説明

繊維シートおよびその製造方法ならびにエアフィルター

【課題】活性炭や添着活性炭を使用せず、アルデヒド類のみを選択的、かつ効率よく除去するエアフィルター濾材に適した繊維シートを提供する。
【解決手段】無機粒子と酸ヒドラジドとが少なくとも繊維の表面上に担持されてなることを特徴とする繊維シート

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルター用途に適した繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の汚染物質についてその種類が多岐に渡るが、その中でも特にアセトアルデヒド等のアルデヒド類が大きな問題となっている。アセトアルデヒドはタバコ煙や自動車の排気ガス中に含まれる代表的な悪臭成分であり、低濃度でも臭気を感じ易い。また空気中の汚染物質の除去には、大きな表面積と細孔容積を有する活性炭が一般に使用されているが、アセトアルデヒドの活性炭への平衡吸着量は他の悪臭成分に比べて著しく小さい。
【0003】
そこで活性炭によるアセトアルデヒドの吸着除去性能を向上させる手段として、例えばアミン類を活性炭に添着してその性能を向上させる方法が開示されている(特許文献1参照。)。しかし、当該技術を用いたエアフィルターは、アセトアルデヒドに起因する以外の臭気が温湿度の変化等によって発生(二次発臭)するという問題があった。これは、活性炭が物理吸着能をベースとしているため、除去対象とするアセトアルデヒド以外の物質をも吸着濃縮してしまい、これらの臭気成分は化学結合によりトラップされているわけではないため、温湿度変化等の環境要因によって、濃縮されていた臭気成分が一気に放出されることにより、本来の存在濃度では問題とならなかった臭気成分が悪臭として認知されてしまうというものである。
【0004】
また活性炭を用いないアセトアルデヒドの吸着除去手段として、ヒドラジド類と尿素およびその誘導体から選ばれる少なくとも1種を有効成分にとして含有する消臭剤組成物が開示されている(特許文献2参照)。しかし、この消臭剤は、静的な条件下を想定した設計であり動的な状態ではアセトアルデヒドの除去に対して実用的な効果は無かった。
【特許文献1】特開平5−317703号公報
【特許文献2】特許第3797852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、除去対象とする有害ガス成分のみを選択的、かつ効率よく除去するエアフィルター濾材に適した繊維シートを提供し、特にアセトアルデヒド等のアルデヒド類の除去性能に極めて優れた繊維シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、無機粒子と酸ヒドラジドとが少なくとも繊維の表面上に担持されてなることを特徴とする繊維シートである。
【0007】
また本発明は、無機粒子と酸ヒドラジドとを混合分散させた液を繊維に保持させ、さらに乾燥させる工程を経て本発明の繊維シートを得ることを特徴とする繊維シートの製造方法である。
【0008】
また本発明は、本発明の繊維シートを用いてなることを特徴とするエアフィルターである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る繊維シートは、対象ガス成分(アルデヒド類)との反応速度と吸着容量が格段に向上したものであり、高風速下でも高除去効率を実現するこれまでに無いアセトアルデヒド除去フィルターを得ることができる。さらに、本発明の繊維シートは、物理吸着能に強く依存するものではないため、目的成分(アルデヒド類)以外の臭気成分を吸着濃縮し、再放出すること(二次発臭)が無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の繊維シートは、無機粒子を少なくとも繊維の表面上に担持してなる。無機粒子を採用することにより、処理エアと接触可能な表面積を得るとともに後述する薬剤を十分な量で繊維表面上に添着させることができる。また後述する薬剤の添着性の点から、無機系の粒子とすることが重要である。本発明で言う無機粒子には、活性炭は含まない。従来、当該技術分野において広く採用されている活性炭を敢えて用いないことにより、物理吸着能に強く依存しないので、二次発臭を抑えることができる。
【0011】
本発明で採用する無機粒子としては、多孔質二酸化ケイ素、ゼオライト、活性アルミナ、ケイ酸アルミニウム、シリカゲル、アルミナゲル、活性白土、リン酸ジルコニウムやポリトリリン酸アンモニウム等の層状化合物、多孔性粘土鉱物の群が挙げられ、これらの中から目的に応じて選択することができる。中でも、多孔質二酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ゼオライト等が好ましい。
