繊維状触媒
【課題】セラミックス繊維材に対する触媒コート層の付着強度を高め、繊維状担体からの触媒成分の剥離や脱落を防止することができる繊維状触媒を提供する。
【解決手段】例えば、アルミナシリカなどのセラミックス繊維の表面に、平均粒子径が1nm〜1μmのセリア含有粒子、好ましくは少なくともCeO2を含む無機酸化物を含有する触媒層をコートする。
【解決手段】例えば、アルミナシリカなどのセラミックス繊維の表面に、平均粒子径が1nm〜1μmのセリア含有粒子、好ましくは少なくともCeO2を含む無機酸化物を含有する触媒層をコートする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セラミックスの表面に触媒を担持して成り、例えば、ディーゼルエンジンからの排気ガス中に含まれるPM(パーティキュレート・マター)を除去するのに好適に用いられる繊維状触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の台数は飛躍的に増加しており、それに比例して自動車の内燃機関から出される排気ガスの量も急激な増加の一途を辿っている。
特に、ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では地球環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
また、最近では排気ガス中に含まれるスス等のパティキュレートが、時としてアレルギー障害や精子数の減少を引き起こす原因となるとの研究結果も報告されている。
このように、排気ガス中のパティキュレートを除去する対策を講じることが、人類にとって急務の課題であると考えられている。
【0004】
このような事情のもとに、例えばディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する排気ガス浄化用触媒担持フィルタとして、セラミック繊維材からなる触媒担体を備えた排気ガス浄化フィルタが提案されている。
このような排気ガス浄化フィルタは、内燃機関から排出される排気ガスを通す排気管の途中に設けたケーシング内に収容されており、内燃機関から排出される排気ガスを浄化フィルタに通過させることにより、その排気ガス中に含まれるパティキュレートが除去されるようになっている。
【0005】
従来、この種の浄化フィルタとしては、排気ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)等の有害物質を除去することが考えられており、それには、セラミック繊維材からなる触媒担体の表面に触媒コート層を形成し、この触媒コート層にPt,Pd,Rh等の貴金属やアルカリ金属等からなる触媒を担持することになる。
触媒担体の表面に触媒コート層を形成するには、アルミナ粉末を含むスラリーに触媒担体を含浸した後、乾燥、焼成する方法があり、このような浄化フィルタとすることによって、浄化フィルタに排気ガスが通過する際に、排気ガスに含まれる一酸化炭素や炭化水素の酸化除去と共に、窒素酸化物の還元除去を効率よく行うことができる。
【0006】
このような触媒コート層の担体に対する担持強度を向上させる方法としては、一般的には、シリカゾルを含浸した後、所定の温度で加熱してゲル化する方法が知られており、このような方法を適用することによって、シリカゾル中の水分が加熱により蒸発し、シリカの微粒子から成る多孔質ゲルが形成されることから、この充填効果によって触媒の強化が可能になる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭55−155740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような方法は、ハニカム担体のように、担体自体に機械的応力がかからないものに対しては有効であるものの、セラミック繊維材を触媒担体として用いる場合には、その表面が滑らかであるため、触媒担体にスラリーを塗布したとしても、単繊維内に含浸させることができず、表面張力の関係で触媒コート層がセラミック繊維材の特定箇所に偏在することになってしまい、その結果、セラミック繊維材の表面に分散した状態となって、均一に担持されなくなり、触媒としての効果が低下するばかりでなく、せっかく担持されたコート層が繊維材の変形や振動によっても容易に隔離してしまうことから、触媒効果を維持することができなくなる。
【0008】
本発明は、セラミックス繊維を担体として用いた繊維状触媒における上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、セラミックス繊維材に対する触媒コート層の付着強度を高め、繊維状担体からの触媒成分の剥離を防止することができる繊維状触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、触媒コート層に含まれるセリア含有粒子として、粒子径がナノレベルのものを使用することによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の繊維状触媒は、セラミックス繊維の表面に、平均粒子径が1nm〜1μmのセリア含有粒子を含む触媒層がコートされていることを特徴とする。
