説明

繊維処理剤および染色繊維の製造方法

【課題】 優れた摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)を染色繊維に付与することのできる繊維処理剤およびこの繊維処理剤を用いた染色繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】 繊維処理剤は、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、ポリアクリル酸(A1)と重量平均分子量10万〜700万のポリエチレンオキシド(A2)、および/または、水溶性ビニロン(B)を必須成分として含む繊維処理剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維処理剤および染色繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、摩擦堅牢度向上のための繊維処理剤と、この処理剤を用いて行われる染色繊維の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
インジゴ系染料や硫化染料で染色されたセルロース系布帛(たとえば、ブルーデニム、カラーデニム)は、それら染料の染着機構がセルロース系布帛に対する水素結合によっている。このために、布帛への染着力が比較的弱く、染色物の摩擦堅牢度、特に湿摩擦堅牢度に劣るという問題がある。
しかしながら、近年のファッションの流行および消費者志向の多様化等により、染色度が堅牢なデニム、濃色のデニムや淡色の濃度差が顕著なデニムが好まれる傾向にある。このために、一般消費者からより高い摩擦堅牢度、特に、より高い湿摩擦堅牢度を要望されている。
【0003】
従来より、高い摩擦堅牢度を付与するためには、ジアリルアミン由来の構成単位からなるカチオンポリマー化合物(特許文献1)、反応性ウレタン樹脂、反応性シリコーン樹脂、反応性アクリル樹脂等の耐水性を有する樹脂(特許文献2)、ポリエチレンイミンおよび二官能性アルキル化剤(特許文献3)が一般的に使用されてきた。
しかし、上記特許文献1〜3に開示された従来の技術では、乾摩擦堅牢度は向上する樹脂がある。しかしながら、湿摩擦堅牢度については、いずれも未処理布とほぼ同等程度でほとんど向上は見られない。したがって、濃色の染色物において、その効果が特に不足しているという問題が残されている。
【0004】
また、上記従来の技術以外の摩擦堅牢度向上の方法としては、染料ロイコ体が溶解した水溶液を繊維に含浸させた後、非酸化性雰囲気中で乾燥させた後、繊維の水分率が6〜30重量%の状態で酸素を含む気体と接触させることによってロイコ体を酸化させる方法(特許文献4)も提案されている。しかしながら、特許文献4記載の方法では、製造設備の追加変更(不活性ガスの使用装置、減圧装置)が必要で経済的でない事や、水分率の調整が難しく、実際の布帛生産では品質管理が困難な問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−218177号公報
【特許文献2】特開平7−18588号公報
【特許文献3】特開昭60−155784号公報
【特許文献4】特開2007−46190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)を染色繊維に付与することのできる繊維処理剤およびこの繊維処理剤を用いた染色繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、1)ポリアクリル酸(A1)および特定の重量平均分子量を有するポリエチレンオキシド(A2)の混合物、2)特定の重合度を有する水溶性ビニロン(B)、3)ポリアクリル酸(A1)、特定の重量平均分子量を有するポリエチレンオキシド(A2)および水溶性ビニロン(B)の混合物を、それぞれ含有する繊維処理剤であれば、高い摩擦堅牢度、特に湿摩擦堅牢度が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明にかかる繊維処理剤は、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、ポリアクリル酸(A1)と、重量平均分子量10万〜700万のポリエチレンオキシド(A2)とを必須成分として含む。
【0008】
