説明

織物の製造方法

【課題】セルロースエステル組成物フィラメント織物を製造する際に問題となる織物品位におけるヨコヒケなどの欠点発生、製織中における経糸切れまたは緯糸切れや毛羽の発生がなく、低コスト、かつ安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】製織中の緯糸が巻き付けられた測長装置から緯糸が解舒終了するまでの角度を織機角度で表した拘束タイミング開始角度を240°以上、織機上での1本当たりの経糸張力が0.1(cN/dtex)以上、0.6(cN/dtex)以下、緯入れ1ピック当たりの噴射水量を2.5cc以下、ヘルド最大開口時の織前側第1ヘルドの最大開口量aを30mm≦a≦60mmとするセルロースエステル組成物フィラメント織物をウォータージェットルームで製織する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース混合エステル組成物フィラメント糸を少なくとも緯糸に用いた織物をウォータージェット・ルームを用いて製織する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースおよびセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また、生分解可能な材料として大きな注目を集めつつある。現在、商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。現在、裏地用衣料の分野でも様々な商品が販売されているが、その繊維の製造方法はレーヨンのようにセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートの様にセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がなかった。これらの湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法では、紡糸速度が遅いため生産性が低いという問題があるだけでなく、使用する二硫化炭素、アセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強い。
【0003】
他方、従来の有機溶媒を用いて製造されるセルロースアセテート繊維は、セルロース繊維が親水性に優れる素材であるために洗濯後の寸法安定性に劣ることや湿潤時の強伸度低下によるフィブリル化の改善のためにポリエステル繊維との交織・混繊などの複合使いの方法が数多く採られている。しかし、セルロース繊維を緯糸に用いてウォータージェットルームにより製織を行うと、セルロース繊維が湿潤状態により膨潤するため製織が容易ではなく、したがって、セルロース繊維を製織する場合、通常乾式織機すなわちエアージェットルームやレピア織機により製織されていた(例えば、特許文献1)。セルロース繊維を用い織物を安定して製織するため、エアージェットルームでの製織が主流となっているが、圧空設備、圧空装置における高額な運転コストすなわち緯糸搬送に要するエネルギーコストがウォータージェットルームと比較して約4〜5倍と高くコストアップが余儀なくされている。
さらにレピア織機による製織では、織機構造上高速製織が困難なため製織速度が遅いため、生産コストが上昇し生産性が低いのが現状である。
【0004】
一方、噴射水量を増やしたり、開口量を大きくすることなく、高速(回転数800rpm以上)でウオータージェットルームで製織する方法も開示されているが(例えば、特許文献2、3)、セルロース繊維に対応したものではなかった。
【特許文献1】特開2006−2284号公報
【特許文献2】特開2004−277906号公報
【特許文献3】特開2004−232168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術では解決できなかった安価な生産コストで溶融紡糸に優れ、セルロースエステル組成物フィラメント糸を用いた織物の製織が可能となり、行程通過性などの問題がなく高品位の織物を製造する方法であり、セルロースエステル組成物フィラメント織物を製造する際に問題となる織物品位におけるヨコヒケなどの欠点発生、製織中における経糸切れまたは緯糸切れや毛羽の発生がなく、セルロースエステル組成物フィラメント糸の持つ特有のソフトかつドライ感を有し、透明感、光沢感があり、制電性に優れたセルロースエステル組成物フィラメント織物を低コスト、かつ安定して製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、次の構成を有する。
