説明

繊維機械

【課題】
自動玉揚装置を有する巻取装置を備えた繊維機械において、コンパクトで且つ保守・管理の容易な構成を提供する。
【解決手段】
巻取時に糸を綾振るトラバース装置6と、クレードル40を回動させるクレードルリフティング部7と、満巻パッケージ3bの取り出しのための一対の取出し用凹部8と、が巻取管3の巻取時における回転中心3cよりも作業用通路120側に配置されている。満巻パッケージ3bをその巻取位置から一対の取出し用凹部8へと転動させる一対の転がり案内面9がクレードル40を構成する一対のクレードルアーム4の対向する面に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数並設された巻取装置を備え、これらの巻取装置のそれぞれに自動玉揚装置を個別に備えた繊維機械、特に延伸仮撚加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の延伸仮撚加工機として、例えば、特許文献1に示す構成のものが知られている。同文献に記載の仮撚加工機は、二次ヒータを備えたセンター機枠を挟んで両側に、糸掛け作業などを行うための作業通路が設けられ、更にその作業通路を介して、巻取装置を備えた巻取機枠が設けられたレイアウトとなっている。各巻取装置には、それぞれ自動玉揚装置が装備され、各巻取装置で形成された満巻パッケージは、自動玉揚装置によって、作業通路とは反対側のパッケージ排出通路側へ払い出されるようになっている。同文献の仮撚加工機は、操作性やメンテナンス性の面では問題がないが、センター機枠の両側に作業通路を挟んで巻取機枠が配置されるという3フレーム構造であるため、機台の幅(同文献の図3の左右方向長さ)が広くなるという問題があった。また、作業通路の反対側に満巻パッケージが払い出されるので、作業性に劣るという問題もあった。
そこで、特許文献2に示す仮撚加工機のように、パッケージを作業通路側に排出できるようにして、センター機枠に巻取装置を配置したレイアウトとしたものが開発されている。この特許文献2の仮撚加工機は、特許文献1の仮撚加工機と比較して、機台幅が小さくなり、作業性も良い。
【特許文献1】特開2002−309455号公報(レイアウトに関して、図3)
【特許文献2】特開2005−67790号公報(レイアウトに関して、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、作業通路側にパッケージ排出部を設ける関係上、作業通路からセンター機枠の二次ヒータまでの奥行きが長くなり、二次ヒータ側に配置された巻取管支持部材(クレードル)及び自動玉揚装置の駆動部のメンテナンス性が悪いという問題があった。
この特許文献2の仮撚加工機においては、巻取位置よりも作業通路側にトラバース装置を配して作業通路側から糸を巻取位置に導いている。一方、この特許文献2の仮撚加工機と同様に、センター機枠に巻取装置を配したレイアウトにて、作業通路から巻取位置よりも遠い側にトラバース装置を配して作業通路とは反対側の奥側から糸を導入するようにしたものも知られている。これは、巻取位置よりも作業通路側に巻取管支持部材の回動中心および自動玉揚装置の駆動部が配置されているため、これらの機構のメンテナンス性が悪いという問題は解消されている。しかしながら、巻取位置よりも奥側にトラバース装置が配置されているので、トラバース装置のメンテナンス性が悪く、しかも、巻取位置に糸を導くために特別な糸通し装置が必要になるといった別の問題があった。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0005】
複数並設された巻取装置を備え、これらの巻取装置のそれぞれに自動玉揚装置を個別に備えた繊維機械において、前記巻取装置のそれぞれは、糸を巻き取るための巻取管を回転自在に支持する巻取管支持部材と、前記巻取管に巻き取られる糸を綾振りするトラバース装置と、を備えており、また、前記自動玉揚装置のそれぞれは、前記巻取管支持部材を個別に回動させることが可能な駆動部を備えており、前記巻取管支持部材の回動中心と、前記駆動部と、前記トラバース装置と、が、前記巻取管の巻取時における回転中心を面内に有する鉛直平面に対して一方側に設けられている。
【0006】
以上の構成により、前記回動中心と、前記駆動部と、前記トラバース装置と、が、巻取時の巻取管から見て一方側に集約されたレイアウトとなっているので、繊維機械をコンパクトに形成することができる。
また、保守・管理などの作業を必要とする前記駆動部や前記トラバース装置などの機器群が、巻取時の巻取管から見て一方側に集約されたレイアウトとなっているので、メンテナンス作業が容易となる。