本発明にかかる別の繊維処理剤は、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、重合度1000〜3000の水溶性ビニロン(B)を必須成分として含む。
本発明にかかるさらに別の繊維処理剤は、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、ポリアクリル酸(A1)と、重量平均分子量10万〜700万のポリエチレンオキシド(A2)と、重合度1000〜3000の水溶性ビニロン(B)とを必須成分として含む。
【0009】
上記繊維処理剤において、以下のいずれかの要件を満たせば好ましい。
前記ポリアクリル酸(A1)がポリアクリル酸のアンモニウム塩であること。
前記原料繊維がセルロース系繊維であること。
前記染料がインジゴ染料であること。
【0010】
本発明にかかる染色繊維の製造方法は、上記繊維処理剤を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む。
上記において、以下のいずれかの要件を満たせば好ましい。
前記付与を含浸法、パッドドライ法、スプレー法およびコーティング法のいずれかの方法で行うこと。
前記原料繊維がセルロース系繊維であり、前記染料がインジゴ染料であること。
本発明にかかる染色繊維は、上記製造方法で得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維処理剤は、優れた摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)を染色繊維に付与することができる。特に、インジゴブルーデニム、カラーデニム等の染色繊維の場合に、その効果は顕著である。
本発明の繊維処理剤を構成する各成分はいずれも高分子であるので、たとえば、糸状またはロープ状で染色された後、製織工程前で行われる糊付工程において、糊剤としても使用できる。この場合、通常使用されるポリビニルアルコール、澱粉、カルボキシメチルセルロース、パラフィンワックス、動植物油脂等を用いた糊剤の使用が不要となり、経済性にも優れる。
【0012】
また、本発明の繊維処理剤は、糸に対しては優れた製織性を付与することができ、布に対しては優れた柔軟性を付与することができる。
本発明にかかる染色繊維の製造方法は、上記繊維処理剤を原料繊維に付与する工程を含むので、得られる染色繊維は摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)に優れる。
本発明にかかる染色繊維は、摩擦堅牢度(特に湿摩擦堅牢度)に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の繊維処理剤は、下記に示す繊維処理剤(1)〜繊維処理剤(3)のいずれかである。
繊維処理剤(1):ポリアクリル酸(A1)と、重量平均分子量10万〜700万のポリエチレンオキシド(A2)とを必須成分として含む繊維処理剤。
【0014】
繊維処理剤(2):重合度1000〜3000の水溶性ビニロン(B)を必須成分として含む繊維処理剤。
繊維処理剤(3):ポリアクリル酸(A1)と、重量平均分子量10万〜700万のポリエチレンオキシド(A2)と、重合度1000〜3000の水溶性ビニロン(B)とを必須成分として含む繊維処理剤。
【0015】
本発明の繊維処理剤を構成する各成分について、以下詳しく説明する。
ポリアクリル酸(A1)は、耐水性を染色繊維に付与し、染色繊維間の接着性を高め、製織時の耐摩耗性を向上させる成分である。ポリアクリル酸(A1)は、アクリル酸のみを含む重合性成分を重合して得られる単独重合体であると好ましいが、アクリル酸と共重合可能な単量体を含有する重合性成分を重合して得られる共重合体であってもよい。共重合可能な単量体としては、たとえば、アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、アクリルアマイド等を挙げることができる。
【0016】
ポリアクリル酸(A1)が、アクリル酸を全体の70モル%以上(好ましく90モル%以上)含む重合性成分を重合して得られる重合体であるとよい。ポリアクリル酸(A1)が、アクリル酸を全体の70モル%未満含む重合性成分を重合して得られる共重合体であると、耐水性が不十分となり、湿摩擦堅牢度が低下することがある。
ポリアクリル酸(A1)の重合度については、特に限定されないが、たとえば、好ましくは1万〜100万、さらに好ましくは10万〜30万である。
