説明

繊維製品用防汚抗菌剤及びその使用方法

【課題】繊維製品に対してチタン系光触媒成分と抗菌性金属成分とを容易に添着でき且つ繊維製品を変化させることなく防汚性及び抗菌性が得られる繊維製品用防汚抗菌剤及びその使用方法を提供する。
【解決手段】分子量20000以下のポリアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩、チタネートカップリング剤及び水を混合して得られる。更に、ポリビニルアルコールが混合されている請求項1に記載の繊維製品用防汚抗菌剤。更に亜鉛イオン及び/又は銀イオンを混合でき、更にカルボキシメチルセルロースを混合でき、更に酢酸ナトリウムを混合でき、更に固形光触媒(酸化チタン及び/又はアパタイト被覆酸化チタンなど)を混合できる。本方法では、繊維製品用防汚抗菌剤を繊維製品に添着させた後、少なくとも繊維製品の繊維製品用防汚抗菌剤を添着させた添着領域を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品用防汚抗菌剤及びその使用方法に関する。更に詳しくは、ポリアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩とチタネートカップリング剤とを混合して得られた繊維製品用防汚抗菌剤及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属成分及び金属酸化物等の一部には優れた触媒能を有するものがあり、なかでも、汚れや臭気の分解及び抗菌作用などが発揮できる光触媒能や、抗菌能など有する成分があることが知られている。この機能を利用するためにこれらの成分の各種分野への適用が試みられている。金属成分はイオンとして利用できるものもあるが、特に光触媒能を有するものは一般に固形物であり、粉末化した上でバインダーを用いて対称面に塗着して利用したり、対象物に含有させることで利用されたりしている。下記特許文献1では、シリカ系の無機バインダーを用いて、建築物等の外装用塗料として利用することが開示されている。また、下記特許文献2では、繊維表面に触媒粉末をバインダーを介してコーティングして利用することが開示されている。
これらの金属成分及び金属酸化物等は、強い酸化還元能等を有しており、下記特許文献3においても指摘されている通り、有機材料と共に用いると有機材料自体を分解、浸食し、有機材料が黄変したり白濁したりしてしまう場合がある。これに対して、下記特許文献3に開示されるように、有機材料に適用できる光触媒が開発されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−275601号公報
【特許文献2】特開2002−001121号公報
【特許文献3】特開平10−244166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように光触媒能を有するものは、一般に、固形物であるために、繊維製品に適用するには粉末化して表面に添着する等の方法が必要となる。しかし、その粉末粒径は少なくとも0.03μm〜30μmであり、大きいものでは300μmになり、触媒能を得るために必要な比表面積が大きく、使用量も多くなり、添着状態を十分に維持し難かったり、繊維製品の肌触り感を損ねたりするという問題がある。
また、上記光触媒能を有する酸化チタンと、抗菌作用を有する金属とを併用した場合には、前述の有機材料を分解、浸食し、黄変したり白濁するという作用を助長する場合がある。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、繊維製品に対してチタン系光触媒成分と抗菌性金属成分とを容易に添着でき且つ繊維製品を変化させることなく防汚性及び抗菌性が得られる繊維製品用防汚抗菌剤及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下に示すとおりである。
(1) 分子量20000以下のポリアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩、チタネートカップリング剤及び水を混合して得られたことを特徴とする繊維製品用防汚抗菌剤。
(2) 更に、ポリビニルアルコールが混合されている(1に記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
(3) 更に、亜鉛イオン及び銀イオンのうちの少なくとも1種が混合されている(1)又は(2)に記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
(4) 更に、カルボキシメチルセルロースが混合されている(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
(5) 更に、酢酸ナトリウムが混合されている(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
(6) 固形光触媒を含む(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
(7) 上記固形光触媒は、酸化チタン及び/又はアパタイト被覆酸化チタンである(6)に記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
(8) (1)乃至(7)のうちのいずれかに記載の繊維製品用防汚抗菌剤の使用方法であって、
上記繊維製品用防汚抗菌剤を繊維製品に添着させた後、少なくとも該繊維製品の該繊維製品用防汚抗菌剤を添着させた添着領域を加熱することを特徴とする繊維製品用防汚抗菌剤の使用方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の繊維製品用防汚抗菌剤によれば、優れた光触媒能(例えば、汚れ付着抑制、洗浄時の汚れ離れ性向上、臭い付き抑制、臭い成分分解、抗菌作用など)を付与できる。また、光触媒能の付与による繊維製品の変色を効果的に抑制できる。更に、形態安定性を得ることができる。
更に、ポリビニルアルコールが混合されている場合は、より確実に光触媒能を付与できると共に、更に優れた形態安定性を付与できる。また、光触媒能の付与による繊維製品の変色を更に効果的に抑制できる。
