説明

羽毛の検出方法

【課題】異なる種類の羽毛からなる羽毛混合物の組成混合比の客観的な評価を迅速かつ、簡便に行う方法を提供する。
【解決手段】被検体たる羽毛より分離されたタンパク質の分子量の分布を検出する検出工程と、前記検出工程で検出された分子量の分布に基づいて、前記分離されたタンパク質の個々の分子量を算出する分子量算出工程と、前記分離されたタンパク質を同定する同定工程と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる種類の羽毛からなる羽毛混合物中の羽毛の判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛布団やダウンジャケット等、羽毛製品の品質は、充填されている羽毛の種類や質によって大きく異なる。具体的には、(1)軽くて暖かいこと(2)かさがあって回復性がよいこと(3)悪臭などがないこと(4)ラージフェザー、きょう雑物などがごく少量であること、の4点を満たすものが高品質とされている。例えば、同じ種類の鳥でもダウンとフェザーとでは羽軸を持たないダウンの方が空気を沢山取り込むため、寝具や衣類には適しているとされている。また、同じダウンを使用するならグースとダックとではグースの方が、ダウンの一つ一つが大きいため、保温性に優れていて品質が良いとされている。
【0003】
羽毛製品は、原料羽毛を輸入し国内で製品化していることが多い。そのため、原料羽毛の良し悪しや、加工処理工程で適切に処理されているかを調べることは、自社の製品の信用に関わる事であり、大変重要なことである。特に、輸入時の原料羽毛の品質表示に関しては、国内と海外との基準が異なる場合があるため、整合性をとる必要がある。言い換えれば、国内の評価基準で再検査する必要がある。検査は、かさ高性、酸素計数、組成混合比など12種類以上の項目に渡って行われる。このうちもっとも手間がかかる検査は、羽毛の種類についての検査である。
【0004】
使用原料羽毛中のグースとダックとの混合比率は、「日本羽毛寝具製造協同組合」の試験規定に基づき判別されたそれぞれの水鳥の羽毛の重量比より算出されている。具体的には、先ず、きょう雑物を取り除き均一に混合されたグースとダックの羽毛の塊50gを混合箱内で平均化するようによく混合し、上層、中層、下層の各部分からランダムに採取した合計1gの試料から羽毛の一つ一つの節と節との間隔や、節の大きさ等を顕微鏡又は投影機により判別する。なお、一般にグースの方が節と節の間隔が長く、節の大きさは小さい。次に、判別したグースとダックそれぞれの重量を測定し、グースあるいはダックの羽毛を85%以上含むときはその種を表示できると規定されている。また、これらの判別した羽毛のかさ高性等の諸特性は、日本工業規格に基づいて算出していた(非特許文献1)。
【非特許文献1】JIS L 1903
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の判別方法では、試料0.1gを判別するのに約2時間かかり、試料全体の組成混合比を決定するまでに約2日かかるため、一度に大量の羽毛を判別することは物理的に困難である。また、グースとダックの羽毛の形状を相対的に比較して判別しているため、試験者の主観が入る可能性が大きく、客観的な評価をすることができないということが問題となっていた。また、このような手間をかけてから製品化するため、製品の値段が高くなってしまうという問題もある。
【0006】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、異なる種類の羽毛からなる羽毛混合物の組成混合比の客観的な評価を迅速かつ、簡便に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上のような目的を達成するために、本発明者らは羽毛の構成タンパク質が、鳥の種類によって異なるものがあるという点に着目し、羽毛のタンパク質を分離する過程において明確な差異が確認されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
タンパク質以外にもDNAやRNA、脂質、糖なども鳥の種類によって異なるため、判別は可能であると考えられる。しかし、DNAやRNAは精密であるが時間とコストがかかってしまうため実用的であるとは言い難く、脂質や糖は判別が難しい。より簡便で迅速に判別することが可能である物質としては、DNAより精度は劣るがタンパク質が最適である。
【0009】
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 被検体たる羽毛より分離されたタンパク質の分子量の分布を検出する検出工程と、前記検出工程で検出された分子量の分布に基づいて、前記分離されたタンパク質の個々の分子量を算出する分子量算出工程と、この分子量算出工程により算出された分子量の中で、50KDa付近のタンパク質と、30KDa付近のタンパク質の両方を含み、かつ100KDa付近のタンパク質が含有されていないことを検出する同定工程と、からなる羽毛の判別方法。
【0011】
本発明によれば、羽毛を構成しているタンパク質は、鳥の種類によって異なるため、それぞれの鳥に固有のタンパク質を分離し、検出することによって試料中に含有されている羽毛の種類を特定することができる。特に、グースとダックとからなる試料においては、
50KDa付近と30KDa付近又は、100KDa付近のタンパク質に明確な差異が認められた場合は、グースとダックが試料中に含有されているか否かを即時に判断することができる。
【0012】
(2) (1)記載の羽毛の判別方法は、2種以上の羽毛からなる混合物より前記混合物中に含まれている羽毛の種類を特定するものであり、前記分子量と前記分子量の分布とに基づいて前記羽毛混合物中の羽毛の種類、及び混合比を算出する(1)記載の羽毛の判別方法。
【0013】