【0017】
ポリアクリル酸(A1)の重量平均分子量については、特に限定されないが、たとえば、好ましくは140〜14000、さらに好ましくは1400〜4200である。
ポリアクリル酸(A1)のカルボキシル基部分は、未中和状態またはアンモニウム塩を形成していることが好ましい。
【0018】
ポリアクリル酸(A1)がポリアクリル酸のアンモニウム塩であると、ポリエチレンオキシド(A2)と混合した場合に不都合が発生しにくく、両者の混合が可能になる。
ポリアクリル酸のアンモニウム塩は、たとえば、40℃以下を保持しながら、アンモニア水をポリアクリル酸に滴下混合する方法等によって製造することができる。アンモニアによって中和されるカルボキシル基の中和度は、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。カルボキシル基の中和度が90モル%未満であると、ポリエチレンオキシド(A2)と混合した場合にゲル化が起こりやすく、得られる繊維処理剤の安定性が低下することがある。
【0019】
また、ポリアクリル酸(A1)が未中和のポリアクリル酸であると、ポリエチレンオキシド(A2)と混合した場合に、ゲルが容易に形成されことがある。そのため、ポリアクリル酸(A1)およびポリエチレンオキシド(A2)を、別々の加工液槽に準備し、ポリアクリル酸(A1)を繊維に付与し、ついで、ポリアクリル酸(A1)とは別の加工液槽に準備したポリエチレンオキシド(A2)で処理すると、ゲル化の問題が回避できるので好ましい。
ポリアクリル酸(A1)がポリアクリル酸のナトリウム塩等の金属塩である場合は、耐水性が不十分となり、湿摩擦堅牢度が低下するという問題が発生することがある。
【0020】
ポリエチレンオキシド(A2)は、染色繊維の表面摩擦を低下させ、摩擦堅牢度を向上させる成分である。また、ポリエチレンオキシド(A2)は、染色繊維と金属との表面摩擦を低下させることから、製織時の耐摩耗性を向上させ得る成分であり、染色繊維間の表面摩擦を低下させることから、布の柔軟性を向上させ得る成分でもある。ポリエチレンオキシド(A2)は、エチレンオキシドを重合して得られる重合体であり、その重量平均分子量は、通常10万〜700万、好ましくは50万〜500万、さらに好ましくは100万〜300万である。ポリエチレンオキシド(A2)の平均分子量が10万よりも小さいと、染色繊維の耐水性が不足する。一方、平均分子量が700万よりも大きいと繊維処理剤の粘度が高くなり作業性が問題になる場合がある。
繊維処理剤中に含まれるポリアクリル酸(A1)とポリエチレンオキシド(A2)の重量比率(A1/A2)については、特に限定はないが、95/5〜50/50が好ましく、より好ましくは90/10〜65/35である。A1/A2が95/5より大きいと、染色繊維の表面摩擦が高くなりすぎるため、摩擦堅牢度の向上効果が得られ難くなる。一方、A1/A2が50/50より小さいと、耐水性が不足するため、摩擦堅牢度が向上し難い。なお、繊維処理剤が水溶性ビニロン(B)をさらに含む場合の3成分の重量比率については、後述する。
【0021】
水溶性ビニロン(B)は、耐水性を高め、染色繊維の表面摩擦を低下させ、摩擦堅牢度を向上させる成分である。また、水溶性ビニロン(B)は、染色繊維と金属との表面摩擦を低下させることから、染色繊維間の接着性を高め製織時の耐摩耗性を向上させる成分である。水溶性ビニロン(B)は、たとえば、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化し、その後、得られたポリビニルアルコールをホルムアルデヒド等でアセタール化して製造される。アセタール化度は通常10〜40モル%が好適であり、アセタール化により、適度な耐水性が発現される。また、その重合度は1000〜3000が好ましく、さらに好ましくは1500〜2500である。重合度が1000より小さいと耐水性が不足するために湿摩擦堅牢度が低下する。一方、重合度が3000よりも大きいと粘度が高くなるために作業性が悪いという問題がある。