更に、亜鉛イオン及び銀イオンのうちの少なくとも1種が混合されている場合、ポリアクリル酸及び/又はその塩とチタネートカップリング剤との架橋、並びにポリビニルアルコールが含まれる場合にはポリビニルアルコールとチタネートカップリング剤との架橋、を促進でき、より優れた光触媒能を得ることができる。また、繊維製品に対する着色をより効果的に抑制できる。
更に、カルボキシメチルセルロースが混合されている場合には、添着面に光沢感が生じることを抑制し、繊維製品の風合いを維持できる。
更に、酢酸ナトリウムが混合されている場合は、繊維製品用防汚抗菌剤の安定性を向上させることができ、安定して前記各効果を得ることができる。
固形光触媒を含む場合は、固形光触媒による光触媒効果を更に得ることができる。
固形光触媒が、酸化チタン及び/又はアパタイト被覆酸化チタンである場合は、光触媒効果を特に効果的に得ることができる。
本発明の使用方法によれば、優れた光触媒能(例えば、汚れ付着抑制、洗浄時の汚れ離れ性向上、臭い付き抑制、臭い成分分解、抗菌作用など)が得られ、光触媒能の付与による繊維製品の変色を効果的に抑制でき、更には、繊維製品の形態安定性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]繊維製品用防汚抗菌剤
本発明の繊維製品用防汚抗菌剤は、分子量20000以下のポリアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩、チタネートカップリング剤及び水を混合して得られたことを特徴とする。
【0008】
上記「ポリアクリル酸」は、化学式[−CH−CH(COOH)−]nで表される基本骨格を有する高分子である。このポリアクリル酸は、基本骨格にカルボキシル基を有するために親水性が高く、分子量が20000以下であるために、特に水系で扱い易いために好ましい。
上記「そのアルカリ金属塩」は、分子量20000以下のポリアクリル酸のアルカリ金属塩である(即ち、ポリアクリル酸アルカリ金属塩を構成するポリアクリル酸部の分子量が20000以下である)。アルカリ金属塩を構成する金属種(イオン種)は特に限定されないが、ナトリウム及びカリウムが好ましく、特にナトリウムが好ましい。ポリアクリル酸部の分子量が20000以下であるポリアクリル酸ナトリウム塩は、特に水系で扱い易いからである。
このポリアクリル酸及びそのアルカリ金属塩を構成するポリアクリル酸部の分子量は、上記のごとく20000以下であればよく、通常、その下限は1000以上である。更に、この分子量は2000〜15000がより好ましく、3000〜10000が更に好ましく、3000〜7000が特に好ましい。
尚、このポリアクリル酸に関する分子量は、重量平均分子量であり、GPC法による。
【0009】
このポリアクリル酸類は、本発明の繊維製品用防汚抗菌剤内において、チタネートカップリング剤と架橋され、これによりチタネートカップリング剤に由来するTi化合物によって光触媒機能が発揮されるようになる。この架橋とは、例えば、チタネートカップリング剤を構成する−OTiの部分とポリアクリル酸類とが結合して形成できる。より具体的には、チタネートカップリング剤が加水分解されて生成されたチタネートカップリング剤由来イオンとポリアクリル酸類が有するカルボキシル基との脱水反応によって得ることができる。また、後述するように、亜鉛イオン及び/又は銀イオンを用いる場合には、これらのイオンによって上記架橋されるものと考えられる。
【0010】
即ち、本発明の繊維製品用防汚抗菌剤においてポリアクリル酸類は水溶性であり、水分によって加水分解されたチタネートカップリング剤由来物と架橋されて光触媒成分(光触媒能を有する成分)となるものと考えられる。更に、後述する亜鉛及び銀等の金属イオンとの架橋性をも有するものと考えられる。そして、チタネートカップリング剤自体が有色であっても、チタネートカップリング剤とポリアクリル酸類とが架橋されることで無色化されるものと考えられる。更に、ポリアクリル酸類は光触媒成分及び金属イオン等の抗菌性金属成分に対する分散剤として機能され、光触媒成分及び抗菌性成分を安定して分散させて液内に存在させることができる。また、ポリアクリル酸類を用いることで、繊維製品に対して簡便な添着方法(即ち、スプレー及び浸漬など)で分散性よく添着することができるものと考えられる。即ち、ポリアクリル酸類は架橋分散剤として機能すると共に、それ自体にTiを取り込んで、光触媒能をも発揮しているものと考えられる。
【0011】
上記ポリアクリル酸は、アクリル酸(モノマー)の単独重合体又は他のモノマーとの共重合体である。このポリアクリル酸には、ポリアクリル酸全体の構成単位(モノマー単位)を100モル%とした場合に0.1〜10モル%(好ましくは5モル%以下)のアクリル酸以外のモノマーに由来する構成単位を含有できる。他のモノマーとしては、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸及びメタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。これらの他のモノマーは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
上記「チタネートカップリング剤」は、有機チタンアルコキシド、有機チタンキレート、有機チタンポリマー、有機チタンオリゴマー及び有機チタンアシレートなどを含むものである。これらのうちでも、有機チタンアルコキシド及び有機チタンキレートが好ましく、特に有機チタンアルコキシドが特に好ましい。これらは、一般に、加水分解性に優れ、水及び水系有機溶剤(特にアルコール)に可溶であるため、ポリアクリル酸類との優れた架橋性及び水分散性が得られるからである。
【0013】
有機チタンアルコキシドは、化学式Ti(OR)で表され、Tiを含む親水基{即ち(Ti−O−R)}と疎水基{即ち(−O−R)}とを有する。親水基を構成する親水性加水分解性基{上記Ti(OR)を構成するRのうち親水性を示すこととなる基}としては、−CH(CH{Tiに対しては−O−CH(CHとして配位}、−CH(CO){Tiに対しては−O−CH(−O−CO)として配位}、−CH(−CH){Tiに対しては−O−CH(−O−CH)として配位}等が挙げられる。一方、疎水基を構成する疎水性側鎖有機官能基{上記Ti(OR)を構成するRのうち疎水性を示すこととなる基}としては、−CNHCNH{Tiに対しては−O−CNHCNHとして配位}、−PO(OH)OPO(OC17){Tiに対しては−O−PO(OH)OPO(OC17)として配位等が挙げられる。
