説明

繊維集合体及びそれを用いた光源筐体の通気部材

【課題】筐体の内部の湿度を制御し、かつ防水、防油、防塵を可能にする繊維集合体を提供する。
【解決手段】ヒドラジン架橋処理したアクリル系樹脂からなる吸湿性を有する繊維集合体からなる層と、平均繊維径0.010〜1μmの繊維からなる透湿性・防水性を有する繊維集合体からなる層が積層した、耐水度が50kPa以上、透湿性が10000g/m2・24hr以上、通気度が0.3cc/m2・s以上である繊維集合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも吸湿性又は吸水性を有する繊維集合体からなる層と透湿性・防水性を有する繊維集合体からなる層を有することを特徴とする繊維集合体に関するものであり、更に詳しくは、筐体の内部の湿度を制御し、かつ防水、防油、防塵を可能にする繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用ヘッドランプ,リアランプ,フォグランプ,ターンランプ,モーター,各種圧力センサー,および圧力スイッチ等の自動車用電装部品、携帯電話、カメラ、電気剃刀、電動歯ブラシならびに屋外用途のランプ等、各種の機器筐体がある。
【0003】
最近では、電気・電子部品の高密度高集積化に従って、部品収納筐体やパッケージヘの高湿度水蒸気の存在や露結は電気接点の劣化あるいは清浄面への塵挨汚染を伴うため非常に嫌われる状態になってきている。また、光コネクタの端面や、光学部品の結晶端面あるいは光半導体素子の劈開結晶端面は極端に水分の付着を避ける必要性が高くなってきている。このために、ハーメチックシールによる封止や、乾燥窒素或いはアルゴン、ヘリウムの圧力封止を行った金属缶封止などが、様々な形状とアイディアを加えて考案されている。また、湿度侵入を防ぐために、このような電子部品、光学部品を殆ど空隙なく、樹脂で埋め込んでしまう樹脂モールド法も検討されてきた。
【0004】
また、自動車部品に関しては、自動車の室内空間の確保が大きな課題になっており、従来は車室内に設置されていた自動車用電子制御装置,CPU,電装品等を収納する機器筐体がエンジンルームやドアパネル内部等の自動車の車室外に移されるに至っている。かかる部位は、車室内と異なり車室外に設置される上記機器筐体は、風雨,泥水,オイル類等の影響を受けないよう密閉状態になっていた。
【0005】
かかる密閉状態においては、ヘッドランプや他の電子機器の筐体など、熱源を有する筐体においては、熱源の入り切りを繰り返すことで筐体内に発生する過剰な水により、機器の破損および曇ることによるヘッドランプの照度低下の問題があった。
【0006】
また、このような部品を収納する筐体やパッケージは様々な環境下で用いられるため作製時には、低湿度或いは完全乾燥状態であっても、その後の使用環境下での水分浸透や温度変化によるパッケージ封止部分の変形などで水分の完全な制御を行うことは不可能であった。
【0007】
更に、自動車用電子制御装置等では、それ自体の発熱や車室外設置にもとづく温度差による圧力変動により機器筐体が破損する問題を有していた。
【0008】
水分や水蒸気を完全に防ぐことは、通常の環境では困難である。密閉系の筐体を用いた場合でも、ドライルームでの封止、真空環境下でのガス置換などが必要であり湿度の制御は非常に手間とコストが掛かるものであった。
【0009】
上記のような問題点を解決するために、筐体の内部と外部との通気を確保するとともに、筐体の内部への異物の侵入を抑制する通気部材が取り付けられてきた。このような通気部材を筐体に取り付けることによって、筐体の内部への水や塵芥などの侵入を防ぎながら、温度変化に伴う筐体内部の圧力変動を緩和することが可能となった。(例えば、特許文献1、2、3参照)
【特許文献1】登録3828034号公報
【特許文献2】特開2001−143524号公報
【特許文献3】特開2001−168543号公報
【0010】
しかし、上記のような通気部材では、通気膜部分を介して筐体内外が連通しているため、外部の水蒸気が筐体内部に侵入し、内面に水滴(曇り)が生じることによるランプ照射光度の低下を改善することはできない。その他の筐体に用いる通気部材においても同様である。
【0011】
このような問題点を解消するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔膜を通気膜として用い、シリカやアルカリ金属酸化物のような水分吸着層を合わせた部材、装置を提案している。(特許文献4、5参照)
【特許文献4】特開2006−334537号公報
【特許文献5】特開2007−294464号公報
【0012】
しかしながら、水分吸着層に用いられている吸湿剤には粒状のシリカやアルカリ金属酸化物を使用しており、吸湿量が少なく吸湿速度が遅く再生に高温を要する欠点、また、吸湿剤をシ−ト、不織布等の形態で使用するには、吸湿剤をシ−ト、不織布等に散布し、はさみ込む、包む等の手段を用いているために、使用中に吸湿剤が脱落し易い、吸湿能力が十分得られない、上記形態に加工するには繁雑な工程を要する等の問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術の課題を背景としてなされたものであり、筐体の内部の湿度を制御し、かつ防水、防油、防塵を可能にする繊維集合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
(1)少なくとも吸水性を有する繊維集合体からなる層と透湿性・防水性を有する繊維集合体からなる層を有することを特徴とする繊維集合体である。
さらに本発明は、
(2)透湿性・防水性を有する繊維集合体が平均繊維径0.010〜1μmの繊維からなることを特徴とする前記(1)の繊維集合体である。
さらに本発明は、
