3(c)に示す例では、繊維100は右側の入口側から接糸部51に入り、白抜き矢印で示す方向に出ていく構成としてある。
【0006】
そして、図3(c)に示すように、繊維100を接糸部51に摺動させながら白抜き矢印の方向に高速で送り、同時にオイル供給孔52からオイルを噴出することによって、繊維100にオイルを付着させるようになっている。
【0007】
このとき、噴出したオイルは繊維100とともに移動してオイル溜まり53に溜まり、溜まったオイルが繊維100の全面に付着するようになっている。
【0008】
このようなオイリングノズル50に求められる特性としては、繊維100に良好にオイルを付着させることができることだけではなく、繊維100に傷を付けることがなく、長期間摩耗せずに使用できることである。
【0009】
そして、特許文献1には、繊維糸条を接触走行させて糸条に油剤を付与する繊維用油剤付与ガイド装置において、給油ガイドが接糸部において糸条走行方向に対して少なくとも1ヶ所以上屈曲しており、かつ屈曲前後の接糸部が直線部を有している繊維用油剤付与ガイド装置が開示されている。また、少なくとも接糸部がZrOを10〜40重量%含むAlを主成分とし、ZrOの平均結晶粒径が1.5〜5μm、Alの平均結晶粒径が1.5〜30μmである複合セラミックよりなる繊維用油剤付与ガイド装置が開示されている。これらによれば、糸条が高速で走行する場合に、給油ガイドに糸条とともに大量に発生する随伴気流によって接糸部の油剤の偏流および糸条の接糸部での糸揺れを抑制できるので、油剤均一付着が可能となり付着班を防止できるというものである。さらに、接糸部にZrOとAlという異なった2種類の材質が強固に結合しているため、特に屈曲部の糸の走行に対して結晶粒子の脱落を抑制することによって糸条へのダメージをなくし、かつ接糸部の濡れ特性を阻害することがなくなるというものである。
【0010】
また、特許文献2には、溶融紡糸した糸条をZrOを10〜40重量%含むAlを主成分とする糸道ガイドにより規制するに際し、この糸道ガイドのAlの平均結晶粒径が1.5〜30μmであり、ZrOの結晶構造における正方晶の割合が少なくとも50体積%であり、この糸道ガイド表面におけるZrOの結晶粒全体に対するAlの結晶粒内に存在するZrOの結晶粒の割合が2%以下であり、かつこの糸条が接触する糸道ガイドの形状が1mm以上のRをなす溶融紡糸方法が開示されている。これによれば、糸切れやフィラメント間の物性差が生じるという問題を解決することができるというものである。
【0011】
また、特許文献3には、AlおよびZrOと、添加剤であるSiO、TiOおよびMgOからなるセラミックス焼結体であって、Alを65〜96質量%、ZrOを4〜34.4質量%含有して、SiOを0.20質量%以上、TiOを0.22質量%以上、およびMgOを0.12質量%以上含有し、かつSiO、TiOおよびMgOの合計の含有割合が0.6〜4.5質量%であるセラミックス焼結体が開示されている。このセラミックス焼結体によれば、高硬度および高強度という特性を有するので、種々の構造部材、摺動部材、切削工具に使用できるというものである。特に、人工骨頭のような、安定性,高強度および耐摩耗性が要求される生体用材料に好適に使用されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−286824号公報
【特許文献2】特開平7−278945号公報
【特許文献3】特開2005−75659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、近年になって生産される繊維は、断面が異形状のものが多くなってきている。しかも、生産効率を上げるために、繊維の送り速度が3000〜8000m/分と極めて速くなっている。さらに、遠赤外線を放射する機能や光の透過を低減する機能を持たせるために、チタニア,マグネシアおよびカルシアなどの硬質粒子を繊維に含有させたものも作られている。そのため、繊維に傷,解れおよび毛羽などのダメージが生じないような、さらに耐摩耗性の高い高硬度のセラミックスからなる繊維ガイドが求められていた。
【0014】
例えば、特許文献1に記載の繊維用油剤付与ガイド装置は、接糸部がZrOとAlとの複合セラミックからなり、接糸部に2種類の材質が強固に結合しているため、結晶粒子が脱落するのを抑制して繊維に対するダメージをなくすことができるが、上述の断面が異形状の繊維や硬質粒子を含有させた繊維を案内するには十分でないことから、さらに耐摩耗性が高い長寿命の繊維ガイドが求められていた。