【0012】
本発明で採用する無機粒子の表面化学特性としては、親水性であることが好ましい。後述する薬剤が水溶性であるため、これを粒子の表面上に均一添着するためである。前述に列挙した無機粒子はその殆どが親水性であり好ましく採用することができる。
【0013】
中でも、合成ゼオライトは、ケイ素とアルミニウムとの比率により親水性の程度を制御することができ、最適な親水性を有する無機粒子を選択することができる。
【0014】
本発明における合成ゼオライトのケイ素とアルミニウムとの比率としては、SiO/Alのモル比20〜300が好ましく、より好ましくは30〜200である。前記比率を300以下とすることで、多孔質のゼオライトの細孔内部表面にまで水溶性の薬品を添着させることができる。また、物理吸着能が強く発現しすぎるのを抑えることができる。また前記比率を20以上とすることで、空気中でのエアフィルターとしての使用時においても、細孔内が完全に水で満たされることがないため、対象ガス成分が細孔内に進入することができ、効率の良い処理エアとの接触が可能となる。
【0015】
また、多孔質二酸化ケイ素やケイ酸アルミニウムは、後述するメソ孔を形成し易く好ましい。
【0016】
本発明で採用する無機粒子の形態としては、処理エアとの接触効率を上げる上で、微粒子状であることが好ましい。当該微粒子の平均粒径としては0.01〜200μmが好ましく、より好ましくは0.1〜50μmである。200μm以下とすることで、処理エアとの接触効率を上げることができるとともに、繊維表面に均一に担持させることができる。0.01μm以上とすることで、繊維表面への担持に使用するバインダー樹脂に無機粒子が埋没してしまうのを防ぐことができる。
【0017】
また本発明で採用する無機粒子の形状としては、多孔質状、層状、鱗片状などであることも、表面積を大きくすることができるため好ましく、その中でも最も大きな表面積が得られる多孔質状が特に好ましい。
【0018】
多孔質の細孔の直径としては、0.5〜100nmが好ましく、より好ましくは50nm以下である。100nm以下とすることで、無機粒子の機械的強度の低下等の無理なく比表面積を大きくとることができる。また0.5nm以上とすることで、添着させる薬品や対象ガス成分が細孔内部に進入できなくなるのを防ぐことができる。また、直径2〜50nmの細孔はメソ孔と呼ばれ、メソ孔を有する粒子は添着薬品とアセトアルデヒドの反応を効率良く進める上で優れている。
【0019】
また、上記のようなSiO/Alのモル比20〜300のゼオライトを採用する場合には、細孔直径0.7〜0.9nmのものがアセトアルデヒド以外のディーゼル排ガス臭の脱臭に特に効果があり好ましい。このゼオライトの脱臭効果は、ゼオライト表面の化学的特性と結晶構造に基づく選択的な物理吸着効果であると考えられる。
【0020】
また、上記のようなSiO/Alのモル比20〜300でかつ細孔直径0.7〜0.9nmのゼオライトと、メソ孔を有する多孔質二酸化ケイ素やケイ酸アルミニウムとを併用することも、ディーゼル排気ガス等を処理対象としたときに主成分であるアセトアルデヒドと他の臭気成分とのいずれをも効率良く除去することができるので、好ましい。
【0021】
また本発明で採用する無機粒子の比表面積としては、BET比表面積で50〜1200m/gが好ましく、より好ましくは100〜1000m/gである。50m/g以上とすることで、添加する薬品の反応場として実効的な面積が得られ、除去しようとするガス成分との実効的な反応速度が得られる。また1200m/g以下とすることで、無機粒子の機械的強度の低下によるため取り扱い性の不便を防ぐことができる。
【0022】
また本発明で採用する無機粒子は、無機系消臭剤であることも好ましい。
【0023】
本発明で採用する無機粒子の担持量としては、基材の繊維シートに対して10〜100質量%が好ましく、より好ましくは20〜50質量%である。10質量%以上とすることで、薬品の反応場として実効的な表面積を得て吸着性能を向上させることができる。100質量%以下とすることで、エアフィルターとしての通気特性を阻害するのを防ぐことができる。
【0024】
本発明の繊維シートは、酸ヒドラジドを少なくとも繊維の表面上に担持してなることが重要である。酸ヒドラジドの存在により、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド類に対する化学吸着能が飛躍的に向上し、アルデヒド類を選択的に吸着することができる。
【0025】
