説明

缶の二重巻締め部構造

【課題】薄肉の缶蓋材を使用して、確実に密封性を確保し得る強度を有する缶の二重巻締め部構造を提供する。
【解決手段】板厚が0.230mm以下の蓋材を用いて形成した缶蓋20を缶胴10に巻締めてなる缶の二重巻締め構造であって、缶胴10は、有底円筒状の胴体部11とボディーフック12とを有し、缶蓋20は、カバーフック21と、シーミングウォール22と、シーミングパネル23と、チャックウォール24と、カウンターシンク25と、パネル26とを有し、チャックウォール24の中途部分には第1湾曲部24aと第2湾曲部24bとが形成されており、缶蓋20のシーミングウォール22とシーミングパネル23との接続部分に形成されたシーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1が0.48mm以上0.67mm以下であり、かつ、第1湾曲部24aの内周面の曲率半径R2が0.3mm以上0.9mm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は缶胴の開口端部に缶蓋の外周部を二重に巻締めてなる缶の二重巻締め部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、清涼飲料等が充填される缶に、特許文献1に示されるように、有底円筒状の缶胴の開口部に缶蓋の外周部が二重巻締めされた構造が採用されている。このような缶の二重巻締め部は、予め、缶胴の開口端部にフランジ部を形成するとともに、缶蓋の外周部にカール部を形成しておき、缶胴のフランジ部に缶蓋のカール部を被せた状態でこれらを外側に一体にカールし、缶蓋のカール部を缶胴のフランジ部の外方から鉤状に折り返しながら抱き合わせるようにして巻き込んで、その巻込み部分をさらに半径方向外方から押しつぶすように押圧することにより、つまり缶蓋と缶胴の各上端部を重ねた状態で巻き込むように変形させることにより、缶蓋のカール部内面に塗布されたコンパウンドを缶胴と缶蓋との間に圧縮状態に介在させて密封した構造とされる。
【0003】
内容物としてビールや炭酸飲料等の発泡性飲料を充填する場合、あるいは、お茶やコーヒー等の非発泡性飲料でも充填時に液体窒素が封入される場合など、密封した後に内圧が作用する、いわゆる陽圧缶では、その内圧に耐え得る強度を有することが要求される。例えば、缶蓋の耐圧強度を高めるために、カウンターシンクの幅を小さくしたり、チャック壁部の形状を工夫したりするなど、種々の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−140337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
材料コストの低減のため、缶蓋の板厚を薄肉化することが求められている。しかしながら、缶蓋材を薄肉化した場合、缶胴への巻き込みが不十分となるドルーピングと呼ばれる巻締め不良が発生しやすくなったり、缶蓋が持ち上がりやすくなり缶胴と缶蓋との缶軸方向に沿った隙間(シームギャップ)が大きくなって密閉性が低下したりするおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、薄肉の缶蓋材を使用して、確実に密封性を確保し得る強度を有する缶の二重巻締め部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、板厚が0.230mm以下の蓋材を用いて形成した缶蓋を缶胴に巻締めてなる缶の二重巻締め構造であって、前記缶胴は、有底円筒状の胴体部と、この胴体部の上端から外周側に折り返されて下方に向けて延びる略円筒状のボディーフックとを有し、前記缶蓋は、前記ボディーフックと前記胴体部との間に下方から入り込むように設けられた略円筒状のカバーフックと、前記カバーフックの下端から外周側に折り返されて上方に向けて延び前記ボディーフックの外周を覆うように設けられた略円筒状のシーミングウォールと、前記シーミングウォールの上端から内周側に折り返されたシーミングパネルと、このシーミングパネルの内周端から下方に向けて延び前記胴体部の内周を覆うように設けられた略円筒状のチャックウォールと、このチャックウォールの下部に連なって設けられた環状溝形のカウンターシンクと、このカウンターシンクの内周側に設けられた円板状のパネルと、を有し、前記チャックウォールの中途部分には、半径方向外方に向けて凸である第1湾曲部と、この第1湾曲部の下方に連なり半径方向内方に向けて凸である第2湾曲部とが形成されており、前記シーミングパネルと前記シーミングウォールとの接続部分に形成され、半径方向外方に向けて凸であるシーミングウォールラジアスの外面の曲率半径が0.48mm以上0.67mm以下であり、かつ、前記第1湾曲部の内周面の曲率半径が0.3mm以上0.9mm以下である。
