説明

繊維複合体の製造方法

【課題】軽量性及び剛性に優れた繊維複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】補強繊維どうしが熱可塑性樹脂により結着された構造を有する繊維複合体の製造方法であって、補強繊維は、植物性繊維及び無機繊維のうちの少なくとも一方であり、補強繊維と熱可塑性樹脂繊維とが含まれたマット10aの表裏いずれか一面に、熱可塑性樹脂からなる殻壁を有する熱膨張性カプセル20を供給する供給工程と、マット10aの一面を押圧しつつマットの他面から加振してカプセル20を他面側へ向かって分散させる分散工程と、マットを構成する熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程と、マット内に分散されたカプセル20を加熱して膨張させる膨張工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維複合体の製造方法に関し、更に詳しくは、補強繊維どうしが熱可塑性樹脂により結着された構造を有し、軽量性及び剛性に優れた繊維複合体の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のドアトリムに用いられる基材として、特許文献1には、天然繊維及び熱可塑性樹脂繊維からなり、これらの配合比率が、厚み方向に変化している繊維基材が開示されている。
また、天然繊維及び熱可塑性樹脂繊維の混合物を交絡し、圧縮成形させてなる繊維基材も知られている。この繊維基材は、例えば、エアレイ装置により、搬送コンベア上に各繊維を供給し、交絡及び加熱圧縮等の工程を経て製造されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−105824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境問題を考慮して、車両用部材等の軽量化の要望が高まっている。そのためには、例えば、繊維基材の目付を小さくする等の方法があるが、十分な剛性が得られないといった問題がある。また、基材の目付が小さい領域、例えば、1,500g/m以下の領域では、深絞り成形が困難である場合があった。
本発明は、補強繊維どうしの間に、熱膨張性カプセルが膨張(発泡)してなる熱可塑性樹脂が分散されており、軽量性及び剛性に優れた繊維基材である繊維複合体の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下に示す通りである。
(1)補強繊維どうしが熱可塑性樹脂により結着された構造を有する繊維複合体の製造方法であって、
上記補強繊維は、植物性繊維及び無機繊維のうちの少なくとも一方であり、
上記補強繊維と熱可塑性樹脂繊維とが含まれたマットの表裏いずれか一面に、熱可塑性樹脂からなる殻壁を有する熱膨張性カプセルを供給する供給工程と、
上記マットの一面を押圧しつつ該マットの他面から加振して、該マットの一面に供給された上記熱膨張性カプセルを該マットの他面側へ向かって分散させる分散工程と、
上記マットを構成する上記熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程と、
上記マット内に分散された上記熱膨張性カプセルを加熱して膨張させる膨張工程と、を備えることを特徴とする繊維複合体の製造方法。
(2)上記供給工程は、上記マットの一面に熱膨張性カプセルを静電塗布して行う上記(1)に記載の繊維複合体の製造方法。
(3)上記分散工程は、上記マットをコンベアで移動させながら行い、
上記押圧は、上記コンベアの移動方向へ上記マットが進むように回転されたローラで該マットの一面を押圧して行い、且つ、
上記加振は、上記マットのうちの押圧されている部分の他面から行う上記(1)又は(2)に記載の繊維複合体の製造方法。
(4)上記加振は、6mm以下の振幅で行う上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。
(5)上記加振は、上記マットの移動方向に対して30〜90度の角度の方向へ振動させて行う上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。
(6)上記溶融工程と上記膨張工程とを同時に行う上記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。
(7)上記熱可塑性樹脂繊維を構成する第1の熱可塑性樹脂の融点が、上記熱膨張性カプセルの殻壁を構成する第2の熱可塑性樹脂の融点よりも低い場合であって、
上記溶融工程は、加圧して上記熱膨張性カプセルの膨張を抑制しつつ、上記第1の熱可塑性樹脂の融点以上且つ上記第2の熱可塑性樹脂の融点を超えない温度に加熱して行い、且つ、該溶融工程の後に上記膨張工程を行う上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の繊維複合体の製造方法によれば、熱可塑性樹脂繊維に由来する熱可塑性樹脂によって補強繊維どうしが結着されることに加えて、十分に補強繊維間に分散された熱膨張性カプセルの殻壁に由来する熱可塑性樹脂によっても補強繊維どうしが結着され、特に軽量であり且つ機械的特性に優れた繊維複合体が得られる。更に、このような繊維複合体を抄紙法等の湿式法を用いることなく、即ち、乾式法により効率よく得ることができる。また、本方法により得られる繊維複合体では、目付1,500g/m以下の領域においても、深絞り成形を可能とすることができる。
供給工程でマットの一面に熱膨張性カプセルを静電塗布して行う場合は、熱膨張性カプセルのロスを効果的に抑制でき、より低コストに繊維複合体を製造できる。
分散工程はマットをコンベアで移動させながら行い、押圧はコンベアの移動方向へマットが進むように回転されたローラでマットの一面を押圧して行い、且つ、加振はマットのうちの押圧されている部分の他面から行う場合は、より短時間でマット内に熱膨張性カプセルを高度に分散させることができる。
加振を6mm以下の振幅で行う場合は、特により短時間でマット内に熱膨張性カプセルを高度に分散させることができる。
加振をマットの移動方向に対して30〜90度の角度の方向へ振動させて行う場合は、特により短時間でマット内に熱膨張性カプセルを高度に分散させることができる。
溶融工程と膨張工程とを同時に行う場合は、繊維複合体の厚さをより確実に制御しながら軽量化を図ることができ、更には製造時間の短縮及び効率を更に図ることができる。
熱可塑性樹脂繊維を構成する第1の熱可塑性樹脂の融点が熱膨張性カプセルの殻壁を構成する第2の熱可塑性樹脂の融点よりも低い場合であって、溶融工程は加圧して熱膨張性カプセルの膨張を抑制しつつ、第1の熱可塑性樹脂の融点以上且つ第2の熱可塑性樹脂の融点を超えない温度に加熱して行い、且つ、溶融工程の後に膨張工程を行う場合は、繊維複合体の厚さをより確実に制御しながら軽量化を図ることができ、更には製造時間の短縮及び効率を更に図ることができる。更に、この方法では、溶融工程と膨張工程との間に、膨張されていない熱膨張性カプセルが高度に分散されて含有された膨張前繊維複合体を流通させることができる。従って、膨張させた後の繊維複合体を流通させる場合に比べてより嵩高さを押さえて低コストで輸送を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[1]繊維複合体の製造方法
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の繊維複合体の製造方法は、補強繊維どうしが熱可塑性樹脂により結着された構造を有する繊維複合体の製造方法であって、
上記補強繊維は、植物性繊維及び無機繊維のうちの少なくとも一方であり、
上記補強繊維と熱可塑性樹脂繊維とが含まれたマットの表裏いずれか一面に、熱可塑性樹脂からなる殻壁を有する熱膨張性カプセルを供給する供給工程と、
上記マットの一面を押圧しつつ該マットの他面から加振して、該マットの一面に供給された上記熱膨張性カプセルを該マットの他面側へ向かって分散させる分散工程と、
