説明

繊維材料の染色方法と染色物

【課題】昨今、環境保全が叫ばれる中、堅牢度を増す為に使われている化学染料使用はあまり好ましい方法ではないので、従来建築用の塗料として使われていたベンガラ塗料を繊維材料の染色方法とその染色物を提供する。
【解決手段】各種被染色繊維材料を、浴比1:10〜20のアルカリ水溶液を使い80〜100℃の温度で30〜60分前処理した後、前記被染色繊維材料をバインダーとして作用する固着剤及び撥水作用をする定着仕上剤を用いて鉱物色素により染色する繊維材料の染色方法とその染色物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、綿、麻、レーヨン、シルク,ウール、抄繊糸などの繊維材料や繊維製品を固着剤を用いて鉱物色素により染色する繊維材料の染色方法と染色物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維材料の染色方法として数多くの提案がされている。例えば、特許文献1のように被染色繊維材料に対して、染料との電荷数の3以上にプラスイオン化して染料を染着させるプラスイオン化物質と化学染料と天然染料を併用することにより多彩な色調を出す方法がある。
【0003】
【特許文献1】特開2005−36335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示されている方法は、プラスイオン化する工程が必要とされるのと、昨今、環境保全が叫ばれる中、堅牢度を増す為に使われている化学染料と天然染料の併用はあまり好ましい方法ではない。
【0005】
本発明の目的は、上記問題点を解消し、ベンガラ等の天然染料や天然固着剤のみの材料で各種堅牢度に遜色ない繊維材料の染色方法と、その染色物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維材料の染色方法は、各種被染色繊維材料を、浴比1:10〜20のアルカリ水溶液を使い80〜100℃の温度で30〜60分前処理した後、前記被染色繊維材料をバインダーとして作用する固着剤及び撥水作用をする定着仕上剤を用いて鉱物色素により染色することを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明の繊維材料の染色方法におけるアルカリ水溶液が、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、過酸化水素からなる群より選ばれた1又は2種以上を含むアルカリ水溶液であることを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明の繊維材料の染色方法における固着剤による各種被染色繊維材料の処理が鉱物色素で前記被染色繊維材料を染色する前もしくは後、又は前後或いは染色中に行われることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の繊維材料の染色方法における固着剤がカゼイン、豆汁、菜種油、松脂、タンニン酸、灰汁から選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の繊維材料の染色方法における定着仕上剤による被染色繊維材料又は製品の処理が鉱物色素で前記被染色繊維材料又は製品を染色する前もしくは後、又は前後或いは染色中に行われることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の繊維材料の染色方法における定着仕上剤が有機系珪素化合物、非イオン活性剤、水からなる化合物であることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の繊維材料の染色方法における鉱物色素が0.1〜1.0μmの粒径に微粉化したベンガラ、酸化チタンを1種又は2種以上粉末の状態で混合した物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の染色物は、各種被染色繊維材料を、浴比1:10〜20のアルカリ水溶液を使い80〜100℃の温度で30〜60分前処理した後、前記被染色繊維材料をバインダーとして作用する固着剤及び撥水作用をする定着仕上剤を用いて鉱物色素により染色する方法でできたことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の染色物に用いる鉱物染料はベンガラのみまたは酸化チタンのみを使用することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の染色物に用いる鉱物染料はベンガラと酸化チタンとを適当量混合すること調合、使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の繊維材料の染色方法及び染色物によれば、従来建築用の塗料として使われていたベンガラ塗料を繊維材料の染色に使用することが可能となった。しかも、化学染料や化学樹脂を使用することなく、従来の草木染めやハニ染めによる染色物と遜色のない堅牢度を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
先ず、本発明の繊維材料の染色方法は、各種被染色繊維材料を、浴比1:10〜20のアルカリ水溶液を使い80〜100℃の温度で30〜60分前処理した後、前記被染色繊維材料をバインダーとして作用する固着剤及び撥水作用をする定着仕上剤を用いて鉱物色素により染色するものである。このようにアルカリ水溶液で前処理することによりワックス分、ペクチン質等の天然の不純物及び夾雑物が除去されて親水性になる。
【0018】
鉱物色素は粒径0.1〜1.0μmに微粉化したベンガラまたは酸化チタンを1種又は2種以上粉末の状態で混合した物を使用するが、0.3μm以下に微粉化することが望ましい。
【0019】
固着剤としては従来、豆汁を使用する方法が一般的であるが、本発明ではカゼインと、菜種油、松脂を調合し、被染色繊維材料にしなやかさを持たせることが出来た。
【0020】
定着仕上剤には、アクリル樹脂を使用する方法で堅牢度を増す事も一般的には可能であるが、本発明では、天然素材にこだわり、有機系珪素化合物、非イオン活性剤を使用する事により、被染色繊維材料の風合いを自然な状態に留めることが出来た。
【実施例】
【0021】
被染色繊維材料として綿繊維を選定して染色した。まず、綿繊維を高級アルコール系洗剤の水溶液(浴比1:10)に入れ、100℃の温度で30分間前処理を実施した。
【0022】
その後、綿繊維の重量比で1/10の0.1〜0.3μmに粉砕したベンガラのみ又は酸化チタンのみ又はそれを混合したもの(下記実施例1乃至4)とその重量の1/10のカゼインを100℃の熱湯中で混合し、その中へ綿繊維を浸けて、よくもみ上げて固く絞って乾燥するなどの処理を実施した。
【0023】
実施例1は赤褐色でベンガラ100%の染料であり、実施例2は黄土色でベンガラ100%の染料であり、実施例3は白色で酸化チタン100%の染料であり、そして実施例4は黒灰色でベンガラ50%と酸化チタン50%とを混合したものである。
【0024】
上記染色して乾燥させた染色物を、有機系珪素化合物を含んだ水溶液に20〜30分浸漬して染料を定着させた後、乾燥させ水洗した。
【0025】
また、比較のためにピンクの色で草木染め(ハイビスカス)を比較例1とし、グリーンの色で草木染め(クマザサ)を比較例2とした。この草木染めは酸性染料などの化学染料との組み合わせにより染色された物である。さらに、グレーの色でハニ染め(磁鉄鉱)を比較例3とし、ブラウンの色でハニ染めを比較例4(褐鉄鉱)とした。このハニ染めは天然鉱石を染料とした泥染めの一種である。なお、これらの比較例についても上記実施例1乃至4と同様な前処理を実施した。
【0026】
このようにして染色した綿繊維を10%、未染色の綿原料90%で混紡したカード糸を紡績し、靴下編みした試料について、耐光堅牢度、洗濯堅牢度、汗堅牢度について調査した結果を表1に示す。
【0027】
なお、耐光堅牢度については、JIS―L―0842の「4級および3級」に準じて、
洗濯堅牢度につては、JIS―L―0844の「A―2号」に準じて、および汗堅牢度については、JIS―L―0848の「酸、アルカリ」に準じて、それぞれ試験した。
【0028】
【表1】

