説明

繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物、及びその製造方法

【課題】セルロース系繊維が短繊維化されるのを防止し、かつ、生分解性樹脂中でセルロース系繊維の凝集を抑制して、高強度で高剛性な繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】脂肪族ジオールと、脂肪族ジカルボン酸及び/又はその誘導体とを反応して得られる脂肪族ポリエステル、並びにポリ(オキシカルボン酸)から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)1〜99重量部、重量平均分子量が1,000〜100,000の高分子分散剤(B)1〜20重量部、及びセルロース系繊維(C)98〜1重量部を含有する繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装材料、農業材料、工業製品、日用雑貨などのフィルム、シート、筐体などの分野において使用される、高強度で高剛性な繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物、及び工業的に有利な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
高剛性、高強度の生分解性材料として、植物繊維と生分解性樹脂との複合材料が検討されている。例えば、特許文献1には、生分解性樹脂中にパルプ等のセルロース繊維を均一に分散させるために、800μm程度に粉砕した生分解性樹脂とセルロース繊維を混合して加熱溶融混練を実施している。
【0003】
また、特許文献2には、生分解性樹脂を予め微粉状化すること、及びパルプ等のセルロース系繊維を高度に繰り返し摩砕ないし叩解して、セルロース系繊維の一次壁及び二次壁に外層を傷つけることにより、このセルロース系繊維をミクロフィブリル化することなく、上記生分解性樹脂に加えて混練しても、セルロース系繊維がミクロフィブリル化して、生分解性樹脂中に分散させることができる旨が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平06−345944号公報
【特許文献2】特開2005−42283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法を用いると、セルロース系繊維を生分解性樹脂中に均一微細分散させるために、機械的・物理的な前処理をする必要がある。そのため、セルロース系繊維は、鞘状たがを解きほぐしてフィブリル化する以外に、セルロース系繊維を切断して短繊維化される場合がある。さらに、セルロース系繊維と生分解性樹脂との親和性が低いため、生分解性樹脂中でセルロース系繊維の凝集が生じ、十分な強度や剛性が得られなくなるおそれがある。
【0006】
そこで、この発明は、セルロース系繊維が短繊維化されるのを防止し、かつ、生分解性樹脂中でのセルロース系繊維の凝集を抑制して、高強度で高剛性な繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、下記の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)1〜99重量部、高分子分散剤(B)1〜20重量部、及びセルロース系繊維(C)98〜1重量部を含有させることにより、上記課題を解決したのである。
(A):脂肪族ジオールと、脂肪族ジカルボン酸及び/又はその誘導体とを反応して得られる脂肪族ポリエステル、並びにポリ(オキシカルボン酸)から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ポリエステル系樹脂。
(B):重量平均分子量が1,000〜100,000の高分子分散剤。
(C):セルロース系繊維。
【発明の効果】
【0008】
この発明によると、所定の高分子分散剤(B)を用いるので、セルロース系繊維(C)を所定の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)内に均一かつ微細に分散させることが容易となり、セルロース系繊維(C)の凝集が抑制される。このため、得られる繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、セルロース系繊維(C)を均一かつ微細に分散させたものとなり、高い強度や高い剛性を発揮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明にかかる繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、所定の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)、高分子分散剤(B)、及びセルロース系繊維(C)を含有する樹脂組成物である。
【0010】
[脂肪族ポリエステル系樹脂(A)]
上記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、脂肪族ジオール(A−11)と、脂肪族ジカルボン酸及び/又はその誘導体(A−12)とを反応して得られる脂肪族ポリエステル(A−1)、ポリ(オキシカルボン酸)(A−2)等から選ばれる少なくとも1種の樹脂をいう。
【0011】
<脂肪族ジオール(A−11)>
上記脂肪族ジオール(A−11)(脂環族ジオールを含む)は、水酸基を2個持つ化合物であり、その好ましい具体例は下記一般式(3)で表されるものである。
HO−R−OH (3)
【0012】
上記式(3)中、Rは、2価の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは炭素数2〜11、特に好ましくは炭素数2〜6の脂肪族炭化水素基である。上記のRは、分岐鎖を有するものであっても良く、シクロアルキレン基であっても良い。Rは、好ましくは−(CH−(ただし、nは2〜11の整数、好ましくは2〜6の整数を示す。)である。