【0014】
即ち、チタネートカップリング剤としては、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「KR44」)、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「KR38S」)、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「KR238S」)、イソプロピルトリ(ジオクチルピロホスフェート)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「338X」)、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「KR138S」)等があげられる。更に、品名「KR TTS」、「KR 46B」、「KR 55」、「KR41B」及び「KR9SA」等の味の素ファインテクノ株式会社製のチタネートカップリング剤、並びに、品名「A−1」、「B−1」、「TOT」、「TST」、「TAA」、「TAT」、「TLA」、「TOG」、「TBSTA」、「A−10」、「TBT」、「B−2」、「B−4」、「B−7」、「B−10」、「TBSTA−400」、「TTS」、「TOA−30」、「TSDMA」、「TTAB」及び「TTOP」等の日本曹達株式会社製のチタネートカップリング剤が挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0015】
これらのなかでも親水性基を構成する親水性加水分解基として−CH(CHを有するチタネートカップリング剤が好ましい。また、疎水性基を構成する疎水性側鎖有機官能基として−CNHCNHを有するチタネートカップリング剤が好ましい。これらの中でも特に、1つの−CH(CHと、3つの−CNHCNHと、を有する化合物であるイソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネートが好ましい。このイソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネートを用いた場合は、特に生地に生ずる黄ばみを防止する効果が高いからである。
【0016】
チタネートカップリング剤の含有量は特に限定されないが、チタネートカップリング剤(Ti)と、ポリアクリル酸類(PAA)と、の質量比(Ti/PAA)は0.1〜7.0とすることが好ましい。この質量比(Ti/PAA)は、更に0.1〜3.0とすることがより好ましく、0.2〜1.0とすることが特に好ましい。
更に、ポリアクリル酸類は、繊維製品用防汚抗菌剤全体を100質量%とした場合に、0.001〜3.000質量%とすることが好ましく、0.001〜0.500質量%とすることがより好ましく、0.001〜0.300質量%とすることが特に好ましい。
また、チタネートカップリング剤は、本発明の繊維製品用防汚抗菌剤全体を100質量%とした場合に、0.001〜21.000質量%とすることが好ましく、0.001〜5.000質量%とすることがより好ましく、0.001〜2.000質量%とすることが特に好ましい。
【0017】
上記「水」は、チタネートカップリング剤を加水分解し、ポリアクリル酸類との架橋を促進する作用を有すると共に、ポリアクリル酸類に対しては溶剤又は分散剤(通常、溶剤)として機能するものと考えられる。水の配合量は特に限定されず、繊維製品用防汚抗菌剤全体を100質量%とした場合に、通常、90.000質量%以上(99.999質量%以下)であり、95.000〜99.999質量%が好ましく、98.000〜99.999質量%がより好ましい。
上記「混合」は、ポリアクリル酸類とチタネートカップリング剤と水とを混合することである。この混合における混合順序は特に限定されず、結果的にこれらが混合されればよい。
【0018】
本発明の繊維製品用防汚抗菌剤は、上記各成分に加えて、ポリビニルアルコールを更に混合したものとすることができる。
上記「ポリビニルアルコール」は、化学式(−CH−CH(OH)−)nで表される基本骨格を有する水溶性高分子である。本発明で用いるポリビニルアルコールのケン化度は特に限定されないが80モル%以上であることが好ましい。この範囲では親水性が大きく、更に、チタネートカップリング剤と架橋され易い。このケン化度は85〜99モル%がより好ましく、90〜99モル%が特に好ましい。
また、ポリビニルアルコールの重合度は特に限定されないが、100〜500が好ましい。この範囲では適切な流動性が得られる。この重合度は、200〜400がより好ましく、250〜350が特に好ましい。ポリビニルアルコールの含有量は特に限定されないが、繊維製品用防汚抗菌剤全体を100質量%とした場合、0.01〜2質量%が好ましく、0.05〜1.5質量%がより好ましい。
【0019】
このポリビニルアルコールは、本発明の繊維製品用防汚抗菌剤内において、チタネートカップリング剤と架橋され、これによりチタネートカップリング剤に由来するTi化合物によって光触媒機能が発揮されるようになる。この架橋とは、例えば、チタネートカップリング剤を構成する−OTiの部分とポリビニルアルコールとが結合して形成できる。より具体的には、チタネートカップリング剤が加水分解されて生成されたチタネートカップリング剤由来イオンとポリビニルアルコールが有するヒドロキシル基との脱水反応によって得ることができる。また、後述するように、亜鉛イオン及び/又は銀イオンを用いる場合には、これらのイオンによって上記架橋されるものと考えられる。
【0020】