【0015】
また、特許文献2に記載の糸道ガイドは、ZrOとAlとの複合セラミックスからなる糸道ガイドにより、糸切れやフィラメント間の物性差を低減することができるが、特許文献1に開示された繊維用油剤付与ガイド装置の場合と同様に、さらに十分に耐摩耗性が高い長寿命の繊維ガイドが求められていた。
【0016】
また、特許文献3に記載のセラミックス焼結体は、高硬度および高強度という特性を有するので、種々の構造部材,摺動部材または切削工具に使用でき、特に、人工骨頭のような、安定性,高強度および耐摩耗性が要求される生体用材料に好適に使用できるというものであるが、特許文献3には、摺動部材については、断面が異形状の繊維や硬質粒子を含有させた繊維をより高速に案内できる繊維ガイドに用いることに関する記載は無かった。
【0017】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、断面が異形状の繊維や、硬質粒子を含有させた繊維をより高速に案内する繊維ガイドとして用いたとしても、耐摩耗性に優れ、長寿命であり、繊維にダメージを与えにくい繊維ガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の繊維ガイドは、接糸部がアルミナを65〜96質量%およびジルコニアを4〜35質量%含有する焼結体からなり、焼結体におけるアルミナの平均粒径およびジルコニアの平均粒径が1.2μm以下であることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の繊維ガイドは、上記構成において、アルミナの平均粒径が1μm以下であり、ジルコニアの平均粒径が0.8μm以下であり、アルミナの平均粒径がジルコニアの平均粒径よりも大きいことを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の繊維ガイドは、上記いずれかの構成において、焼結体がシリカを0.07〜1.5質量%およびマグネシアを0.1〜1質量%含有することを特徴とするものである。
【0021】
さらに、本発明の繊維ガイドは、上記構成において、焼結体がチタニアを0.2〜2質量%含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の繊維ガイドによれば、接糸部がアルミナを65〜96質量%およびジルコニアを4〜35質量%含有する焼結体からなり、焼結体におけるアルミナの平均粒径およびジルコニアの平均粒径が1.2μm以下であることにより、結晶粒界に亀裂が発生したときには、亀裂の先端で生じた応力に誘起されてジルコニアの結晶が正方晶から単斜晶に変態し、体積が膨張して亀裂の伝播を防止するという相変態強化効果が現れやすいため、結晶粒界に亀裂が発生してもこの亀裂の進展が抑えられて結晶粒子が脱落しにくくなり、接糸部の耐摩耗性を向上することができる。
【0023】
また、本発明の繊維ガイドによれば、アルミナの平均粒径が1μm以下であり、ジルコニアの平均粒径が0.8μm以下であり、アルミナの平均粒径がジルコニアの平均粒径よりも大きいときには、接糸部を構成する焼結体の結晶粒界に亀裂が発生しても、ジルコニアの相変態強化効果が現れやすいため、亀裂の進展が抑えられて結晶粒子の脱落が起こりにくくなると同時に、結晶粒子が脱落しても平均粒径が小さいため、接糸部が受けるダメージは小さい。さらに、アルミナの平均粒径がジルコニアの平均粒径よりも大きいので、焼結体の表面でアルミナがジルコニアよりも突出しやすくなり、ジルコニアよりも硬いアルミナが繊維と接触するので、耐摩耗性が向上する。
【0024】
また、本発明の繊維ガイドによれば、焼結体がシリカを0.07〜1.5質量%およびマグネシアを0.1〜1質量%含有するときには、焼成温度を下げて結晶の粒成長を抑制できるので、ジルコニアの相変態強化効果が現れやすくなり、粒界の亀裂の進展が抑えられ、接糸部で脱落しても平均粒径が小さいため接糸部が受けるダメージは小さく、耐摩耗性をさらに向上することができる。
【0025】
さらに、本発明の繊維ガイドによれば、焼結体がチタニアを0.2〜2質量%含有するときには、チタニアが焼結助剤として作用するとともに一部がアルミナの結晶粒子に固溶して分散する効果により材料の強度が向上するため、接糸部の耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の繊維ガイドの実施の形態の一例であるオイリングノズルを示す、(a)は斜視図であり、(b)は(a)におけるA−A’線での断面図であり、(c)は繊維を案内してオイルを付着させる状態のオイリングノズルを断面で示した模式図である。