酸ヒドラジドは、カルボン酸とヒドラジンとから誘導される−CO−NHNHで表される酸ヒドラジド基を有する化合物であり、ヒドラジド末端の窒素原子のα位に、更に非共有電子対を有する窒素原子が結合しており、これにより求核反応性が著しく向上している。この非共有電子対がアルデヒド類のカルボニル炭素原子を求核的に攻撃して反応し、アルデヒド類をヒドラジド誘導体として固定化することにより、アルデヒド類の除去性能を発現できたと考えられる。
【0026】
アルデヒド類の中でもアセトアルデヒドは、カルボニル炭素のα位に電子供与性のアルキル基を有するために、カルボニル炭素の求電子性が低く化学吸着されにくいが、本発明の繊維シートにおいて採用する酸ヒドラジド類は前述のとおり求核反応性が高いため、アセトアルデヒドに対しても良好な化学吸着性能を発現する。
【0027】
酸ヒドラジドとしては例えば、分子中に1個の酸ヒドラジド基を有する酸モノヒドラジドとしては、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド等、分子中に2個の酸ヒドラジド基を有する酸ジヒドラジドとしては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等、分子中に3個以上の酸ヒドラジド基を有する酸ポリヒドラジドとしては、ポリアクリル酸ヒドラジド等が挙げられる。なかでもジヒドラジド類が好ましく、とりわけアジピン酸ジヒドラジドがアルデヒド類の吸着性能の点で好ましい。
【0028】
本発明で採用する酸ジヒドラジドの担持量としては、無機粒子に対して10〜100質量%が好ましく、より好ましくは20〜50質量%である。10質量%以上とすることで、アルデヒド類の除去効率および吸着容量の向上の実効を得ることができる。酸ジヒドラジドの担持量の増加に伴い除去効率および吸着容量も向上するが、ある程度で飽和する。酸ジヒドラジドの過剰な添加は、結晶化した酸ジヒドラジドの崩落が繊維シートの空隙率を減少させ、通気特性を低下させるとともに、粉落ちの原因ともなるため、100質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
また、酸ヒドラジドの他に、ヒドラジン類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、尿素類などの他のアミン化合物を併用してもよい。
【0030】
本発明の繊維シートには、酸ヒドラジドの他に酸触媒を有することも好ましい。アルデヒド類のカルボニル炭素の電子を酸触媒が共有することによって、アルデヒド類のカルボニル炭素の求電子性を高くし、アルデヒド類に対する化学吸着能を向上させることができる。
【0031】
酸触媒の酸としては、プロトン供与体であるブレンステッド酸や、電子対受容体であるルイス酸を挙げることができる。
【0032】
ルイス酸としては例えば、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、スズ、鉄等の水酸化物もしくは酸化物、グラファイト、イオン交換樹脂等からなる担体に、硫酸銀、五フッ化アンチモン、五フッ化タンタル、三フッ化ホウ素等を付着或いは担持したもの、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化第二スズ(SnO)、チタニア(TiO)、酸化第二鉄(Fe)、酸化タングステン(WO)等を例示することができる。
【0033】
本発明の繊維シートは、上記のような無機粒子と酸ヒドラジドとを少なくとも繊維の表面上に担持してなる。
【0034】
本発明で採用する繊維としては、天然繊維、合成繊維、ガラス繊維や金属繊維等の無機繊維が使用でき、中でも溶融紡糸が可能な熱可塑性樹脂の合成繊維が好ましい。合成繊維を形成する熱可塑性樹脂の例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ビニロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸等を挙げることができ、用途等に応じて選択できる。また、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明で採用する繊維は、異型断面形状を有することや、繊維表面に多数の孔やスリットを有することも好ましい。そうすることにより、繊維の表面積を大きくし、無機粒子と薬品とに対する担持性を向上させることができる。異型断面形状とは、円形以外の断面形状を指し、例えば扁平型、略多角形、楔型等を挙げることができる。異型断面形状の繊維は、異型孔を有する口金を用いて紡糸することにより得ることができる。また、繊維表面に多数の孔やスリットを有する繊維は、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上のポリマーをアロイ化して紡糸し、溶解性の高い方のポリマーを溶剤で溶解除去することにより得ることができる。
