説明

義歯及び義歯粘膜床の製造方法

【課題】患者に適合した義歯作りから職人的な技巧が関与する割合を低減する。
【解決手段】熱可塑性プレート10を加圧成型することにより患者の顎模型5に適合した義歯粘膜床11を作り(S15〜S19)、この義歯粘膜床11にワックス25を盛った後に人工歯24を植設してワックス義歯20を作り(S20,S21)、このワックス義歯20のワックス25をレジンで置換して義歯を作る(S22〜S25)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は義歯及び義歯粘膜床の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の典型的な義歯製造方法を開示している。この特許文献1で説明している従来の義歯製造方法の概要を図13を参照して説明すると、患者の口腔を歯科用歯形トレイ及び印象材を使って転写し(ステップS1)、次いで、この印象材の中に石膏を流し込んで顎模型を作る(ステップS2)。この顎模型は、これをベースに義歯が作成されるが、場合によっては、この顎模型から、その複製である作業模型を作り、この作業模型をベースに義歯を作成する場合もある。以下、「顎模型」という用語は、患者の口腔を転写して作成した本模型と、この本模型を複製した作業模型の両者を含むものとする。
【0003】
義歯の製造は、先ず、ワックス義歯の作成から始まる。すなわち、顎模型の歯肉部にロウ(ワックスとも呼ばれている。)を盛ってロウ堤を作る(ステップS3)。このステップS3に関し、顎模型の上に薄く歯科用レジンを塗布し、その上にロウを盛る方法も知られている。その後、上下のロウ堤付き顎模型を咬合器に取り付けて、この咬合器を使って患者の噛み合わせ位置と一致するようにロウ堤の高さを調整した後に、人工歯をロウ堤に植設してワックス義歯を作る(ステップS4)。
【0004】
ワックス義歯は、これに含まれるワックス成分を除去(顎模型に歯科用レジンを塗布した場合には、この歯科用レジンとワックス成分を除去)して、これをレジンで置換することにより義歯が完成する。すなわち、必要に応じてワックス義歯を患者に装着して高さや人工歯の色などを確認した後に、ワックス義歯をフラスコに埋没させて石膏で上下の分割型を作る(ステップS5)。次に、上下の分割型を加熱してロウ(ワックス)を除去し(ステップS6)、更にステップS7で分割型の形状面を綺麗にした後に、上下の分割型を型合わせしてキャビティ内にレジンを充填し(ステップS8)。レジンを重合させた後に上下の分割型から成型品(人工歯を備えた義歯)を取り出す(ステップS9)。
【0005】
特許文献2も従来の典型的な義歯製造方法と実質的に同じ従来方法を開示している。患者の顎模型である作業模型に樹脂又はコンパウンドで基礎床を作り、次いで、コンパウンドを盛り上げて歯肉部(咬合堤)を備えた咬合床を作る。必要に応じて咬合床を患者の口腔内に装着して高さや方向などを調整し、次いで咬合器を使って調整した後に人工歯を植設してワックス義歯を作る。そして、このワックス義歯をフラスコ内に埋没して上下の分割型を作り、この分割型に人工歯を残して、分割型から基礎床を含む咬合床を除去し、分割型の形状面を綺麗にした後に、上下の分割型を型合わせしてキャビティ内にレジンを充填した後にこれを硬化させる。これにより義歯が完成する。なお、レジンの重合方法は、上述した分割型を使う以外に種々の方法が開発されている。
【特許文献1】特開2003−159261号公報
【特許文献2】特開平06−63965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来例から分かるように、義歯の作成は、その製造過程で、必要に応じてワックス義歯を実際に患者に装着して、患者に合致しているか否かを調べる場合もあるが、仮にワックス義歯を患者に装着する試適を経たとしても、その後に数多くの工程を経て始めて義歯が完成することから、患者の口腔に合致した義歯を作ることは難しい。特に、典型的には石膏で分割型を作る工程(上記ステップS4)、ワックス義歯からワックス成分をレジンで置換する工程(ステップS5)が存在しており、石膏やレジンが固まるときの体積変化(例えばレジンが硬化する際の収縮)は、患者の口腔にピッタリと適合する義歯を作ることを難しくしており、技工士は職人的な技巧を使って義歯作りを行っているのが実情である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、患者に適合した義歯作りから職人的な技巧が関与する割合を低減できる義歯及び義歯粘膜床の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術的課題は、本発明の一つの観点によれば、
