説明

織物

【課題】乾燥機能付き洗濯機に対応したウオッシュアンドウェア性に優れたシャツ地に好適な織物を提供する。
【解決手段】芯糸にポリトリメチレンテレフタレート系繊維、または/および一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維の長繊維を用い、鞘糸にポリエステル繊維:綿の比率が0:100から40:60にミキシングされた短繊維を用いてなる芯鞘構造長短繊維複合糸を、経糸および/または緯糸に用いた織物。ウオッシュアンドウェア性に優れたシャツ地とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウオッシュアンドウェア性(W/W性)に優れたドレスシャツ地に好適な織物に関するである。
【背景技術】
【0002】
従来、フィラメントと短繊維からなる長短繊維複合糸に関しては、数々の研究・開発が行われており、その中でストレッチ性を付与した長短繊維複合糸として、例えば、ポリウレタン系の弾性糸を使用した短繊維との複合糸(CSY)、伸縮性を持ったフィラメントを集束させて短繊維の芯部に位置させるコアヤーン等が挙げられる。
【0003】
しかしながら、このような長短繊維複合糸は、主として布帛にストレッチ性を付与することが主眼におかれており、最近主流となりつつある乾燥機能付き洗濯機におけるシワ防止効果を訴求したものではなかった。
【0004】
これに対し、例えば、セルロース系繊維とポリウレタン弾性糸を用い1方向にストレッチ性を付与することが提案されているが(特許文献1参照)、これはポリウレタン弾性糸を用いてストレッチ性を付与し、かつ防縮加工を行い洗濯機による水洗い時の収縮を規定したものであり、タンブラー乾燥については記載がない。
【0005】
また、フィラメントを用いた例としては、ポリエステルとポリトリメチレンテレフタレートを芯糸とした長短繊維複合糸を用いた織物が提案されているが(特許文献2参照)、この提案はストレッチ性を得ることに主眼をおかれており、W/W性については配慮されていない。
【0006】
一方、ポリトリメチレンテレフタレートを用いたバイメタル複合糸を芯糸とした長短繊維複合糸が提案されているが(特許文献3および特許文献4参照)、これらの提案は複合糸に主眼をおいており、かつ織物にした場合のストレッチ性を訴求したものであり、W/W性については配慮されていない。
【0007】
また別に、ポリトリメチレンテレフタレート100%バイメタル糸を芯部に用い、短繊維を鞘部に用いた複合紡績糸に強撚を施しコイル構造を形成させたパンツ地織物が提案されているが(特許文献5参照)、この提案はストレッチ性を得ることを目標としており、乾燥機一体型洗濯機に対応したW/W性については触れられていない。
【特許文献1】特開2002−61050号公報
【特許文献2】特開2002−266180号公報
【特許文献3】特開2003−20533号公報
【特許文献4】特開2003−155636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上述のような従来技術では得られなかった良好なW/W性を持った織物を得ること、さらにはソフトなストレッチ性を持った織物を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明の織物は次の構成を有する。
【0010】
すなわち本発明の織物は、芯糸にポリトリメチレンテレフタレート系繊維、または/および一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維の長繊維を用い、鞘糸にポリエステル繊維:綿の比率が0:100から40:60にミキシングされた短繊維を用いてなる芯鞘構造長短繊維複合糸を、経糸および/または緯糸に用いてなることを特徴とする織物である。
【0011】
また、本発明の織物は、芯糸にポリトリメチレンテレフタレート系繊維、または/および一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維の長繊維を用い、鞘糸にポリエステル繊維:綿の比率が0:100から40:60にミキシングされた短繊維を用いてなる芯鞘構造長短繊維複合糸を、経糸または緯糸に用い、かつ相反する緯糸または経糸にポリエステル繊維:綿の比率が100:0から40:60の紡績糸を用いてなることを特徴とする織物である。
【0012】
本発明の織物の好ましい態様によれば、前記の芯鞘構造長短繊維複合糸を用いた方向の織物伸長率は10%から20%であり、そして、ウオッシュアンドウェア性が3級以上の織物である。
