説明

置換芳香族化合物を選択的にオルト−フッ素化するための方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の技術分野】本発明は、置換芳香族化合物のオルト位にフッ素原子を位置特異的に導入する新規な親電子的方法を記述するものである。オルト−メタル化した置換芳香族化合物を親電子性弗素化試薬と反応させることで行われる弗素化方法は、従来技術の親電子的フッ素化方法に伴なう悪い選択性および収率の問題点を取り除くものである。
【0002】
【発明の背景】有機物、特にカルバニオン性基質に対して位置選択的であるフッ素化剤は、薬理学的に活性な化合物を製造するのに特に有用である。多くの親電子的フッ素化剤が知られているが、それらは高価で、取扱いが難しく、たびたび不十分な選択性を与えるために、限られた工業的成功しか得られていない。しかし、錯体を作る有機化合物に位置特異的にフッ素原子を導入するフッ素化学を使用することに伴なう多くの利点およびそれから得られたフッ素含有有機化合物の独特の性質によって、改良フッ素化方法を発展させるために著しい努力が試みられた。
【0003】Balz-Schiemann反応は、芳香族環に位置する芳香族アミン官能基をフッ素によって置換するフッ素を芳香族環に導入する古典的方法を構成する。フッ素原子をテトラフルオロホウ酸の存在下に、対応する芳香族アミンのジアゾ化反応によって広範囲の有機化合物に導入することができる。フッ素化した芳香族化合物を製造する反応ならびにその他の方法の総説は、Aldrichimica Acta, 21 (1988) 3に発表されている。
【0004】既知の親電子的フッ素化試薬は、低温(例えば、−78℃)に於いてハロゲン化されたまたはその他の適切な溶剤中に溶解されたトリフルオロメチル次亜フッ素酸塩(CF3OF)セシウムフルオロオキシ硫酸塩(C3SO4F)およびパークロリルフルオリド(FClO2)のフッ素溶液を包含する。これらの親電子的なフッ素化剤の総説は、S.T. Purrington等のChem. Rev., 86 (1986), 997およびG.G. Furinの“New Fluorinating Agents in Organic Synthesis”に発表されている。キセノンジフルオリド(XeF2)は、可能性としての有毒性は少ないが、余りに高価なので、多くの施用において利用することができない。
【0005】最近、親電子的フッ素化剤としてN−Fクラスの化合物、すなわち、N−F結合を有する化合物を使用することに注意が向けられるようになった。このクラスの初期の型の化合物は、パーフルオロ−N−フルオロピペリジン(R.E.BanksおよびG.E. Williamson, Chem. Ind,〔London〕, 1964およびR.E. Banksら J. Chem. Soc., Perkin Trans. I,〔1972〕, 1098)である。しかしながら、この化合物は、無水のフッ化水素中のピリジン(約8%収率)または2−フルオロピリジン(約13%収率)の何れかの電気化学的フッ素化によってのみ低収率で得ることができる。さらに、この試薬は、いくつかの応用には不適当に活性であって、カルバニオン性基質へのフッ素の導入は、基質に対する親電子的フッ素源と競合するイミドイル、フロリドパーフルオロ−1−アザシクロヘキセ−1−エンを遊離することになりうる。同様な問題は、親電子的フッ素化剤としては、例えば、パーフルオロ(N−フルオロ−2,6−ジメチルピペリジン)およびパーフルオロ−N−フルオロモルホリン、(R.E. Banks等、J. Chem. Soc. Perkin Trans. I〔1988〕, 2805)およびポリ〔パーフルオロ−(N−フルオロピペリジン−4−イルエチレン)〕(R.E. Banks等 J. Fluorine. Chem., 〔1986〕, 34, 281)のような類似の化合物を使用することを妨げている。
