説明

繊維機械

【課題】 口出し成功率が良好で糸継時間を短縮できる繊維機械を提供する。
【解決手段】 糸10の巻取部12を備えた糸処理部2と、この糸処理部2に対して糸継ぎする糸継部(糸継台車)3と、を備える。前記糸継部3は、糸継作業を行う糸継装置43と、巻取部12の巻取パッケージ45の表面に接近して糸端を吸引してその糸10を前記糸継装置43に案内するサクションマウス46と、巻取パッケージ45を糸解舒方向に回転させる逆転ローラ55と、を備えている。サクションマウス46から吸引される糸の糸通路50には吸引検出センサ54が備えられる。口出し時において逆転ローラ55は当初は比較的低速で回転されるが、前記吸引検出センサ54が糸10を検出すると、増速制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻取部の口出しを行って糸継可能な繊維機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、糸継ぎされる巻取パッケージに糸端を吸引するサクションマウスが近接位置にされたときに、巻取ドラムを低速によって逆回転させる初期駆動を開始し、その回転が設定した回数だけ行われた後に、より高速な定常逆回転に切り換える、繊維機械としての自動ワインダを開示する。
【0003】
特許文献1は、上記の構成によれば、口出しの段階で巻取パッケージの逆回転の速度を小さくすることで、口出し(糸端の捕捉)を確実にし、かつ、設定回転後に逆転を高速にすることで、糸継ぎの時間を延長させることがないとする。
【特許文献1】特開平2−75574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、口出しの段階で巻取パッケージの逆転を低速にしたからといって、糸端の捕捉に100%成功する訳でもない。この点、特許文献1の構成では、設定回転内に糸端の捕捉ができなかった場合、巻取パッケージの逆転が高速になるので、ますます糸端の捕捉が困難になる。従って、特許文献1の構成においても、口出しできないのに糸継ぎを行ってしまうミスや、逆巻きの発生が生じてしまうことがあり、この点で改善の余地が残されていた。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0006】
◆本発明の観点によれば、以下のように構成する繊維機械が提供される。糸を巻取パッケージに巻き取る巻取部を備えた糸処理部と、この糸処理部に対して糸継ぎする糸継部と、を備える。前記糸継部は、糸継作業を行う糸継装置と、前記巻取パッケージの表面に接近して糸端を吸引するとともに当該糸を前記糸継装置に案内する捕捉案内手段と、前記巻取パッケージを糸解舒方向に回転させる逆転手段と、を備えている。前記捕捉案内手段で吸引される糸の糸通路には検出手段が備えられている。前記逆転手段により前記巻取パッケージを逆転させながら前記捕捉案内手段で当該巻取パッケージの表面に吸引流を作用させ、この捕捉案内手段で吸引された糸を前記検出手段が検出すると、前記逆転手段が増速するように制御される。
【0007】
これにより、口出しの段階で巻取パッケージの逆回転の速度を相対的に遅くすることで、口出し(糸端の捕捉)のミスを少なくできる。一方、検出手段による糸の検出後に逆転手段を高速にすることで、糸継作業の時間を有効に短縮できる。また、検出手段の糸の検出により逆転手段が増速制御されることから、口出しが未だ成功していない場合は逆転手段の増速制御は行われない。言い換えれば、糸端の捕捉の成功を検出手段で確認してから逆転手段の増速が開始されるので、口出しに成功していない段階で逆転手段を増速して却って口出しの成功率を低くしてしまうこともない。
【0008】
◆前記の繊維機械においては、糸を前記検出手段が検出する前における前記逆転手段の速度は、当該巻取パッケージの径に応じて異なるように制御されることが好ましい。
【0009】
これにより、巻取パッケージの径が小さいときは低速で逆転させることで、解舒される糸端が高速で振り回されて口出し手段での捕捉に失敗することを防止できる。また、巻取パッケージの径が大きいときは高速で逆転させることで、口出し作業の時間を短縮することができる。
【0010】