【0013】
また、本発明の織物は、ドレスシャツ地等のシャツ地に好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記のポリトリメチレンテレフタレート系繊維を含む長短繊維複合糸を経糸および/または緯糸に用い織物とすることで、W/W性に優れた織物とすることが出来る。また、サイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維を用いることにより、織物に、織物伸長率が10%以上のストレッチ性を付与することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の織物においては、芯糸にポリトリメチレンテレフタレート系繊維、または一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維からなる長繊維を用い、そして、鞘糸にポリエステル繊維:綿の比率が0:100から40:60にミキシングされた短繊維を用いてなる芯鞘構造長短繊維複合糸を、織物の経糸および/または緯糸に用いることで、W/W性3級以上を達成することができる。
【0016】
まず、本発明で用いられる長短繊維複合糸の芯糸を構成するサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維の長繊維(マルチフィラメント)について説明する。
【0017】
サイドバイサイド型の複合繊維は、固有粘度や共重合成分、あるいは共重合率等が異なる重合体を貼り合わせ、それらの弾性回復特性や収縮特性の差によって、捲縮を発現するものである。固有粘度差を有するサイドバイサイド型複合繊維の場合、紡糸や延伸時に高固有粘度側に応力が集中するため、2成分間で内部歪みが異なる。そのため、延伸後の弾性回復率差により高粘度側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態をとる。この3次元コイルの径および単位繊維長当たりのコイル数は、高収縮成分と低収縮成分との収縮差(弾性回復率差を含む)によって決まると言ってもよく、収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。
【0018】
ストレッチ素材として要求されるコイル捲縮は、コイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多い(伸長特性に優れ、見映えが良い)、コイルの耐へたり性が良い(伸縮回数に応じたコイルのへたり量が小さく、ストレッチ保持性に優れる)、さらにはコイルの伸長回復時におけるヒステリシスロスが小さい(弾発性に優れ、フィット感がよい)等である。これらの要求を全て満足しつつ、ポリエステル繊維としての特性、例えば、適度な張り腰、ドレープ性および高染色堅牢性を有することで、トータルバランスに優れたストレッチ素材とすることができる。
【0019】
ここで、前記のコイル特性を満足するためには、高収縮成分(高粘度成分)の特性が重要となる。コイルの伸縮特性は、低収縮成分を支点とした高収縮成分の伸縮特性が支配的となるため、高収縮成分に用いる重合体には高い伸長性および回復性が要求される。
【0020】
そこで、本発明者らは、ポリエステル繊維の特性を損なうことなく前記特性を満足させるために鋭意検討した結果、高収縮成分にポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略記することがある)を主体としたポリエステル繊維(以下、PTT繊維と略記することがある)を用いることを見出した。PTT繊維は、代表的なポリエステル繊維であるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記すると略記することがある)やポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記すると略記することがある)繊維と同等の力学的特性や化学的特性を有しつつ、弾性回復性および伸長回復性が極めて優れている。これは、PTTの結晶構造においてアルキレングリコール部のメチレン鎖がゴーシュ−ゴーシュの構造(分子鎖が90度に屈曲)であること、さらにはベンゼン環同士の相互作用(スタッキング、並列)による拘束点密度が低く、フレキシビリティーが高いことから、メチレン基の回転により分子鎖が容易に伸長・回復するためと考えられる。
【0021】