【0013】
上記の脂肪族ジオール(A−11)は特に限定されない。その具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上の混合物として用いても良い。
【0014】
得られる脂肪族ポリエステル(A−1)の物性の点から、上記脂肪族ジオール(A−11)は、1,4−ブタンジオールであることが特に好ましい。
【0015】
<脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体(A−12)>
上記脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体(A−12)(脂環族ジカルボン酸を含む)は、下記一般式(4)で表されるジカルボン酸、又はその炭素数1〜4の低級アルキルエステル若しくはその無水物などである。
HOOC−R−COOH (4)
【0016】
上記式(4)中、Rは直接結合、又は2価の脂肪族炭化水素基、好ましくは炭素数2〜11、特に好ましくは炭素数2〜6の2価の脂肪族炭化水素基である。上記のRは、分岐鎖を有するものであっても良く、シクロアルキレン基であっても良い。これらの中でで、Rとしては、−(CH−(ただし、mは0又は1〜11の整数、好ましくは0又は1〜6の整数を示す。)が好ましい。
【0017】
上記脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体(A−12)の好ましい具体例としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸等、又はそれらの酸無水物が挙げられる。なお、これらは1種を単独で用いても、2種以上の混合物として用いても良い。すなわち、脂肪族ジカルボン酸の群内、脂肪族ジカルボン酸の誘導体の群内、脂肪族ジカルボン酸からなる群と、脂肪族ジカルボン酸の誘導体からなる群の各群間で併用してもよい。
【0018】
得られる脂肪族ポリエステル(A−1)の物性の点から、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体(A−12)としては、コハク酸若しくは無水コハク酸、又はこれらとアジピン酸との混合物であることが好ましい。
【0019】
<ポリ(オキシカルボン酸)(A−2)>
上記ポリ(オキシカルボン酸)(A−2)は、2官能性の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(脂環族ヒドロキシカルボン酸を含む)又はその誘導体(A−21)の重合体をいう。この脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、分子中に1個の水酸基と1個のカルボン酸基を有するものであれば特に限定されるものではなく、下記一般式(5)で示される化合物が好適であり、誘導体としてはその炭素数1〜4の低級アルキルエステル又はそれらの分子内エステルが好適である。
HO−R−COOH (5)
【0020】
上記式(5)中、Rは2価の脂肪族炭化水素基、好ましくは炭素数1〜11、特に好ましくは炭素数1〜6の2価の脂肪族炭化水素基である。上記Rとしては、シクロアルキレン基であっても良いが、好ましいのは鎖状炭化水素基である。なお、この「鎖状」とは、「直鎖状」であるもののみならず、「分岐鎖状」のものも包含する。
【0021】
上記の2官能性の脂肪族ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(A−21)としてより好ましいものは、1つの炭素原子に水酸基とカルボキシル基とが結合したものであり、下記一般式(6)で表される化合物、又はその誘導体が好ましい。下記一般式(6)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸、又はその誘導体を用いた場合には、重合速度が増大するため、特に好ましい。
【化3】

【0022】
なお、上記式(6)中、aは0又は1以上の整数、好ましくは0又は1〜10、より好ましくは0又は1〜5の整数である。
【0023】
この2官能性の脂肪族ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(A−21)の具体例としては、乳酸、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸、カプロラクトン等のラクトン類を開環させたものや、これらの炭素数1〜4の低級アルキルエステル又はそれらの分子内エステル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上の混合物として用いても良い。なお、これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、又はラセミ体のいずれでも良く、形状としては固体、液体、或いは水溶液であっても良い。特に、使用時の重合速度の増大が特に顕著で、なおかつ入手容易な乳酸及びこれらの水溶液が好ましい。乳酸は、50%、70%、90%の水溶液が一般的に市販されており、入手が容易である。しかも、乳酸を用いることにより脂肪族ポリエステル(A−1)とポリ(オキシカルボン酸)(A−2)とを混合する場合に、両者の相溶性が高められる。
【0024】
<脂肪族ポリエステル系(A−1)の製造>
この発明で用いられる脂肪族ポリエステル(A−1)は、上記の(A−11)及び(A−12)、必要に応じて上記(A−21)を、ポリエステル生成条件下に、好ましくはゲルマニウム化合物からなる触媒の存在下で反応させる方法によって製造される。なお、ポリエステル生成条件下とは、一般的にポリエステルを合成する条件下をいう。
【0025】