(3)透湿性・防水性を有する繊維集合体からなる層の耐水度が50kPa以上であり、透湿性が10000g/m・24hr以上、通気度が0.3cc/m・s以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)の繊維集合体である。
さらに本発明は、
(4)吸湿性を有する繊維集合体からなる層が架橋アクリル系樹脂からなることを特徴とする前記(1)〜(3)いずれかに記載の繊維集合体
(5)架橋アクリル系樹脂がヒドラジンによる架橋であることを特徴とする前記(1)〜(4)いずれかに記載の繊維集合体、
(6)(1)〜(5)いずれかの繊維集合体よりなることを特徴とする光源筐体の通気部材である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、使用中の水分吸着粒子の脱落という危険性がなく、筐体の内部の湿度を制御し、かつ防水、防油、防塵を可能にするという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明に用いる吸湿性を有する繊維集合体とは、吸湿性を有する繊維集合体である。吸湿性を有する繊維素材はゼオライト等の無機物であってもよいが、柔軟で取り扱い性に優れる高分子であることが好ましい。また、ここでいう吸湿性を有する高分子とは、特に限定されるものではないが架橋アクリル系樹脂であることが好ましい。さらに、ヒドラジンによる架橋を用いることで、高い吸放湿性、難燃性を有し、かつ各種形態に容易に加工し得、吸湿後の形態保持性に優れ、その上容易に再生し得ることが可能となるため、特に好ましい。また、ここでいう繊維集合体とは、その構造は特に限定されず、不織布、織物、編物のような繊維の集まりをいう。特に、不織布は繊維間空隙が小さく、水との接触表面が大きいため好ましい。
【0017】
本発明の繊維集合体に用いる吸湿層は、20℃におけるRH65%での吸湿率が15%以上で、かつRH90%での吸湿率が30%以上であることが好ましい。かかる吸湿性を有すれば結露を有効に防止することができるからである。
【0018】
本発明でいう架橋アクリル系繊維は、その出発アクリル繊維としてはアクリロニトリル(以下、ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維であることが好ましく、その携帯は、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等いずれであってもよく、また、製造工程中途品、廃繊維などでも構わない。AN系重合体は、AN単独重合体、ANと他のモノマ−との共重合体のいずれでも良く、他のモノマ−としては、ハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン;(メタ)アクリル酸エステル;メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸含有モノマ−及びその塩;(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸含有モノマ−及びその塩;アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等のその他のモノマ−が挙げられるがANと共重合可能なモノマーであれば特に限定されない。
【0019】
また、筐体の熱源を利用する場合には、たとえばカーボンブラックのような伝熱性を高める添加剤等を添加することは好ましい形態の一つである。
【0020】
また、紫外線防止剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤等を添加することも製品安定性の上で好ましい。
【0021】
本発明における架橋アクリル系繊維はヒドラジン系化合物による架橋処理によって導入される窒素含有量の増加が、1.0〜10.0重量%である架橋アクリル系繊維であって、残存ニトリル基の一部が1.0〜10.0meq/gの塩型カルボキシル基に、存在すればその残部が酸型カルボキシル基及び/又はアミド基に変換されたものが好ましい。
【0022】
本願で用いるカルボキシル基関連の用語について定義する。「酸型カルボキシル基」とは−COO- が水素イオンと結合したH型であるものとする。「塩型カルボキシル基」とは−COO- が水素イオン以外の陽イオンと結合したものとする。また、「カルボキシル基」とは−COOを含むもの全てである。
【0023】
該アクリル系繊維に、ヒドラジン架橋を導入する方法としては、窒素含有量の増加が1.0〜10.0重量%に調整しうる手段である限り採用出来るが、濃度5〜80%,温度50〜120℃で5時間以内で処理する手段が工業的に好ましい。ここで、窒素含有量の増加とは原料アクリル繊維の窒素含有量とヒドラジン架橋アクリル繊維の窒素含有量との差をいう。
【0024】
なお、窒素含有量の増加が上記下限に満たない場合には、最終的に実用上満足し得る物性の繊維が得られず、また、難燃性、抗菌性が得られ難い。上限を超えると、最終的に高吸湿性が得られない。ここに使用するヒドラジンとしては、窒素含有量が上記範囲を満たすものであれば特に限定されない。このようなヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネート等、この他エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミノ基を複数含有する化合物が例示される。
【0025】