また、本発明の繊維状触媒におけるセリア含有粒子としては、活性酸素発生剤として知られるセリア(CeO2)を含有するものを用いることができ、このような繊維状触媒は、例えば自動車用の排ガス浄化触媒として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セラミックス繊維の表面にコートされる触媒層に含まれるセリア含有粒子の平均粒子径を1nm〜1μmの範囲のものとしたため、触媒担体としてのセラミックス繊維表面に対する触媒層の付着力を増すことができ、担体からの触媒成分の剥離を防止して繊維状触媒の耐用寿命を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の繊維状触媒について、さらに詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0013】
本発明の繊維状触媒においては、上記したように、セラミックス繊維の表面に、平均粒子径が1nm〜1μmのセリア含有粒子を含む触媒層がコートされており、当該セリア含有粒子として、ナノレベルの微細粒子を用いた。これにより、粒子同士の接着などの相互作用を軽減することによって触媒層表面の柔軟性が向上し、セラミックス繊維担体の振動や変形に追随できる。つまり、耐剥離性が向上することになる。
【0014】
本発明の繊維状触媒において、触媒担体となるセラミックス繊維としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)若しくはシリカ(SiO2)を含む繊維、又はこれらの2種以上を含む繊維を用いることができる。
【0015】
これらセラミックス繊維は、高い比表面積を有していることから、触媒成分を担持する触媒担体として好適なものとなる。
なお、当該セラミックス繊維の径としては、物理的表面積を高くする観点から、細い方が好ましい。
【0016】
本発明において、上記セラミック繊維としては、単繊維のみならず、セラミックス繊維が集合体を形成しているもの、すなわち、セラミックス繊維から成る織布や、不織布、フエルト、紙などの形態のものを使用することも可能である。
【0017】
本発明の繊維状触媒においては、セリア含有粒子として、平均粒子径が1nm〜1μmのゾルを用いることができる。触媒成分の微小ゾルを用いることによって、機械的強度が増すと共に、コート層を薄くすることができ、繊維の充填密度を向上させることが可能になる。
なお、この場合、セラミックス繊維の太さ(径)としては、概ね1〜50μm程度のものを使用することが望ましい。
【0018】
本発明において、セリア含有粒子としては、セリアやセリア−プラセオジム、セリア−マンガンなど、少なくともCeO2を含む材料を用いることが望ましい。
すなわち、CeO2を含まないゾルは、担体上にコートした後、焼成することによって表面積が小さくなってしまう傾向があるのに対し、CeO2と共に用いることによってプラセオジムやマンガンが高分散するようになることが分かったからである。つまり、セリア含有粒子は靭性付与剤として作用する。また、セリアは活性酸素放出剤としても優れた効果があるため、助触媒としても作用する。このためセリアを添加しない場合と比べると触媒性能が格段に向上する。
【0019】
本発明の繊維状触媒は、例えば、自動車の内燃機関から排出される排ガス浄化用触媒に適用することができる。
そして、特にこのような用途を考慮すると、触媒層をコートした当該繊維状触媒を10mmの曲率半径で90°曲げるような試験を実施した場合でも、セラミックス繊維上に付着している触媒層が剥離して脱落したり、セラミックス繊維自体が破断したりするようなことがない程度の強度を有していることが望ましい。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
セリア含有粒子として、平均粒子径が5nmであって、15質量%の濃度のセリアゾルを用意し、この溶液をスプレー機に入れ、平均繊維長さ3mm、平均繊維径15μmのアルミナシリカ繊維(株式会社ニチビ製)の表面全体に均等に色が付くまで噴霧し、120℃で1時間乾燥した後、400℃で1時間焼成することによって、本例の繊維状触媒を得た。
これによって、繊維表面に厚さ1μmの触媒層が形成された。
【0022】
(実施例2)
上記実施例1に用いたセリアゾルに、溶液全体に対する濃度が0.3質量%となるように、ジニトロジアミノ白金溶液を加えた溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の繊維状触媒を得た。
なお、このときの触媒層の厚さは、1μmであった。
【0023】
(実施例3)