即ち、本発明の繊維製品用防汚抗菌剤においてポリビニルアルコールは水溶性であり、水分によって加水分解されたチタネートカップリング剤由来物と架橋されて光触媒成分(光触媒能を有する成分)となるものと考えられる。更に、後述する亜鉛及び銀等の金属イオンとの架橋性をも有するものと考えられる。そして、チタネートカップリング剤自体が有色であっても、チタネートカップリング剤とポリビニルアルコールとが架橋されることで無色化されるものと考えられる。更に、ポリビニルアルコールは光触媒成分及び金属イオン等の抗菌性金属成分に対する分散剤として機能され、光触媒成分及び抗菌性成分を安定して分散させて液内に存在させることができる。また、ポリビニルアルコールを用いることで、繊維製品に対して簡便な添着方法(即ち、スプレー及び浸漬など)で分散性よく添着することができるものと考えられる。即ち、ポリビニルアルコールは架橋分散剤として機能すると共に、それ自体にTiを取り込んで、光触媒能をも発揮しているものと考えられる。更に、ポリビニルアルコールは、従来、代表的な糊剤(アイロン用糊剤及び洗濯用糊剤など)であり、既に繊維製品にも多用されており、取扱い性に優れ、安全であり、流通量も多く好ましい。このポリビニルアルコールは、本剤では架橋分散剤として機能している。
【0021】
上記ポリビニルアルコールは、ビニルアルコール単位を主構成単位とする単独重合体又は共重合体である。このポリビニルアルコールには、ポリビニルアルコール全体の構成単位(モノマー単位)を100モル%とした場合に0.1〜10モル%(好ましくは5モル%以下)のビニルアルコール単位以外の構成単位を含有できる。他の構成単位を形成できるモノマーとしては、ブタジエン、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。これらの他のモノマーは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明の繊維製品用防汚抗菌剤は、上記各成分に加えて、更に、Ti以外の金属種のイオンを混合することができる。即ち、例えば、亜鉛イオン、銀イオン、ニッケルイオン、ゲルマニウムイオン及びZrイオン等が挙げられる。これらは1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。これらのなかでも特に亜鉛イオン及び/又は銀イオンが好ましい。
これらの金属イオンは、ポリアクリル酸類とチタネートカップリング剤との架橋を促進する成分であると共に、更には、ポリアクリル酸類とこの架橋助剤自身との架橋をも形成し得る成分であるものと考えられる。更に、本繊維製品用防汚抗菌剤における抗菌性を発揮させることとなる成分でもある。これらの架橋助剤を用いることで架橋が促進され、架橋助剤を用いない場合に比べて、より優れた光触媒効果を得ることができる。
【0023】
これらの金属イオンを配合できる化合物(以下、単に「架橋助剤」ともいう)の種類は特に限定はないが、通常、水溶性のこれら金属化合物である。なかでも、特に、グルタミン酸などのアミノ酸錯体及び/又はアセチルアセトン錯体が好ましい。即ち、グルタミン酸亜鉛錯体、グルタミン酸銀錯体、アセチルアセトン亜鉛錯体及びアセチルアセトン銀錯体のうちの少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの架橋助剤は、上記架橋を促進しながらも繊維製品の変質(黄変、白濁及び/又は浸食)は極めて効果的に抑制できる。従って、特に薄色の繊維製品、更には、白色系繊維製品に対して用いた場合に特に変質抑制能が効果的に発揮される。
【0024】
この架橋助剤の配合量は特に限定されないが、繊維製品用防汚抗菌剤全体を100質量%とした場合に0.0005〜10.000質量%とすることが好ましい。更に、この配合量は、0.001〜7.000質量%とすることがより好ましく、0.001〜0.003質量%とすることが更に好ましい。
【0025】
本繊維製品用防汚抗菌剤は、上記各成分に加えて、カルボキシメチルセルロース(その塩を含む)を混合することができる。カルボキシメチルセルロースは、セルロースのカルボキシメチル誘導体及び/又はその塩(特にアルカリ金属塩、更にはNa塩)である。この配合により、本剤を添着した面(添着面)に光沢感を生じることを抑制し、繊維製品の風合いを維持できる。カルボキシメチルセルロースの性状等については特に限定されないが、例えば、その重合度は100〜500とすることができ、200〜400が好ましく、250〜350がより好ましい。
更に、カルボキシメチルセルロースの配合量は特に限定されないが、本剤全体を100質量%とした場合、0.010〜4.000質量%とすることができ、0.001〜2.000質量%が好ましく、0.001〜0.003質量%がより好ましい。
【0026】
本繊維製品用防汚抗菌剤は、上記各成分に加えて、酢酸ナトリウムを含むことができる。酢酸ナトリウムを混合することによって、本剤の全体の安定性を向上させてより長期に保存することができる。これにより、長期にわたって本剤による効果を安定して持続させることができる。用いる酢酸ナトリウムの量は特に限定されないが、2.5質量%水溶液として換算し、繊維製品用防汚抗菌剤全体を100質量%とした場合、0.001〜0.300質量%が好ましく、0.001〜0.050質量%がより好ましく、0.005〜0.020質量%が更に好ましい。
【0027】
本繊維製品用防汚抗菌剤は、上記各成分に加えて、固形光触媒を含むことができる。
この固形光触媒とは、固形の光触媒である。固形光触媒を混合することによって、更に光触媒効果を向上させることができる。本繊維製品用防汚抗菌剤は、この固形光触媒が含有されなくとも優れた光触媒能を発揮できるが、固形光触媒を用いることで、固形光触媒を単独で用いる場合に比べて少量の固形光触媒で高い光触媒能を発揮させることができる。また、ポリアクリル酸類及び/又はポリビニルアルコールが固形光触媒を取り込んで繊維への添着を補助できる。
【0028】
固形光触媒としては、アパタイト被覆酸化チタン、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、硫化カドミニウム(CdS)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)、酸化鉄(Fe)、酸化タンタル(Ta)、酸化スズ(SnO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、酸化ケイ素(SiO)、硫化モリブデン(MoS)、インジウム鉛(InPb)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化セリウム(CeO)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは酸化チタン、及び酸化チタンとアパタイト被覆酸化チタンとの併用、が特に好ましい。
