説明

織物の製造方法および織物

【課題】細かい模様を表現することができるとともに、経年的に模様の形状が変化することがない織物の製造方法および織物を提供する。
【解決手段】経糸11が、太さ20〜150デニールのフィラメント系または太さ30〜60番手の紡績系で、織密度30〜180本/cmで織成され、緯糸12が、太さ20〜150デニールのフィラメント系または太さ30〜60番手の紡績系で、織密度50〜120本/cmで織成される織物10の製造方法において、経糸と緯糸とを織成した後に、樹脂液に浸す含浸工程と、織物を乾燥する乾燥工程と、織物を所定圧力で押圧する押圧工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、織物の製造方法および織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、経糸と緯糸とを編成して織物とする織成方法としては、レピア織機、エアー織機、シャトル織機、ニードル織機、ドビー織機などの織機を用いたものが知られている。これらの織機を用いて、織ネーム、マーク、ワッペン、テープなどの商品、表生地、裏生地などの和洋生地、帯、レースなどの各種織物が生産されている。
【0003】
上述の各種織物のように、経糸と緯糸を複数種類の組織パターンを利用して織り方を変えて、種々の地模様の織り込んだものが知られている。さらに、上述の織機を用いて、織成する織物において、経糸と緯糸とを色彩の異なる模様経糸を用いて表面に絣様の文様を形成し、織り方によって表面に表したり、表れないようにしたりするものが知られている。しかしながら、従来の織物は糸の太さや織密度に限界があり、細かな模様を表現することができないという問題があった。
【0004】
そこで、上述した問題を解消する目的で、経糸を太さ20〜100デニールで織密度30〜180本/cmで織成し、緯糸を太さ30〜150デニールで織密度50〜120本/cmで織成した織物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような条件で織物を構成することにより、電子機器にて読み取り可能なQRコードの模様を織り込むことができる。
【特許文献1】実用新案登録第3132067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1の織物は、細かい模様を表現することは可能であるが、織物として使用しているうちに折られたり、曲げられたりすることで糸がずれてしまい、織り込んだ模様の形状が経年的に変化してしまう虞があった。
【0006】
そこで、この発明は、上述の事情を鑑みてなされたものであり、細かい模様を表現することができるとともに、経年的に模様の形状が変化することがない織物の製造方法および織物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、経糸が、太さ20〜150デニールのフィラメント系または太さ30〜60番手の紡績系で、織密度30〜180本/cmで織成され、緯糸が、太さ20〜150デニールのフィラメント系または太さ30〜60番手の紡績系で、織密度50〜120本/cmで織成される織物の製造方法において、前記経糸と前記緯糸とを織成した後に、樹脂液に浸す含浸工程と、前記織物を乾燥する乾燥工程と、前記織物を所定圧力で押圧する押圧工程と、を有することを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載した発明は、前記樹脂液は、シリコーン系樹脂で組成されたものであり、前記含浸工程では、前記樹脂液に3秒以上浸すことを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載した発明は、前記押圧工程では、100〜180°の温度環境下で、前記織物を1kg/cm〜1t/cmの圧力で3秒〜300秒間押圧することを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造された織物であって、緯糸に、色彩の異なる複数種類の糸を用いて織成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載した発明は、経糸と前記緯糸により、電子機器にて読み取り可能なQRコードの模様を織り込んだことを特徴としている。
【0012】
請求項6に記載した発明は、前記QRコードの模様中に、該QRコード以外の模様が全体の30%以下の領域に織り込まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載した発明によれば、従来よりも細い糸で、かつ高織密度で織成した織物に対して、織物としての柔軟性を保持しつつ、隣接する糸同士を確実に固定することができる。したがって、細かい模様を表現することができるとともに、経年的に模様の形状が変化してしまうことを抑制することができる効果がある。
