説明

繊維強化樹脂硬化物の評価方法

【課題】繊維強化樹脂硬化物の繊維への樹脂含浸状態を簡単に外観で評価することができる繊維強化樹脂硬化物の評価方法を提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂硬化物の繊維への樹脂含浸状態の評価方法であって、繊維強化樹脂硬化物を超音波を印加した水中に浸漬する工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂硬化物の繊維への樹脂含浸状態を評価する評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂硬化物は、繊維への樹脂の含浸が不十分であることが原因で、樹脂と繊維の界面に水が入り込み、劣化を促すことが知られている。そこで従来、繊維強化樹脂硬化物の繊維への樹脂含浸状態を評価する方法としては、サンプルを切断して切断面を顕微鏡等で観察して含浸状態の評価をおこなっていた。
【0003】
この評価方法によれば、サンプルの微小部分のみの観察となることから、サンプル全体の評価が難しく信頼性にかけるという問題があった。
【0004】
この問題に対し、プリプレグ等のBステージ状態のものを樹脂軟化温度に保ち、その時点のボイドを測定して評価する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この方法によれば、Bステージでの評価であるため、成形品とした場合には成形条件等を原因とする含浸不良の発見ができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−271441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解消して、繊維強化樹脂硬化物の繊維への樹脂含浸状態を簡単に外観で評価することができる繊維強化樹脂硬化物の評価方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0009】
第1に、繊維強化樹脂硬化物の繊維への樹脂含浸状態の評価方法であって、繊維強化樹脂硬化物を、超音波を印加した水中に浸漬する工程を有する。
【0010】
第2に、上記第1の繊維強化樹脂硬化物の評価方法において、超音波を印加する水が、イオン交換水または純水である。
【発明の効果】
【0011】
上記第1の発明によれば、繊維強化樹脂硬化物の繊維への樹脂含浸状態の評価方法として、繊維強化樹脂硬化物を超音波を印加した水中に浸漬する工程を有しているので、簡単に正確な繊維強化樹脂硬化物の評価をおこなうことができる。
【0012】
上記第2の発明によれば、本発明の繊維強化樹脂硬化物の評価方法において、超音波を印加する水として、イオン交換水または純水を用いるので、通常の水に見られる、水中の溶解成分等の固着による汚れの発生がなく、浸透の阻害を防止することができ、樹脂と繊維の界面に水を確実に浸透させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例のサンプルAの外観写真である。
【図2】実施例のサンプルBの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
本発明の繊維強化樹脂硬化物の評価方法は、繊維強化樹脂硬化物の繊維に対する樹脂含浸状態を評価する方法であって、水に繊維強化樹脂硬化物を浸漬し、所定の時間水に超音波を印加した後、繊維強化樹脂硬化物の表面を目視により観察することにより評価することができるものである。
【0016】
これは、繊維強化樹脂硬化物の樹脂と繊維の含浸に不具合がある場合、これに対し超音波を印加した水を繊維強化樹脂硬化物に作用させることにより、樹脂と繊維の界面に水が浸透して繊維周辺の樹脂が超音波のキャビテーションで破壊されると考えられ、その結果繊維強化樹脂硬化物表面に繊維が浮き出すことで評価できるものであり、樹脂と繊維の含浸が良好な場合には繊維の浮き出しは観察されにくい。
【0017】
本発明の繊維強化樹脂硬化物の評価方法で、水に超音波を印加する方法には超音波洗浄器を用いることができる。この超音波洗浄器としては、通常一般の超音波洗浄器を用いることができ、圧電振動子からなる超音波発振子を有する超音波洗浄器を好適に用いることができる。
【0018】
本発明の繊維強化樹脂硬化物の評価方法において、上記超音波洗浄器の周波数設定値は、繊維強化樹脂硬化物サンプルの状態、大きさ等により適宜選択することができるが、通常20〜170kHz、好ましくは28〜50kHzの範囲である。
【0019】
本発明の評価方法の原理が上記の通りであるため、樹脂と繊維の界面に空洞がある場合には強制的に水を浸透させるために、印加する超音波の周波数は比較的低いほうがキャビテーションが起こりやすいため好ましい。
【0020】