【図2】本発明の繊維ガイドの実施の形態の他の例をそれぞれ示す、(a)はローラガイドの斜視図、(b)はロッドガイドの斜視図、(c)はトラバースガイドの斜視図である。
【図3】従来の繊維ガイドの一例であるオイリングノズルを示す、(a)は斜視図であり、(b)は(a)におけるA−A’線での断面図であり、(c)は繊維を案内してオイルを付着させる状態のオイリングノズルを断面で示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の繊維ガイドの実施の形態の例について説明する。
【0028】
図1は、本発明の繊維ガイドの実施の形態の一例であるオイリングノズルを示す、(a)は斜視図であり、(b)は(a)におけるA−A’線での断面図であり、(c)は繊維を案内してオイルを付着させる状態のオイリングノズルを断面で示した模式図である。オイリングノズル10は、繊維100を案内するためにオイリングノズル10に形成した溝状の案内面を接糸部11として、この接糸部11の入口側に開口するオイル供給孔12と、接糸部11に備えられたオイル溜まり13とを有しており、全体をアルミナ、ジルコニアなどのセラミックスで一体的に形成したものである。
【0029】
なお、接糸部11の入口側とは、繊維100が接糸部11に入って行く側であり、図1(c)においては図の右側である。図1(c)に示す例では、繊維100は右側の入口側から接糸部11に入り、白抜き矢印で示す方向に出ていく構成としてある。
【0030】
そして、図1(c)に示すように、繊維100を接糸部11に摺動させながら白抜き矢印の方向に高速で送り、同時にオイル供給孔12からオイルを噴出することによって、繊維100にオイルを付着させるようになっている。
【0031】
このとき、噴出したオイルは繊維100とともに移動してオイル溜まり13に溜まり、溜まったオイルが繊維100の全面に付着するようになっている。
【0032】
このようなオイリングノズル10に求められる特性としては、繊維100に良好にオイルを付着させることができることだけではなく、繊維100に傷を付けることがなく、長期間摩耗せずに使用できることである。
【0033】
また、図2は、本発明の繊維ガイドの実施の形態の他の例をそれぞれ示す、(a)はローラガイドの斜視図、(b)はロッドガイドの斜視図、(c)はトラバースガイドの斜視図である。
【0034】
図2(a)に示す本発明の繊維ガイドの実施の形態の一例であるローラガイド20は、多くの繊維機械で使用されており、このローラガイド20は、回転しながらV溝状の案内面を接糸部11として繊維100を案内するものである。また、図2(b)に示すロッドガイド30は、繊維機械の様々な場所で繊維を収束したり分離したりするために使用され、ロッドガイド20の外周面が接糸部11として繊維100を案内している。また、図2(c)に示すトラバースガイド40は、繊維を円筒状のパッケージの外周に巻き取るとき、円筒軸を中心に回転するパッケージの外周の近くで円筒軸と平行に往復運動しながら溝状の接糸部11を通過した繊維100をパッケージに案内し、均等な厚みで巻き付けるために使用されている。
【0035】
そして、これらの繊維ガイドは、いずれも接糸部11が繊維100と摺動するので、前述の断面が異形状の繊維や硬質粒子を含有させた繊維を高速で案内するような過酷な条件下では、より耐摩耗性が要求されるものである。したがって、本発明の繊維ガイドは、接糸部11がアルミナを65〜96質量%およびジルコニアを4〜35質量%含有する焼結体からなり、焼結体におけるアルミナの平均粒径およびジルコニアの平均粒径が1.2μm以下であることが重要である。
【0036】
