説明

繊維構造物およびその製造方法

【課題】 繰り返し洗濯を100回行っても優れた撥水撥油性を保持しうる繊維構造物とその製造方法とを提供する。
【解決手段】 フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する処理剤が付着している繊維構造物である。この繊維構造物の製造に際しては、フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する処理液で原布を処理した後、熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、撥水性を有する繊維構造物を得る方法として、フッ素系撥水剤を用いて処理することが知られている。しかし、この方法は、合成繊維からなる繊維構造物に対しては有効であるが、セルロース系繊維からなる繊維構造物に対しては十分でないという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1においては、セルロース系繊維材料を、このセルロース系繊維材料の持つ水酸基と反応する化合物で処理することで、繊維材料の表面の親水性を小さくして疎水化した後に、フッ素系撥水剤で処理することで、セルロース繊維材料に撥水性を付与する方法が開示されている。
【0004】
さらに、最近では、多目的用途に対応すべく、撥水性と共に撥油性をも具備する繊維構造物が要望されている。
そこで、特許文献2においては、水性ポリイソシアネート、フッ素系撥水撥油剤および酸もしくはエステル化合物を含有する処理液で繊維製品を加工することで、撥水撥油性を有する繊維製品を得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−20570号公報
【特許文献2】特開2004−300630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術においては、セルロース繊維材料に撥水性しか付与できないという問題がある。さらに、特許文献1、2の何れの技術においても、洗濯を数十回繰り返すと洗濯耐久性が低減するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解消するものであり、繰り返し洗濯を100回行っても優れた撥水撥油性を保持しうる繊維構造物とその製造方法とを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の繊維構造物は、フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する処理剤が付着していることを特徴とする。
【0008】
本発明の繊維構造物によれば、上記において、フッ素系撥水撥油剤の分子の側鎖が一方向に配向していることが好適である。
また本発明によれば、上記の繊維構造物がセルロース系繊維にて構成されていることが好適である。
【0009】
本発明の繊維構造物によれば、上記において、JIS L−0217の103法による洗濯を100回繰り返した後における、JIS L−1092法による撥水性が3級以上、かつ、AATCC 118法による撥油性が5級以上であることが好適である。
【0010】
本発明の繊維構造物の製造方法は、フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する処理液で原布を処理した後、熱処理するものである。
【0011】
本発明によれば、上記の方法において、130〜190℃、0.5〜5分間の条件で熱処理することが好適である。
本発明の、繊維構造物に撥水撥油性を付与するための処理液は、フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維構造物は、フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する処理剤が付着しているため、フッ素系撥水撥油剤によって撥水撥油性を発揮することができ、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物によって繊維の表面の親水性を小さくして疎水化することで、フッ素系撥水撥油剤による撥水撥油性を確実に繊維に付与することができ、またシランカップリング剤がフッ素系撥水撥油剤の分子中の架橋基と化学反応しかつイソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と化学反応することで洗濯耐久性を向上させることができる。
【0013】
本発明の繊維構造物は、上述のように洗濯耐久性に優れかつ撥水撥油性を有するものである。このため、アウトドアウエア、スポーツウエア、コート、ジャケット、パンツ、屋外作業用ユニホームなどの衣料分野、傘、カバン、テントなどの資材分野など多目的分野に供することができる。
【0014】
また、本発明の繊維構造物の製造方法および処理液によれば、そのような優れた繊維構造物を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の繊維構造物は、織物、編物、不織布、縫製品など、繊維から形成される構造物を対象とするものである。
【0016】
本発明の繊維構造物を形成しうる繊維としては、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維、トリアセテートなどの半合成繊維、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、綿、羊毛などの天然繊維をあげることができ、これらの単独からなる繊維または混合してなる繊維を用いることができる。中でも特に、多目的用途に展開が可能な点および風合いに優れる点から、セルロース系繊維を用いるのが好ましい。セルロース系繊維としては、綿、麻、竹、ビスコースレーヨン、ハイウェットモジュラスレーヨン、ポリノジック、溶剤紡糸セルロース繊維、銅アンモニアレーヨンなどがあげられる。
【0017】
本発明の繊維構造物は、上記した繊維に、フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する処理剤が付着しているものである。