【0029】
上記「アパタイト被覆酸化チタン」は、酸化チタン粒子が、多孔質リン酸カルシウム被膜で被覆されたものである。リン酸カルシウム膜が光触媒として不活性で雑菌等を吸着する性質をもち且つ多孔質であることから、このリン酸カルシウム膜を酸化チタン粒子に被覆することにより、この酸化チタンが有する光触媒機能を損なうことなく、被添着体への触媒作用による変質を抑制でき、担体の耐久性を高めることができる。
【0030】
上記固形光触媒の含有量は特に限定されないが、含有される場合、繊維製品用防汚抗菌剤全体を100質量%とした場合に合計で0.001〜30.000質量%とすることができ、0.001〜15.000質量%とすることが好ましく、0.001〜10.000質量%とすることがより好ましい。この範囲では、含有されても有機材料の変質が十分に抑制されて、変色を防止できる。
【0031】
本繊維製品用防汚抗菌剤は、上記各成分に加えて、更に防腐剤を配合できる。防腐剤の種類は特に限定されないが特にパラベンゼン系化合物が好ましい。パラベンゼン系化合物としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル及びパラオキシ安息香酸エチル等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、防腐剤の配合量は特に限定されないが、通常、本剤全体を100質量%とした場合に0.001〜0.200質量%とすることが好ましく、0.001〜0.100質量%とすることがより好ましい。
【0032】
[2]繊維製品用防汚抗菌剤の製造方法
本発明の繊維製品用防汚抗菌剤の製造は特に限定されず、分子量20000以下のポリアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩と、チタネートカップリング剤と、水と、を混合することができればよい。このうち、ポリアクリル酸類を「A」、チタネートカップリング剤を「B」、水を「C」、混合を「+」、として表した場合に、(1)「(A+C)+(B+C)」として混合してもよく、(2)「A+B+C」として混合してもよく、(3)「(A+B)+C」として混合してもよく、(4)「A+(B+C)」として混合してもよい。これらのなかでは上記(1)が好ましい。即ち、ポリアクリル酸類とチタネートカップリング剤とを各々別々の水系の液体(水溶液又は水分散体)としてから、これらの水系の液体同士を混合することが好ましい。尚、チタネートカップリング剤の混合に際しては、遮光して行うことが好ましい。
【0033】
前記ポリビニルアルコールを用いる場合、ポリビニルアルコールはどの工程で混合してもよいが、ポリビニルアルコールを「D」とすると、(5)「(A+C)+{(D+C)+B}」とすることが好ましい。
【0034】
前記亜鉛イオン及び/又は銀イオンを用いる場合(即ち、架橋助剤を用いる場合)、架橋助剤はどの工程で混合してもよいが、架橋助剤を「E」とすると、(6−1)「{(A+C)+E}+{(D+C)+B}」、(6−2)「{(A+C)+E}+(B+C)」等とすることが好ましい。
【0035】
前記カルボキシメチルセルロースを用いる場合、カルボキシメチルセルロースはどの工程で混合してもよいが、カルボキシメチルセルロースを「F」とすると、(7−1)「{(A+C)+E}+{(D+C)+B}+(F+C)」、(7−2)「{(A+C)+E}+(B+C)+(F+C)」、(7−3)「(A+C)+(B+C)+(F+C)」等とすることが好ましい。
【0036】
前記酢酸ナトリウムを用いる場合、酢酸ナトリウムはどの工程で混合してもよいが、酢酸ナトリウムを「G」とすると、(8−1)「{(A+C)+E}+{(D+C)+B}+(F+C)+(G+C)」、(8−2)「{(A+C)+E}+(B+C)+(F+C)+(G+C)」、(8−3)「{(A+C)+(B+C)+(F+C)+(G+C)」等とすることが好ましい。
【0037】
前記固形触媒を用いる場合、固形触媒はどの工程で混合してもよいが、固形触媒を「H」とすると、(9−1)「{(A+C)+E}+{(D+C)+(B+H+C)}+(F+C)+(G+C)」、(9−2)「{(A+C)+E}+(B+H+C)+(F+C)+(G+C)」等とすることが好ましい。
【0038】
更に、前記防腐剤を用いる場合、防腐剤はどの工程で混合してもよいが、防腐剤を「I」とすると、(10−1)「{(A+C)+E+I}+{(D+C)+(B+H+C)}+(F+C)+(G+C)」、(10−2)「{(A+C)+E+I}+(B+H+C)+(F+C)+(G+C)」等とすることが好ましい。また、特に前記亜鉛イオン及び/又は銀イオン(E)を用い且つ前記防腐剤(I)を併用する場合には、水系有機溶剤にE及びIを混合した上で、得られた混合物を他のものと混合することが好ましい。即ち、例えば、水系有機溶剤を「J」とすると、(11)「{(A+C)+(E+I+J)}+(B+C)」等とすることが好ましい。この水系有機溶剤としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール及びアセトン等が挙げられる。これらは、単独で用いても混合して用いてもよい。これらの中でも、エチルアルコールとイソプロピルアルコールの混合物が好ましい。イソプロピルアルコールがエチルアルコールの蒸発を抑制して溶剤としての効果を持続させることができる。
【0039】
[3]繊維製品用防汚抗菌剤の使用方法
前記本発明の繊維製品用防汚抗菌剤は、繊維製品に添着させた後、加熱することなく自然乾燥させるのみで用いても十分な光触媒作用及び抗菌作用を得ることができるが、繊維製品用防汚抗菌剤を添着させた添着領域を加熱して用いることがより好ましい。
即ち、本発明の使用方法は、上記繊維製品用防汚抗菌剤を繊維製品に添着させた後、少なくとも該繊維製品の該繊維製品用防汚抗菌剤を添着させた添着領域を加熱することを特徴とする。
【0040】
