説明

織物および平面展開可能な可撓性シート

【課題】デジタル画像を投射した際に干渉縞の発生を防止できるうえ、製織作業を簡単で安価に実施できるようにする。
【解決手段】経糸(8)と緯糸(9)とを互いに交差してなる織物である。織り組織を破れ斜紋にする。これにより、片面における経糸(8)の浮部(11)は、隣接する縦方向と横方向には連続しない。また、この浮部(11)は斜め方向には断続的に並び、しかも隣接する斜め方向の並びでは浮部(11)の連続数が異なる。この織物(6)を芯材として、少なくとも片面に合成樹脂製コーティング層を形成し、これにより、平面展開可能な可撓性シートを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物および平面展開可能な可撓性シートに関し、さらに詳しくは、デジタル画像を投射した際に干渉縞の発生を防止できるうえ、製織作業を簡単で安価に実施できる織物と、これを芯材として用いた平面展開可能な可撓性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プロジェクター等から投射された画像を映し出すスクリーンには、不使用時はロール状に巻き取られて収納され、使用時に平面展開される可撓性シートがある。この可撓性シートは、使用時に平面状態を確りと維持できるように、ガラス繊維などを平織にした基布を芯材として、その表面に塩化ビニル樹脂などのコーティング層を形成してある。このコーティング層は、過剰に厚く形成すると巻取り収納が困難となり、また嵩高となって好ましくない。このため、このコーティング層は薄く形成され、その表面には、上記の基布の織り組織による規則的な凹凸模様が現れる。
【0003】
一方、上記のプロジェクター等から投射される画像は、今日ではデジタル化したものが多く、その画質は、例えば家庭用に普及しているいわゆるホームシアターにあっては、高い品質の映像が望まれている。このデジタル画像は、規則的に整列した画素から構成されており、スクリーンに投射された画像を構成する各画素線の幅は、画像のサイズ、即ちインチ数に応じて大きくなる。このため、このデジタル画像を、前記の平織の基布からなる可撓性シートに投射すると、少なくともいずれかの画像サイズにおいて、上記の画素線と基布の織目による規則的な凹凸模様とが干渉し、干渉縞(いわゆる、モアレ)を発生させて画像の品質を低下させる問題がある。
【0004】
従来、上記の干渉縞の発生を防止するため、上記の基布の織目を不規則にすると好ましいことが知られており、例えば、繰り返し単位が大きいアムンゼン織り基布を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このアムンゼン織りは、例えば、6乃至9枚ヘルドのものが用いられ、経糸66本×緯糸40本等の大きな繰り返し単位で織り組織が形成される。この1つの繰り返し単位内では経糸や緯糸の浮部が不規則に配置されており、このため、プロジェクターから投射されたデジタル画像との干渉が低減され、干渉縞の発生が防止される。
【0006】
しかしながら、このアムンゼン織りは、上記のようにヘルド枚数が多く、繰り返し単位は大きく複雑で、緻密な計算に基づき織り組織を形成する必要があり、基布の製織作業が煩雑で安価に実施できない問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2003−270726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は上記の問題点を解消し、デジタル画像を投射した際に干渉縞の発生を防止できるうえ、製織作業を簡単で安価に実施できる織物と、これを芯材として用いた平面展開可能な可撓性シートを提供することにある。
【0009】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば本発明の実施の形態を示す図1から図4に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち、本発明1は織物に関し、経糸(8)と緯糸(9)とを互いに交差してなる織物であって、片面における経糸(8)と緯糸(9)のうちの一方の織糸(10)の浮部(11)が、隣接する縦方向と横方向には連続せず、且つ、斜め方向には断続的に並ぶとともに、隣接する斜め方向では、この一方の織糸(10)の浮部(11)の連続数が異なることを特徴とする。