上記脂肪族ポリエステル(A−1)の製造において、上記脂肪族ジオール(A−11)の使用量は、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体(A−12)に対し、実質的に等モルであるが、実際の製造過程においては、エステル化反応中に留出することがあることから、上記脂肪族ジオール(A−11)は、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体(A−12)100モルに対して、101〜150モル、好ましくは105〜130モル使用するのがよい。(A−11)の使用量が101モル未満だと、(A−11)の留出により、未反応の(A−12)が残存するおそれがあり、一方、150モルより多く使用する場合は、耐水性、剛性が低下するという問題点を有する。
【0026】
また、上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(A−21)を用いる場合、その使用量は、脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体(A−12)100モルに対し、0.04〜60モルがよく、1〜20モルが好ましく、3〜10モルがより好ましい。(A−21)が上記範囲より少ない場合、この(A−21)を用いたことによる重合反応性の向上効果が現れにくく、高分子量脂肪族ポリエステルを得難くなる傾向がある。一方、上記範囲よりも多いと耐熱性、強度が不十分となる傾向がある。
【0027】
上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(A−21)の添加時期は、ポリエステル生成反応以前であれば特に限定されず、例えば、予め触媒を上記(A−21)の溶液に溶解させた状態で、原料仕込時又はエステル化反応中に添加する方法、あるいは、原料仕込時に触媒を添加すると同時に添加する方法等が好ましい。
【0028】
上記の脂肪族ポリエステル(A−1)の製造は、上記原料をゲルマニウム化合物系触媒の存在下で実施するのが好ましい。
【0029】
このようにして得られる脂肪族ポリエステル(A−1)は、(A−11)及び(A−12)を主要な構成成分とするものであり、その製造に際して前記した通りの配合比で原料を配合すれば、一般的に、(A−11)からなる脂肪族ジオール単位と(A−12)からなる脂肪族ジカルボン酸単位のモル比が実質的に等しくなっている。また、脂肪族ポリエステル(A−1)の全構成成分のモル数を100モルとしたとき、(A−21)からなる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位は、好ましくは0.02〜30モルである。特に、(A−21)が乳酸である場合、このような範囲で(A−21)を導入することにより、ポリオキシカルボン酸(A−2)としてポリ乳酸を用いる場合、この脂肪族ポリエステル(A−1)とポリ乳酸との相溶性が高められ、非常に好ましい。
【0030】
この発明に用いられる脂肪族ポリエステル(A−1)の数平均分子量Mnは、一般に、1万以上30万以下、通常は3万以上30万以下である。この範囲を外れて、数平均分子量Mnが1万未満では、耐熱性や剛性が低下することがあり、一方、30万を超えると、フィルム、シート、筺体等の成形が難しくなることがある。
【0031】
なお、この発明に使用される脂肪族ポリエステル(A−1)には、その効果を損なわない限りにおいて、他の共重合成分を導入することができる。この他の共重合成分としては、3官能以上の多価ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸、多価アルコール等があげられる。これらを添加した場合、溶融粘度を高めることができ、好ましい。このような成分の具体例としては、リンゴ酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスルトール、トリメリット酸などが挙げられ、これらの中でも、得られる脂肪族ポリエステル(A−1)の物性からみて、リンゴ酸、トリメチロールプロパン、グリセリンなどが特に好ましい。このような他の共重合成分の割合は、脂肪族ポリエステル(A−1)の全構成成分のモル数を100モルとしたとき、好ましくは0.001〜3モルである。
【0032】
<ポリ(オキシカルボン酸)(A−2)の製造>
上記ポリ(オキシカルボン酸)(A−2)は、上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(A−21)の一種を単独重合、又は複数種を共重合することにより製造することができる。この脂肪族ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(A−21)の具体例としては、上記したものをあげることができ、これらの中でも、乳酸がより好ましい。乳酸を用いた場合、得られるポリ(オキシカルボン酸)(A−2)は、ポリ乳酸となる。
【0033】
上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体(A−21)の重合方法としては、一般的な、ヒドロキシカルボン酸の重合方法を用いることができる。例えば、ポリ(オキシカルボン酸)(A−2)の例として、ポリ乳酸をあげる場合、このポリ乳酸の製造方法は、特に限定されるものではなく、ラクチドを経由する開環重合法、乳酸の直接重縮合法等が挙げられる。
【0034】
上記ポリ(オキシカルボン酸)(A−2)としてポリ乳酸を用いる場合、この発明で使用されるポリ乳酸の数平均分子量としては、特に限定されないが、十分な強度を有するために、3万以上がよく、好ましくは10万以上である。ポリ乳酸の数平均分子量の上限は特に制限はないが、通常100万以下、好ましくは50万以下である。
【0035】
上記ポリ乳酸を構成する乳酸のL体とD体のモル比(L/D)は、得られるポリ乳酸の物性から、100/0〜0/100の全ての組成で使用できるが、弾性率の高いものを得る上で、L体が95モル%以上100モル%以下、又は0モル%以上5モル%以下であることが好ましい。L体が5モル%を超えて95モル%未満の場合は、弾性率の高いものが得にくくなるという問題点を有する。
【0036】