ヒドラジン系化合物による架橋処理後の残存ニトリル基の一部を塩型カルボキシル基に、存在すればその残部を酸型カルボキシル基及び/又はアミド基に変換する方法としては、アルカリ金属水酸化物、アンモニア等の塩基性水溶液、或いは硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液を含浸、または該水溶液中に原料繊維を浸漬した状態で加熱処理する手段、或いは、前記架橋結合の導入と同時に加水分解反応を行う手段、或いは、酸で加水分解した場合にはカルボキシル基を塩型に変換するという手段、またはヒドラジン系化合物処理による架橋結合導入の後、引き続き酸処理A、次いでアルカリによる加水分解を行う手段などが挙げられる。架橋結合の導入後の酸処理Aの酸濃度、アルカリ濃度が低くすることができ、容易に多量の塩型カルボキシル基に変換できることから、ヒドラジン系化合物処理による架橋結合導入の後、引き続き酸処理A、次いでアルカリによる加水分解を行う手段が好ましい。
【0026】
ここに使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸の水溶液、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。この処理の前に架橋処理で残留したヒドラジン系化合物は、十分に除去しておく。また、使用するアルカリとしては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニア等の塩基性水溶液等が挙げられるが、加水分解可能なアルカリであれば特に限定されない。使用する酸、アルカリの濃度についても特に限定されないが、ともに1〜10重量%、温度50〜120℃で2時間以内で処理する手段が工業的、繊維物性的にも好ましい。さらに限定するなら酸処理A,アルカリ加水分解ともに1〜5重量%の濃度で処理する事が好ましい。
【0027】
カルボキシル基を塩型にする方法としては、塩型カルボキシル基の量が1.0〜10.0meq/gとなる方法であれば特に限定されないが、本発明の請求項3に示すアルカリによる加水分解後の繊維をそのまま水洗,乾燥する方法が好適である。この他、カルボキシル基を塩型カルボキシル基にする方法として、アルカリによる加水分解に次いで、下記に例示する各種の塩型の水酸化物又は塩の水溶液に浸漬し、しかる後に水洗,乾燥する方法が例示される。カルボキシル基の塩型としては、Li,Na,K等のアルカリ金属、Be,Mg,Ca,Ba等のアルカリ土類金属、Cu,Zn,Al,Mn,Ag,Fe,Co,Ni等の他の金属、NH4 ,アミン等の有機の陽イオンを挙げることが出来る。アルカリによる加水分解に次いで、酸処理Bを行ってカルボキシル基を酸型カルボキシル基にしておいてから上述のような塩処理、或いはアルカリ処理を施すという方法で酸型カルボキシル基を塩型カルボキシル基に変換しても良い。ここで、塩型カルボキシル基が1.0〜10.0meq/gとなれば、全てのカルボキシル基を塩型カルボキシル基に変換することもなく、必要に応じて、塩型カルボキシル基の量を調整しても構わない。塩型カルボキシル基に酸を加えて、塩型カルボキシル基の量を調整しても構わない。
【0028】
また、塩型カルボキシル基の塩の種類は1種類に限定されるわけではなく、2種類以上にしても構わない。導入される塩型カルボキシル基の量が本発明の範囲内であれば、繊維内に存在するカルボキシル基の100%を塩型にせずに、酸型カルボキシル基が残留していても良い。本発明の繊維はアクリル系繊維を化学変性したものであるが、ヒドラジン系化合物による架橋後の残存ニトリル基の一部は塩型カルボキシル基に変換されており、この他にもニトリル基が存在する場合には酸型カルボキシル基及び/又はアミド基に変換されているものであり、実質的にニトリル基は消費されている。
【0029】
なお、塩型カルボキシル基が1.0meq/gに満たない場合には高吸放湿性が得られず、また10.0meq/gを越えると、実用上満足し得る繊維物性が得られない。
【0030】
本発明における架橋アクリル繊維は吸放湿速度が速く、高吸放湿性以外に難燃性・抗菌性を兼備する繊維を提供することが出来る。特に高い引張強度を求める場合には、後述するように出発アクリル繊維として、二色性比の高い繊維を選ぶのが良い。
【0031】
即ち、繊維を形成するAN系重合体分子が十分に配向しておりコンゴ−レッド(以下CRという)二色性比が0.4以上、更に好ましくは0.5以上のアクリル系繊維を採択することが望ましい。なお、CR二色性比は、高分子化学23(252)193(1966)記載の方法に従って求められるものである。
【0032】
なお、かかるアクリル系繊維の製造手段に限定はなく、上記CR二色性比が満たされる限り、適宜公知の手段を用いることができるが、中でも全延伸倍率を6倍以上、好ましくは8倍以上とし、かつ工程収縮率を30%以下、好ましくは20%以下とする手段の採用により工業的に有利に所望のアクリル系繊維を作成し得る。
【0033】
このような繊維を出発繊維として用いる事が好ましいが、このような繊維は、アクリル系繊維製造工程途中のものであっても、繊維を紡績加工等を施した後のものでも良い。出発アクリル系繊維として、延伸後熱処理前の繊維(AN系重合体の紡糸原液を常法に従って紡糸し、延伸配向され、乾燥緻密化、湿熱緩和処理等の熱処理の施されていない繊維、中でも湿式又は乾/湿式紡糸、延伸後の水膨潤ゲル状繊維:水膨潤度 30〜150%)を使用することにより、反応液中への繊維の分散性、繊維中への反応液の浸透性などが改善され、以て架橋結合の導入や加水分解反応が均一かつ速やかに行われるので望ましい。
【0034】
なお、これらの出発アクリル系繊維を、ポンプ循環系を備えた容器内に充填し、上記架橋結合の導入、酸処理A、アルカリ処理、及び塩型カルボキシル基の形成、水洗、油剤処理等の手段をとることが、装置上、安全性、均一反応性等の諸点から望ましい。かかる装置(ポンプ循環系を備えた容器)としては染色機が例示される。
【0035】