熱可塑性プレートを加熱して軟化させた状態で患者の顎模型に圧力下で密着させて熱可塑性プレートを成形する熱可塑性プレート成形工程と、
前記成形した熱可塑性プレートを義歯の輪郭に切断して義歯粘膜床を作る義歯粘膜床生成工程と、
該義歯粘膜床にワックスを盛ると共に人工歯を植設してワックス義歯を作るワックス義歯作成工程とを有し、
該ワックス義歯に含まれる前記ワックスをレジンに置換することにより義歯を製造することを特徴とする義歯製造方法を提供することにより達成される。
【0009】
また、本発明の他の観点によれば、
製造する義歯の一部を構成して該義歯の粘膜面を構成する義歯粘膜床の製造方法であって、
熱可塑性プレートを加熱して軟化させた状態で患者の顎模型に圧力下で密着させて成形し、患者の口腔に適合するように切り取ることにより形成されることを特徴とする義歯粘膜床の製造方法を提供することにより達成される。
【0010】
すなわち、本発明によれば、患者の顎模型を転写する形式で成形した義歯粘膜床が義歯の一部を構成することから、その後の様々な工程を経て作られる義歯に対して、患者の口腔に適合させるために職人的な技工の必要性を大幅に低減することができる。
【0011】
具体的には、患者の顎模型を転写した義歯粘膜床の上にワックス(ロウ)を盛ってワックス義歯を作り、このワックス義歯の義歯粘膜床を残して、義歯粘膜床に積層する形式でワックスをレジンに置換することにより義歯を作ることから、職人的な技巧を要することなく患者の歯肉部に適合した義歯を作ることができる。また、患者の歯肉部に接する最も重要な土台を構成する義歯粘膜床が最終製品である義歯の一部を構成することから、義歯の製造過程の初期段階である義歯粘膜床を作る工程が終わった段階で、これを患者に試適して患者の声を聞き、もし患者が気に入らなければ、その段階で義歯粘膜床を作り直すことができる。
【0012】
換言すれば、従来の義歯製造方法では、顎模型から作る基礎床は、最終的にはレジンで置換される中間造形物であり、仮に基礎床を患者に試適して調整したとして、その後の工程で印象材やレジンの収縮などによって微妙に狂いが生じることもあり、結局のところ、患者への適合性(装着感の良否)は義歯が完成しないと分からない、というのが実情であり、もし患者の満足が得られない義歯であるときには最初から作り直す必要があった。
【0013】
これに対して、本発明の義歯製造方法によれば、患者の顎模型を直接的に転写した義歯粘膜床を取り込んで義歯を作ることから、患者の歯肉部への適合性に関する狂いが生じ難く、更に、必要に応じて義歯粘膜床ができた段階で患者に試適してその適合性を確認することで、もし適当でなければ義歯粘膜床を作り直せばよく、又は、この試適の段階で患者が好ましいと感じる義歯粘膜床に微調整することで、患者の期待通りの装着感を備えた義歯を容易に作ることができる。本発明は部分義歯、総義歯の区別無く適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、義歯の製造方法を説明するが、それに先だって、本発明を適用して製造するのが好ましい部分義歯を図1〜図3に基づいて説明する。図1を参照して、部分義歯100は、従来と同様に合成樹脂製の歯列床(咬合床)101を有し、この歯列床101に人工歯102が植設されている。歯列床101は、後の説明から分かるように、ワックス義歯の義歯粘膜床をそのまま使って、これにレジンを積層することにより作られており、このレジンによって人工歯102が固定されている。
【0015】
部分義歯100は、これに隣接する1本又は複数本の健康歯103(維持歯)(図2)まで延びる延長部分104を有し、この延長部分104は、外側延長部分104Aと舌側延長部分104Bを含む。外側延長部分104A及び舌側延長部分104Bは、部分義歯100を適用する患者の歯茎105(図3)を挟んで、その外側及び舌側に位置し、これらの延長部分104A、104Bは、共に、その内側面つまり患者の歯茎105に当接する粘膜面は患者の歯茎105に吸着した状態となるのが好ましい。
【0016】