【0006】米国特許第4,828,764号は、N−フルオロ−N−パーフルオロアルキルまたは式RfSO2NFRで示されるパーフルオロアリールスルホンアミドの構造を有する親電子的フッ素化剤を開示している(式中、Rfはパーフルオロ化C1〜C30アルキル、C3〜C30シクロアルキル、C8〜C14アリール基で置換されたC1〜C10アルキル、またはC6〜C14アリール基、そしてRはC1〜C30アルキル、C3〜C30シクロアルキル、C6〜C14アリールで置換されたC1〜C10アルキル、または場合により、フッ素を含有する1個以上の不活性置換基で置換されたC6〜C14−アリール基を示す)。Rfがトリフルオロメチルである場合、Rはこれとは別に、パーフルオロメチルスルホンアミド基によって示すことができる。好ましいフッ素化剤は、N−フルオロビス−(トリフルオロメタンスルホン)イミド(Rf=CF3およびR=CF3SO2)およびN−フルオロ−N−メチル−トリフルオロメタンスルホンアミド(Rf=CF3およびR=CH3)である。前者の化合物(またDesMarteau試薬として知られた)は、室温でベンゼンをフルオロベンゼンにフッ素化し得る強力な親電子的フッ素化剤であるが、容易に利用できる物質から8または9段階の反応工程をも必要とし、これでの製造は冗長なものである。
【0007】ペンシルバニア州アレンタウンのAir Products and Chemicalsに譲渡された米国特許第5,086,178号は、N−Fクラスのいろいろな親電子的フッ素化剤を開示し、新規なフッ素化ジアザビシクロアルカン誘導体、それらの製造のための方法およびフッ素化剤としてのそれらの使用を提供している。代表的な誘導体は、1−クロロメチル−4−フルオロ−1,4−ジアゾニアビシクロ〔2,2,2〕オクタンジトリフラートである。
【0008】芳香族化合物上に位置する所望の置換基のオルト位にフッ素原子を位置特異的に導入し得る効果的な親電子的フッ素化方法を見出すことに、相当な工業的の関心が存在する。ここで、試薬は安定で、比較的安価で、現在市販されている出発原料から容易に得られるものであるべきである。
【0009】
【発明の概要】本発明は、オルト−メタル化した置換芳香族化合物を生成するのに十分な反応条件下、オルト−メタル化反応を導きうる置換基を含有する芳香族化合物をメタル化試薬と接触させること;オルト−フッ素化した置換芳香族化合物を生成するのに十分な反応条件下、オルト−メタル化した置換芳香族化合物を親電子的フッ素化試薬と反応させること;およびオルト−フッ素化した置換芳香族化合物を回収することからなるオルト−フッ素化した置換芳香族化合物を選択的に製造する方法に関する。
【0010】本発明の方法は、従来技術の親電子的フッ素化方法で使用されなかった独特な反応中間体を用いて、例えば、貧弱な選択性のような従来技術の親電子的フッ素化方法に伴なう諸問題を解決するものである。さらに詳細には、従来技術の親電子的フッ素化方法が、置換芳香族化合物を所望の親電子的フッ素化剤で処理して直接に目的のフッ素化生成物に進行するに対し、本発明者らの方法は、オルト−メタル化した置換芳香族中間体を経由し、次いで目的の親電子的フッ素化剤に供されて進行するのである。
【0011】
【発明の詳述】本発明は、置換芳香族化合物のオルト位にフッ素原子を位置特異的に導入する新規な方法を記述するものである。特許請求された方法は、従来技術の親電子的フッ素化方法でこれまで使用されなかった独特な反応中間体を用いて、例えば、貧弱な選択性のような従来技術の親電子的フッ素化方法に伴なう諸問題を解決するものである。さらに詳細には、従来技術の親電子的フッ素化方法が、置換芳香族化合物を所望の親電子的フッ素化剤で処理して直接に目的のフッ素化生成物に進行するのに対し、本発明者らの方法は、オルト−メタル化した置換芳香族中間体を経由し、次いで目的の親電子的フッ素化剤に供されて進行するのである。
【0012】オルト−フッ素化した置換芳香族化合物を選択的に製造する本発明者らの方法は、オルト−メタル化した置換芳香族化合物を生成するのに十分な反応条件下、オルト−メタル化反応を導き得る置換基を含有する芳香族化合物をメタル化試薬と接触させること;