上記マットを構成する上記熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程と、
上記マット内に分散された上記熱膨張性カプセルを加熱して膨張させる膨張工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
即ち、本方法は、図1〜3に示すように「供給工程」と「分散工程」と「溶融工程」と「膨張工程」とを備えてなり、その他、例えば、「成形工程」を備えることができる。尚、後に詳述するが、これらの工程のうちの供給工程及び分散工程はこの順に行う。溶融工程及び膨張工程は分散工程の後に行う。更に、溶融工程と膨張工程とは同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。
【0009】
上記「供給工程」は、補強繊維と熱可塑性樹脂繊維とが含まれたマットの表裏いずれか一面に、熱可塑性樹脂からなる殻壁を有する熱膨張性カプセルを供給する工程である。
【0010】
上記「マット」は、補強繊維と熱可塑性樹脂繊維とをマット状(不織布状)に混綿した成形体であり、通常、不織布を製造する乾式の各種混綿法を用いて得られる。混綿法としては、エアレイ法及びカード法等が挙げられるが、エアレイ法が好ましい。エアレイ法は補強繊維と熱可塑性樹脂繊維とを空気流によってコンベア面上などに分散、投射して補強繊維と熱可塑性樹脂繊維とが相互に分散された堆積物を得る方法である。尚、上記マットには、上記堆積物、上記堆積物を2層又は3層以上積層し、交絡(ニードリング)した積層交絡物、及びこれらを圧縮してなる圧縮物などが含まれる。
本方法ではマットを湿式法(抄紙法など)で形成してもよく、乾式法で形成してもよいが、湿式法を用いた場合には高度な乾燥工程を要することになるため乾式法が好ましい。特に補強繊維として植物性繊維を用いる場合には、植物性繊維が吸水性を有するためにとりわけ乾式法が好ましい。
【0011】
マットの密度、目付及び厚さ等は特に限定されず、補強繊維の種類及び配合割合により種々のものとすることができる。例えば、補強繊維が植物性繊維である場合には、通常、密度は0.3g/cm以下(通常0.05g/cm以上)である。その目付は400〜3000g/mが好ましく、600〜2000g/mがより好ましい。一方、補強繊維がガラス繊維である場合には、通常、密度は0.2g/cm以下(通常0.03g/cm以上)である。その目付は300〜1000g/mが好ましく、350〜500g/mがより好ましい。
また、マットの厚さは10mm以上(通常50mm以下、更には10〜30mm、特に15〜40mm)とすることができる。
尚、上記密度はJIS K7112(プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法)に準じて測定される値である。
【0012】
上記「補強繊維」は、得られる繊維複合体において補強材として機能する繊維材料である。この補強繊維どうしが熱可塑性樹脂により結着された構造を有することで、繊維複合体全体の強度を確保できる。この補強繊維の材質は特に限定されず、植物性繊維及び無機繊維が含まれる。
【0013】
上記「植物性繊維」は、植物に由来する繊維である。植物から取りだした繊維及び植物から取りだした繊維を各種処理に供した繊維などが含まれる。
この植物性繊維としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物性繊維が挙げられる。この植物性繊維は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかではケナフ(即ち、植物性繊維としてはケナフ繊維)が好ましい。ケナフは成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するため、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献できるからである。
また、上記植物性繊維として用いる植物体の部位は、特に限定されず、木質部、非木質部、葉部、茎部及び根部等の植物体を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよく2ヶ所以上の異なる部位を併用してもよい。
【0014】
上記ケナフは、木質茎を有し、アオイ科に分類される植物である。このケナフには、学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等が含まれ、通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が含まれる。
また、上記ジュートは、ジュート麻から得られる繊維である。このジュート麻には、黄麻(コウマ、Corchorus capsularis L.)、及び、綱麻(ツナソ)、シマツナソ並びにモロヘイヤ、を含む麻及びシナノキ科の植物を含むものとする。
上記植物性繊維は単用してもよく併用してもよい。
【0015】
上記「無機繊維」としては、ガラス繊維(グラスウール等)及びカーボン繊維などが挙げられる。これらの無機繊維は単用してもよく併用してもよい。
更に、植物性繊維及び無機繊維は、いずれか一方のみを単用してもよく、植物性繊維と無機繊維とを併用してもよい。これらのうちでは補強効果に優れること及び取扱い性が良いことから植物性繊維が好ましく、無機繊維のなかではガラス繊維が好ましい。更に、これらのうちでも環境的観点から植物性繊維のうちのケナフ繊維が特に好ましい。
【0016】
補強繊維の形状及び大きさは特に限定されないが、その繊維長は10mm以上であることが好ましい。これにより得られる繊維複合体に高い強度(曲げ強さ及び曲げ弾性率等、以下同様)を付与できる。この繊維長は10〜150mmがより好ましく、20〜100mmが更に好ましく、30〜80mmが特に好ましい。
また、その繊維径は1mm以下が好ましく、0.01〜1mmがより好ましく、0.02〜0.7mmが更に好ましく、0.03〜0.5mmが特に好ましい。この繊維径が上記範囲にあると、特に高い強度を有する繊維複合体を得ることができる。補強繊維として、上記の繊維長及び繊維径を外れるものを含んでもよいが、その繊維の含有量は、補強繊維の全体に対して10質量%(特に3体積%)以下であることが好ましい。これにより得られる繊維複合体の強度を高く維持できる。
尚、上記繊維長は平均繊維長を意味し(以下同様)、JIS L1015に準拠して、直接法にて無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。更に、上記繊維径は平均繊維径を意味し(以下同様)、無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、繊維の長さ方向の中央における繊維径を光学顕微鏡を用いて実測し、合計200本について測定した平均値である。
【0017】
上記「熱可塑性樹脂繊維」は、上記マットに熱可塑性樹脂繊維として含有され、溶融工程において溶融されて、補強繊維どうしを結着させることができる成分である。
熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂及びABS樹脂などが挙げられる。このうち、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体などが挙げられる。ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル樹脂、並びに、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられる。アクリル樹脂はメタクリレート及び/又はアクリレート等を用いて得られた樹脂である。これらの熱可塑性樹脂は、補強繊維(特に補強繊維の表面)に対する親和性を高めるために変性された樹脂であってもよい。また、上記熱可塑性樹脂は単用してもよく併用してもよい。
【0018】
