説明

繊維用ソーピング剤

【課題】 本発明は、各種繊維をソーピングする際に、未着染料の除去効果に優れたソーピング剤を提供する。
【解決手段】 (A)1分子中にヒドロキシル基を3個以上有する多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステルの一種または二種以上、(B)動植物油の硫酸エステル塩の一種または二種以上および(C)アルキル(またはアルケニル)アミンのアルキレンオキサイド付加物の一種または二種以上を必須成分とすることを特徴とする繊維用ソーピング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用ソーピング剤に関する。更に詳しくは、分散染料、直接染料、反応染料、酸性染料および含金属錯塩染料等で染色された各種繊維染色物をソーピングする際に、未着染料を除去するためのソーピング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維用ソーピング剤としては、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステルとヒドロキシル基を1分子中に3個以上含有する多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステルを含有するもの(特許文献1)や、還元性糖類、アスコルビン酸等の弱還元剤とHLB6以上のポリオキシアルキレン系界面活性剤を含有するもの(特許文献2)が知られている。
【0003】
しかしながら、従来のソーピング剤の多くは未着染料の除去効果が不十分であり、染色堅牢度も満足できるものではなかった。よって、十分な染色堅牢度を得るために、ソーピング、水洗、湯洗を数回繰り返すこともあり、排水処理に大きな負担がかかり更には生産効率も低下させていた。更に、従来のソーピング剤では十分に効果を発揮しない繊維も存在する。例えば、特許文献1及び特許文献2に記載のソーピング剤はポリエステル/ウール混合繊維に対しては未着染料の除去効果を発揮するが、木綿、ナイロン、アクリル、ポリ乳酸等その他の繊維では効果が乏しく染色堅牢度の低下を引き起こしてしまう。特に、ポリ乳酸繊維に対しては未着染料の除去が難しく、摩擦堅牢度の低下を著しく引き起こしてしまう。このようなことから、各種繊維に対して未着染料の除去効果に優れたソーピング剤の開発が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開平6−207384
【特許文献2】特開平2−74684
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、繊維染色物のソーピングにおいて未着染料の除去効果に優れたソーピング剤を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究した結果、繊維染色物の未着染料の除去効果に優れた繊維用ソーピング剤の発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、(A)1分子中にヒドロキシル基を3個以上有する多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステルの一種または二種以上、(B)動植物油の硫酸エステル塩の一種または二種以上および(C)アルキル(またはアルケニル)アミンのアルキレンオキサイド付加物の一種または二種以上を必須成分とすることを特徴とする繊維用ソーピング剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のソーピング剤は、繊維染色物のソーピングにおいて、未着染料の除去効果に優れ、染色堅牢度の向上した染色物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における化合物(A)1分子中にヒドロキシル基を3個以上有する多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステルを構成する多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ソルビタンおよびショ糖等を挙げることができる。好ましくは、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトールおよびソルビトールである。
【0010】
化合物(A)を得るためのアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドおよびブチレンオキサイド等が挙げられる。好ましいのは、エチレンオキサイドおよびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの併用である。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの併用である場合、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドはブロック付加であってもランダム付加のいずれであってもよい。アルキレンオキサイドの付加モル数は、水への溶解性やソーピング効果の点で3〜60モルが好ましく、10〜50モルがより好ましい。
【0011】
また、化合物(A)を得るための脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸またはベヘニン酸等が挙げられる。好ましいのは、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸である。
【0012】
