説明

【課題】缶に優れた意匠性を具備させることができるとともに、このような缶を確実に形成する。
【解決手段】缶10の胴部10a外周面に、第1インキ層11と、第1インキ層11を被覆する第1オーバーコート層12と、第1オーバーコート層12の表面に形成された第2インキ層13と、第2インキ層13を被覆する第2オーバーコート層14とがこの順に備えられ、第1インキ層11は、缶10の胴部10aの外周面に印刷されており、第1オーバーコート層12は、温度範囲0℃〜60℃において無色透明に維持される樹脂で構成されており、第1インキ層11および第2インキ層13の少なくとも一方は、缶10の温度が室温に対して上昇または下降すると、可逆的にその色彩が変化する、若しくは発色する熱変色性インキにより形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料等が充填される缶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料が充填される容器として、アルミニウム合金等により形成された有底筒状体の開口部に缶蓋が巻締められたいわゆる2ピース缶や、胴部を有する筒状体の缶軸方向両端部に缶蓋および底蓋が各々巻締められたいわゆる3ピース缶や、口金部にキャップが螺着されたキャップ付ボトル缶が広く使用されている。そして、これらの缶の外周面には、一般に、例えば下記特許文献1に示されるように、文字、図形若しくは記号等を表示するインキ層と、該インキ層を被覆する無色透明のオーバーコート層とがこの順に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−226337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年では、充填された飲料の需要を向上させるために、缶に優れた意匠性を具備させることが要求されている。
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、優れた意匠性を具備させることができる缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の缶は、缶の胴部外周面に、第1インキ層と、該第1インキ層を被覆する第1オーバーコート層と、該第1オーバーコート層の表面に形成された第2インキ層と、該第2インキ層を被覆する第2オーバーコート層とがこの順に備えられ、前記第1インキ層は、前記缶の胴部の外周面に印刷されており、前記第1オーバーコート層は、温度範囲0℃〜60℃において無色透明に維持される樹脂で構成されており、前記第1インキ層および前記第2インキ層の少なくとも一方は、缶の温度が室温に対して上昇または下降すると、可逆的にその色彩が変化する、若しくは発色する熱変色性インキにより形成されていることを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、缶の胴部外周面を径方向外方から見た際に、第1インキ層からの反射光は、少なくとも第1、第2オーバーコート層を通過して視認されることになる。したがって、第1オーバーコート層の厚さを異ならせることにより、前記第1インキ層からの反射光は、少なくとも明度および彩度が異なって視認されることになる。ここで、第2オーバーコート層は、缶の胴部における最外表面を構成するので、缶に良好な搬送性を具備させる等のためにその厚さを変更することは望ましくないが、第1オーバーコート層は、第2オーバーコート層により被覆されるので、第1オーバーコート層の厚さを適宜変更しても、前記搬送性等が阻害されることを抑制することができる。以上により、缶の胴部外周面に、単にインキ層とオーバーコート層とをこの順に形成した従来の構成では表現し得ない明度および彩度を有する文字等の表示された缶が得られることとなり、意匠性に優れた缶を提供することが可能になる。
【0007】
特に、第2インキ層が、第1オーバーコート層の表面における前記第1インキ層と対応する位置に形成された場合、つまり胴部外周面を径方向外方から側面視したときに、第1、第2インキ層が重なり合っている場合には、第1インキ層からの反射光は、第1、第2オーバーコート層のみならず、第2インキ層をも通過して視認されることになる。この場合、視認される第1インキ層からの反射光の色相も異なることになり、缶の胴部外周面に、単にインキ層とオーバーコート層とをこの順に形成した従来の構成では表現し得ない色相、明度および彩度を有する文字等の表示された缶が得られることとなる。
【0008】
また、前記第1インキ層および前記第2インキ層の少なくとも一方は、缶の温度が室温に対して上昇または下降すると、可逆的にその色彩が変化する、若しくは発色する熱変色性インキにより形成される。