セリア含有粒子として、平均粒子径が60nmのCe−Pr−Oxゾルを用意し、この溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の繊維状触媒を得た。
【0024】
(比較例1)
先ず、CeO2200gとベーマイトゾル50gを混合し、これに硝酸10%溶液を加え、ボールミルで粉砕することによってスラリーを作成した。このときの平均粒径は3.5μmであった。
このスラリーに、上記アルミナシリカ繊維を浸し、吸引して余計なコート分を排除した後、120℃で1時間乾燥し、さらに400℃で1時間焼成することによって、本例の繊維状触媒を得た。
【0025】
(比較例2)
セリアゾルを用いないこと以外は、上記実施例2と同様の操作を繰り返し、本例の繊維状触媒を得た。
【0026】
〔外観観察〕
上記実施例1、2及び比較例1により得られた各繊維状触媒の外観を電子顕微鏡により調査した。
各繊維状触媒の外観を図1(実施例1)、図2(実施例2)及び図3(比較例1)にそれぞれ示す。
【0027】
この結果、平均粒子径が3.5μmのセリアを含有するスラリーを用いた繊維状触媒(比較例1)においては、粒子が繊維上に塊となって付着しているのに対し、平均粒子径が5nmのセリアゾルを用いた実施例1及び2による繊維状触媒においては、このような塊の存在を確認することができなかった。
【0028】
〔曲げ試験〕
実施例1、2及び比較例1により得られた各繊維状触媒を図4に示すように、曲率半径10mm、角度90°の曲げ試験を行い、その後の触媒層の状態を目視観察した。その結果を纏めて、表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
この結果、平均粒子径が5nmのセリアゾルを用いた実施例1、2、及び平均粒子径が60nmのCe−Pr−Oxゾルを用いた実施例3による繊維状触媒においては、曲げ試験においても触媒層の剥離は認められず、機械的強度が高いことを示している。
一方、平均粒子径が3.5μmのセリア含有スラリーを用いた比較例1、及びセリアを用いない比較例2では、曲げ試験によって触媒層の剥離が確認された。
【0031】
なお、曲げ試験後の繊維状触媒の外観として、その代表例を図5(実施例1)、図6(実施例2)及び図7(比較例1)にそれぞれ示す。
また、上記実施例2及び比較例2によって得られた繊維状触媒について、図10に示すような方向からの透過型電子顕微鏡による横断面組織の観察結果を図8及び9にそれぞれ示す。
【0032】
実施例2による繊維状触媒においては、図8に示すように、セラミック繊維との間にナノサイズのセリアが介在していることが確認され、これによって繊維との接触界面が増加するため、繊維表面のOHとセリア表面のOHの間に生じる水素結合が増加することから触媒層の脱落が防止されるのに対し、比較例2で得られた繊維状触媒においては、図9に示すように、Pt粒子は繊維との接触界面が増加するが、Ptは金属であるために繊維表面のOHとの水素結合がほとんどない状態となっており、触媒層の脱落を十分に防止することができないことが判明した。
【0033】
〔PM燃焼試験〕
実施例3で得られた繊維状触媒を、図11に示すラインで評価した。
まず、図11に示すディーゼルエンジンからサンプルに排ガスを流し、排ガスの供給開始から90分間ガスを透過させた。
【0034】
PM堆積量の測定に際しては、サンプルをはずして、25℃湿度60%の大気中に8時間以上放置し、天秤測定を行い、この測定値をAとした。その後、800℃のマッフル炉中で1時間焼成し、PMを除去した。
そして、再び25℃湿度60%の大気中に8時間以上放置し、天秤測定を行い、この値をBとし、AからBを差し引いてPM堆積量とした。なお、本測定による重量誤差は0.003gである。
【0035】
上記により求めたPM堆積量を触媒層のない繊維のみによる場合と、当該繊維に触媒層を形成した実施例3の繊維状触媒による場合とで比較し、図12に示すように、これらの差を当該触媒層の効果と考え、この差をPM除去量とした。そして、繊維のみによるPM堆積量に対する百分率をPM除去率として求めた。
PM除去率=PM除去量/繊維のみによるPM堆積量×100
【0036】
そして、触媒温度を450℃、560℃、570℃及び580℃と4段階に変化させた場合について、上記の測定をそれぞれ実施し、その結果を表2及び図13にそれぞれ示す。
【0037】
【表2】
【0038】
この結果、実施例3で得られた繊維状触媒は、450℃から560℃では、実験誤差と同レベルの0.003g以内であって、効果があるとは断定できなかった。しかしながら、570℃から580℃では、図13にも示すように、実験誤差範囲を超える大きなPM除去率が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1で得られた繊維状触媒の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られた繊維状触媒の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られた繊維状触媒の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例における曲げ試験要領を示す写真である。