オルト−フッ素化した置換芳香族化合物を生成するのに十分な反応条件下、オルト−メタル化した置換芳香族化合物を親電子的フッ素化試薬と反応させること;およびオルト−フッ素化した置換芳香族化合物を回収することからなることを特徴とする。さらに詳しく言えば、本発明は(a) 式Ar−R′(式中、Arは芳香族基であり;R′はスルホニル、第二アミド、第三アミド、エーテル、スルホン、カルバメート、フッ素およびトリフルオロメチルから選ばれた置換基である)によって示される置換芳香族化合物を式R−M〔式中、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛またはカドミウムから選ばれた金属であり;Rは炭素原子1〜10個を有する第一、第二もしくは第三アルキル基またはジアルキルアミド基(ここでアルキルは炭素原子1〜10個を有する基である)であり;Mがリチウム、ナトリウムまたはカリウムである場合にはn=1でありそしてMがマグネシウム、亜鉛またはウドミウムである場合にはn=2である〕によって示されるメタル化試薬と接触させてオルト−メタル化した置換芳香族化合物を生成し;(b) そのオルト−メタル化した置換芳香族化合物をN−フルオロキヌクリジニウムトリフレートまたはN−フルオロ−パーフルオロメチル−スルホンイミドと反応させてオルト−フッ素化した置換芳香族化合物を得、次いで(c) その生成物を回収することからなるオルト−フッ素化した置換芳香族化合物を選択的に製造する方法に関する。
【0013】本方法の最初の段階において、置換基または直接にオルト−メタル化し得る原子を含有する芳香族化合物を、適切なメタル化試薬と反応させる。広範囲の置換した芳香族化合物を本方法によってフッ素化することが可能である。芳香族化合物の唯一の構造的な必要条件は、明細書にあるメタル化試薬と反応させる場合、その化合物が芳香族化合物上に位置する置換基に対し、選択的にオルト位にメタル化を配向し得る置換基を含有することである。
【0014】本発明の方法による位置特異的にフッ素化し得る代表的な置換芳香族化合物は、式Ar−R′(ここで式中、Arは芳香族基であり、そしてR′はスルホニル、第二アミド、第三アミド、エーテル、スルホン、カルバメート、フッ素およびトリフルオロメチルから選択された置換基である)によって示される化合物である。当該分野の通常の技術の人達は、過度の実験をすること無しに、オルト−メタル化に配向し得るその他め適当な置換基を容易に確定することができる。直接的メタル化反応のさらなる知識は、D.W.Slocum等による文献、J.Org.Chem.,41(1976)3653に求めることができる。置換した芳香族化合物に関するメタル化試薬の典型的な量は、普通1:1〜10:1、好ましくは、1:1〜2:1の範囲内にある。
【0015】既述の置換芳香族化合物を式Rn−Mによって示されたようなメタル化試薬と反応させる(式中、Mはナトリウム、カリウム、マグネシウム、リチウム、カドミウムまたは亜鉛であり、そしてRは炭素原子の1〜約10個を有する第一、第二または第三アルキルであるかまたは炭素原子の1〜約10個を有するアルキル基を持つジアルキルアミドである)。R基に付いている下付きのnは、荷電を中性に保つに要するR基の数を表わし、そして特定の金属次第で変わるであろう。例えば、Mがリチウム、カリウムまたはナトリウムである場合、nは1であり、そしてMがカドミウム、亜鉛またはマグネシウムである場合、nは2である。好ましい態様では、メタル化試薬は式Rn−Mで示される。式中、Mはナトリウム、カリウム、マグネシウム、リチウム、カドミウムまたは亜鉛から選ばれた金属であり;Rは炭素原子1〜約6個を有する第一、第二または第三アルキルまたはジアルキルアミドであり;そしてnは荷電を中性に保つに要した数であり、それは当該分野の通常の技術の人達によって容易に推測できる。また、当該分野の通常技術の人は、所定の置換基が置換基のオルト位置に直接にメタル化するかどうかを容易に確定することができる。この目的に最も普通に使用されるメタル化試薬は、アルキルリチウムおよびリチウムアミドタイプ化合物(n−BuLi,sec−BuLi,tart−BuLi,リチオジイソプロピルアミド等)である。