◆前記の繊維機械においては、前記検出手段が糸を検出して増速された後の前記逆転手段の速度は、前記巻取パッケージの径にかかわらず同一となるように制御されることが好ましい。
【0011】
これにより、上記の効果を奏するほか、制御を簡素化することができる。また、巻取パッケージの径の大小によって糸の吸引量や捕捉に要する時間のバラツキが大きくなり過ぎず、安定した糸継作業を実現できる。
【0012】
◆前記の繊維機械においては、前記糸通路はカーブ部を有しており、前記検出手段は、このカーブ部のすぐ吸引流下流のカーブ内周側に設置されていることが好ましい。
【0013】
これにより、巻取パッケージから解舒されて吸引捕捉された糸端は、カーブ部の下流の内周側を通過し易いことから、検出手段でこの糸端を確実に検出することができる。
【0014】
◆前記の繊維機械においては、前記逆転手段の増速制御開始後に前記検出手段が糸なしを検出した場合は、前記逆転手段を減速し、又は糸継作業を中止させるように制御することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、糸端の口出しにいったん成功した後に糸切れが生じてしまった場合でも、検出手段でこれを適切に検出して逆転手段を減速することにより、再度の口出しの成功率を高めることができる。あるいは糸継作業の中止制御を行うことにより、無駄に糸継作業が行われることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る紡績装置の全体的な構成を示した正面図、図2は同じく縦断側面図である。図3は紡績装置のブロック図である。
【0017】
図1は、並設された多数の紡績ユニット(糸処理部)2を備えた、繊維機械としての紡績装置1を示している。この紡績装置1には、紡績ユニット2が並べられる方向に走行自在に設けられた糸継台車(糸継部)3と、ブロアボックス4と、原動機ボックス5とが装備される。原動機ボックス5の部分には、紡績装置1全体を統括制御する本体制御装置61が設けられている。
【0018】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、ドラフト装置7と、紡績部9と、糸送り装置11と、カッター装置51と、ヤーンクリアラ52と、巻取部12と、を主要な構成として有している。
【0019】
ドラフト装置7は紡績装置1本体のケーシング6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績部9で紡績するように構成している。紡績部9から排出された紡績糸10は糸送り装置11で送られて、カッター装置51、ヤーンクリアラ52を通過した後、巻取部12によって巻き取られ、巻取パッケージ45を形成する。
【0020】
図3のブロック図に示すように、紡績ユニット2にはそれぞれユニットコントローラ32が設けられており、上記のドラフト装置7や紡績部9等の各部をユニットコントローラ32が制御するようになっている。ユニットコントローラ32は公知のマイコンとして構成されており、図略のCPUやタイマ回路やRAM(記憶部)33等を備えている。各紡績ユニット2のユニットコントローラ32は、前記本体制御装置61と信号線で接続されており、本体制御装置61によって制御されるようになっている。
【0021】
ドラフト装置7は図2に示すように、スライバ13を延伸して繊維束8にするためのものであり、バックローラ14、サードローラ15、エプロンベルト16を装架したミドルローラ17及びフロントローラ18の4つのローラから構成されている。
【0022】
また、糸送り装置11は、紡績装置1本体のケーシング6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触して設けられたニップローラ40とからなる。この構成で、紡績部9から排出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んでデリベリローラ39を駆動することにより、紡績糸10を巻取部12側へ送るようになっている。
【0023】