この場合、室温に対して冷却または加熱状態にあるときに視認される文字等と、室温にあるときに視認される文字等とを異ならせることが可能になり、さらに意匠性に優れた缶を提供することができる。
【0009】
ここで、前記第1インキ層および前記第2インキ層のいずれか一方は、第1の色彩を有する非熱変色性インキにより形成された第1色彩部を備え、前記第1インキ層および前記第2インキ層のいずれか他方は、前記胴部外周面を側面視して、前記第1色彩部の内側に形成されるとともに、当該缶の温度が室温のときに、前記第1の色彩との混合色と、前記第1色彩部との色差が3.0より小さく、該缶が室温に対して冷却または加熱状態にあるときに、前記色差が3.0以上となる熱変色性インキにより形成されていることが望ましい。
【0010】
この場合、缶の温度が室温のときに、前記他方のインキ層の表示する文字等が、前記第1色彩部と略同化して、視覚に映らないあるいは映り難くなる一方、缶の温度が室温より低いときあるいは高いときに、前記他方のインキ層の表示する文字等が、前記第1色彩部の表示する文字等と独立して視覚に映ることになる。
【0011】
本発明の缶は、缶の胴部外周面に、第1印刷装置により、該缶を缶軸回りに回転させた状態で、第1インキを印刷した後、該第1インキが乾燥する前に、該第1インキを被覆するように、温度範囲0℃〜60℃において無色透明に維持される樹脂で構成されたオーバーコート塗料を塗布し、その後、これらの第1インキとオーバーコート塗料とを乾燥させて、第1インキ層と第1オーバーコート層とを形成した後に、第2印刷装置により、該缶を缶軸回りに回転させた状態で、前記第1オーバーコート層の表面の周方向における任意の位置に、第2インキを印刷した後、該第2インキが乾燥する前に、該第2インキを被覆するようにオーバーコート塗料を塗布し、その後、これらの第2インキとオーバーコート塗料とを乾燥させて、第2インキ層と第2オーバーコート層とを形成することにより製造される。
【0012】
この場合、第1インキを印刷する印刷装置と、第2インキを印刷する印刷装置とを異ならせ、前記第2印刷装置により、缶を缶軸回りに回転させた状態で、前記第1オーバーコート層の表面の周方向における任意の位置に、第2インキを印刷するので、第1インキの表示する文字等、および第2インキの表示する文字等の周方向における配置位置が缶ごとで異なることになる。したがって、胴部の外周面に表示される文字等の配置が異なる缶、つまり表示される模様の異なる缶を同一ロットで大量に生産することが可能になる。
【0013】
ところで、同一のロット内において、胴部外周面に表示される模様が各々の缶で異なる場合には、従来から行われている外面検査方法をそのまま適用することができないおそれが考えられる。すなわち、外面検査は、缶の胴部外周面を画像処理によりパターン認識し、該認識された認識パターンを、予め設定されている設定パターンと比較することによってなされるものであるが、同一のロット内において各々の缶で前記模様が異なる場合には、前記設定パターンを特定することができないため、このような外面検査をすることができないおそれが考えられる。
【0014】
しかしながら、第1インキ層および第2インキ層のいずれか一方のインキ層が、室温で無色透明になり、室温に対して冷却または加熱されたときに発色する熱変色性インキにより形成された場合には、従来から実施されている外面検査をそのまま適用することが可能になる。
すなわち、外面検査は室温下で実施されるので、この検査時においては、前記一方のインキ層の表示する文字等が無色透明となり、視覚に映らないあるいは映り難くなり、他方のインキ層の表示する文字等のみが視認されることになる。したがって、この室温下にある缶では、前記設定パターンが特定されるため、従来からの外面検査をそのまま適用することが可能になる。
【0015】
しかも、缶の温度が室温より低いときあるいは高いときには、前記一方のインキ層の表示する文字等が、前記他方のインキ層の表示する文字等と独立して視覚に映ることになるので、飲料が充填された缶が室温に対して冷却状態あるいは加熱状態で販売されているときに視覚に映る文字等と、これを購入した需要者が飲料を飲み干す等して、この缶の温度が室温になったときに視覚に映る文字等とが異なることになり、この缶に優れた意匠性を具備させることができる。
【0016】
ここで、前記第1インキおよび前記第2インキのいずれか一方は、その少なくとも一部が、第1の色彩を有する非熱変色性インキとされるとともに、缶軸方向に所定の長さを有した状態で、全周に亙って延在するように印刷され、前記第1インキおよび前記第2インキのいずれか他方は、室温のときに、前記第1の色彩との混合色と、前記第1の色彩との色差が3.0より小さく、室温に対して冷却または加熱状態にあるときに、前記色差が3.0以上となる熱変色性インキとされるとともに、前記胴部外周面を側面視して、前記一方のインキの前記周方向に延在する部分と対応する部分の内側に位置するように印刷されることが望ましい。