<脂肪族ポリエステル系樹脂(A)>
上記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、上記の脂肪族ポリエステル(A−1)、若しくはポリ(オキシカルボン酸)(A−2)、又はこれらの混合・混練物からなる。
【0037】
上記の脂肪族ポリエステル(A−1)とポリ(オキシカルボン酸)(A−2)とを混合する場合、その混合比は、(A−2)/(A−1)(重量比)で、1/99以上がよく、10/90以上が好ましい。また、混合比の上限は、(A−2)/(A−1)(重量比)で、99/1がよく、90/10がよい。上記混合比が1/99より小さいと、弾性が低下するおそれがある。一方、上記混合比が99/1より大きいと、剛性が不足するおそれがある。
【0038】
<セルロース系繊維(C)>
この発明に使用されるセルロース系繊維(C)は、パルプやその他のセルロース繊維からなる。上記パルプとしては、クラフトパルプ、サルファイトパルプなどの木材の化学処理パルプ、古紙から再生された再生パルプ等のパルプ等が挙げられる。また、上記その他のセルロース繊維としては、人造セルロース繊維、酢酸菌によるバクテリアルセルロース繊維、ホヤ等の動物由来のセルロース繊維やこれらを化学修飾したもの等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。これらのうち、コストの面、地球環境の面より、植物由来の木材、古紙等から得られたパルプが好ましい。なお、セルロース系繊維(C)の代表的な化学修飾方法としては、アセチル化、シアノエチル化等がある。
【0039】
また、公知のリファイナー処理、媒体撹拌ミル処理、振動ミル処理、石臼式処理等を用いて、セルロース系繊維の前処理を実施してもよい。特に、超高圧ホモジナイザーにより、強力な剪断力を加えてミクロフィブリル化したダイセル化学工業(株)製:セリッシュ(R)は、好ましく使用することができる。
【0040】
<高分子分散剤(B)>
この発明に使用される高分子分散剤(B)としては、特定の重量平均分子量を有する高分子分散剤が用いられる。この重量平均分子量としては、1,000以上が必要で、3000以上が好ましい。一方、重量平均分子量の上限は、100,000が必要で、80,000が好ましい。重量平均分子量が1,000より小さいと、高分子分散剤が成形品の表面に滲出(ブリード)することがある。一方、重量平均分子量が100,000より大きいと、高分子分散剤そのものの粘度が高くなり、目的とするセルロース系繊維との親和性が低下して、十分な均一・微細分散ができなくなることがある。
【0041】
上記高分子分散剤(B)は、下記の(a)成分、(b)成分、及び(c)成分から所定の2種又は3種が選ばれて混合された単量体混合物を共重合して得られる共重合体又はその中和物である。
【0042】
上記(a)成分は、下記の式(1)で示される単量体である。
【0043】
【化4】

【0044】
上記式中、Rは、H又はCH、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基又はヒドロキシ置換アルキレン基、RとRは、H又は炭素数1〜4のアルキル基、Eは、O又はNHである。
【0045】
上記(b)成分は、α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステルである。さらに、上記(c)成分は、α、β−不飽和カルボン酸である。
【0046】
上記(a)成分のうち、式(1)で示される化合物の具体例としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)クリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)クリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノ−2−アミノエチル(メタ)クリレート等が挙げられる。これらの中でも共重合性の面からN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)クリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)クリレートが好ましい。
【0047】
また、上記式(1)で示される化合物に加えて、ビニルピリジン類のようなピリジン環を有するα,β−不飽和基含有化合物を使用することができる。
【0048】
また、上記(b)成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、などが挙げられる。これらは、単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、メタクリル酸メチル、又はアルキル基の炭素数が6以上のメタクリル酸アルキルエテスル、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル等を主成分とするものが好ましい。
【0049】
さらに、上記(c)成分の具体例として、アクリル酸、メタクリル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0050】
なお、この発明において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル又はメタクリル」を意味する。また、この発明において、「脂肪族」とは「脂環族」をも含む広義の「脂肪族」を意味する。
【0051】
ところで、この発明にかかる高分子分散剤(B)を構成する単量体として、上記の(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の他に、必要に応じて酢酸ビニル、スチレン、ビニルエーテル等の重合性単量体を使用してもよい。
【0052】