化合物(A)を具体的に例示すると、ポリオキシエチレングリセリンモノミリステート、ポリオキシエチレングリセリンジパルミテート、ポリオキシエチレングリセリントリステアレート、ポリオキシエチレングリセリントリオレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリンジステアレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリントリオレート、ポリオキシエチレンジグリセリントリミリステート、ポリオキシエチレンジグリセリンテトラパルミテート、ポリオキシエチレンジグリセリントリステアレート、ポリオキシエチレンジグリセリンテトラオレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジグリセリンテトラオレート、ポリオキシエチレンペンタエリスリトールテトラステアレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンペンタエリスリトールテトラオレート、ポリオキシエチレンソルビットペンタステアレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンソルビットヘキサオレート等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0013】
化合物(A)は、公知の方法で容易に得られる。例えば、多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加させた後、アルカリ触媒の存在下で高級脂肪酸によってエステル化することにより得ることができる。
【0014】
本発明における化合物(B)動植物油の硫酸エステル塩としては、ヤシ油、落花生油、オリーブ油、ヒマシ油、ナタネ油、牛脂またはマッコー鯨油等の硫酸エステル塩が挙げられる。好ましいのは、ヒマシ油の硫酸エステル塩(ロート油)である。
【0015】
化合物(B)は、公知の方法で容易に得られる。例えば、それぞれ動植物油に無水硫酸、クロルスルホン酸またはスルファミン酸等を使用して硫酸化することにより得ることができる。無水硫酸またはクロルスルホン酸で硫酸化した場合には、さらに、苛性ソーダ、苛性カリ等で中和処理を行うことが好ましい。
【0016】
本発明における化合物(C)を構成するアルキル(またはアルケニル)アミンとしては、カプリルアミン、ラウリルアミン、セチルアミン、ステアリルアミンまたはオレイルアミン等が挙げられる。好ましいのは、セチルアミン、ステアリルアミンおよびオレイルアミンである。
【0017】
化合物(C)を得るためのアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドおよびブチレンオキサイド等が挙げられる。好ましいのは、エチレンオキサイドおよびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの併用である。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの併用である場合、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドはブロック付加であってもランダム付加のいずれであってもよい。アルキレンオキサイドの付加モル数は、水への溶解性やソーピング効果の点で2〜50モルが好ましく、10〜30モルがより好ましい。
【0018】
化合物(C)を具体的に例示すると、ポリオキシエチレンセチルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオレイルアミン等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
化合物(C)は、公知の方法で容易に得られる。例えば、それぞれのアルキル(またはアルケニル)アミンに無水酢酸ソーダ等の触媒存在下でアルキレンオキサイドを付加することにより得ることができる。
【0020】
(A)〜(C)の配合比は、未着染料の除去効果の点で重量比で(A):(B):(C)=100:(5〜100):(5〜100)の範囲が好ましく、(A):(B):(C)=100:(10〜40):(10〜40)がより好ましい。
【0021】
本発明の主旨とするところは、繊維染色物のソーピングにおいて、本発明の化合物(A)、(B)および(C)とを併用することで未着染料の除去効果に優れ、染色堅牢度の向上した染色物を得ることである。
【0022】
従来、繊維染色物のソーピングにおいて、未着染料の除去効果に優れたソーピング剤は提案されておらず、極めて有用な発明と言える。
本発明に使用されるソーピング剤が未着染料の除去効果に優れる理由については完全に解明していないが、本発明に係わる化合物(A)、(B)および(C)中のポリエチレンオキシ基および/またはポリエチレンオキシポリプロピレンオキシ基や疎水基が作用し合い効果を発揮しているものと推察される。
【0023】
本発明の繊維用ソーピング剤を適用できる繊維としては、木綿、ウール、絹、麻等の天然繊維、ポリエステル、ポリ乳酸、ナイロン、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維が挙げられる。また木綿とポリエステル、木綿とポリ乳酸、ウールとポリエステル等の混紡繊維にも適用できる。また、その形態としては、糸、編物、織物、不織布、綱、網等の繊維構造体と認識されるものであればよい。
【0024】
本発明のソーピング剤を用いて繊維染色物をソーピングするとき、従来の機械をそのまま使用することができ、処理浴に用いる水、アルカリ等は従来通り使用できる。ソーピング条件は、処理温度40〜100℃、処理時間5〜30分間、pH5〜10、浴比1:5〜1:30で行うことが好ましい。
【0025】
本発明の繊維用ソーピング剤には、本発明の目的を損なわない範囲で消泡剤、キレート剤等の各種添加剤を任意成分として添加することができる。
【0026】
本発明のソーピング剤の使用量は、固形分で処理浴に対して通常0.01〜5.0g/リットルで、好ましくは0.1〜2.0g/リットルである。また、溶解性や安定性の向上、低粘度化の為にイソプロピルアルコール、ブチルセロソルブ等の溶剤で希釈して使用してもよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例中の配合比は重量部を示す。
【0028】
表1に示した化合物(A)、(B)および(C)を用い、表2に示すソーピング剤を得た。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
得られた実施例および比較例中のソーピング剤については以下の方法に従って試験した。染色堅牢度の試験結果を表3に示す。
【0032】
(試験布の作成)試験布1〜3
各繊維1〜3を下記条件にてそれぞれ染色を行い、水洗後に試験布とした。
<試験布1>
繊維1 : ポリエステル加工糸織物
染料 : Sumikaron Black S-BL 5%o.w.f.