特に、前記機器群が配置される側と同一側にのみ作業用通路を配置する場合に、作業員が前記作業用通路から前記機器群にアクセスし易くなり、容易にメンテナンスできる。
【0007】
前記巻取管支持部材の回動中心と、前記駆動部と、前記トラバース装置と、前記自動玉揚装置によって玉揚げされた満巻パッケージの取出しのための待機位置が、前記鉛直平面に対して一方側に設けられていてもよい。
【0008】
以上の構成により、満巻パッケージの取出しのための待機位置も一方側に集約されるので、一層コンパクト化を図ることができる。また、玉揚げされ待機している前記満巻パッケージを作業員が取り出すための作業用通路と、前記駆動部や前記トラバース装置などを保守・管理するため及び前記巻取装置へ糸掛けするための作業用通路と、を共通化できるので、作業用通路を少なくすることができ、従ってコンパクトに構成することができる。また、一方側から満巻パッケージの取出し作業、メンテナンス作業及び糸掛け作業ができるので作業性が向上する。
【0009】
前記巻取管支持部材は一対で備えられ、前記一対の巻取管支持部材を連結する連結手段が、前記巻取管支持部材の回動中心と異なる位置に設けられていてもよい。
【0010】
以上の構成により、前記一対の巻取管保持部材の剛性が向上し、前記一対の巻取管支持部材の曲げ・捻り等の振動を抑制できる。これにより、前記巻取管を常に好適な姿勢に維持することができる。
【0011】
前記連結手段は、前記鉛直平面を挟んで前記巻取管支持部材の回動中心と反対側に設けられていてもよい。
【0012】
以上の構成により、前記満巻パッケージが前記待機位置へ移動する際に、前記連結手段が邪魔になることがない。
【0013】
前記自動玉揚装置によって巻取管支持部材から取り外された満巻パッケージを取出しのための待機位置へ移動させる案内手段が、前記巻取管支持部材に備えられていてもよい。
【0014】
以上の構成により、前記巻取管支持部材が前記案内手段の機能を兼ねることで、部品点数を少なくすることができ、構成を簡素にできる。
【0015】
前記案内手段は、転がり案内面であってもよい。
【0016】
以上の構成により、前記巻取管支持部材に好適な面を設けるだけで前記案内手段を形成することができるので、前記案内手段を設けるのが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る繊維機械の実施の形態について説明する。
【0018】
ここでは、本発明を、繊維機械の一例として延伸仮撚加工機に適用した例について説明する。
【0019】
図1は本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の巻取部を示す巻取開始時の部分模式図である。
図2は本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の巻取部を示す巻取開始時の部分斜視図である。
図3は本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の巻取部を示す満巻き時の部分模式図である。
図4は本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の巻取部を示す巻取管差替え時の部分模式図である。
図5は本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の全体図である。
【0020】
まず、図5に基づいて延伸仮撚加工機100の構成を説明する。
【0021】
延伸仮撚加工機100は、大きく分けて以下のように構成されている。すなわち、糸2の流れに沿って順に、糸2を供給する給糸パッケージ101を保持する給糸部1Aと、糸2に延伸仮撚加工処理を施す加工処理部1Bと、加工処理した糸2を巻取パッケージ3aとして巻き取る巻取部1Cと、から構成されている。また、延伸仮撚加工機100は、上述した給糸部1Aと加工処理部1Bと巻取部1Cとを有する加工処理ユニット(「錘」と呼ばれる。)を複数備えている。複数の錘は、図5の紙面に対して垂直方向に並べて設けられている。ただし、給糸部1Aおよび巻取部1Cは、設置スペースを小さくするために2〜4錘分を上下に重ねて配置されている。
【0022】
各錘の給糸部1Aには、給糸パッケージ101を保持するペグ201が設けられ、各ペグ201は複数錘共通のクリールスタンド202に取り付けられている。
【0023】