【0007】
すなわち、本発明織物の製織方法は、セルロース混合エステル組成物フィラメント糸を少なくとも緯糸に用いた織物をウォータージェットルームで製織する方法において、製織中の緯糸が巻き付けられた測長装置から緯糸が解舒終了するまでの角度を 織機角度で表した拘束タイミング開始角度を240°以上、織機上での1本当たりの経糸張力が0.1(cN/dtex)以上、0.6(cN/dtex)以下、緯入れ1ピック当たりの噴射水量を2.5cc以下、ヘルド最大開口時の織前側第1ヘルドの最大開口量aを30mm≦a≦60mm以下に規定して緯入れを実施するウォータージェットルームの製織方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、少なくとも経または緯糸にセルロース混合エステル組成物フィラメント糸を用い、織物をウォータージェット・ルームを用いて製織することに関し、ウォータージェットルームにおいてでも製織中に係る緯糸飛走張力を低くすることが可能となり、織物品位におけるヨコヒケなどの欠点発生が著しく少なく、製織中における経糸切れまたは緯糸切れや毛羽の発生がなく安定してセルロース混合エステル組成物フィラメント織物を製造できる方法に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、セルロース混合エステル組成物フィラメント糸を少なくとも緯糸に、又は、経糸及び緯糸に用いた織物をウォータージェットルームで安定して製織する技術について鋭意検討し、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0010】
本発明に用いるセルロース混合エステル組成物フィラメント糸の形態は、ストレート糸であっても、或いは捲縮又は嵩高などが与えられた加工糸であってもよく、糸繊度や断面形状など特に限定するものではない。
【0011】
セルロース系繊維として、従来よりレーヨン糸、セルロース材料は地球上で最も大量に生産されるバイオマス材料として、また環境中にて生分解可能な材料として、昨今の大きな注目を集めつつある。セルロースの繊維としての利用に関しては、自然界中で産生する綿や麻などの短繊維をそのまま紡績して使用することが古くから行われてきた。短繊維ではなく、フィラメント材料を得るためには、レーヨン、リヨセル等のようにセルロースを特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートのようにセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトンなどの有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法で原糸を得ている。しかし、本発明で用いるセルロースエステル組成物は、地球上で最も大量に光合成によって生産されるセルロースの利用として、非石油系の再生可能かつ生分解性を有する環境適合材料、また、偏在せず地域ごとに自給できる資源である。さらに、繊維化の際、有機溶媒を使用しないため環境負荷が小さく、溶融紡糸に優れた生産効率の高い紡糸が可能であり、エネルギーコストが低く様々な品種の繊維が紡糸可能である。
【0012】
本発明のセルロース混合エステル組成物とは、セルロース混合エステルを必須の成分とするもので必要に応じて可塑剤などの添加剤を含有することが可能である。セルロース混合エステルとは、セルロースを構成するグルコース単位に3個存在する水酸基が、2種類以上のアシル基によってエステル化されているものをいう。具体的なセルロース混合エステル組成物の例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースプロピオネートブチレートなどのセルロース混合エステルが挙げられる。中でもセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートは製造が容易なことおよび耐熱性に優れていることから好ましい。セルロースエステルとは、セルロースの水酸基がエステル結合によって封鎖されているものを言う。具体的には、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレートなどカルボン酸とのエステル結合を有するものであってもよく、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸などオキシカルボン酸あるいはそれらの重合体とのエステル結合を有するものであってもよく、カプロラクトン、プロピオラクトン、バレロラクトン、ピバロラクトンなどの環状エステルあるいはそれらの重合体とのエステルとなっているものであってもよく、さらにはこれらの混合エステルとなっているものでもよい。セルロースエステルの置換度は、グルコース単位あたり0.5〜2.9であることが好ましい。また、良好な生分解性を得るためには、セルロースエステルの置換度は比較的低い置換度、例えば、0.5〜2.2であることが好ましく、良好な流動性を得るためには、比較的高い置換度、例えば、2.2〜2.9であることが好ましいので、目的によって適宜決定することができる。