巻取部12は、支軸70まわりに揺動自在に枢支されたクレードルアーム71を備え、このクレードルアーム71は、紡績糸10を巻回するボビンを回転自在に支持できるようになっている。また巻取部12は、前記ボビンやそれに紡績糸10を巻回して形成される巻取パッケージ45の周面に当接可能な、巻取ドラム72を備えている。この巻取ドラム72が図略の電動モータで駆動されることで、それに接触する巻取パッケージ45を回転させ、紡績糸10を巻き取るようになっている。
【0024】
また、クレードルアーム71には付勢バネ73が備えられて、上記巻取パッケージ45の周面を巻取ドラム72から離間させる方向の付勢力をクレードルアーム71に作用させている。一方、上記クレードルアーム71の基部から吸着アーム74が突設されて、その吸着アーム74の先端には、鉄板からなる吸着板75が固定される。その吸着板75に近接するように電磁石76が設置され、この電磁石76は、前記ユニットコントローラ32からの制御信号によってON/OFFが切り換わるようになっている。
【0025】
上記構成で、ユニットコントローラ32は通常時は、電磁石76をONとして吸着板75を吸着させ、巻取ドラム72に巻取パッケージ45を接触させて回転させる。一方、糸切れ等の何らかの事情で紡績及び巻取りを停止するときは、電磁石76をOFF制御して吸着板75の吸着を解除させ、付勢バネ73により巻取パッケージ45を巻取ドラム72から離間させる。これにより巻取パッケージ45の回転が停止される。
【0026】
図2に示すように、紡績装置1のケーシング6の前面側であって前記糸送り装置11よりも若干下方の位置には、カッター装置51及びヤーンクリアラ52が設けられている。そして、紡績部9で紡出された紡績糸10は、巻取部12で巻き取られる前にカッター装置51及びヤーンクリアラ52を通過するようになっている。ヤーンクリアラ52は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、その制御部53(図3)が糸欠点検出信号をユニットコントローラ32へ送信するようになっている。
【0027】
この糸欠点検出信号を受信したユニットコントローラ32は、直ちに前記カッター装置51を作動させて紡績糸10をヤーンクリアラ52の上流側で切断するとともに、ドラフト装置7をいったん停止し、糸継台車3に当該紡績ユニット2の前まで自走させる。その後、ドラフト装置7等を再び駆動し、上記糸継台車3に糸継ぎ(糸欠点の除去)を行わせて紡績及び巻取りを再開させるようになっている。
【0028】
なお、ヤーンクリアラ52による糸欠点の検出に限らず、何らかの原因によって糸切れが生じた場合も、糸継台車3による糸継ぎが行われる。糸切れは、ヤーンクリアラ52により検出することもできるし、特別に設けたセンサにより検出することもできる。この糸継台車3による糸継ぎの詳細は後述する。
【0029】
糸継台車3は図1に示すように、紡績装置1本体のケーシング6に設けられたレール41上を走行するように設けられている。図1・図2に示すように、この糸継台車3は、糸継装置(例えばスプライサ)43と、この台車3に俯仰自在に設けられ、軸を中心に旋回しながら、紡績部9から排出される糸端を吸い込みながら捕捉して糸継装置43へ案内するサクションパイプ44と、台車3に俯仰自在に設けられ、軸を中心に旋回しながら、巻取部12に回転自在に支持された巻取パッケージ45に接近し、糸端を吸引捕捉して糸継装置43へ案内するサクションマウス(捕捉案内手段)46と、を備えている。
【0030】
図2に示すように、前記サクションマウス46の旋回のためにマウス旋回モータ57が設けられている。また、前記サクションマウス46の旋回基部には吸引管50が接続され、糸継装置43の糸継作業時に切断された余分な糸端などは、サクションマウス46及び吸引管50を経由して廃棄されるようになっている。なお本実施形態では、サクションマウス46及び吸引管50の内部通路が、本発明の糸通路に相当する。
【0031】
この吸引管50の途中には、屈曲部ないし湾曲部としてのカーブ部58が形成されており、また、この吸引管50には吸引検出センサ54が設置されている。この吸引検出センサ54は、吸引管50の内部の、前記カーブ部58のすぐ下流側で且つカーブ内周側の領域に設置されている。この吸引検出センサ54としては例えば光電センサからなり、上記の領域に紡績糸10が存在すると、それを検出して、糸端検出信号を台車制御装置48へ送信するようになっている。