上記変性された樹脂としては、例えば、補強繊維(補強繊維を構成する材料)に対する親和性を高めたポリオレフィンが挙げられる。より具体的には、補強繊維が植物性繊維である場合には、カルボキシル基又はその誘導体(無水物基等)を有する化合物により酸変性されたポリオレフィンを用いることが好ましい。更には、未変性のポリオレフィンと無水マレイン酸変性ポリオレフィンとを併用することがより好ましく、未変性のポリプロピレンと無水マレイン酸変性ポリプロピレンとを併用することが特に好ましい。
【0019】
また、この無水マレイン酸変性ポリプロピレンとしては、低分子量タイプが好ましい。即ち、例えば、重量平均分子量(GPC法による)が25000〜45000であることが好ましい。また、酸価(JIS K0070による)は20〜60であることが好ましい。本方法では、特に重量平均分子量25000〜45000且つ酸価20〜60である無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用いることが好ましく、この無水マレイン酸変性ポリプロピレンを未変性のポリプロピレンと併用することがとりわけ好ましい。この併用においては変性ポリプロピレンと未変性ポリプロピレンとの合計を100質量%とした場合に、変性ポリプロピレンは1〜10質量%であることが好ましく、2〜6質量%がより好ましい。この範囲ではとりわけ高い機械的特性を得ることができる。
【0020】
これらの熱可塑性樹脂のなかでは、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂が好ましい。 上記ポリオレフィンのなかでは、ポリプロピレンが好ましい。
上記ポリエステル樹脂としては、生分解性を有するポリエステル樹脂(以下、単に「生分解性樹脂」ともいう)が好ましい。この生分解性樹脂は、以下に例示される。
(1)乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体;これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体等のヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル。
(2)ポリカプロラクトン、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種と、カプロラクトンとの共重合体等のカプロラクトン系脂肪族ポリエステル。
(3)ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル。
これらのうち、ポリ乳酸、乳酸と、乳酸以外の他の上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、及び、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種と、カプロラクトンとの共重合体が好ましく、ポリ乳酸が特に好ましい。これらの生分解性樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。尚、上記乳酸は、L−乳酸及びD−乳酸を含むものとし、これらの乳酸は単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0021】
熱可塑性樹脂繊維の形状及び大きさは特に限定されないが、その繊維長は10mm以上であることが好ましい。これにより得られる繊維複合体に高い強度(曲げ強さ及び曲げ弾性率等、以下同様)を付与できる。この繊維長は10〜150mmがより好ましく、20〜100mmが更に好ましく、30〜80mmが特に好ましい。
また、その繊維径は0.001〜1.5mmが好ましく、0.005〜0.7mmがより好ましく、0.008〜0.5mmが更に好ましく、0.01〜0.3mmが特に好ましい。この繊維径が上記範囲にあると、熱可塑性樹脂繊維を切断させず、補強繊維と分散性よく交絡できる。なかでも補強繊維が植物性繊維である場合に特に適する。
【0022】
マットを構成する補強繊維と熱可塑性樹脂繊維との割合は特に限定されないが、補強繊維と熱可塑性樹脂繊維との合計を100体積%とした場合に、補強繊維は10〜95体積%(好ましくは20〜90体積%、より好ましくは30〜80体積%)とすることが好ましい。この範囲では本方法による優れた軽量性と高強度性とを両立させやすいからである。
特に補強繊維が植物性繊維である場合にあっては、植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維との合計量を100質量%とした場合に、植物性繊維は10〜95質量%とすることが好ましく、20〜90質量%とすることがより好ましく、30〜80質量%とすることが特に好ましい。
尚、マットには、補強繊維及び熱可塑性樹脂繊維以外にも、又は、熱可塑性樹脂繊維内に添加剤(酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、防かび剤、着色剤等)が含まれてもよい。
【0023】
上記「熱膨張性カプセル」は、熱可塑性樹脂からなる殻壁(カプセル)を有し、加熱により体積が膨張されるものである。熱膨張性カプセルの構成は殻壁以外、特に限定されないものの、通常、殻壁内に収容された発泡剤(膨張成分)を有する。そして、熱膨張性カプセルが加熱されると発泡剤が所定の温度で膨張し始め、更に、殻壁が軟化されることにより、熱膨張性カプセル全体の体積が増加する仕組みを有する。
尚、この熱膨張性カプセルは膨張した後、破泡して殻壁は不定形化してもよく、破泡することなく殻壁がカプセル形状を維持してもよい。更に、発泡剤を用いる場合、その発泡剤は、殻壁の外部に放出されてもよく、膨張後の殻壁内に一部又は全部が残存されてもよい。
【0024】
この熱膨張性カプセルの殻壁を構成する熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂と同じであってもよく異なっていてもよい。即ち、前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂として前述した各種樹脂を用いることができる。その他にも、不飽和ニトリル化合物に由来する構成単位を有する共重合体及び単独重合体(以下、単に「アクリロニトリル系樹脂」ともいう)を用いることができる。この不飽和ニトリル化合物としては、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等が挙げられる。アクリロニトリル系樹脂を構成する不飽和ニトリル化合物に由来する構成単位以外の他の構成単位は、どのような化合物に由来してもよいが、例えば、不飽和酸(アクリル酸等)、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、脂肪族ビニル化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデン及び架橋性単量体などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。即ち、例えば、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体が挙げられる。
【0025】
上記発泡剤は、加熱により体積膨張する成分である。この発泡剤としては、低沸点(−50〜150℃程度)の炭化水素類が挙げられる。即ち、例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2−テトラフロロエタン、1,1−ジフロロエタン等のフッ化炭化水素等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの発泡剤のなかでは、脂肪族炭化水素が好ましく、炭素数が4〜10である脂肪族炭化水素が特に好ましい。尚、発泡剤量は限定されないものの、例えば、熱膨張性カプセル全体に対して5〜60質量%(好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜30質量%)とすることができる。