上記「繊維製品」は、繊維が用いられた製品であり、繊維製品用防汚抗菌剤が添着される製品である。この繊維製品の種類は特に限定されないが、繊維、布(織布及び不織布を含む)、パルプ及び紙等が挙げられる。これらのなかでも、上記繊維製品用防汚抗菌剤は、布製品(布を用いた製品)に対して用いることでより優れた効果が得られる。布製品としては、厨房用コート(コックコート)及び厨房用帽子(コック帽)等の厨房衣料品、白衣及び手術着等の医療用医療品、各種工場内で使用される工業着等の一般作業衣料品、実験着及び防塵マスク等の防護用衣料品、カッター、ブラウス、スーツ、エプロン及びジャンパー等の日常衣料品、カーペット及びカーペット基布等の家具インテリア用布製品、収納袋、風呂敷、スーツカバー及び水切りシート等のその他の布製品などが挙げられる。その他、布製品には含まれないが、紙おむつ及び生理用ナプキン、お産用パット及びガーゼ等の衛生用製品などにも適用できる。
【0041】
繊維製品用防汚抗菌剤の添着方法は特に限定されず、例えば、スプレー、刷毛による塗布、ウエスによる塗布、浸漬、含浸等の各種方法を用いることができる。これらの方法は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかではスプレーによる添着が特に好ましい。また、塗布量は特に限定はなく、対象及び用途により適量を用いることができるが、例えば、布製品であれば、10cm角の布製品に0.01〜1ml程度スプレーすることが好ましい。
【0042】
上記「加熱」は、どのように行ってもよく、直接的に加熱してもよく、間接的に加熱してもよいが、上記のように布製品においては特に直接的に加熱することが好ましく、更には、特にアイロン及びそれに類する平板加圧加熱を行うことが好ましい。これにより、ポリアクリル酸類を含有することによる優れた形態安定作用が得られると共に、加えて、光触媒特性が更に向上されるからである。加熱温度は特に限定されず、繊維製品を構成する繊維の特性によって適宜の温度とすることが好ましいが、通常80℃以上の温度で加熱することが好ましく、100〜210℃がより好ましく、130〜210℃が更に好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
〈1〉着色性の評価
(1)実施例1の繊維製品用防汚抗菌剤の調製
ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成株式会社製、品名「アロンT−50」、固形分濃度20質量%)と水とを混合してポリアクリル酸水溶液を調製した。
次いで、架橋助剤であるアセチルアセトン亜鉛錯体(日本化学産業株式会社製、品名「ナーセム亜鉛」)とグルタミン酸銀錯体(グルタミン酸と銀とのモル比が1:1である錯体を調製)と水系有機溶媒(エタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒)とを混合して架橋助剤溶液を調製し、これを上記ポリアクリル酸水溶液に添加した後、混合して、ポリアクリル酸と架橋助剤とが含まれた混合物を得た。
更に、チタネートカップリング剤であるイソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「プレンアクト KR44」)と水とを遮光下で混合してチタネートカップリング剤水溶液を調製した。
上記ポリアクリル酸と架橋助剤とが含まれた混合物に、遮光下で、チタネートカップリング剤水溶液を添加した後、混合して実施例1の繊維製品用防汚抗菌剤の調製した。
得られた実施例1の繊維製品用防汚抗菌剤には、上記KR44が1.5mg/1000ml含まれ、ポリアクリル酸Naが0.5mg/1000ml含まれる。
【0044】
(2)実施例2の繊維製品用防汚抗菌剤の調製
ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成株式会社製、品名「アロンT−50」、固形分濃度20質量%)と水とを混合してポリアクリル酸水溶液を調製した。
次いで、架橋助剤であるグルタミン酸銀錯体(グルタミン酸と銀とのモル比が1:1である錯体を調製)と水系有機溶媒(エタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒)とを混合して架橋助剤溶液を調製し、これを上記ポリアクリル酸水溶液に添加した後、混合して、ポリアクリル酸と架橋助剤とが含まれた混合物を得た。
更に、チタネートカップリング剤であるイソプロピルトリ(ジオクチルピロホスフェート)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「プレンアクト KR38S」)と水とを遮光下で混合してチタネートカップリング剤水溶液を調製した。
上記ポリアクリル酸と架橋助剤とが含まれた混合物に、遮光下で、チタネートカップリング剤水溶液を添加した後、混合して実施例2の繊維製品用防汚抗菌剤の調製した。
得られた実施例2の繊維製品用防汚抗菌剤には、上記KR38Sが0.5mg/1000ml含まれ、ポリアクリル酸Naが0.5mg/1000ml含まれる。
【0045】
(3)実施例3〜5の繊維製品用防汚抗菌剤の調製
実施例3では、チタネートカップリング剤を、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「プレンアクト KR138S」)にした以外は、上記(2)の実施例2の繊維製品用防汚抗菌剤の調製と同様にして、実施例3の繊維製品用防汚抗菌剤を調整した。
実施例4では、チタネートカップリング剤を、ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「プレンアクト KR238S」)にした以外は、上記(2)の実施例2の繊維製品用防汚抗菌剤の調製と同様にして、実施例4の繊維製品用防汚抗菌剤を調整した。得られた実施例4の繊維製品用防汚抗菌剤には、上記KR238Sが0.5mg/1000ml含まれ、ポリアクリル酸Naが0.5mg/1000ml含まれる。