【0032】
更に、サクションマウス46の下方には逆転ローラ(逆転手段)55が設けられて、この逆転ローラ55は必要に応じて巻取部12側に進出して巻取パッケージ45に接触し、逆転モータ56の駆動によって当該巻取パッケージ45を逆転させ得るようになっている。
【0033】
図3に示すように、上記糸継台車3は台車制御装置48を備え、この台車制御装置48は、図略のCPUやタイマ回路やRAM49等からなる公知のマイコン式に構成されている。この台車制御装置48は、紡績ユニット2のユニットコントローラ32からの糸継要求に応じて、糸継台車3の走行及び上記した各部の制御を行い、その紡績ユニット2に対して糸継作業(及び糸欠点除去作業)を行う。
【0034】
以上の構成の紡績装置1の動作を説明する。最初に各紡績ユニット2のユニットコントローラ32での制御について図4を参照して説明すると、まずS101で、糸切れが検出されたり、ヤーンクリアラ52が糸欠点を検出していないかを調べる。なお、ヤーンクリアラ52が糸欠点を検出した場合は、糸欠点検出信号に応じてカッター装置51が直ちに駆動され、紡績糸10が切断されることになる。
【0035】
糸切れや糸切断の場合は、ユニットコントローラ32は「糸継要求あり」の旨をRAM33に書き込むとともに、巻取開始時から糸切れ又は糸欠点の検出時までの経過時間と紡績部9の紡績速度から巻取パッケージ45の径を算出し、糸継情報としてRAM33に記憶する(S102)。
【0036】
この結果、RAM33には、図4のS102の右側に示すように、糸継を要求する旨と、巻取パッケージ45の径の情報が記憶される。図4のS102の右側には、巻取開始当初にヤーンクリアラ52が糸欠点を検出した場合のRAM33の記憶内容の例が示されている。
【0037】
なお本実施形態では、巻取パッケージ45の径を巻取当初の状態から満巻までの8段階に分けて、どの段階に相当するかを「1」〜「8」の数値で記憶するようになっている。即ち、巻取当初の場合は「1」と、ほぼ満巻の場合は「8」というように記憶することになる。
【0038】
また、上記S102のRAM33への記憶処理とほぼ同時に、電磁石76をOFF制御して吸着板75の吸着を解除し、付勢バネ73により巻取ドラム72と巻取パッケージ45を離間させる制御を行う。この結果、紡績糸10の糸端は、慣性で回転する巻取パッケージ45に巻き取られる。なお、糸切れや糸欠点が発生していない場合は、上記S102の処理は行われない。
【0039】
次に、糸継台車3側から糸継完了信号(糸継に成功した旨の信号であって、詳細は後述する)を受信したか否かを調べる(S103)。糸継完了信号が受信された場合は、ユニットコントローラ32はRAM33に記憶されている情報をリセットし、「糸継要求なし」の旨をRAM33に記憶する(S104)。図4のS104の右側には、リセット後のRAM33の記憶内容が示されている。なお、糸継完了信号が受信されていない場合は、上記S104の処理は行われない。
【0040】
そしてユニットコントローラ32は、RAM33に記憶されている糸継要求の有無の情報を、巻取パッケージ45の径の情報とともに、糸継情報として本体制御装置61に送信する(S105)。なおS105では、糸切れや糸欠点が発生しておらず、RAM33の内容が「糸継要求なし」であった場合でも、その旨を送信するようになっている。また、送信する信号には、その紡績ユニット2に予め割り当てられている番号の情報(紡績ユニット2の識別情報)を含めることとしている。
【0041】
なお、前記の糸継情報を受信した本体制御装置61は、その情報を糸継台車3の台車制御装置48に転送する。この送信処理の後はS101に戻り、上記の処理が反復される。
【0042】
次に、糸継台車3側の台車制御装置48の制御を図5等を参照して説明する。図5は糸継台車の台車制御装置で行われる制御を示すフロー図、図6は台車制御装置のRAMの記憶内容の例を示す図、図7は巻取パッケージの糸が解舒され口出しされる様子を示す図である。図8は、逆転ローラの速度制御例を示すグラフ図である。
【0043】
