説明

織物芯地及びその製造方法

【課題】織組織を乱す特殊な工程を要することなく、モアレを解消した織物芯地及びその製造方法を提供する。
【解決手段】160〜200℃の温度範囲のいずれかの温度(T℃)における熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条が、縦糸及び緯糸の少なくとも1方に交織されている交織織物を前記温度(T℃)で熱処理することにより、熱収縮率が高い繊維糸条が熱収縮している織物芯地。低収縮繊維糸条と高収縮糸条とが、縦糸及び緯糸の少なくとも一方に交織されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紳士服や婦人服などの縫製に用いる織物芯地及びその製造方法に関する。詳細には、織組織を乱す特殊な工程を要することなく、モアレを解消した織物芯地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紳士服や婦人服などの縫製に織物芯地が用いられているが、織物芯地が規則性のある織物組織を有していることから、表地と重ね合わせたとき、それらの周期の干渉によって縞模様(モアレ)が発生するという問題があった。
【0003】
このようなモアレの発生を抑制する技術として、構成糸総デニールが30デニールを越えることなく、単糸デニールが3デニールを越えることがないポリアミド無撚糸の捲縮仮撚加工糸を経糸及び緯糸とする基布であって、仕上げ後の基布構成糸の経糸の緯糸方向への単糸拡散が構成糸の単糸直径の5.0倍〜13.5倍で、且つ緯糸の経糸方向への単糸拡散が構成糸の単糸直径の5.0倍〜19.0倍である織物芯地が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし、特許文献1記載の織物芯地にあっては、縦糸と緯糸の単糸拡散を広げても、該織物の織組織の規則性は失われないために、表地の種類によってはモアレを生じることがあった。
【0005】
一方、モアレの発生を抑制する別の技術として、単繊維繊度が1.5デニール以下のポリエステルフィラメントからなる20デニール以上75デニール以下のポリエステルマルチフィラメント捲縮加工糸が経糸および/または緯糸に用いられてなる織物からなり、該織物に対し垂直方向から見たときに経糸および/または緯糸が幅0.3〜3mm、ピッチ0.3〜5mmの「よろけ」を有する織物からなることを特徴とする接着芯地も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
しかし、特許文献2記載の技術の場合、流体噴射のための特別の設備や中間処理工程が必要であり、コスト上昇を避けられないという問題があった。
【特許文献1】特開平7−258938号公報
【特許文献2】特開平9−67752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の技術的課題に鑑みなされたものであり、織組織を乱す特殊な工程を要することなく、モアレを解消した織物芯地及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1〜7記載の発明は、160〜200℃の温度範囲のいずれかの温度(T℃)における熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条が、縦糸及び緯糸の少なくとも1方に交織されている交織織物を前記温度(T℃)で熱処理することにより、熱収縮率が高い繊維糸条が熱収縮していることを特徴とする織物芯地をその要旨とするものである。
【0009】
請求項8及び9記載の発明は、160〜200℃の温度範囲のいずれかの温度(T℃)における熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条を、縦糸及び緯糸の少なくとも1方に交織して交織織物を織成し、次いで、前記交織織物を前記温度(T℃)で熱処理することにより、熱収縮率が高い繊維糸条を熱収縮させることを特徴とする織物芯地の製造方法をその要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の織物芯地及びその製造方法にあっては、上記構成を有することから、織組織を乱す特殊な工程を要することなく、モアレを解消することができる、との効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の織物芯地(以下、単に芯地という)及びその製造方法を更に詳しく説明する。尚、本発明の芯地の製造方法は、芯地の説明の中で併せて説明する。本発明の芯地は、従来より織物芯地に用いられている繊維糸条が規則性を有する織組織を有する織物と同様な組織を有する交織織物からなる。交織織物の織り組織としては平織りが好ましい。