アルミナを65〜96質量%含有すると、接糸部11を構成する焼結体の耐摩耗性が高くなるので、繊維ガイドとしての寿命が長くなる。また、ジルコニアを4〜35質量%含有すると、接糸部11を構成する焼結体の結晶粒子の脱落やこの脱落が酷くなった欠けが生じにくくなって、繊維100が傷付いたり切れたりしなくなる。なお、アルミナが65質量%未満になると、接糸部11を構成する焼結体の耐摩耗性が低下するので、寿命が短くなる問題がある。他方、アルミナを96質量%を超えて含有すると、ジルコニアの量が少なくなるので、接糸部11を構成する焼結体の結晶粒子が脱落したり欠けやすくなり、繊維100が傷付いたり切れやすくなったりする。つまり、ジルコニアが4質量%未満になると、接糸部11を構成する焼結体の結晶粒界に繊維100が含有する硬質粒子との衝突により亀裂が発生したら、亀裂の周囲にジルコニアの結晶粒子が少ないために、相変態強化効果による亀裂の伝播を防止する効果が得られにくくなり、接糸部11を構成する焼結体の結晶粒子が脱落したり、酷い場合には欠けが発生しやすくなる。逆に、ジルコニアが35質量%を超えると、アルミナの量が少なくなるため、接糸部11を構成する焼結体の耐摩耗性が低下して寿命が短くなるという問題がある。
【0037】
また、接糸部11を構成する焼結体のアルミナの平均粒径およびジルコニアの平均粒径が1.2μm以下であると、結晶粒界に亀裂が発生してもジルコニアの相変態強化効果が現れやすいため、粒界に亀裂が発生しても進展が抑えられて脱落しにくくなり、接糸部の耐摩耗性を改善することができる。これは、従来のアルミナジルコニア製の繊維ガイドは、アルミナおよびジルコニアの平均結晶粒径が1.5μm以上であるが、本発明の繊維ガイドのように平均粒径が1.2μm以下になると、結晶粒の体積は約1/2となるため、断面が異形状の繊維との接触あるいは繊維に含まれる硬質粒子との接触や、結晶粒界に存在する亀裂の進展などによって接糸部11を構成する焼結体の結晶粒子が受ける僅かな変位に対して、ジルコニアの相変態強化効果がより発現しやすくなるためである。
【0038】
なお、ジルコニアはイットリアやセリアなど既知の安定化剤を含有してもよく、イットリアは2〜6mol%の範囲で、セリアは5〜12mol%の範囲で用いればよい。
【0039】
また、本発明の繊維ガイドは、アルミナの平均粒径が1μm以下であり、ジルコニアの平均粒径が0.8μm以下であり、アルミナの平均粒径がジルコニアの平均粒径よりも大きいことが好ましい。
【0040】
アルミナの平均粒径が1μm以下になると、接糸部11を構成する焼結体の結晶粒界の亀裂が進展し、結晶粒子が脱落しても平均粒径が小さいために、脱落痕も小さくなることから、接糸部11は短期間で大きなダメージを受けることがなくなり、さらに寿命が長くなる。
【0041】
また、ジルコニアの平均粒径が0.8μm以下になると、従来のアルミナジルコニア製の繊維ガイドのジルコニアの平均結晶粒径1.5μmと比較して体積は1/6以下となるため、断面が異形状の繊維との接触あるいは繊維に含まれる硬質粒子との接触や、結晶粒界に存在する亀裂の進展などの結晶粒子が受ける僅かな変位に対してもジルコニアの相変態強化効果がより発現しやすくなり、焼結体の結晶粒子の脱落や欠けをさらに抑制することができる。さらに、アルミナの平均粒径がジルコニアの平均粒径よりも大きいと、接糸部11でアルミナがジルコニアよりも突出しやすくなり、ジルコニアよりも硬いアルミナが繊維100と接触するため、耐摩耗性が向上する。
【0042】
また、緻密な焼結体を形成するためには、アルミナの平均粒径を0.5μm以上とし、ジルコニアの平均粒径を0.3μm以上とすることが好ましい。
【0043】
また、本発明の繊維ガイドは、焼結体がシリカを0.07〜1.5質量%およびマグネシアを0.1〜1質量%含有することが好ましい。
【0044】
焼結体がシリカを0.07〜1.5質量%含有すると、アルミナとジルコニアとの結晶粒界にガラス相が形成されて焼結を促進するために、低温で焼成することができ、結晶粒子を微細化することが可能となる。また、マグネシアを0.1〜1質量%含有すると、アルミナの結晶粒子の異常粒成長が抑制されるため、均一な結晶組織を有する焼結体とすることが可能となる。また、焼結体に含まれるシリカが0.07質量%未満になると、結晶粒界のガラス相が少ないため、焼成時に液相の粘度が高くなって、焼結を促進する効果が小さくなり、1.5質量%を超えると、ガラス相が多くなり過ぎて結晶粒子が脱落しやすくなる。また、焼結体に含まれるマグネシアの量が0.1質量%未満になると、アルミナの結晶粒子の粒成長を抑制する効果が弱くなって、アルミナの結晶粒子が異常な粒成長を起こしやすくなり、1質量%を超えると、ガラス相の強度が低下して、接糸部11では結晶粒子が脱落しやすくなる。
【0045】
また、本発明の繊維ガイドは、焼結体がチタニアを0.2〜2質量%含有することが好ましい。
【0046】