まず台車制御装置48は、各紡績ユニット2から送信される、糸継情報(糸継要求の有無及び巻取パッケージ45の径の情報)を受信して取得し、それに応じてRAM49の内容を書き換える(S201)。RAM49には図6に示すように、各紡績ユニット2の番号に関連付けて、糸継要求の有無と、巻取パッケージ45の径とを記憶できるようになっている。
【0044】
このS201の処理(糸継情報の受信→RAM49への書込み)を反復することにより、RAM49には常に、各紡績ユニット2の糸継要求の有無についての最新の情報が記憶されることになる。従って、台車制御装置48側でRAM49の記憶内容を参照すれば、現在どの番号の紡績ユニット2で糸継要求が発生しているか、及び、その糸継要求の発生時における巻取パッケージ45の径の大きさの程度の情報を認識することができる。
【0045】
次に台車制御装置48は、前記RAM49の情報を読み出して、紡績ユニット2のどれかに糸継要求が発生していないかを調べる(図5のS202)。どの紡績ユニット2も糸継ぎを要求していないときは、S201へ戻る。
【0046】
1つ以上の紡績ユニット2が糸継要求を発生していた場合は、台車制御装置48は、どの紡績ユニット2について糸継作業を行うべきか(作業対象ユニット)を決定する(S203)。この作業対象ユニットの決定方法としては、糸継要求が発生している紡績ユニット2が1つだけの場合は、その紡績ユニット2を作業対象ユニットとすれば良い。また、糸継要求が発生している紡績ユニット2が複数ある場合は、糸継台車3の現在位置に最も近い紡績ユニット2を作業対象ユニットとすることが考えられる。
【0047】
上記のように作業対象ユニットを決定すると、台車制御装置48は、その作業対象ユニット2まで糸継台車3を走行させて、当該対象ユニットの前で停止させる(S204)。
【0048】
次に、台車制御装置48はS205の処理を行う。具体的には、その作業対象ユニット2についての巻取パッケージ45の径をRAM49の記憶内容から読み出して取得し、この情報に基づいて、逆転ローラ55の速度を本体制御装置61へ問い合わせる。
【0049】
ここで、本体制御装置61のRAM62には、口出しの際に好適とされる逆転ローラ55の初期速度(以下、「逆転初期速度」という)が、巻取パッケージ45の径との関係で予め記憶されている。
【0050】
即ち、例えば巻取パッケージ45の径が小さい場合は、周の長さが短い巻取パッケージ45に逆転ローラ55を接触させて高速で回転させると、巻取パッケージ45の逆転が速くなり過ぎ、解舒される糸端が勢い良く振り回されるので、サクションマウス46による吸引捕捉が困難になって、口出しミスが多発してしまう。一方、巻取パッケージ45の径が大きい場合は、逆転ローラ55を接触させて低速で回転させると、巻取パッケージ45の周の長さが長いために一回転させるのに時間が掛かってしまい、口出しの作業効率が落ちてしまう。この観点から、RAM62には、逆転ローラ55の初期速度と巻取パッケージ45の径との関係を、巻取パッケージ45の径が大きくなるにつれて速くなるように定めている。
【0051】
本体制御装置61は上記の問い合わせの信号に対して、上記のようにRAM62に記憶されている情報を基に、逆転初期速度を糸継台車3の台車制御装置48に回答する。こうして、台車制御装置48では、当該作業対象ユニット2についての、口出しの際の好適な逆転ローラ55の初期速度を取得することができる。以上がS205の処理である。
【0052】
続いて、台車制御装置48はマウス旋回モータ57を駆動し、サクションマウス46を下降回動させて巻取パッケージ45の表面に接近させて吸引流を作用させるとともに、逆転ローラ55を巻取パッケージ45へ接触させ、前記の逆転初期速度で回転させる(S206)。なお、図5のフローでは図示しないが、このときに台車制御装置48は作業対象ユニット2に対して紡績開始信号を送信して紡績部9による紡績を再開させるとともに、サクションパイプ44を上昇回動させ、紡績部9から新しく紡績されてきた糸10を吸引捕捉する(図7参照)。
【0053】
