織編地成形加工方法及び立体形状加工用織編地
【課題】本発明は、織編地を任意の立体形状に簡単に成形することができる織編地成形加工方法及び立体形状加工用織編地を提供することを目的とするものである。
【解決手段】編成糸L1及びL3は、それぞれ緯方向に振られながら所定間隔を空けて経方向に複数の編目列を編成している。編成糸L3は、編成糸L1の編成されるコースと1つずれたコースで編成糸1の振られる方向とは反対方向に振られるように編成されている。そのため、編成糸L1及びL3は、編成される編目列の間では、互いに交差するようになっており、交差した編成糸L1及びL3の間に経方向に配列された補強糸L2が挿入保持されている。編成糸L1及びL3は糸長方向に未延伸部が分布している糸からなり、編地を成形加工面に圧接して引張力を付与することで編成糸が延伸されて成形加工面に沿って密着した状態に成形加工されるようになる。
【解決手段】編成糸L1及びL3は、それぞれ緯方向に振られながら所定間隔を空けて経方向に複数の編目列を編成している。編成糸L3は、編成糸L1の編成されるコースと1つずれたコースで編成糸1の振られる方向とは反対方向に振られるように編成されている。そのため、編成糸L1及びL3は、編成される編目列の間では、互いに交差するようになっており、交差した編成糸L1及びL3の間に経方向に配列された補強糸L2が挿入保持されている。編成糸L1及びL3は糸長方向に未延伸部が分布している糸からなり、編地を成形加工面に圧接して引張力を付与することで編成糸が延伸されて成形加工面に沿って密着した状態に成形加工されるようになる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面状に形成された織編地を立体形状に加工する織編地の成形加工方法及びそれに用いる立体形状加工用織編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より織編地は主に衣服等の生活用品の素材として用いられてきたが、近年産業資材への用途開発が行われてその適用分野が拡大している。こうした適用分野の拡大は織編地に使用される繊維材料の機能特性の様々な改良技術が開発されたことが大きく貢献しており、またそれに対応して様々な織成技術又は編成技術が改良工夫されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、強化繊維束を鎖編地糸及び補強挿入糸からなる編組織により挟持した強化繊維シート材が記載されている。また、特許文献2では、引張破断時の伸長度が60%以上である繊維からなる経糸及び緯糸からなる厚織物を、三層に配列された緯糸の間を経糸で順次往復してシート状に形成した土木用厚織シートが記載されている。また、特許文献3では、繊維網状構造体を、熱可塑性繊維からなるテキスタイル布帛の熱−機械的変形によって三次元繊維網状構造体を製造する点が記載されている。また、特許文献4では、繊維強化構造体を、複数の緯糸層のそれぞれの緯糸を織り込む複数の経糸のうち一部が別の緯糸層の緯糸に織り込んでいる低接結織物で構成している点が記載されている。
【特許文献1】特開2004−360106号公報
【特許文献2】特開平8−246288号公報
【特許文献3】特表2000−508032号公報
【特許文献4】特開2006−320529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
織編地は、一般的に複数の糸を組み合せて平面状や円筒状等の予め決められた形状に作製され、作製された織編地は柔軟性及び伸縮性があるため、織編地を任意の曲面形状に保持されるように成形することは難しい。例えば、特許文献1では、強化繊維束を編組織により保持するようにしているが、橋脚等に巻き付ける際の編目のずれを防止するために補強挿入糸に低融点熱可塑性樹脂を含む熱融着糸を含ませておき、加熱処理により予め補強挿入糸を強化繊維束に固着させるようにしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1のように繊維同士を固着させると、円筒状の外周面に対してはその表面形状に沿った状態に密着させることができるもののそれ以外の曲面形状に対しては密着可能な形状とすることはできない。
【0006】
また、特許文献3のように、熱可塑性繊維からなるテキスタイル布帛を熱−機械的変形によって三次元構造体を形成する場合様々な形状の構造体に成形できるものの熱可塑性繊維以外の繊維では成形が難しく、また加熱して軟化した熱可塑性繊維に機械的な変形を加えると繊維自体の強度が弱くなるおそれがあり、成形加工が制約される。
【0007】
また、特許文献4では、低接結織物を用いてゴルフクラブヘッド等の曲面形状に沿うように成形するようにしているが、経糸と緯糸とがずれやすくなって保形性の点で問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、織編地を任意の立体形状に簡単に成形することができる織編地成形加工方法及び立体形状加工用織編地を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る織編地成形加工方法は、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む織編地を成形加工面に圧接し引張力を付与することで糸を延伸させて当該成形加工面に沿った立体形状に成形することを特徴とする。さらに、立体形状に成形された織編地の形態を安定させる加工を行うことを特徴とする。さらに、前記織編地は、所定の方向に配列された複数の補強材が前記糸の間に挿入保持されており、前記織編地に引張力を付与する際に前記補強材は延伸されずに前記糸のみが延伸されて成形されることを特徴とする。さらに、前記糸として糸長方向に未延伸部が分布しているものを用いることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る立体形状加工用織編地は、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む立体形状加工用織編地であって、前記組織の織目又は編目を形成する経方向の糸及び緯方向の糸は互いに絡み合って当該織目又は編目を拡張する方向の引張力に対して当該織目又は編目が崩れないように組織されていることを特徴とする。さらに、前記糸は、糸長方向に未延伸部が分布していることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る立体形状加工用編地は、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成されたメッシュ状の組織を含む立体形状加工用編地であって、前記組織は、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列と、編目列に所定長さずつ編み込まれるとともに所定間隔毎に隣接する編目列に編み込まれて編目列同士を連結する複数の連結糸とからなることを特徴とする。さらに、前記編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて前記連結糸の間に挿入保持されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る別の立体形状加工用編地は、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成されたメッシュ状の組織を含む立体形状加工用編地であって、前記組織は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなることを特徴とする。さらに、前記編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて前記編成糸の間に挿入保持されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るさらに別の立体形状加工用編地は、経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持する立体形状加工用編地であって、前記編組織は、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列からなるとともに当該鎖編のループにより前記補強材の交差部分を包絡することで前記補強材の交差角度を変動可能に連結保持していることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るさらに別の立体形状加工用編地は、経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持する立体形状加工用編地であって、前記編組織は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなるとともに当該編成糸の間に前記補強材を挿入保持することで前記補強材の交差角度を変動可能に連結保持していることを特徴とする。
【0015】