ここで、本発明におけるPTTとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、20モル%、より好ましくは10モル%以下の割合で他のエステル結合の形成が可能な共重合成分を含むものであってもよい。
【0022】
共重合可能な化合物として、例えば、イソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸および5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどのジオール類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体および着色顔料などを添加してもよい。
【0023】
また、低収縮成分(低粘度成分)には高収縮成分であるPTTとの界面接着性が良好で、製糸性が安定している繊維形成性ポリエステルであれば特に限定されるものではないが、力学的特性、化学的特性および原料価格を考慮すると、繊維形成能のあるPETが好ましい。
【0024】
また、両成分の複合比率は、製糸性および繊維長さ方向におけるコイルの寸法均質性の点で、高収縮成分:低収縮成分=75:25〜35:65(重量%)の範囲が好ましく、より好ましくは65:35〜45:55の範囲である。
【0025】
本発明で用いられる長短繊維複合糸を構成するサイドバイサイド型複合繊維の断面形状は、丸断面、扁平断面、三角断面、マルチローバル断面、X型断面およびその他公知の異形断面であってもよいが、特にダルマ型断面であることが好ましい。ここでいうダルマ型断面とは、PTT成分とPET成分の界面が断面の長手方向に対して垂直方向に貼り合わせたものである。
【0026】
サイドバイサイド型複合繊維は、マルチフィラメントの位相が揃い集合した形でSとZ方向のトルクを有するクリンプが交互に発現しやすく、結果的にSとZのトルクの変わり目において長繊維(マルチフィラメント)全体が捩れ、織物にした場合シボが発生し易い。
【0027】
そのため、本発明で用いられる長短繊維複合糸を構成するサイドバイサイド型複合繊維は、捲縮の位相が長繊維(マルチフィラメント)を構成する単繊維間で揃っていないことが好ましい。ここで捲縮の位相とは、単繊維においてS方向のトルクの捲縮とZ方向のトルクの捲縮とが交互に発現しているパターンをいう。例えば、ある単繊維がSトルクの捲縮を呈している箇所に、別単繊維のZトルク方向捲縮を配することにより、ストレッチ性は損なうことなく互いのトルクを消し合い、シボの発生を抑えることができる。捲縮の位相が長繊維(マルチフィラメント)を構成する単繊維間で揃わないようにするためには捲縮力を分散させる必要があり、その手段としてはサイドバイサイド型複合繊維の断面がダルマ型断面であれば、シボの発生を防ぐことができ、より高品位の織物を得ることができる。
【0028】
また、サイドバイサイド型複合繊維の単繊維繊度は、1.1〜10dtexが好ましく、より好ましくは1.1〜6dtexである。単繊維繊度を1.1dtex以上3.0dtex以下とすることで、捲縮によるストレッチ性とシボ抑制の実効を得ることができる。
【0029】
また、本発明で用いられる長短繊維複合糸を構成するサイドバイサイド型複合繊維は、20%伸張時の伸長回復率が80%以上であることが好ましい。この伸長回復率が80%以上であれば、リング精紡機にて長短複合糸にした際、優れたストレッチバック性と捲縮発現性により、短繊維成分と強固に絡み合い、芯鞘型構造の形態安定性に優れ、膨らみ感、高ストレッチを有する長短複合糸を得ることができ、織物としたとき良好なストッレッチ性を得ることができる。
【0030】
本発明で用いられるサイドバイサイド型複合繊維の総繊度は、20dtexから100dtexが好ましい。総繊度が20dtex未満では鞘糸の特性が長短繊維複合糸の特長となってしまい、本発明の効果を発揮することが難しくなる。また、総繊度が100dtexを超えると鞘糸の構成本数が少なくなり、芯糸が長短繊維複合糸の鞘部に露出してしまう。シャツ地に用いられる特に好適な長短繊維複合糸の芯糸として好ましい総繊度は、25dtexから60dtexである。
【0031】
さらに本発明で用いられるサイドバイサイド型複合繊維のフィラメント数は、総繊度と短繊維繊度により決定されるが、織物としたときの曲げに対する柔らかさや風合いの点から、6フィラメントから46フィラメントが好ましく、ストレッチ性と加工時のシボ抑制効果から、さらに好ましくは12フィラメントから36フィラメントである。
【0032】
また、本発明で用いられる長短繊維複合糸を構成する芯糸がポリトリメチレンテレフタレート系繊維を単独で用いる場合も、芯糸にサイドバイサイド型複合繊維を用いた場合と同様の総繊度と、フィラメント数が好適である。