上記S206の制御がされることにより、図7に示すように、巻取パッケージ45は巻取時とは逆の方向(解舒方向)に回転され、糸が解舒されてサクションマウス46へ吸引されて行く。巻取パッケージ45の逆転及びサクションマウス46の吸引流により、解舒された紡績糸10はサクションマウス46の内部及び吸引管50を進んで、やがてカーブ部58を通過して、図7のように吸引検出センサ54が紡績糸10を検出することになる。
【0054】
図5のフローに示すように、台車制御装置48では、サクションマウス46による巻取パッケージ45の周面の吸引(逆転ローラ55による巻取パッケージ45の逆転)を開始してから、吸引検出センサ54からの糸端検出信号を所定時間内に受信したか否かを判定する(S207)。もし所定時間内に糸端検出信号を受信しない場合は、例えば紡績糸10の糸端が巻取パッケージ45の糸層に埋まって口出しできなくなっていることが考えられるので、台車制御装置48は糸継作業を中止し(S208)、異常信号を本体制御装置61に送信するとともに、S201の処理に戻って、他の紡績ユニット2で糸継要求が発生するのを待機する。
【0055】
所定時間内に糸端検出信号が受信された場合は、逆転ローラ55の速度を上記の逆転初期速度から増大させつつ、サクションマウス46による吸引を所定時間継続する(S209)。この結果、紡績糸10は、回転速度を速める巻取パッケージ45から素早く解舒され、サクションマウス46に捕捉される。
【0056】
即ち、糸端検出信号が受信されたということはサクションマウス46による口出しに成功したということであるから、その後は巻取パッケージ45の解舒速度を速めても問題はなく、むしろ逆転ローラ55を増速した方が、サクションマウス46による吸引捕捉成功後の、糸欠点を巻取パッケージ45から解舒し切るまでの時間を短時間とでき、素早く糸継作業を行える点で有効である。この観点から、台車制御装置48はS209の処理で、前記逆転初期速度から所定の終端速度に達するまで、逆転ローラ55の速度を速めるように制御しているのである。
【0057】
逆転ローラ55の速度制御の例としては、例えば図8に示すような制御特性が考えられる。なお、図8のグラフにおける二点鎖線は、実線の場合よりも巻取パッケージ45の径が大きい場合の制御を示している。このグラフの実線と鎖線を比較すると判るように、上記の終端速度は、巻取部12の巻取パッケージ45の径にかかわらず、一定とされている。この結果、巻取パッケージ45の径の大小によって糸の吸引量や捕捉に要する時間のバラツキが大きくなり過ぎず、安定した糸継作業が実現されている。また、巻取パッケージ45の径に基づく終端速度の変更制御が不要になるので、台車制御装置48による制御を簡素化できる。
【0058】
前記の所定時間(図8も併せて参照)が経過すると、上記の終端速度にて所定の糸欠点長さを解舒し切ってしまったことになる。すると、台車制御装置48はサクションパイプ44を下降回動させるとともにサクションマウス46を上昇回動させ、両者44・46によって吸引捕捉された糸を糸継装置43へ案内する。こうして糸継装置43による糸継が行われる(図5のS210)。糸継の際に発生した余分な糸は、糸継装置43の図示せぬ切断手段(カッター)によって切断され、サクションマウス46から吸引管50を経由して吸引廃棄される。こうして一連の糸継作業が終わり、紡績及び巻取りが再開される。
【0059】
なお、図5のフローでは図示しないが、終端速度にて所定の糸欠点長さを解舒し切ってしまった後は、図8に示すように、上記の終端速度から減速制御することが好ましい。この場合、糸継装置43の糸継ぎの際に吸引廃棄される余分な糸量を減らすことができる。
【0060】
糸継装置43による糸継作業が終了すると、台車制御装置48は糸継完了信号を、本体制御装置61を経由して作業対象ユニット2のユニットコントローラ32へ送信する(S211)。次に台車制御装置48は最初のステップS201へ戻り、何れかの紡績ユニット2で糸継要求が発生するのを待機する。
【0061】
なお、前記糸継完了信号を受信した作業対象ユニット2のユニットコントローラ32では、図4のS104の処理により、RAM33の情報がリセットされ、その記憶内容は「糸継要求なし」になる。そして、リセットされたRAM33の内容は、S105の処理で、糸継情報として本体制御装置61を経由して糸継台車3へ送信される。従って、台車制御装置48のRAM49の内容も、前述のS201(図5)の処理により、上記作業対象ユニット2について「糸継要求なし」に書き換えられることになる。