外側及び舌側の延長部分104A、104Bは、そのいずれか一方又は双方が合成樹脂又は金属で作られる。両方の延長部分104A及び/又は104Bを合成樹脂で作る場合には、典型的には、上述した義歯粘膜床によって構成される。延長部分104A、104Bには、その少なくとも一方に、最も好ましくは双方に、維持歯103のアンダーカット部分103a(図3)と相補的な形状に成形された弾性部材106(クッション性を備えた典型的にはシリコンゴムのような樹脂部材)が設けられる。このシリコンゴム106は、維持歯103のアンダーカット部分103aと係合する従来の金属製バネ(クラスプ)に代わるものである。勿論、内外の延長部分104A、104Bの双方又はいずれか一方を金属で作った場合、例えば外側延長部分104Aを合成樹脂で作り、舌側延長部分104Bを金属で作った場合であっても、外側延長部分104Aにシリコンゴム106を添設すると共に金属製の舌側延長部分104Bにシリコンゴム106を添設するのがよく、この双方のシリコンゴム106で1本又は複数本の維持歯103のアンダーカット部分103a(図3)と係合させるようにするのが好ましい。
【0017】
なお、図示の例では、外側延長部分104Aが合成樹脂で構成され、他方、舌側延長部分104Bは、成形された金属で構成されている。そして、合成樹脂製の外側延長部分104Aにはシリコンゴム106が設けられているが、金属製の舌側延長部分104Bは維持歯103の外形輪郭に沿って成形されており、この金属製の舌側延長部分104Bにはシリコンゴム106は設けられていない。しかし、この金属製の舌側延長部分104Bに、外側延長部分104Aと同様に、アンダーカット部分103aと係合する弾性部材(シリコンゴム)106を設けてもよいことは言うまでもない。
【0018】
図4は、実施例の義歯製造方法の概要を示すフロー図である。この図4を参照して、ステップS10及びS11は、通常、歯科医院で行う作業である。歯科医院では、従来と同様に、歯科用歯形トレイに設置した印象材を使って患者の口腔を転写し、この印象材に石膏などを流し込んで顎模型(本模型)を作る(S10)。この顎模型は患者の口腔のコピーであり、この顎模型を技工所に送る(S11)。
【0019】
図4のステップS12以降の工程は、一般的に技工所で行う作業であり、技巧所内で技工士が行う作業のうち、ステップS12〜S14の工程は、歯科医院から入手した顎模型(本模型)をコピーした作業模型を作る工程である。この作業模型を作るか否かは任意である。
【0020】
前述したシリコンゴム106を備えた部分義歯100(図1)を作る場合には、図5に示すように、歯科医院から入手した顎模型(本模型1)の維持歯103のアンダーカット部分にワックス12を盛り(図4のステップS12:図5)、このワックス12を付着した本模型1から作業模型が作られる。本模型1の維持歯103のアンダーカット部分103aに添設したワックス12は、部分義歯100のシリコンゴム106に関連するものである。
【0021】
図6〜図7をも参照して、作業模型を作る際に、0.05mm、0.07mmなど肉厚の異なる複数種類の薄いフィルム2を用意しておき、適当な厚さの薄いフィルム2を選択して、選択したフィルム2を本模型1の上に載せて(図6(イ))、これを密閉容器内で真空し引きすることにより密着させる(図4のステップS13:図6の(ロ))。次いで、シリコンなどの印象材3を使って転写し(図6の(ハ))、そして、この印象材3に石膏4(図7の(ニ))などを流し込んで作業模型5を作る(図4のステップS14)。
【0022】
このように、作業模型5を作る際に、所定の肉厚のフィルム2を使うことで、義歯製造工程で材料の収縮変形を見越した作業模型を作ることができ、これにより材料の収縮などを気にしないで作業を進めることができる。つまり、フィルム2は、義歯製造工程で発生する材料の収縮を補償することのできるツールと言える。換言すれば、技工士は、材料(印象材やレジン)が固まるときの体積の収縮による影響を見越して作業するのが大事とされ、一種の職人技が必要とされたが、実施例のように、単にフィルム2を使うだけで、この職人技を不要とすることができる。
【0023】