【0033】
次に、本発明で用いられる長短繊維複合糸の鞘糸を構成する短繊維について説明する。本発明で用いられる短繊維として用いられる繊維素材は、綿とポリエステル繊維の併用が好ましい。短繊維には、ウールや麻などの天然繊維、アクリル繊維、ポリアミド繊維およびポリプロピレン繊維などの合成繊維等、様々な種類の短繊維があるが、耐熱性・耐洗濯性の面から、綿とポリエステル繊維の混用が好ましい。
【0034】
また、鞘糸として綿とポリエステル繊維を使用する場合の混合比率は、ポリエステル繊維:綿を0:100から40:60にすることが好ましい。本発明では、長短繊維複合糸を好ましくは長短繊維複合紡績糸の形状で使用するが、芯糸の特性が形態安定に大きく影響するため、鞘糸は吸湿性・風合いを重視できる素材を選択する必要がある。
【0035】
また、本発明で用いられる短繊維を構成する短繊維の断面形状は特に限定されず、丸形であっても、多角形、H型あるいは中空などの異形断面であっても良い。短繊維の繊度についても特に限定されないが、紡積性を考慮すると0.5〜5dtexが好ましく、繊維長については各種紡績方法に応じた繊維長とするのがよいが、好ましくは25mmから68mmが一般的に紡績原綿として用いられ、さらに好ましくは短紡に属する繊維長38mmである。
【0036】
本発明の長短繊維複合糸の番手は特に限定されないが長短繊維複合紡績糸を製造する上で、短繊維の断面構成繊維本数が50本以上200本以下となるように設定することが好ましく、また、シャツ地に用いるためには35/1S以下が好ましく、より好ましくは目付・厚さの面から40/1S以下60/1S以上がより好ましい。また、ヨリ数Tは一般的な長短複合紡績糸よりやや低めに設定するのがよく、T(回/in)=K(綿番手)1/2(K:ヨリ係数)において、K=3.0〜4.0の範囲が好ましい。
【0037】
本発明で用いられる長短繊維複合糸は、上述した長繊維と短繊維から構成され、一方が芯部にもう一方が鞘部となるよう捲回してなる芯鞘型構造である。
【0038】
芯部にサイドバイサイド型複合繊維糸等の長繊維を用い、鞘部に短繊維を捲回してなる構造の場合、サイドバイサイド型複合繊維糸が持つ優れたストレッチ性と回復性によって得られる膨らみ感、鞘成分の短繊維の毛羽感によりソフトな風合いを持つ素材を得ることができる。
【0039】
長繊維と短繊維の複合比率は、複合糸の伸長性、芯部カバー性および精紡操業性の点から、長繊維/短繊維=15/85〜85/15(重量%)であることが好ましい。
【0040】
次に、本発明の長短繊維複合糸の製造方法について説明する。例えば、サイドバイサイド型複合繊維糸とポリエステル短繊維および綿をリング精紡機を用いて合体し、長短繊維複合糸の芯部にサイドバイサイド型複合繊維糸を、表面にポリエステル短繊維および綿を出現させるためには、撚り合わせときにおける2成分の供給速度に一定の差を維持するように合体することが好ましい。サイドバイサイド型複合繊維糸とポリエステル短繊維および綿のフロントローラーからの送り出し速度を、それぞれVf、Vsとすると、2成分の速度関係はVf<Vsにあり、Vs=L・Vf(L:係数)においてL=1.01〜1.025のとすることが好ましい。定数Lは、サイドバイサイド型複合繊維糸とポリエステル短繊維および綿との混合比率や、ヨリ係数などによって定まるものである。
【0041】
サイドバイサイド型複合繊維糸は、優れた伸縮性と回復性を持つため、フロントトップローラから送り出された直後にストレッチバックし、他方の短繊維フリースを巻き込みながらヨリがかかり絡み合い、芯成分と鞘成分が分離することなく芯鞘状態に強固に取り巻き、芯鞘構造の形態安定性に優れた長短繊維複合糸となる。また、長短繊維複合糸の製造方法としては、前述の芯鞘型製造方式に限定されるのものではなく、精紡交撚方式であっても良い。
【0042】
本発明においては、上述のようにして得られた長短繊維複合糸を、織物の経糸および/または緯糸に用いる。長短繊維複合糸を経糸または緯糸の一方に用いる場合、相手の糸(緯糸または経糸)は紡績糸、フィラメント糸を特に問わないが、シャツ地にするためには紡績糸を用いることが好ましい。紡績糸の素材は、特に洗濯時の挙動を抑えるため吸湿性の少ない合繊を主体としたポリエステル繊維・綿混合品が好ましい。長短繊維複合糸の鞘糸を綿100%とした場合、ポリエステル繊維100%でも生地としての綿混率はある程度維持できるため着用快適性を得ることが出来る。従って、シャツ地の素材混率を綿が20%以上60%以下とするように紡績糸の綿混率を調整することが好ましい。