【0012】
交織織物を構成する繊維糸条としては特に限定されないが、例えばフィラメント糸や紡績糸が適用可能である。フィラメント糸としては、撚糸または無撚糸を用いることができ、また複数のフィラメント糸から構成することもできる。具体的には、繊度が8〜30デシテックスのフィラメント糸を3〜30本束ねて、必要に応じて撚りをかけて、全体の繊度を50〜300デシテックスとした繊維糸条を用いることができる。
【0013】
交織織物を構成する繊維糸条の材質としては特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、ナイロン6(登録商標)、ナイロン66(登録商標)などのポリアミド繊維、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル繊維、およびポリビニルアルコール繊維などの合成繊維、レーヨンなどの半合成繊維、綿などの天然繊維などの繊維を単独で、または複数種組み合わせて適用することができる。
【0014】
この交織織物を構成する縦糸及び緯糸の少なくとも1方に、160〜200℃の温度範囲のいずれかの温度(T℃)における熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条が交織されているのである。熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条としては、例えば185℃における熱収縮率が1〜5%の低収縮性繊維からなる低収縮繊維糸条と、185℃における熱収縮率が3〜25%の高収縮性繊維からなる高収縮繊維糸条とからなるものを挙げることができる。この場合、交織織物を185℃で熱処理することにより、高収縮繊維糸条の高収縮性繊維が熱収縮し、熱収縮率の低い低収縮性繊維からなる低収縮繊維糸条および非熱収縮繊維糸条に不規則な皺が発生することになる。これにより、該交織織物の規則性が損なわれ、モアレ防止効果が生じることになる。
【0015】
例えば図1に示す芯地は、高収縮繊維糸条が緯糸に交織され、低収縮繊維糸条が経糸に交織された交織織物に熱処理することで、熱収縮率が高い繊維糸条が熱収縮したものである。図1に示すように、高収縮繊維糸条の熱収縮により、低収縮繊維糸条に皺が発生し、該交織織物の規則性が損なわれている。図2に示す交織織物は、熱収縮率が同じ繊維糸条が交織されているため、熱処理を行ったとしても、該交織織物の規則性が損なわれず、モアレが生じることになる。
【0016】
交織織物は、低収縮性繊維からなる1種類の低収縮繊維糸条と、高収縮性繊維からなる1種類の高収縮繊維糸条とが、縦糸及び緯糸の少なくとも1方に交織されてなることが好ましい。この様な形態であれば、熱収縮率の差が明確になるので、低収縮繊維糸条に皺が発生し易いという利点がある。
【0017】
交織織物を構成する縦糸及び緯糸の少なくとも1方に交織される熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条は、例えば高収縮繊維糸条の185℃における熱収縮率が3〜30%であり、該高収縮繊維糸条の熱収縮率と低収縮繊維糸条の185℃における熱収縮率との差が2〜25%であることが望ましい。熱収縮率との差が2%を下回る場合、皺が発生し難く、十分なモアレ防止効果を得ることができず、25%を上回る場合には、芯地全体に凹凸が発生する恐れがあるからである。
【0018】
熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条の具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレートの低収縮性繊維からなる繊維糸条とポリアミドの高収縮性繊維からなる繊維糸条を挙げることができる。
【0019】
低収縮性繊維からなる低収縮繊維糸条と、高収縮性繊維からなる高収縮繊維糸条とが、縦糸及び緯糸の少なくとも1方に交織された交織織物の場合、低収縮繊維糸条の本数と高収縮繊維糸条の本数の比率が1:1〜1:4であることが好ましい。低収縮繊維糸条の本数と高収縮繊維糸条の本数の比率が、上記範囲外の場合、熱収縮による皺が発生し難くなり、十分なモアレ防止効果を得ることができなくなる恐れがある。。
【0020】
交織織物の縦糸及び緯糸の少なくとも1方を構成する、160〜200℃の温度範囲のいずれかの温度(T℃)における熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条の密度は80本/インチ以下であることが好ましく、70本/インチ以下であることがより好ましい。熱収縮する繊維糸条の密度が80本/インチを超えると、糸の自由度がなくなり、熱収縮による非熱収縮繊維糸条に皺が発生し難くなり、十分なモアレの発生防止効果を担保できなくなるおそれがある。また、繊維糸条の密度の下限値としては、40本/インチ以上であることが好ましく、より好ましくは50本/インチ以上である。密度が40本/インチを下回る場合、接着樹脂の染み出しが発生し易くなるからである。