図4のステップS15〜S19は義歯粘膜床を成形する工程である。この義歯粘膜床は、薄肉の熱可塑性樹脂プレート10(図6の(ヘ))から作られ、そして、この熱可塑性樹脂プレート10は完成品の義歯の粘膜面を構成するものである。熱可塑性樹脂プレート10は平面視したときに例えば円形であり、顎模型つまり作業模型5を覆うことのできる直径を備えている。熱可塑性樹脂プレート10は、例えば肉厚1.5mm、2.0mm、2.5mmの三種類が用意され、その中から、部分義歯の適用箇所などを考慮して適当な厚みの樹脂プレート10を選択できるようにするのが好ましい。ここに、熱可塑性樹脂プレート10は実施例ではポリカーボネートからなるが、他の合成樹脂であってもよい。また、熱可塑性樹脂プレート10として、複数の種類の異なる熱可塑性樹脂を積層したものであってもよい。例えば、折れ難い、比較的硬くないなど特性の異なる樹脂を積層して熱可塑性樹脂プレート10を構成してもよい。
【0024】
熱可塑性樹脂プレート10は加熱により柔軟な状態にした後に、顎模型つまり作業模型5の上に載置される(ステップS15:図6の(へ))。次いで、軟化した樹脂プレート10を載置した作業模型5は、その上に、作業模型5を成形する際に使用した成形型つまり作業模型5の形状面と一致する面を備えた型を載せた状態で油圧プレス機にセットして一気にプレス処理される(ステップS16、S17)。これにより、樹脂プレート10は、作業模型5の形状面と相補的な形状に成形される。図5を参照して前述した、本模型1の維持歯6のアンダーカット部分にワックス7を盛った場合には、当該ワックス7を盛った部分に関して、ワックス7の外形に沿った輪郭形状(シリコンゴム106を付着するための空所)を、成形後の樹脂プレート10が備えることになる。
【0025】
樹脂プレート10の成形が終わると、技工士が決めた義歯の基本形状の輪郭に沿って成形後の樹脂プレート10をカットして義歯の土台をなす義歯粘膜床11を作り(ステップS18)、この義歯粘膜床11を作業模型5から取り外す(ステップS19)。図1などを参照して前述した部分義歯100であれば、樹脂製の外側延長部分104Aが義歯粘膜床11に含まれ、この外側延長部分104Aに維持歯103の高さ方向に延びる縦延長部108が含まれる(図8)。この図9は、内側延長部分104Bを金属で作る場合を図示しており、内側延長部分104Bを樹脂で作る場合を図8に仮想線で示すように、この内側延長部分104Bに維持歯103の高さ方向に延びる縦延長部106が形成される。
【0026】
この義歯粘膜床11は、必要に応じて又は歯科医からの要請により患者に試適して、その適否の確認が行われる。その後の工程を歯科医院で行ってもよく、その場合には、ステップS19で作業模型5から取り外した義歯粘膜床11は歯科医に委ねられる。
【0027】
ステップS20、S21は、義歯粘膜床11を基礎にワックス義歯を作る工程である。先ず、ステップS20で義歯粘膜床11の上にワックスを盛り付けてロウ堤を作り、次いでロウ堤の高さを調整した後に人工歯を植設してワックス義歯を作る(ステップS21)。
【0028】
なお、図1などを参照して説明した部分義歯100を製造する場合には、金属製の舌側延長部分104Bは、図4を参照して説明した作業工程とは別の工程で、金属材料で舌側延長部分104Bを成形し、図9に示すように、ワックス義歯を作る前に、義歯粘膜床11に金属製の舌側延長部分104Bを組み込む。
【0029】
上記ステップS21で作ったワックス義歯は必要に応じて患者に試適して微調整を行った後に、図10に示すように、ワックス義歯20をフラスコ21に入れて上下の分割型22、23を作る(ステップ22、図11)。なお、図10、図11に示す参照符号24は人工歯であり、25はワックスである。
【0030】
次いでステップS23で分割型22、23を加温して義歯粘膜床11の上に盛ったワックス25を除去した後に、ステップS24で、ワックス25を除去することにより形成された空間27(図12)、つまり義歯粘膜床11と人工歯24との間に形成された空間27にレジンが充填される(ステップS24)。そして、重合処理によりレジンを硬化させた後に、分割型21、22から成型品である義歯を取り出す(ステップS25)。
【0031】