繊維処理剤中に含まれるポリアクリル酸(A1)とポリエチレンオキシド(A2)と水溶性ビニロン(B)の3成分の重量比率(A1/A2/B)については、特に限定はないが、85/5/10〜20/20/60が好ましく、より好ましくは75/5/20〜35/15/50である。3成分中のポリアクリル酸(A1)およびポリエチレンオキシド(A2)の重量比率(A1/A2)が85/5よりも大きいと、染色繊維の表面摩擦が高くなりすぎるため、摩擦堅牢度の向上効果が得られ難くなる。一方、A1/A2が20/20よりも小さいと、耐水性が不足するため、摩擦堅牢度が向上し難い。また、3成分において、ポリアクリル酸(A1)およびポリエチレンオキシド(A2)の合計に対する水溶性ビニロン(B)の重量比率(B/(A1+A2))が10/90よりも小さいと水溶性ビニロン(B)による湿摩擦堅牢度を向上させる効果が充分に発揮されず、ポリアクリル酸(A1)およびポリエチレンオキシド(A2)の2成分の場合と同程度の湿摩擦堅牢度向上効果となる。一方、B/(A1+A2)が60/40よりも大きいと、風合いが異なるという問題が懸念される。
【0022】
本発明の繊維処理剤は、ポリアクリル酸(A1)、ポリエチレンオキシド(A2)および水溶性ビニロン(B)(以下、繊維処理剤に含まれるこれらの成分を合わせて「有効成分」と言うことがある。)以外に、摩擦堅牢性、分繊性、耐摩耗性(製織性)、柔軟性等の物性をさらに付与の目的で、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、たとえば、架橋性ウレタン樹脂、架橋性アクリル樹脂、ポリエチレンイミン、グリオキザール樹脂、メラミン樹脂、エチレン尿素、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、ホウフッ化亜鉛、パラフィンワックス、エステル化ワックス、蜜蝋、ライスワックス、ポリエチレンワックス、ポリエチレングリコール、牛脂、ラード、牛脂極度硬化油、ラード極度硬化油、鉱物油、ジメチルシリコーンエマルジョン、エポキシシリコーンエマルジョン、アミノシリコーンエマルジョン、メチルハイドロジェンエマルジョン、ポリビニルアルコール、天然澱粉、変性澱粉、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸重合物、アクリル酸エステル重合物、アクリルアマイド重合物、アクリル酸スチレン共重合物、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合物、ポリアマイドポリアミン系柔軟剤、ポリアマイドエステル系柔軟剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリアルキレンアミノエーテル、防腐剤、消泡剤、界面活性剤等を含む浸透剤、帯電防止剤等が挙げられる。
本発明の繊維処理剤は、加工性または作業性を配慮し、水溶液で使用し、その後の乾燥により水分を除去可能であるので、水を含んでいてもよい。本発明の繊維処理剤が水を含む場合、その有効成分の濃度については、特に限定はないが、好ましくは0.1%〜25%、さらに好ましくは3%〜10%である。
【0023】
本発明の繊維処理剤は、通常、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられる。
本発明で、原料繊維の製造に使用される染料は、バット染料(建染染料)および/または硫化染料である。これらの染料の作用は、いずれもハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素等の還元性雰囲気下で水溶性のロイコ体を形成し、そして、このロイコ体を含有する水溶液を繊維に付着させ、その後に、空気、酸素等により酸化させることによって染色するものである。
【0024】
バット染料としては、たとえば、インジゴ系染料、チオインジゴ系染料、アントラキノン系染料、ピラントロン系染料、ジベンゾアントロン系染料、ベンゾアントロンアクリジン系染料、イミダゾール系染料、フタロシアニン系染料等を挙げることができる。また、硫化染料としては、たとえば、加硫型染料、水溶性型染料、分散型染料、SCN基付加型染料、チオ硫酸基付加型染料、アゾジサルファイド型染料等を挙げることができる。これらの染料のうちでも、バット染料に分類されるインジゴ染料が特に重要である。
上記染料で加工して原料繊維を製造する方法については、特に限定はなく、通常用いられる染色方法で行われる。上記染色に使用される染色機としては、たとえば、パッケージ染色機、オーバーバイヤー染色機、チーズ染色機、ロープ染色機、シート染色機、ウインス染色機、ジッガー染色機、ビーム染色機、液流染色機等が挙げられる。これらの染色機のうちでも、高い染色濃度が容易に得られるロープ染色機やシート染色機が好適に用いられる。染色回数を最も多くできうるロープ染色機が最も好適である。