【0043】
相手の糸として用いられる紡績糸の番手は、単糸の場合60Sから20S、双糸の場合120/2Sから40/2Sが好ましく、より好ましくは単糸の場合45Sから30S、双糸の場合100/2Sから60/2Sが良い。紡績糸の素材混率はポリエステル繊維:綿が100:0から40:60の範囲が好ましい。
【0044】
本発明の織物は、経緯の少なくとも一方について、織物伸長率が10%以上20%以下であることが好ましい。
【0045】
織物伸長率とは、実施例中の「測定方法」にて定義されるストレッチ性のパラメータである。織物伸長率が10%未満である場合には、人体の運動時における皮膚の伸縮に追随できない場合があり、かつ20%を超えるとPPTポリマの熱特性によりアイロンかけ時に織物表面が波打つ現象が見られる。
【0046】
また、本発明の織物は、ストレッチ性を有する方向の伸長回復率は70%以上であることが好ましい。織物伸長回復率が70%未満である場合には、着用時に生地が回復しにくく、膝や肘部がたるみを惹起し、シワとなる場合がある。
【0047】
また、本発明では織物の仕上げ目付は、シャツ地として、強度面、フィット性および機能性に優れているので、180g/平方メートル以下のものが好ましい。目付は、特に、100〜150g/平方メートルのものが好ましい。目付が100g/平方メートル未満のものは、薄地でペラペラしたものとなる場合がある。また、目付が180g/平方メートルを超えるものは、シャツ地として重くなる傾向がある。
【0048】
本発明において用いられる織機は限定されるものではなく、エアージェットルームやレピアルーム等の織機を用いることができる。
【0049】
織物の組織としては、ストレッチ性やソフトさの点から、サージ(綾織り)が最も好ましく、次いで、平織り、畦織りが好ましい。
【0050】
製織後、織物は通常のリラックス熱処理、中間セット、染色し、仕上げる。リラックス熱処理においては、サイドバイサイド型複合繊維の捲縮を、織物拘束力に打ち勝って十分に発現させるため、液中温度を80℃以上とすることが好ましい。染色は、より染色堅牢度が高められることから、ポリエステル繊維側は分散染料で、綿側は直接染料や反応性染料を用いることが好ましい。
【0051】
以上のようにして得られた織物は、ストレッチ性があり、ソフトな風合いを有し、着用快適性に優れた機能性を持ち、且つ、寸法安定性と高い染色堅牢度を持つポリエステル/植物系繊維混用のシャツ地織物を提供することができる。
【0052】
さらに、本発明の織物は、W/W性を3級以上とすることが出来る。W/W性が3級以下では洗濯乾燥を行った後シワがめだってしまい、実用上着用に耐えられる状況にない。
本発明において、このW/W性が良好な理由は定かでないが、PPT繊維の熱特性に起因すると考えられる。通常、PET繊維は熱セット性があるためタンブラー乾燥によりしわの状態を記憶してしまい、W/W性には好ましくない。しかしながら、本発明ではPPT繊維を用いたことによりそれを改善することができたと推定される。PPT繊維は、加熱することにより熱伸長する特性があり、その温度はガラス転移点を超えた状態から始まる。水系洗濯後タンブラー乾燥するとその乾燥熱によりタンブラー内で高収縮成分であるPPT繊維が伸長するが、バイメタル構造の相手であるPET繊維は伸長しないため、結果としてクリンプ構造が弱くなり見掛け糸長が長くなる。タンブラーから取り出し冷却するとほぼ元のクリンプ構造に再び回復するが、W/W性にはこの糸の見掛け長さの移動が、熱セット性を阻害しシワ防止に効果的であると推定される。
【0053】
また、本発明において、織物は必要に応じて形態安定加工を施しても良い。形態安定の方法は特に規定がない。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の織物について実施例で詳細にて説明する。実施例での評価方法を、次に示す。
【0055】
(評価方法)
(1)平均伸長率:
JIS L−1096(2004年)の伸長率A法(定速伸長法)で測定した。値が高い程、ストレッチ性が良好であると評価した。
【0056】
(2)伸長回復率:
JIS L−1096(2004年)の伸長回復率A法(繰り返し定速伸長法)で測定した。値が高い程、伸長回復率が高く良好であると評価した。
【0057】
(3)W/W性 :
選択処理方法はJIS L−1096(2004年) 8.23.1 A法 ネット使用タンブル乾燥完全10回繰り返し後ハンガーにかけ一昼夜静置、判定はAATCC124−1984 5段階レプリカ法にもとづいて0.5級毎判定を行った。5級(良好)〜1級(不良)で評価した。