【図5】実施例1で得られた繊維状触媒の曲げ試験後の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で得られた繊維状触媒の曲げ試験後の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例3で得られた繊維状触媒の曲げ試験後の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例2で得られた繊維状触媒の断面組織を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例2で得られた繊維状触媒の断面組織を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図10】図8及び9における観察方向を示す説明図である。
【図11】PM堆積量の測定要領を示す概略説明図である。
【図12】触媒層の有無に対するPM堆積量とPM除去量の関係を示す説明図である。
【図13】実施例3による繊維状触媒における触媒温度とPM除去率の関係を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セラミックスの表面に触媒を担持して成り、例えば、ディーゼルエンジンからの排気ガス中に含まれるPM(パーティキュレート・マター)を除去するのに好適に用いられる繊維状触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の台数は飛躍的に増加しており、それに比例して自動車の内燃機関から出される排気ガスの量も急激な増加の一途を辿っている。
特に、ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では地球環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
また、最近では排気ガス中に含まれるスス等のパティキュレートが、時としてアレルギー障害や精子数の減少を引き起こす原因となるとの研究結果も報告されている。
このように、排気ガス中のパティキュレートを除去する対策を講じることが、人類にとって急務の課題であると考えられている。
【0004】
このような事情のもとに、例えばディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する排気ガス浄化用触媒担持フィルタとして、セラミック繊維材からなる触媒担体を備えた排気ガス浄化フィルタが提案されている。
このような排気ガス浄化フィルタは、内燃機関から排出される排気ガスを通す排気管の途中に設けたケーシング内に収容されており、内燃機関から排出される排気ガスを浄化フィルタに通過させることにより、その排気ガス中に含まれるパティキュレートが除去されるようになっている。
【0005】
従来、この種の浄化フィルタとしては、排気ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)等の有害物質を除去することが考えられており、それには、セラミック繊維材からなる触媒担体の表面に触媒コート層を形成し、この触媒コート層にPt,Pd,Rh等の貴金属やアルカリ金属等からなる触媒を担持することになる。
触媒担体の表面に触媒コート層を形成するには、アルミナ粉末を含むスラリーに触媒担体を含浸した後、乾燥、焼成する方法があり、このような浄化フィルタとすることによって、浄化フィルタに排気ガスが通過する際に、排気ガスに含まれる一酸化炭素や炭化水素の酸化除去と共に、窒素酸化物の還元除去を効率よく行うことができる。
【0006】
このような触媒コート層の担体に対する担持強度を向上させる方法としては、一般的には、シリカゾルを含浸した後、所定の温度で加熱してゲル化する方法が知られており、このような方法を適用することによって、シリカゾル中の水分が加熱により蒸発し、シリカの微粒子から成る多孔質ゲルが形成されることから、この充填効果によって触媒の強化が可能になる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭55−155740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような方法は、ハニカム担体のように、担体自体に機械的応力がかからないものに対しては有効であるものの、セラミック繊維材を触媒担体として用いる場合には、その表面が滑らかであるため、触媒担体にスラリーを塗布したとしても、単繊維内に含浸させることができず、表面張力の関係で触媒コート層がセラミック繊維材の特定箇所に偏在することになってしまい、その結果、セラミック繊維材の表面に分散した状態となって、均一に担持されなくなり、触媒としての効果が低下するばかりでなく、せっかく担持されたコート層が繊維材の変形や振動によっても容易に隔離してしまうことから、触媒効果を維持することができなくなる。