この発明にかかる高分子分散剤(B)としては、単量体混合物を構成する単量体として、上記(a)及び(b)を含む第1高分子分散剤(B−1)、単量体混合物を構成する単量体として、上記(a)、(b)及び(c)を含む第2高分子分散剤(B−2)、並びに単量体混合物を構成する単量体として、上記(b)及び(c)のみからなる第3高分子分散剤(B−3)をあげることができる。
【0053】
<第1高分子分散剤(B−1)>
上記の第1高分子分散剤(B−1)は、上記の(a)成分及び(b)成分を含む単量体混合物を共重合して得られる共重合体又はその中和物である。上記(a)成分の含有量は、単量体混合物全体に対して、10モル%以上がよく、25モル%以上が好ましい。10モル%より少ないと、得られる共重合体又はその中和物の親水性が弱くなる傾向がある。一方、上記(a)成分の含有量の上限は、単量体混合物全体に対して、80モル%がよく、60モル%が好ましい。80モル%より多いと、得られる共重合体又はその中和物の親水性が強すぎて生分解性樹脂中にセルロース系繊維の分散性が悪化する傾向がある。
【0054】
また、上記(b)成分の含有量は、単量体混合物全体に対して、20モル%以上がよく、40モル%以上が好ましい。20モル%より少ないと、得られる共重合体又はその中和物の親油性が弱くなり、生分解性樹脂中にセルロース系繊維の分散性が悪化する傾向がある。一方、上記(b)成分の含有量の上限は、単量体混合物全体に対して、90モル%がよく、70モル%が好ましい。90モル%より多いと、得られる共重合体又はその中和物の親油性が強くなり、生分解性樹脂中にセルロース系繊維の分散性が悪化する傾向がある。
【0055】
ところで、上記共重合体を中和して使用する場合、この共重合体中のアミノ基の中和度は、50モル%以上がよく、75モル%以上が好ましい。50モル%より少ないと、セルロース系繊維の均一分散性が低下するおそれがある。一方、中和度の上限は、110モル%がよく、100モル%が好ましい。110モル%より大きいと、中和による効果が飽和してしまい、経済的に不利である。
【0056】
上記の中和に使用される酸性化合物としては、蟻酸、酢酸、塩酸、リン酸、硝酸等が挙げられる。これらの中でも常温で揮発性の蟻酸、酢酸、塩酸を用いたときは、水性分散液が乾燥して被膜を形成する際、中和物よりこれら酸が遊離して分散剤の疎水性が増加するので皮膜形成の耐水性は良好となる。
【0057】
上記の中和反応は、共重合後、得られる共重合体に上記酸性化合物を添加することによって行うことができ、また、予め、(a)成分を酸性化合物で中和しておき、これと(b)成分等とを共重合させてもよい。
【0058】
<第2高分子分散剤(B−2)>
上記の第2高分子分散剤(B−2)は、上記の(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を含む単量体混合物を共重合して得られる共重合体又はその中和物である。そして、これらの(a)成分、(b)成分及び(c)成分の混合比は、下記の条件(i)及び条件(ii)を満たす。
【0059】
・条件(i):(a)成分<(c)成分 (単位:モル%)。
・条件(ii):(a)成分+(b)成分が10〜90モル%、かつ、(c)成分が90〜10モル%。
【0060】
条件(i)は、(c)成分が(a)成分より多いことを条件とする。この条件を満たすことにより、親水性と疎水性のバランスが保たれ、目的とするセルロース系繊維の均一かつ微細な分散状態が得られる。
【0061】
また、条件(ii)は、(a)成分+(b)成分+(c)成分を100モル%としたとき、(a)成分+(b)成分と(c)成分との関係を示したものである。(a)成分+(b)成分が10モル%より少ないと、親水性が高くなりすぎて、セルロース系繊維を均一かつ微細に分散させることが困難となる場合がある。一方、(a)成分+(b)成分が90モル%より少ないと、親水性が不足して、やはり、セルロース系繊維の分散性が悪化するおそれがある。なお、(a)成分+(b)成分と(c)成分とのより好ましい関係は、(a)成分+(b)成分が20〜80モル%、かつ、(c)成分が80〜20モル%の場合である。
【0062】
ところで、上記共重合体を中和して使用する場合、上記条件(i)より、塩基性物質である上記(a)成分は、カルボキシル基を有する上記(c)成分よりも少ないため、追加の塩基性物質が必要となる。その際、上記の(a)成分及び添加の塩基性物質の合計量(モル)は、上記(c)成分の量(モル)の50モル%以上がよく、100モル%以上が好ましい。50モル%より少ないと、セルロース系繊維の均一分散性が低下するおそれがある。一方、上記の(a)成分及び添加の塩基性物質の合計量(モル)上限は、上記(c)成分の量(モル)の250モル%がよく、230モル%が好ましい。250モル%より大きいと、中和による効果が飽和してしまい、経済的に不利である。
【0063】
上記の中和に使用される塩基性化合物としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン等のアルキルアミン類、2−アミノ−2−メチルプロパノール等のアルカノールアミン類、モルホリン、アンモニア等が挙げられる。中でもアンモニア、炭素数1〜4の低級アルキルアミン等の低沸点物が得られた水性分散液が乾燥して皮膜を形成する際、分散剤よりこれら塩基性化合物が遊離し易いので皮膜中にとり囲まれた分散剤の疎水性が増加し、皮膜の耐水性が向上するので好ましい。
【0064】
上記の中和反応は、共重合後、得られる共重合体に上記塩基性化合物を添加することによって行うことができ、また、予め、(c)成分のα、β−不飽和カルボン酸を塩基性化合物で中和しておき、これと(a)成分等とを共重合させてもよい。
【0065】
<第3高分子分散剤(B−3)>
上記の第3高分子分散剤(B−3)は、上記の(b)成分及び(c)成分のみからなる単量体混合物を共重合して得られる共重合体又はその中和物である。そして、上記の(b)成分及び(c)成分の組成比((b)成分と(c)成分の両者の合計を100モル%とする。)は、モル%で、(b)成分/(c)成分が90/10以下がよく、80/20以下が好ましい。90/10より大きいと、疎水性が高くなって、セルロース系繊維の分散性が低下するそれがある。一方、組成比の下限は、20/80がよく、30/70が好ましい。20/80より小さいと、親水性が高くなりすぎて、やはりセルロース系繊維の分散性が低下するおそれがある。