さらに、上記の立体形状加工用編地において、前記糸は、糸長方向に未延伸部が分布していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る織編地成形加工方法は、上記のような構成を有することで、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む織編地を成形加工面に圧接し引張力を付与することで糸を延伸させて当該成形加工面に沿った立体形状に成形するので、簡単に成形加工面に沿った立体形状の織編地を成形することができる。すなわち、成形加工の際に、織編地の破断伸度が30%以上の糸自体が引張力により延伸して成形されるので、成形加工面に密着した状態で延伸されて成形されるようになり、成形加工面として種々の形状を用いれば任意の立体形状に成形加工することができる。そして、複数の成形加工面を用いて織編地の区域毎に成形加工することで複雑な形状に成形することもでき、様々な立体形状に成形することが可能となる。
【0017】
また、糸長方向に未延伸部が分布している糸を用いることで、成形加工後の立体形状が安定するとともに、糸自体の強度も延伸により強度が大きくなるため成形後の保形性も向上する。
【0018】
そして、糸自体が延伸して成形されるため、緯方向の糸と経方向の糸が交差する部分のずれが少なくなり、織編地の組織が崩れることがなく組織としての強度の低下を抑えて成形加工を行うことができる。
【0019】
また、立体形状に成形された織編地の形態を安定させる加工を行うことで、成形後の織編地の形状を安定した状態に保持することができ、成形加工された織編地を用いて製品加工を行う場合等に容易に取り扱うことが可能となる。
【0020】
また、織編地に所定の方向に配列された複数の補強材を糸の間に挿入保持しておき、織編地に引張力を付与する際に補強材は延伸されずに糸のみが延伸されて成形されるようにすれば、補強材を保持した状態で任意の立体形状に形成することが可能となり、例えば、強化繊維束を多軸に積層して樹脂成形する場合等において、予め強化繊維束を挿入保持する織編地を立体形状に成形しておき、成形された織編地を積層して樹脂成形することで、任意の立体形状の繊維強化樹脂成形を容易に行うことができる。
【0021】
本発明に係る立体形状加工用織編地は、上記のような構成を有することで、組織の織目又は編目を形成する経方向の糸及び緯方向の糸が互いに絡み合って当該織目又は編目を拡張する方向の引張力に対して当該織目又は編目が崩れないように組織されているので、成形加工面に圧接して引張力を付与する際に経方向の糸及び緯方向の糸のずれが少なくなり、組織の強度低下が抑止されて糸自体の延伸による高強度化により成形後の保形性を向上させることができる。そのため、立体形状に成形された織編地の取り扱いが容易に行えるようになる。
【0022】
本発明に係る立体形状加工用編地は、上記のような構成を有することで、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列と、編目列に所定長さずつ編み込まれるとともに所定間隔毎に隣接する編目列に編み込まれて編目列同士を連結する複数の連結糸とからなるので、編地に対してメッシュ状の網目が拡張する方向に引張力が付与された場合網目を形成する経方向の糸である編目列と緯方向の糸である連結糸とがそれぞれ糸自体の延伸により網目を崩さずに拡張させて立体形状に成形加工することができ、成形後の保形性を向上させることが可能となる。
【0023】
そして、編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて連結糸の間に挿入保持されていることで、編目列の間に形成された網目が崩れずに拡張して成形されるので、補強材を挿入保持したまま容易に立体形状に成形することができる。補強材は編目列の間に挿入保持されているので、網目が拡張する場合に補強材は延伸せずに網目からずれるようになるため、成形加工する際に補強材が弛んだり緊張することがなく、補強材についても成形加工面に沿った形状に保持されるようになる。したがって、強化繊維束等の補強材を挿入保持した編地の網目が拡張するように立体形状に成形加工された場合、強化繊維束がその立体形状に沿って保形されるようになり、強化繊維束を多軸に積層して立体形状に樹脂成形する場合に好適である。
【0024】
本発明に係る別の立体形状加工用編地は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなることで、編地に対してメッシュ状の網目が拡張する方向に引張力が付与された場合網目を形成する経方向の編成糸と緯方向の編成糸とがそれぞれ糸自体の延伸により網目を崩さずに拡張させて立体形状に成形加工することができ、成形後の保形性を向上させることが可能となる。
【0025】
そして、編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて編成糸の間に挿入保持されていることで、編目列の間に形成された網目が崩れずに拡張して成形されるので、補強材を挿入保持したまま容易に立体形状に成形することができる。補強材は編目列の間に挿入保持されているので、網目が拡張する場合に補強材は延伸せずに網目からずれるようになるため、成形加工する際に補強材が弛んだり緊張することがなく、補強材についても成形加工面に沿った形状に保持されるようになる。
【0026】
本発明に係るさらに別の立体形状加工用編地は、経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持し、編組織が所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列からなるとともに当該鎖編のループにより補強材の交差部分を包絡することで補強材の交差角度を変動可能に連結保持しているので、成形加工面に合わせて補強材が交差方向を変化させることができ、2軸方向に配列された補強材を交差した配列状態を保持したまま立体形状に成形させることが可能となる。
【0027】
すなわち、補強材の交差部分を破断伸度が30%以上の糸により包絡しているので、補強材が湾曲変形等により交差角度が変動して交差部分の幅が拡がっても糸自体の延伸により交差部分を連結保持したままスムーズに変動させることができる。したがって、成形加工面に2軸の補強材を沿うように成形加工する場合にその交差した配列状態が乱れることなく成形されるとともにその形状を保持することができる。
【0028】
本発明に係るさらに別の立体形状加工用編地は、経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持し、編組織が複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなるとともに当該編成糸の間に補強材を挿入保持することで補強材の交差角度を変動可能に連結保持しているので、成形加工面に合わせて補強材が交差方向を変化させることができ、2軸方向に配列された補強材を交差した配列状態を保持したまま立体形状に成形させることが可能となる。
【0029】
すなわち、緯方向に振りながら編成される編成糸の間に2軸方向に配列された補強材を挿入保持するようにしているので、編成糸として用いられる破断伸度が30%以上の糸を補強材の交差方向の変動に対して延伸させて経方向及び緯方向のいずれにも追従させることができる。したがって、成形加工面に2軸の補強材を沿うように成形加工する場合にその交差した配列状態が乱れることなく成形されるとともにその形状を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0031】
図1は、本発明に係る実施形態に関する平面図であり、図2は、図1に示す編成糸L1及びL3の編組織図である。
【0032】
編成糸L1(白抜きの糸で表示)及び編成糸L3(黒色の糸で表示)は、それぞれ緯方向に振られながら所定間隔を空けて経方向に複数の編目列を編成している。編成糸L1は3つのコースにおいて順次隣のコースに振られて編み込まれた後逆方向に振られて順次隣のコースに編み込まれており、ジグザグ状に編成されている。編成糸L3についても編成糸L1と同様に3つのコースにおいてジグザグ状に編成されているが、編成糸L1の編成されるコースと1つずれたコースで編成糸L3の振られる方向とは反対方向に振られるように編成されている。そのため、編成糸L1及びL3は、編成される編目列の間では、互いに交差するようになっており、交差した編成糸L1及びL3の間に経方向に配列された補強糸L2(斜線の糸で表示)が挿入保持されている。
【0033】
したがって、編成糸L1及びL3により編成される複数の編目列の間にそれぞれ補強糸2が配列されて、編成糸L1及びL3により表側及び裏側から挟持されるようになり、補強糸2は、経方向に沿って直線状に安定した状態で保持されるようになる。
【0034】
編成糸L1及びL3としては、破断伸度が30%以上の糸を用いるとよい。特に、糸長方向に未延伸部が分布している糸が好適である。素材としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維等の合成繊維からなるフィラメント糸又はその加工糸が挙げられる。特に、ポリエステル部分配向糸(POY)が好ましい。POYの破断伸度は、30%以上が好ましく、100%以上がさらに好ましい。破断伸度が30%未満の場合、形状変化が急激な成形加工面への追随が十分行なわれず、切断するおそれがある。また、編成糸の単糸繊度としては、30dtex〜570dtexが好ましく、細い編成糸がより好ましい。POYは、紡糸速度2,000〜4,500m/分で溶融紡糸して得られるものであり、紡糸ー延伸工程を直結した直延法で得られるものが好ましい。その際の延伸倍率としては、1.1〜1.5が好ましい。