各錘の加工処理部1Bは、糸2の流れに沿って順に、第1フィードローラ110と、1次ヒータ102と、冷却器103と、仮撚装置104と、第2フィードローラ111と、2次ヒータ105と、第3フィードローラ112と、を備えている。第1フィードローラ110・第2フィードローラ111・第3フィードローラ112は糸2を送るための装置であり、第1フィードローラ110の糸送り速度よりも第2フィードローラ111の糸送り速度が速くなるように各糸送り速度が設定されている。このため、第1フィードローラ110と第2フィードローラ111との間で糸2は延伸される。また、第2フィードローラ111の糸送り速度よりも第3フィードローラ112の糸送り速度が遅くなるように各糸送り速度が設定されている。このため、第2フィードローラ111と第3フィードローラ112との間で糸2は弛緩される。
【0024】
第1フィードローラ110と第2フィードローラ111との間で延伸された糸2には仮撚装置104にて撚が付与される。より具体的には、第1フィードローラ110と仮撚装置104との間で糸2が加撚される。延伸されつつ加撚された糸2は、1次ヒータ102で熱セットされた後、冷却器103(冷却プレート)で冷却される。加撚および熱セットされた糸2は、仮撚装置104を通過した後、第2フィードローラ111までに解撚される。このようにして延伸仮撚加工された糸2は、2次ヒータ105で弛緩熱処理され、巻取部1Cで巻取パッケージ3aとして巻き取られる。
【0025】
巻取部1Cは、2次ヒータ105を備えたセンター機枠の片側に設けられている。巻取部1Cの片側(2次ヒータ105が設けられている側でない片側)には、作業員(図示せず)が仮撚装置104・巻取部1Cなどを保守・管理するための作業空間である作業用通路120が設けられている。この作業用通路120は、糸掛け作業用でもあり、後で詳述するが、満巻パッケージの取出し作業用、空の巻取管の補給作業用でもある。本実施形態の延伸仮撚加工機100は、左側の複数の錘と右側の複数の錘とが左右対称となるよう配置されている。すなわち、図5に示すように、左右の錘の2次ヒータ105を備えたセンター機枠同士が背中合わせで配置され、その両側に左右の錘の巻取部1Cが配置され、更にその両側に作業用通路120が配置され、更にその両側に給糸部1Aが配置されたレイアウトになっている。
なお、上記の糸掛け作業とは、給糸部1Aから加工処理部1Bを経て巻取部1Cへ至るまで糸2を導く作業をいい、巻取部1Cにおいて、糸2を後述する糸掛け手段へ至るまで導く作業を含むものである。
【0026】
次に、図1及び図2に基づいて巻取部1Cの構成に関して説明する。巻取部1Cは、延伸仮撚加工処理が施された糸2を巻取パッケージ3aとして巻き取る巻取機能と、満巻パッケージ3bを玉揚する玉揚機能とを有するものである。
【0027】
巻取部1Cは、糸2を巻き取る巻取装置50を備え、それぞれの巻取部1Cの前記巻取装置50には、満巻パッケージ3bを巻取装置50から取り外し、新たな空の巻取管3を巻取装置50に装着し、その新たな空の巻取管3に糸2を装着して、糸2を巻取装置50にて連続して巻き取れるようにするための自動玉揚装置60が個別に備えられている。
【0028】
巻取装置50は、大きくわけて以下のように構成されている。すなわち、延伸仮撚加工処理が施された糸2を巻き取る巻取管3を回転自在に挟持する一対のクレードルアーム(巻取管支持部材)4と、糸2を巻き取るために巻取管3(巻取パッケージ3a)を一定方向に回転させる接触ローラ(巻取管回転用回転体)5と、糸2を巻取管3(巻取パッケージ3a)に対して綾振るトラバース装置6と、から構成されている。
また、糸2は作業用通路120側から巻取装置50へ送給される。
【0029】
自動玉揚装置60は、大きくわけて以下のように構成されている。すなわち、前記一対のクレードルアーム4からなるクレードル40を個別に回動させるためのクレードルリフティング部(駆動部)7と、満巻きとなった満巻パッケージ3bの取り出しのための待機位置である一対の取出し用凹部8と、満巻パッケージ3bをその巻取位置から一対の取出し用凹部8へとその自重により転動させるための案内手段である一対の転がり案内面9と、空の巻取管3を複数ストックしておくためのストッカー(空巻取管保持機構)10と、巻取装置50に導かれた糸の端を吸引保持し、その糸の端をクレードルアーム4に保持された空の巻取管3に掛ける糸掛け手段(図示せず)と、を備えている。
【0030】
次に、前述の各構成要素を詳しく説明する。
【0031】