【0016】メタル化反応工程を行なうためのほかの態様では、金属−金属交換反応は有機リチウム化合物の種々の金属塩との反応を経由して、リチウムイオンの他の金属種との置換反応を伴ないながら行われる。ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カドミウムおよび亜鉛がこの目的のために使用されてきた。メタル化反応の態様の各々は、−78℃〜250℃の範囲内の温度、好ましくは使用した特定溶剤の還流温度で、例えば、テトラヒドロフラン(THF)またはジエチルエーテルのような、反応体に不活性な溶剤中で、窒素またはアルゴンのような不活性な雰囲気下、好都合に行うことができる。メタル化工程を、目的とするオルト位にメタル化した置換芳香族化合物を生成するのに十分な反応条件下行う。これは、例えば、温度および圧力のような反応条件は、本方法の工程を実施するのに決定的ではないことを意味しており、このような条件は当該分野の人の持っている通常の技術で容易に確定することができる。
【0017】本方法の第2工程は、目的とするオルト−フッ素化した置換芳香族化合物を生成するのに十分な反応条件下、オルト−メタル化した置換芳香族化合物を適切なフッ素化試薬と反応させることからなる。強力な求核種または塩基種によって分解されない親電子的フッ素化剤はいずれもこのやり方で反応するであろうが、この目的のために使用されてきた好ましい親電子的フッ素化試薬は、N−フルオロキヌクリジニウムトリフレート(NFQT)およびN−フルオロ−パーフルオロメチル−スルホンイミドである。最後に、目的とする生成物は慣用の方法で反応混合物から分離される。
【0018】フッ素化反応は、不活性雰囲気下、その試薬を溶剤に溶解するかまたはそのままのいずれかでオルト−メタル化芳香族化合物の溶液に導入することおよび反応が完了するまで撹拌することを含めて常法で行うことができる。フッ素化工程を、目的とするオルト−フッ素化した置換芳香族化合物を生成するのに十分な反応条件下で行う。これは、例えば、温度および圧力のような反応条件が、本方法の工程を実施するのに決定的でないことを意味しており、この条件は当該分野の人の持っている通常の技術で容易に確定することができる。フッ素化反応は、−78℃〜250℃の範囲内の温度で行うことができ、好ましくは、使用した特定の溶剤の還流温度で行うことができる。オルト位にメタル化した置換芳香族化合物に関するフッ素化試薬の典型的な量は、普通1:1〜10:1、好ましくは、1:1〜2:1の範囲内にある。
【0019】好ましい態様において、錯体生成剤はフッ素化反応工程を行う前に、反応混合物に加えられる。例えば、テトラメチレンジアミン(TMEDA)のような錯体生成剤は、相当にフッ素化工程を加速することが見出された。錯体生成剤という用語は、当該分野で良く知られているが、好適な錯体生成剤は当業者により容易に確定することができる。
【0020】以下に実施例を示し、本発明の種々の態様をさらに説明する。これらの実施例はこれまで記述された方法の本質を説明するために提供されるものであるが、本発明の請求の範囲を限定するものではない。すべての試薬類は、市販かまたは文献にある手法で製造することができる。特に断わらない限り、明細書および実施例における部とパーセントは重量で示される。
【0021】実施例1N−フルオロキヌクリジニウムトリフレート(NFQT)からの2−フルオロアニソールの製造アニソール540mg(6.5mmol)をジエチルエーテル10mlに溶解した溶液を、窒素下、撹拌バーと窒素導入口を備えた3頚50ml丸底フラスコ中に加えた。溶液をヘキサン中のn−BuLi(2.5M溶液の0.2ml)で処理し、混合物を24時間還流させた。この溶液をジエチルエーテル(窒素下、3頚丸底フラスコに入っている10ml)中のNFQTの懸濁液に加えた。テトラメチレンジアミン(58mg;0.5mmol)を加え、24時間撹拌した。混合物をエーテル50mlに注ぎ、10%硫酸10mlで洗浄し、乾燥(MgSO4)し、真空で蒸発させた、粗製生成物を分取TLC(展開剤として1:9 エーテル:ヘキサン)で精製し、純粋な生成物36mg(60%)を得た。1H NMR(CDCl3) δ 3.90(s,3H), 6.80−7.15(m,4H); 19F NMR(CDCl3) δ−136.0 (s)。マススペクトルm/z(賦存比)126.05(82% M+) 127.05(5.9% M++1)。