【0010】
また本発明2は平面展開可能な可撓性シートに関し、上記の本発明1の織物(6)を芯材として、その少なくとも片面に合成樹脂製コーティング層(7)を形成したことを特徴とする。
【0011】
上記の織り組織は、浮部の斜め方向の断続的な並びが、隣接する斜め方向での連続数と異なる。例えば、ある斜め方向の浮部の並びでは2つ置きに2つずつ連続して配置され、その隣りの斜め方向の並びでは3つ置きに1つずつ配置され、さらにその隣りの斜め方向の並びでは、浮部が全く形成されない。
このため、織り組織全体は、斜め方向の並びが乱れて形成されるので、この表面にデジタル画像が投射されると、画像をいずれの大きさに変化させても、干渉縞の発生が抑制される。
【0012】
上記の織り組織は、上記の一方の織糸の浮部を、斜め方向に3以上連続させないと、干渉縞の発生を抑制し、しかも織り組織を簡単に構成できるので、好ましい。
この織り組織としては、具体的には例えば図3に示すように、経糸4本×緯糸4本からなる破れ斜紋を挙げることができる。この破れ斜紋は4枚朱子やトルコ朱子とも言われ、繰り返し単位が小さく、4枚のヘルドを用いて簡単に製織される。
【0013】
上記の浮部は、経糸と緯糸のいずれであってもよいが、経糸の浮部で構成すると、一層干渉縞の発生を抑制でき、好ましい。
これらの織糸の材質は、特定の繊維材料に限定されず、ポリエステル繊維などの合成繊維を用いることも可能であるが、ガラス長繊維を用いると、強度が高く不燃性であり、寸法安定性がよく、好ましい。
また、これらの織糸の太さは、特定のものに限定されないが、太過ぎると重量が大きくなるうえ収納時に巻取り難くなり、細過ぎると使用時に展開しても平面状に維持し難くなるので、通常は、20乃至140texの糸が用いられる。
また、これらの織糸で製織された織物の厚さも特定の寸法に限定されないが、同様の理由から、通常、厚さが0.05乃至0.30mmに設定される。
【0014】
上記の織物を芯材として、これに樹脂製コーティングを形成する場合、使用する樹脂材料は、特定の種類に限定されず、一般に使用されている塩化ビニル樹脂などを用いることができる。
この場合、そのコーティング層の厚さも、特定の寸法に限定されないが、収納時の巻取り易さ等を考慮して、好ましくは、0.05乃至0.5mmの厚みに設定される。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
【0016】
(1) 織り組織全体では、斜め方向の並びが乱れて形成されるので、この織物の表面にデジタル画像が投射されると、画像をいずれの大きさに変化させても、干渉縞の発生が抑制され、高い品質の映像を観賞することができる。
【0017】
(2) 織り組織は、浮部の斜め方向での並びを断続的に配置し、隣接する斜め方向で並ぶ連続数を異ならせるだけでよく、例えば4枚のヘルドを用いた破れ斜紋など、簡単で小さな繰り返し単位により形成することができる。この結果、この織物の製織作業を簡単にして安価に実施でき、これを芯材にした可撓性シートを安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1から図3は本発明の実施形態を示し、図1は可撓性シートを用いたスクリーン装置の斜視図、図2は可撓性シートの芯材を構成する織物の要部拡大図、図3はこの織物の織り組織を示し、図3(a)は織り組織の部分図、図3(b)は織り組織の繰り返し単位を示す組織図である。
【0019】
図1に示すように、このスクリーン装置(1)は、平面展開可能な可撓性シート(2)と、この可撓性シート(2)を不使用時に巻取り収納できる収納装置(3)と、可撓性シート(2)の下端縁に付設された棒状の錘部材(4)とからなり、収納装置(3)から垂下されて平面状に展開された上記の可撓性シート(2)に、図外のプロジェクターから投射された画像(5)を映し出すようにしてある。
【0020】
上記の可撓性シート(2)は、厚さが0.05乃至0.20mmの織物(6)を芯材として、この織物(6)の表面に塩化ビニル樹脂などの合成樹脂により、0.05乃至0.5mmの厚みでコーティング層(7)を形成してある。このコーティング層(7)の表面には、必要に応じてエンボス加工を施してある。