巻取管3は、延伸仮撚加工処理が施された糸2を巻き取るためのものであって、糸2を円滑で且つ等速に巻き取れるように略円筒状に成形されている。巻取管3は、一対のクレードルアーム4に、ボビンホルダー(巻取管支持構造)4aを介して回転自在に、且つその軸心が後述する接触ローラ5の軸心と平行となるように、且つ着脱自在に挟持されている。
【0032】
接触ローラ5は、糸2を巻き取るために巻取管3(巻取パッケージ3a)を回転中心3cの位置で一定方向に好適な速度で回転させるためのものであって、図1の紙面垂直方向に延在する軸5aにより回転駆動される。前記軸5aは、図5の紙面垂直方向に並設された複数の巻取部1Cで共有され、図示しない駆動源によって一定の速度で回転駆動されている。また接触ローラ5は、巻取部1Cの、作業用通路120側と反対側(以下、反通路側ともいう。)に設けられた梁(図示せず)から作業用通路120側に突設される基体90(図中では二点鎖線)の基端に回転自在に支持されている。
【0033】
クレードルアーム4は、図2に示すように一対で設けられ、その略中央に設けられたボビンホルダ4aを介して巻取管3を回転自在に挟持するためのものであって、一端側は回動自在に基体90の先端(作業用通路120側)上方に支持されている。この回動自在に支持された部分の中心がクレードル40の回動中心4bであり、ボビンホルダ4aは、クレードル40の回動中心4bよりも反通路側に配置されている。
また、前記一対のクレードルアーム4は何れも反通路側に向かって延びるとともに、その先端を互いに連結し合う連結部4cが備えられている。即ち、連結部4cは、ボビンホルダ4aよりも反通路側に位置している。この連結部4cにより連結される一対のクレードルアーム4の曲げ・捻り等の振動が抑制されるので、クレードル40の剛性が向上し、より確実に巻取管3を常に好適な姿勢に維持することができ、良好な巻取パッケージ3aを形成することができると同時に、上記の振動によりボビンホルダ4aに過度な外力が作用してボビンホルダ4aが損傷するのを防止することができる。
【0034】
トラバース装置6は、糸2を巻取管3(巻取パッケージ3a)に対して綾振るためのものであって、巻取管3と接触ローラ5との当接位置よりも糸2の上流側であって接触ローラ5の近くに設けられている。すなわち、トラバース装置6は回転中心3cよりも作業用通路120側(回転中心3cから見て糸を導入する側)に設けられている。
【0035】
クレードルリフティング部7は、玉揚げ時に図3及び図4に示すように、クレードル40を回動させるものであって、巻取管3の回転中心3cよりも作業用通路120側に配置されている。
クレードルリフティング部7の構成は以下の通りである。すなわち、基体90の先端下方に設けられた駆動源としての駆動軸91に適宜連結される駆動用カム7aと、駆動用カム7a上の一点と一方のクレードルアーム4上の一点とで懸架され、駆動軸91の回転トルクをクレードル40へ伝達するための駆動伝達腕7bと、を備えている。駆動用カム7aと駆動軸91との間には、図示しないクラッチ機構が介在しており、駆動軸91からの動力がクレードルリフティング部7に対して断接される。
【0036】
以上のように、本実施形態において巻取部1Cは、クレードルアーム4の回動中心4bおよびクレードルリフティング部7、トラバース装置6が巻取管3(巻取パッケージ3a)の回転中心3cに対して同一側(作業用通路120側)に設けられている。言い換えれば、上記の三者が、巻取管3の回転中心3cを面内に有する仮想的な鉛直平面(図1に示す平面P)を考えたときに、当該鉛直平面Pに対して一方側(作業用通路120側)に設けられている。
【0037】
これにより、クレードルアーム4の回動中心4bと、クレードルリフティング部7と、トラバース装置6と、が、巻取時の巻取管3から見て一方側に集約されたレイアウトとなっているので、延伸仮撚加工機100(巻取部1C)をコンパクトに形成することができる。
また、保守・管理などの作業を必要とするクレードルリフティング部7やトラバース装置6などの機器群が、巻取時の巻取管3から見て一方側に集約されたレイアウトとなっているので、メンテナンス作業が容易となる。
また、本実施形態における延伸仮撚加工機100では、前記機器群が配置される側と同一側に作業用通路120が配置されているので、作業員が作業用通路120から前記機器群にアクセスし易くなり、容易にメンテナンスできる。
【0038】
ところで、図1等に示される一対の取出し用凹部8は、所定の量が巻かれて払い出された満巻パッケージ3bを作業員等が回収するまで一時的にストックしておくものであり、巻取部1Cは、この一対の取出し用凹部8に満巻パッケージ3bを待機させたまま、前記ボビンホルダ4aに新しく巻取管3を装着して糸を巻くことができるようになっている。この満巻パッケージ3bの待機位置としての一対の取出し用凹部8は、一対で対面する基体90それぞれの先端上方に凹設されており、その凹設位置は、巻取管3(巻取パッケージ3a)の回転中心3c及びクレードルアーム4の回動中心4bよりも作業用通路120側とされている。