【0035】
未延伸部が分布している糸以外にも、破断伸度が30%以上で伸縮性に優れた糸を用いてもよく、ポリウレタン弾性繊維やPBT(ポリブチレンテレフタレート)等からなるポリエステル繊維が挙げられる。
【0036】
補強糸L2としては、高強度の繊維からなるもので、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、セラミック繊維等が挙げられる。また、複合体として用いる場合には、高強度繊維としては、引張強度が1.8GPa以上、望ましくは2.4GPa以上であることが複合体として用いた場合に強度及び剛性の面で望ましく、例えば、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等が挙げられる。パラ系アラミド繊維はパラ系全芳香族ポリアミド繊維であり、ポリパラフェニレンテレフタラミド繊維、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミド繊維、高強度ポリビニルアルコール繊維、超高分子量ポリエチレン等がある。
【0037】
これらの繊維を撚糸加工したものを用いてもよいし、これらの繊維を扁平に配列した繊維束として用いてもよい。また、補強糸の代わりに薄いテープ状の補強材を使用してもよく、織編地に挿入可能な形状の補強材であれば採用することができる。例えば、炭素繊維材料を開繊して薄いシート状にしたものが挙げられる。こうした補強材に対しては、ステッチニードルにより糸を突き刺すように編成してもよい。
【0038】
図3は、球面状の成形加工面に対して図1に示す編地を成形加工する工程を示す説明図である。まず、球面状の成形加工面M全体を覆うように編地Nを配置し(図3(a))、成形加工面Mに編地Nを圧接して編地Nの編目が拡張するように成形加工面Mに沿って全方向から均等に引張力を付与する(図3(b))。この場合、成形加工面が球面状以外の形状の場合には編目が拡張するように引張力を付与する方向及び強さを適宜調整すればよい。
【0039】
成形加工前には編成糸L1及びL3により編成される編目列及び補強糸L2は経方向に沿って直線状に配列されているが、成形加工後では、編成糸L1及びL3により編成される編目列が引張力により延伸されて成形加工面に密着するように変形するようになる。すなわち、補強糸L2に隣接する編目列は引張力により主に経方向に延伸し、補強糸L2を表裏から挟持する編成糸の部分は主に緯方向に延伸するようになる。
【0040】
そして、延伸する際に編成糸L1及びL3は互いに絡み合ってずれることはほとんどないため、編目をそのまま拡張するように編成糸L1及びL3が延伸して成形加工面に密着した状態に変形するようになる。
【0041】
補強糸L2は、編成糸L1及びL3に絡み合うことなく表裏から挟持されているので、編目列が延伸する際に補強糸L2は延伸せずに経方向に相対的にずれるようになる。また、緯方向に編成糸が延伸することで、補強糸L2の緯方向の間隔が編成糸の延伸の程度に応じてそれぞれ拡大するようになり、局部的に配列に乱れが生じることなく球面全体に均整のとれた状態で配列されて成形加工される。
【0042】
また、編成糸L1及びL3は延伸した後ほとんど収縮することなくそのままの状態を維持するので、球面状に成形加工した形状が維持されるようになる。そして、成形加工した編地に形態安定加工を施すことで加工した形状を安定した状態に保持することができる。形態安定加工として、強いて言えば、例えば、樹脂含浸、加熱による熱セットや接着剤をスプレー等により付与して固定するといった加工方法が挙げられる。
【0043】
図4は、球面状の成形加工面で成形した編地を斜め方向(図4A)及び上方(図4B))から撮影した写真である。成形加工後に球面の状態を保持していることがわかる。
【0044】
以上説明した加工方法では、球面状の成形加工面を用いているが、球面状以外の成形加工面を使用することもでき、また、編地を区分してそれぞれの領域を別の成形加工面で加工することもできる。
【0045】
図5は、本発明に係る別の実施形態に関する平面図であり、図6は、図5に示す編成糸L1及び連結糸L3及びL4の編組織図である。
【0046】
編成糸L1(白抜きの糸で表示)は、補強糸L2(斜線の糸で表示)の両側に隣接して経方向に延びる編目列を編成するものであり、連結糸L3及びL4(黒色の糸で表示)は、緯方向に振られながら編目列に編み込まれている。
【0047】
連結糸L3及びL4は、所定の編目列において2つずつ鎖編に編み込まれた後隣接する左右の編目列に交互に振られて編み込まれ、各編目列の間では1つおきに連結糸L3及びL4が補強糸L2の表側及び裏側に交互に振られて編み込まれようになっている。したがって、補強糸L2は、隣接する一対の連結糸L3及びL4により挟持されて編組織に安定した状態で保持されるようになっている。
【0048】
この例においても成形加工面に編地を圧接して編目が拡張するように全方向から引張力を付与することで、上述した実施形態と同様に、補強糸L2に隣接する鎖編からなる編目列は引張力により主に経方向に延伸し、補強糸L2を表裏から挟持する連結糸L3及びL4の編目列の間の部分は主に緯方向に延伸するようになる。
【0049】
そして、延伸する際に編目列の鎖編に対して連結糸L3及びL4が編み込まれているので、連結糸L3及びL4が鎖編に対してずれることはほとんどない。したがって、編目列及び連結糸L3及びL4で囲まれる編目をそのまま拡張するように編成糸L1並びに連結糸L3及びL4が延伸して成形加工面に密着した状態に変形するようになる。
【0050】
補強糸L2は、連結糸L3及びL4に絡み合うことなく表裏から挟持されているので、編目列が延伸する際に補強糸L2は延伸せずに経方向に相対的にずれるようになる。また、緯方向に連結糸L3及びL4が延伸することで、補強糸L2の緯方向の間隔が連結糸L3及びL4の延伸の程度に応じてそれぞれ拡大するようになり、局部的に配列に乱れが生じることなく加工面全体に均整のとれた状態で配列されて成形加工される。
【0051】
図7は、本発明に係るさらに別の実施形態に関する平面図である。この例では、いわゆるからみ織の組織を用いた織地からなる。複数の緯糸L5は、経方向に所定の間隔を置いて配列されており、複数の補強糸L6は、緯方向に所定の間隔を置いて配列され緯糸L5の表側に経方向に沿って配置されている。
【0052】
そして、複数の絡み糸L7がそれぞれ補強糸L6に絡むように経方向に織り込まれている。この例では、絡み糸L7が補強糸L6の一方の側で緯糸L5の表側から補強糸L6の裏側に入って補強糸L6の他方の側で緯糸L5の表側に抜け、再び補強糸L6の裏側に入るように織り込まれる。そのため、緯糸L5の裏側に配置された補強糸L6のさらに裏側から絡み糸L7が交互に緯糸L5の表側に導入されることで、補強糸L6は緯糸L5及び絡み糸L7との間に保持されるようになる。
【0053】
この例においても成形加工面に織地を圧接して織目が拡張するように全方向から引張力を付与することで、上述した実施形態と同様に、補強糸L6に隣接する緯糸L5は引張力により緯方向に延伸し、絡み糸L7は経方向に延伸するようになる。
【0054】
そして、緯糸L5及び絡み糸L7を同じ延伸特性を有する糸を用いることで、緯糸L5及び絡み糸L7で囲まれる織目をそのまま拡張するように緯糸L5及び絡み糸L7が延伸して成形加工面に密着した状態に変形するようになる。
【0055】
補強糸L6は、緯糸L5及び絡み糸L7との間に保持されているので、緯糸L5及び絡み糸L7が延伸する際に補強糸L6は延伸せずに経方向に絡み糸L7に対し相対的にずれるようになるが、緯方向には絡み糸L7とともに移動し、補強糸L6の緯方向の間隔が緯糸L5の延伸の程度に応じてそれぞれ拡大するようになり、局部的に配列に乱れが生じることなく加工面全体に均整のとれた状態で配列されて成形加工される。
【0056】
なお、以上の例ではからみ織構造について説明したが、補強糸L6及び緯糸L5による平織地で安定した状態が維持されるのであれば、こうした平織構造でも同様の成形加工を行うことができる。例えば、図8に示すように、経糸に補強糸L6’を用い、緯糸L5’を用いて織成した平織地の場合には、緯糸方向に延伸することができることから、補強糸L6’の緯方向の間隔を拡げるように成形加工することが可能となる。
【0057】
図9は、帯状の補強材を異なる方向に沿って互いに交差するように配列させた編地を示す平面図である。この例では、経方向からそれぞれ左右に45度の角度だけ傾斜した方向に複数の補強材L9及びL10が交差するように配列され、その交差角度θは90度に設定されている。そして、補強材L9及びL10の交差部分に沿うように編成糸L8を経方向に鎖編して編成された複数の編目列が所定間隔を空けて配列されている。補強材L9及びL10の交差部分は編目列の編目内に貫入し、鎖編の編成糸L8のループが包絡するように交差部分を連結保持している。
【0058】