【0062】
上記に示すように、本実施形態の紡績装置1における糸継台車3は、糸継装置43と、巻取パッケージ45の表面に接近して糸端を吸引するとともに当該糸10を糸継装置43に案内するサクションマウス46と、前記巻取パッケージ45を糸解舒方向に回転させる逆転ローラ55と、を備えている。また、前記サクションマウス46で吸引された糸の糸通路としての吸引管50には、吸引検出センサ54が設けられる。そして、前記逆転ローラ55により巻取パッケージ45を逆転させながらサクションマウス46で当該巻取パッケージ45の表面に吸引流を作用させ、このサクションマウス46で吸引された糸10を前記吸引検出センサ54が検出すると、前記逆転ローラ55が増速されるように制御される。
【0063】
これにより、口出しの段階で巻取パッケージ45を比較的に低速で逆転させることで、サクションマウス46による口出しのミスを少なくできる。一方、吸引検出センサ54で糸端を検出した後は、巻取パッケージ45を高速で逆転させて、糸継作業の時間(糸の吸引捕捉に要する時間)を有効に短縮できる。また、本実施形態では、吸引検出センサ54により紡績糸10を確実に検出してから逆転ローラ55が増速制御されることから(図8の制御例を参照)、口出しが成功していない場合には逆転ローラ55の増速制御を行わないようにできる。即ち、口出しができていない段階で逆転ローラ55を増速し、口出しを却って困難にすることもない。
【0064】
また、本実施形態の紡績装置1では、紡績糸10を吸引検出センサ54が検出する前における逆転ローラ55の速度(上記の逆転初期速度)は、当該巻取パッケージ45の径に応じて異なるように制御されている。
【0065】
これにより、巻取パッケージ45の径が小さいときは低速で逆転させることで、解舒される糸端が高速で振り回されてサクションマウス46での捕捉に失敗することを防止できる。また、巻取パッケージ45の径が大きいときは高速で逆転させるので、口出し作業ないし糸継作業の時間を有効に短縮できる。
【0066】
また本実施形態では図8に示すように、吸引検出センサ54が紡績糸10を検出して増速された後の前記逆転ローラ55の速度は、前記巻取パッケージ45の径にかかわらず同一の速度(前記の終端速度)となるように制御される。
【0067】
これにより、巻取パッケージ45の径の大小によって、サクションマウス46による紡績糸10の吸引量や捕捉に要する時間のバラツキが大きくなり過ぎず、糸継作業を安定して行える。
【0068】
更に本実施形態では、吸引管50はカーブ部58を有しており、前記吸引検出センサ54は、このカーブ部58のすぐ下流のカーブ内周側に設置されている。
【0069】
これにより、巻取パッケージ45から解舒されてサクションマウス46で吸引捕捉された糸端は、吸引流によって上記カーブ部58の下流内周側を通過し易い。従って、上記の位置に吸引検出センサ54を設けたことにより、糸端を確実に検出することができる。
【0070】
なお、図5のフローでは図示しないが、S209の制御においても前記吸引検出センサ54の状態を監視するようにし、逆転ローラ55の増速制御開始後に吸引検出センサ54が糸なしを検出した場合は、前記逆転ローラ55を減速させるとともに、再びS207の処理に戻ることが好ましい。
【0071】
即ち、サクションマウス46による糸端の吸引捕捉に成功した後に、巻取パッケージ45側で糸切れが生じてしまう可能性もゼロとは言えない。この場合は再び糸端を口出しする必要があるが、このときに逆転ローラ55を減速することで口出し成功率を高めることができるからである。
【0072】
なお、上記のような糸切れが生じた場合はS208の処理を行い、逆転ローラ55を直ちに停止制御して糸継作業を中止しても良い。この場合、その作業対象ユニット2について無駄に糸継作業が行われることを防止でき、他の糸継要求ユニットの処理に素早く移行できる。
【0073】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は更に以下のように変更して実施することができる。
【0074】