また、超音波を印加する水の水温は適宜選択して設定することができるが、通常40〜60℃の範囲である。水温が40℃未満であると、繊維の浮き出しが観察されるまでの時間が長くなるため評価に時間がかかり、水温が60℃を超えると、水の蒸発等で連続評価するのに、水の追加等の手間がかかる。
【0021】
また、超音波の印加時間は、繊維強化樹脂硬化物サンプルの状態、大きさ等により適宜選択することができるが、通常6〜72時間である。印加時間が6時間より短いと、樹脂と繊維の界面に水が浸透せず、正確な評価がしにくい。また、72時間より長いと樹脂と繊維の含浸が良好なサンプル表面に対してもダメージを与えてしまい、正確な評価がしにくい。
【0022】
本発明の繊維強化樹脂硬化物の評価方法において超音波を印加する水は、通常一般の水を用いることができるが、好ましくはイオン交換水、より好ましくは純水を用いることができる。これは、繊維強化樹脂硬化物を水に浸漬して超音波を印加する際に、水中の不純物等の溶解成分が繊維強化樹脂硬化物表面に付着し、浸透を阻害するのを避けることが目的であり、正確な評価結果を得るために有効となるからである。
【0023】
本発明の繊維強化樹脂硬化物の評価方法において、評価の対象となる繊維強化樹脂硬化物としては、一般に公知の繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)、即ち、繊維をプラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料の硬化物であれば特に制限なく評価することが可能であり、その中でも、不飽和ポリエステル樹脂をガラス繊維に含浸させて強化したシート状の成形材料であるSMC(Sheet Moulding Compound)を用いて成形した繊維強化樹脂硬化物に最も適した評価方法である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0025】
実施例のサンプルとして以下に示すものを用いた。
<サンプルA>
樹脂:不飽和ポリエステル樹脂 昭和高分子社製、品番M407 27質量部
硬化剤:化薬アクゾ社製、品名カヤカルボンBIC-75 0.3質量部
充填材:炭酸カルシウム 日東粉化社製、品番NS#100 57質量部
ガラス繊維:セントラル硝子社製、品番ERS4620−313 25質量部
硬化条件:145℃で加圧成形
形状:50mm×50mm×50mm(端面処理なし)
サンプルAのガラス繊維への樹脂含浸状態の顕微鏡観察結果を表1に示す。
<サンプルB>
ガラス繊維を15質量部配合したこと以外は、サンプルAと同様に配合し、同様に硬化させた。
形状:50mm×50mm×50mm(端面処理なし)
サンプルBのガラス繊維への樹脂含浸状態の顕微鏡観察結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
<超音波印加条件>
超音波洗浄器を以下の条件に設定して、上記<サンプルA>及び<サンプルB>の表面を下に向けて超音波を印加して繊維に対する樹脂含浸状態の評価をおこなった。
超音波洗浄器:アズワン社製、ULTRASONIC CLEANER USK−2R
周波数:40kHz
水温:60℃
周波数印加時間:60時間
<評価方法>
上記周波数印加時間でサンプルA、Bを超音波洗浄器から取り出し、表面の状態を目視により評価した。サンプルAの外観写真を図1に、サンプルBの外観写真を図2に示す。
<評価結果>
サンプルAの外観写真図1では、硬化物表面にガラス繊維が浮き出している。これに対し、サンプルBの外観写真図2では硬化物表面にむらが生じていない。超音波印加前の顕微鏡観察結果(表1)ではサンプルAにはガラス繊維中に空洞があり、樹脂が繊維に含浸していなかったため、超音波印加後に繊維が浮き出す結果が得られた。一方サンプルBには樹脂が繊維にしっかりと含浸されていたため、超音波印加後にも表面に繊維の浮き出しは観察されずむらが生じなかった。
【0028】
以上の結果より、本発明の繊維強化樹脂硬化物の評価方法が有効であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂硬化物の繊維への樹脂含浸状態の評価方法であって、繊維強化樹脂硬化物を、超音波を印加した水中に浸漬する工程を有することを特徴とする繊維強化樹脂硬化物の評価方法。
【請求項2】
超音波を印加する水が、イオン交換水または純水であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂硬化物の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−128126(P2011−128126A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289853(P2009−289853)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】