編目列の編成糸L8として糸長方向に未延伸部が分布している糸を用いており、編成糸L8が伸びることで補強材L9及びL10の交差部分は交差した状態に保持されるもののその交差角度は変動可能になる。例えば、編地を上下方向に引張力が加えられた場合、図10に示すように、編成糸L8が上下方向に伸び、補強材L9及びL10の交差角度θ’は90度よりも小さくなり、補強材L9及びL10の経方向に対する傾斜が小さくなるように変動する。
【0059】
したがって、このように組織された編地を成形加工面に圧接して引張力を作用させると、成形加工面に沿うように編成糸L8が伸長するとともに補強材L9及びL10の交差角度が変動し、成形加工面に沿った形状に保持されるようになる。
【0060】
図11は、図9と同様に帯状の補強材を異なる方向に沿って互いに交差するように配列させた編地を示す平面図であり、図12は、図11に示す編成糸L13の編組織図である。この例では、編成糸L13を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に複数の編目列を編成しており、補強材L11及びL12は緯方向に振られた編成糸L13の間に挿入保持されている。図面において補強材の手前側及び奥側に編成糸L13が配置されることで、補強材の両側から編成糸により挟持されるように保持される。
【0061】
図11に示す編組織では、図9に示すように交差部分を編成糸で包絡するように編成していないため、補強材が変動する自由度が大きくなる。すなわち、編成糸として糸長方向に未延伸部が分布している糸を用いた場合、成形加工面に圧接して引張力を作用させると、成形加工面に沿うように編成糸L13が伸長するとともに補強材L11及びL12がそれぞれ傾斜方向か小さくなり、さらに補強材L11及びL12の長手方向にずれやすくなって変動しやすくなる。
【0062】
図11ではシングル・デンピーを例に説明したが、こうした編組織以外にもシングル・アトラス、シングル・コードといった編組織を用いてもよく、交差する補強材を保持可能な編組織であれば使用することができる。
【0063】
図9から図12に示すような補強材が交差して配列された編地の場合、補強材が2軸に配列されているので、補強材の長手方向をずらしながら多軸で積層し繊維強化樹脂材料として用いることができる。そして、編地を曲面状に成形加工しても補強材の配列が大きく乱れることなく積層することが可能となる。
【0064】
以上説明した実施形態以外の、編組織(経編、丸編、横編)、織組織又は組紐等の織編地でも、糸長方向に未延伸部が分布している糸を用いることで同様の成形加工を実現することが可能である。
【0065】
また、以上説明した実施形態では、補強糸を挿入保持した織編地について説明したが、必要に応じて補強糸を挿入しないようにすることもでき、その場合でも同様の成形加工を当然行なうことは可能である。
【実施例】
【0066】
図2に示す編地をポリエステル部分配向糸(東レ株式会社製;繊度269dtex、破断伸度152.2%、引張強度2.36cN/dtex)からなる編成糸及び連結糸を用いて編成し、補強糸としてカーボン繊維からなる繊維束(東レ株式会社製;繊維直径7μm、繊維本数12000本)を用いた。編成された編地を20cm×20cmの大きさに切断し、直径5cmの球体を成形加工面としてその球面を覆うように配置した。そして、編地の端部に糸の引張強度を超える引張力を全方向から加えることで、糸を球面に沿って延伸させて成形加工を行った。
【0067】
加工された編地は、編目列及び連結糸で囲まれた編目がそのまま拡張されるように延伸されて球面状に成形加工された。そして、加工後に球体から外した状態でも球面状に保持されていた。また、成形加工後に接着剤を軽くスプレーして全体に付着させたところ、補強糸がずれることなく安定した状態で保持され、容易に取り扱うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
繊維強化樹脂材料を製造する場合、型内に強化繊維束を多軸に積層する必要があるが、予め強化繊維束を挿入保持した本発明に係る織編地を型で立体形状に成形し、多軸方向に成形された複数の織編地を型内に積層して樹脂成形することで、任意の立体形状の繊維強化樹脂成形を容易に行うことができる。特に、本発明の織編地は、型に密着して正確に成形することができ、強化繊維束を隙間なく積層することが可能となる。
【0069】
このように正確な成形加工が簡単に行えることから、例えばヘルメットやカツラ等を作成する場合に頭部表面に圧接して型取りしたものに基づいて成形加工をすることもでき、人体にフィットした繊維製品を製造する際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る実施形態の編組織を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示す編組織の組織図である。
【図3】成形加工の工程に関する説明図である。
【図4A】編地を斜め方向から撮影した写真である。
【図4B】編地を上方から撮影した写真である。
【図5】本発明に係る別の実施形態の編組織を模式的に示す平面図である。
【図6】図5に示す編組織の組織図である。
【図7】本発明に係る別の実施形態の織組織を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明に係るさらに別の実施形態の織組織を模式的に示す平面図である。
【図9】本発明に係る別の実施形態の編組織を模式的に示す平面図である。
【図10】図9に示す編組織を伸長した場合の平面図である。
【図11】本発明に係るさらに別の実施形態の編組織を模式的に示す平面図である。
【図12】図11に示す編組織の組織図である。
【符号の説明】
【0071】
L1 編成糸
L2 補強糸
L3 編成糸
L4 編成糸
L5 緯糸
L6 補強糸
L7 絡み糸
L8 編成糸
L9 補強材
L10 補強材
L11 補強材
L12 補強材
L13 編成糸
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面状に形成された織編地を立体形状に加工する織編地の成形加工方法及びそれに用いる立体形状加工用織編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より織編地は主に衣服等の生活用品の素材として用いられてきたが、近年産業資材への用途開発が行われてその適用分野が拡大している。こうした適用分野の拡大は織編地に使用される繊維材料の機能特性の様々な改良技術が開発されたことが大きく貢献しており、またそれに対応して様々な織成技術又は編成技術が改良工夫されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、強化繊維束を鎖編地糸及び補強挿入糸からなる編組織により挟持した強化繊維シート材が記載されている。また、特許文献2では、引張破断時の伸長度が60%以上である繊維からなる経糸及び緯糸からなる厚織物を、三層に配列された緯糸の間を経糸で順次往復してシート状に形成した土木用厚織シートが記載されている。また、特許文献3では、繊維網状構造体を、熱可塑性繊維からなるテキスタイル布帛の熱−機械的変形によって三次元繊維網状構造体を製造する点が記載されている。また、特許文献4では、繊維強化構造体を、複数の緯糸層のそれぞれの緯糸を織り込む複数の経糸のうち一部が別の緯糸層の緯糸に織り込んでいる低接結織物で構成している点が記載されている。
【特許文献1】特開2004−360106号公報
【特許文献2】特開平8−246288号公報
【特許文献3】特表2000−508032号公報
【特許文献4】特開2006−320529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
織編地は、一般的に複数の糸を組み合せて平面状や円筒状等の予め決められた形状に作製され、作製された織編地は柔軟性及び伸縮性があるため、織編地を任意の曲面形状に保持されるように成形することは難しい。例えば、特許文献1では、強化繊維束を編組織により保持するようにしているが、橋脚等に巻き付ける際の編目のずれを防止するために補強挿入糸に低融点熱可塑性樹脂を含む熱融着糸を含ませておき、加熱処理により予め補強挿入糸を強化繊維束に固着させるようにしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1のように繊維同士を固着させると、円筒状の外周面に対してはその表面形状に沿った状態に密着させることができるもののそれ以外の曲面形状に対しては密着可能な形状とすることはできない。
【0006】
また、特許文献3のように、熱可塑性繊維からなるテキスタイル布帛を熱−機械的変形によって三次元構造体を形成する場合様々な形状の構造体に成形できるものの熱可塑性繊維以外の繊維では成形が難しく、また加熱して軟化した熱可塑性繊維に機械的な変形を加えると繊維自体の強度が弱くなるおそれがあり、成形加工が制約される。
【0007】