【0058】
[実施例1]
固有粘度(IV)が1.40のホモPTTと、固有粘度(IV)が0.60のホモPETを、それぞれ別々に溶融し、紡糸温度275℃で24孔の複合紡糸口金から複合比(重量%)50:50で吐出し、紡糸速度1400m/分で引取り165デシテックス、24フィラメントのダルマ型サイドバイサイド型複合構造未延伸糸を得た。さらに、得られた未延伸糸を、ホットロール−熱板系延伸機(接糸長:20cm、表面粗度:3S)を用い、ホットロール温度75℃、熱板温度170℃、延伸倍率3.3倍で延伸し、次いで一旦引き取ることなく、連続して0.9倍でリラックスして巻き取り、55デシテックス、24フィラメントの延伸糸を得た。紡糸、延伸とも製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。
【0059】
次に、長短繊維複合糸の短繊維として、綿(平均繊維長38mm)100%で通常の紡績方式を経て、0.5g/mの粗糸を作成し、精紡機に仕掛け段付きトップローラの大径部に通しフリースを紡出した。一方、前述のサイドバイサイド型複合繊維糸をそれぞれクリールに仕掛け、張力調整装置(テンサー)を経てフィード装置を通り、段付きトップローラーの小径部とボトムローラーの隙間を通過させ、前述フリースと組み合わせ合体し、ヨリ数14.8T/in(K=3.2)でリング・トラベラーを通し、管糸に巻き取った。このときフリースおよびサイドバイサイド型複合繊維糸のフィード装置からの送り出し速度比はVs/Vf=1.03とし、芯成分がサイドバイサイド型複合繊維糸、鞘成分が短繊維である番手30sの本発明の長短複合糸を得た。
【0060】
(布帛評価)
上記の長短繊維複合糸を緯糸に使用し、経糸にはポリエステル繊維100%の30/1Sを用い2/2綾組織の織物を109×73本/2.54cmの生機密度で製織し、本発明の長短繊維複合紡績糸からなる織物を得た。ネップの発生はなく、工程通過性は良好であった。得られた生機をオープンソーパーで95℃の温度でリラックス熱処理し、乾燥後、乾熱180℃で中間セットし、120℃の温度で染色した。その後、160℃の乾熱でピンテンター方式により仕上セットした。仕上反の密度は経緯で145×77本/2.54cmであった。得られた織物の表面は、官能評価の結果、緯方向にソフトなストレッチを有し、シボが無く、滑らかで光沢があり、かつソフト風合いを有する織物であった。また、この織物の織物の緯方向伸張率は16%であり、回復率は73%であった。また、W/W性は3級であり、実用上問題のないレベルであった。
【0061】
[実施例2]
実施例1の口金を12孔の複合紡糸口金に変更し、その他は同条件で33デシテックス、12フィラメントの延伸糸を得た。紡糸、延伸とも製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。次に、同フィラメント糸を長短繊維複合糸の芯糸とし、長短繊維複合糸の鞘糸短繊維として綿100%で、実施例1と同様の工程で40/1Sの長短繊維複合糸を得た。
【0062】
(布帛評価)
上記の長短繊維複合糸を緯糸に用い、また経糸にはポリエステル繊維100%の40/1Sを用い平組織の織物を100×80本/2.54cmの生機密度で製織し、本発明の長短繊維複合紡績糸からなる織物を得た。ネップの発生はなく、工程通過性は良好であった。得られた生機をオープンソーパーで95℃の温度でリラックス熱処理し、乾燥後、乾熱180℃で中間セットし、120℃の温度で染色した。その後160℃の乾熱でピンテンター方式により仕上セットした。仕上反の密度は経緯で125×83本/2.54cmであった。得られた織物の表面は官能評価の結果、緯方向にソフトなストレッチを有し、シボが無く、滑らかで光沢があり、かつソフト風合いを有する織物であった。また、この織物の織物の緯方向伸張率は12%、回復率は78%であった。また、W/W性は4級であり、実用上問題のないレベルであった。
【0063】
[実施例3]
実施例2のフィラメントを芯糸として用い、鞘糸にポリエステル繊維1.4DTEX、38mmと綿(平均繊維長38mm)を4:6にミキシングした原綿を使用し、実施例1と同様の工程で40/1Sの長短繊維複合糸を得た。
【0064】
(布帛評価)
