説明

繊維強化プラスチック成形体の製造装置

【課題】最表面樹脂の厚みを迅速に均一に制御することのできるFRP成形体の製造装置を提供する。
【解決手段】回転体50を所定の速度で回転させる回転部53と、回転体50に樹脂含浸繊維Fを複数層巻き付ける巻付部40と、を備えた繊維強化プラスチック成形体の製造装置1を提供する。回転部53は、樹脂含浸繊維Fの巻き付け後に、回転体50を巻き付け時よりも高速回転させ、樹脂含浸繊維Fの最表面の樹脂511の少なくとも一部を回転体50から飛散させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック成形体の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システム等に用いられる高圧ガスを貯蔵するタンクの開発が進んでいる。特に、車載用の燃料電池システムにおいては、強度の確保や軽量化等の観点から繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;以下、「FRP」という)タンクが有力視されている。
【0003】
FRPタンク等のFRP成形体は、例えば、フィラメント・ワインディング法(以下、「FW法」という)を用いて製造される。FW法においては、熱硬化性樹脂を含浸させた樹脂含浸繊維を回転体の周囲に数層から数十層巻きつけたのち加熱して樹脂を熱硬化させる。これにより、FRP成形体を形成する。
【0004】
FW法においては、樹脂含浸繊維巻き付け後に回転体の最表面に形成される樹脂(以下、「最表面樹脂」ともいう)の厚さの管理が問題となる。すなわち、最表面樹脂にばらつきがあれば、FRP成形体の外径や重量にばらつきが生じてしまうし、また、最表面樹脂の厚みが大きくなると、FRP成形体が白濁するといった現象も生じてしまう。そこで、例えば、特許文献1では、FRP円筒の表面に付着した余剰樹脂を吸収材やスクレーバー等の除去手段で除去した後、硬化成形する技術が提案されている。
【特許文献1】特開平10−278119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、円筒表面の樹脂を、吸収材やスクレーバー等を全表面にわたって移動させて除去していく必要があるため、除去に時間がかかってしまうし、また、この除去によって厚みにムラが生じてしまうこともある。さらには、除去手段が、樹脂含浸繊維に接触することで、繊維にダメージを与える虞もある。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、最表面樹脂の厚みを迅速に均一に制御することのできるFRP成形体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、回転体を所定の速度で回転させる回転部と、前記回転体に樹脂含浸繊維を複数層巻き付ける巻付部と、を備え、前記回転部は、前記樹脂含浸繊維の巻き付け後に、前記回転体を巻き付け時よりも高速回転させ、該樹脂含浸繊維の最表面の樹脂の少なくとも一部を該回転体から飛散させることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造装置を構成する。
【0008】
この構成によれば、最表面樹脂全面にわたって遠心力を均一にかけることができるので、全表面において樹脂を均一に飛散させることができる。これにより、最表面樹脂の厚さを迅速に均一にすることができる。またこのように高速回転により樹脂を飛散させることで、繊維へのダメージを抑えつつ最表面樹脂の厚みを薄くすることができる。
【0009】
また、上記構成において、前記樹脂含浸繊維の巻き付け後に前記回転体の周囲の温度を所定温度まで上昇させる温度管理部をさらに有し、前記回転部は、前記回転体の周囲の温度が前記所定温度まで上昇してから一定時間経過後に、前記高速回転を開始するようにしてもよい。
【0010】
上記構成により、回転体の周囲の温度を所定温度に上昇させることで、最表面樹脂の粘度を下げることができ樹脂が飛散しやすくなる。しかも、所定温度に達してから一定時間経過後に高速回転が開始されるので、最表面樹脂の全面で粘度が均一になった状態で、樹脂を飛散させることができる。これにより、最表面樹脂の全面に渡って厚みをより均一にすることができる。
【0011】
また、上記構成において、前記高速回転の速度と前記所定温度とをともに調整することで前記樹脂の飛散量を制御するようにしてもよい。
【0012】
上記構成により、最表面樹脂にかかる遠心力と、最表面樹脂の粘性による付着力とをともに調整することができ、樹脂の飛散量ひいては最表面樹脂の厚みをより精密に調整することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、最表面樹脂の厚みを迅速に均一に制御することのできるFRP成形体の製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るFRP成形体の製造装置及び製造方法について説明する。尚、各図面において、同一の部品には同一の符号を付している。
【0015】
(FRP成形体の製造装置)