本発明におけるアクリル繊維は、吸湿率が非常に高く、再生も容易に行う事ができる。このように繊維の吸湿性能が高い為、高い吸湿発熱量を示す。ここでいう吸湿発熱量とは、105℃にて16時間以上乾燥した繊維1gを、標準状態(20℃、65%RH)で吸湿させた時の発熱量をいう。本発明におけるアクリル繊維は吸湿発熱量が高いと言われている羊毛の108cal/g、ダウン羽毛の76cal/g、綿47cal/gに対して130〜800cal/gと非常に高い吸湿発熱量を示す。このように大きく発熱することにより、結露する前の水蒸気を吸湿し発熱する作用による結露防止素材、水蒸気を吸収する。また、この繊維は親水性が高いので、水分を吸収,水蒸気を放出することも可能である。このような効果は、出発繊維を細デニール糸にする、中空糸にする、多孔繊維とする等で更に高めることができる。また、フィブリル化繊維形態、起毛或いは植毛した布や紙等にすることも有効である。
【0036】
細デニール糸にする手段としては、複合紡糸、高速紡糸、後に詳しく述べる静電紡糸が挙げられる。
【0037】
本発明におけるアクリル繊維は従来の吸湿剤より優れた放湿性能を有する。つまり、従来の吸湿剤であるシリカゲル、ゼオライト、硫酸ナトリウム、活性アルミナ、活性炭、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、五酸化リン等と対比して低温でも再生が可能である。従来の吸湿剤は例えば120℃といった高温で再生を行う必要があったのに対し、本発明の繊維は例えば、50℃という低温においても再生ができる。このように低温で再生できるという特徴は種々の機械の廃熱(例えばランプの放射熱)利用による再生も可能であり、省エネルギー型吸湿素材としても適用できる。
【0038】
また、本発明のアクリル繊維は高吸放湿性繊維であるが、吸湿したときの繊維の状態がべたつかないことから、後工程および使用中に不具合を起こすことが少ない。
【0039】
本発明のアクリル繊維の吸放湿性は、主に塩型カルボキシル基によって発現する。この量を制御する事によって吸放湿性を制御できる。例えば、加水分解により多量のカルボキシル基を導入し、塩型カルボキシル基への変換量を制御して吸放湿性を制御する等の方法も行い得る。このような方法を採用する場合には、アルカリによる加水分解に次いで金属塩処理を行い酸処理を行う等種々の方法があるが、塩型カルボキシル基が1.0〜10.0meq/g存在する方法であれば特に限定されない。しかし、工業的には、アルカリによる加水分解に次いで、酸処理Bを行ってからアルカリ存在下での金属塩処理或いはアルカリ処理を行って塩型カルボキシル基の量を制御するという方法が塩型カルボキシル基の量を制御するのに好ましい。
【0040】
本発明の繊維は吸放湿速度が速いが、この速度も繊維自体や繊維でなる成形体の密度などによって制御することができる。非常に早い吸放湿速度が要求される場合には、静電紡糸法などで得る繊維径がナノレベルの細い高吸放湿性繊維を用いたり、フィブリル化した高吸放湿性繊維を用いたり、繊維密度を低くしたり、起毛,植毛等を行い、高吸放湿性繊維と湿分含有気体と接触する面積を大きくする等の方法を採用する事ができる。また、緩慢な吸放湿速度が要求される場合には、不織布、紙への加工の密度を高める或いは紡績時に高い撚り数にする等により繊維密度を高くしたり、太い高吸放湿性繊維を用いたり、水蒸気を透過する事のできる他の物質(後述する透湿性・防水性を有する層など)で覆う等の方法が採用できる。
更に早い吸放湿速度と緩慢な吸放湿速度両者が求められる場合は、上記の方法で得られた繊維集合体を2層重ねることも可能である。
【0041】
本発明のアクリル繊維の吸放湿性は、空気中の水蒸気の吸放湿に限定されず、種々の水蒸気含有気体の吸放湿にも適用できる。例えば水蒸気を含有したメタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス、エチレンガス、アセチレンガス等の炭化水素ガス、水素、炭酸ガス、一酸化炭素、ヘリウム、窒素、酸素、アルゴン、硫化水素、窒素酸化物、アンモニアガス、その他種々の混合ガス等が例示されるが、これに限定されない。
【0042】
本発明におけるアクリル繊維は先に述べたように高い吸放湿性の他に、高い難燃性、抗菌性も有する。ここでいう難燃性とはJIS−K−7201でいう限界酸素指数(LOI)が20を越えるものを言い、本発明におけるアクリル繊維はこの値を上回る24以上の難燃性を示す。高温下に晒される機械熱源に近い部分でも使用が可能となり、使用用途範囲または装置の設計自由度を大きくすることが可能となり有用である。抗菌性は、抗菌性試験菌を肺炎桿菌とし、抗菌防臭加工製品の加工効果評価試験マニュアル・シェークフラスコ法(繊維製品衛生加工協議会,昭和63年)に準拠した方法で90%以上の減菌率を示す。通常の繊維は水分を吸収すると菌の発生し易い環境になるため好ましくない。
【0043】
本発明におけるアクリル繊維は、耐薬品性に優れた架橋構造を有している為、種々の薬品による処理を行っても繊維形態を保持することができる。よって、酸やアルカリ等を含む構造材料の構造保持材等としても適用できる。
【0044】
本発明に係るアクリル繊維が、難燃性を有しつつ高吸放湿性を兼ね備える理由は、十分に解明するに至っていないが、概ね次のように考えられる。
【0045】
即ち、AN系重合体から出発していながら、実質的にニトリル基が消失している所から、ポリマー鎖に結合している側鎖は、ヒドラジン系化合物との反応により生成した窒素を含有する架橋構造と、ニトリル基の加水分解反応により生成した塩型カルボキシル基が大部分を占めていると考えられる。
【0046】
一般に塩型カルボキシル基は吸湿性を有するが、本発明におけるアクリル繊維はこの量が非常に多いことに加え、窒素の多い架橋構造を有するため吸湿性を更に高めていると考えている。また、カルボキシル基が塩型であることと、適度な架橋構造があることにより、吸湿性に関与するはずの官能基同士が水素結合してしまい吸湿性に寄与しないといった機構が抑制され、非常に高い吸湿性及び放湿性を持つと推定している。非常に高い吸湿発熱量を示すのは、本発明の繊維が高吸放湿繊維であり、周囲の相対湿度に応じた量の水蒸気を収着し、その際、水の蒸発潜熱にほぼ等しい吸着熱を発生する為であると考えている。