【0021】
図2に示すように、上記の芯材を構成する織物(6)は、経糸(8)と緯糸(9)とを互いに交差させて織成してあり、これらの織糸(10)には、例えば20乃至140texのガラス長繊維が用いてある。
なお、上記の織物(6)やコーティング層(7)の厚さ、コーティング層(7)の材質、織糸(10)の材質や太さ等は、実施形態として例示したものであって、本発明はこの実施形態のものに限定されない。
【0022】
図2と図3に示すように、上記の織物(6)の織り組織は、4枚破れ斜紋(トルコ朱子)に形成してある。これにより、上記の画像(5)を受ける表面側では、織糸(10)のうちの経糸(8)の浮部(11)が、隣接する縦方向と横方向には連続せず、且つ、斜め方向には断続的に並んでおり、しかも、隣接する斜め方向ではこの経糸(8)の浮部(11)の連続数を異ならせてある。
【0023】
即ち、図3(a)に示すように、この織り組織は経糸(8)の浮部(11)を斜め方向に2つ連続させて、これを断続的に配置してあるが、その連続する斜め方向(綾線)は、交互に向きを変えた破れ斜紋にしてある。このため、その浮部(11)の斜め方向の並びは、隣接する斜め方向の並びと浮部(11)の連続数が互いに異なる。具体的には、ある斜め方向の並びは、経糸(8)の浮部(11)が斜め方向に、2つ置きに2つずつ連続して配置され、その隣りの斜め方向の並びでは3つ置きに1つずつ配置され、さらにその隣りの斜め方向の並びでは、浮部が全く形成されない。
上記の織り組織は、図3(b)に示すように、繰り返し単位が経糸4本×緯糸4本からなり、4枚ヘルドを用いて簡単に製織される。
【0024】
次に、上記の織物(6)の性能を確認するため、ガラス長繊維を用い、織糸の太さと織り密度を変化させて4枚破れ斜紋の織物を製織し、これにデジタル画像を投射した場合の干渉縞の発生状態を、ガラス長繊維で平織にした従来の織物と比較しながら測定した。
【0025】
各実施例に用いた織糸の太さ、織り密度、及び織物の質量は、次の通りである。
(実施例1)
織糸の太さは経糸33.7tex×緯糸67.5tex、織り密度は経糸60本/25mm×緯糸35本/25mmとした。織物の質量は、178g/m2であった。
(実施例2)
織糸の太さは経糸33.7tex×緯糸67.5tex、織り密度は経糸60本/25mm×緯糸40本/25mmとした。織物の質量は、191g/m2であった。
【0026】
(実施例3)
織糸の太さは経糸33.7tex×緯糸33.7tex、織り密度は経糸60本/25mm×緯糸55本/25mmとした。織物の質量は、157g/m2であった。
(実施例4)
織糸の太さは経糸33.7tex×緯糸33.7tex、織り密度は経糸60本/25mm×緯糸60本/25mmとした。織物の質量は、164g/m2であった。
【0027】
(実施例5)
実施例1と同じ織物の裏面側を用いた。即ち、織糸の太さや織り密度、織物の質量は上記の実施例1と同じであるが、織糸の浮部は、緯糸の浮部が縦方向と横方向に連続せず、斜め方向に2つずつ連続させて、これを断続的に配置し、連続する斜め方向(綾線)は、交互に向きを変えた織り組織とした。
【0028】
また、比較例に用いた織糸の太さ、織り密度、及び織物の質量は、次の通りである。
(比較例1)
織糸の太さは経糸67.5tex×緯糸67.5tex、織り密度は経糸30本/25mm×緯糸25本/25mmとした。織物の質量は、148.5g/m2であった。
(比較例2)
織糸の太さは経糸33.7tex×緯糸67.5tex、織り密度は経糸60本/25mm×緯糸35本/25mmとした。織物の質量は、179g/m2であった。
【0029】
(比較例3)
織糸の太さは経糸33.7tex×緯糸33.7tex、織り密度は経糸60本/25mm×緯糸35本/25mmとした。織物の質量は、128.1g/m2であった。
(比較例4)
織糸の太さは経糸33.7tex×緯糸33.7tex、織り密度は経糸60本/25mm×緯糸50本/25mmとした。織物の質量は、148.3g/m2であった。
【0030】
測定方法は、前記のコーティング層(7)を形成していない状態の織物にプロジェクターから画像を投射し、その画像の大きさを60乃至120インチに変えた際の、それぞれの画像での干渉縞の発生の有無を確認した。これらの測定結果を図4の対比表に示す。