【0025】
本発明で用いられる原料繊維を構成する素材の種類については特に限定はないが、たとえば、綿、麻等の天然セルロース系繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、精製セルロース繊維(商標:テンセル)等の再生セルロース系繊維等のセルロース系繊維を挙げることができる。セルロース系繊維は単独あるいは混紡、交織により他繊維と混用して用いてもよく、混用の場合、セルロース系繊維を20重量%以上含有するのが望ましい。原料繊維の形態については特に限定はないが、糸状、織物、編物、不織布等の形態を挙げることができる。
本発明の染色繊維の製造方法は、上記繊維処理剤を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む製造方法である。
【0026】
原料繊維に付与する工程は、染色後の分繊工程、製織前の糊付工程および縫製後の加工工程のうちのいずれの工程であっても問題ないが、分繊工程および/または糊付工程で付与されるのが好ましい。なお、加工工程で原料繊維に付与すると、本来付与の必要性のない、緯糸にも付与することになるので経済的でないこともある。
上記付与は、浸漬法、含浸法、パッドドライ法、スプレー法およびコーティング法のいずれかの方法で行われると好ましい。これらの方法のうちでも、繊維表面部から繊維内部まで処理剤を付与することが可能であり、しかも、現行生産機械をそのまま利用可能で経済性にも優れるという理由から、パッドドライ法がさらに好ましい。
【0027】
本発明の繊維処理剤を分繊工程および/または糊付工程で付与する場合、分繊工程で繊維処理剤(1)を用い、糊付工程で繊維処理剤(2)を用いると、高い摩擦堅牢度が得られるので、好ましい。
本発明の繊維処理剤を分繊工程で付与する場合、本発明の繊維処理剤以外に、公知の分繊剤として、たとえば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、動植物油、エステル系ワックス、鉱物油、POEアルキルエーテル等の非イオン活性剤、4級アンモニウムクロライド等のカチオン活性剤等からなるワックスおよびワックスエマルジョン等を併用してもよい。
【0028】
また、本発明の繊維処理剤を糊付工程で付与する場合、本発明の繊維処理剤以外に、公知の糊剤として、たとえば、重合度500〜3000で鹸化度80〜99モル%のポリビニルアルコール(以下、PVA)、コーンスターチや馬鈴薯等の澱粉、エステル化澱粉等の澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸重合物、アクリル酸エステル重合物、アクリルアマイド重合物、アクリル酸スチレン共重合物等の糊剤主成分;パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、動植物油、エステル系ワックス、鉱物油等の平滑成分;POEアルキルエーテル等の非イオン活性剤、4級アンモニウムクロライド等のカチオン活性剤等の乳化成分;界面活性剤等を含む浸透剤;柔軟剤;防腐剤;帯電防止剤等を含む糊剤を併用してもよい。
原料繊維に対する本発明の繊維処理剤の付与量については、特に限定はないが、繊維処理剤に含まれるポリアクリル酸(A1)、ポリエチレンオキシド(A2)および水溶性ビニロン(B)の合計量(以下、この合計量を「有効成分量」ということがある。)が原料繊維の量に対して0.01〜30重量%となるように、本発明の繊維処理剤が付与されるのが好ましく、さらに好ましくは2〜15重量%である。本発明の繊維処理剤を原料繊維に付与した場合に、繊維処理剤に含まれる有効成分量が原料繊維の量に対して0.01重量%より少ないと、本発明の効果が得られ難くなる。一方、繊維処理剤に含まれる有効成分量が原料繊維の量に対して30重量%より多いと、摩擦堅牢度向上の効果が付与量に見合ったものとはならず、頭打ちとなり、経済的でない。
【0029】
本発明の繊維処理剤を原料繊維に付与する場合、その付与温度は、25〜40℃が好適である。付与温度が25℃より低いと、一定温度保持が難しいために原料繊維への一定付与ができなくなることがある。一方、付与温度が40℃より高いと、原料繊維に含まれる染料の溶出が多くなることがある。