(1)本発明の構成は、紡績装置1以外の繊維機械、例えば自動ワインダに対しても適用することができる。また、糸継台車3を備えず、各ユニットがそれぞれ糸継部(糸継装置や捕捉案内手段や逆転手段等)を備える構成に対しても適用することができる。
【0075】
(2)巻取パッケージ45の径については、紡績部9での紡績糸長を基に演算で取得することとしたが、例えば巻取部12に回転センサを設け、巻取パッケージ45の回転をカウントすることで径を演算して取得しても良い。また、巻取パッケージ45の径を8段階で分類することにも限られず、例えば4段階や16段階とすることもできる。
【0076】
(3)吸引検出センサ54の設置位置は、吸引管50とすることに限定されず、例えばサクションマウス46に設置することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態に係る紡績装置の全体的な構成を示した正面図。
【図2】同じく縦断側面図。
【図3】紡績装置のブロック図。
【図4】紡績ユニットのユニットコントローラで行われる制御を示すフロー図。
【図5】糸継台車の台車制御装置で行われる制御を示すフロー図。
【図6】台車制御装置のRAMの記憶内容の例を示す図。
【図7】巻取パッケージの糸が解舒され口出しされる様子を示す図。
【図8】逆転ローラの速度制御例を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0078】
1 紡績装置(繊維機械)
2 紡績ユニット(糸処理部)
3 糸継台車(糸継部)
10 紡績糸(糸)
12 巻取部
43 糸継装置
45 巻取パッケージ
46 サクションマウス(吸引捕捉手段、糸通路の一部)
48 台車制御装置
50 吸引管(糸通路の一部)
55 逆転ローラ(逆転手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を巻取パッケージに巻き取る巻取部を備えた糸処理部と、
この糸処理部に対して糸継ぎする糸継部と、
を備える繊維機械であって、
前記糸継部は、糸継作業を行う糸継装置と、前記巻取パッケージの表面に接近して糸端を吸引するとともに当該糸を前記糸継装置に案内する捕捉案内手段と、前記巻取パッケージを糸解舒方向に回転させる逆転手段と、を備えており、
前記捕捉案内手段で吸引される糸の糸通路には検出手段が備えられており、
前記逆転手段により前記巻取パッケージを逆転させながら前記捕捉案内手段で当該巻取パッケージの表面に吸引流を作用させ、この捕捉案内手段で吸引された糸を前記検出手段が検出すると、前記逆転手段が増速するように制御されることを特徴とする、繊維機械。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維機械であって、
糸を前記検出手段が検出する前における前記逆転手段の速度は、当該巻取パッケージの径に応じて異なるように制御されることを特徴とする、繊維機械。
【請求項3】
請求項2に記載の繊維機械であって、
前記検出手段が糸を検出して増速された後の前記逆転手段の速度は、前記巻取パッケージの径にかかわらず同一となるように制御されることを特徴とする、繊維機械。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の繊維機械であって、
前記糸通路はカーブ部を有しており、前記検出手段は、このカーブ部のすぐ吸引流下流のカーブ内周側に設置されていることを特徴とする、繊維機械。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の繊維機械であって、
前記逆転手段の増速制御開始後に前記検出手段が糸なしを検出した場合は、前記逆転手段を減速し、又は停止させるように制御することを特徴とする、繊維機械。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−143414(P2006−143414A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336948(P2004−336948)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】