焼結体がチタニアを0.2〜2質量%含有すると、チタニアが焼結助剤として作用するとともに一部がアルミナの結晶粒子に固溶して分散することによって、焼結体の強度が向上し、接糸部11と繊維100が含有する硬質粒子との衝突で結晶粒界や結晶粒子にクラックが生じにくくなるため、耐摩耗性を改善することができる。
【0047】
また、焼結体に含まれるチタニアが0.2質量%未満になると、アルミナの結晶粒子に固溶して分散する量が少なくなることから、焼結体の強度が向上し、繊維100がオイリングノズル10の接糸部11を摺動しても接糸部11と繊維100に含有する硬質粒子との衝突で粒界や結晶粒子にクラックが生じにくくなる効果が小さくなり、2質量%を超えると、ガラス相に亀裂が発生しやすくなり、繊維100が含有する硬質粒子との衝突で亀裂が進展しやすくなり、強度が低下して焼結体の結晶粒子が脱落しやすくなる。
【0048】
なお、本発明の繊維ガイドの実施の形態の一例を示すオイリングノズル10の接糸部11を構成する焼結体に含まれるアルミナ,ジルコニア,シリカ,マグネシアおよびチタニアの含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法を用いて測定することができる。具体的には、作製したセラミックスを放電プラズマで蒸発気化して励起し、励起した原子が低いエネルギー順位に戻るときに発する固有のスペクトルを測定することで原子の種類を特定し、その発光強度から各原子の定量分析をする。また、アルミナおよびジルコニアの平均結晶粒径は、走査電子顕微鏡を用いて倍率を9000〜11000倍として焼結体の破断面を反射電子像で写真撮影し、写真の任意の場所に3本の直線を引き、直線が横切ったアルミナとジルコニアとの結晶の数とその各々の結晶の合計の長さを測定して、各々の結晶の数で各々の結晶の合計の長さを除することで求めることができる。また、本発明における断面が異形状の繊維とは、例えば、断面の形状がまゆ形状,楕円形状,三角形状,クローバの葉形状またはくさび形状などである。
【0049】
また、本発明の繊維ガイドは、以上の例ではオイリングノズルを用いて説明したが、これに限らず、ローラガイド,ロッドガイド,リングガイド,アイレット,スネールガイドおよびトラバースガイドなどの繊維ガイドをも含むものである。
【0050】
次に、本発明の繊維ガイドの製造方法をオイリングノズル10を例に説明する。
【0051】
また、本発明の繊維ガイドを構成する焼結体として、アルミナと安定化剤を含有するジルコニアとを用いて説明する。
【0052】
純度が99.9質量%で平均結晶粒径が0.5μmのアルミナを75質量%と、イットリアの含有割合が2mol%の準安定化ジルコニアを25質量%との割合で混合し、この原料と溶媒およびボールとをボールミルに入れて、所定の粒度まで粉砕してスラリーを作製する。また、シリカ,水酸化マグネシウムおよびチタニアを添加する場合には、例えば、純度が99.5質量%以上であり、平均粒径が0.5〜1μmの各粉末を用いて所定量に秤量し、アルミナとジルコニアとを混合し、この原料と溶媒およびボールとをボールミルに入れて所定の粒度まで粉砕して、スラリーを作製する。その後、スラリーにバインダーを添加した後、スプレードライヤーを用いて、このスラリーを噴霧乾燥して顆粒を作製する。
【0053】
次に、この顆粒をメカプレスに投入して、圧力を加えて所定の形状の成形体を作製する。この成形体に切削加工等を加えて、オイリングノズル10の形状とする。なお、インジェクション成形法で成形体を作製しても構わない。
【0054】
そして、得られた成形体の焼成条件としては、大気雰囲気中で1350〜1550℃とし、最高温度での保持時間を1〜5時間として焼成すればよい。また、シリカ,水酸化マグネシウムおよびチタニアを添加することにより、最高温度が低下し、保持時間も短くできるため、結晶粒径を微細化することができる。なお、最高温度や保持時間等の焼成条件は、製品の形状や大きさあるいは焼成炉の種類により変化するため、必要に応じて調整すればよい。
【0055】
この後、研削加工やラップ加工などを用いて製品の外形を加工し、接糸部11は必要に応じてバフ加工などで所定の面粗さに仕上げればよい。
【0056】