【0026】
この熱膨張性カプセルの形状及び大きさは特に限定されないが、その形状は、通常、球形である。また、その平均粒径は、5〜100μmが好ましく、10〜70μmがより好ましい。平均粒径が上記範囲にあれば、使用量を抑えて、マット内に十分に分散させることができ、軽量化においてより効果的である。従って、得られる繊維複合体は軽量性に優れるとともに剛性についても優れたものを得ることができる。尚、上記平均粒径は、粒度分布測定法により得られた粒度分布におけるD50の値である。
また、熱膨張性カプセルの発泡倍率(発泡後体積/発泡前体積)は特に限定されないが、例えば、1.2〜5倍とすることができる。
【0027】
熱膨張性カプセルの殻壁の軟化温度(発泡開始温度)は特に限定されず、殻壁を構成する熱可塑性樹脂の種類により選択できる。また、この殻壁の軟化温度と、マットの熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。この軟化温度の高低は、例えば、本方法の工程順により選択することができる。即ち、(1)熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程を先に行い、熱膨張性カプセルを膨張する膨張工程を後に行う場合には、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度を、殻壁を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度よりも低くすることが好ましい。一方、(2)熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程と、熱膨張性カプセルを膨張する膨張工程と、を同時に行う場合には、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度と殻壁を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度とを同じにすることができる。
【0028】
例えば、上記(1)の場合、即ち、溶融工程と膨張工程とをこの順で行う場合には、殻壁の軟化温度(発泡開始温度、第2の熱可塑性樹脂の軟化温度)は、熱可塑性樹脂繊維の軟化温度(第1の熱可塑性樹脂の軟化温度)に対して0〜+60℃(より好ましくは+10〜+40℃)の範囲とすることが好ましい。より具体的には、熱可塑性樹脂繊維を構成する第1の熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のプロピレン系重合体である場合、第1の熱可塑性樹脂の軟化温度は140〜170℃である。この場合、第2の熱可塑性樹脂の軟化温度(熱膨張性カプセルの発泡開始温度)は、上記温度差を有した上で110〜230℃が好ましく、140〜210℃がより好ましい。更に、最大発泡温度は170〜235℃が好ましく、140〜210℃がより好ましい。
一方、上記(2)の場合、即ち、溶融工程と膨張工程と同時に行う場合には、殻壁の軟化温度(発泡開始温度、第2の熱可塑性樹脂の軟化温度)は、熱可塑性樹脂繊維の軟化温度(第1の熱可塑性樹脂の軟化温度)に対して−30〜+60℃(より好ましくは−10〜+40℃)の範囲とすることが好ましい。
尚、上記軟化温度はいずれもJIS K7206「熱可塑性プラスチックのビカット軟化温度試験方法」による。
【0029】
本方法では、この熱膨張性カプセルを用いることで軽量化と高強度化とを同時に極めて効果的に達することができる。その理由は定かではないが以下のように考えることができる。即ち、分散工程においてマットの補強繊維どうしで形成された間隙に分散して配置された熱膨張性カプセルは、膨張工程で加熱されて内包された発泡剤が膨張すると共に、殻壁が軟化されて上記間隙内で押し広げられる。そして、殻壁は間隙を構成している補強繊維に押し付けられ、加熱温度が上昇されて殻壁を構成する熱可塑性樹脂が溶融することで補強繊維どうしを間隙の内側から広範囲に結着する。即ち、熱可塑性樹脂繊維が溶融されると補強繊維との交絡点で結着されるのに対して、熱膨張性カプセルは複数の補強繊維どうしを殻壁により面状に一気に結着できる。従って、少量の熱可塑性樹脂を効率よく補強繊維の結着に利用でき、補強繊維の結着に寄与される熱可塑性樹脂量を減少させつつ、補強繊維どうしの結着量が増加されて高強度化されるものと考えられる。
【0030】
上記供給工程では、熱膨張性カプセルは、マットの表裏いずれか一面に供給する。この供給方法は、マット表面に対して熱膨張性カプセルを供給できればよく、どのような方法を用いてもよい。即ち、例えば、(1)静電塗布法を用いて、熱膨張性カプセルとマットの供給面とを各々異なる極性に帯電させることで、熱膨張性カプセルをマットの供給面に対して供給してもよく、(2)マットの供給面を下方に配置し、熱膨張性カプセルを上方から落下させて供給してもよく、(3)気流に熱膨張性カプセルを乗せてマットの供給面に付着させることで供給してもよく、(4)更にその他の方法で供給してもよい。また、これらの(1)〜(4)の方法は単用してもよく併用してもよい。
【0031】
これらの方法のなかでは、上記(1)又は(2)が好ましく、更には、供給ロスを減らすことができるために上記(1)が特に好ましい。また、特にマットの補強繊維として植物性繊維を用いる場合にはとりわけ上記(1)の方法が好ましい。植物性繊維は無機繊維と異なり、平均10%程度の水分率を有することから、より容易に帯電させることができ、熱膨張性カプセルをより確実に付着させることができるからである。
【0032】
上記(1)の供給方法では、静電塗布する前の熱膨張性カプセルは、陽極及び陰極のいずれに帯電させてもよいが、陽極に帯電させた場合、マットは対極である陰極に帯電させる。なかでも、直流電圧により帯電させた熱膨張性カプセルを、接地したマットの供給面に対して吐出し、静電引力により付着させることが好ましい。
【0033】
また、静電塗布を行う場合に用いる静電塗布装置の形態は特に限定されないが、例えば、(1)熱膨張性カプセルを帯電させるための帯電手段と、帯電された熱膨張性カプセルをマットに対して吐出するための吐出手段と、を備えた装置を用いることができる。また、(2)帯電されていない熱膨張性カプセルを吐出するための吐出手段と、吐出された熱膨張性カプセルに、上記吐出手段の外部に設けられて熱膨張性カプセルを帯電させる帯電手段とを備えた装置を用いることができる。これらの装置はいずれを用いてもよく、一方のみを用いてもよく併用してもよい。また、上記帯電手段としては、コロナ帯電装置、摩擦帯電装置等が挙げられる。これらについても単用しても併用してもよい。
【0034】
更に、熱膨張性カプセルの塗布に際して、その吐出量、上記マットへのエア流量、塗布時間等は、適宜、調整される。なかでも、静電塗布を行う際のエア流量は、1〜10m/時間とすることが好ましく、3〜6m/時間とすることがより好ましい。エア流量が上記範囲にあると、上記熱膨張性カプセルを、ロスを低減させつつマットに効率よく保持させることができ、最終的に得られる繊維複合体が軽量性に優れるとともに、剛性にも優れる。
【0035】
上記(2)の方法としては、いわゆるシンター機を用いる供給方法が挙げられる。即ち、シンター機とは、表面にローレット加工等による凹凸加工が施されたローラの上方から熱膨張性カプセルを落下させると、熱膨張性カプセルはローラ表面の上記凹部に捉えられ、ローラが回転して当該凹部が下方に向くことで落下される仕組みを有する機械である。このシンター機では凹部の大きさと密度により供給量を調整することができる。
【0036】
この供給工程における熱膨張性カプセルの供給量は特に限定されず、目的により適宜の量とすればよいが、通常、マット全体を100質量部とした場合に、熱膨張性カプセルを1〜15質量部供給することが好ましい。ここでいう供給量とは実際にマットに保持された量であり、供給したが飛散したり、マットを透過して下方に落下されたり、回収されたりした熱膨張性カプセルは含まれない量である。この供給量は3〜12質量部とすることがより好ましく、5〜10質量部とすることが更に好ましい。