【0036】
本発明で採用する繊維の繊維径としては、繊維シートをエアフィルターとして使用する用途において目標とする通気性や集塵性能に応じて選択すればよいが、好ましくは1〜1000μm、より好ましくは5〜100μmである。1μm以上とすることで、無機粒子が繊維シート表面で目詰まりするのを防ぎ、通気性の低化を防ぐことができる。また1000μm以下とすることで、繊維表面積の減少による担持能力の低下や処理エアとの接触効率の低下を防ぐことができる。
【0037】
本発明で採用する繊維が構成する基材繊維シートは、通気性を有する繊維構造体であり、綿状物、編織物、不織布、紙およびその他の三次元網状体(例えば多孔性ポリウレタン発泡体)等を挙げることができる。これらのような構造をとることにより、通気性を確保しつつ、表面積を大きくとることができる。
【0038】
基材繊維シートの目付けとしては、10〜500g/mが好ましく、より好ましくは30〜200g/mである。基材繊維シートの目付けを10g/m以上とすることで、無機粒子と薬品を担持するための加工に耐える十分な強度が得られ、エアを通気させた際にフィルター構造を維持するのに必要な剛性が得られる。また目付けを200g/m以下とすることで、繊維シートの内部まで無機粒子を均一に担持することができ、プリーツ形状やハニカム形状に二次加工する際の取り扱い性の面でも好ましい。
【0039】
本発明で採用する基材繊維シートは、熱接着性成分や樹脂バインダーを有することも、形状保持、強度向上、寸法安定性等の点で好ましい。
【0040】
本発明の繊維シートは、上記のような無機粒子と酸ヒドラジドとを担持させた繊維シートにさらに異なる繊維構成のシートを積層することも好ましい。例えば直行流型フィルターとしての使用において、上流側に嵩高で目の粗い不織布シートを積層すれば、ダスト保持量が向上し長寿命化が可能となる。また下流側に極細繊維からなる不織布シートを積層すれば、高捕集効率化が可能となる。
【0041】
さらにこの極細繊維からなる不織布シートがエレクトレット処理されていればなお好ましい。エレクトレット処理がされていることにより、通常では除去しにくいサブミクロンサイズやナノサイズの微細塵を静電気力により捕集する事が出来るようになる。
【0042】
エレクトレット不織布を構成する材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成高分子材料等の、高い電気抵抗率を有する材料が好ましい。
【0043】
次に、本発明の繊維シートの製造方法としては、無機粒子と酸ヒドラジドとを混合分散させた液を繊維に保持させ、さらに乾燥させる工程を経ることが好ましい。無機粒子に予め酸ヒドラジド等の薬品を添着させたものをそのまま水溶液に混合して繊維シートに担持させると、無機粒子に添着していた薬品が液中に溶出して希釈されるため、乾燥処理後に繊維シート上に残存する薬品の量が不足し、十分な除去性能が得られない。一方、上記方法とすることにより、薬品の添着量を自由に調節することができる。
【0044】
また上記方法の他、例えば無機粒子と薬品を混合した水溶液を基材繊維シートにコーティング処理により塗布したり、スプレー処理により吹き付けたりしてもよい。
【0045】
また、無機粒子を先に繊維シート表面に固定した後、薬品を混合した水溶液をディッピング処理やスプレー処理で付着させてもよい。
【0046】
また、無機粒子の繊維表面への付与方法として、繊維表面に無機結晶を直接結晶化させ皮膜化させてもよい。具体的には例えば、合成繊維や無機繊維からなる繊維基材に、ゼオライトの前駆体のゾルを塗布し、乾燥してゲルの皮膜とし、次に有機アミン、アルコール、水から選択される1種以上の蒸気に曝露することによりゼオライトを膜状に結晶化させる、所謂ドライゲルコンバージョン法などにより、繊維表面に多孔質無機結晶を皮膜化させることができる。
【0047】
また、無機粒子の繊維表面への付与方法として、製糸段階で無機粒子を繊維表面に配置させてもよい。具体的には例えば、合成繊維の芯鞘複合紡糸において、鞘成分中に多孔性の無機粒子を大量配合することにより、芯鞘複合の表面近傍に無機粒子を偏在させることができる。またこの方法において、無機粒子を表面に露出させるために、化学的あるいは物理的な処理により表面の樹脂成分を適量取り除くことも好ましい。
【0048】
本発明の繊維シートは、エアフィルター用途に好適に用いることができる。特に、自動車の起動時や温湿度変化時等に狭い室内に二次発臭することも抑えられる点で、自動車用キャビンフィルター用途に好適に用いることができる。