【0017】
この場合、前記一方のインキの少なくとも一部は、缶軸方向に所定の長さを有した状態で全周に亙って延在するように印刷されているので、前記他方のインキを胴部に印刷する際、缶を少なくとも缶軸方向に位置決めしていれば、周方向に位置決めしなくとも、胴部を側面視して、前記一方のインキの前記全周に亙って延在する部分の内側に、前記他方のインキを位置させることが可能になる。しかも、前記一方のインキが前記非熱変色性インキとされ、前記他方のインキが前記熱変色性インキとされているので、室温のときは、前記他方のインキにより形成された他方のインキ層の表示する文字等が、前記一方のインキにより形成された一方のインキ層のうち、前記全周に亙って延在する部分と略同化して、視覚に映らないあるいは映り難くなる。
【0018】
したがって、前記他方のインキが、室温下にあるときは一の色彩となり、温度が上昇または下降すると他の色彩となり、その色彩が可逆的に変化するものであり、しかも前記一方のインキを印刷する印刷装置と、前記他方のインキを印刷する印刷装置とが異なり、かつそれぞれの印刷装置により印刷するに際して、缶の周方向における位置決めをせず、同一ロット内における各々の缶において、第1インキ層と第2インキ層とを周方向にランダムに配置した場合においても、前述した外面検査の前記設定パターンを特定することが可能になり、従来から実施されている外面検査をそのまま適用することが可能になる。
【0019】
さらに、缶の温度が室温より低いときあるいは高いときに、前記他方のインキ層の表示する文字等が、前記一方のインキ層の、前記全周に亙って延在する部分の表示する文字等と独立して視覚に映ることになるので、飲料が充填された缶が冷却状態あるいは加熱状態で販売されているときに視覚に映る文字等と、これを購入した需要者が飲料を飲み干す等して、この缶の温度が室温になったときに視覚に映る文字等とが異なることになり、この缶に優れた意匠性を具備させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、缶に優れた意匠性を具備させることができるとともに、このような缶を確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態として示した缶の胴部の一部横断面図であって、図2に示すA−A線矢視断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態として示した缶の胴部を径方向外方から見た側面図であって、(a)室温状態で視覚に映る図形、および(b)冷却状態で視覚に映る図形を示すものである。
【図3】本発明に係る缶の胴部外周面にインキおよびオーバーコート塗料を塗布するための印刷装置の概略構成図である。
【図4】本発明の第2実施形態として示した缶の胴部を径方向外方から見た側面図であって、(a)室温状態で視覚に映る図形、および(b)冷却状態で視覚に映る図形を示すものである。
【図5】本発明の第2実施形態として示した缶の胴部の一部横断面図であって、(a)図4に示すB−B線矢視断面図、および(b)図4に示すC−C線矢視断面図である。
【図6】本発明に係る第2実施形態において、冷却状態にあるときの第1インキ層と第2インキ層(ベース部)との色差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。図1および図2はこの発明の第1実施形態を示すものである。
図1は、飲料等が充填される容器としての缶10の胴部10aの拡大断面図である。この缶は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金若しくはスチール等により形成された有底筒状体の開口部に缶蓋が巻締められたいわゆる2ピース缶や、胴部を有する筒状体の缶軸方向両端部に缶蓋および底蓋が各々巻締められたいわゆる3ピース缶、さらに口金部にキャップが螺着されたキャップ付ボトル缶がある。
【0023】
缶10の胴部10aの外周面に、第1インキ層11と、該第1インキ層11を被覆する第1オーバーコート層12と、第1オーバーコート層12の表面に形成された第2インキ層13と、該第2インキ層13を被覆する第2オーバーコート層14とがこの順に備えられている。
本実施形態では、図2に示すように、第1インキ層11は、胴部10aを径方向外方から見た側面視で円形を表示するとともに、缶10の温度が室温(約20℃)のときは無色透明で、缶10の温度が低下すると第2の色彩に発色し、さらに温度が室温に戻ると無色透明となる熱変色性インキにより形成されている。また、第2インキ層13は、胴部10aを径方向外方から見た側面視で三角形を表示するとともに、第1の色彩を有する非熱変色性インキにより形成されている。
【0024】