【0047】
架橋後の酸処理Aは、ヒドラジン系化合物と反応せずに残存するニトリル基の加水分解反応も同時に行っている。この反応はカルボキシル基にまで変換することは必須でなくアミドであっても構わない。この酸処理Aを行うことが、次のアルカリによる加水分解を容易にさせ、アルカリによる加水分解の試薬の濃度が低くても、カルボキシル基に変換できる理由であると考えている。
【0048】
抗菌性は窒素を含有する架橋構造によりもたらされていると推定される。さらに、吸湿時でもべとつき感がないのは高度に架橋されているためであろう。
【0049】
難燃性についても機構は明らかではないが、カルボキシル基が塩型であり量も非常に多いこと、多量に窒素を含むこと、さらには、吸湿率が非常に高いため温度上昇が抑制される等の機構が考えられる。
【0050】
また、本発明に用いる透湿・防水性を有する繊維集合体は、平均繊維径0.010〜1μmの繊維からなる集合体である。ここでいう繊維集合体とは、その構造は特に限定されず、不織布、織物、編物のような繊維の集まりをいう。特に、不織布は接触表面が大きいため、層の厚みを小さくでき、通気性を高めることができるために好ましい。透湿・防水性を有する繊維の平均繊維径は0.010〜1μmが好ましい。ここでいう平均繊維径とは、繊維集合体を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影を行い、5000倍または10000倍のSEM画像に映し出された多数の繊維からランダムに20本の繊維を選び、繊維径測定を行い、測定した20本の繊維径の平均値をである。平均繊維径が0.010μmより細い場合、繊維集合体の形成が不安定であり、また、1μmより大きい場合、繊維集合体の微細孔状の隙間が大きくなり、防水性と透湿性の両方に優れた生地を得るのが難しくなる。平均繊維径0.010〜1μmの繊維からなる集合体により、防水性、透湿性に優れなおかつ、伸長性にも優れた多孔質積層体を作る事が出来る。これらの多孔質積層体は従来の多孔質膜に比べ、優れた耐水性、透湿性に加え、通気性も得る事が可能である。
【0051】
平均繊維径0.010〜1μmからなる繊維集合体を得る方法としては、一般的な溶液紡糸や溶融紡糸を用いた高速紡糸や複合紡糸、静電紡糸などを挙げることが出来るが、特に限定されるものではない。例えば溶融紡糸による複合紡糸の場合、溶解性の異なる2種以上のポリマーを混合し、溶融紡糸を行い、直接得る方法や分割繊維や海島構造繊維を得、分割繊維の場合は、分割工程を経て、また、海島構造繊維の場合は海成分を溶解除去することにより得ることができる。様々なポリマーを用いて繊維を得ることが可能であることや分割や溶解除去の余分な工程を有しないことから静電紡糸法が好ましい。
【0052】
荷電紡糸法とは、溶融ポリマーや溶剤にポリマーを溶解したポリマー溶液に高電圧(一般的にはプラス)を印加し、電位差を有したターゲット部(一般的にはアースまたはマイナスに帯電した表面)にスプレーされる過程で繊維化を起こさせる手法である。荷電紡糸装置の一例を図1に示す。図において、荷電紡糸装置1には、繊維の原料となるポリマーを吐出する紡糸ノズル2と紡糸ノズル2に対向して、ターゲット部5とが配置されている。このターゲット部5はアースされている。高電圧をかけ荷電したポリマー溶液は、紡糸ノズル2からターゲット部5に向けて飛び出す。その際、繊維化される。ポリマーを有機溶媒に溶解した溶液を電極間で形成された静電場中に吐出し、溶液を対向電極に向けて曳糸し、形成される繊維状物質を捕集基板に累積することによって不織布を得ることができる。ここでいう不織布とは既に溶液の溶媒が留去され、不織布となっている状態のみならず、溶液の溶媒を含んでいる状態も示している。
【0053】
溶媒を含んだ不織布の場合、荷電紡糸後に、溶剤除去を行う。溶剤を除去する方法としては、例えば、貧溶媒中に浸漬させ、溶剤を抽出する方法や熱処理により残存溶剤を蒸発させる方法などが挙げられる。
【0054】
溶液槽3としては、材質は使用する溶剤に対し耐性のあるものあれば特に限定されない。また、溶液槽3中の溶液は、機械的に押し出される方式やポンプなどにより吸い出される方式などによって、電場内に吐出することができる。
【0055】
紡糸ノズル2としては、内径0.1〜3mm程度のものが望ましい。ノズル材質としては、金属製であっても、非金属製であっても良い。ノズルが金属製であればノズルを一方の電極として使用することができ、ノズル2が非金属製である場合には、ノズルの内部に電極を設置することにより、押し出した溶解液に電界を作用させることができる。生産効率を考慮し、ノズルを複数本使用することも可能である。また、一般的には、ノズル形状としては、円形断面のものを使用するが、ポリマー種や使用用途に応じて、異型断面のノズル形状を用いることも可能である。
【0056】
ターゲット部5としては、図1に示すロール状の電極や平板状、ベルト状の金属製電極など用途に応じて、種々の形状の電極を使用することができる。
【0057】
また、これまでの説明は、電極が繊維を捕集する基板を兼ねる場合であるが、電極間に捕集する基板となる物を設置することで、そこにポリマー繊維を捕集してもよい。この場合、例えばベルト状の基板を電極間に設置することで、連続的な生産も可能となる。
【0058】
また、一対の電極で形成されているのが一般的ではあるが、さらに異なる電極を導入することも可能である。一対の電極で紡糸を行い、さらに導入した電位の異なる電極によって、電場状態を制御し、紡糸状態を制御することも可能である。
【0059】
電圧印加装置4は特に限定されるものではないが、直流高電圧発生装置を使用できるほか、ヴァン・デ・グラフ起電機を用いることもできる。また、印加電圧は特に限定するものではないが、一般に3〜100kV、好ましくは5〜70kV、一層好ましくは5〜50kVである。なお、印加電圧の極性はプラスとマイナスのいずれであっても良い。