【0013】
これらのセルロース混合エステルは、セルロース混合エステルに用いられる公知の可塑剤を含むことができる。しかし、大量の可塑剤を含有する場合、可塑剤の蒸散に起因する溶融紡糸時の発煙の問題が生じることがあり、また、繊維表面への可塑剤のブリードアウトによるヌメリ感が発生する問題がある。このことから、特に分子量が1000に満たない比較的低分子量の可塑剤を用いる場合には、その添加量を20wt%以下とすることが好ましい。具体的に用いうる可塑剤の例としては、可塑剤のうち比較的低分子量のものとして、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、エチルフタリルエチルグルコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどのフタル酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジエチルアゼレート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテートなどの多価アルコールの低級脂肪酸エステル類、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル類などを挙げることができる。可塑剤として比較的高分子量のものとしては、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などが挙げられる。可塑剤は、これらを単独、もしくは併用して使用することができる。
【0014】
また、本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物は、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料等として、無機微粒子や有機化合物を必要に応じて含有することができる。
【0015】
本発明におけるセルロース混合エステル組成物は、200℃、1000sec−1における溶融粘度が50〜300Pa・secである。200℃、1000sec−1における溶融粘度が50Pa・sec以上である場合には、口金背面圧が十分に得られ、分配性が良好となるためにマルチフィラメント間の繊度の均一性が担保されることから好ましい。また、溶融粘度が50Pa・secに満たない低粘度の組成物では、紡出後の固化が十分に進まず、収束すると繊維同士が膠着することがある。また、溶融粘度が300Pa・sec以下である場合には、ポリマーの熱流動性が良好であり、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが回避できることから好ましい。良好な流動性および分配性の観点から、200℃、1000sec−1における溶融粘度は70〜250Pa・secであることがより好ましく、80〜200Pa・secであることがさらに好ましい。さらに、本発明におけるセルロース混合エステル組成物は、200℃、100m/min引き取り時におけるメルトテンションが0.1〜50mNである。ここで、メルトテンションとはキャピラリーレオメーターである東洋精機(株)製キャピログラフを用い、温度200℃、引き取り速度100m/min、使用ダイ寸法1mmφ×10mmL、吐出量9.55cm/minの条件にて測定した値をいう。このメルトテンションは0.1mN以上であることが、溶融紡糸時に繊維にかかる応力によって繊維の内部構造の形成が行われるので好ましい。
【0016】
本発明においてはセルロース混合エステル組成物からなる繊維の製造には、溶融紡糸法が好ましく用いられる。溶融紡糸法では、前記したセルロース混合エステル組成物を、公知の溶融紡糸機において加熱溶融した後に口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し、巻取ることができる。この際、紡糸温度は200℃〜280℃が好ましく、さらに好ましくは240℃〜270℃である。紡糸温度を200℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上するので好ましい。また280℃以下にすることにより、組成物の熱分解が抑制されるため好ましい。