【0008】
本発明は、セラミックス繊維を担体として用いた繊維状触媒における上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、セラミックス繊維材に対する触媒コート層の付着強度を高め、繊維状担体からの触媒成分の剥離を防止することができる繊維状触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、触媒コート層に含まれるセリア含有粒子として、粒子径がナノレベルのものを使用することによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の繊維状触媒は、セラミックス繊維の表面に、平均粒子径が1nm〜1μmのセリア含有粒子を含む触媒層がコートされていることを特徴とする。
また、本発明の繊維状触媒におけるセリア含有粒子としては、活性酸素発生剤として知られるセリア(CeO2)を含有するものを用いることができ、このような繊維状触媒は、例えば自動車用の排ガス浄化触媒として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セラミックス繊維の表面にコートされる触媒層に含まれるセリア含有粒子の平均粒子径を1nm〜1μmの範囲のものとしたため、触媒担体としてのセラミックス繊維表面に対する触媒層の付着力を増すことができ、担体からの触媒成分の剥離を防止して繊維状触媒の耐用寿命を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の繊維状触媒について、さらに詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0013】
本発明の繊維状触媒においては、上記したように、セラミックス繊維の表面に、平均粒子径が1nm〜1μmのセリア含有粒子を含む触媒層がコートされており、当該セリア含有粒子として、ナノレベルの微細粒子を用いた。これにより、粒子同士の接着などの相互作用を軽減することによって触媒層表面の柔軟性が向上し、セラミックス繊維担体の振動や変形に追随できる。つまり、耐剥離性が向上することになる。
【0014】
本発明の繊維状触媒において、触媒担体となるセラミックス繊維としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)若しくはシリカ(SiO2)を含む繊維、又はこれらの2種以上を含む繊維を用いることができる。
【0015】
これらセラミックス繊維は、高い比表面積を有していることから、触媒成分を担持する触媒担体として好適なものとなる。
なお、当該セラミックス繊維の径としては、物理的表面積を高くする観点から、細い方が好ましい。
【0016】
本発明において、上記セラミック繊維としては、単繊維のみならず、セラミックス繊維が集合体を形成しているもの、すなわち、セラミックス繊維から成る織布や、不織布、フエルト、紙などの形態のものを使用することも可能である。
【0017】
本発明の繊維状触媒においては、セリア含有粒子として、平均粒子径が1nm〜1μmのゾルを用いることができる。触媒成分の微小ゾルを用いることによって、機械的強度が増すと共に、コート層を薄くすることができ、繊維の充填密度を向上させることが可能になる。
なお、この場合、セラミックス繊維の太さ(径)としては、概ね1〜50μm程度のものを使用することが望ましい。
【0018】
本発明において、セリア含有粒子としては、セリアやセリア−プラセオジム、セリア−マンガンなど、少なくともCeO2を含む材料を用いることが望ましい。
すなわち、CeO2を含まないゾルは、担体上にコートした後、焼成することによって表面積が小さくなってしまう傾向があるのに対し、CeO2と共に用いることによってプラセオジムやマンガンが高分散するようになることが分かったからである。つまり、セリア含有粒子は靭性付与剤として作用する。また、セリアは活性酸素放出剤としても優れた効果があるため、助触媒としても作用する。このためセリアを添加しない場合と比べると触媒性能が格段に向上する。
【0019】
本発明の繊維状触媒は、例えば、自動車の内燃機関から排出される排ガス浄化用触媒に適用することができる。
そして、特にこのような用途を考慮すると、触媒層をコートした当該繊維状触媒を10mmの曲率半径で90°曲げるような試験を実施した場合でも、セラミックス繊維上に付着している触媒層が剥離して脱落したり、セラミックス繊維自体が破断したりするようなことがない程度の強度を有していることが望ましい。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