はじめに、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係るFRP成形体の製造装置1について説明する。ここで、図1は、FRP成形体の製造装置を示す模式図である。製造装置1は、フィラメント・ワインディング(FW)法により回転部材の周囲に繊維強化プラスチック(FRP)層を形成する装置であり、繊維束供給部10と、張力測定器20と、樹脂含浸部30と、繊維束ガイド(アイロ)40と、回転体50と、温度管理部60と、制御部70とを備えている。
【0016】
繊維束供給部10には、繊維束f1〜f3が巻き付けられた複数(図1においては3つ)のボビン11a〜11cが備えられている。繊維束f1〜f3としては、本実施形態においては、カーボン繊維を用いる。繊維束供給部10は、繊維束f1〜f3の張力を調整して張力測定器20に送り出す。
【0017】
張力測定器20は、繊維束f1〜f3の張力を測定し、その測定結果を制御部70に出力する。
【0018】
樹脂含浸部30は、未硬化の状態(液体又はゲル状)の熱硬化性の樹脂が貯留された樹脂槽31と、繊維束f1〜f3を樹脂槽31の所定の位置に案内するローラ32〜34とを備えており、繊維束f1〜f3に樹脂槽31内の樹脂を含浸させる。熱硬化性の樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。尚樹脂槽31内の温度は制御部70からの指令により適宜設定可能となっている。
【0019】
繊維束ガイド40は、樹脂を含浸した繊維束f1〜f3を1つに束ねることにより繊維束Fを形成し、これを回転体50に案内する。繊維束ガイド40は、回転体50の長手方向及びそれに垂直な方向に往復可能であり、且つ、回転体50に対する角度を変更できるように回転可能な状態で設置されている。
【0020】
回転体50は、円筒状の胴体部と、該胴体部の両端部に設けられたドーム状の口金部(肩部)とから構成されており、金属や、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の硬質樹脂によって形成されている。本実施の形態においては、回転体50は、高圧ガスタンク用のライナであり、例えば、内部に燃料ガスとしての圧縮天然ガスや水素ガス等を貯蔵し、燃料電池車の燃料電池システムの一部を構成する。
【0021】
回転体50は、その軸心を中心に回転可能となるように、支持部52を介して回転駆動部53に取り付けられている。回転駆動部53は可変速モータを有しており、このモータによって回転体50を回転駆動する。回転体50の回転速度は、制御部70からの指令により自在に調整可能である。回転体50には、繊維束Fが所定のパターンで巻き付けられ、複数層からなる樹脂含浸繊維層51が形成される。繊維束Fの巻き方(パターン)については特に限定されず、例えば、フープ巻きやヘリカル巻きや、それらを組み合わせた巻き方であってもよい。加圧ポンプ54は、樹脂含浸繊維層51の形成中に回転体50が凹むのを防ぐために、回転体50の内部を加圧する。
【0022】
温度管理部60は、回転体50周囲の温度を管理する。すなわち、回転体50周囲の温度を測定し、予め設定された温度または制御部70から入力される温度と差異がある場合は、例えば温風や冷風を循環させることで、また例えばヒーターの温度を調整することで、当該差異をなくすようにする。これにより、温度管理部60は、回転体50の周囲の温度を所望の温度で均一に保つ。
【0023】
制御部70は、製造装置1の運転を制御するプログラム及びユーザからの指令が入力される入力部を備えている。制御部70は、このプログラム及び/またはユーザからの指令に従って、例えば、繊維束供給部10の供給、張力測定器20の張力測定、樹脂含浸部30の槽内温度、繊維束ガイド40の位置、回転体50の回転スピード、温度管理部60の温度管理等、製造装置1全体を制御するようになっている。
【0024】
(最表面樹脂の厚み管理)
次に、上記FRP成形体の製造装置1を用いた繊維滑り防止処理について、図2を用いて詳細に説明する。ここで、図2(A)、(B)は、本発明の実施の形態に係る最表面樹脂の厚み管理を説明する模式図である。より詳細には、図2(A)は、回転体の軸方向断面の模式図であり、図2(B)は、図2(A)の回転体の要部拡大図である。
【0025】
製造装置1による繊維束Fの巻き付けが終了すると、温度管理部60は、回転体50の周囲の温度を繊維束Fの巻き付け時よりも高い所定温度まで上昇させる。この所定温度は、樹脂の粘度を低下させるのに十分に高い温度であって、かつ熱硬化性樹脂の硬化温度未満において適宜決定される。例えば、樹脂の硬化温度が130℃〜150℃のとき、所定温度は、80℃〜100℃で設定される。
【0026】
回転体50の周囲の温度が所定の温度に達してから一定時間経過後、回転体50の高速回転を開始する。一定時間の経過を待つことで樹脂含浸繊維層51の最表面樹脂の温度を均一とし、これにより最表面樹脂の粘度を全表面に渡って均一とする。この状態で高速回転が開始される。
【0027】