【0017】
本発明におけるセルロース混合エステル繊維は、セルロース混合エステルを主成分とするセルロース混合エステル組成物よりなるが、このセルロース混合エステル組成物中のセルロース混合エステルの含有量は、70〜95重量%であることが好ましい。セルロース混合エステルの含有量を70重量%以上とすることによって、強度を維持できる効果を持つセルロース混合エステルの比率が十分高くなり、繊維の機械的特性が向上する。セルロース混合エステル組成物中のセルロース混合エステルの含有量は、75重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが最も好ましい。また、組成物の熱流動性を高めて溶融紡糸を可能にするという観点に加え、得られる繊維の柔軟性を高めるためには、セルロース混合エステル組成物中のセルロース混合エステルの比率は95重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、90重量%以下であり、最も好ましくは85重量%以下である。
【0018】
本発明で用いられるセルロース混合エステル組成物は、セルロース混合エステル組成物からなる繊維を製造する時点においては、可塑剤を含んでいることが重要である。可塑剤の量としては5〜30重量%含有することが好ましい。5重量%以上の可塑剤を含有することで、組成物の熱流動性が良好となり、溶融紡糸時の生産性を向上することが可能となる。また、30重量%以下の可塑剤量とすることで、繊維表面への可塑剤のブリードアウトを抑制することができ、室温での膠着などのトラブルを回避することができる。セルロース混合エステル組成物の可塑剤含有量は、溶融紡糸時の生産性の観点から、10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることが最も好ましい。また、ブリードアウトを抑制する観点からは、25重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが最も好ましい。
【0019】
本発明のセルロース混合エステル組成物マルチフィラメントの製造方法は、得られる繊維の形態に関する制限は特になく、公知の形態を有する繊維の製造に適用することができる。例えば、丸孔を有する口金を用いて真円形のフィラメントを製造することはもちろん、異形孔を有する口金を用いることによって、3葉断面糸、6葉断面糸、8葉断面糸のような多葉断面糸、W字型、X字型、H字型、C字型および田型などの異形断面糸を製造することができる。また、芯鞘複合、偏芯芯鞘複合、サイドバイサイド型複合、異繊度混繊などのように複合繊維を製造することも可能であり、得られる繊維の形態には特に制限がない。さらに、通常の生糸以外にも仮撚加工糸使いであっても良い。
【0020】
本発明におけるセルロース混合エステル組成物からなる繊維の単繊維繊度は、0.5デシテックス〜5デシテックスの範囲であれば良いが、発色性や風合いの観点から0.8デシテックス〜3.0デシテックスの範囲がより好ましい。
【0021】
本発明で得られた織物のカバーファクターの和は1000〜3000であることが好ましい。カバーファクターの和が1000未満では、得られる織物の組織がずれやすくなり、製品として用いた場合に縫い目ずれなどを引き起こす傾向がある。また3000を越えると風合いが粗硬となる。カバーファクター(K)は下記式によって求められる。
【0022】
K=経糸密度×(経糸繊度デシテックス)0.5+緯糸密度×(緯糸繊度デシテックス)0.5
本発明で得られた織物は、その品位を改善するためアルカリ処理を施しても良い。
なお、本発明の製織方法において、織物組織としては特に限定される物ではなく、平織、綾織、朱子織、二重織りあるいはこれらを組み合わせた組織や変化織りなどがあり特に限定されない。
また、本発明で得られた織物の用途としては、アスレチック、アウトドア、スキーなどのスポーツ用裏地、食品産業や土木産業に関わるユニフォーム裏地、またコートや外衣の婦人、紳士用裏地などに好適である。
【0023】
本発明は、織機における製造コスト低減の観点からウォータージェット・ルームを用い、好ましくは織機回転数を400rpm以上、800rpm以下とする。織機回転数が400rpm以下ではウォータージェットルームの大きな利点である高生産性、コスト優位性が失われてしまい、800rpm以上では緯糸が緯入れされてから筬打ちされるまでの時間が短くなり、条件を調整しても緯糸の瞬間最大張力が大きくなり、織物品位におけるヨコヒケなど欠点発生の原因となる。このヨコヒケの発生原因としては経糸開口部に緯糸を搬送する過程における張力が緯糸の弾性限界張力を超え、この瞬間に緯糸が弾性回復しないほどの延伸作用を受け、その部分にヨコヒケが生じるためである。