本発明の繊維処理剤が付与された原料繊維の乾燥温度については、特に限定はないが、適度な耐水性を有する親水性ゲル層を形成させるためには、好ましくは100〜150℃、さらに好ましくは110〜150℃である。乾燥温度が100℃より低いと、温度が低いために樹脂の結晶性が低いことから適度な耐水性を有するゲル層が原料繊維に形成され難くなる。一方、乾燥温度が150℃より高いと経済的ではない。
【0030】
特に、繊維処理剤(1)および繊維処理剤(3)においては、ポリアクリル酸(A1)のカルボン酸のOH基とポリエチレンオキシド(A2)のエーテル基のO原子とが乾燥によって水素結合することにより、親水性ゲルが発現すると考えられる。また、繊維処理剤(2)および繊維処理剤(3)においては、水溶性ビニロン(B)は乾燥により結晶化が進み、適度な耐水性を有する親水性ゲルが発現すると考えられる。
本発明の染色繊維の製造方法で、本発明の繊維処理剤を糊付工程以外で付与する場合、本発明の繊維処理剤とともに、本発明の効果を損わない範囲で、他の繊維加工薬剤や繊維加工助剤と併用して処理してもよい。このような薬剤や助剤としては、たとえば、消臭剤、抗菌剤、防腐剤、柔軟剤、帯電防止剤、撥水撥油剤、硬仕上げ剤、紫外線吸収剤、防汚剤、親水化剤等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。
【0031】
以下、本発明の染色繊維の製造方法を利用してインジゴブルーデニムを生産する場合について、一連の製造工程を詳しく説明する。
まず、綿糸を400〜600本のロープに整経した後、このロープを、最初は、20℃〜60℃の水洗槽、次に、アルキルサルフェート金属塩等のアニオン活性剤および苛性ソーダ水溶液の浸透槽、最後に、pH12程度に調整されたハイドロサルファイトおよび水酸化ナトリウムおよびインジゴ染料からなる染色槽を通過させ、空気酸化させて染色する。染色槽は必要染色濃度に応じて、染料濃度および染色回数および空気酸化時間は適宜調整されるが、通常、濃色染色の場合、インジゴ染料濃度1〜7g/リットルの染色槽を9〜12回、空気酸化工程を入れながら繰り返し行われる。空気酸化により発色されたインジゴ染色糸は、その後、糸表面に過剰付着したインジゴ染料や付着している水酸化ナトリウム等の洗浄除去の目的で、20〜60℃の3〜5槽からなる水洗湯洗槽を通過させる。その後、ロープ染色糸の分繊(ロープ状糸を1本毎に分割する工程)の目的で、有効成分の濃度が1〜5%である本発明の繊維処理剤(好ましくは繊維処理剤(1)または繊維処理剤(3)、さらに好ましくは繊維処理剤(1))を付与した後、乾燥、分繊され、荒巻整経ビームに整経される。
【0032】
その後、荒巻整経ビームに整経されたインジゴ染色糸は、スラッシャーサイジング機を用いて、糊付(糊剤を付与する工程)し、100〜130℃のシリンダーで乾燥され、織機ビームに巻き取られた後、緯糸に未染色の綿、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、テンセル、ポリウレタンを用いてAIR
JET織機、レピア織機等で綾織物として製織され、デニム布が得られる。ここで用いる糊剤として、本発明の繊維処理剤(好ましくは繊維処理剤(2)または繊維処理剤(3)、さらに好ましくは繊維処理剤(2))が使用される。通常、繊維処理剤の付与量は、綿10番単糸の場合、たとえば、有効成分が繊維に対して3〜10重量%となるように調整される。
製織されたデニム布は、付与した糊剤を除去する目的で、ガスバーナーにより布表面の毛羽を除去する目的で毛焼工程、湯洗工程、布の防縮の目的でサンフォライズ工程、引き裂き強度向上の目的でグリオキザール樹脂加工等が施された後、ジーンズに縫製される。その後、ジーンズに風合、色彩等の機能性を付与する目的で、柔軟、ブリーチ、ストーンウオッシュ、ケミカルウオッシュ等の処理が行われて、ジーンズ製品が完成する。
【実施例】
【0033】
以下の実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、例中の「部」および「%」とあるのは、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
【0034】
〔製造例1〕
(ポリアクリル酸アンモニウム水溶液の調製)