また、特許文献4では、低接結織物を用いてゴルフクラブヘッド等の曲面形状に沿うように成形するようにしているが、経糸と緯糸とがずれやすくなって保形性の点で問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、織編地を任意の立体形状に簡単に成形することができる織編地成形加工方法及び立体形状加工用織編地を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る織編地成形加工方法は、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む織編地を成形加工面に圧接し引張力を付与することで糸を延伸させて当該成形加工面に沿った立体形状に成形することを特徴とする。さらに、立体形状に成形された織編地の形態を安定させる加工を行うことを特徴とする。さらに、前記織編地は、所定の方向に配列された複数の補強材が前記糸の間に挿入保持されており、前記織編地に引張力を付与する際に前記補強材は延伸されずに前記糸のみが延伸されて成形されることを特徴とする。さらに、前記糸として糸長方向に未延伸部が分布しているものを用いることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る立体形状加工用織編地は、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む立体形状加工用織編地であって、前記組織の織目又は編目を形成する経方向の糸及び緯方向の糸は互いに絡み合って当該織目又は編目を拡張する方向の引張力に対して当該織目又は編目が崩れないように組織されていることを特徴とする。さらに、前記糸は、糸長方向に未延伸部が分布していることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る立体形状加工用編地は、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成されたメッシュ状の組織を含む立体形状加工用編地であって、前記組織は、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列と、編目列に所定長さずつ編み込まれるとともに所定間隔毎に隣接する編目列に編み込まれて編目列同士を連結する複数の連結糸とからなることを特徴とする。さらに、前記編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて前記連結糸の間に挿入保持されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る別の立体形状加工用編地は、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成されたメッシュ状の組織を含む立体形状加工用編地であって、前記組織は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなることを特徴とする。さらに、前記編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて前記編成糸の間に挿入保持されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るさらに別の立体形状加工用編地は、経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持する立体形状加工用編地であって、前記編組織は、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列からなるとともに当該鎖編のループにより前記補強材の交差部分を包絡することで前記補強材の交差角度を変動可能に連結保持していることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るさらに別の立体形状加工用編地は、経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持する立体形状加工用編地であって、前記編組織は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなるとともに当該編成糸の間に前記補強材を挿入保持することで前記補強材の交差角度を変動可能に連結保持していることを特徴とする。
【0015】
さらに、上記の立体形状加工用編地において、前記糸は、糸長方向に未延伸部が分布していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る織編地成形加工方法は、上記のような構成を有することで、破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む織編地を成形加工面に圧接し引張力を付与することで糸を延伸させて当該成形加工面に沿った立体形状に成形するので、簡単に成形加工面に沿った立体形状の織編地を成形することができる。すなわち、成形加工の際に、織編地の破断伸度が30%以上の糸自体が引張力により延伸して成形されるので、成形加工面に密着した状態で延伸されて成形されるようになり、成形加工面として種々の形状を用いれば任意の立体形状に成形加工することができる。そして、複数の成形加工面を用いて織編地の区域毎に成形加工することで複雑な形状に成形することもでき、様々な立体形状に成形することが可能となる。
【0017】
また、糸長方向に未延伸部が分布している糸を用いることで、成形加工後の立体形状が安定するとともに、糸自体の強度も延伸により強度が大きくなるため成形後の保形性も向上する。
【0018】
そして、糸自体が延伸して成形されるため、緯方向の糸と経方向の糸が交差する部分のずれが少なくなり、織編地の組織が崩れることがなく組織としての強度の低下を抑えて成形加工を行うことができる。
【0019】
また、立体形状に成形された織編地の形態を安定させる加工を行うことで、成形後の織編地の形状を安定した状態に保持することができ、成形加工された織編地を用いて製品加工を行う場合等に容易に取り扱うことが可能となる。
【0020】
また、織編地に所定の方向に配列された複数の補強材を糸の間に挿入保持しておき、織編地に引張力を付与する際に補強材は延伸されずに糸のみが延伸されて成形されるようにすれば、補強材を保持した状態で任意の立体形状に形成することが可能となり、例えば、強化繊維束を多軸に積層して樹脂成形する場合等において、予め強化繊維束を挿入保持する織編地を立体形状に成形しておき、成形された織編地を積層して樹脂成形することで、任意の立体形状の繊維強化樹脂成形を容易に行うことができる。
【0021】
本発明に係る立体形状加工用織編地は、上記のような構成を有することで、組織の織目又は編目を形成する経方向の糸及び緯方向の糸が互いに絡み合って当該織目又は編目を拡張する方向の引張力に対して当該織目又は編目が崩れないように組織されているので、成形加工面に圧接して引張力を付与する際に経方向の糸及び緯方向の糸のずれが少なくなり、組織の強度低下が抑止されて糸自体の延伸による高強度化により成形後の保形性を向上させることができる。そのため、立体形状に成形された織編地の取り扱いが容易に行えるようになる。
【0022】
本発明に係る立体形状加工用編地は、上記のような構成を有することで、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列と、編目列に所定長さずつ編み込まれるとともに所定間隔毎に隣接する編目列に編み込まれて編目列同士を連結する複数の連結糸とからなるので、編地に対してメッシュ状の網目が拡張する方向に引張力が付与された場合網目を形成する経方向の糸である編目列と緯方向の糸である連結糸とがそれぞれ糸自体の延伸により網目を崩さずに拡張させて立体形状に成形加工することができ、成形後の保形性を向上させることが可能となる。
【0023】
そして、編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて連結糸の間に挿入保持されていることで、編目列の間に形成された網目が崩れずに拡張して成形されるので、補強材を挿入保持したまま容易に立体形状に成形することができる。補強材は編目列の間に挿入保持されているので、網目が拡張する場合に補強材は延伸せずに網目からずれるようになるため、成形加工する際に補強材が弛んだり緊張することがなく、補強材についても成形加工面に沿った形状に保持されるようになる。したがって、強化繊維束等の補強材を挿入保持した編地の網目が拡張するように立体形状に成形加工された場合、強化繊維束がその立体形状に沿って保形されるようになり、強化繊維束を多軸に積層して立体形状に樹脂成形する場合に好適である。
【0024】
本発明に係る別の立体形状加工用編地は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなることで、編地に対してメッシュ状の網目が拡張する方向に引張力が付与された場合網目を形成する経方向の編成糸と緯方向の編成糸とがそれぞれ糸自体の延伸により網目を崩さずに拡張させて立体形状に成形加工することができ、成形後の保形性を向上させることが可能となる。
【0025】
そして、編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて編成糸の間に挿入保持されていることで、編目列の間に形成された網目が崩れずに拡張して成形されるので、補強材を挿入保持したまま容易に立体形状に成形することができる。補強材は編目列の間に挿入保持されているので、網目が拡張する場合に補強材は延伸せずに網目からずれるようになるため、成形加工する際に補強材が弛んだり緊張することがなく、補強材についても成形加工面に沿った形状に保持されるようになる。