【0024】
この問題を解決する方法として、織機速度を400rpm以上、800rpm以下と設定しても緯入れ中の緯糸の瞬間最大張力を抑制する事ができる理由として、次のように説明することができる。
【0025】
織物の製造は緯糸の緯入れ運動とリードの筬打ち運動とを交互に行うことにより実施されるため、緯入れ運動はリードが筬打ち運動を終了して最初の位置に復帰した後、次の緯打ち運動を開始して新たに緯入れした緯糸に当接する運動の繰り返しであり、一般に織機速度により最低限必要な緯入れ速度が決まる。ウォータージェット・ルームの場合、緯入れ中の緯糸は搬送水と共に緯入れ用ノズルから飛走し、自由飛走から拘束飛走に移行する瞬間に最大の張力を受けるため、緯糸を緯入れする際の噴射水量を1ピック当たり2.5cc以下、緯糸にかかる瞬間最大張力を低く抑えるため、製織中の緯糸が巻き付けられた測長装置から緯糸が解舒終了するまでの角度を織機角度で表した拘束タイミング開始角度を240°以上、280°以下に設定することで緯糸の搬送速度を遅くすることが可能となるが、製織中の緯糸が巻き付けられた測長装置から緯糸が解舒終了するまでの角度を織機角度で表した拘束タイミング開始角度は240°から260°がより好ましい。緯糸貯留装置はRDP、SDP方式のどちらでも良い。
【0026】
緯入れする際の噴射水量を1ピック当たり2.5cc以下にすると、緯糸にかかる瞬間最大張力を下げることができるが、緯糸搬送水が少ないために緯入れされた飛走中の緯糸先端が安定せず、緯糸の折り返し、経糸掛かりが多発する。また噴射水量が1ピック当たり2.5cc以上であると、緯糸飛走時の緯糸にかかる瞬間最大張力が高くなることでヨコヒケなどの欠点発生、さらに噴射水が経糸に直接当たって経糸単糸を切断してしまい、経糸切れおよび毛羽の発生原因に繋がる。
【0027】
そのため、セルロースエステル組成物フィラメント糸を緯糸、もしくは、経糸及び緯糸に用いた織物をウォータージェットルームで安定して製織するために、本発明においては、緯入れ時の1ピック当たりの噴射水量を2.5cc以下に設定し、併せてヘルド最大開口時の織前側の第1ヘルドの最大開口量を30mm以上、60mm以下に設定する。緯入れ時の1ピック当たりの噴射水量が2.5cc以下で、織前側の第1ヘルドの最大開口量が30mm未満であると、経糸シート間の緯入れ空間が小さすぎるため緯糸先端が飛走途中に経糸に当たり経糸掛かり、折り返しが多くなり織機稼働が安定しないため、ヘルド最大開口時の織前側の第1ヘルドの最大開口量を45mm以上、55mm以下がより好ましい。
【0028】
緯入れ時の1ピック当たりの噴射水量が2.5cc以下で、織前側の第1ヘルドの最大開口量が60mmを超えると、経糸シート間の緯入れ空間が大きすぎて緯入れ時の噴射水の拡散が大きく、緯糸が飛走中に上下に振れる傾向となり、経糸掛かり、折り返しが多くなり、さらに開口量増加によるヘルドメールと糸の擦過量が大きくなるため、ヘルドメールの擦過摩耗キズなどの影響により経糸切れ、毛羽の発生原因となると共に、織機開口枠の運動量増加による開口部周辺部品の寿命が著しく短くなる。
【0029】
緯入れ時の1ピック当たりの噴射水量は、緯入れポンプ装置のシリンダー径と移動 ストロークの関係から、安定した製織を得るためには少なくとも1.82cc以上必要である。
【0030】
本発明においては、製織中における織機上の経糸1本当たりの経糸張力を、0.1(cN/dtex)以上、0.6(cN/dtex)以下に設定することが必要である。1本当たりの経糸張力が0.1(cN/dtex)未満であると、経糸が十分に緊張されずヘルドが振れてしまい、毛羽または経筋を誘発する。また、1本当たりの経糸張力0.6(cN/dtex)を超えると、ヘルドメールと糸の擦過による毛羽の発生、また、このヘルドメールと糸の擦過によるヘルドメール摩耗キズなどの影響により経糸切れの原因となる。そのため、製織中における織機上の経糸1本当たりの経糸張力は、0.15(cN/dtex)以上、0.3(cN/dtex)がより好ましい。
【0031】
本発明のセルロース混合エステル組成物フィラメント糸を経糸として使用する場合、製織時の毛羽の発生抑制および収束性、経糸開口性向上のためサイジングしてもよく、そのためにアクリル系糊材またはポリビニルアルコール系糊剤および油剤、ワックスを付与しても良い。セルロース混合エステル組成物フィラメント糸は、木綿、麻、羊毛などの天然繊維や、レーヨンなどと比較すると公定水分率が低く、水分を吸いにくいが、糊材付着量は2%から15%の範囲にする事が好ましい。また、経糸の収束性を向上させるため撚糸を施しても良い。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