【0014】
請求項2に記載した発明によれば、樹脂液を確実に経糸および緯糸に含浸させることができるとともに、織物としての柔軟性を保持することができる効果がある。
【0015】
請求項3に記載した発明によれば、隣接する糸同士を樹脂液により確実に固定することができ、経年的に糸がずれることを防止することができる効果がある。
【0016】
請求項4に記載した発明によれば、色彩の異なる糸をより多く織り込むことができるため、織物の表面により細かい模様を表現することができる。また、織り込まれた模様の形状が経年的に変化してしまうことを抑制することができる効果がある。
【0017】
請求項5に記載した発明によれば、QRコードを織物として表現することができるため、QRコードをより有効に活用することができる。また、織物に織り込まれたQRコードの形状が経年的に変化しないため、長期に渡ってQRコードの情報を読み取ることができる効果がある。
【0018】
請求項6に記載した発明によれば、QRコードとしての機能を維持しつつ、QRコード中に文字、マーク、絵などを表現することができる。したがって、デザイン性に富んだQRコードを織物で実現することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、この発明の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
図1、図2に示すように、本実施形態の織物10は、図示しないジャガード織レピア(エアー)織機で織成されたものである。織物10は、経糸11と緯糸12とで構成されている。経糸11の材質は、無染色(白色)のポリエステルブライダルであり、その太さは50デニールのものが採用されている。一方、緯糸12の材質は、ポリエステルカチオンであり、その太さは30デニールのものが採用されている。ここで、緯糸12には、白色の糸12aと黒色の糸12bの2種類の色彩のものを用いている。
なお、経糸11の太さは、20〜150デニールであればよく、緯糸12の太さは、20〜150デニールであればよい。糸の太さは細くなりすぎると、糸切れが発生しやすくなるため好ましくなく、糸が太くなりすぎると、細かい模様を織り込むことができなくなるため好ましくない。
【0020】
織物10は、緯糸12の白色糸12aと黒色糸12bとで織柄が織られている。この織柄のパターニングは、織機に接続されているコンピュータに予め入力しておくか、パンチングカードなどを用いて所定のパターンに織ることができるように構成されている。
【0021】
そして、織物10の織柄として、QRコード15が表現されている。QRコード15は、緯糸12の白色糸12aを下地部分になるようにし、黒色糸12bがコード部分になるように織られている。
【0022】
このように、QRコード15を織物により表現する場合には、従来の太い糸を用いて織成しても、パターンがシャープにならず、携帯電話などの電子機器にて認識すること(読み取ること)ができなかった。
【0023】
ここで、本実施形態では、上述の糸の太さの経糸11および緯糸12を用い、さらに、経糸11の織密度を85本/cmとし、緯糸12の織密度を100本/cmとした。なお、経糸11の撚り数としては、750回/24〜48フィラメント程度とし、緯糸12の撚り数としては、120回/24〜48フィラメント程度とした。
なお、経糸11の織密度は、30〜180本/cmであればよく、緯糸12の織密度は、織密度50〜120本/cmであればよい。
【0024】
このように細い糸を高密度に構成して織成することで、QRコード15の各コードを表現するパターン(模様)を織ることができる。また、糸の撚り数が少ないと織っているうちに糸が膨れたり、毛羽立ったりしてパターンがはっきりせず、QRコード15などの細かいパターンが表現できないが、上述の糸を用いることで、その問題も解消される。
【0025】
また、本実施形態の織物10は、透明なシリコーン系樹脂液が含浸されており、織物としての柔軟性を保持しつつ、隣接する糸同士が固定されている。これにより、経年的に織物10を使用しても糸がずれることがなく、QRコード15の形状も変化しないため、長期間に渡ってQRコード15の情報を正確に読み取ることができる。
【0026】
図3に示すように、織機により上述のQRコード15を表現した織物10は、連続的に形成することが可能であり、QRコード15を織物の必要な箇所に自由に織成することができる。