【0060】
電極間の距離は、荷電量、ノズル寸法、紡糸液流量、紡糸液濃度等に依存するが、5〜50kVのときには5〜20cmの距離が適切であった。
【0061】
本発明における透湿性・防水性を有する繊維集合体に用いるポリマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリロニトリル、ポロエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリイミドベンザゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリウレタン、セルロース化合物、ポリペプチド、ポリヌクレオシド、ポリヌクレオチド、タンパク質、酵素などを使用することができる。これらの以外の高分子化合物も使用可能である。また、2種以上のポリマーを混合することも可能である。特に撥水性の観点から、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、柔軟性も加味すれば特にポリウレタンが好ましい。
【0062】
ポリマーの溶媒には、例えば、アセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、プロパノール、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、塩化メチレン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸、塩酸、硫酸、ポリリン酸などの揮発性の高い溶媒や、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、アセトニトリル、N−メチルモルホリン−N−オキシド、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジオキソラン、エチルメチルカーボネート、メチルホルマート、3−メチルオキサゾリジン−2−オン、メチルプロピオネート、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホランなどの揮発性が相対的に低い溶媒が挙げられる。または、上記溶剤を2種以上混合させて用いることも可能である。
【0063】
また、筐体の熱源を利用する場合には、たとえばカーボンブラックのような伝熱性を高める添加剤等を添加することも好ましい形態の一つである。
【0064】
また、紫外線防止剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤等を添加することも製品安定性の上で好ましい。
【0065】
紡糸をする雰囲気として、一般的には空気中で行うが、二酸化炭素などの空気よりも放電開始電圧の高い気体中で荷電紡糸を行うことで、低電圧での紡糸が可能となり、コロナ放電などの異常放電を防ぐこともできる。また、水がポリマーの貧溶媒である場合、紡糸ノズル近傍でのポリマー析出が起こる場合がある。そのため、空気中の水分を低下させるために、乾燥ユニットを通過させた空気中で行うことが好ましい。
【0066】
次に捕集基板に累積される不織布を得る段階について説明する。本発明においては、該溶液を捕集基板に向けて曳糸する間に、条件に応じて溶媒が蒸発して繊維状物質が形成される。通常の室温であれば捕集基板上に捕集されるまでの間に溶媒は完全に蒸発するが、もし溶媒蒸発が不十分な場合は減圧条件下で曳糸しても良い。この捕集基板上に捕集された時点で遅くとも本発明の繊維が形成されている。また、曳糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存するが、通常は、0〜50℃である。そして多孔質繊維がさらに捕集基板に累積されて不織布が製造される。
【0067】
本発明の繊維を不織布とする場合の厚みは使用用途に応じて決められるものであり、特に限定されるものではないが、厚みとしては、2μmから30μmが望ましい。2μmより薄い場合、耐水度が不十分でありなおかつ、積層体の強力も十分得る事ができない。また、30μm以上である透湿性が不十分となり、また風合いも堅くなる。さらに望ましくは3μm〜25μmの範囲が望ましい。
ここでいう厚みはマイクロメータで測定したものである。
【0068】
本発明の繊維を不織布とする場合、必要であれば、各種用途に適合するように、後処理を実施することができる。例えば、緻密化または厚み精度を整えるためのカレンダー処理、親水処理、撥水処理、界面活性剤付着処理、純水洗浄処理などを実施することができる。
【0069】
本発明の繊維を不織布として得る場合、単独で用いても良いが、取扱性や用途に応じて、他の部材と組み合わせて使用しても良い。例えば、捕集基板として支持基材となりうる布帛(不織布、織物、編物)やフィルム、ドラム、ネット、平板、ベルト形状を有する、金属やカーボンなどからなる導電性材料、有機高分子などからなる非導電性材料を使用することができる。その上に不織布を形成することで、支持基材と該不織布を組み合わせた部材を作成することも出来る。
【0070】
吸湿性を有する繊維集合体からなる不織布、織物、編物上に直接捕集する場合、工数を減らすことができ有用である。
【0071】
透湿性・防水性を有する繊維集合体の耐水度は50kPa以上である事が望ましい。これ未満の耐水度の場合、防水性能が十分発揮できない。また耐水度を上げると透湿性、通気性も下がる傾向である。その点も含めて考慮すると、500kPa以下である事がより望ましい。
【0072】
透湿性・防水性を有する繊維集合体の透湿性は10000g/m・24h以上である事が望ましい。かかる透湿性を有すれば透湿性の場合、優れた筐体内部の耐曇り性能となるからである。