【0066】
ところで、上記共重合体を中和して使用する場合、この共重合体中のカルボキシル基の中和度は、50モル%以上がよく、75モル%以上が好ましい。50モル%より少ないと、親水性が低くなり、セルロース系繊維の分散性が低くなるおそれがある。一方、中和度の上限は、110モル%がよく、100モル%が好ましい。110モル%より大きいと、中和による効果が飽和してしまい、経済的に不利になる。
【0067】
<高分子分散剤(B)の製造方法>
上記の高分子分散剤(B)の製造方法は、まず、(a)〜(c)の各成分のうち、使用する成分を上記の割合で混合して、単量体混合物を調製する。次いで、この単量体混合物を、重合開始剤の存在下で、0〜180℃、好ましくは40〜120℃で、0.5〜20時間、好ましくは2〜10時間反応することにより共重合体が製造される。
【0068】
この重合反応は、エタノール、イソプロパノール、セロソルブ等の親水性溶媒の存在下で行う溶液重合法を用いるのが好ましい。
【0069】
上記重合開始剤としてはアゾビスイソブチロニトリル、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキセン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0070】
重合反応後に中和反応を行う場合、この中和反応は、得られた共重合体と塩基性化合物を20〜100℃で0.1〜3時間反応させることにより行うことができる。
【0071】
<繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法>
この発明にかかる繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法としては、下記の3種の方法を挙げることができる。
(1)脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と高分子分散剤(B)とを混練し、次いで、セルロース系繊維(C)を加えて混練して分散させる方法。
(2)高分子分散剤(B)とセルロース系繊維(C)とを混合・分散し、次いで、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を混練して分散する方法。
(3)脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と高分子分散剤(B)とセルロース系繊維(C)とを同時に混練し、分散させる方法。
【0072】
これらの製造方法の中でも、(2)の方法を採用すると、セルロース系繊維(C)の表面に高分子分散剤(B)を先になじませることができるので、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)中に、短時間で均一・微細に分散させることができ、特に好ましい。なお、上記のいずれの製造方法においても、(A)、(B)、(C)の配合量は、上記した配合量とする。
【0073】
上記の製造方法において、混練、分散は一般的な攪拌機を用いて行うことができる。上記の混練に使用される混練機としては、特に限定されるものではないが、ロールミル、ニーダー、押出機、インクロール、及びバンバリーミキサーから選ばれる混練機を用いると、混練を行いやすくなるのでより好ましい。
【0074】
上記の混練を行いやすくするため、上記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を加熱して軟化させたり、可塑剤や有機溶剤を添加したりしてもよい。有機溶剤を用いた場合、分散後、加熱乾燥等を行うことによって溶媒を除去することもできる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。まず、実施例及び比較例で行った試験及び評価方法並びに使用した原材料について説明する。
【0076】
<セルロース系繊維分散フィルムの評価方法>
[分散状況評価]
セルロース系繊維を分散させたサンプル10gを、5mm厚のテフロンシートに挟み込み、10Kg/cmの圧力且つ200℃の加熱下、5分間圧縮を実施し、テフロンシートを取り出して放冷した。シートの厚みは50μmであった。シートを目視でセルロース系繊維が均一に分散しているかを目視で観察した。その結果を、下記の基準で評価した。なお、均一とは、図1に示す写真のような状態を意味し、不均一とは、図2に示すような状態をいう。
○…均一であった。
△…部分的に不均一であった。
×…不均一であった。
【0077】
[引き裂き評価]
上記の分散状況評価で作成したフィルムを、23℃×50RH%の恒温恒湿室に1昼夜保存後、横20mm×縦50mmに切り取り、図3に示すようにカッターナイフで切り込みを10mm入れた。切り込みを入れた両辺を手で持ち左右に引き裂いた。その結果を下記の基準で評価した。
◎…完全に引き裂かれなかった。
○…1mm未満引き裂かれた。
△…5mm程度引き裂かれた。
×…完全に引き裂かれた。
【0078】
[重量平均分子量測定]
高分子乳化剤水溶液を室温下、真空乾燥を6時間実施後、GPC装置((株)島津製作所製:検出器RID6A、ポンプユニットLC6A)を用いて、重量平均分子量を測定した。なお、展開溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)を用い、カラムとしては、ポリマーラボラトリー社製:PLゲル10ミクロンミックスBを2本用い、40℃で行った。
また、第2及び第3高分子分散剤は、トリメチルシリルジアゾメタンでエステル化後、測定した。
【0079】
<原材料>
(脂肪族ポリエステル系樹脂(A))
・生分解型脂肪族ポリエステル…三菱化学(株)製:GSPla AZ−71、コハク酸・1,4−ブタンジオール・乳酸共重合体、以下、「GSPla」と略する。