【0026】
本発明に係るさらに別の立体形状加工用編地は、経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持し、編組織が所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列からなるとともに当該鎖編のループにより補強材の交差部分を包絡することで補強材の交差角度を変動可能に連結保持しているので、成形加工面に合わせて補強材が交差方向を変化させることができ、2軸方向に配列された補強材を交差した配列状態を保持したまま立体形状に成形させることが可能となる。
【0027】
すなわち、補強材の交差部分を破断伸度が30%以上の糸により包絡しているので、補強材が湾曲変形等により交差角度が変動して交差部分の幅が拡がっても糸自体の延伸により交差部分を連結保持したままスムーズに変動させることができる。したがって、成形加工面に2軸の補強材を沿うように成形加工する場合にその交差した配列状態が乱れることなく成形されるとともにその形状を保持することができる。
【0028】
本発明に係るさらに別の立体形状加工用編地は、経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持し、編組織が複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなるとともに当該編成糸の間に補強材を挿入保持することで補強材の交差角度を変動可能に連結保持しているので、成形加工面に合わせて補強材が交差方向を変化させることができ、2軸方向に配列された補強材を交差した配列状態を保持したまま立体形状に成形させることが可能となる。
【0029】
すなわち、緯方向に振りながら編成される編成糸の間に2軸方向に配列された補強材を挿入保持するようにしているので、編成糸として用いられる破断伸度が30%以上の糸を補強材の交差方向の変動に対して延伸させて経方向及び緯方向のいずれにも追従させることができる。したがって、成形加工面に2軸の補強材を沿うように成形加工する場合にその交差した配列状態が乱れることなく成形されるとともにその形状を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0031】
図1は、本発明に係る実施形態に関する平面図であり、図2は、図1に示す編成糸L1及びL3の編組織図である。
【0032】
編成糸L1(白抜きの糸で表示)及び編成糸L3(黒色の糸で表示)は、それぞれ緯方向に振られながら所定間隔を空けて経方向に複数の編目列を編成している。編成糸L1は3つのコースにおいて順次隣のコースに振られて編み込まれた後逆方向に振られて順次隣のコースに編み込まれており、ジグザグ状に編成されている。編成糸L3についても編成糸L1と同様に3つのコースにおいてジグザグ状に編成されているが、編成糸L1の編成されるコースと1つずれたコースで編成糸L3の振られる方向とは反対方向に振られるように編成されている。そのため、編成糸L1及びL3は、編成される編目列の間では、互いに交差するようになっており、交差した編成糸L1及びL3の間に経方向に配列された補強糸L2(斜線の糸で表示)が挿入保持されている。
【0033】
したがって、編成糸L1及びL3により編成される複数の編目列の間にそれぞれ補強糸2が配列されて、編成糸L1及びL3により表側及び裏側から挟持されるようになり、補強糸2は、経方向に沿って直線状に安定した状態で保持されるようになる。
【0034】
編成糸L1及びL3としては、破断伸度が30%以上の糸を用いるとよい。特に、糸長方向に未延伸部が分布している糸が好適である。素材としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維等の合成繊維からなるフィラメント糸又はその加工糸が挙げられる。特に、ポリエステル部分配向糸(POY)が好ましい。POYの破断伸度は、30%以上が好ましく、100%以上がさらに好ましい。破断伸度が30%未満の場合、形状変化が急激な成形加工面への追随が十分行なわれず、切断するおそれがある。また、編成糸の単糸繊度としては、30dtex〜570dtexが好ましく、細い編成糸がより好ましい。POYは、紡糸速度2,000〜4,500m/分で溶融紡糸して得られるものであり、紡糸ー延伸工程を直結した直延法で得られるものが好ましい。その際の延伸倍率としては、1.1〜1.5が好ましい。
【0035】
未延伸部が分布している糸以外にも、破断伸度が30%以上で伸縮性に優れた糸を用いてもよく、ポリウレタン弾性繊維やPBT(ポリブチレンテレフタレート)等からなるポリエステル繊維が挙げられる。
【0036】
補強糸L2としては、高強度の繊維からなるもので、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、セラミック繊維等が挙げられる。また、複合体として用いる場合には、高強度繊維としては、引張強度が1.8GPa以上、望ましくは2.4GPa以上であることが複合体として用いた場合に強度及び剛性の面で望ましく、例えば、パラ系アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等が挙げられる。パラ系アラミド繊維はパラ系全芳香族ポリアミド繊維であり、ポリパラフェニレンテレフタラミド繊維、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミド繊維、高強度ポリビニルアルコール繊維、超高分子量ポリエチレン等がある。
【0037】
これらの繊維を撚糸加工したものを用いてもよいし、これらの繊維を扁平に配列した繊維束として用いてもよい。また、補強糸の代わりに薄いテープ状の補強材を使用してもよく、織編地に挿入可能な形状の補強材であれば採用することができる。例えば、炭素繊維材料を開繊して薄いシート状にしたものが挙げられる。こうした補強材に対しては、ステッチニードルにより糸を突き刺すように編成してもよい。
【0038】
図3は、球面状の成形加工面に対して図1に示す編地を成形加工する工程を示す説明図である。まず、球面状の成形加工面M全体を覆うように編地Nを配置し(図3(a))、成形加工面Mに編地Nを圧接して編地Nの編目が拡張するように成形加工面Mに沿って全方向から均等に引張力を付与する(図3(b))。この場合、成形加工面が球面状以外の形状の場合には編目が拡張するように引張力を付与する方向及び強さを適宜調整すればよい。
【0039】
成形加工前には編成糸L1及びL3により編成される編目列及び補強糸L2は経方向に沿って直線状に配列されているが、成形加工後では、編成糸L1及びL3により編成される編目列が引張力により延伸されて成形加工面に密着するように変形するようになる。すなわち、補強糸L2に隣接する編目列は引張力により主に経方向に延伸し、補強糸L2を表裏から挟持する編成糸の部分は主に緯方向に延伸するようになる。
【0040】
そして、延伸する際に編成糸L1及びL3は互いに絡み合ってずれることはほとんどないため、編目をそのまま拡張するように編成糸L1及びL3が延伸して成形加工面に密着した状態に変形するようになる。
【0041】
補強糸L2は、編成糸L1及びL3に絡み合うことなく表裏から挟持されているので、編目列が延伸する際に補強糸L2は延伸せずに経方向に相対的にずれるようになる。また、緯方向に編成糸が延伸することで、補強糸L2の緯方向の間隔が編成糸の延伸の程度に応じてそれぞれ拡大するようになり、局部的に配列に乱れが生じることなく球面全体に均整のとれた状態で配列されて成形加工される。
【0042】
また、編成糸L1及びL3は延伸した後ほとんど収縮することなくそのままの状態を維持するので、球面状に成形加工した形状が維持されるようになる。そして、成形加工した編地に形態安定加工を施すことで加工した形状を安定した状態に保持することができる。形態安定加工として、強いて言えば、例えば、樹脂含浸、加熱による熱セットや接着剤をスプレー等により付与して固定するといった加工方法が挙げられる。
【0043】
図4は、球面状の成形加工面で成形した編地を斜め方向(図4A)及び上方(図4B))から撮影した写真である。成形加工後に球面の状態を保持していることがわかる。
【0044】
以上説明した加工方法では、球面状の成形加工面を用いているが、球面状以外の成形加工面を使用することもでき、また、編地を区分してそれぞれの領域を別の成形加工面で加工することもできる。
【0045】
図5は、本発明に係る別の実施形態に関する平面図であり、図6は、図5に示す編成糸L1及び連結糸L3及びL4の編組織図である。
【0046】
編成糸L1(白抜きの糸で表示)は、補強糸L2(斜線の糸で表示)の両側に隣接して経方向に延びる編目列を編成するものであり、連結糸L3及びL4(黒色の糸で表示)は、緯方向に振られながら編目列に編み込まれている。
【0047】
連結糸L3及びL4は、所定の編目列において2つずつ鎖編に編み込まれた後隣接する左右の編目列に交互に振られて編み込まれ、各編目列の間では1つおきに連結糸L3及びL4が補強糸L2の表側及び裏側に交互に振られて編み込まれようになっている。したがって、補強糸L2は、隣接する一対の連結糸L3及びL4により挟持されて編組織に安定した状態で保持されるようになっている。