【0073】
積層体の通気度は0.3cc/m・s以上である事が望ましい。かかる通気度とすることにより、優れた筐体内部の耐曇り性能が発揮される。
【0074】
透湿、防水性を有する繊維集合体の破断時の伸び率のシートの2方向の比率が2.7以下であることが望ましい。比率が2.7以上であると、方向性を有したものとなり、構成体等を作製する後工程の加工時の作業性(積層方向の間違い等)を低下させるものとなる。比率は1に近付くのが望ましい。
【0075】
透湿、防水性を有する繊維集合体の20%伸長時のモジュラスのシートの2方向の比率が4.3以下であることが望ましい。比率が4.3以上であると、方向性を有したものとなり、構成体等を作製する後工程の加工時の作業性(積層方向の間違い等)を低下させるものとなる。比率は1に近付くのが望ましい。
【0076】
透湿・防水性を有する繊維集合体の層がランダムに配向される事により、粘弾性の高いポリマーを使用した場合でも表面のタッチがべたつかず滑らかになる効果も確認される。
【0077】
透湿・防水性を有する繊維集合体の層が状態によっては、摩擦耐久性に劣る場合があるが、その場合においても、積層体を熱プレス処理することにより、改善する事が可能である。この工程は、透湿・防水性を有する繊維集合体単独の状態で行っても良いし、吸水性を有する繊維集合体の層などの他の層に接着させた後に行ってもよい。
【0078】
透湿・防水性を有する繊維集合体と吸水性を有する繊維集合体とはラミネート工程により接着される事が望ましい。接着剤をフィルム面に、全面もしくは、グラビア法やロータリー捺染法などにより非全面に均一に塗布し、他の層と圧着させ接着する方法がある。接着剤を非全面に均一に塗布した方法を用いる方が、透湿性や通気性からも望ましい。
【0079】
使用する構成としては、吸湿性を有する繊維集合体からなる層と透湿性・防水性を有する繊維集合体からなる層のみの2層、吸湿性を有する繊維集合体からなる層を透湿性・防水性を有する繊維集合体からなる層で覆う3層、各層を交互に並べる複数層などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。求められる用途、性能によって適宜変更するのが好ましい。
【0080】
これらの層に保護層や補強層をつけることもできる。これらは織布,不織布,混紡不織布,フェルト,ネット,粉末燒結多孔質体または発泡体等の通気性をもつ素材からなる。そして、保護層や補強層は、片面、両面に積層することができる。使用される材質は、求める機能を有せば特に限定されるものではなく、天然素材あるいは合成素材のいずれでもよい。例えば、ポリアクリロニトリル、ポロエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリイミドベンザゾール、ポリベンゾイミダゾールなどを使用することができる。これらの以外の高分子化合物も使用可能である。また、2種以上のポリマーを混合することも可能である。また、金属等から形成することも可能である。
【0081】
本発明の繊維集合体は、光源筐体の通気部材として用いてもよい。光源筐体の一つして自動車用ランプがある。ランプは温度の昇降が激しく、結露し難い高温では、本発明の繊維集合体の吸湿層の水分が脱着し、通気性にも優れるため外部に水蒸気を放出しつつ、結露が発生する降温時にはランプ雰囲気中の水蒸気を吸着し、有効に結露を防止することができる。すなわち、水蒸気の脱着、吸着を繰り返すことにより再生機能を発揮する。一方、透湿防水層により如何なるときも水分、油分を寄せ付けず、ランプの保護を汚れ等からも保護することができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量規準で示す。
【0083】
塩型カルボキシル基量(meq/g)評価
十分乾燥した供試繊維約1gを精秤し(Xg )、これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1N塩酸水溶液を添加してpH2にし、次いで0.1N苛性ソーダ水溶液で常法に従って滴定曲線を求めた。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された苛性ソーダ水溶液消費量(Ycc)を求め、次式によってカルボキシル基量(meq/g)を算出した。
(カルボキシル基量)=0.1Y/X
別途、上述のカルボキシル基量測定操作中の1N塩酸水溶液の添加によるpH2への調整をすることなく同様に滴定曲線を求め酸型カルボキシル基量(meq/g)を求めた。これらの結果から次式により塩型カルボキシル基量を算出した。
(塩型カルボキシル基量)=(カルボキシル基量)−(酸型カルボキシル基量)
【0084】
吸湿発熱量(cal/g)評価
105℃にて16時間以上乾燥した繊維1gを、標準状態(20℃、65%RH)で吸湿させた時の発熱量を双子型伝導熱量計にて測定した値である。
【0085】
吸湿率(%)評価
試料繊維約5.0gを熱風乾燥機で120℃、5時間乾燥して重量を測定する(W1g)。次に試料を温度20℃で所定の恒湿槽に24時間入れておく。このようにして吸湿した試料の重量を測定する(W2g)。以上の測定結果から、次式によって算出した。
(吸湿率)=(W2−W1)/W1×100
【0086】
難燃性評価
LOIJIS−K7201の最低酸素指数の測定法に従って行った。
【0087】
抗菌性評価
抗菌性試験菌を肺炎桿菌とし、抗菌防臭加工製品の加工効果評価試験マニュアル・シェークフラスコ法(繊維製品衛生加工協議会,昭和63年)により試験し、減菌率%で示した。
【0088】
耐水度評価
JIS L1092 B法に準拠して行った。
【0089】
透湿性評価
JIS L1099 A−1法に準拠して行った。
【0090】
通気度評価
JIS L1096 A法に準拠して行った。
【0091】
平均繊維径評価