・ポリ乳酸…三井化学(株)製:レイシアH400、以下、「PLA」と略する。
【0080】
(高分子分散剤(B))
[(a)成分]
・N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート…三洋化成工業(株)製:メタクリレートDMA、以下「DMA」と略する。
【0081】
[(b)成分]
・メチルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「MMA」と略する。
・ラウリルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「SLMA」と略する。
・ブチルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下、「BMA」と略する。
【0082】
[(c)成分]
・アクリル酸…三菱化学(株)製、以下「AA」と略する。
・メタクリル酸…三菱レイヨン(株)、以下「MAA」と略する。
【0083】
(セルロース系繊維(C))
・セリッシュ水分散液…セルロース系繊維、ダイセル化学工業(株)製:KY−100GE、固形分濃度10重量%、以下、表1及び表2において、単に「セリッシュ」と称する。
・新聞紙懸濁液…新聞紙200gを2Lの温水中でディスパーサーにて攪拌60分間実施し、その後、#200の金網で濾過したろ過液、固形分濃度は10重量%、以下、表1及び表2において、単に「新聞紙」と称する。
【0084】
(その他)
・イソプロパノール…(株)トクヤマ製:トクソーIPA(登録商標)、以下「IPA」と略する。
【0085】
<高分子分散剤の製造>
(製造例1)
冷却器、窒素導入管、攪拌機及び滴下ロート及び加熱用のジャケットを装備した2L反応器に、表1に記載の量のIPAとイオン交換水を仕込み、攪拌しながら内温を80℃に調整した。
反応容器を窒素置換後、表1に示すモノマーの混合溶液の全部を一括投入した。さらに重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを表1に記載の量だけ添加し、重合を開始した。
4時間経過後、表1に示す量の中和剤を添加して中和した後、IPAを留去しながら水を添加して置換し、最終的に粘稠なアクリル系共重合体の中和物の水溶液を得た(収率97%)。以下、得られた高分子分散剤を「分散剤1」と称する。
【0086】
(製造例2)
表1に示すモノマーの混合溶液の20重量%分を一括投入し、重合開始後、残りのモノマー混合液80重量%分を4時間かけて滴下して重合を行い、4時間モノマー混合後の滴下を継続する途中で1時間ごとに上記重合開始剤を4回、表1に記載の量ずつ添加すること以外は、製造例1と同様にして、重合反応を行った。
混合液滴下終了して4時間経過後、表1に示す量の25%アンモニア水溶液を用いて中和した後、IPAを留去しながら水を添加して置換し、アンモニア量を調整(AA及びMAAの合計量の146モル%相当となるように)した後、最終的に粘稠なアクリル系共重合体の中和物の水溶液を得た(収率97%)。以下、得られた高分子分散剤を「分散剤2」と称する。
【0087】
(製造例3)
表1に記載の量の単量体、IPA、重合開始剤を用いた以外は、製造例1と同様にして、重合反応を行った。反応開始から4時間経過後、表1に記載の量の中和剤を用いて中和して、中和物を得た。以下、得られた高分子分散剤を「分散剤3」と称する。
【0088】
(製造例4)
製造例1に記載の方法で重合反応を行った。得られた重合液に、セリッシュ水分散液を添加し、表1に記載の量の中和剤を添加して中和後、IPAを留去しながら水を添加して置換し、最終的に粘稠なアクリル系共重合体の中和物の水溶液を得た(収率97%)。以下、得られた高分子分散剤を「分散剤4」と称する。
【0089】
(製造例5)
製造例2に記載の方法で重合反応を行った。得られた重合液に、セリッシュ水分散液を添加して中和を実施した。中和後、IPAを留去しながら水を添加して置換し、アンモニア量を調整(AA及びMAAの合計量の100モル%相当となるように)した後、最終的に粘稠なアクリル系共重合体の中和物の水溶液を得た(収率97%)。以下、得られた高分子分散剤を「分散剤5」と称する。
【0090】
(製造例6)
製造例3に記載の方法で重合反応を行った。得られた重合液に、セリッシュ水分散液を添加し、表1に記載の量の中和剤を添加して中和後、IPAを留去しながら水を添加して置換し、最終的に粘稠なアクリル系共重合体の中和物の水溶液を得た(収率97%)。以下、得られた高分子分散剤を「分散剤6」と称する。
【0091】
(製造例7)
セリッシュ水分散液の代わりに、新聞紙懸濁液を用いた以外は、製造例6と同様にして粘稠なアクリル系共重合体の中和物の水溶液を得た(収率97%)。以下、得られた高分子分散剤を「分散剤7」と称する。
【0092】
【表1】

【0093】
(実施例1〜9、比較例1〜2)
2軸のスクリュー型ニーダー PBV型((株)入江商会製:PBP−0.3型)を110℃に設定した。これに表2に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を、表2に記載の量添加し、溶融させた。更に混練下、表2に記載の高分子分散剤(B)及びセルロース系繊維(C)を、表2に記載の量ずつ、表2記載の順番に添加して、表2に記載の温度及び時間、並びに80rpmの条件下で、混練を実施した。水分は水蒸気として揮散し、固形分98%の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、上記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0094】
(実施例10)