【0048】
この例においても成形加工面に編地を圧接して編目が拡張するように全方向から引張力を付与することで、上述した実施形態と同様に、補強糸L2に隣接する鎖編からなる編目列は引張力により主に経方向に延伸し、補強糸L2を表裏から挟持する連結糸L3及びL4の編目列の間の部分は主に緯方向に延伸するようになる。
【0049】
そして、延伸する際に編目列の鎖編に対して連結糸L3及びL4が編み込まれているので、連結糸L3及びL4が鎖編に対してずれることはほとんどない。したがって、編目列及び連結糸L3及びL4で囲まれる編目をそのまま拡張するように編成糸L1並びに連結糸L3及びL4が延伸して成形加工面に密着した状態に変形するようになる。
【0050】
補強糸L2は、連結糸L3及びL4に絡み合うことなく表裏から挟持されているので、編目列が延伸する際に補強糸L2は延伸せずに経方向に相対的にずれるようになる。また、緯方向に連結糸L3及びL4が延伸することで、補強糸L2の緯方向の間隔が連結糸L3及びL4の延伸の程度に応じてそれぞれ拡大するようになり、局部的に配列に乱れが生じることなく加工面全体に均整のとれた状態で配列されて成形加工される。
【0051】
図7は、本発明に係るさらに別の実施形態に関する平面図である。この例では、いわゆるからみ織の組織を用いた織地からなる。複数の緯糸L5は、経方向に所定の間隔を置いて配列されており、複数の補強糸L6は、緯方向に所定の間隔を置いて配列され緯糸L5の表側に経方向に沿って配置されている。
【0052】
そして、複数の絡み糸L7がそれぞれ補強糸L6に絡むように経方向に織り込まれている。この例では、絡み糸L7が補強糸L6の一方の側で緯糸L5の表側から補強糸L6の裏側に入って補強糸L6の他方の側で緯糸L5の表側に抜け、再び補強糸L6の裏側に入るように織り込まれる。そのため、緯糸L5の裏側に配置された補強糸L6のさらに裏側から絡み糸L7が交互に緯糸L5の表側に導入されることで、補強糸L6は緯糸L5及び絡み糸L7との間に保持されるようになる。
【0053】
この例においても成形加工面に織地を圧接して織目が拡張するように全方向から引張力を付与することで、上述した実施形態と同様に、補強糸L6に隣接する緯糸L5は引張力により緯方向に延伸し、絡み糸L7は経方向に延伸するようになる。
【0054】
そして、緯糸L5及び絡み糸L7を同じ延伸特性を有する糸を用いることで、緯糸L5及び絡み糸L7で囲まれる織目をそのまま拡張するように緯糸L5及び絡み糸L7が延伸して成形加工面に密着した状態に変形するようになる。
【0055】
補強糸L6は、緯糸L5及び絡み糸L7との間に保持されているので、緯糸L5及び絡み糸L7が延伸する際に補強糸L6は延伸せずに経方向に絡み糸L7に対し相対的にずれるようになるが、緯方向には絡み糸L7とともに移動し、補強糸L6の緯方向の間隔が緯糸L5の延伸の程度に応じてそれぞれ拡大するようになり、局部的に配列に乱れが生じることなく加工面全体に均整のとれた状態で配列されて成形加工される。
【0056】
なお、以上の例ではからみ織構造について説明したが、補強糸L6及び緯糸L5による平織地で安定した状態が維持されるのであれば、こうした平織構造でも同様の成形加工を行うことができる。例えば、図8に示すように、経糸に補強糸L6’を用い、緯糸L5’を用いて織成した平織地の場合には、緯糸方向に延伸することができることから、補強糸L6’の緯方向の間隔を拡げるように成形加工することが可能となる。
【0057】
図9は、帯状の補強材を異なる方向に沿って互いに交差するように配列させた編地を示す平面図である。この例では、経方向からそれぞれ左右に45度の角度だけ傾斜した方向に複数の補強材L9及びL10が交差するように配列され、その交差角度θは90度に設定されている。そして、補強材L9及びL10の交差部分に沿うように編成糸L8を経方向に鎖編して編成された複数の編目列が所定間隔を空けて配列されている。補強材L9及びL10の交差部分は編目列の編目内に貫入し、鎖編の編成糸L8のループが包絡するように交差部分を連結保持している。
【0058】
編目列の編成糸L8として糸長方向に未延伸部が分布している糸を用いており、編成糸L8が伸びることで補強材L9及びL10の交差部分は交差した状態に保持されるもののその交差角度は変動可能になる。例えば、編地を上下方向に引張力が加えられた場合、図10に示すように、編成糸L8が上下方向に伸び、補強材L9及びL10の交差角度θ’は90度よりも小さくなり、補強材L9及びL10の経方向に対する傾斜が小さくなるように変動する。
【0059】
したがって、このように組織された編地を成形加工面に圧接して引張力を作用させると、成形加工面に沿うように編成糸L8が伸長するとともに補強材L9及びL10の交差角度が変動し、成形加工面に沿った形状に保持されるようになる。
【0060】
図11は、図9と同様に帯状の補強材を異なる方向に沿って互いに交差するように配列させた編地を示す平面図であり、図12は、図11に示す編成糸L13の編組織図である。この例では、編成糸L13を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に複数の編目列を編成しており、補強材L11及びL12は緯方向に振られた編成糸L13の間に挿入保持されている。図面において補強材の手前側及び奥側に編成糸L13が配置されることで、補強材の両側から編成糸により挟持されるように保持される。
【0061】
図11に示す編組織では、図9に示すように交差部分を編成糸で包絡するように編成していないため、補強材が変動する自由度が大きくなる。すなわち、編成糸として糸長方向に未延伸部が分布している糸を用いた場合、成形加工面に圧接して引張力を作用させると、成形加工面に沿うように編成糸L13が伸長するとともに補強材L11及びL12がそれぞれ傾斜方向か小さくなり、さらに補強材L11及びL12の長手方向にずれやすくなって変動しやすくなる。
【0062】
図11ではシングル・デンピーを例に説明したが、こうした編組織以外にもシングル・アトラス、シングル・コードといった編組織を用いてもよく、交差する補強材を保持可能な編組織であれば使用することができる。
【0063】
図9から図12に示すような補強材が交差して配列された編地の場合、補強材が2軸に配列されているので、補強材の長手方向をずらしながら多軸で積層し繊維強化樹脂材料として用いることができる。そして、編地を曲面状に成形加工しても補強材の配列が大きく乱れることなく積層することが可能となる。
【0064】
以上説明した実施形態以外の、編組織(経編、丸編、横編)、織組織又は組紐等の織編地でも、糸長方向に未延伸部が分布している糸を用いることで同様の成形加工を実現することが可能である。
【0065】
また、以上説明した実施形態では、補強糸を挿入保持した織編地について説明したが、必要に応じて補強糸を挿入しないようにすることもでき、その場合でも同様の成形加工を当然行なうことは可能である。
【実施例】
【0066】
図2に示す編地をポリエステル部分配向糸(東レ株式会社製;繊度269dtex、破断伸度152.2%、引張強度2.36cN/dtex)からなる編成糸及び連結糸を用いて編成し、補強糸としてカーボン繊維からなる繊維束(東レ株式会社製;繊維直径7μm、繊維本数12000本)を用いた。編成された編地を20cm×20cmの大きさに切断し、直径5cmの球体を成形加工面としてその球面を覆うように配置した。そして、編地の端部に糸の引張強度を超える引張力を全方向から加えることで、糸を球面に沿って延伸させて成形加工を行った。
【0067】
加工された編地は、編目列及び連結糸で囲まれた編目がそのまま拡張されるように延伸されて球面状に成形加工された。そして、加工後に球体から外した状態でも球面状に保持されていた。また、成形加工後に接着剤を軽くスプレーして全体に付着させたところ、補強糸がずれることなく安定した状態で保持され、容易に取り扱うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
繊維強化樹脂材料を製造する場合、型内に強化繊維束を多軸に積層する必要があるが、予め強化繊維束を挿入保持した本発明に係る織編地を型で立体形状に成形し、多軸方向に成形された複数の織編地を型内に積層して樹脂成形することで、任意の立体形状の繊維強化樹脂成形を容易に行うことができる。特に、本発明の織編地は、型に密着して正確に成形することができ、強化繊維束を隙間なく積層することが可能となる。
【0069】
このように正確な成形加工が簡単に行えることから、例えばヘルメットやカツラ等を作成する場合に頭部表面に圧接して型取りしたものに基づいて成形加工をすることもでき、人体にフィットした繊維製品を製造する際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る実施形態の編組織を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示す編組織の組織図である。
【図3】成形加工の工程に関する説明図である。
【図4A】編地を斜め方向から撮影した写真である。
【図4B】編地を上方から撮影した写真である。
【図5】本発明に係る別の実施形態の編組織を模式的に示す平面図である。
【図6】図5に示す編組織の組織図である。