【0039】
以上のように、本実施形態において巻取部1Cは、前述の三者に加えて前記一対の取出し用凹部8を加えた四者が、いずれも、図1に示した仮想的な鉛直平面Pに対して一方側(作業用通路120側)に設けられている。
【0040】
これにより、玉揚げされ待機している満巻パッケージ3bを作業員が取り出すための作業用通路と、糸掛け作業を行うための及びクレードルリフティング部7やトラバース装置6などを保守・管理するための作業用通路と、を共通化でき、作業用通路を少なくすることができる。従って延伸仮撚加工機100全体をコンパクトに構成することができる。すなわち、図5に示すように、2つの巻取部1Cを背中合わせで配置したコンパクトなレイアウトとすることが、可能になる。しかも、糸掛け作業と満巻パッケージの取出し作業とを同じ作業通路から行うことができ、作業性が良い。更に、クレードルリフティング部7やトラバース装置6などのメンテナンスも容易に行える。更にまた、作業用通路120から2次ヒータ105までがコンパクトになり、2次ヒータ105への糸掛け作業性が良くなる。
【0041】
一対の転がり案内面9は、満巻パッケージ3bがその巻取位置から一対の取出し用凹部8へと転動する(移動する・払い出される)ための転がり案内手段であって、一対のクレードルアーム4の互いに対向する面にそれぞれ設けられている。
すなわち、巻取完了後、満巻パッケージ3bはクレードルリフティング部7により接触ローラ5から離隔され、満巻パッケージ3bの軸心が回動中心4bよりも鉛直方向で上に至った状態でボビンホルダ4aの満巻パッケージ3bに対する挟持が解除されると、満巻パッケージ3bは一対の取出し用凹部8に至るまで巻取管3の両端部が一対の転がり案内面9で支持されながら一対の転がり案内面9をその自重により転動する。
【0042】
これにより、クレードルアーム4が案内手段の機能を兼ねることで、部品点数を少なくすることができ、巻取部1Cの構成が簡素となる。
また、クレードルアーム4に好適な面を設けるだけで前記案内手段を形成することができるので、前記案内手段を設けるのが容易である。
また、前記連結部4cが、クレードル40の回動中心4bと前記鉛直平面Pを挟んで反対側に設けられているので、満巻パッケージ3bが前記一対の取出し用凹部8へ移動する際に、この連結部4cが邪魔になることがない。
【0043】
ストッカー10は、図1に示すように、空の巻取管3を複数(本実施形態では、3個)離脱可能に保持(ストック)するよう構成されている。このストッカー10は取出し口10dを備えており、この取出し口10dには弾性素材からなる空管保持部10a・10bが設けられている。この構成で、取出し口10dの部分の巻取管3は上記空管保持部10a・10bによって保持され、この空管保持部10a・10bを弾性変形させることで、取出し口10dから巻取管3を1つずつ取り出すことができるようになっている。
なお、取出し口10dから空の巻取管3が取り出されると、残りの巻取管3は自重によって取出し口10dへ向かって自然に移動するので、次回以降も巻取管3をスムーズに取り出せるようになっている。
【0044】
前記ストッカー10は、基体90の上方に図示しない手段により固設されている。より詳しくは、このストッカー10は、巻取管3の巻取時の回転中心3cを面内に有する前記鉛直平面Pに対して作業用通路120側に設けられており、言い換えれば、ストッカー10とクレードルアーム4の回動中心4bとは、この鉛直平面Pに対して同一側(一方側)に配置されることとなる。
【0045】
また、ストッカー10は、前記取出し口10dが設けられている側と反対側に、空の巻取管3を追加補充するための補充口10cを備えている。この補充口10cは、前記の鉛直平面Pと前記取出し口10dを挟んで反対側に配置されるよう構成されている。即ち、ストッカー10において、取出し位置の空の巻取管3は、他の補充された空の巻取管3からみて、前記鉛直平面P側となっている。言い換えれば、前記巻取管3の巻取時の巻取位置から、このストッカー10において取出し位置の空の巻取管3までの距離が、前記巻取管3の巻取時の巻取位置から、このストッカー10において取出し位置の空の巻取管3と隣り合う他の補充された空の巻取管3までの距離よりも短くなっている。
【0046】