以上の構成により、缶10が室温にあるときには、第1インキ層11は無色透明となり、該インキ層11の円形は表示されず、缶10の胴部外周面には、第2インキ層13の表示する第1の色彩の三角形が視認される(図2(a))。一方、缶10が低温にあるときには、第1インキ層11は第2の色彩に発色し、缶10の胴部外表面には、第2インキ層13の表示する前記三角形と、第1インキ層11の表示する第2の色彩の円形とが表示されるとともに、前記三角形の一部に前記円形が重なり、該重なった部分が、第1の色彩と第2の色彩との混合色が視認されるようになっている。
【0025】
ここで、前記非熱変色性インキは、天然樹脂、合成樹脂の別を問わず、ワニス化可能な樹脂として、例えばエポキシ樹脂等からなるビヒクル本体と、ビヒクル本体の溶解希釈の程度に応じ、若しくは、印刷方法の違いによる乾燥性、流動性を考慮して適宜選択される例えばアルコール系の溶剤とを有するビヒクルに、第1の色彩を有する顔料が含有された構成とされている。このインキは、飲料入りの缶が使用される一般的な温度範囲0℃〜60℃では第1の色彩のまま変色しない性状を有する。
【0026】
また、前記熱変色性インキは、ジフェニルメタンフタリド類等からなる電子供与体物質、アルコキシフェノール化合物からなる電子受容体物質、およびアルコール等からなる溶媒がマイクロカプセルに内包された可逆熱変色性顔料がビヒクルに混入されたものであって、例えば約12℃より低い温度にあるときは第2の色彩に発色する一方、約12℃より高い温度、例えば室温下に置かれたときは第2の色彩が消色して無色透明となり、このような温度の変動に伴って、前記発色と前記消色とを可逆的に繰り返す性状を有する。また、このインキは、ビヒクル100重量部に対して、可逆熱変色性顔料が例えば0.5〜50重量部、好ましくは10〜40重量部混入されている。
【0027】
具体的には、前記熱変色性インキが胴部10aに塗布された缶10の温度が約12℃より低い温度になると、可逆熱変色性顔料の電子受容体物質と電子供与体物質とが互いの電子を授受することにより発色状態となり、このインキは、可逆熱変色性顔料の色彩としての第2の色彩が視覚に映るようになっている。一方、缶10の温度が12℃を超過すると、可逆熱変色性顔料が消色状態となり、無色透明となるようになっている。なお、可逆熱変色性顔料が発色状態となる温度は、前記溶媒の種類を変更することにより、この溶媒の融点を変更することによって調整することができる。
【0028】
なお、第1、第2オーバーコート層12、14はともに、飲料入りの缶が使用される一般的な温度範囲0℃〜60℃では、無色透明に維持される例えばポリエステル樹脂等により形成されている。また、第1オーバーコート層12の厚さは約1.5μm〜10μmとされ、第2オーバーコート層14の厚さは約0.5μm〜4μmとされている。
【0029】
次に、以上のように構成された缶10の前記各インキ層11、13およびオーバーコート層12、14を形成する方法について説明する。
まず、前記非熱変色性インキを印刷し、かつオーバーコート塗料を塗布する第1印刷装置Aと、前記熱変色性インキを印刷し、かつオーバーコート塗料を塗布する第2印刷装置との概略構成について説明する。
第1印刷装置Aは、図3に示すように、インキ付着機構Bと缶移動機構Cと塗布機構Dとを備えている。
【0030】
インキ付着機構Bは、各々異なる色のインキを供給する複数のインカーユニット21と、このインカーユニット21に接触してインキを写し取った後、胴部10aに接触してインキを印刷するブランケット胴28とから構成されている。複数のインカーユニット21の少なくとも1つが、前記熱変色性インキをブランケット胴28に転写するようになっている。
【0031】
インカーユニット21は、インキ源22と、ダクティングロール23と、中間ローラ24と、ゴムローラ25と、プレートシリンダ26とからなり、インキ源22からのインキをダクティングロール23、中間ローラ24、ゴムローラ25およびプレートシリンダ26の順に受けるように各々が互いに接触している。ブランケット胴28の外周面には、ブランケット27が複数枚備えられている。このブランケット27は、プレートシリンダ26の外曲面に形成された版(図示せず)に接触するとともに、胴部10aに接触する構成になっている。
【0032】
缶移動機構Cは、胴部10aを取り入れる缶シュータ29と、この缶シュータ29から供給された缶10を回転自在に保持するマンドレル31と、このマンドレル31に装着された缶10を、順次インキ付着機構B方向に回転移動させるマンドレルターレット32とからなっている。
塗布機構Dは、マンドレルターレット12を挟んで缶移動機構Cと反対側の位置に設けられ、前記印刷が施された缶胴10が接触して、その表面に無色透明なオーバーコート塗料が塗布されるようになっている。
【0033】