【0022】実施例2N−フルオロ−ビスパーフルオロメチル−スルホンイミドからの2−フルオロアニソールの製造2−リチオアニソール0.5mmolをジエチルエーテル10mlに溶解した溶液を、実施例1によってアニソールとn−BuLiから製造した。エーテル(10ml)に溶解したN−フルオロ−ビスパーフルオロメチル−スルホンイミド(0.5mmol)の溶液を窒素下、滴下して加え、室温で24時間撹拌した。混合物をエーテル50mlで希釈し、10%硫酸10mlで洗浄し、乾燥(MgSO4)し、真空で蒸発させた。実施例1で挙げたような分取TLCによる精製で、2−フルオロアニソールの36mg(60%)を得た。生成物のスペクトルによる特性決定では、実施例1に従った方法で得られたものと同一であった。
【0023】実施例3N,N−ジメチル−2−フルオロベンツアミドの製造ヘキサン中のn−BuLi(0.5mmol)の溶液を、栓、窒素導入口および隔膜を備えた3頚丸底フラスコ中のTHF(75mg、0.5mmol、10ml)に溶解したN,N−ジメチルベンツアミドの溶液に加えた。混合物を1時間撹拌した。n−BuLiのほかの0.5mmolを加え、0℃で16時間撹拌を続けた。N−フルオロキヌクリジニウムトリフレート(125mg、0.5mmol)を加え、続いてテトラメチレンジアミン150μL(0.1mmol)を加え、混合物を室温で16時間撹拌した。溶液をエーテル(50ml)で希釈し、10%硫酸10mlで洗浄し、乾燥(MgSO)し、真空で蒸発させた。残留物を分取TLC(エーテル/ヘキサン1:9)で精製し、生成物91mg(50%)を得た。H NMR(CDCl)δ0.95(t,3H),1.35−1.45(m,2H),1.65一1.76(m,2H),2.95(t,2H),7.4−7.48(m,1H),7.5−7.58(m,1H),7.90−7.95(m,1H),7.95−8.0(m,1H);19F NMR(CDCl/CFCl)δ−189.9(m)。マススペクトルm/z(賦存比)180.05(4.2M)。
【0024】実施例4N,N−ジエチル−2−フルオロベンツアミドの製造THF(10ml)中に溶解したN,N−ジエチルベンツアミド(885mg、5mmol)の溶液を、栓、窒素導入口および隔膜を備えた3頚丸底フラスコ中で窒素下、−78℃でシクロヘキサン中に溶解したsec−BuLi(1.3Mの5mmol)の溶液とテトラメチレンジアミン(750μl、50mmol)で処理した。溶液を1時間撹拌した。NFQT (1.25g、5mmol)を加え、室温とし、そして16時間撹拌した。混合物をエーテル(50ml)で希釈し、10%硫酸10mlで洗浄し、真空で蒸発させた。粗製生成物を分取TLC(展開剤としてエーテル/ヘキサン1:9)で精製し、純粋な生成物の735mg(75%)を得た。H NMR(CDCl)δ1.0(t,3H),1.05(t,3H),3.20(q,2H),3.35(q,2H),7.3−7.55(m,3H),7.70−7.80(m,1H);19F NMR(CDCl)δ−109.5(s)。
【0025】実施例5N,N−ジメチル−2−フルオロベンゼンスルホンアミドの製造ヘキサン中のn−BuLi(2.5Mの0.2mol、0.5mmol)の溶液を、窒素下0℃で、窒素導入口、栓および隔膜を備えた50mlの3頚丸底フラスコ中のN,N−ジメチルベンゼンスルホンアミドのTHF溶液(10ml中の93mg、0.5mmol)に加えた。30分後、テトラメチレンジアミン(75μl、0.5mmol)を加え、続いてNFQT(125mg、0.5mmol)を加えた。混合物を室温で16時間撹拌した。次いで、溶液をエーテル(50ml)中に注ぎ、10%硫酸10mlで洗浄し、乾燥(MgSO4)し、そして真空で蒸発させた。分取TLC(1:9、エーテル:ヘキサン)で精製し、純粋な生成物87mg(85%)を得た。1H NMR(CDCl3) δ 2.85(s,6H), 7.10−7.25(m,1H), 7.30−7.40(m,1H), 7.55−7.70(m,1H), 7.9−8.0(m,1H); 19F NMR(CDCl3) δ−60.4(s)。マススペクトルm/z(賦存比)203.05(100% M+), 204.05(13.5 M++1), 205.05(4.6 M++2)