【0008】
本発明の二重巻締め部構造によれば、第1湾曲部の内面における曲率半径が0.3mm以上に設定されていることにより、巻締めによる変形に伴う著しい板厚減少を抑えて強度を確保し、パネルが外方へ膨らむバックリング時の亀裂発生を防止できる。また、第1湾曲部の内面における曲率半径が0.9mm以下、シーミングウォールラジアスの外面における曲率半径が0.48mm以上に設定されていることにより、内圧による巻締め部の変形を抑え、シームギャップの拡大による密閉性の低下を防止できる。一方、シーミングウォールラジアスの外面における曲率半径は、0.67mmを超えると巻締め工程においてドルーピングが発生するおそれがあるため、本発明では0.67mm以下に設定されている。
【0009】
この缶の二重巻締め部構造における第1湾曲部やシーミングウォールラジアス等の曲率半径は、缶軸方向に沿う縦断面において、寸法を得たい円弧を単一円弧とみなし、適切な範囲で定めた円弧状の3点から算出される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の缶の二重巻締め部構造によれば、板厚が0.230mm以下の薄肉の蓋材からなる缶蓋を用いた場合あっても、十分な強度および密閉性が保たれる缶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る缶の二重巻締め構造を示す拡大縦断面図である。
【図2】図1に示す二重巻締め構造の部分拡大図である。
【図3】二重巻締め工程における第1巻締め工程を示す部分拡大図である。
【図4】二重巻締め工程における第2巻締め工程を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。本発明は、図1に示すように、缶胴10に対して、板厚が0.230mm以下の蓋材を用いて形成した缶蓋20を巻締めてなる缶の二重巻締め構造である。
【0013】
缶胴10は、有底円筒状の胴体部11と、この胴体部11の上端から外周側に折り返されて下方に向けて延びる略円筒状のボディーフック12とを有する。
【0014】
缶蓋20は、ボディーフック12と胴体部11との間に下方から入り込むように設けられた略円筒状のカバーフック21と、このカバーフック21の下端から外周側に折り返されて上方に向けて延びボディーフック12の外周を覆うように設けられた略円筒状のシーミングウォール22と、このシーミングウォール22の上端から内周側に折り返されたシーミングパネル23と、このシーミングパネル23の内周端から下方に向けて延び胴体部11の内周を覆うように設けられた略円筒状のチャックウォール24と、このチャックウォール24の下部に連なって設けられた環状溝形のカウンターシンク25と、このカウンターシンク25の内周側に設けられた円板状のパネル26と、を有する。
【0015】
缶蓋20において、チャックウォール24の中途部分には、半径方向外方に向けて凸である第1湾曲部24aと、この第1湾曲部24aの下方に連なり半径方向内方に向けて凸である第2湾曲部24bとが形成されている。シーミングウォール22とチャックウォール24とは、シーミングパネル23によって接続されている。このシーミングパネル23とシーミングウォール22との接続部分には、半径方向外方に向けて凸である断面略円弧状のシーミングウォールラジアス27が形成されている。このシーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1は0.48mm以上0.67mm以下である。また、第1湾曲部24aの内周面の曲率半径R2は0.3mm以上0.9mm以下である。
【0016】
なお、第1湾曲部24a、第2湾曲部24b、シーミングウォールラジアス27等の曲率半径は、缶軸方向に沿う縦断面において、寸法を得たい円弧を単一円弧とみなし、適切な範囲で定めた円弧状の3点から算出される。
【0017】
図1および図2に示すように、缶胴10と缶蓋20との間は、コンパウンド(シーミングコンパウンド)Cを圧縮状態で介在させて屈曲していることにより、密閉性が確保されている。ところが、図1に矢印で示す容器内圧が上昇して缶蓋20が缶胴10に対して持ち上がった場合、密閉性が損なわれるおそれがある。すなわち、缶蓋20が内圧により持ち上がってシームギャップGが拡大すると、容器の密閉性が損なわれる場合がある。
【0018】
これに対して、本実施形態の二重巻締め部構造では、缶蓋20のチャックウォール24の中途部分に、第1湾曲部24aと第2湾曲部24bとが連続して形成されている。第1湾曲部24aの曲率中心が内周側(第1湾曲部24aより缶蓋中心側)にあり、第2湾曲部24bの曲率中心が外周側(第2湾曲部24bより缶蓋20の外側)にあることから、容器内圧が上昇して図1に矢印で示すようなパネル26を持ち上げる力が生じた場合には、これら第1湾曲部24aおよび第2湾曲部24bが図1に2点鎖線で示すように変形して、パネル26を変位させる。したがって、シーミングパネル23の変形やシームギャップGの拡大を防止しながら、缶蓋20におけるパネル26の変位を許容でき、これにより密閉性を維持できる。