繊維集合体に白金−パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡(SEM 日立製 S−800)にて撮影を行い、5000倍または10000倍のSEM画像に映し出された多数の繊維からランダムに20本の繊維を選び、繊維直径を測定する。測定した20本の繊維直径の平均値を算出し、平均繊維径とした。
【0092】
破断時の伸び率およびモジュラス評価
JIS L1096に準拠して行い、低速伸長法により破断時の伸び率および20%伸長時のモジュラスを測定した。引張速度:20cm/min 掴み間10cm×巾5cm
【0093】
曇り評価
図2に示すような評価装置を用い、筐体内部にシート型ヒータを固定し、ある一面に評価サンプルを冶具にて固定した。次に、内部ヒータを加熱し、内部を室温から60℃に温度上昇、ヒータを停め60℃から室温に温度下降する20サイクルを数回繰り返し、筐体内部の様子を観察した。下記のような基準で曇り評価を行った。
○:曇りは観察されなかった
△:曇りが観察される時があった
×:曇りが観察された
【0094】
製造例1
AN90%及びアクリル酸メチル(以下、MAという)10%からなるAN系重合体(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度〔η〕:1.2)10部を48%のロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率;10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥(工程収縮率14%)して単繊維繊度1.5dの原料繊維A(CR二色性比0.58)を得た。原料繊維Aを、表1に示した条件で架橋処理及びカルボキシル基への変換を行った後、脱水、水洗、乾燥を行い繊維1〜8を得た。得られた繊維の特性を調べ、その結果を表1に示す。これらの繊維とポリエステル熱融着繊維を混合し吸湿性を有する繊維集合体を得た(A1〜8)。
【0095】
製造例2
ポリウレタン系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、溶液の濃度が50mg/mLになるように調整し、塗出速度10mL/h・Nz、印加電圧23kV、ノズルと離型紙の間の距離を25cmに設定し、静電紡糸を行い、繊維集合体を得た。この集合体を離型紙ごと熱プレス処理(約120℃)し、離型紙から剥がして透湿性および防水性を有する繊維集合体を得た。同方法により、紡糸時間を変更する事により、3種類の厚みの繊維集合体を得た(B−1〜3)。評価結果を表2に示す。
【0096】
製造例3
製造例2において得られた繊維集合体B1〜3をフッ素系撥水剤水溶液に浸漬処理を施した繊維集合体を得た(B4〜6)。評価結果を表2に示す。
【0097】
製造例4
潤滑剤を混合したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の樹脂を剪断変形させフィルム状にし、さらに熱処理する事によりポリテトラフルオロエチレン系多孔質フィルムを得た(C−1)。
【0098】
実施例1
繊維集合体A−1とB−1を離型紙に挟み熱プレス処理(約120℃)し、離型紙から剥がして目的とする積層体を得た。
【0099】
実施例2〜49
表3に示す組み合わせにした以外、実施例1と同様に行い、目的とする積層体を得た。
【0100】
比較例1
繊維集合体B−1を単独で用いた。
【0101】
比較例2
繊維集合体C−1を単独で用いた。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の繊維集合体によれば、筐体の内部の湿度を制御し、かつ防水、防油、防塵を可能が可能となり、産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明における製造装置の模式図の一例
【図2】本発明における製造装置の模式図の一例
【符号の説明】
【0107】
1 荷電紡糸装置
2 紡糸ノズル
3 溶液槽
4 高電圧電源
5 対向電極(捕集基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも吸湿性を有する繊維集合体からなる層と透湿性・防水性を有する繊維集合体からなる層を有することを特徴とする繊維集合体。
【請求項2】
前記透湿性・防水性を有する繊維集合体が平均繊維径0.010〜1μmの繊維からなることを特徴とする請求項1記載の繊維集合体。
【請求項3】
前記透湿性・防水性を有する繊維集合体からなる層の耐水度が50kPa以上であり、透湿性が10000g/m・24hr以上、通気度が0.3cc/m・s以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の繊維集合体。
【請求項4】
前記吸湿性を有する繊維集合体からなる層が架橋アクリル系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の繊維集合体。
【請求項5】
前記架橋アクリル系樹脂がヒドラジンによる架橋であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の繊維集合体。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかの繊維集合体よりなることを特徴とする光源筐体の通気部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−293153(P2009−293153A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148153(P2008−148153)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】