以上の構成において、各々のインキ源22から各々異なった色のインキが、それぞれ、前記ダクティングロール23、中間ローラ24およびゴムローラ25を介して、各プレートシリンダ26の版に付着し、これら各色のインキがブランケット27に画像として載せられ、この画像がマンドレル31に保持された缶10の胴部10aに接触しながら印刷される。
【0034】
なお、各インカーユニット21の下方には、インカーユニット21から滴下するインキを受け止めるインカーパン34が設けられ、このインカーユニット21から垂れたインキが下方のインカーユニット21のダクティングロール23、中間ローラ24およびゴムローラ25等に付着しないようにしている。
【0035】
ここで、第2印刷装置は、第1印刷装置Aと略同一の構成とされ、相違点は、複数のインカーユニット21の少なくとも1つが、前記非熱変色性インキをブランケット胴28に転写するようになっている点である。
【0036】
以上のように構成された第1印刷装置Aのインキ付着機構Bにおいて、胴部10aとブランケット胴28との接触により、缶10を缶軸回りに回転させた状態で、前記熱変色性インキを缶10の胴部10aの外周面に円形を表示するように印刷する。そして、この熱変色性インキが乾燥、硬化する前に、塗布機構Dにより、該熱変色性インキを被覆するように、胴部10aの外周面全域に亙ってオーバーコート塗料を塗布する。
その後、この缶10を第1印刷装置Aから取り出し、該缶10を図示されないオーブンに搬送し、該オーブンにおいて、前記熱変色性インキおよびオーバーコート塗料を乾燥、硬化させて、第1インキ層11および第1オーバーコート層12を形成する。
【0037】
そして、該缶10を、第2印刷装置に搬送して、該装置により、前記非熱変色性インキを、缶10の胴部10aの外周面に三角形を表示するように印刷するとともに、該インキが乾燥、硬化する前に、当該インキを被覆するように、胴部10aの外周面全域に亙ってオーバーコート塗料を塗布する。ここで、前記非熱変色性インキを胴部10aに印刷する際、この缶10の周方向における位置決めは行わないで、前記熱変色性インキの周方向における印刷位置にかかわりなく任意の周方向位置に印刷する。なお、前記非熱変色性インキおよび前記熱変色性インキの缶軸方向における印刷位置は、前記印刷装置の各構成要素の大きさ等により決定される。
その後、前述と同様にして、前記オーブンにより、前記非熱変色性インキおよびオーバーコート塗料を乾燥、硬化して、第2インキ層13および第2オーバーコート層14を形成する。
【0038】
なお、第1印刷装置Aにより、前記熱変色性インキを胴部10aの外周面に印刷するのに先立って、この胴部10aの外周面の略全面に、前記非熱変色性インキと同一材質からなるベースコート塗料を塗布するようにしてもよい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態による缶および缶の製造方法によれば、缶10の胴部10aを外側から見た際に、第1インキ層11からの反射光は、少なくとも第1、第2オーバーコート層12、14を通過して視認されることになる。したがって、第1オーバーコート層12の厚さを異ならせることにより、前記第1インキ層11からの反射光は、少なくとも明度および彩度が異なって視認されることになる。ここで、第2オーバーコート層14は、缶10の胴部10aにおける最外表面を構成するので、缶10に良好な搬送性を具備させる等のためにその厚さを変更することは望ましくないが、第1オーバーコート層12は、第2オーバーコート層14により被覆されるので、第1オーバーコート層12の厚さを適宜変更しても、前記搬送性等が阻害されることを抑制することができる。以上により、缶10の胴部10a外周面に、単にインキ層とオーバーコート層とをこの順に形成した従来の構成では表現し得ない明度および彩度を有する文字等の表示された缶10が得られることとなり、意匠性に優れた缶を提供することが可能になる。
【0040】
特に本実施形態では、胴部10aの外周面を径方向外方から側面視したときに、第2インキ層13の一部と第1インキ層11の一部とが重なり合っているので、該重なり部分においては、第1インキ層11からの反射光が、第1、第2オーバーコート層12、14のみならず、第2インキ層13をも通過して視認されることになる。この場合、視認される第1インキ層11からの反射光の色相も異なることになり、缶10の胴部10a外周面に、単にインキ層とオーバーコート層とをこの順に形成した従来の構成では表現し得ない色相、明度および彩度を有する文字等の表示された缶10が得られることとなる。
【0041】
また、第1インキ層11は、缶10の温度が室温から下降すると無色透明の状態から発色する熱変色性インキにより形成されているので、飲料が充填された缶10が冷却状態で販売されているときに、これを購入した需要者が飲料を飲み干す等して、この缶10の温度が室温まで上昇した場合に、第1インキ層11の表示する文字等が発現することになる。したがって、缶10が冷却されているときと、室温にあるときとで、缶10の胴部10a外周面に表示される色彩、文字、図形若しくは記号等を異ならせることが可能になり、さらに意匠性に優れた缶を提供することができる。