また、所定の面粗さに仕上げられた接糸部11の表面に開気孔が存在する場合には、開気孔の径は30μm以下であることが好ましい。開気孔の径が30μm以下であると、接糸部11の開気孔にオイルを保持することができるので、繊維にオイルが付着してスムーズに走行させることができる効果があると同時に、繊維100に与えるダメージも小さいためである。また、開気孔の大きさは、用いる原料や成形体を作製するときの条件および成形体を焼成するときの焼成条件などによって変化するので、一般的なセラミックスを作製する方法を用いて調整すればよい。
【0057】
このようにして得られたオイリングノズル10は、これを構成する焼結体の結晶粒界に亀裂が発生してもジルコニアの相変態強化効果が現れやすいため、結晶粒界に亀裂が発生しても進展が抑えられてアルミナやジルコニアの結晶粒子が脱落しにくくなり、接糸部11の耐摩耗性を改善することができる。また、結晶粒子が脱落しても、平均粒子径が小さいため、接糸部11が受けるダメージは小さいので、耐摩耗性を改善することができる。
【0058】
なお、本発明の繊維ガイドの製造方法をオイリングノズル10の製造方法を一例に説明したが、例えば図2(a)に示すローラガイド20や図2(c)に示すトラバースガイド40のような繊維ガイドを作製する場合も、オイリングノズル10と同様の製造方法を用いればよい。図2(b)に示す棒状のロッドガイド30のような繊維ガイドの場合には、平均粒径を調整して混合した原料にバインダーを添加して坏土を作製し、この坏土を押し出し成形法を用いて棒状に成形して適度な長さに切断した後、オイリングノズル10と同様に焼成して焼結体を得た後、必要とする研削加工やバレル研磨などを適宜選択して加工すればよい。
【実施例1】
【0059】
以下、本発明の実施例を、繊維ガイドの一例であるオイリングノズル10を用いて説明する。
【0060】
まず、純度が99.9質量%で平均結晶粒径が0.5μmのアルミナと、イットリアの含有割合が2mol%の準安定化ジルコニアとを、焼結体としたときの比率(含有量)が表1に示す割合になるように秤量して混合し、この原料に溶媒とボールとを加えてボールミルで所定の結晶粒径になるまで粉砕して、スラリーを作製した。その後、このスラリーにバインダーを添加した後、スプレードライヤーを用いてこのスラリーを噴霧乾燥して、顆粒を作製した。
【0061】
次に、この顆粒をメカプレスに投入して所定の形状に圧力を加えて成形し、この成形体に切削加工等を加えて、オイリングノズル10の形状とした。
【0062】
そして、得られた成形体を、大気雰囲気中で最高温度を1350〜1550℃とし、最高温度での保持時間を1〜5時間として焼成した。
【0063】
この後、研削加工やラップ加工などを用いて外形を加工し、接糸部11の表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.4〜0.6μmになるように仕上げて、オイリングノズル10を得た。
【0064】
このオイリングノズル10に含まれるアルミナおよびジルコニアのそれぞれの割合は、焼結体をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析を用いて測定した。
【0065】
アルミナおよびジルコニアのそれぞれの結晶粒径は、走査電子顕微鏡を用いて倍率を10000倍として焼結体の破断面を反射電子像で写真撮影し、写真の任意の場所に3本の直線を引き、直線が横切ったアルミナおよびジルコニアの結晶の数とその各々の結晶の合計の長さを測定して、各々の結晶の数で各々の結晶の合計の長さを除し、さらに倍率で除することで求めた。
【0066】
そして、アルミナおよびジルコニアの含有量と、アルミナの結晶粒径およびジルコニアの結晶粒径がオイリングノズルの寿命に及ぼす影響とに関してテストを行なった。
【0067】
テストに用いた繊維100は、平均結晶粒径が1.2μmの酸化チタンを1.2質量%含有し、75デニール,36フィラメントとして、繊維100の断面が丸形状のポリエステルを用いた。オイリングは繊維100の質量に対して2〜4質量%となる油剤付与量とし、水エマルジョン油剤を使用した。また、繊維100の送り速度は5000m/分とした。
【0068】
そして、接糸部11が摩耗して繊維100に傷が発生し、オイリングノズル10の交換が必要となるまでの寿命(時間)を比較した。
【0069】