上記の長短ポリエステル繊維1複合糸を緯糸に用い、また経糸にはポリエステル繊維65/綿の45/1Sを用い平組織の織物を105×80本/2.54cmの生機密度で製織し、本発明の長短ポリエステル繊維1複合紡績糸からなる織物を得た。ネップの発生はなく、工程通過性は良好であった。得られた生機をオープンソーパーを用い95℃でリラックス熱処理し、乾燥後、乾熱180℃で中間セットし、120℃の温度で染色した。その後160℃の乾熱でピンテンター方式により仕上セットした。仕上反の密度は経緯で130×83本/2.54cmであった。得られた織物の表面は、官能評価の結果、緯方向にソフトなストレッチを有し、シボが無く、滑らかで光沢があり、かつソフト風合いを有する織物であった。また、この織物の織物の緯方向伸張率は10%、回復率は80%であった。またW/W性は3.5級であり、実用上問題のないレベルであった。
【0065】
[比較例1]
極限粘度が0.40のホモPETと、極限粘度が0.75のホモPETとを、それぞれ別々に溶融し、紡糸温度295℃で12孔の複合紡糸口金から複合比(重量%)50:50で吐出し、紡糸速度1450m/分で引取り145デシテックス、12フィラメントのサイドバイサイド型複合構造未延伸糸を得た。さらに実施例1で用いたものと同様のホットロール−熱板系延伸機を用い、ホットロール温度89℃、熱板温度150℃、延伸倍率2.63倍で延伸し、次いで一旦引き取ることなく、連続して次のリラックス率でリラックスして巻き取りを試みた。リラックス率が0.9倍の場合、ホットロール上で逆巻きが発生し、糸切れが多発した。次に、リラックス率を0.95倍にして巻き取りを試みたが同様に逆巻きし、糸切れが発生した。そこで、リラックス率1倍(弛緩無し)にして巻き取り、55デシテックス、12フィラメントの延伸糸を得た。
【0066】
次に、実施例1と同様の短繊維と合体させ、芯成分が潜在捲縮性ポリエステル複合繊維、鞘成分が短繊維である番手30sの長短繊維複合糸を得た。
【0067】
(布帛評価)
引き続いて、実施例1の緯糸を上記にて得られた長短繊維複合紡績糸に替え、実施例1と同規格で製織した。得られた生機を実施例1と同条件で染色加工し、織物伸張率を測定した結果、緯方向は3%と、伸長性に欠けたものであった。また、W/W性は2級と実用上耐えられないレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の織物は、前記のポリトリメチレンテレフタレート系繊維を含む長短繊維複合糸を、経糸および/または緯糸に用い織物とすることで、W/W性に優れた織物とすることができ、特にシャツ地に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸にポリトリメチレンテレフタレート系繊維、または/および一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維の長繊維を用い、鞘糸にポリエステル繊維:綿の比率が0:100から40:60にミキシングされた短繊維を用いてなる芯鞘構造長短繊維複合糸を、経糸および/または緯糸に用いてなることを特徴とする織物。
【請求項2】
芯糸にポリトリメチレンテレフタレート系繊維、または/および一方がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルである2種類のポリエステル系重合体を繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維の長繊維を用い、鞘糸にポリエステル繊維:綿の比率が0:100から40:60にミキシングされた短繊維を用いてなる芯鞘構造長短繊維複合糸を、経糸または緯糸に用い、かつ相反する緯糸または経糸にポリエステル繊維:綿の比率が100:0から40:60の紡績糸を用いてなることを特徴とする織物。
【請求項3】
芯鞘構造長短繊維複合糸を用いた方向の織物伸長率が10%から20%であることを特徴とする請求項1または2記載の織物。
【請求項4】
ウオッシュアンドウェア性が3級以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の織物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の織物からなるシャツ地。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の織物からなるドレスシャツ地。

【公開番号】特開2006−214056(P2006−214056A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30019(P2005−30019)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】