【0037】
更に、熱膨張性カプセルの供給を行うマットの上記一面は、マットの厚み方向を上下に配置した場合に、通常、上面である。即ち、熱膨張性カプセルはマットの上面に供給することが好ましい。これにより熱膨張性カプセルの供給方法に関わらず供給し易くなり、更に供給された後に熱膨張性カプセルが飛散することを抑制でき、結果として熱膨張性カプセルのロスを抑えることができる。
【0038】
上記「分散工程」は、マットの一面を押圧しつつマットの他面から加振して、マットの一面に供給された熱膨張性カプセルをマットの他面側へ向かって分散させる工程である。即ち、例えば、マットの厚み方向を上下に配置し、マットの上面に熱膨張性カプセルを供給した場合には、マットの下面側に向かって熱膨張性カプセルをマット内に分散させる工程である。
【0039】
上記押圧と上記加振とは、例えば、振動ローラ等によって同時に行うこともできるが、上述のように一面を押圧し、該当する他面で加振されることが好ましい。これにより効率よく分散を行うことができる。
上記「押圧」は、マットの上記一面を押さえつけることである。マットを一面から押圧することで、マットの一面に供給された熱膨張性カプセルをマット内に押し込むと共に、加振によってマットと熱膨張性カプセルとが同じ動きをしてマット内へ熱膨張性カプセルが分散され難くなることを防止することができる。
【0040】
この押圧を行う方法(押圧方法)は特に限定されず、上記効果を得ることができればよい。例えば、押圧手段としてローラを用いて押圧してもよく、平板状の錘を一面に載置して押圧してもよく、その他の方法で押圧してもよいが、これらのなかではローラを用いることが好ましい。ローラは、製造ラインの流れのなかで用いることでができ、製造工程上、特に好ましい。また、ローラを用いた場合には、ローラのなかにマットが引き込まれながら次第に押圧されるために、上記でいう熱膨張性カプセルをマット内に押し込む効果がより得られ易いものと考えられる。
【0041】
上記ローラを用いる形態として、より具体的には、マットをコンベアで移動させながら、コンベアの移動方向へマットが進むように回転されたローラでマットの一面を押圧して行うことができる。ローラによる押圧の条件は特に限定されないが、ローラ直下におけるマット厚が、マット全体の厚さの5〜80%(より好ましくは10〜70%、更に好ましくは20〜50%)となるように押圧を行うことが好ましい。上記範囲では、熱膨張性カプセルをマット内に押し込む効果及びマットと熱膨張性カプセルとが一緒に振動してしまうことを防止する効果がとりわけ高い。更に、上記ローラはマットを搬送するための搬送機能を兼ね備えることもできる。
【0042】
更に、ローラを用いる場合、利用するローラの数及び大きさは特に限定されない。即ち、例えば、ローラは1つのみを用いてもよく、2つ以上を用いてもよい。更に、2つ以上を用いる場合には各々同じ大きさのローラを用いてもよく、異なる大きさのローラを併用してもよい。更に、ローラは、少なくとも直径1cm以上(通常、20cm以下)のものを用いることが好ましい。ローラの直径が1cm以上であれば、熱膨張性カプセルをマット内に押し込む作用が特に効果的に得られるからである。
【0043】
上記「加振」は、マットの他面から行う。この加振における条件は特に限定されないが、加振する振動の振幅は、例えば、0.1〜20mmとすることができ、0.1〜10mmが好ましく、0.1〜6mmがより好ましく、0.1〜4mmが更に好ましく、0.5〜2mmが特に好ましい。上記振幅範囲では熱膨張性カプセルを分散させる効果が特に得られ易い。また、加振する振動の角度(図8の角度θ)は特に限定されないが、マットの移動方向に対して30〜90度(より好ましくは30度以上90度未満、更に好ましくは40〜90度、特に好ましくは45〜90度)で加振することが好ましい(図8参照)。尚、上記90度とはマットに対して垂直な角度である。
【0044】
更に、その他の加振条件として、その振動数(周波数)は特に限定されないものの、500vpm(8.3Hz)以上であることが好ましく、1000vpm(16.7Hz)以上であることがより好ましく、2000vpm(33.3Hz)以上であることが更に好ましく、3000vpm(50Hz)以上であることが特に好ましく、3500vpm(58.3Hz)以上であることがとりわけ好ましい。この振動数は、通常、60000vpm(1000Hz)以下である。これらの好ましい範囲では各々それ以下の場合よりも優れた分散効果を得ることができる。但し、上記上限を超える振動を加振すると、次第に分散性が低下する傾向にある。
更に、振動における最大加速度も特に限定されないが、3G以上であることが好ましく、5〜20Gがより好ましく、7〜15Gが更に好ましい。通常、この最大加速度は20G以下である。
【0045】
また、加振は、少なくとも押圧されている反対側に対して行うことが好ましい。これは押圧していることによる前述の効果をより得やすくなる。従って、例えば、押圧をローラで行う場合には、マットのうちの押圧されている部分の他面が少なくとも加振されていることが好ましい。その他の部分についての加振の有無はとわない。
更に、加振を行う手段は特に限定されず種々の装置を用いることができる。即ち、例えば、単に加振を行うだけの加振装置であってもよいが、部品搬送を行うためのフィーダ等を用いることもできる。フィーダとしては、電動フィーダを用いてもよく、電磁フィーダを用いてもよく、これらを併用してもよい。
【0046】
上記「溶融工程」は、マットを構成する上記熱可塑性樹脂繊維を溶融する工程である。また、上記「膨張工程」は、マット内に分散された熱膨張性カプセルを加熱して膨張させる工程である。
これら2つの工程は、順不同で行うことができる。即ち、(1)溶融工程を先に行い、次いで、膨張行程を後に行ってもよく、(2)溶融工程と膨張工程とを同時に行ってもよく、(3)膨張工程を先に行い、次いで、溶融工程を後に行ってもよい。これらのなかでは、上記(1)又は(2)が好ましい。
【0047】
更に、上記(1)の場合であって、且つ、熱可塑性樹脂繊維を構成する第1の熱可塑性樹脂の融点が、熱膨張性カプセルの殻壁を構成する第2の熱可塑性樹脂の融点よりも低い場合には、溶融工程は、加圧して熱膨張性カプセルの膨張を抑制しつつ、第1の熱可塑性樹脂の融点以上且つ第2の熱可塑性樹脂の融点を超えない温度に加熱して行うことで、熱膨張性カプセルを膨張させずにマット内に残存させながら、補強繊維が第1の熱可塑性樹脂により結着されてなる成形体(マット及びボードなど)を得ることができる。即ち、第1の熱可塑性樹脂により結着された補強繊維の間隙に熱膨張性カプセルが分散して含有された成形体(以下、「膨張前成形体」という)を得ることができる。この膨張前成形体は、膨張させた状態の膨張後成形体に比べると体積が小さいために、輸送コスト及び保存コスト等を低減できる。更に、この膨張前成形体を、その後、膨張工程に供した場合は、上記(2)の場合に比べるとより厚さ及び密度などをコントロールし易い。
【0048】
この溶融工程では、熱可塑性樹脂繊維を構成する第1の熱可塑性樹脂を溶融することができればよく、通常、少なくとも加熱を行う。更に、溶融工程では、加熱と併せて加圧を行うこともできる。加圧を行うことで、第1の熱可塑性樹脂と補強繊維との結着性をより向上させると共に、得られる繊維複合体の厚さを自在に制御することができる。また、上記(1)のように溶融工程を先に行い、次いで、膨張行程を後に行う場合には、熱膨張性カプセルの膨張をより確実に抑止できる。加熱の際の加熱温度は、第1の熱可塑性樹脂の種類により適宜の温度(少なくとも第1の熱可塑性樹脂の融点以上)とすることができる。更に、加圧を行う際には、加熱及び加圧のいずれを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。また、加圧を行う際の加圧圧力は、例えば、1〜10MPaとすることができ、1〜5MPaが好ましい。
【0049】