本実施形態においては、前記補充口10cは作業用通路120に面する側に設けられている。従って、作業員は作業用通路120から補充口10cを介してストッカー10へ空の巻取管3を容易に補充できるようになっている。
【0047】
また本実施形態では、前記一対のクレードルアーム4の回動中心4bから巻取管3の巻取時の巻取位置までの距離と、前記一対のクレードルアーム4の回動中心4bから上記の空管保持部10a・10bにより保持されている取り出し位置の空の前記巻取管3までの距離が、等しくなるよう構成されている。
従って、ストッカー10の空管保持部10a・10bに保持され待機している空の前記巻取管3の位置まで前記一対のクレードルアーム4がクレードルリフティング部7により回動するだけで、前記一対のクレードルアーム4の備える前記一対のボビンホルダ4aと、この空の巻取管3が重なることとなり、クレードル40が前記一対のボビンホルダ4aを介してこの空の巻取管3を受け取ることができるようになっている。
【0048】
このとき、この空の巻取管3が取り出される方向が、前記ストッカー10に保持されている他の空の巻取管3から離れる方向となっているので、この取出し位置の空の巻取管3を、隣り合う他の空の巻取管3と干渉することなく、ストッカー10より取り出すことができる。
【0049】
糸掛け手段(図示せず)は、給糸パッケージ101から巻取装置50に至る糸の端を一時的に保持し、回転中心3cに保持した空の巻取管3に自動的にその糸の端を掛けるためのものだが、これにより新たな巻取工程を自動的に開始することができる。
【0050】
なお、反通路側より適宜案内されて巻取部1Cへ導かれた糸2は、最終的に巻取部1Cの作業用通路120側に設けられた糸案内20を介してトラバース装置6へ導かれる。
【0051】
次に、本実施形態に係る延伸仮撚加工機100の作動について説明する。
【0052】
給糸部1Aから供給された糸2が加工処理部1Bによる延伸仮撚加工処理を経て、巻取部1Cへ至るまでの工程は先に説明したとおりである(図5参照)。
【0053】
図1及び図2に基づいて、巻取工程について説明する。
【0054】
巻取管3の外周面にはあらかじめ糸2が掛けられており、等速回転している接触ローラ5に当接することで巻取管3は回転し、糸2を巻取パッケージ3aとして巻き取る。この際、巻取パッケージ3aの外周面における速度を一定に維持するために以下のように構成されている。
【0055】
第一に、巻取パッケージ3aは巻取時に巻き太る、つまり巻き取られた糸2を含む外径が徐々に大となる。これに応じて、巻取パッケージ3aを挟持するクレードル40は回動中心4bまわりに回動し、巻取パッケージ3aの軸心と接触ローラ5の軸心との距離を好適にするよう構成されている。
【0056】
第二に、例えばコイルバネや板バネなどの弾性体や適宜のカム機構等からなる付勢手段(図示せず)により、クレードル40は接触ローラ5に対して近づくように付勢されている。
【0057】
第三に、トラバース装置6によって糸2が巻取時に巻取管3(巻取パッケージ3a)上で綾振られる。これにより、巻取パッケージ3aの外周面は巻取時、常に略円筒状となるように維持される。
【0058】
第四に、連結部4cが一対のクレードルアーム4を連結するように設けられ、この一対のクレードルアーム4の曲げ・捻り等の振動が抑制されるので、クレードル40の剛性が向上し、より確実に巻取管3を常に好適な姿勢に維持することができる。
【0059】
以上の構成により、巻取管3に対して、その径の大小に関わらず、前記付勢手段により好適な付勢力を付与することができる。その上、巻取管3の外周面が常に略円筒状となっており、また、巻取管3の軸心と接触ローラ5の軸心とが平行となるよう維持される。これにより、巻取管3の外周面が接触ローラ5に確実に当接し両者間で滑りが生じない。したがって、巻取時に巻取管3の外周面における速度が一定に維持されると共に、糸切れや糸の弛み等が発生することなく、糸2を良好に巻取ることができる。
【0060】
ただし、クレードルリフティング部7に設けられた該クラッチ機構は、巻取開始時から巻取終了時まで解除されており、クレードル40は前述の通り前記付勢手段により接触ローラ5へ近づく向きに付勢された状態となっている。したがって、クレードル40の回動角度は、巻取パッケージ3aの巻き太りに応じた径の大小により決められる。
【0061】
次に、図3および図4に基づいて、満巻パッケージ3bが取外され、空の巻取管3に差し替えられ、次の巻取が開始されるまでの工程を説明する。
【0062】
図3において、接触ローラ5に当接するとともに一対のボビンホルダ4aに挟持されている満巻パッケージ3bが破線で示されている。