実施例5では、チタネートカップリング剤を、イソプロピルトリ(ジオクチルピロホスフェート)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「プレンアクト 338X」)にした以外は、上記(2)の実施例2の繊維製品用防汚抗菌剤の調製と同様にして、実施例5の繊維製品用防汚抗菌剤を調整した。得られた実施例5の繊維製品用防汚抗菌剤には、上記KR338Xが0.5mg/1000ml(白濁)含まれ、ポリアクリル酸Naが0.5mg/1000ml含まれる。
【0046】
(4)実施例6〜7の繊維製品用防汚抗菌剤の調製
実施例6では、架橋助剤を、Ni(C・2HO(日本科学産業株式会社製、品名「ナーセムニッケル」)にした以外は、上記(1)の実施例1の繊維製品用防汚抗菌剤の調製と同様にして、実施例6の繊維製品用防汚抗菌剤を調整した。
実施例7では、架橋助剤を、有機ゲルマニウム(炭素化合物)にして、使用量を2.1μlとした以外は、上記(1)の実施例1の繊維製品用防汚抗菌剤の調製と同様にして、実施例7の繊維製品用防汚抗菌剤を調整した。
【0047】
(5)実施例8の繊維製品用防汚抗菌剤の調製
ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成株式会社製、品名「アロンT−50」、固形分濃度20質量%)と水とを混合してポリアクリル酸水溶液を調製した。
次いで、架橋助剤であるアセチルアセトン亜鉛錯体(日本化学産業株式会社製、品名「ナーセム亜鉛」)と水系有機溶媒(エタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒)とを混合して架橋助剤溶液を調製し、これを上記ポリアクリル酸水溶液に添加した後、混合して、ポリアクリル酸と架橋助剤とが含まれた混合物を得た。
一方、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、品名「ゴーセノール N−300」)と水とを加熱しながら混合してPVAを溶解させた後、温度40℃まで除熱し、次いで、チタネートカップリング剤であるイソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「プレンアクト KR44」)と、固形光触媒であるアパタイト被覆酸化チタン(昭和電工株式会社製、品名「F6−APS」、平均粒径30nm)と、を遮光下で加えて混合して光触媒性混合物を得た。
前記ポリアクリル酸と架橋助剤とが含まれた混合物と、上記光触媒性混合物と、を遮光下で混合して実施例8の繊維製品用防汚抗菌剤の調製した。得られた実施例8の繊維製品用防汚抗菌剤には、上記KR44が0.1mg/1000ml含まれ、ポリアクリル酸Naが0.5mg/1000ml含まれる。
【0048】
上記実施例1〜8の各繊維製品用防汚抗菌剤を、水で100倍(質量比)に希釈した溶液を塗布し、105℃で120分間加熱して被膜を形成した。その後、加熱を停止して30分経過後に、得られた被膜の着色度を観察した。その結果、着色度を下記基準で判断して3段階に着色度合いを評価し、その結果を表1に示した。
「◎」・・・無色透明であり目視による変色が無い被膜
「○」・・・うす黄色の変色があるが目視による変色が無い被膜
「△」・・・黄色く又は、光沢があり目視による変色がある被膜
【0049】
【表1】

【0050】
着色試験の結果より、実施例1及び実施例8の繊維製品用防汚抗菌剤は他の繊維製品用防汚抗菌剤に比べて特に高い透明性が得られ、優れた結果になった。実施例1の「◎」の評価に対して実施例2〜5が「○」の評価となったのは、チタネートの疎水基の側鎖有機官能基の違いによるものであると考えられる。即ち、疎水基はN−アミノエチル−アミノエチル基が好ましいことが分かる。また、実施例6及び7では、疎水基はN−アミノエチル−アミノエチル基であっても「○」の評価となったのは、架橋助剤の違いによるものであると考えられる。即ち、架橋助剤は亜鉛イオンが好ましいことが分かる。
尚、実施例1〜8の繊維製品用防汚抗菌剤を、木綿布及びポリエステル布に吹き付け、温度160℃付近のアイロンでアイロンがけを行ったところ、いずれも優れたすべり性が認められた。
【0051】
〈2〉光触媒性能の評価
(1)実施例9の繊維製品用防汚抗菌剤の調製
表2の配合となるように各成分を下記順で混合した。即ち、
ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成株式会社製、品名「アロンT−50」、固形分濃度20質量%)と水とを混合してポリアクリル酸水溶液を調製した。
次いで、架橋助剤であるアセチルアセトン亜鉛錯体(日本化学産業株式会社製、品名「ナーセム亜鉛」)と、防腐剤(上野製薬株式会社製、品名「メッキンス−M」)と、水系有機溶媒(エタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒)と、を混合して架橋助防腐剤混合液を調製し、これを上記ポリアクリル酸水溶液に添加した後、混合して、ポリアクリル酸と架橋助剤と防腐剤とが含まれた第1混合物を得た。
【0052】
一方、チタネートカップリング剤であるイソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「プレンアクト KR44」)と水とを遮光下で混合してチタネートカップリング剤水溶液(光触媒成分溶液)を調製した。
その後、上記第1混合物と、チタネートカップリング剤水溶液と、を遮光下で混合して第2混合物を得た。
【0053】
次いで、カルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル株式会社製、品名「サンローズF300HC」)を水に溶解してカルボキシメチルセルロース水溶液を得た。この水溶液を上記第2混合物と、遮光下で混合して、第3混合物を得た。更に、この第3混合物と、酢酸ナトリウム水溶液(2.5質量%)を遮光下で混合して、実施例9の繊維製品用防汚抗菌剤を得た。
【0054】
(2)実施例10の繊維製品用防汚抗菌剤の調製
表2の配合となるように各成分を下記順で混合した。即ち、
ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成株式会社製、品名「アロンT−50」、固形分濃度20質量%)と水とを混合してポリアクリル酸水溶液を調製した。