本発明によれば、分子量算出工程において、算出された分子量及び分子量の分布に基づいてより具体的なタンパク質の同定を行うことが可能となる。特に、3種以上の羽毛からなる羽毛混合物の羽毛の同定や、羽毛混合物中の羽毛の種類が未知であった場合において有効である。
【0014】
(3) 前記羽毛混合物が充填材料用羽毛からなる(1)又は(2)記載の羽毛の判別方法。
【0015】
(4) 前記羽毛混合物は、ダウン又はスモールフェザーとからなる(1)から(3)いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【0016】
(5) 前記羽毛混合物は、グースの羽毛とダックの羽毛とからなる(1)から(4)いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【0017】
(6) 前記検出工程と前記分子量算出工程、及び前記同定工程は、電気泳動により行われるものである(1)から(5)いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【0018】
(7) 前記羽毛の種類及び混合比の算出は、前記グースの羽毛とダックの羽毛との電気泳動パターンのうち、50KDa付近、30KDa付近及び100KDa付近のタンパク質のバンドの面積比より算出される(1)から(6)いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【0019】
本発明によれば、検出工程により検出された電気泳動パターンのタンパク質のバンド面積の比較により、試料中の羽毛の混合組成比をより正確かつ客観的に算出することができる。また、試料中の羽毛を個別に判別する従来法とは異なり、試料中の羽毛全てを一度に測定するため、作業時間を短縮することが可能となり、コストの削減にもつながる。
【0020】
(8) 前記検出工程と前記分子量算出工程、及び前記同定工程は、質量分析により行われるものである(1)から(5)いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【0021】
本発明によれば、質量分析を用いることによって、全ての工程をより迅速にかつ正確に行うことが可能となり、作業効率を大幅に上げることが可能となる。
【0022】
(9) 前記羽毛の種類及び混合比の算出は、前記グースの羽毛とダックの羽毛とのマススペクトルにおいて、電気泳動を行った時の分子量に換算して50KDa付近、30KDa付近及び100KDa付近のタンパク質の分子量を示すピークの強度比より算出される(1)から(5)及び(8)いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明は、2種類以上の羽毛からなる羽毛混合物中の羽毛のタンパク質の分子量を測定することにより、羽毛の種類を特定するものである。これにより試験者の主観を交えることなく客観的かつ迅速に羽毛の判別及び、混合組成比の算出を行うことが可能となる。また、本発明によって判別された羽毛は、従来法と比べ人件費を抑えることが可能となり、製造コストを抑えることが可能となる。
【0024】
また、本発明はタンパク質レベルで羽毛の種類を判別しているため、人間の目ではどの種類の羽毛か判別することができないということがなくなり、羽毛の組成混合比をより正確に求めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0026】
本発明の羽毛の判別方法は、「被検体たる羽毛より分離されたタンパク質の分子量の分布を検出する検出工程」を有する。「被検体たる羽毛」とは、原毛に付着しているゴミや汚れを取り除き、除塵、熱風乾燥し「精毛」した羽毛を指す。羽毛の具体的な種類は、水鳥、陸鳥を問わないが、衣類や寝具等の充填材料用羽毛としては、ダウンを有する水鳥である方が好ましく、水鳥の種類としては、グース(がちょう)、ダック(あひる、鴨)等、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
【0027】
「羽毛より分離されたタンパク質を検出する工程」とは、機器分析により羽毛中のタンパク質を分離する工程を指す。ここで、タンパク質を検出する手段としては、電気泳動、クロマトグラフィー、質量分析など、個々のタンパク質及びタンパク質の分子量を検出することが可能な測定手段が挙げられ、これらいずれかの方法を単独あるいは、組み合わせて行うことが好ましい。測定の簡便さ、コスト等を考慮した場合、電気泳動を用いて行うことがより好ましい。
【0028】
電気泳動は、一般に用いられているゾーン電気泳動法を用いて支持体の中で泳動を行うことが好ましく、支持体には濾紙、セルロースアセテート膜、セルロース粉末、ゲルなどを用いることが好ましい。中でもポリアクリルアミドゲルを用い、バッファーをタンパク質分子主鎖のペプチド結合近傍に吸着又は結合する、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いたSDS−電気泳動を用いることがより好ましい。
【0029】
また、本発明の羽毛の判別方法は、「分離されたタンパク質の分子量を算出する分子量算出工程」を有する。分子量算出工程は、例えば電気泳動における検出手段によって分子量既知のタンパク質の泳動パターンとの比較により相対的に算出される方法であるか、例えば質量分析における検出手段によってタンパク質の質量電価比(m/z)より直接的に算出される方法とのいずれかを用いることが好ましい。
【0030】
更にまた、本発明の羽毛の判別方法は、「前記算出工程において算出された分子量の中で50KDa付近のタンパク質と、30KDa付近のタンパク質の両方を含み、かつ100KDa付近のタンパク質が含有されていないことを検出する同定工程」を含む。同定工程は、羽毛より分離されたタンパク質を検出工程にて検出した後、前記タンパク質がどの羽毛に由来しているかを決定する工程をいい、分子量算出工程にて得られた分子量より決定することが好ましい。なお、1Daは、1.661×10−24(アボガドロ数の逆数)gに相当する。