【0042】
さらにまた、前記熱変色性インキを印刷する第1印刷装置Aと、前記非熱変色性インキを印刷する第2印刷装置とを異ならせ、該第2印刷装置により、缶10を缶軸回りに回転させた状態で、第1オーバーコート層12の表面の周方向における任意の位置に、前記非熱変色性インキを印刷するので、第1インキ層11の表示する文字等、および第2インキ層13の表示する文字等の周方向における配置位置を、同一ロット内の缶ごとで異ならせることが可能になる。したがって、胴部10aの外周面に表示される文字等の配置位置が異なる缶、つまり表示される模様の異なる缶を同一ロットで大量に生産することが可能になる。
【0043】
ところで、同一のロット内において、胴部10aの外周面に表示される模様が各々の缶で異なる場合には、従来から行われている外面検査方法をそのまま適用することができないおそれが考えられる。すなわち、外面検査は、胴部10aの外表面を画像処理によりパターン認識し、該認識された認識パターンを、予め設定されている設定パターンと比較することによってなされるものであるが、同一のロット内において各々の缶で前記模様が異なる場合には、前記設定パターンを特定することができないため、このような外面検査をすることができないおそれが考えられる。
【0044】
しかしながら、第1インキ層11が、前述のように、室温で無色透明となり冷却状態で発色する熱変色性インキにより形成された場合には、従来から実施されている外面検査をそのまま適用することが可能になる。
すなわち、外面検査は室温下で実施されるので、この検査時においては、第1インキ層11の表示する図形等が無色透明となり、視覚に映らないあるいは映り難くなり、第2インキ層13の表示する図形等のみが視認されることになる。したがって、この室温下にある缶10では、前記設定パターンが特定されるため、従来からの外面検査をそのまま適用
することが可能になる。
【0045】
なお、前記実施形態では、第1インキ層11を前記熱変色性インキにより形成し、第2インキ層13を前記非熱変色性インキにより形成したが、これとは逆に、第1インキ層11を前記非熱変色性インキにより形成し、第2インキ層13を前記熱変色性インキにより形成してもよい。また、前記熱変色性インキとして、室温状態から冷却されたときに発色するものを採用したが、これに代えて、室温状態は無色透明で、加熱されたときに発色するものを採用してもよい。さらに、前記熱変色性インキとして、室温状態は一の色彩となり、冷却または加熱されたときに、他の色彩に変化するといった、温度の変動によって変色するものを採用してもよい。
【0046】
次に、本発明に係る第2実施形態について図4および図5に従い説明するが、前記第1実施形態と異なる部分についてのみ説明し、同様の部位には同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施形態に係る缶40は、その胴部40aの外周面に、第1インキ層41と、該第1インキ層41を被覆する第1オーバーコート層12と、第1オーバーコート層12の表面に形成された第2インキ層44と、該第2インキ層44を被覆する第2オーバーコート層14とがこの順に備えられている。
【0047】
本実施形態では、図4に示すように、第2インキ層44は、胴部20aを径方向外方から見た側面視で三角形を表示するように、第2の色彩を有する非熱変色性インキにより形成された図形部43と、該図形部43の周縁に連なるように形成されるとともに、第1の色彩を有する非熱変色性インキにより形成されたベース部42とを備えている。該ベース部42は、前記側面視で、所定の缶軸方向長さを有した状態で胴部40aの全周に亙って延在した第1色彩部42a(図4の2点鎖線参照)を備えている。
【0048】
第1インキ層41は、室温で前記第1の色彩となり、冷却状態で第3の色彩となるような熱変色性インキにより、前記側面視で円形を表示するように形成されている。そして、この第1インキ層41は、図4に示すように、前記側面視して、前記ベース部42の第1色彩部42aと対応する部分の内側に位置するように、胴部40aの外周面に形成されている。
【0049】