【0019】
この缶蓋20において、第1湾曲部24aの曲率半径が小さすぎると、成形時に板厚が著しく減少して、バックリングが生じやすくなるおそれがある。これに対して、本実施形態の二重巻締め部構造では、第1湾曲部24aの内周面の曲率半径R2が0.3mm以上であることにより、成形時に板厚が著しく減少することがないので、バックリングの発生を防止できる。
【0020】
一方、第1湾曲部24aの曲率半径が大きすぎると、パネル26を持ち上げる力が生じた場合に第1湾曲部24aが変形しにくく、缶蓋20全体が缶胴10に対して持ち上がり、シームギャップGが拡大してしまう。これに対して、本実施形態の二重巻締め部構造では、第1湾曲部24aの内周面の曲率半径R2が0.9mm以下であることにより、第1湾曲部24aが適度に変形しやすいので、シームギャップGの拡大を防止できる。
【0021】
また、この缶蓋20において、シーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1は0.48mm以上0.67mm以下に設定されている。このシーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1が小さすぎると、缶胴10と缶蓋20との間に形成される隙間の体積が大きくなり、コンパウンドCの圧縮が不十分な状態となって密閉性が低くなるおそれがある。さらにこの場合、内圧上昇によってパネル26が持ち上げられる力が作用すると、缶胴10と缶蓋20との間の密閉性が容易に失われるおそれがある。これに対して、本実施形態の二重巻締め部構造では、シーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1が0.48mm以上であるので、この部分の密閉性を十分に維持することができる。
【0022】
一方、シーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1が大きすぎると、第2シーミングロール52(図4参照)の溝形状から蓋材の一部がはみ出て、巻締め幅(二重巻締め部の高さ方向の寸法)が見かけ上大きくなったりするドルーピングが発生しやすくなる。これに対して本実施形態の二重巻締め部構造では、シーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1が0.67mm以下であるので、ドルーピングの発生を防止できる。
【0023】
ここで、缶の二重巻締め方法について説明する。二重巻締めされる前の缶胴30は、元板厚が0.230mm〜0.340mmのアルミニウム合金製板材を広口のカップ状に打ち抜いた後、さらに絞りしごき加工(DI加工)して形成したストレートの有底円筒状の胴体部31の開口端部を若干縮径した上で拡径することにより、胴体部31の上端から半径方向外方に広がるフランジ部32が形成される(図3)。
【0024】
二重巻締めされる前の缶蓋40は、元板厚が0.230mm以下、例えば0.200mm〜0.230mmのアルミニウム合金製蓋材をプレス成形することにより、缶胴30の胴体部31より小径の円形のパネル41が中心部に形成される。このパネル41の外縁には、環状溝を形成するカウンターシンク42を介して、チャックウォール43が上方に延びて形成される。このチャックウォール43の上端から、半径方向外方に延びながら外周縁が外側にカールされたカール部44が形成される。このカール部44の内面には、コンパウンドCが塗布されている(図3)。
【0025】
二重巻締め工程においては、まず、図3に示すように、リフター(図示略)に載せた缶胴30のフランジ部32に缶蓋40のカール部44を被せ、その上方からチャック50を缶蓋40に嵌合して、チャック50とリフターとの間で缶胴30と缶蓋40とを缶軸方向に沿って挟んだ状態で、これらの半径方向外方から第1シーミングロール51を接近させ、缶蓋40のカール部44と缶胴30のフランジ部32とを外側に一体にカールさせ、缶蓋40のカール部44を缶胴30のフランジ部32の外方から鉤状に折り返しながら抱き合わせるようにして巻き込む(第1巻締め工程)。
【0026】
次いで、図4に示すように、この巻込み部分に対して半径方向外方から第2シーミングロール52を接近させ、巻き込み部分をさらに半径方向外方から押しつぶすように押圧する(第2巻締め工程)。これにより、缶胴30と缶蓋40との間にコンパウンドCを圧縮状態に介在させた二重巻締め部が形成される(図2)。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の実施例について、比較例と対比して説明する。