【0049】
本発明のエアフィルターの形状としては、そのまま平面状で使用してもよいが、プリ−ツ型やハニカム型を採用することが好ましい。プリーツ型は直行流型フィルターとしての使用において、またハニカム型は平行流型フィルターとしての使用において、処理エアの接触面積を大きくして捕集効率を向上させるとともに、低圧損化を同時に図ることができる。
【0050】
また本発明のエアフィルターは、例えば図2、図3に示されるように枠体3に納めて使用することが、エアの処理効率や取扱い性の点で好ましい。
【実施例】
【0051】
[測定方法]
(1)BET比表面積
ユアサアイオニクス社製オートソーブ(登録商標)6を用い、JIS R 1626−1996に規定のBET多点法に従って測定した。試料は約5g採取し、加熱前処理を施し、Nを吸着質とし、定容法にて測定した。
【0052】
(2)細孔径(ゼオライト)
結晶質であるゼオライトについては、X線による回折パターンの解析により、細孔径を特定した。
【0053】
(3)細孔径(ゼオライト以外)
ゼオライト以外の多孔質体の細孔径については、細孔の形状を円筒状と仮定し、BET比表面積(S)とBET比表面積測定の際に得られた細孔容積(V)から次式より平均細孔径(D)として算出した。
D=4V/S 。
【0054】
(4)アセトアルデヒドの除去能力
平板状の繊維シートを実験用のダクトに取り付け、ダクトに温度23℃、湿度50%RHの空気を0.2m/secの速度で送風した。さらに上流側から、標準ガスボンベによりアセトアルデヒドを上流濃度20ppmとなるように添加し、繊維シートの上流側と下流側とにおいてエアをサンプリングし、赤外吸光式連続モニターを使用してそれぞれのアセトアルデヒド濃度を経時的に測定し、これから除去効率の推移を評価した。
【0055】
(5)圧力損失
平板状の繊維シートを実験用のダクトに取り付け、ダクトに温度23℃、湿度50%RHの空気を0.2m/secの速度で送風した。その際の繊維シートの上流側と下流側との差圧をMODUS社製デジタルマノメータMA2−04Pにて測定した。
【0056】
(6)ディーゼル排ガス臭脱臭効果
ディーゼルエンジン搭載の乗用車をアイドリングさせた状態で排気ガスを採取し、この排気ガスを、直径4cmの濾材に毎分2リットルで通気させた後、臭い袋に採取し、室内で官能評価を実施し、次の基準にて評価した。
◎:排気ガス臭が全く気にならない。
○:わずかに臭う。
△:臭いが軽減されている。
×:排ガス臭そのもの。
【0057】
[実施例1]
(無機粒子)
無機粒子として、平均粒径5μm、比表面積300m/g、細孔径13nmの多孔質シリカ(洞海化学工業社製サンスフェア(登録商標)L−51)を用いた。
【0058】
(酸ヒドラジド)
酸ヒドラジドとして、アジピン酸ジヒドラジド(日本化成社製)を用いた。
【0059】
(基材繊維シート)
基材繊維シートとして、単繊維繊度1.5dtexのビニロン16.5質量%と単繊維繊度7.1dtexのビニロン22質量%と単繊維繊度2.0dtexのポリエチレンテレフタレート16.5質量%とリン系難燃剤含有アクリル樹脂バインダー45質量%とからなる目付け70g/mの不織布を用いた。
【0060】
(繊維シート)
前記無機粒子を4質量%と前記酸ヒドラジドを2質量%とを均一分散させた水溶液中に前記基材繊維シートを含浸させ、前記水溶液を前記基材繊維シートに対し640g/m付着させた後、乾燥させて、目付け108g/mの繊維シートを得た。
【0061】
得られた繊維シートの圧力損失は16Paであった。
【0062】
[実施例2]
(無機粒子)
無機粒子として、東亞合成社製無機消臭剤「ケスモン(登録商標)NS−231」を使用した。
【0063】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0064】
(基材繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0065】
(繊維シート)
前記無機粒子を4質量%と前記酸ヒドラジドを2質量%とを均一分散させた水溶液中に前記基材繊維シートを含浸させ、前記水溶液を前記基材繊維シートに対し640g/m付着させた後、乾燥させて、目付け109g/mの繊維シートを得た。
【0066】
得られた繊維シートの圧力損失は20Paであった。
【0067】
[実施例3]
(無機粒子)
無機粒子として、実施例1で用いたのと同様の多孔質シリカ、および、平均粒径3μm、比表面積600m/g、細孔径0.8nm、SiO/Alのモル比100のゼオライト(東ソー社製HSZ385HUA)を用いた。