以上により、缶40が室温状態にあるときには、第1インキ層41は第1の色彩となり、しかも第1インキ層41は、前記側面視して、前記ベース部42の第1色彩部42aと対応する部分の内側に位置するように、胴部40aの外表面に形成されているので、ベース部42(第1色彩部42a)と略同化して、第1インキ層41の表示する円形が視覚に映らない、若しくは映り難くなり、缶40が冷却されたときに、第1インキ層41は第1の色彩から第3の色彩に変色し、ベース部42から発現して該層41の表示する円形が、第1インキ層41の第3の色彩と、ベース部42の第1の色彩との混合色で視認されるようになっている。具体的には、缶40が室温状態にあるときは、第1インキ層41の第1の色彩と、第2インキ層44のベース部42の第1の色彩との混合色と、ベース部42の第1の色彩との色差が3.0より小さくなり、缶40が冷却状態にあるときは、第1インキ層41の第3の色彩と、ベース部42の第1の色彩との混合色と、ベース部42の第1の色彩との色差が3.0より大きくなっている。
【0050】
ここで、本実施形態の熱変色性インキは、前記第1実施形態で述べた前記電子供与体物質等に加え、第1の色彩を有する顔料(以下、単に「顔料」という)をもビヒクルに混入している。これにより、缶40の温度が0℃から12℃の範囲(冷却状態)になると、前記可逆熱変色性顔料の電子受容体物質と電子供与体物質とが互いの電子を授受することにより発色状態となり、このインキは、可逆熱変色性顔料の色彩(第2の色彩)と前記顔料の第1の色彩との混合色としての第3の色彩が視覚に映るようになっている。一方、缶40の温度が12℃を超過すると、可逆熱変色性顔料が消色状態となり、前記顔料の第1の色彩のみが視覚に映るようになっている。
【0051】
この缶40は、第1印刷装置Aにより、第1インキ層41を形成する熱変色性インキが胴部40aの外表面に印刷されるとともに、第1オーバーコート層12を形成するオーバーコート塗料が塗布され、これらを乾燥、硬化させて第1インキ層41と第1オーバーコート層12とを形成した後に、第2印刷装置により、胴部40aの周方向における位置決めをしないで、前記各非熱変色性インキが第1オーバーコート層12の表面に印刷された後に、該各非熱変色性インキ層を被覆するように、胴部40aの外周面側の全域にオーバーコート塗料が塗布され、これらを乾燥、硬化させて第2インキ層44と第2オーバーコート層14とを形成することにより得られる。
【0052】
ここで、胴部40aの全周に亙って延在して印刷される前記非熱変色性インキ(第1色彩部42aに相当)と、前記熱変色性インキ(第1インキ層41に相当)とは、胴部40aに印刷される際、缶40の缶軸方向における位置のみが決定され、その周方向における位置は決定されず任意の周方向位置に印刷される。
【0053】
以上説明したように本実施形態に係る缶40によれば、胴部40aを径方向外方から側面視して、第1色彩部42aと対応する部分の内側に位置するように、第1インキ層41が胴部40aの外周面に形成され、かつ室温のときに前記色差が3.0より小さくなり、冷却状態で前記色差が3.0以上になるので、缶40が室温のときに、第1インキ層41の表示する文字等が、第1色彩部42aと略同化して、視覚に映らないあるいは映り難くなる一方、缶40が冷却状態にあるときに、第1インキ層41の表示する文字等が、第1色彩部42aの表示する文字等と独立して視覚に映ることになる。したがって、本実施形態に係る缶40においても、前記第1実施形態と同様に意匠性に優れた缶を提供することが可能になる。
【0054】
特に本実施形態では、第1色彩部42aを形成する前記非熱変色性インキが、缶軸方向に所定の長さを有した状態で全周に亙って延在するように印刷されているので、第1インキ層41を形成する前記熱変色性インキを胴部40aに印刷する際、缶40を少なくとも缶軸方向に位置決めしていれば、周方向に位置決めしなくとも、胴部40aを側面視して、第1色彩部42aを形成する前記非熱変色性インキの内側に、熱変色性インキを位置させることが可能になる。
【0055】
したがって、前記熱変色性インキが、室温下にあるときは第1の色彩となり、温度が下降すると第3の色彩となり、その色彩が可逆的に変化するものであり、しかも前記熱変色性インキを印刷する第1印刷装置Aと、前記非熱変色性インキを印刷する第2印刷装置とが異なり、かつそれぞれの印刷装置により印刷するに際して、缶40の周方向における位置決めをせず、同一ロット内における各々の缶40において、第1インキ層41と第2インキ層44とを周方向にランダムに配置した場合においても、前述した外面検査の前記設定パターンを特定することが可能になり、従来から実施されている外面検査をそのまま適用することが可能になる。
【0056】
ここで、本実施形態の缶40に係る前記作用効果についての検証試験を実施した。まず、この試験に供する缶40について説明する。
実施例1として、ベース部42を白色(第1の色彩)の非熱変色性インキにより形成し、第1インキ層41を、12℃以下のときに第1の藍色(第3の色彩)となり、12℃を超過したときに白色(第1の色彩)に変色する熱変色性インキにより形成した缶40を形成した。