80%酢酸 : 0.3ml/L
浴比 : 1:20
温度・時間 : 130℃×60分
染色機 : カラーマスターHD−12(辻井染機工業製)
<試験布2>
繊維2 : 綿メリヤス
染料 : Procion Blue HE-RD 5%o.w.f.
無水硫酸ナトリウム: 80g/L
ソーダ灰 : 20g/L
浴比 : 1:20
温度・時間 : 80℃×60分
染色機 : カラーマスターHD−12(辻井染機工業製)
<試験布3>
繊維3 : ポリ乳酸織物
染料 : Dianix Blue AC-E 1.0%o.w.f.
80%酢酸 : 0.3ml/L
浴比 : 1:20
温度・時間 : 110℃×30分
染色機 : カラーマスターHD−12(辻井染機工業製)
【0033】
(ソーピング)
上記方法で作成した試験布1〜3を、表2に示すソーピング剤を用いて下記条件にてソーピングを行った。次いで、水洗後乾燥させ染色堅牢度の試験を行った。
<ソーピング条件>
ソーピング剤 : 0.5g/L(固形分換算)
ソーダ灰 : 1g/L
浴比 : 1:15
温度・時間 : 70℃×20分
染色機 : カラーマスター12(辻井染機工業製)
【0034】
(摩擦堅牢度試験)
JIS L−0849(摩擦試験機II形)摩擦に対する染色堅牢度試験方法に準じて、乾燥、湿潤の摩擦堅牢度試験を行い、添付白布への汚染はグレースケールにて判定した。
【0035】
(洗濯堅牢度試験)
JIS L−0844(A−4法)洗濯に対する染色堅牢度試験方法に準じて選択堅牢度試験を行い、添付白布への汚染はグレースケールにて判定した。
【0036】
(水堅牢度試験)
JIS L−0846(B法)水に対する染色堅牢度試験方法に準じて水堅牢度試験を行い、添付白布への汚染はグレースケールにて判定した。
【0037】
【表3】

【0038】
上記結果より、本発明の化合物(A)、(B)および(C)を特定の比率で混合して得られたソーピング剤は、比較例に比べ、未着染料の除去効果に優れ染色堅牢度の向上した染色物を得ることが確認された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中にヒドロキシル基を3個以上有する多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステルの一種または二種以上、
(B)動植物油の硫酸エステル塩の一種または二種以上および
(C)アルキル(またはアルケニル)アミンのアルキレンオキサイド付加物の一種または二種以上を必須成分とすることを特徴とする繊維用ソーピング剤。
【請求項2】
(A)〜(C)の配合比が、重量比で(A):(B):(C)=100:(5〜100):(5〜100)である請求項1記載の繊維用ソーピング剤。



【公開番号】特開2006−233361(P2006−233361A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49590(P2005−49590)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】