実施例1において、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を、溶融させた後に、セルロース系繊維(C)を添加して混練後、高分子分散剤(B)を添加して混練するように順番を変更したこと以外は同様な方法で樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、上記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0095】
(実施例11)
実施例1において、高分子分散剤(B)をニーダー中に添加した後、セルロース系繊維(C)を添加して混練し、その後、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を混練溶融させるように順番を変更したこと以外は同様な方法で樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、上記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0096】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施例2における分散の状態を示す写真
【図2】比較例1における分散の状態を示す写真
【図3】引き裂き評価に用いるフィルムに入れた切り込みを示す模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)1〜99重量部、高分子分散剤(B)1〜20重量部、及びセルロース系繊維(C)98〜1重量部を含有する繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
(A):脂肪族ジオールと、脂肪族ジカルボン酸及び/又はその誘導体とを反応して得られる脂肪族ポリエステル、並びにポリ(オキシカルボン酸)から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ポリエステル系樹脂。
(B):重量平均分子量が1,000〜100,000の高分子分散剤。
(C):セルロース系繊維。
【請求項2】
上記高分子分散剤(B)は、下記の(a)成分10〜80モル%、及び(b)成分90〜20%を含む単量体混合物を共重合して得られる共重合体又はその中和物である請求項1に記載の繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
(a)成分:下記の式(1)で示される単量体。
【化1】

(上記式中、Rは、H又はCH、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基又はヒドロキシ置換アルキレン基、RとRは、H又は炭素数1〜4のアルキル基、Eは、O又はNHである。)
(b)成分:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル。
【請求項3】
上記高分子分散剤(B)は、下記の(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を含む単量体混合物を共重合して得られる共重合体又はその中和物であり、上記の(a)成分、(b)成分及び(c)成分の混合比は、下記の条件(i)及び条件(ii)を満たすものである請求項1に記載の繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
(a)成分:下記の式(1)で示される単量体。
【化2】

(上記式中、Rは、H又はCH、Rは、炭素数1〜4のアルキレン基又はヒドロキシ置換アルキレン基、RとRは、H又は炭素数1〜4のアルキル基、Eは、O又はNHである。)
(b)成分:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル。
(c)成分:α、β−不飽和カルボン酸。
条件(i):(a)成分<(c)成分 (単位:モル%)。
条件(ii):(a)成分+(b)成分が10〜90モル%、かつ、(c)成分が90〜10モル%。
【請求項4】
上記高分子分散剤(B)は、下記の(b)成分及び(c)成分のみからなる単量体混合物を共重合して得られる共重合体又はその中和物であり、上記の(b)成分及び(c)成分の組成比は、(b)成分/(c)成分=90〜20/10〜80(単位:モル%)(ただし、両者の合計は100モル%である。)である請求項1に記載の繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
(b)成分:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル。
(c)成分:α、β−不飽和カルボン酸。
【請求項5】
下記の高分子分散剤(B)1〜20重量部、及びセルロース系繊維(C)98〜1重量部を混合し、次いで、これに下記の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)1〜99重量部を混練する繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
(A):脂肪族ジオールと、脂肪族ジカルボン酸及び/又はその誘導体とを反応して得られる脂肪族ポリエステル、並びにポリ(オキシカルボン酸)から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ポリエステル系樹脂。
(B):重量平均分子量が1,000〜100,000の高分子分散剤。
(C):セルロース系繊維。
【請求項6】
上記の混練は、ロールミル、ニーダー、押出機、インクロール、及びバンバリーミキサーから選ばれる混練機を用いて行われる、請求項5に記載の繊維含有脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−138024(P2009−138024A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312479(P2007−312479)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】