【0021】
また交織織物は、そのカバーファクターが350〜700であることが好ましい。カバーファクター(CF値)とは、経糸の総繊度をD1(デシテックス)、経糸の密度をN1(本/2.54cm)とし、緯糸の総繊度をD2(デシテックス)、緯糸の密度をN2(本/2.54cm)としたとき、(D1)1/2×N1+(D2)1/2×N2で求められる数値であり、織物の目空きの状態を数値化する指標である。CF値が350を下回る場合、糸の自由度がなくなり、熱収縮による非熱収縮繊維糸条に皺が発生し難くなり、CF値が700を上回る場合、接着樹脂の染み出しが発生し易くなるからである。
【0022】
交織織物の熱処理は、熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条を交織した交織織物をヒータやドライヤー、熱ロールなどを用いて熱処理するだけであるが、その熱処理に際しては、巾方向または機械方向に交織織物が自由に収縮できるように、例えばバンドドライヤー(ベルトコンベア型)の上に載値して処理する方法を採ることもできる。また、テンター処理において、交織織物の巾を狭めながらオーバーフィードさせながら熱処理することもできる。
【0023】
本発明の芯地を接着芯地とする場合には、交織織物上に熱接着樹脂をドットプリントした後、その乾燥工程の中で繊維糸条を熱収縮させることができる。この場合、繊維糸条の熱収縮と同時に接着樹脂を乾燥することができ、熱処理のための特別の工程が不要となり、その分生産コストを削減することができる。
【0024】
尚、本発明は、下記実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で自由に実施することができ。
【実施例】
【0025】
実施例1
10デシテックスのポリエステル繊維×12本の繊維糸条を経糸とし、18デシテックスのポリエステル繊維×9本の繊維糸条(低収縮繊維糸条)の緯糸2本おきに、15デシテックスのナイロン66(登録商標)繊維×5本の繊維糸条(高収縮繊維糸条)の緯糸1本を用いて平織りした。
【0026】
その後、平織物にアクリル系樹脂からなるペーストを用い、150個/cm2の密度でドット形状にプリントした。次いで、前記アクリル系樹脂からなるドットが未乾燥でタック性を有する間にポリアミド系樹脂粉末を散布した。
【0027】
次いで、樹脂加工を施した織物をバンドドライヤー(ベルトコンベア型)の上に載値し、185℃でペーストの乾燥を行うと同時に織物を巾方向に4.2%の収縮が生じるように熱処理したところ、ナイロン66(登録商標)繊維からなる繊維糸条(高収縮繊維糸条)が熱収縮し、ポリエステル繊維からなる繊維糸条に皺が発生し、モアレが解消した。
【0028】
得られた芯地の経糸の密度は101本/インチであり、緯糸の密度は63本/インチであり、カバーファクターは618であった。尚、芯地のアクリル系樹脂の被着密度は2g/m2、ポリアミド系樹脂粉末の被着密度は2.5g/m2であり、面密度は11.7g/m2、厚さは0.12mmであった。尚、芯地の厚さは、20g/cm2の荷重をかけたときの厚さとした。また、モアレの有無については、同じ芯地を二重に重ねてモアレが発生するか否かを目視にて確認し判定した。
【0029】
実施例2
10デシテックスのポリエステル繊維×12本の繊維糸条(低収縮繊維糸条)の緯糸2本おきに、15デシテックスのナイロン66(登録商標)繊維×5本の繊維糸条(高収縮繊維糸条)の緯糸1本を用いて平織りした以外は実施例1と同様にして芯地を得た。得られた芯地はモアレが解消されていた。
【0030】
得られた芯地の経糸の密度は101本/インチであり、緯糸の密度は62本/インチであり、カバーファクターは574であった。尚、芯地のアクリル系樹脂の被着密度は2g/m2、ポリアミド系樹脂粉末の被着密度は2.5g/m2であり、面密度は10.9g/m2、厚さは0.11mmであった。
【0031】
比較例1
10デシテックスのポリエステル繊維×12本の繊維糸条のみを緯糸として用いて平織りした以外は実施例1と同様にして芯地を得た。得られた芯地にはモアレが発生していた。
【0032】
得られた芯地の経糸の密度は99本/インチであり、緯糸の密度は86本/インチであり、カバーファクターは616であった。尚、芯地のアクリル系樹脂の被着密度は2g/m2、ポリアミド系樹脂粉末の被着密度は2.5g/m2であり、面密度は10.9g/m2、厚さは0.08mmであった。
【0033】
比較例2