上記膨張工程では、熱膨張性カプセルを膨張させることができればよく、加熱条件等は特に限定されない。
また、膨張工程では、得られる繊維複合体の成形を同時に行うことができる。即ち、厚さ及び形状を制御することができる。例えば、膨張前成形体を膨張工程において十分に膨張させた上で、膨張後成形体を加圧圧縮して所望の厚さの繊維複合体を得ることもできる(即ち、成形工程を備える)が、膨張工程において、熱膨張性カプセルを膨張させる際に所望厚さのクリアランスを維持できる金型を用いて膨らみを適度に拘束しつつ、熱可塑性樹脂の温度を低下させることで、所望の厚さの繊維複合体を得ることができる。更に、金型に所望の凹凸形状を付与することで、凹凸形状を有する繊維複合体を得ることもできる。
【0050】
以下、図1〜3を用いて、本方法における溶融工程、膨張工程及び成形工程の工程順を説明する。
図1は、溶融工程、膨張工程及び成形工程を、全て別装置を用いて別工程として行った場合を模式的に示している。即ち、溶融工程では、溶融手段61として熱間プレス機を用いて、熱膨張性カプセルが分散含有されたマット10bを加圧しながら、熱膨張性カプセルを膨張させることなく、熱可塑性樹脂繊維を溶融する。従って、この溶融工程の後には、膨張されていない熱膨張性カプセルが分散含有されながら、補強繊維は、熱可塑性樹脂繊維に由来する熱可塑性樹脂により結着されてなる繊維複合体(膨張前繊維複合体10c)が得られる。その後、膨張手段62としてオーブン等の各種炉を用いて、熱膨張性カプセルを膨張させることで、補強繊維が、熱可塑性樹脂繊維に由来する熱可塑性樹脂と、熱膨張性カプセルを構成していた殻壁に由来する熱可塑性樹脂と、の両方により結着された膨張後繊維複合体10cが得られる。次いで、膨張後繊維複合体を構成する熱可塑性樹脂の可塑性が失われない温度で、成形手段63として冷間プレス機を用いて成形を行うことで、繊維複合体からなる成形体が得られることとなる。尚、膨張工程の後に除熱されて可塑性が失われた場合には、再度加熱を行って賦形を行うこともできる。
【0051】
図2は、溶融工程、膨張工程及び成形工程のうちの、溶融工程と膨張工程とを同じ装置を用いて同じ工程(連続的な工程)で行った場合を模式的に示している。即ち、溶融工程では、溶融手段61として熱間プレス機を用いて、熱膨張性カプセルが分散含有されたマット10bを加圧しながら、熱膨張性カプセルを膨張させることなく、熱可塑性樹脂繊維を溶融する。その後、膨張手段62として溶融工程61で用いた熱間プレス機をそのまま用い、金型間に所望のクリアランスが形成されるようにコアバック動作をとって熱膨張性カプセルを膨張させることで、補強繊維が、熱可塑性樹脂繊維に由来する熱可塑性樹脂と、熱膨張性カプセルを構成していた殻壁に由来する熱可塑性樹脂と、の両方により結着された膨張後繊維複合体10cが得られる。次いで、膨張後繊維複合体を構成する熱可塑性樹脂の可塑性が失われない温度で、成形手段63として冷間プレス機を用いて成形を行うことで、繊維複合体からなる成形体が得られることとなる。尚、膨張工程の後に除熱されて可塑性が失われた場合には、再度加熱を行って賦形を行うこともできる。
【0052】
図3は、溶融工程、膨張工程及び成形工程のうち、膨張工程と成形工程とを同じ装置を用いて同じ工程(連続的に行う工程)で行った場合を模式的に示している。即ち、溶融工程では、溶融手段61として熱間プレス機を用いて、熱膨張性カプセルが分散含有されたマット10bを加圧しながら、熱膨張性カプセルを膨張させることなく、熱可塑性樹脂繊維を溶融する。その後、必要に応じて適度な可塑性が得られる程度(熱膨張性カプセルは膨張させず)に加熱した上記マット10bを、膨張手段62である成形金型を備えた熱間プレス機に投入し、成形金型間に所望のクリアランスを維持しつつ加熱して熱膨張性カプセルを膨張させる。引き続いてプレスを行うことで繊維複合体からなる成形体を得ることができる。
尚、図1〜3では、いずれも溶融工程では、熱膨張性カプセルを膨張させないように加圧して熱可塑性樹脂繊維の溶融を行ったものとしているが、この加圧を行わないことにより、熱可塑性樹脂繊維の溶融と同時に、熱膨張性カプセルの膨張を行うこともできる。
【0053】
本方法では、上記供給工程、分散工程、溶融工程及び膨張工程以外にも他の工程を備えることができる。他の工程としては、熱膨張性カプセルを吸引回収する吸引回収工程を挙げることができる。吸引回収工程を備える場合、吸引回収工程は、(1)供給工程と同時に行ってもよく、(2)分散工程と同時に行ってもよく、(3)供給工程と分散工程との間に行ってもよく、(4)分散工程の後に行ってもよい。即ち、吸引回収工程は、上記(1)〜(4)の間を通して行ってもよく、必要な工程においてのみ行ってもよい。吸引工程を備える場合は、熱膨張性カプセルのロスを更に効果的に抑制して、熱膨張性カプセルを有効に活用することができる。
【0054】
[2]本方法により得られた繊維複合体
本方法により得られた繊維複合体10cは、補強繊維11と、補強繊維11どうしを結着する熱可塑性樹脂30と、を含む(図6参照)。また、この繊維複合体は、図4〜6に示すように、補強繊維11と熱可塑性樹脂繊維12とが含まれたマット10aの表裏いずれか一面d1に熱膨張性カプセル20が供給され(供給工程)た後、マット10aの一面d1を押圧しつつマット10aの他面d2から加振して、マット10aの一面d1に供給された熱膨張性カプセル20をマット10aの他面d2側へ向かって分散させ(分散工程)て、その後、熱膨張性カプセルが内部に分散された熱膨張性カプセル分散マット10b(以下、単に「マット10b」ともいう)を構成する熱可塑性樹脂繊維12を溶融し(溶融工程)、マット10b内に分散された熱膨張性カプセル20を加熱して膨張させ(膨張工程)て、得られた繊維複合体10cである。
【0055】
繊維複合体10cを構成する熱可塑性樹脂30には、熱可塑性樹脂繊維12に由来する第1の熱可塑性樹脂と、熱膨張性カプセル20の殻壁に由来する第2の熱可塑性樹脂と、が含まれる。第1の熱可塑性樹脂、及び、第2の熱可塑性樹脂の質量割合は、補強繊維を100質量部とした場合に、それぞれ、好ましくは30〜250質量部及び2〜30質量部、より好ましくは50〜200質量部及び5〜25質量部、更に好ましくは80〜120質量部及び10〜20質量部である。上記質量割合を満たすことで、軽量性及び剛性に優れ、目付が1,500g/m以下の領域においても、深絞り成形が可能となる。
【0056】
また、この繊維複合体は、同一厚さで見た場合に、熱膨張性カプセルを用いない繊維複合体と比較して、10〜200%の軽量化を実現できる。更に、同一目付で見た場合に、熱膨張性カプセルを用いない繊維複合体と比較して、最大曲げ荷重及び曲げ弾性率で評価される剛性が著しく優れる。例えば、目付700〜1,500g/mの領域において、最大曲げ荷重では1.2〜2倍と高い性能が得られ、また、曲げ弾性率では1.1〜1.6倍と高い性能が得られる。後述される用途においては、目付750〜1000g/mの範囲にある繊維複合体を用いることが好ましい。
【0057】
本発明の製造方法により得られる繊維複合体の形状、大きさ及び厚さ等は特に限定されない。また、その用途も特に限定されない。この繊維複合体は、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等として用いられる。このうち自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等が挙げられる。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー及びカウリング等が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]繊維複合体の製造(実施例1−熱膨張性カプセル6質量部添加)
(1)マットの製造