撹拌機、窒素導入管、還流管、温度計を備えた1リットルの4ツ口フラスコに軟水575部を仕込み、窒素を導入しながら90℃まで昇温し、重合用触媒として過硫酸アンモニウムを5部加えて、撹拌し完全に溶解させた。直ちに、別に設置した滴下フラスコより、濃度80%のアクリル酸水溶液202部を徐々に滴下し、重合を開始した。重合時は92〜95℃を保ち、2時間かけてアクリル酸を全量滴下した。滴下終了後、後触媒として、過硫酸アンモニウムを0.5部および軟水64.5部を4ツ口フラスコに仕込んだ。このまま92〜95℃で1時間撹拌した後、40℃まで冷却した。次に、4ツ口フラスコ中の内容物を40℃以下に保持、撹拌しながら、別に設置した滴下フラスコより、濃度25%のアンモニア水153部を徐々に滴下して中和を行い、滴下終了後、更に30分間撹拌し、室温まで冷却して、ポリアクリル酸アンモニウム水溶液aを得た。ポリアクリル酸アンモニウム水溶液a中のポリアクリル酸アンモニウムの濃度(有効成分濃度)は20%であった。
【0035】
〔製造例2〕
(ポリエチレンオキシド水溶液の調製)
温度計を備えた容量1リットルのビーカーに軟水979部を加え、400rpm/分で攪拌した状態で、PEO−8(平均分子量100〜170万、住友精化社製)20部を少しずつ加えた。全量加えた後、温度を90℃まで昇温して4時間攪拌し、40℃まで冷却後に防腐剤1部を添加して、ポリエチレンオキシド水溶液bを得た。ポリエチレンオキシド水溶液b中のポリエチレンオキシド水溶液の濃度(有効成分濃度)は2%であった。
【0036】
〔製造例3〕
(水溶性ビニロン水溶液の調製)
温度計を備えた容量1リットルのビーカーに軟水890部を加え、200rpm/分で攪拌した状態で、市販の水溶性ビニロン(重合度2000 アセタール化度30)100部を少しずつ加えた。全量加えた後、温度を95℃まで昇温して30分間攪拌し、40℃まで冷却後に防腐剤5部、消泡剤5部を添加して、水溶性ビニロン水溶液cを得た。水溶性ビニロン水溶液c中の水溶性ビニロンの濃度(有効成分濃度)は10%であった。
【0037】
〔製造例4〕
(比較品の調製)
市販のポリビニルアルコール(重合度1700、鹸化度88モル%)200部を300rpm/分攪拌下の軟水790部に室温下で徐々に加えた後、温度を90℃まで昇温して1時間攪拌溶解した後、40℃まで冷却して、防腐剤5部、消泡剤5部を添加して、ポリビニルアルコール水溶液dを得た。ポリビニルアルコール水溶液d中のポリビニルアルコールの濃度(有効成分濃度)は20%であった。
上記ポリビニルアルコールを、それぞれ、市販のポリエチレンイミン(重合度1800、アミン価19)、カチオン化セルロース(カチナールLC−100(東邦化学社製))、カチオン化ローストビーンガム(カチナールCLB−100(東邦化学社製))、アニオン性アクリル樹脂(ラビテックスCD−10(東海製油社製))、カチオン性アクリル樹脂(ミキテックスCD−5(共栄社化学社製))に変更する以外は、同様に希釈して、それぞれ、ポリエチレンイミン水溶液e、カチオン化セルロース水溶液f、カチオン化ローストビーンガム水溶液g、アニオン性アクリル樹脂水溶液h、カチオン性アクリル樹脂水溶液iを得た。それぞれの濃度(有効成分濃度)はいずれも20%であった。
【0038】
(実施例1)
表1に示すように、使用薬剤として、ポリアクリル酸アンモニウム水溶液a、ポリエチレンオキシド水溶液bおよび軟水を所定量混合して、有効成分濃度5.6%の繊維処理剤を得た。得られた繊維処理剤を糸および布に付与処理し、下記に示す評価を行い、その結果を表2(糸)および表3(布)に示す。
(実施例2〜5および比較例1〜6)
表1に示すように使用薬剤の種類や量を変更する以外は、それぞれ実施例1と同様にして、有効成分濃度5.6%の繊維処理剤を得た。得られた繊維処理剤について、実施例1と同様にしてそれぞれ下記に示す評価を行い、その結果を表2および表3に示す。
【0039】
(比較例7)
上記繊維処理剤を使用しない以外は、実施例1と同様にして下記に示す評価を行い、その結果を表2および表3に示す。
【0040】
<処理方法>
(1)糸
一本糊付機(ヤマダ社製 YS−6)を用いて、繊維処理剤を綿インジゴ染色糸(綿10番単糸、9回染)に30℃で付与した。次いで80℃で乾燥した後、130℃で3分間熱処理した。付与処理された糸の評価結果を表2に示す。
【0041】
(2)布
下記に示す経糸および緯糸である布(3/1綾織物)に対して、繊維処理剤を30℃でパット処理(2DIPS×2NIPS)し、ピンテンターにて110℃×3分間乾燥した後、130℃×3分間熱処理した。付与処理された布の評価結果を表3に示す。
経糸:綿10番単糸インジゴ染色糸(9回染色)、60本/インチ