【0068】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0069】
(基材繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0070】
(繊維シート)
前記多孔質シリカを4質量%と前記ゼオライトを4質量%と前記酸ヒドラジドを2質量%とを均一分散させた水溶液中に前記基材繊維シートを含浸させ、前記水溶液を前記基材繊維シートに対し645g/m付着させた後、乾燥させて、目付け133g/mの繊維シートを得た。
【0071】
得られた繊維シートの圧力損失は20Paであった。
【0072】
[実施例4]
(無機粒子)
無機粒子として、実施例1で用いたのと同様の多孔質シリカ、および、平均粒径3μm、比表面積550m/g、細孔径0.8nm、SiO/Alのモル比10のゼオライト(ユニオン昭和社製アブセンツ1000)を使用した。
【0073】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0074】
(基材繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0075】
(繊維シート)
前記多孔質シリカを4質量%と前記ゼオライトを4質量%と前記酸ヒドラジドを2質量%とを均一分散させた水溶液中に前記基材繊維シートを含浸させ、前記水溶液を前記基材繊維シートに対し640g/m付着させた後、乾燥させて、目付け130g/mの繊維シートを得た。
【0076】
得られた繊維シートの圧力損失は19Paであった。
【0077】
[比較例1]
(無機粒子)
無機粒子として、東亞合成社製無機消臭剤「ケスモン(登録商標)NS−231」を使用した。
【0078】
(酸ヒドラジド)
酸ヒドラジドは用いなかった。
【0079】
(基材繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0080】
(繊維シート)
前記無機粒子を4質量%を均一分散させた水溶液中に前記基材繊維シートを含浸させ、前記水溶液を前記基材繊維シートに対し640g/m付着させた後、乾燥させて、目付け98g/mの繊維シートを得た。
【0081】
得られた繊維シートの圧力損失は15Paであった。
【0082】
[比較例2]
(無機粒子)
無機粒子は使用しなかった。
【0083】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0084】
(基材繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0085】
(繊維シート)
前記酸ヒドラジドを6質量%均一分散させた水溶液中に前記基材繊維シートを含浸させ、前記水溶液を前記基材繊維シートに対し640g/m付着させた後、乾燥させて目付け106g/mの繊維シートを得た。
【0086】
得られた繊維シートの圧力損失は9Paであった。また、得られた繊維シートは、その表面にアジピン酸ジヒドラジドの結晶が大量に析出し、品位は不良であった。
【0087】
[比較例3]
(無機粒子)
無機粒子は使用せずに、平均粒径6μm、比表面積1030m、細孔径1.9nmのヤシガラ活性炭を用いた。
【0088】
(酸ヒドラジド)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0089】
(基材繊維シート)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0090】
(繊維シート)
前記ヤシ殻活性炭を4質量%と前記酸ヒドラジドを2質量%とを均一分散させた水溶液中に前記基材繊維シートを含浸させ、前記水溶液を前記基材繊維シートに対し645g/m付着させた後、乾燥させて、目付け107g/mの繊維シートを得た。
【0091】
得られた繊維シートの圧力損失は19Paであった。
【0092】
アセトアルデヒド除去効率の経時推移を図4に示す。実施例1,2,3,4は、初期捕集効率がそれぞれ52%、45%、58%、55%と高く、経時的な捕集効率の低下も緩やかであった。それに対し、比較例1,2,3は初期捕集効率がそれぞれ13%、4%、25%と低く、更に経時的にも急激に捕集効率が低下した。
【0093】
比較例1で性能が低い理由としては、もともと無機消臭剤に添着されていたアミン系の薬品が水溶液中に溶出して希釈してしまうため、無機消臭剤の薬品担持濃度が低下していることが主として考えられる。
【0094】