セリア含有粒子として、平均粒子径が5nmであって、15質量%の濃度のセリアゾルを用意し、この溶液をスプレー機に入れ、平均繊維長さ3mm、平均繊維径15μmのアルミナシリカ繊維(株式会社ニチビ製)の表面全体に均等に色が付くまで噴霧し、120℃で1時間乾燥した後、400℃で1時間焼成することによって、本例の繊維状触媒を得た。
これによって、繊維表面に厚さ1μmの触媒層が形成された。
【0022】
(実施例2)
上記実施例1に用いたセリアゾルに、溶液全体に対する濃度が0.3質量%となるように、ジニトロジアミノ白金溶液を加えた溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の繊維状触媒を得た。
なお、このときの触媒層の厚さは、1μmであった。
【0023】
(実施例3)
セリア含有粒子として、平均粒子径が60nmのCe−Pr−Oxゾルを用意し、この溶液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の繊維状触媒を得た。
【0024】
(比較例1)
先ず、CeO2200gとベーマイトゾル50gを混合し、これに硝酸10%溶液を加え、ボールミルで粉砕することによってスラリーを作成した。このときの平均粒径は3.5μmであった。
このスラリーに、上記アルミナシリカ繊維を浸し、吸引して余計なコート分を排除した後、120℃で1時間乾燥し、さらに400℃で1時間焼成することによって、本例の繊維状触媒を得た。
【0025】
(比較例2)
セリアゾルを用いないこと以外は、上記実施例2と同様の操作を繰り返し、本例の繊維状触媒を得た。
【0026】
〔外観観察〕
上記実施例1、2及び比較例1により得られた各繊維状触媒の外観を電子顕微鏡により調査した。
各繊維状触媒の外観を図1(実施例1)、図2(実施例2)及び図3(比較例1)にそれぞれ示す。
【0027】
この結果、平均粒子径が3.5μmのセリアを含有するスラリーを用いた繊維状触媒(比較例1)においては、粒子が繊維上に塊となって付着しているのに対し、平均粒子径が5nmのセリアゾルを用いた実施例1及び2による繊維状触媒においては、このような塊の存在を確認することができなかった。
【0028】
〔曲げ試験〕
実施例1、2及び比較例1により得られた各繊維状触媒を図4に示すように、曲率半径10mm、角度90°の曲げ試験を行い、その後の触媒層の状態を目視観察した。その結果を纏めて、表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
この結果、平均粒子径が5nmのセリアゾルを用いた実施例1、2、及び平均粒子径が60nmのCe−Pr−Oxゾルを用いた実施例3による繊維状触媒においては、曲げ試験においても触媒層の剥離は認められず、機械的強度が高いことを示している。
一方、平均粒子径が3.5μmのセリア含有スラリーを用いた比較例1、及びセリアを用いない比較例2では、曲げ試験によって触媒層の剥離が確認された。
【0031】
なお、曲げ試験後の繊維状触媒の外観として、その代表例を図5(実施例1)、図6(実施例2)及び図7(比較例1)にそれぞれ示す。
また、上記実施例2及び比較例2によって得られた繊維状触媒について、図10に示すような方向からの透過型電子顕微鏡による横断面組織の観察結果を図8及び9にそれぞれ示す。
【0032】
実施例2による繊維状触媒においては、図8に示すように、セラミック繊維との間にナノサイズのセリアが介在していることが確認され、これによって繊維との接触界面が増加するため、繊維表面のOHとセリア表面のOHの間に生じる水素結合が増加することから触媒層の脱落が防止されるのに対し、比較例2で得られた繊維状触媒においては、図9に示すように、Pt粒子は繊維との接触界面が増加するが、Ptは金属であるために繊維表面のOHとの水素結合がほとんどない状態となっており、触媒層の脱落を十分に防止することができないことが判明した。
【0033】
〔PM燃焼試験〕
実施例3で得られた繊維状触媒を、図11に示すラインで評価した。
まず、図11に示すディーゼルエンジンからサンプルに排ガスを流し、排ガスの供給開始から90分間ガスを透過させた。
【0034】
PM堆積量の測定に際しては、サンプルをはずして、25℃湿度60%の大気中に8時間以上放置し、天秤測定を行い、この測定値をAとした。その後、800℃のマッフル炉中で1時間焼成し、PMを除去した。
そして、再び25℃湿度60%の大気中に8時間以上放置し、天秤測定を行い、この値をBとし、AからBを差し引いてPM堆積量とした。なお、本測定による重量誤差は0.003gである。
【0035】
上記により求めたPM堆積量を触媒層のない繊維のみによる場合と、当該繊維に触媒層を形成した実施例3の繊維状触媒による場合とで比較し、図12に示すように、これらの差を当該触媒層の効果と考え、この差をPM除去量とした。そして、繊維のみによるPM堆積量に対する百分率をPM除去率として求めた。
PM除去率=PM除去量/繊維のみによるPM堆積量×100
【0036】