【0027】
(作用)
次に、本実施形態の織物10の製造方法について説明する。
経糸11と緯糸12とを上述の条件で織り込んだ後、透明なシリコーン系樹脂液に浸す(含浸工程)。このとき、樹脂液は加温されている。この樹脂液の中に織物10を例えば3秒以上浸す。このようにすると、樹脂液が織物10の表面や糸同士の隙間に含浸し、織物10の表面を平滑にすることができる。
樹脂液から織物10を取り出した後、織物10を乾燥させる(乾燥工程)。
織物10を乾燥した後、例えば、回転式のローラープレス式乾燥機を用いて、平面状態に配置された織物10に対して、150℃、1t/cmの圧力を10秒間かける(押圧工程)。
このようにすることで、織物としての柔軟性を保ちつつ、隣接する糸同士が樹脂液により固定された織物10を製造することができる。なお、押圧工程における温度条件は100℃〜180℃が好ましい。この温度条件にすることで、樹脂液が効果的に糸同士の隙間に含浸させることができる。また、押圧力は1kg/cm〜1t/cmの圧力が好ましい。さらに、押圧時間は3秒〜300秒間押圧することが好ましい。この押圧力および押圧時間に設定することで、織物10の糸同士を効果的に固定することができる。
【0028】
本実施形態によれば、経糸11が、太さ50デニールで、織密度85本/cmで織成され、緯糸12が、太さ30デニールで、織密度100本/cmで織成された織物10の製造方法において、経糸11と緯糸12とを織成した後に、透明な樹脂液に浸す含浸工程と、織物10を乾燥する乾燥工程と、織物10を所定圧力で押圧する押圧工程と、を有するようにした。
したがって、従来よりも細い糸で、かつ高織密度で織成した織物10に対して、織物としての柔軟性を保持しつつ、隣接する糸同士を確実に固定することができる。その結果、細かい模様を表現することができるとともに、経年的に糸ずれが発生しにくくなり、模様の形状が変化してしまうことを抑制することができる。
【0029】
また、樹脂液を、シリコーン系樹脂で組成されたものを採用し、含浸工程では、織物10を樹脂液に3秒以上浸すようにした。
したがって、樹脂液を確実に経糸11および緯糸12に含浸させることができ、織物としての柔軟性を保持することができる。
【0030】
また、押圧工程では、織物10を平面にした状態で、150℃、1t/cmの圧力を10秒間押圧するようにした。
したがって、隣接する糸同士を樹脂液により確実に固定することができ、経年的に糸がずれることを防止することができる。
【0031】
さらに、上述の方法を用いて製造された織物10の緯糸12に、色彩の異なる白色糸12aと黒色糸12bとを用いて織成したため、2色の糸をより多く織り込むことができ、したがって、織物10の表面に細かい模様を表現することができる。また、樹脂液により織り込まれた模様の形状が経年的に変化してしまうことを抑制することができる。
【0032】
そして、経糸11と緯糸12により、電子機器にて読み取り可能なQRコード15の模様を織り込んだため、QRコード15を織物として表現することができ、したがって、QRコード15をより有効に活用することができる。また、織物10に織り込まれたQRコード15の形状が経年的に変化しないため、長期に渡ってQRコード15の情報を電子機器で読み取ることができる。
【0033】
また、上述のように構成することで、最小8mm角サイズのQRコード15を織物で表現することができる。また、そのQRコード15を携帯電話などのバーコードリーダで読み取ることができる。
【0034】
また、従来の織ネーム、織ワッペン、織テープなどにQRコード15を織り込むことにより、その織ネーム、織ワッペン、織テープを発注した企業のホームページに容易にアクセスすることができる。また、QRコード15により、その製品の管理なども容易にすることができる。
【0035】
また、名前、メールアドレス、URL、連番などを一括して雛形にQRコードとして展開することができるソフトを利用して、低価格で小ロットのオリジナル織ネーム、織ワッペン、織テープなどを製造することができる。
【0036】
さらに、QRコード15を正確に読み取ることができるように、織物10のベースになる部分に使用する糸(経糸11および白色糸12a)の反射率と読み取りが必要な部分に使用する糸(黒色糸12b)の反射率との差を設けることが好ましい。例えば、ベース部分に反射率5%ダル糸を使用し、読み取り部分には反射率20%ブライト(異形断面)糸を使用する。反射率の差が大きいほど、電子機器の読み取り精度を向上させることができる。
【0037】