補強繊維として植物性繊維(ケナフ繊維)を用いたマットを、図7に示すマット製造装置を用いて製造した。このマット製造装置では、植物性繊維及び熱可塑性樹脂繊維の混合繊維を2機のエアレイ装置(第1エアレイ装置及び第2エアレイ装置)を用いて2つのウェブ(第1ウェブ及び第2ウェブ)を調製し、これらのウェブを積層した後、ニードルパンチを行って2層のウェブどうしを交絡させて1層のマットを製造する装置である。更に、図7に示すように、このマット製造装置の後端には、得られたマットに熱膨張性カプセルを供給し、これをマット内に分散させる熱膨張性カプセル供給分散装置が連結されている。
【0059】
具体的には、補強繊維11として、ケナフ繊維(平均径0.09mm、平均繊維長65mm)を用い、熱可塑性樹脂繊維12としてポリプロピレン繊維(平均径0.02mm、平均繊維長50mm、大和紡績株式会社製)を用い、これらを質量比50:50で混合した混合繊維13が、貯蔵手段に貯蔵されている。そして、この貯蔵手段から必要に応じて混合繊維13が開繊されながら、各混合繊維供給部(第1混合繊維供給部411a及び第2混合繊維供給部411b)へと搬送される。その後、混合繊維13は、各エアレイ装置(第1エアレイ装置412a及び第2エアレイ装置412b)へと供給されて、各エアレイ装置からコンベア413上に吐出されて、コンベア413面上で、厚さ200mmのウェブ(第1ウェブ101及び第2ウェブ102)が形成され、引き続いて、第1ウェブ101と第2ウェブ102とが積層されて積層ウェブ103となる。その後、積層ウェブ103の上方から、第1交絡手段(ニードルパンチ加工装置)414aにより交絡され、更に、下方から第2交絡手段(ニードルパンチ加工装置)414bにより交絡されて、厚さ約20mm及び目付700g/mマット10aが得られる。
【0060】
(2)供給工程
上記(1)で得られたマット10aは、マット製造装置40に連結された熱膨張性カプセル供給分散装置50へ引き続いて搬送される。この熱膨張性カプセル供給分散装置50では、マット10aの一面に対して熱膨張性カプセルが供給され、その後、分散部52によりマット内部に熱膨張性カプセル20が分散されてマット10bが得られる。更に、熱膨張性カプセル供給分散装置50は、供給部(熱膨張性カプセル供給部)51と分散部52とを備える。供給部51は、熱膨張性カプセルをマット10aの一面d1へ供給する供給手段511を備え、分散部52は、マット10aの一面d1を押圧する押圧手段521及びマット10bの他面d2から加振する加振手段522を備える。本実施例では、供給手段511として静電塗布装置が用いられており、直流高電圧により帯電された熱膨張性カプセル20をスプレー(吐出)して、静電引力によりマット10aの一面d1に供給・付着させることができる。
【0061】
具体的には、マット10aの一面d1に熱膨張性カプセル20(大日精化工業株式会社製、品名「ダイフォーム H1100D」、平均粒径46μm、発泡開始温度196℃、最大発泡温度208℃)を、静電塗装装置{(ランズバーグ・ゲマ社製、品名「オプティフレックス1S(撹拌式)ハンドガンユニット」}を用いて静電塗布した。塗布条件は、ガンヘッド先端部からマット10aまでの距離を約30cmとし、塗布ガン印可電圧を−100kV、電流値を22μA、エア流量を4.0m/時間、吐出量を40%、リンスエアーを0.1m/時間、コンベア413の搬送速度3m/分とした。
【0062】
(3)分散工程
上記(2)で熱膨張性カプセルが一面d1に供給されたマット10a(図4の状態にある)は、その後、熱膨張性カプセル供給分散装置50の分散部52へと送られて、分散工程に供される。この分散部52では、押圧手段521としては、幅100cm×直径10cmであり、表面材質がクロムメッキからなる搬送ローラ(マット10aを搬送させる方向へ回転されている)を用いた。この搬送ローラは、コンベア413とのクリアランスが10mmに維持されて回転されており、マット10aはこの搬送ローラに引き込まれて厚さが50%程度にまで圧縮されて押圧される(押圧力として換算した場合、1MPaに相当)。また、加振手段522としては、電磁フィーダ(駆動方式;電磁石、電源60Hzにおける振動数3600vpm、最大振幅;1.5mm、トラフ最大加速度;約12G)を用いた。
【0063】
具体的には、マット10aを搬送速度3m/分で搬送しながら上記押圧手段521である搬送ローラで押圧する際に、この押圧部分の下方(マット10aの他面d2側)から、上記電磁フィーダにより、加振角度45度、振幅を1mm、振動数3600vpmの条件で加振を行ってマット10a内に熱膨張性カプセル20が分散された熱膨張性カプセル分散マット10bが得られた。尚、この分散工程により、マット10a表面(マットの一面d1)に白く付着されていた熱膨張性カプセルが内部に分散されてマット表面から白さがなくなったことが確認された。また、質量測定により、マット10a内に、マット全体質量100質量部に対して6質量部の熱膨張性カプセルが含有されたことが確認された。
【0064】
(4)溶融工程
上記(3)で得られた熱膨張性カプセル分散マット10bは、その後、裁断機により裁断し、次いで、加熱プレス装置の平板金型内で溶融工程に供した。この加熱プレスに際しては、型温度235℃及びプレス圧力24kgf/cmの条件で加熱プレスを行い、被加熱プレス物の内部温度210℃になったことを確認し、加熱プレスを停止した。その結果、厚さ2.5mmの膨張前繊維複合体が得られた。即ち、この膨張前繊維複合体内部では、熱可塑性樹脂繊維12は溶融されて補強繊維どうしを結着した状態にあるものの、加圧により熱膨張性カプセル20は膨張されていない状態にある。
【0065】
(5)膨張工程及び成形工程
上記(4)で得られた膨張前繊維複合体を、235℃に加熱されたオーブン内に搬送して、オーブン内で膨張前繊維複合体内部の温度が210℃(熱膨張性カプセル20の最大発泡温度208℃を超える温度)に達することを確認し、十分にオーブン内で熱膨張性カプセル20を膨張させて膨張後繊維複合体10cを得た。
その後、可塑性が失われる前に、すばやく膨張後繊維複合体を冷間プレス機の型内へ移動した。この冷間プレス機の型温度は40℃に調温されている。この冷間プレス機において面圧36kgf/cmで60秒間加圧して、厚さ4mm、目付1,000g/m、密度0.28g/cmである繊維複合体10cを得た。
【0066】
[2]繊維複合体の製造(実施例2−酸変性PP+熱膨張性カプセル6質量部添加)
上記[1]において、熱可塑性樹脂繊維に換えて、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、品名「ノバテック SA01」)と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成工業株式会社製、品名「ユーメックス 1001」)とを質量割合97:3(合計100質量%)で混合して繊維化(溶融紡糸法による)した酸変性ポリプロピレン繊維(平均径0.025mm、平均繊維長51mm)を用いた以外の条件はすべて同じにして、厚さ4mm、目付1,000g/m、密度0.25g/cmである実施例2の繊維複合体を得た。
【0067】
[3]比較品の製造(比較例1−熱膨張性カプセル無添加)
上記[1]において、熱膨張性カプセル20を用いないこと以外の条件はすべて同じにして、厚さ4mm、目付1,000g/m、密度0.27g/cmである比較例1の繊維複合体を得た。
【0068】
[4]実施例1、実施例2及び比較例1の繊維複合体の機械的特性の比較
JIS K7171に準じて、最大曲げ荷重、曲げ強さ、及び曲げ弾性率を測定した。この測定に際しては、含水率約10%の状態における試験片(長さ150mm、幅50mm及び厚さ4mm)を用いた。そして、試験片を支点間距離(L)100mmとした2つの支点(曲率半径5.0mm)で支持しながら、支点間中心に配置した作用点(曲率半径3.2mm)から速度50mm/分にて荷重の負荷を行って各特性の測定を行った。その結果を下記各値が得られた。
【0069】
「最大曲げ荷重」
実施例1 ; 38.02N
実施例2 ; 47.57N
比較例1 ; 21.14N
「曲げ強さ」
実施例1 ; 8.26MPa
実施例2 ; 10.33MPa
比較例1 ; 4.08MPa