次いで、架橋助剤であるアセチルアセトン亜鉛錯体(日本化学産業株式会社製、品名「ナーセム亜鉛」)と、防腐剤(上野製薬株式会社製、品名「メッキンス−M」)と、水系有機溶媒(エタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒)と、を混合して架橋助防腐剤混合液を調製し、これを上記ポリアクリル酸水溶液に添加した後、混合して、ポリアクリル酸と架橋助剤と防腐剤とが含まれた第1混合物を得た。
【0055】
一方、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、品名「ゴーセノール N−300」)と水とを加熱しながら混合してポリビニルアルコール水溶液を得た。
更に、チタネートカップリング剤であるイソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート(味の素ファインテクノ株式会社製、品名「プレンアクト KR44」)と、固形光触媒であるアパタイト被覆酸化チタン(昭和電工株式会社製、品名「F6−APS」、平均粒径30nm)と、水と、を遮光下で混合して第1光触媒成分混合液を調製した。
次いで、除熱したポリビニルアルコール水溶液(40℃程度)と、第1光触媒成分混合液と、を遮光下で混合して第2光触媒成分混合液を調整した。その後、上記第1混合物と、上記第2光触媒成分混合液と、を遮光下で混合して第2混合物を得た。
【0056】
その後、カルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル株式会社製、品名「サンローズF300HC」)を水に溶解してカルボキシメチルセルロース水溶液を得た。この水溶液を上記第2混合物と、遮光下で混合して、第3混合物を得た。更に、この第3混合物と、酢酸ナトリウム水溶液(2.5質量%)を遮光下で混合して、実施例10の繊維製品用防汚抗菌剤を得た。
【0057】
【表2】

【0058】
(3)光触媒性能の評価
表3に示すように、5つの容量5リットルの袋のなかに、それぞれアンモニア(初期濃度30ppm)、トルエン(初期濃度20ppm)、トリメチルアミン(初期濃度30ppm)、アセトアルデヒド(初期濃度20ppm)、ホルムアルデヒド(初期濃度30ppm)を個別に投入し、更に、各々実施例9の繊維製品用防汚抗菌剤1000μlを浸み込ませた2号ろ紙を投入して密閉し、その後の各袋内の各気体濃度の経時変化を測定し、表3に示すと共に、図1としてグラフ化して表した。
更に、1つの容量5リットルの袋のなかに、アンモニア(初期濃度38ppm)を投入し、更に、実施例10の繊維製品用防汚抗菌剤1000μlを浸み込ませた2号ろ紙を投入して密閉し、その後の袋内のアンモニア濃度の経時変化を測定し、表3に示すと共に、図1としてグラフ化して表した。
尚、各気体の測定は、測定装置{ガステック株式会社製、品名「ガステックGV−100S」、検知管 3L(低濃度)、3La(高濃度)}を用いて行った。
【0059】
【表3】

【0060】
この結果、実施例9及び実施例10のいずれにおいても優れた光触媒効果が認められた。特に実施例10では、光触媒能力に優れたアパタイト被覆酸化チタンを配合しているものの、実施例9ではこのような固形光触媒を配合しておらず、チタネートカップリング剤を配合しているだけであるが、それでも実施例10に遜色ない光触媒効果が得られていることが分かる。更に、アンモニア及びホルムアルデヒドに対して特に高い効果が認められることが分かる。
【0061】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。また、本発明には含まれないものの、上記ポリアクリル酸類に変えてポリアクリルアミド及び/又はポリアクリルアミンを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例9又は実施例10の繊維製品用防汚抗菌剤による各種気体に対する光触媒能力を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量20000以下のポリアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩、チタネートカップリング剤及び水を混合して得られたことを特徴とする繊維製品用防汚抗菌剤。
【請求項2】
更に、ポリビニルアルコールが混合されている請求項1に記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
【請求項3】
更に、亜鉛イオン及び銀イオンのうちの少なくとも1種が混合されている請求項1又は2に記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
【請求項4】
更に、カルボキシメチルセルロースが混合されている請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
【請求項5】
更に、酢酸ナトリウムが混合されている請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
【請求項6】
固形光触媒を含む請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
【請求項7】
上記固形光触媒は、酸化チタン及び/又はアパタイト被覆酸化チタンである請求項6に記載の繊維製品用防汚抗菌剤。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちのいずれかに記載の繊維製品用防汚抗菌剤の使用方法であって、
上記繊維製品用防汚抗菌剤を繊維製品に添着させた後、少なくとも該繊維製品の該繊維製品用防汚抗菌剤を添着させた添着領域を加熱することを特徴とする繊維製品用防汚抗菌剤の使用方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263820(P2009−263820A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116152(P2008−116152)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(307019033)
【出願人】(396008705)
【Fターム(参考)】