緯糸:綿10番単糸紡績糸、48本/インチ
【0042】
<性能評価方法>
(1)付与量
糸または布に対して繊維処理剤を付与する前後の重量変化から、繊維処理剤の付与量(%)を算出した。
【0043】
(2)摩擦堅牢度
糸または布の摩擦堅牢度(乾摩擦、湿摩擦)をJIS L 0849(学振法)にて行い、汚染用グレースケール(JIS L 0805に規定)にて摩擦堅牢度を評価した。摩擦回数は100回であった。摩擦堅牢度を1級から5級の範囲で評価した。なお、1級は摩擦堅牢度が最も劣っており、5級は摩擦堅牢度が最も優れている。
【0044】
(3)耐摩擦回数
処理糸の耐摩耗性(織機での製織性)を評価するため、TM式抱合力試験機(TM−200 大栄科学製機社製)を用いて、糸5本/荷重200gで摩擦回数200回/分の条件で摩擦して、糸5本が全て切断するまでの回数を測定した。なお、測定は1試料につき6回実施し、その平均値を算出した。この回数が高いほど、製織性が良好である。
【0045】
(4)強力
処理糸の強度を評価するため、引張圧縮試験機(TG−2kN NMB社製)を用いて処理糸の強力を測定した。尚、測定は1試料につき10回実施し、その平均値を算出した。強力が高いほど、製織性、処理糸から得られる布等の強度が良好である。
【0046】
(5)布の柔軟性
10名の判定員(男女)により各処理布の柔軟性をハンドリング判定評価した。
◎:良好、○:やや良、△:やや不良、×:不良
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表2および表3に示す結果より、本発明の繊維処理剤は、優れた摩擦堅牢度、特に湿摩擦堅牢度を示し、かつ、糸については優れた製織性、布については優れた柔軟性を示すことが分かる。
バット染料(建染染料)または硫化染料で染色された布に対して、本発明の繊維処理剤を用いることで、極めて優れた摩擦堅牢度、特には湿摩擦堅牢度が布に付与されることが分かる。したがって、本発明の繊維処理剤を、特には優れた湿摩擦堅牢度を有することが望まれるインジゴブルーデニムやカラーデニムに対して、適用した場合の工業的利用価値は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、ポリアクリル酸(A1)と、重量平均分子量10万〜700万のポリエチレンオキシド(A2)とを必須成分として含む、繊維処理剤。
【請求項2】
バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、重合度1000〜3000の水溶性ビニロン(B)を必須成分として含む、繊維処理剤。
【請求項3】
バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に用いられ、ポリアクリル酸(A1)と、重量平均分子量10万〜700万のポリエチレンオキシド(A2)と、重合度1000〜3000の水溶性ビニロン(B)とを必須成分として含む、繊維処理剤。
【請求項4】
前記ポリアクリル酸(A1)がポリアクリル酸のアンモニウム塩である、請求項1または3に記載の繊維処理剤。
【請求項5】
前記原料繊維がセルロース系繊維である、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項6】
前記染料がインジゴ染料である、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の繊維処理剤を、バット染料および/または硫化染料から選択された染料で加工された原料繊維に付与する工程を含む、染色繊維の製造方法。
【請求項8】
前記付与を含浸法、パッドドライ法、スプレー法およびコーティング法のいずれかの方法で行う、請求項7に記載の染色繊維の製造方法。
【請求項9】
前記原料繊維がセルロース系繊維であり、前記染料がインジゴ染料である、請求項7または8に記載の染色繊維の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法で得られた染色繊維。

【公開番号】特開2009−120973(P2009−120973A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293366(P2007−293366)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】