【0063】
図3の破線で示すように、巻取パッケージ3aが満巻状態となると、自動玉揚装置60は、カッター(不図示)で満巻パッケージ3bにつながる糸2を切断し、図4に示すように、給糸パッケージ101からいたる糸2の端を図示しない糸吸引手段により吸引保持する。またそれと同時に、該クラッチ機構により駆動用カム7aと駆動軸91とを連結させる。
【0064】
すると、クレードル40が回動中心4bまわりに上方へ回動するよう駆動され、一対のボビンホルダ4aに挟持された満巻パッケージ3bが図3の実線の位置まで上昇する。
【0065】
これにより、第一に、満巻パッケージ3bの外周面と接触ローラ5の外周面との間に間隙が形成される。
第二に、一対のクレードルアーム4の対向する面に設けられた転がり案内面9が作業用通路120側へ向かって下り傾斜になる。
【0066】
以上のようにクレードル40が回動したときに一対のボビンホルダ4aによる満巻パッケージ3bの挟持を解除すると、図3の矢印に示すように、満巻パッケージ3bが一対の取出し用凹部8へ向かって転がり案内面9上をその自重により転動する。一対の取出し用凹部8に至った満巻パッケージ3bは、図中において二点鎖線で示されている。
【0067】
一対のボビンホルダ4aの挟持が解除され満巻パッケージ3bが取出し用凹部8へ移動した後、図4に示すように、クレードル40はさらに上方へ回動し、ストッカー10の空管保持部10a・10bに保持された先頭の空の巻取管3の軸心と、ボビンホルダ4aの軸心とが略一致する。そこで、一対のボビンホルダ4aが空の巻取管3を挟持し、クレードル40に空の巻取管3を保持する。その後、挟持した空の巻取管3と接触ローラ5とが当接するまでクレードルリフティング部7はクレードル40を下方へ回動させ、両者が当接すると同時に該クラッチ機構が解除され、一対のボビンホルダ4aに挟持された空の巻取管3が回転し始める。
なお、このとき、ストッカー10の取出し口10dに保持されている空の巻取管3は、ストッカー10に保持されている他の空の巻取管3から離れる方向へ干渉することなく取り出されることとなる。
【0068】
糸掛け手段(図示せず)により、すでに回転している巻取管3の外周面に吸引手段で保持されていた糸2が掛けられ、糸2は巻取管3に再度巻き取られ始める。
【0069】
以上のように、巻取部1Cでは、第1に、巻取装置50により巻取管3に糸2が巻き取られる。第2に、自動玉揚装置60により満巻パッケージ3bは取出し用凹部8へ移され、クレードル40が空の巻取管3を受取に行き、糸掛け手段により糸2が受け取った巻取管3に掛けられ、再度巻取が開始される。
【0070】
なお、作業用通路120に待機している作業員は、取出し用凹部8に移された満巻パッケージ3bを取出して回収すると共に、適宜、空の巻取管3をストッカー10に補充口10cを介して追加補充する。
また、トラバース装置6およびクレードルリフティング部7は、保守・管理を必要とするが、それは例えば、清掃や注油などの日常的な作業から、巻取不良の対応や破損修理など多岐に亘る。さらに、糸切れ後やメンテナンス作業後の初期巻取開始のために行う糸掛け作業も行うこととなる。
【0071】
以上説明したような作業員の作業は、回動中心4b・トラバース装置6・クレードルリフティング部7・取出し用凹部8・ストッカー10が、巻取管3の巻取位置よりも作業用通路120側に配置されていることにより、容易に行えるようになっている。また、このように前五者が巻取管3の巻取位置から見て一方側に集約されたレイアウトとなっているので、延伸仮撚加工機100をコンパクトに構成できる。
【0072】
また、糸掛け作業・満巻パッケージ3bの取出し作業・空の前記巻取管3を補充する作業・トラバース装置6やクレードルリフティング部7などのメンテナンス作業が、同一側(糸の導入側)から可能となるよう構成されているので、前記作業を行うに際して必要とする作業通路を、巻取部1Cに対して片側のみ、即ち、作業用通路120のみと共通化できる。従って、延伸仮撚加工機100のレイアウト、特に延伸仮撚加工機100の機台幅(図5において、紙面左右方向)をコンパクトに構成できる。
【0073】
また、以上説明したように、前記クレードル40に新たな空の巻取管3を装着させるためにストッカー10を一切駆動させる必要がなく、また、一対のクレードルアーム4を単に回動させるだけでストッカー10から空の巻取管3を受け取ることができる。言い換えれば、この一対のクレードルアーム4が空の巻取管3を受け取りに行く機能を兼ねる。従って、ストッカー10の構成を簡素とできると共に、自動玉揚装置に必要な部品点数を低減できる。