15デシテックスのポリアミド繊維×5本の繊維糸条のみを緯糸として用いて平織りした以外は実施例1と同様にして芯地を得た。得られた芯地にはモアレが発生していた。
【0034】
得られた芯地の経糸の密度は101本/インチであり、緯糸の密度は83本/インチであり、カバーファクターは675であった。尚、芯地のアクリル系樹脂の被着密度は2g/m2、ポリアミド系樹脂粉末の被着密度は2.5g/m2であり、面密度は12.3g/m2、厚さは0.10mmであった。
【0035】
比較例3
10デシテックスのポリエステル繊維×12本の繊維糸条を経糸とし、18デシテックスのポリエステル繊維×9本の繊維糸条の緯糸2本おきに、15デシテックスのナイロン66(登録商標)繊維×1本の繊維糸条(高収縮繊維糸条)の緯糸1本を用いて平織りし、これを芯地とした。
【0036】
得られた芯地には熱処理を行わず、そのままの状態でモアレの有無を確認したところ、モアレが発生していた。得られた芯地の経糸の密度は96本/インチであり、緯糸の密度は63本/インチであり、カバーファクターは601であった。尚、芯地の面密度は10.9g/m2、厚さは0.08mmであった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】高収縮繊維糸条が緯糸に交織され、低収縮繊維糸条が経糸に交織された交織織物に熱処理することで、熱収縮率が高い繊維糸条が熱収縮した芯地の繊維組織を示す模式図。
【図2】熱収縮率が同じ繊維糸条が交織されている芯地の繊維組織を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
160〜200℃の温度範囲のいずれかの温度(T℃)における熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条が、縦糸及び緯糸の少なくとも1方に交織されている交織織物を前記温度(T℃)で熱処理することにより、熱収縮率の高い繊維糸条が熱収縮していることを特徴とする織物芯地。
【請求項2】
交織織物は、低収縮性繊維からなる1種類の低収縮繊維糸条と、高収縮性繊維からなる1種類の高収縮繊維糸条とが、縦糸及び緯糸の少なくとも1方に交織されてなることを特徴とする請求項1に記載の織物芯地。
【請求項3】
高収縮繊維糸条の185℃における熱収縮率が3〜30%であり、該高収縮繊維糸条の熱収縮率と低収縮繊維糸条の185℃における熱収縮率との差が2〜25%であることを特徴とする請求項2記載の織物芯地。
【請求項4】
低収縮繊維糸条の本数と高収縮繊維糸条の本数の比率が1:1〜1:4であることを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の織物芯地。
【請求項5】
低収縮性繊維がポリエチレンテレフタレートからなり、高収縮性繊維がポリアミド繊維からなることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の織物芯地。
【請求項6】
交織織物の縦糸及び緯糸の少なくとも1方を構成する、160〜200℃の温度範囲のいずれかの温度(T℃)における熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条の密度が80本/インチ以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の織物芯地。
【請求項7】
交織織物のカバーファクターが350〜700であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の織物芯地。
【請求項8】
160〜200℃の温度範囲のいずれかの温度(T℃)における熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条を、縦糸及び緯糸の少なくとも1方に交織して交織織物を織成し、次いで、前記交織織物を前記温度(T℃)で熱処理することにより、熱収縮率が高い繊維糸条を熱収縮させることを特徴とする織物芯地の製造方法。
【請求項9】
160〜200℃の温度範囲のいずれかの温度(T℃)における熱収縮率が異なる2種類以上の繊維糸条を交織した交織織物上に熱接着樹脂をドットプリントし、次いで、前記交織織物を前記温度(T℃)で熱処理することにより、熱収縮率が高い繊維糸条を熱収縮させると同時に前記熱接着樹脂を乾燥することを特徴とする請求項8記載の織物芯地の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−47848(P2010−47848A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210385(P2008−210385)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】