実施例1、2、3及び比較例1、2
<製織条件>
織物規格:生機経糸密度103本/25mm×緯糸密度79本/25mm
生機幅164cm
織機機種:水噴射式織機
リードスペース190cm
製織条件:600、700rpm
筬入れ幅168cm
製織長 515m/1水準。
【0034】
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製)80重量%と、可塑剤としてポリエチレングリコール(三洋化成(株)製、PEG600)20重量%を、30mmφエクストルーダーを用いて混合し、セルロース混合エステル組成物のペレットを得た。組成物ペレットを乾燥した後、エクストルーダー型溶融紡糸機を用いて溶融させ、紡糸温度260℃、紡糸速度1500m/分で繊維を得た。なお、繊維を巻き取る前に交絡ガイドを通過させることによって交絡を付与した。得られたフィラメント糸を経糸として用いる際、糊液濃度8%のアクリル系糊材で糊付けを行い、着糊量9%の100dtex−36f糸を得た。緯糸に100dtex−24fのセルロース混合エステル組成物フィラメント糸を用いた。製織条件である織機回転数、緯入れ時の1ピック当たりの噴射水量、製織中の緯糸が巻き付けられた測長装置から緯糸が解舒終了するまでの角度を織機角度で表した拘束タイミング開始角度、製織中の1本当たりの経糸張力、ヘルド最大開口時の織前側第1ヘルド最大開口量aをそれぞれを表1のとおりにして、4通りの製織を行った。製織中における織機上の経糸1本当たりの経糸張力測定は、金井工機(株)製チェックマスター(登録商標)(形式:CM−200FR)を用い、織機稼動中に経糸ビームとバックローラーの中央部分において、経糸一本当たりに加わる張力を測定した。
【0035】
これら4通りの製織性の評価結果を表1に併せて示す。
【0036】
【表1】

【0037】
製織性判定基準としては、現在の製織における採算性等から、1日当たりの織機停台回数が9回以下を良(○)、10〜12回を可(△)、13回以上を不可(×)とした。ヨコヒケの評価は、製織後の織物生機を検査員が検反機にて照明を当てながら検査速度20〜30m/分で織り欠点を目視にて確認した。ヨコヒケ欠点が目視で見られないものを良(○)、目視で見られる場合(C反)を不可(×)とした。
【0038】
表1から明らかなように、本発明に係る実施例1、2および3は、いずれも製織中の経糸切れ、織物品位であるヨコヒケの発生がなく、ウォータージェットルームにおいても安定して織物を得ることができた。
【0039】
これらに対し、比較例1ではヘルド最大開口時の織前側第1ヘルド最大開口量aが25mmと小さすぎて、緯糸が飛走中に経糸と容易に接触するため、製織不可であった。比較例2では、ヘルド最大開口時の織前側第1ヘルド最大開口量aが65mmと大きいため、経糸とヘルドメールでの擦過が大ききなるため経糸切れが多発した。また経糸張力が0.65(cN/dtex)であるため、製織中の経糸張力が高くなるために経糸切れが多発した。また、緯入れ時の1ピック当たりの水量が2.84ccと多いため、緯糸飛走中にかかる張力が高くなり緯糸切れ、緯入れ噴射水による経糸切れのため稼働が不安定であり、織物品位もヨコヒケが発生し、量産化できるレベルではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース混合エステル組成物フィラメント糸を少なくとも緯糸に用いた織物を
ウォータージェットルームで製織する方法において、製織中の緯糸が巻き付けられた測長装置から緯糸が解舒終了するまでの角度を織機角度で表した拘束タイミング開始角度を240°以上、織機上での1本当たりの経糸張力が0.1(cN/dtex)以上、0.6(cN/dtex)以下、緯入れ1ピック当たりの噴射水量を2.5
cc以下、ヘルド最大開口時の織前側第1ヘルドの最大開口量aを30mm≦a≦
60mmとすることを特徴とするセルロースエステル組成物フィラメント織物の製造方法。

【公開番号】特開2009−235594(P2009−235594A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80176(P2008−80176)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】