また、実施例2として、ベース部42を白色(第1の色彩)の非熱変色性インキにより形成し、第1インキ層41を、12℃以下のときに第2の藍色(第3の色彩)となり、12℃を超過したときに白色(第1の色彩)に変色する熱変色性インキにより形成した缶40を形成した。
さらに、実施例3として、ベース部42を黄色(第1の色彩)の非熱変色性インキにより形成し、第1インキ層41を、12℃以下のときに緑色(第3の色彩)となり、12℃を超過したときに黄色(第1の色彩)に変色する熱変色性インキにより形成した缶40を形成した。
なお、実施例1および2の第1、第2の藍色とは、濃淡の違いにより判別できるものである。
【0057】
以上のように構成された実施例1〜3それぞれを室温(約20℃)の雰囲気下に置いて、その温度を徐々に低下させ、第1インキ層41を第1の色彩から第3の色彩に変色させたときに、第1インキ層41が表示する、前記第3の色彩と、ベース部42の第1の色彩との混合色の明度L*および色度a*、b*を測定した。なお、この測定は、JIS Z 8729に規定されるL*a*b*表示系(標準光源D65、視野角10°)に準拠した。また、同様にしてベース部42単独での明度L*および色度a*、b*についても測定した。そして、それぞれ41、42について得られた明度L*および色度a*、b*に基づいて、これら41、42の色差ΔEを算出した。この色差ΔEの算出は、第1インキ層41の明度L*および色度a*、b*と、ベース部42のそれらとの差、つまりΔL*、Δa*、およびΔb*を下記式に代入することにより算出した。
ΔE=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2)1/2
【0058】
得られた結果を図6に示す。
この図から、実施例1から3は色差ΔEが2.5より大きく5より小さいことが確認できる。ここで、一般に2色あると視認できる色差ΔEは2.4以上であることが知られているが、前述した冷却の過程で、肉眼により胴部40aを観察したところ、実施例1〜3のうち最も色差の大きい実施例1でも、変色の過程を観察していたということもあり、第1インキ層41はベース部42と略同化して、第1インキ層41により表示される円形が視認できなくなることが確認された。これにより、第1インキ層41がベース部42と略同化し視覚に映らない、あるいは映り難くなるのは、第1インキ層41とベース部42との色差ΔEが3.0より小さくなる場合であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
缶に優れた意匠性を具備させることができるとともに、このような缶を確実に形成することが可能になる。
【符号の説明】
【0060】
10、40 缶
10a、40a 胴部
11、41 第1インキ層
12 第1オーバーコート層
13、44 第2インキ層
14 第2オーバーコート層
42a 第1色彩部
A 第1印刷装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶の胴部外周面に、第1インキ層と、該第1インキ層を被覆する第1オーバーコート層と、該第1オーバーコート層の表面に形成された第2インキ層と、該第2インキ層を被覆する第2オーバーコート層とがこの順に備えられ、前記第1インキ層は、前記缶の胴部の外周面に印刷されており、
前記第1オーバーコート層は、温度範囲0℃〜60℃において無色透明に維持される樹脂で構成されており、
前記第1インキ層および前記第2インキ層の少なくとも一方は、缶の温度が室温に対して上昇または下降すると、可逆的にその色彩が変化する、若しくは発色する熱変色性インキにより形成されていることを特徴とする缶。
【請求項2】
請求項1に記載の缶において、
前記第1インキ層および前記第2インキ層のいずれか一方は、第1の色彩を有する非熱変色性インキにより形成された第1色彩部を備え、
前記第1インキ層および前記第2インキ層のいずれか他方は、前記胴部外周面を側面視して、前記第1色彩部の内側に形成されるとともに、当該缶の温度が室温のときに、前記第1の色彩との混合色と、前記第1色彩部との色差が3.0より小さく、該缶が室温に対して冷却または加熱状態にあるときに、前記色差が3.0以上となる熱変色性インキにより形成されていることを特徴とする缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−11826(P2011−11826A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187297(P2010−187297)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【分割の表示】特願2005−18235(P2005−18235)の分割
【原出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【Fターム(参考)】