「曲げ弾性率」
実施例1 ; 971.87MPa
実施例2 ; 980.60MPa
比較例1 ; 472.53MPa
【0070】
上記結果より、熱膨張性カプセルを用いた実施例1の繊維複合体と、熱膨張性カプセルを用いていない比較例1の繊維複合体と、は前述のように同じ目付であるにも関わらず、実施例1は比較例1に対して、最大曲げ荷重において1.80倍(80%の向上)、曲げ強さにおいて2.02倍(102%の向上)、曲げ弾性率において2.06倍(106%の向上)、と著しく優れた機械的特性が得られた。更に、実施例2は比較例1に対して、最大曲げ荷重において2.25倍(125%の向上)、曲げ強さにおいて2.53倍(153%の向上)、曲げ弾性率において2.07倍(107%の向上)、と更に著しく優れた機械的特性が得られた。
この結果は、比較例1と同等の最大曲げ荷重、曲げ強さ及び曲げ弾性率を得るには実施例1の目付を約600g/mまで小さくできることを意味する。また、比較例1と同等の最大曲げ荷重、曲げ強さ及び曲げ弾性率を得るには実施例2の目付を約500g/mまで小さくできることを意味する。従って、本方法を用いて得られた繊維複合体は、従来の方法による繊維複合体に比べて著しい軽量化を達成できることが分かる。
【0071】
[5]分散工程における各手段の差異による効果
(1)押圧手段の差異による効果
上記[1](3)における分散工程では、押圧手段として搬送ローラを用いたが、これに換えて重さ10kg且つ厚さ1cmの略正方形状の錘を押圧手段として用い、その他は同様にして分散工程を行った。その結果、同様な物性を確保できたが、律速となり、量産性を考慮した作業性おいて搬送ローラを用いた場合に劣っていた。
【0072】
(2)加振条件の差異による効果
上記[1](3)における分散工程では、加振条件を、加振角度45度、振幅1mm、振動数3600vpmとしたが、この加振条件を変化させてその効果の比較を行った。その結果、下記に示すように試験1の加振条件が優れていることが分かった。
[試験1]加振条件;加振角度45度、振幅1mm、振動数3600vpm
分散具合;10秒以内でマット表面から白色状態が目視されなくなり、
極めて効率的な分散ができた。
[試験2]加振条件;加振角度30度、振幅6mm、振動数900vpm
分散具合;10秒超過後にマット表面から白色状態が目視されなく
なり、試験1の条件に比べると劣るものの、分散可能である
ことが分かる。
[試験3]加振条件;加振角度40度、振幅2mm、振動数3000vpm
分散具合;10秒超過後にマット表面から白色状態が目視されなく
なり、試験1の条件に比べると劣るものの、分散可能である
ことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の繊維複合体の製造方法は、自動車等の車両関連分野、船舶関連分野、航空機関連分野、建築関連分野等において広く利用される。本発明の繊維複合体の製造方法により得られた繊維複合体は、上記分野における内装材、外装材、構造材等として好適である。このうち上記車両関連分野のなかでも、自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等が挙げられる。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー及びカウリング等が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の工程の流れの一例を模式的に説明する説明図である。
【図2】本発明の工程の流れの他例を模式的に説明する説明図である。
【図3】本発明の工程の流れの更に他例を模式的に説明する説明図である。
【図4】本製造方法の供給工程後におけるマットと熱膨張性カプセルとの関係を模式的に説明する概略断面図である。
【図5】本製造方法の分散工程後におけるマットと熱膨張性カプセルとの関係を模式的に説明する概略断面図である。
【図6】本製造方法により得られる繊維複合体を模式的に説明する概略断面図である。
【図7】実施例1で用いたマット製造装置及び熱膨張性カプセル供給分散装置を模式的に示す説明図である。
【図8】本製造方法に係る加振角度を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0075】
10a:マット、10b;熱膨張性カプセル分散マット、10c;繊維複合体(膨張後繊維複合体)、11;補強繊維、12;熱可塑性樹脂繊維、13;混合繊維、20;熱膨張性カプセル30;熱可塑性樹脂、d1;一面、d2;他面、
101;第1ウェブ、102;第2ウェブ、103;積層ウェブ、
40;マット製造装置、
411a;第1混合繊維供給部、411b;第2混合繊維供給部、
412a;第1エアレイ装置、412b;第2エアレイ装置、
413;搬送手段(コンベア)、
414a;第1交絡手段、414b;第2交絡手段、
50;熱膨張性カプセル供給分散装置、
51;供給部、511;供給手段(静電塗布装置)、
52;分散部、521;押圧手段、522;加振手段、
61;溶融手段、62;膨張手段、63;成形手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維どうしが熱可塑性樹脂により結着された構造を有する繊維複合体の製造方法であって、
上記補強繊維は、植物性繊維及び無機繊維のうちの少なくとも一方であり、
上記補強繊維と熱可塑性樹脂繊維とが含まれたマットの表裏いずれか一面に、熱可塑性樹脂からなる殻壁を有する熱膨張性カプセルを供給する供給工程と、
上記マットの一面を押圧しつつ該マットの他面から加振して、該マットの一面に供給された上記熱膨張性カプセルを該マットの他面側へ向かって分散させる分散工程と、
上記マットを構成する上記熱可塑性樹脂繊維を溶融する溶融工程と、
上記マット内に分散された上記熱膨張性カプセルを加熱して膨張させる膨張工程と、を備えることを特徴とする繊維複合体の製造方法。
【請求項2】
上記供給工程は、上記マットの一面に熱膨張性カプセルを静電塗布して行う請求項1に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項3】
上記分散工程は、上記マットをコンベアで移動させながら行い、
上記押圧は、上記コンベアの移動方向へ上記マットが進むように回転されたローラで該マットの一面を押圧して行い、且つ、
上記加振は、上記マットのうちの押圧されている部分の他面から行う請求項1又は2に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項4】
上記加振は、6mm以下の振幅で行う請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項5】
上記加振は、上記マットの移動方向に対して30〜90度の角度の方向へ振動させて行う請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項6】
上記溶融工程と上記膨張工程とを同時に行う請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項7】
上記熱可塑性樹脂繊維を構成する第1の熱可塑性樹脂の融点が、上記熱膨張性カプセルの殻壁を構成する第2の熱可塑性樹脂の融点よりも低い場合であって、
上記溶融工程は、加圧して上記熱膨張性カプセルの膨張を抑制しつつ、上記第1の熱可塑性樹脂の融点以上且つ上記第2の熱可塑性樹脂の融点を超えない温度に加熱して行い、且つ、該溶融工程の後に上記膨張工程を行う請求項1乃至5のいずれかに記載の繊維複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−179896(P2009−179896A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18290(P2008−18290)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】