回転体50の高速回転は、回転駆動部53の可変速モータの回転速度を大きくすることで行う。この回転速度は、繊維束Fの巻き付け時の回転速度よりも大きくかつ最表面樹脂を飛散させるのに十分に大きな速度であって、例えば、30rpm〜1500rpm、より好ましくは、150rpm〜1000rpmの範囲で適宜設定される。これにより、図2(A)に模式的に示すように最表面樹脂511の一部を樹脂含浸繊維層51から飛散させる。
【0028】
回転体50の高速回転は、図2(B)に示すように複数層の繊維及び未硬化樹脂510上の最表面樹脂511が、均一にかつ所定の厚み(例えば、0.3mm以下等)になるまで行う。最表面樹脂511の厚みは、高速回転による遠心力Aと樹脂の粘性による付着力Bとのバランスで決定される。そのため、所望の最表面樹脂511の厚みを得るために、回転体50の回転速度、時間の制御(遠心力Aの調整)及び温度管理部60における昇温(樹脂の粘性による付着力Bの調整)をともに行う。この回転速度、時間、温度等は、予め制御部70にて、所定の条件毎に過去の計測等に基づいてデータベースとして記憶しておいてもよい。このデータベースは随時更新するようにしてもよい。
【0029】
これにより、最表面樹脂511の一部が飛散し、全表面に渡って均一かつ所望の厚みの最表面樹脂511を得ることができる。尚、この後、回転体50は、加熱炉(図示せず)等により所定温度で過熱される。これにより、樹脂含浸繊維層51の樹脂が硬化され、FRPタンクが形成される。FRPタンクは、例えば、各種移動体や定置型の燃料電池システム等において、水素ガスや圧縮天然ガス等を貯蔵する高圧タンクとして好適に用いることができる。
【0030】
本実施の形態によれば、最表面樹脂全面にわたって遠心力を均一にかけることができるので、全表面において樹脂を均一に飛散させることができる。これにより、最表面樹脂の厚さを迅速に均一にすることができる。またこのように高速回転により樹脂を飛散させることで、繊維へのダメージを抑えつつ最表面樹脂の厚みを薄くすることができる。特に、最表面樹脂にかかる遠心力と、最表面樹脂の粘性による付着力を、回転体50の回転速度、時間及び温度管理部60の昇温によりともに調整することができるので、樹脂の飛散量ひいては最表面樹脂の厚みを精密に調整することができる。
【0031】
尚、本実施の形態による上記効果は、以下のような場合に特に効果がある。すなわち(1)巻き付け時における繊維束Fの樹脂含有率を、ボイド低減のために、最終製品の樹脂体積含有率よりも高くしている場合、(2)樹脂含浸部30の性能により、樹脂含繊維の樹脂含浸量にばらつきが生じやすい場合等である。
【0032】
以上本発明の実施形態を示したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な態様での実施が可能である。例えば、上記実施の形態では、樹脂含浸部30にて樹脂を含浸させた繊維束Fを回転体50に巻きつけた場合を例に挙げて説明したが、これに限られるものではなく、予め樹脂を含浸させた繊維(プリプレグ)を繊維束Fとして用いた場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】FRP成形体の製造装置示す模式図。
【図2】(A)、(B)は、最表面樹脂の厚み管理を説明する模式図。
【符号の説明】
【0034】
1……FRP成形体の製造装置、10……繊維束供給部、11a……ボビン、11b……ボビン、11c……ボビン、20……張力測定器、30……樹脂含浸部、31……樹脂槽、32……ローラ、33……ローラ、34……ローラ、40……繊維束ガイド、50……回転体、51……樹脂含浸繊維層、510……表面樹脂、511……樹脂除去部、52……支持部、53……回転駆動部、54……加圧ポンプ、60……温度管理部、70……制御部、f1…繊維束、f2…繊維束、f3…繊維束、F…繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を所定の速度で回転させる回転部と、
前記回転体に樹脂含浸繊維を複数層巻き付ける巻付部と、を備え、
前記回転部は、前記樹脂含浸繊維の巻き付け後に、前記回転体を巻き付け時よりも高速回転させ、該樹脂含浸繊維の最表面の樹脂の少なくとも一部を該回転体から飛散させることを特徴とする繊維強化プラスチック成形体の製造装置。
【請求項2】
前記樹脂含浸繊維の巻き付け後に前記回転体の周囲の温度を所定温度まで上昇させる温度管理部をさらに有し、
前記回転部は、前記回転体の周囲の温度が前記所定温度まで上昇してから一定時間経過後に、前記高速回転を開始することを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記高速回転の速度と前記所定温度とをともに調整することで前記樹脂の飛散量を制御する請求項2に記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−274305(P2009−274305A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126960(P2008−126960)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】