【0031】
更にまた、本発明の羽毛の判別方法は、前記検出工程と前記分子量算出工程、及び前記同定工程とを電気泳動にて行った場合は、「羽毛の種類及び混合比の算出は、グースの羽毛とダックの羽毛との電気泳動パターンのタンパク質のバンドの面積比より算出される」工程を含む。電気泳動によってタンパク質は分子量毎に分離され、それが電気泳動パターン中の個々のバンドに反映される。試料中のタンパク質の濃度は、電気泳動パターンの面積に依存するため、面積比が試料中の羽毛の構成比となる。電気泳動パターンの面積比は、デンシトメーターを用いて求めることが好ましい。
【0032】
更にまた、本発明の羽毛の判別方法は、前記検出工程と前記分子量算出工程、及び前記同定工程とを質量分析にて行った場合は、「グースの羽毛とダックの羽毛とのマススペクトルにおいて、タンパク質の分子量を示すピークの強度比より算出される」工程を含む。質量分析によってタンパク質は分子量毎に分離され、マススペクトルに反映される。試料中のタンパク質の濃度は、マススペクトルの相対強度に依存するため、強度比が試料中の羽毛の構成比となる。
【実施例】
【0033】
[羽毛の調整]
測定に用いた羽毛は、以下の方法で調整を行った。先ず、グースとダックの羽毛をそれぞれ0.1gをアセトンにさらして脱脂を行った後、超純水で洗浄した。次にこの洗浄物を液体窒素で凍結させ粉砕を行った後、超純水を溶媒とし、凍結乾燥した。最後に、この凍結乾燥物を5mg/mlになるようにSDSサンプルバッファーに溶解し、100℃で5分間加熱を行ったものをSDSサンプルとした(試料2から7)。また、タンパク質の分子量マーカーには分子量3.5KDaから205KDaの標準タンパク質及びポリペプチド11種類を混合した分子量マーカーを用いた。
【0034】
[測定装置]
測定には、SDS−電気泳動装置を用いた。100%グースの試料と100%ダックの試料の電気泳動パターンを図1に示す。図1中、1のパターンが分子量マーカーであり、2から4のパターンがグースのみの試料(試料2から4)のパターンであり、5から7のパターンがダックのみの試料(試料5から7)のパターンである。これより50KDa付近と30KDa付近に相違が見られ(図中、b´と表示されているライン参照)、100KDa付近の白抜きのバンド(図中、dと表示されているライン参照)がグースには1本しかないのに対し、ダックでは2本存在することがわかった。
【0035】
これより、予めグースとダックの混合比が判っている資料を数種用いてタンパク質の分子量の面積比と含有量との相関関係を基に検量線を作成することによって異なる2種以上の羽毛からなる被検体の組成混合比を算出する方法として使用することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、充填材料用羽毛に関して、異なる2種以上の羽毛からなる被検体の組成混合比を算出する方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】グースとダックの電気泳動パターンを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体たる羽毛より分離されたタンパク質の分子量の分布を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された分子量の分布に基づいて、前記分離されたタンパク質の個々の分子量を算出する分子量算出工程と、
この分子量算出工程により算出された分子量の中で、50KDa付近のタンパク質と、30KDa付近のタンパク質の両方を含み、かつ100KDa付近のタンパク質が含有されていないことを検出する同定工程と、
からなる羽毛の判別方法。
【請求項2】
請求項1記載の羽毛の判別方法は、2種以上の羽毛からなる混合物より前記混合物中に含まれている羽毛の種類を特定するものであり、前記分子量と前記分子量の分布とに基づいて前記羽毛混合物中の羽毛の種類、及び混合比を算出する請求項1記載の羽毛の判別方法。
【請求項3】
前記羽毛混合物が充填材料用羽毛からなる請求項1又は2記載の羽毛の判別方法。
【請求項4】
前記羽毛混合物は、ダウン又はスモールフェザーとからなる請求項1から3いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【請求項5】
前記羽毛混合物は、グースの羽毛とダックの羽毛とからなる請求項1から4いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【請求項6】
前記検出工程と前記分子量算出工程、及び前記同定工程は、電気泳動により行われるものである請求項1から5いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【請求項7】
前記羽毛の種類及び混合比の算出は、前記グースの羽毛とダックの羽毛との電気泳動パターンのうち、50KDa付近、30KDa付近及び100KDa付近のタンパク質のバンドの面積比より算出される請求項1から6いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【請求項8】
前記検出工程と前記分子量算出工程、及び前記同定工程は、質量分析により行われるものである請求項1から5いずれかに記載の羽毛の判別方法。
【請求項9】
前記羽毛の種類及び混合比の算出は、前記グースの羽毛とダックの羽毛とのマススペクトルにおいて、電気泳動を行った時の分子量に換算して50KDa付近、30KDa付近及び100KDa付近のタンパク質の分子量を示すピークの強度比より算出される請求項1から5及び8いずれかに記載の羽毛の判別方法。


【図1】
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