【0018】
フッ素系撥水撥油剤としては、例えば、下記に示すような共重合体があげられる。
【0019】
【化1】

【0020】
この共重合体は、4種の構成単位からなる。すなわち、(i)各側鎖中に炭素数6以上20以下のパーフルオロアルキル基を含むアクリレート又はメタクリレート、(ii)各側鎖中に炭素数10以上26以下のアルキル基を含むアクリレート又はメタクリレート、(iii)側鎖中にメチロール基、エポキシ基、イソシアネート基の何れかの架橋基を含むアクリレート又はメタクリレート、(iv)塩化ビニルもしくは塩化ビニリデン、の4種の構成単位からなる。
【0021】
(i)の構成単位において、パーフルオロアルキル基の炭素数が6未満であると、目的とする撥水撥油性が得られにくい傾向にある。一方、20を超えると、パーフルオロアルキル基の配向が乱れて撥水撥油性が低下する傾向にある。
【0022】
(ii)の構成単位において、アルキル基の炭素数が10未満であると、側鎖の結晶化が促進されず、洗濯耐久性が乏しくなる傾向にある。一方、26を超えると、アルキル基の配向が乱れ、撥水撥油性が低下する傾向にある。
【0023】
(iii)の構成単位すなわちメチロール基、エポキシ基、イソシアネート基のような架橋基を有することで、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物、またはシランカップリング剤と強固に結合でき、洗濯耐久性が向上する。
【0024】
(iv)の構成単位すなわち塩化ビニルもしくは塩化ビニリデンを含むことで、繊維との親和性が向上する。
【0025】
イソシアネート基を有する化合物としては、脂肪族系、芳香族系の何れでも使用可能であるが、比較的反応速度の遅い脂肪族系の化合物を用いるのが好ましい。脂肪族系の化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビュウレット化ヘキサメチレンジイソシアネートなどがあげられる。
【0026】
ブロックドイソシアネート基を有する化合物としては、上記のイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基を予めブロック剤で封鎖した化合物があげられる。ブロック剤としては、一定の温度で解離するものであれば特に限定されるものではないが、ラクタム系、活性メチレン系、オキシム系、第二級芳香族アミン系、芳香族メルカプタン系、フェノール系、低級アルコール系などがあげられる。上記のイソシアネート基を有する化合物は、反応性に富み、水中でも容易に化学反応するため、本発明では、ブロックドイソシアネート基を有する化合物を用いる方がより好ましい。
【0027】
ここで、上記した脂肪族系の化合物を用いるのが好ましい理由は、定かではないが、本発明者らは、以下のように推測している。すなわち、まず、原布(本発明の繊維構造物を製造するために供される繊維構造物)を処理液で処理した後の熱処理(詳細は後述する)において、図1に示すようにフッ素系撥水撥油剤の分子がその主鎖が繊維分子と並行となるように配され、かつ分子中のパーフルオロアルキル基(Rf基)を含む側鎖とアルキル基を含む側鎖とが、主鎖に対し、繊維分子と反対方向に配向し、架橋基を含む側鎖が、主鎖に対し繊維分子が配された方向に配向する。次いで、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物が前記架橋基と繊維分子との双方に化学反応することで、フッ素系撥水撥油剤と繊維とが連結されると推察される。
【0028】
シランカップリング剤としては、例えば次式のような一般式を有する化合物をあげることができる。
X………Si(OR)
(式中、Xとしては、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基などがあげられる。ORとしては、メトキシ基、エトキシ基などがあげられる。)
【0029】
このSiORは、処理液中で親水性のシラノール基(SiOH)となる。図1に示すように、このシラノール基の一部が、フッ素系撥水撥油剤の分子中の架橋基と化学反応し、かつイソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と化学反応して、洗濯耐久性が向上するとともに、フッ素系撥水撥油剤の分子中のパーフルオロアルキル基が残ったシラノール基がこれに反発して配向の度合いをより高めようとするため撥水撥油性が向上する。
【0030】
この様子を図2を用いて説明する。図2(a)は本発明の繊維構造物の機構の概略を示し、図2(b)は、このような本発明の機構を有しない従来の撥水性を備えた繊維構造物の機構の概略を示す。本発明の繊維構造物は、同図(a)に示すようにフッ素系撥水撥油剤の分子の側鎖が上述した反撥作用によって一方向に配向することで、洗濯耐久性に優れた撥水撥油性を発現する。これに対し、従来の繊維構造物は、同図(b)に示すように配向の度合いが低く、これにより側鎖の先端がもつれた状態となっているため、十分な撥水撥油性を発現することができない。
【0031】
この結果、本発明の繊維構造物は、JIS L−0217の103法による洗濯を100回繰り返した後のJIS L−1092法による撥水性を3級以上にすることができる。3級未満であると、多目的用途に供することが困難となる。
【0032】
さらに、本発明の繊維構造物は、AATCC 118法による撥油性を5級以上にすることができる。5級未満であると、多目的用途に供することが困難になる。
【0033】
次に、本発明の繊維構造物の製造方法を説明する。
【0034】
本発明の繊維構造物の製造方法においては、フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する処理液を用いる。処理液中には、必要に応じて、柔軟剤、帯電防止剤、防シワ剤、抗菌剤、防汚剤などが含有されていてもよい。
【0035】
各成分の使用量について説明すると、繊維布帛の質量を100質量部としたときに、これに対してフッ素系撥水撥油剤を固形分換算で1.25〜12.5質量部、イソシアネート系化合物を固形分換算で0.53〜10.5質量部、シランカップリング剤を固形分換算で0.5〜10質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0036】