また比較例2は、アジピン酸ジヒドラジドの添着量が実施例の3倍であるにも関わらず、実施例と比べて初期捕集効率、吸着容量とも不十分であり、さらに品位も不良であった。すなわち、比較例2は、無機粒子を用いずに薬品のみを過剰に添着しても、アルデヒド除去性能が向上しないばかりか逆に他のフィルター性能に悪影響を与えることを示している。
【0095】
また比較例3は、比表面積の大きい活性炭を含有しているにも関わらず、実施例に比べて初期捕集効率、吸着容量とも不十分である。活性炭は優れた物理吸着剤ではあるが、細孔構造と表面の化学的特性が酸ジヒドラジドの担持には必ずしも適切では無く、本発明で使用する無機粒子よりも劣っていることを示している。
【0096】
次に、ディーゼル排ガス臭の脱臭性能を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
実施例3は実施例1,2,4,および、比較例1〜3に比べ脱臭効果が優れている。まず比較例1〜3の脱臭性能が低い理由は、ディーゼル排ガス臭の主成分であるアセトアルデヒドの除去性能が低いことによるものと考えられる。実施例1〜4はいずれもアセトアルデヒドの化学吸着性能に優れるためディーゼル排ガス臭を大幅に軽減できるが、実施例1,2はアセトアルデヒド以外の残存臭気をわずかに感じる。実施例3,4はゼオライトを有しており、実施例3の脱臭性能が著しく優れている理由は、このゼオライトがアセトアルデヒド以外の残存臭気をも吸着除去したためと考えられる。実施例4は実施例3で用いたものとほぼ同じ細孔径と比表面積のゼオライトを有しているが、実施例3ほどの脱臭効果を得られない。この理由は、SiO/Alのモル比の相違から残存臭気成分とゼオライト表面の化学的親和性に差が生じているためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明による繊維シートは自動車や鉄道車両等の車室内の空気を清浄化するためのエアフィルター、健康住宅、ペット対応マンション、高齢者入所施設、病院、オフィス等で使用される空気清浄機用フィルター、エアコン用フィルター、OA機器の吸気・排気フィルター、ビル空調用フィルター、産業用クリーンルーム用フィルター等のエアフィルター濾材として好ましく使用される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の繊維シートの一態様であって繊維の表面上に多孔質シリカとアジピン酸ジヒドラジドとが担持された状態の拡大写真である。
【図2】本発明の一実施形態を示すエアフィルターの概略斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態を示すエアフィルターの概略斜視図である。
【図4】本発明の繊維シートおよび比較例におけるアセトアルデヒド除去効率の経時変化を示したグラフである。
【符号の説明】
【0101】
1 エアフィルター濾材(プリーツ型)
2 エアフィルター濾材(ハニカム型)
3 枠体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子と酸ヒドラジドとが少なくとも繊維の表面上に担持されてなることを特徴とする繊維シート。
【請求項2】
無機粒子の少なくとも一種がゼオライトであり、該ゼオライトのSiO/Alのモル比が20〜300である、請求項1記載の繊維シート
【請求項3】
無機粒子の平均粒径が0.1〜50μmである、請求項1または2記載の繊維シート。
【請求項4】
無機粒子の比表面積が50〜1000m/gである、請求項1〜3のいずれか記載の繊維シート。
【請求項5】
無機粒子が無機系消臭剤である、請求項1〜4のいずれか記載の繊維シート。
【請求項6】
さらにエレクトレット処理された繊維シートを積層してなる、請求項1〜5のいずれか記載の繊維シート。
【請求項7】
エアフィルター用途に用いられる、請求項1〜6のいずれか記載の繊維シート。
【請求項8】
自動車用キャビンフィルター用途に用いられる、請求項7記載の繊維シート。
【請求項9】
無機粒子と酸ヒドラジドとを混合分散させた液を繊維に保持させ、さらに乾燥させる工程を経て請求項1〜8のいずれか記載の繊維シートを得ることを特徴とする繊維シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか記載の繊維シートを用いてなることを特徴とするエアフィルター。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−167632(P2007−167632A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315159(P2006−315159)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】