この義歯が、前述した部分義歯100の場合であって、舌側延長部分104B及び/又は外側延長部分104Aにシリコンゴム106を設ける場合には、本模型1の維持歯6のアンダーカット部分6aにシリコンゴム106を盛り、他方、シリコンゴム106を添設する部位にシリコンプライマ(図示せず)を塗布した後に、部分義歯100を本模型1に装着して部分義歯100からはみ出したシリコンゴム106を除去する(ステップS26)。その後、本模型1に装着した部分義歯100の周りをフィルムで覆い、このフィルムで覆った本模型1及び部分義歯100をエア加圧機にセットしてガス圧によって加圧処理する(ステップS27)。これにより、舌側延長部分104B及び/又は外側延長部分104Aにシリコンゴム106が強固に接合し且つシリコンゴム106が維持歯6のアンダーカット部分6aと相補的な形状に加圧成形される。そして、これにより、舌側延長部分104B及び/又は外側延長部分104Aに、アンダーカット部分6aと係合する弾性体(シリコンゴム)106を備えた部分義歯100が完成する。
【0032】
なお、舌側及び/又は外側延長部分104A、104Bに、維持歯103のアンダーカット部分103aと係合するシリコンゴム106を添設する方法としては、上述の方法に限定されず、例えば延長部分104A及び/又は104Bを形成し、シリコンゴム106を添設する部分を削ってシリコンゴム106を添設する空所を作り、次いで、シリコンゴム106を接着するようにしてもよい。
【0033】
上述した義歯製造方法によれば、ワックス義歯の粘膜面を構成する義歯粘膜床11をそのまま使って義歯を作るため、換言すれば、義歯の歯列床がワックス義歯の義歯粘膜床11で構成されるため、義歯製造工程での様々な作業や樹脂の収縮などの影響を受けることの無く、患者の口腔に最適に適合した義歯を作ることができる。したがって、技工士にとって、義歯製造工程で行う様々な作業によって発生する誤差やレジンの収縮によって発生する誤差を念頭に入れた熟練した技巧を使うまでもなく患者の口腔に最適に適合した義歯を作ることができる。したがって、技工士の注意を他に振り向けることができ、より適切な義歯を作ることができる。
【0034】
また、図1などを参照して説明した部分義歯100によれば、従来の一般的に用いられている金属製のバネを使って維持歯と係合させるのに比べて、成形したシリコンゴムなどの弾性体106を使って維持歯103のアンダーカット部分103aと係合させるため、金属バネを維持歯103に係合させるのに比べて維持歯103を傷めることを防止することができる。また、維持歯103のアンダーカット部分103aと係合する弾性体106は、アンダーカット部分103aと相補的な形状に成形されているためアいつンダーカット部分103aを弾性体106で埋めた状態となり、食事をしたときに食物の一部がアンダーカット部分103aを通じて義歯の粘膜面に入り込んでしまうのを低減することができる。
【0035】
勿論、維持歯103と成形弾性体106を介して係合する外側延長部分104Aは、ワックス義歯の粘膜面を構成する義歯粘膜床11から構成されているため、患者の口腔に最適に適合しており、加えて、金属製の舌側延長部分104Bについても、その基端部を義歯粘膜床11に固定しているため、両方の延長部分104A、104Bは患者の歯肉部105を挟み込んで、歯肉部105の粘膜面にピッタリと適合して、部分義歯100を装着したときに患者の歯肉部105に吸着した状態となる。また、外側延長部分104Aを樹脂で作ることで患者の歯茎105の色に一致した色の外側延長部分104Aにし易いため審美上も好ましく、その一方で舌側延長部分104Bを金属で作ることで耐久性に優れた適度な撓み変形特性を備えることができる。
【0036】
本発明の義歯製造方法を部分義歯に適用する場合に、図1〜図3を参照して説明した部分義歯100に限らず、従来から知られている金属製のバネを使って維持歯と係合させる形式の部分義歯に本発明を適用することができる。また、本発明の義歯製造方法は、義歯の歯列床に、維持歯まで延びる延長部分を設け、この延長部分の上端部を維持歯のアンダーカット部分と係合させる形式の部分義歯に適用することができる。この場合、延長部分を上述した義歯粘膜床11で構成するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を適用するのが好ましい部分義歯の斜視図である。
【図2】顎模型に図1の部分義歯を装着した状態で示す図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】実施例の義歯製造工程の流れを説明するためのフロー図である。
【図5】維持歯のアンダーカット部分と係合する弾性部材を添設した部分義歯を製造する場合の製造工程の一例を説明するための図であり、本模型の維持歯のアンダーカット部分にワックスを盛った状態を示す。