【0029】
この結果、本発明の実施例は天然染料や天然固着剤のみの材料で耐光堅牢度、洗濯堅牢度および汗堅牢度において比較例と遜色ない染色物が出来た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種被染色繊維材料を、浴比1:10〜20のアルカリ水溶液を使い80〜100℃の温度で30〜60分前処理した後、前記被染色繊維材料をバインダーとして作用する固着剤及び撥水作用をする定着仕上剤を用いて鉱物色素により染色することを特徴とする繊維材料の染色方法。
【請求項2】
前記アルカリ水溶液が、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、過酸化水素からなる群より選ばれた1種又は2種以上を含むアルカリ水溶液であることを特徴とする請求項1記載の繊維材料の染色方法。
【請求項3】
前記固着剤による各種被染色繊維材料の処理が鉱物色素で前記被染色繊維材料を染色する前もしくは後、又は前後或いは染色中に行われることを特徴とする請求項1または2記載の繊維材料の染色方法。
【請求項4】
前記固着剤がカゼイン、豆汁、菜種油、松脂、タンニン酸、灰汁から選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の繊維材料の染色方法。
【請求項5】
前記定着仕上剤による被染色繊維材料又は製品の処理が鉱物色素で前記被染色繊維材料又は製品を染色する前もしくは後、又は前後或いは染色中に行われることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の繊維材料の染色方法。
【請求項6】
前記定着仕上剤が有機系珪素化合物、非イオン活性剤、水からなる化合物であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の繊維材料の染色方法。
【請求項7】
前記鉱物色素が0.1〜1.0μmの粒径に微粉化したベンガラ、酸化チタンを1種又は2種以上粉末の状態で混合した物であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の繊維材料の染色方法。
【請求項8】
前記各種被染色繊維材料を、浴比1:10〜20のアルカリ水溶液を使い80〜100℃の温度で30〜60分前処理した後、前記被染色繊維材料をバインダーとして作用する固着剤及び撥水作用をする定着仕上剤を用いて鉱物色素により染色する方法でできたことを特徴とする染色物。
【請求項9】
前記鉱物染料はベンガラのみまたは酸化チタンのみを使用することを特徴とする請求項8に記載の染色物。
【請求項10】
前記鉱物染料はベンガラと酸化チタンとを適当量混合することを特徴とする請求項9に記載の染色物。

【公開番号】特開2008−115483(P2008−115483A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297509(P2006−297509)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(595119866)大正紡績株式会社 (2)
【出願人】(502352210)ナカジマ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】