そして、触媒温度を450℃、560℃、570℃及び580℃と4段階に変化させた場合について、上記の測定をそれぞれ実施し、その結果を表2及び図13にそれぞれ示す。
【0037】
【表2】
【0038】
この結果、実施例3で得られた繊維状触媒は、450℃から560℃では、実験誤差と同レベルの0.003g以内であって、効果があるとは断定できなかった。しかしながら、570℃から580℃では、図13にも示すように、実験誤差範囲を超える大きなPM除去率が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1で得られた繊維状触媒の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られた繊維状触媒の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られた繊維状触媒の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例における曲げ試験要領を示す写真である。
【図5】実施例1で得られた繊維状触媒の曲げ試験後の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で得られた繊維状触媒の曲げ試験後の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例3で得られた繊維状触媒の曲げ試験後の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例2で得られた繊維状触媒の断面組織を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例2で得られた繊維状触媒の断面組織を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図10】図8及び9における観察方向を示す説明図である。
【図11】PM堆積量の測定要領を示す概略説明図である。
【図12】触媒層の有無に対するPM堆積量とPM除去量の関係を示す説明図である。
【図13】実施例3による繊維状触媒における触媒温度とPM除去率の関係を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス繊維の表面に、平均粒子径が1nm〜1μmのセリア含有粒子を含む触媒層をコートして成ることを特徴とする繊維状触媒。
【請求項2】
上記セリア含有粒子がCeO2を少なくとも含有していることを特徴とする請求項1に記載の繊維状触媒。
【請求項3】
上記セリア含有粒子が無機酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維状触媒。
【請求項4】
上記セリア含有粒子を含む触媒層が、曲率半径10mm、曲げ角度90°の曲げ試験に耐え得る付着強度を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の繊維状触媒。
【請求項5】
上記セラミックス繊維が繊維体を形成していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の繊維状触媒。
【請求項6】
自動車の内燃機関から排出される排ガス浄化用触媒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の繊維状触媒。
【請求項1】
セラミックス繊維の表面に、平均粒子径が1nm〜1μmのセリア含有粒子を含む触媒層をコートして成ることを特徴とする繊維状触媒。
【請求項2】
上記セリア含有粒子がCeO2を少なくとも含有していることを特徴とする請求項1に記載の繊維状触媒。
【請求項3】
上記セリア含有粒子が無機酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維状触媒。
【請求項4】
上記セリア含有粒子を含む触媒層が、曲率半径10mm、曲げ角度90°の曲げ試験に耐え得る付着強度を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の繊維状触媒。
【請求項5】
上記セラミックス繊維が繊維体を形成していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の繊維状触媒。
【請求項6】
自動車の内燃機関から排出される排ガス浄化用触媒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の繊維状触媒。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−155198(P2008−155198A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197764(P2007−197764)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]