【0026】実施例62−フルオロ−3−パーフルオロメチルアニソールの製ヘキサン中のn−BuLi(2.5Mの0.2mol、0.5mmol)の溶液を3頚丸底フラスコに入れたエーテル10ml中に溶解したトリフルオロメチルアニソール(0.5mmol、88.1mg)の溶液に加えた。テトラメチレンジアミン(75μl、0.5mmol)を加え、混合物を4時間還流させた。この溶液をNFQTの125mg(0.5mmol)に加え、室温で撹拌した。混合物をエーテル50mlで希釈し、10%硫酸10mlで洗浄し、乾燥(MgSO4)し、そして真空で蒸発させた。残留物を分取TLC((1:9)、エーテル/ヘキサン)で精製し、純粋な生成物の69mg(71%)を得た。1H NMR(CDCl3) δ 3.90(s,3H), 7.05−7.20(m,3H);19F NMR(CDCl3) δ−60.5(s,3F), −136.3(s,1F)。マススペクトルm/z(賦存比)194.05(100% M+), 179.05(38.6% M+-CH3)。
【0027】前出の実施例で示したように、親電子的フッ素化工程を行なう前にメタル化反応中間体を利用する本発明の方法は、位置特異的な制御中間体を経て進行しない従来技術の親電子的フッ素化反応方法に伴う問題点を解決するものである。これまで、本発明を記述してきたが、特許証として適当と思われるものを請求の範囲内に示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(a) 式Ar−R′(式中、Arは芳香族基であり;R′はスルホニル、第二アミド、第三アミド、エーテル、スルホン、カルバメート、フッ素およびトリフルオロメチルから選ばれた置換基である)によって示される置換芳香族化合物を式R−M〔式中、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛またはカドミウムから選ばれた金属であり;Rは炭素原子1〜10個を有する第一、第二もしくは第三アルキル基またはジアルキルアミド基(ここでアルキルは炭素原子1〜10個を有する基である)であり;Mがリチウム、ナトリウムまたはカリウムである場合にはn=1でありそしてMがマグネシウム、亜鉛またはカドミウムである場合にはn=2である〕によって示されるメタル化試薬と接触させてオルト−メタル化した置換芳香族化合物を生成し;
(b) そのオルト−メタル化した置換芳香族化合物をN−フルオロキヌクリジニウムトリフレートまたはN−フルオロ−パーフルオロメチル−スルホンイミドと反応させてオルト−フッ素化した置換芳香族化合物を得、次いで(c) その生成物を回収することからなるオルト−フッ素化した置換芳香族化合物を選択的に製造する方法。
【請求項2】 工程(b)による反応が錯体生成剤の存在下に行われる請求項1記載による方法。
【請求項3】 工程(a)および(b)による反応が−78℃〜250℃の温度で行われる請求項1記載による方法。

【特許番号】第2535719号
【登録日】平成8年(1996)7月8日
【発行日】平成8年(1996)9月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−128568
【出願日】平成5年(1993)5月31日
【公開番号】特開平6−40952
【公開日】平成6年(1994)2月15日
【出願人】(591035368)エアー.プロダクツ.アンド.ケミカルス.インコーポレーテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【参考文献】
【文献】特開昭58−929(JP,A)