缶胴としては,元板厚が0.270mmのアルミニウム合金を成形し、缶蓋としては、元板厚が0.220mmのアルミニウム合金を成形した。缶胴にガスボリューム3.0の内容液を充填して缶蓋を巻締めて飲料缶を作製した。その際、巻締め装置のシーミングロールの形状や押し付け力等を変更して、シーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1および第1湾曲部24aの内周面の曲率半径R2が異なる飲料缶を複数缶ずつ作製した。
【0028】
缶の巻締め幅(二重巻締め部の缶軸方向の長さ)はW=2.55mm、巻締め厚さ(二重巻締め部の厚さ)はT=1.20mmとした(図2参照)。
【0029】
各部分の寸法は、ガスボリューム3.0の内容液を充填した飲料缶を1週間以上放置した後に、缶胴を切断して内容液を排出し、巻締め部分を樹脂で固めた状態として、缶蓋のリベットの中心を通るように切断し、その断面を研磨した後に顕微鏡で拡大して測定した。測定に当たっては、各断面において、寸法を得たい円弧を単一円弧と見なし、適切な範囲で定めた円弧状の3点から算出した。各試料とも5缶ずつ作製し、一つの断面から180°離れた二箇所の巻締め部を測定した。したがって、測定箇所は10箇所となる。表1に、10箇所の測定結果の平均値を示す。
【0030】
シームギャップGは、測定値が蓋材の板厚を超えた場合をNGとした。ドルーピングは、巻締め幅Wが設定値の1.2倍を超えた場合をNGとした。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果からわかるように、シーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1が0.48mmまたは0.67mm、かつ第1湾曲部24aの内周面の曲率半径R2が0.30mm、0.50mmまたは0.9mmである場合にはシームギャップの過剰な拡大とドルーピングの発生がなかった。すなわち、シーミングウォールラジアス27の外面の曲率半径R1が0.48mm以上0.67mm以下、かつ第1湾曲部24aの内周面の曲率半径R2が0.30mm以上0.9mm以下である場合には、密閉性の低下を招くシームギャップの拡大およびドルーピングの発生が防止されていることが確認できた。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 缶胴
11 胴体部
12 ボディーフック
20 缶蓋
21 カバーフック
22 シーミングウォール
23 シーミングパネル
24 チャックウォール
24a 第1湾曲部
24b 第2湾曲部
25 カウンターシンク
26 パネル
27 シーミングウォールラジアス
C コンパウンド(シーミングコンパウンド)
G シームギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が0.230mm以下の蓋材を用いて形成した缶蓋を缶胴に巻締めてなる缶の二重巻締め構造であって、
前記缶胴は、有底円筒状の胴体部と、この胴体部の上端から外周側に折り返されて下方に向けて延びる略円筒状のボディーフックとを有し、
前記缶蓋は、前記ボディーフックと前記胴体部との間に下方から入り込むように設けられた略円筒状のカバーフックと、前記カバーフックの下端から外周側に折り返されて上方に向けて延び前記ボディーフックの外周を覆うように設けられた略円筒状のシーミングウォールと、前記シーミングウォールの上端から内周側に折り返されたシーミングパネルと、このシーミングパネルの内周端から下方に向けて延び前記胴体部の内周を覆うように設けられた略円筒状のチャックウォールと、このチャックウォールの下部に連なって設けられた環状溝形のカウンターシンクと、このカウンターシンクの内周側に設けられた円板状のパネルと、を有し、
前記チャックウォールの中途部分には、半径方向外方に向けて凸である第1湾曲部と、この第1湾曲部の下方に連なり半径方向内方に向けて凸である第2湾曲部とが形成されており、
前記シーミングパネルと前記シーミングウォールとの接続部分に形成され、半径方向外方に向けて凸であるシーミングウォールラジアスの外面の曲率半径が0.48mm以上0.67mm以下であり、かつ、前記第1湾曲部の内周面の曲率半径が0.3mm以上0.9mm以下であることを特徴とする缶の二重巻締め部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91190(P2012−91190A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239530(P2010−239530)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】