得られた結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示す結果から、本発明の実施例である試料No.3〜10,13および15は、寿命が500時間以上あり、比較例の中で最も寿命の長い試料No.14と比べても35時間以上改善されたことが分かった。このことは、試料No.3〜10,13および15は、アルミナを65〜96質量%含有することから、接糸部11の耐摩耗性が高くなり、ジルコニアを4〜35質量%含有することから、強度が高くなり、接糸部11が欠けて繊維100を傷付けることを抑制し、アルミナの平均粒径およびジルコニアの平均粒径が1.2μm以下であることから、結晶粒界に存在する亀裂の進展などの結晶粒子が受ける僅かな変位に対して、ジルコニアの相変態強化効果がより発現しやすくなるためである。
【0072】
また、比較例である試料No.1,2は、アルミナの含有量が65質量%未満であることから、耐摩耗性が低下して寿命が短くなったと考えられる。さらに、比較例である試料No.11,12は、ジルコニアの含有量が4質量%未満であることから、強度が低下して接糸部11が欠けやすくなり、繊維100が傷付きやすくなったと考えられる。また、比較例である試料No.14は、アルミナの粒径が1.2μmを超えており、比較例である試料No.16は、ジルコニアの粒径が1.2μmを超えているため、いずれも繊維100に含まれる硬質粒子との接触や、焼結体の結晶粒界に存在する亀裂の進展などの結晶粒子が受ける僅かな変位に対して、ジルコニアの相変態強化効果が発現しにくいことから、寿命が短くなったと考えられる。このことは、接糸部11がアルミナを65〜96質量%およびジルコニアを4〜35質量%含有する焼結体からなり、該焼結体におけるアルミナの平均粒径およびジルコニアの平均粒径が1.2μm以下であることから、接糸部11の耐摩耗性が高いため繊維ガイドとしての寿命が長くなり、また、強度が高いため接糸部11の欠けが生じにくく、さらに、結晶粒界に亀裂が発生してもジルコニアの相変態強化効果が現れやすいために、亀裂の進展が抑えられて結晶粒子が脱落しにくくなり、接糸部11の耐摩耗性を改善することができることが分かる。
【実施例2】
【0073】
次に、実施例1と同様の方法で、アルミナと安定化剤を含有するジルコニアとを焼結体での比率(含有量)が表2に示す割合になるように秤量して混合し、表2に示す結晶粒径のオイリングノズル10を作製した。その後、実施例1と同じ条件でアルミナの結晶粒径とジルコニアの結晶粒径とがオイリングノズル10の寿命に及ぼす影響に関してテストをした。
【0074】
また、オイリングノズル10に含まれるアルミナとジルコニアとの割合は、実施例1と同様にICP発光分光分析を用いて焼結体を分析し、アルミナとジルコニアとの結晶粒径は、走査電子顕微鏡を用いて実施例1と同様にして求めた。
【0075】
得られた結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示す結果から、アルミナの平均粒径が1μm以下であり、ジルコニアの平均粒径が0.8μm以下であり、アルミナの平均粒径がジルコニアの平均粒径よりも大きい試料No.18〜21および23〜25は、表1に示す実施例の中で最も寿命の長い試料No.6と比べても15時間以上改善されていることが分かった。中でも、アルミナの平均粒径が0.5μm以上1μm以下であり、ジルコニアの平均粒径が0.3μm以上0.8μm以下であり、アルミナの平均粒径がジルコニアの平均粒径よりも大きい試料No.18〜20,23および24は、表1に示す実施例の中で最も寿命の長い試料No.6と比べても、60時間以上改善されていることが分かった。
【0078】
このことから、アルミナの平均粒径が1μm以下であり、ジルコニアの平均粒径が0.8μm以下であり、アルミナの平均粒径がジルコニアの平均粒径よりも大きいときには、アルミナとジルコニアとの結晶粒界の亀裂が進展してアルミナの結晶粒子が脱落しても、平均粒径が小さいため脱落痕も小さいので、接糸部11は短期間で大きなダメージを受けることはなくなり、ジルコニアの相変態強化効果がより発現しやすく、接糸部11の結晶粒子が脱落することや欠けが発生することをさらに抑制することができ、ジルコニアよりも硬いアルミナが繊維100と接触するため、耐摩耗性が向上することが分かる。
【実施例3】
【0079】
次に、実施例1で用いた原料に、純度が99.9質量%以上で平均結晶粒径が0.5μmのシリカと純度が99.9質量%以上で平均結晶粒径が0.6μmの水酸化マグネシウムとを添加し、表3に示す組成の焼結体を作製して、実施例1と同じ条件で、添加材がオイリングノズル10の寿命に及ぼす影響に関してテストをした。
【0080】