【0074】
なお好ましくは、駆動用カム7aの運動を適宜止める止め手段をクレードルリフティング部7に設けると良い。前記止め手段は、ディスクブレーキやドラムブレーキ、或いはワンウェイクラッチであっても良い。これにより、満巻パッケージ3bが取出し用凹部8へ転動する際にはその転動が確実に完了するまで転がり案内面9の好適な傾斜を維持することができ、或いは図3に示すように一対のボビンホルダ4aが空の巻取管3を挟持する際にはその挟持が確実に完了するまで一対のボビンホルダ4aの位置を維持することができる。
【0075】
また本実施形態においては、連結部4cは一対のボビンホルダ4aよりも反通路側に設けられているが、これに限らず、一対のボビンホルダ4aと回動中心4bとの間に設けても良いし、回動中心4bよりも作業用通路120側に設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の巻取部を示す巻取開始時の部分模式図。
【図2】本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の巻取部を示す巻取開始時の部分斜視図。
【図3】本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の巻取部を示す満巻き時の部分模式図。
【図4】本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の巻取部を示す巻取管差替え時の部分模式図。
【図5】本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の全体図。
【符号の説明】
【0077】
2 糸
3 巻取管
3b 満巻パッケージ
3c 巻取管の回転中心
4 クレードルアーム
6 トラバース装置
7 クレードルリフティング部
9 転がり案内面
10 ストッカー
40 クレードル
50 巻取装置
60 自動玉揚装置
100 延伸仮撚加工機
P 鉛直平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数並設された巻取装置を備え、これらの巻取装置のそれぞれに自動玉揚装置を個別に備えた繊維機械において、
前記巻取装置のそれぞれは、
糸を巻き取るための巻取管を回転自在に支持する巻取管支持部材と、
前記巻取管に巻き取られる糸を綾振りするトラバース装置と、
を備えており、
また、前記自動玉揚装置のそれぞれは、
前記巻取管支持部材を個別に回動させることが可能な駆動部を備えており、
前記巻取管支持部材の回動中心と、前記駆動部と、前記トラバース装置と、が、前記巻取管の巻取時における回転中心を面内に有する鉛直平面に対して一方側に設けられていることを特徴とする、繊維機械。
【請求項2】
前記巻取管支持部材の回動中心と、前記駆動部と、前記トラバース装置と、前記自動玉揚装置によって玉揚げされた満巻パッケージの取出しのための待機位置が、前記鉛直平面に対して一方側に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の繊維機械。
【請求項3】
前記巻取管支持部材は一対で備えられ、
前記一対の巻取管支持部材を連結する連結手段が、前記巻取管支持部材の回動中心と異なる位置に設けられていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の繊維機械。
【請求項4】
前記連結手段は、前記鉛直平面を挟んで前記巻取管支持部材の回動中心と反対側に設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の繊維機械。
【請求項5】
前記自動玉揚装置によって巻取管支持部材から取り外された満巻パッケージを取出しのための待機位置へ移動させる案内手段が、前記巻取管支持部材に備えられていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維機械。
【請求項6】
前記案内手段は、転がり案内面であることを特徴とする、請求項5に記載の繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−283256(P2006−283256A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108479(P2005−108479)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】