【図6】図4で説明する作業工程に関連した図であり、(イ)及び(ロ)は図4のステップS13に対応し、(ハ)はステップS14に対応している。
【図7】図4で説明する作業工程に関連した図であり、(ニ)〜(ホ)は図4のステップS14に対応し、(ヘ)はステップS15に対応している。
【図8】作業模型で部分義歯用の義歯粘膜床を形成した状態を説明するための図である。
【図9】部分義歯において舌側延長部分を金属で作る場合に、作業模型に設置されている義歯粘膜床に金属製の舌側延長部分を設置した状態を示す図である、その後、ワックスを盛ってワックス義歯が作られる。
【図10】フラスコ内でワックス義歯から分割型を作る工程に関連した図であり、図4のステップS22に対応している。
【図11】図4のステップS22において、ワックス義歯で分割型を作る状態を断面して説明する図である。
【図12】ワックス義歯からワックスを除去する工程(図4のステップS23)を説明する図である。
【図13】従来の義歯製造工程の流れを説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
【0038】
5 作業模型(顎模型)
10 熱可塑性プレート
11 義歯粘膜床
20 ワックス義歯
21 フラスコ
22、23 分割型
24 人工歯
25 ワックス
27 ワックスを除去することにより義歯粘膜床と人工歯との間に形成された空間(レジン充填空間)
100 部分義歯
101 歯列床(咬合床)
103 維持歯
103a アンダーカット部分
104 延長部分
104A 外側延長部分
104B 舌側延長部分
105 患者の歯茎
106 弾性部材(シリコンゴム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性プレートを加熱して軟化させた状態で患者の顎模型に圧力下で密着させて熱可塑性プレートを成形する熱可塑性プレート成形工程と、
前記成形した熱可塑性プレートを義歯の輪郭に切断して義歯粘膜床を作る義歯粘膜床生成工程と、
該義歯粘膜床にワックスを盛ると共に人工歯を植設してワックス義歯を作るワックス義歯作成工程とを有し、
該ワックス義歯に含まれる前記ワックスをレジンに置換することにより義歯を製造することを特徴とする義歯製造方法。
【請求項2】
前記顎模型が、患者の口腔を転写した本模型をフィルムを介して転写した副模型である、請求項1に記載の義歯製造方法。
【請求項3】
前記義歯製造方法が総義歯に適用される、請求項1又は2に記載の義歯製造方法。
【請求項4】
前記義歯製造方法が部分義歯に適用される、請求項1又は2に記載の義歯製造方法。
【請求項5】
前記義歯が部分義歯であり、該部分義歯の歯列床が、これに隣接する維持歯まで延びる延長部分を有し、該延長部分が維持歯のアンダーカット部分と係合する、請求項4に記載の義歯製造方法。
【請求項6】
前記延長部分が前記義歯粘膜床で構成されている、請求項5に記載の義歯製造方法。
【請求項7】
前記延長部分が、前記維持歯のアンダーカット部分と係合する弾性部材を有する、請求項5又は6に記載の義歯製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性プレートが単一の樹脂層で構成される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の義歯製造方法。
【請求項9】
製造する義歯の一部を構成して該義歯の粘膜面を構成する義歯粘膜床の製造方法であって、
熱可塑性プレートを加熱して軟化させた状態で患者の顎模型に圧力下で密着させて成形し、患者の口腔に適合するように切り取ることにより形成されることを特徴とする義歯粘膜床の製造方法。
【請求項10】
前記顎模型が、患者の口腔を転写した本模型をフィルムを介して転写した副模型である、請求項9に記載の義歯粘膜床の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−119210(P2008−119210A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305645(P2006−305645)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(593193767)株式会社キャスティングオカモト (6)
【Fターム(参考)】