また、オイリングノズル10に含まれるアルミナ,ジルコニア,シリカおよびマグネシアの割合は、実施例1と同様に、焼結体をICP発光分光分析を用いて分析し、アルミナとジルコニアとの結晶粒径は、走査電子顕微鏡を用いて実施例1と同様にして求めた。
【0081】
得られた結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3に示す結果から、シリカを0.07〜1.5質量%およびマグネシアを0.1〜1質量%含有する試料No.30〜34および37〜40は、表2に示す実施例の中で最も寿命の長い試料No.19と比べて、寿命が30時間以上改善されていることが分かった。
【0084】
このことから、本発明の繊維ガイド(オイリングノズル10)に、シリカを0.07〜1.5質量%およびマグネシアを0.1〜1質量%含有すると、焼結体がアルミナとジルコニアとの結晶粒界にガラス相が形成されて焼結を促進するために結晶粒子を微細化することが可能となり、また、アルミナの結晶粒子の異常な粒成長が抑制されるため、オイリングノズル10は均一な結晶組織を有する焼結体となって、耐摩耗性を改善できることが分かる。
【実施例4】
【0085】
次に、実施例3で用いた原料に、純度が99.9質量%以上で平均結晶粒径が0.4μmのチタニアを添加して、表4に示す組成の焼結体を作製し、実施例1と同じ条件で、焼結助剤がオイリングノズル10の寿命に及ぼす影響に関してテストをした。
【0086】
また、繊維ガイド10に含まれるアルミナ,ジルコニア,シリカ,マグネシアおよびチタニアの割合は、実施例1と同様に、焼結体をICP発光分光分析を用いて分析し、アルミナとジルコニアとの結晶粒径は、走査電子顕微鏡を用いて実施例1と同様にして求めた。
【0087】
得られた結果を表4に示す。
【0088】
【表4】

【0089】
表4に示す結果から、チタニアを0.2〜2質量%含有する試料No.44〜48は、表3に示す実施例の中で最も寿命の長い試料No.32と比べて、20時間以上改善されていることが分かった。
【0090】
このことから、本発明の繊維ガイド(オイリングノズル10)は、チタニアを0.2〜2質量%含有するものであれば、チタニアが焼結助剤として作用するとともに一部がアルミナの結晶粒子に固溶して分散することによって、より材料の強度が向上するため、接糸部11の耐摩耗性を改善できることが分かる。
【0091】
以上のことから、本発明の繊維ガイドを用いて、硬質粒子を含有する繊維100を摺動させた場合には、繊維ガイドの接糸部11の耐摩耗性が高いために繊維ガイドとしての寿命が長くなり、また、強度が高いために接糸部11の欠けが生じにくく、さらに、結晶粒界に亀裂が発生してもジルコニアの相変態強化効果が現れやすいために、亀裂の進展が抑えられて結晶粒子が脱落しにくくなり、接糸部11の耐摩耗性を改善して寿命を伸ばすことが確認できた。
【符号の説明】
【0092】
10:オイリングノズル
11,11a:接糸部
12:オイル供給孔
13:オイル溜まり
20:ローラガイド
30:ロッドガイド
40:トラバースガイド
100:繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接糸部がアルミナを65〜96質量%およびジルコニアを4〜35質量%含有する焼結体からなり、該焼結体におけるアルミナの平均粒径およびジルコニアの平均粒径が1.2μm以下であることを特徴とする繊維ガイド。
【請求項2】
アルミナの平均粒径が1μm以下であり、ジルコニアの平均粒径が0.8μm以下であり、アルミナの平均粒径がジルコニアの平均粒径よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の繊維ガイド。
【請求項3】
前記焼結体がシリカを0.07〜1.5質量%およびマグネシアを0.1〜1質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の繊維ガイド。
【請求項4】
前記焼結体がチタニアを0.2〜2質量%含有することを特徴とする請求項3記載の繊維ガイド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−229570(P2010−229570A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75646(P2009−75646)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】