【図7】本発明に係る別の実施形態の織組織を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明に係るさらに別の実施形態の織組織を模式的に示す平面図である。
【図9】本発明に係る別の実施形態の編組織を模式的に示す平面図である。
【図10】図9に示す編組織を伸長した場合の平面図である。
【図11】本発明に係るさらに別の実施形態の編組織を模式的に示す平面図である。
【図12】図11に示す編組織の組織図である。
【符号の説明】
【0071】
L1 編成糸
L2 補強糸
L3 編成糸
L4 編成糸
L5 緯糸
L6 補強糸
L7 絡み糸
L8 編成糸
L9 補強材
L10 補強材
L11 補強材
L12 補強材
L13 編成糸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む織編地を成形加工面に圧接し引張力を付与することで糸を延伸させて当該成形加工面に沿った立体形状に成形することを特徴とする織編地成形加工方法。
【請求項2】
立体形状に成形された織編地の形態を安定させる加工を行うことを特徴とする請求項1に記載の織編地成形加工方法。
【請求項3】
前記織編地は、所定の方向に配列された複数の補強材が前記糸の間に挿入保持されており、前記織編地に引張力を付与する際に前記補強材は延伸されずに前記糸のみが延伸されて成形されることを特徴とする請求項1又は2に記載の織編地成形加工方法。
【請求項4】
前記糸として糸長方向に未延伸部が分布しているものを用いることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の織編地成形加工方法。
【請求項5】
破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む立体形状加工用織編地であって、前記組織の織目又は編目を形成する経方向の糸及び緯方向の糸は互いに絡み合って当該織目又は編目を拡張する方向の引張力に対して当該織目又は編目が崩れないように組織されていることを特徴とする立体形状加工用織編地。
【請求項6】
前記糸は、糸長方向に未延伸部が分布していることを特徴とする請求項5に記載の立体形状加工用織編地。
【請求項7】
破断伸度が30%以上の糸を用いて形成されたメッシュ状の組織を含む立体形状加工用編地であって、前記組織は、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列と、編目列に所定長さずつ編み込まれるとともに所定間隔毎に隣接する編目列に編み込まれて編目列同士を連結する複数の連結糸とからなることを特徴とする立体形状加工用編地。
【請求項8】
前記編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて前記連結糸の間に挿入保持されていることを特徴とする請求項7に記載の立体形状加工用編地。
【請求項9】
破断伸度が30%以上の糸を用いて形成されたメッシュ状の組織を含む立体形状加工用編地であって、前記組織は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなることを特徴とする立体形状加工用編地。
【請求項10】
前記編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて前記編成糸の間に挿入保持されていることを特徴とする請求項9に記載の立体形状加工用編地。
【請求項11】
経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持する立体形状加工用編地であって、前記編組織は、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列からなるとともに当該鎖編のループにより前記補強材の交差部分を包絡することで前記補強材の交差角度を変動可能に連結保持していることを特徴とする立体形状加工用編地。
【請求項12】
経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持する立体形状加工用編地であって、前記編組織は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなるとともに当該編成糸の間に前記補強材を挿入保持することで前記補強材の交差角度を変動可能に連結保持していることを特徴とする立体形状加工用編地。
【請求項13】
前記糸は、糸長方向に未延伸部が分布していることを特徴とする請求項7から12のいずれかに記載の立体形状加工用編地。
【請求項1】
破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む織編地を成形加工面に圧接し引張力を付与することで糸を延伸させて当該成形加工面に沿った立体形状に成形することを特徴とする織編地成形加工方法。
【請求項2】
立体形状に成形された織編地の形態を安定させる加工を行うことを特徴とする請求項1に記載の織編地成形加工方法。
【請求項3】
前記織編地は、所定の方向に配列された複数の補強材が前記糸の間に挿入保持されており、前記織編地に引張力を付与する際に前記補強材は延伸されずに前記糸のみが延伸されて成形されることを特徴とする請求項1又は2に記載の織編地成形加工方法。
【請求項4】
前記糸として糸長方向に未延伸部が分布しているものを用いることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の織編地成形加工方法。
【請求項5】
破断伸度が30%以上の糸を用いて形成された組織を含む立体形状加工用織編地であって、前記組織の織目又は編目を形成する経方向の糸及び緯方向の糸は互いに絡み合って当該織目又は編目を拡張する方向の引張力に対して当該織目又は編目が崩れないように組織されていることを特徴とする立体形状加工用織編地。
【請求項6】
前記糸は、糸長方向に未延伸部が分布していることを特徴とする請求項5に記載の立体形状加工用織編地。
【請求項7】
破断伸度が30%以上の糸を用いて形成されたメッシュ状の組織を含む立体形状加工用編地であって、前記組織は、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列と、編目列に所定長さずつ編み込まれるとともに所定間隔毎に隣接する編目列に編み込まれて編目列同士を連結する複数の連結糸とからなることを特徴とする立体形状加工用編地。
【請求項8】
前記編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて前記連結糸の間に挿入保持されていることを特徴とする請求項7に記載の立体形状加工用編地。
【請求項9】
破断伸度が30%以上の糸を用いて形成されたメッシュ状の組織を含む立体形状加工用編地であって、前記組織は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなることを特徴とする立体形状加工用編地。
【請求項10】
前記編目列の間にはそれぞれ経方向に延びる補強材が複数配列されて前記編成糸の間に挿入保持されていることを特徴とする請求項9に記載の立体形状加工用編地。
【請求項11】
経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持する立体形状加工用編地であって、前記編組織は、所定間隔を空けて経方向に配列された鎖編からなる複数の編目列からなるとともに当該鎖編のループにより前記補強材の交差部分を包絡することで前記補強材の交差角度を変動可能に連結保持していることを特徴とする立体形状加工用編地。
【請求項12】
経方向から所定角度ずれた2つの異なる方向に沿って互いに交差するように配列された補強材を破断伸度が30%以上の糸により編成された編組織で連結保持する立体形状加工用編地であって、前記編組織は、複数の編成糸を緯方向に振りながら所定間隔を空けて経方向に編成された複数の編目列からなるとともに当該編成糸の間に前記補強材を挿入保持することで前記補強材の交差角度を変動可能に連結保持していることを特徴とする立体形状加工用編地。
【請求項13】
前記糸は、糸長方向に未延伸部が分布していることを特徴とする請求項7から12のいずれかに記載の立体形状加工用編地。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4A】
【図4B】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4A】
【図4B】
【公開番号】特開2009−121015(P2009−121015A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274942(P2008−274942)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(591109049)岡本レース株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(591109049)岡本レース株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
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