そして、織物10の製造工程中に糸切れが発生し、正確な模様を表現することができないという問題を解消するために、経糸11および緯糸12に水溶性ビニロンでコーティングしたポリエステルモノフィラメントを使用して織加工し、織加工後、織物10を水に浸し水溶性ビニロンを完全に除去するようにしてもよい。このようにすることで、織加工の際は糸の表面に水溶性ビニロンがコーティングされるため、糸切れを防止することができる。また、織加工後にコーティングされた水溶性ビニロンを除去することにより、本来の織物が持つ風合いを表現することができる。
【0038】
なお、本発明の技術範囲は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能であり、実施形態で挙げた具体的な材料や構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、経糸および緯糸を構成する糸の材質は、織機により織成できるものであれば特に拘らず、例えば紡績糸を用いてもよい。紡績糸の場合、太さは30〜60番手のものが好ましい。
また、本実施形態においては、白色の糸と黒色の糸を用いてQRコードを織成するような場合の説明をしたが、糸の色は電子機器で読み取り可能な配色の糸であればよい。このとき、QRコードのドットごとに異なる色の糸を用いることも可能である。
【0039】
さらに、本実施形態では、QRコードのみを織り込んだ織物について説明したが、図4に示すように、QRコード中に絵を織り込むこともできる。これは、QRコードが全体の30%程度破損してもデータを読み込むことができる利点を生かして、QRコード全体の30%以下の領域に絵を織り込んだものである。なお、絵だけでなく、文字やマークなど様々な模様を織り込むことができる。これにより、QRコードの機能を維持しつつ、デザイン性に富んだQRコードを実現することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態における織物(QRコード)の一部を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態における織物の要部拡大図である。
【図3】本発明の実施形態における織物を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態における織物の別の態様を示す正面図である。
【符号の説明】
【0041】
10…織物 11…経糸 12…緯糸 15…QRコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸が、太さ20〜150デニールのフィラメント系または太さ30〜60番手の紡績系で、織密度30〜180本/cmで織成され、
緯糸が、太さ20〜150デニールのフィラメント系または太さ30〜60番手の紡績系で、織密度50〜120本/cmで織成される織物の製造方法において、
前記経糸と前記緯糸とを織成した後に、樹脂液に浸す含浸工程と、
前記織物を乾燥する乾燥工程と、
前記織物を所定圧力で押圧する押圧工程と、を有することを特徴とする織物の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂液は、シリコーン系樹脂で組成されたものであり、
前記含浸工程では、前記樹脂液に3秒以上浸すことを特徴とする請求項1に記載の織物の製造方法。
【請求項3】
前記押圧工程では、100〜180°の温度環境下で、前記織物を1kg/cm〜1t/cmの圧力で3秒〜300秒間押圧することを特徴とする請求項1または2に記載の織物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造された織物であって、
緯糸に、色彩の異なる複数種類の糸を用いて織成されていることを特徴とする織物。
【請求項5】
経糸と前記緯糸により、電子機器にて読み取り可能なQRコードの模様を織り込んだことを特徴とする請求項4に記載の織物。
【請求項6】
前記QRコードの模様中に、該QRコード以外の模様が全体の30%以下の領域に織り込まれていることを特徴とする請求項5に記載の織物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−161884(P2009−161884A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1513(P2008−1513)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(500422241)株式会社松川レピヤン (2)
【出願人】(598120665)増成織ネ−ム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】