このような処理液を用いて原布を処理する方法としては、浸漬法、スプレー法、パディング法などがあげられる。処理後は、80〜130℃の範囲で乾燥を行うのが好ましい。乾燥後は、130〜190℃の範囲で0.5〜5分間、好ましくは、150〜180℃で1〜4分間の熱処理熱処理を行うのがよい。
【0037】
熱処理温度が130℃よりも低温、または0.5分よりも短いと、洗濯耐久性が発現し難い傾向にあり、一方、190℃よりも高温、または5分よりも長いと、黄変や強度低下を引き起こしやすい傾向にある。
【実施例】
【0038】
次に本発明を実施例により具体的に説明する。以下の実施例、比較例における布帛の撥水性の測定はJIS L−1092(スプレー法)、撥油性の測定はAATCC 118、洗濯はJIS L−0217 103法にそれぞれ基づいて行った。
【0039】
(実施例1)
綿100質量%のブロード生地(経糸、緯糸ともに40番手単糸、150g/m)に、一般的な精練、漂白、染色を行い、本発明の繊維構造物を作製するための原布とした。
【0040】
この原布に、下記の処方1に示す処理液をピックアップ70%でパディングし、100℃で2分間乾燥した後、160℃で3分間熱処理して、本発明の繊維構造物を得た。
【0041】
〔処方1〕
・フッ素系撥水撥油剤(大原パラヂウム社製「パラガード823」、固形分17質量%):15質量%
・ブロックドイソシアネート(大原パラヂウム社製「パラキャットDGW」、固形分33質量%):5質量%
・シランカップリング剤(信越シリコーン社製「KBE−403」、固形分100質量%):2質量%
【0042】
(比較例1)
処方1からシランカップリング剤を省いた。そして、それ以外は実施例1と同様の方法にて、繊維構造物を得た。
【0043】
以上のようにして実施例1および比較例1で得られた繊維構造物の特性を下記の表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記表1に示される内容から明らかなように、実施例1の繊維構造物は、JIS L−0217の103法による洗濯を100回繰り返した後でさえも撥水性が5級、撥油性が6級と、洗濯耐久性に非常に優れていた。一方、比較例1の繊維構造物は、シランカップリング剤を含有しないものであったため、洗濯を50回繰り返した時点で撥水性が2級、撥油性が4級となり、100回繰り返した後では撥水性が1級、撥油性が3級と、洗濯耐久性が非常に乏しいものであった。
【0046】
以上のように、本発明の繊維構造物は、家庭洗濯を繰り返しても撥水性撥油性ともに実用範囲内ではほぼ低下することがないので、例えば衣料として用いることで快適な生活を送ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明にもとづく繊維分子とフッソ系撥水撥油剤分子との反応形態の概念図である。
【図2】本発明にもとづくシランカップリング剤の機能を示す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する処理剤が付着していることを特徴とする繊維構造物。
【請求項2】
フッ素系撥水撥油剤の分子の側鎖が一方向に配向していることを特徴とする請求項1記載の繊維構造物。
【請求項3】
セルロース系繊維にて構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の繊維構造物。
【請求項4】
JIS L−0217の103法による洗濯を100回繰り返した後における、JIS L−1092法による撥水性が3級以上、かつ、AATCC 118法による撥油性が5級以上であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の繊維構造物。
【請求項5】
フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有する処理液で原布を処理した後、熱処理することを特徴とする繊維構造物の製造方法。
【請求項6】
130〜190℃、0.5〜5分間の条件で熱処理することを特徴とする請求項5記載の繊維構造物の製造方法。
【請求項7】
繊維構造物に撥水撥油性を付与するための処理液であって、フッ素系撥水撥油剤と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有する化合物と、シランカップリング剤とを含有することを特徴とする処理液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−233339(P2006−233339A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44890(P2005−44890)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年12月20日 ユニチカテキスタイル株式会社がインターネットアドレス(http://www.unitika.co.jp/business/news/2004/041220.pdf)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年(平成16年)12月21日 「日本繊維新聞」、「繊研新聞」、「日刊工業新聞」、「化学工業日報」と株式会社大阪繊維研究社がインターネットアドレス(http://www.sen−i−news.co.jp/3.0/seek.asp?id=72799)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年(平成16年)12月22日 「センイ・ジヤァナル」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年(平成16年)12月24日 「日経産業新聞」に発表
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【Fターム(参考)】