【0031】
上記の対比表から明らかなように、本発明の実施例1〜5では、いずれの場合も、画像の各サイズにおいて干渉縞の発生が無いか、発生しても微かであって画像への影響は殆どなく、画質を低下させることはなかった。なお、実施例1では画像の各サイズにおいて干渉縞が全く生じなかったのに対し、その裏面を用いた実施例5では干渉縞が微かに発生したことから、前記の縦方向と横方向に連続しない浮部(図3において黒く塗りつぶした部分)は、緯糸よりも経糸で構成すると好ましいことが明らかとなった。
【0032】
これに対し、織り組織を平織とした各比較例にあっては、いずれの場合も、画像の大きさを変化させた際に、いずれかの画像のサイズにおいてはっきりとした干渉縞が発生し、画質を低下させた。
【0033】
なお、上記の実施形態や実施例で説明した織物と可撓性シートは、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、使用する繊維の材質や太さ、織り密度、織り組織等を、この実施形態に限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、デジタル画像を投射した際に干渉縞の発生を防止できるうえ、製織作業を簡単で安価に実施できるので、ホームシアター等、各種のデジタル画像が投射される平面展開可能な可撓性シートと、その可撓性シートの芯材に用いる織物に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態を示す、可撓性シートを用いたスクリーン装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の、織物の要部拡大図である。
【図3】本発明の実施形態の織物の織り組織を示し、図3(a)は織り組織の部分図、図3(b)は織り組織の繰り返し単位を示す組織図である。
【図4】画像を投射した際の、干渉縞の発生を確認した測定結果の対比表である。
【符号の説明】
【0036】
2…可撓性シート
6…織物
7…コーティング層
8…経糸
9…緯糸
10…織糸
11…浮部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸(8)と緯糸(9)とを互いに交差してなる織物であって、片面における経糸(8)と緯糸(9)のうちの一方の織糸(10)の浮部(11)が、隣接する縦方向と横方向には連続せず、且つ、斜め方向には断続的に並ぶとともに、隣接する斜め方向では、この一方の織糸(10)の浮部(11)の連続数が異なることを特徴とする、織物。
【請求項2】
上記の一方の織糸(10)の浮部(11)が、斜め方向に3以上連続していない、請求項1に記載の織物。
【請求項3】
上記の織り組織が破れ斜紋である、請求項2に記載の織物。
【請求項4】
上記の一方の織糸(10)が経糸(8)である、請求項1から3のいずれか1項に記載の織物。
【請求項5】
上記の織糸(10)がガラス長繊維からなる、請求項1から4のいずれか1項に記載の織物。
【請求項6】
上記の織糸(10)が20乃至140texの糸からなる、請求項1から5のいずれか1項に記載の織物。
【請求項7】
厚さが0.05乃至0.30mmである、請求項1から6のいずれか1項に記載の織物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の織物(6)を芯材として、その少なくとも片面に合成樹脂製コーティング層(7)を形成したことを特徴とする、平面展開可能な可撓性シート。
【請求項9】
上記のコーティング層(7)の厚みが0.05乃至0.5mmである、請求項8に記載の平面展開可能な可撓性シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−201515(P2006−201515A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13367(P2005−13367)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000115234)ユニチカグラスファイバー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】