説明

耐候性に優れた高強力繊維および繊維構造体

【課題】耐候性に優れた高強力繊維を提供する。
【解決手段】前記高強力繊維は、繊維表面に平均粒子径10〜250nmの顔料微粒子とバインダー樹脂とを含む層がコーティングされており、前記顔料微粒子は、有機顔料または比重2.0以上の無機顔料で構成されている。前記繊維は、高強力繊維(A)、顔料微粒子(B)、バインダー樹脂(C)が(A)/(B)/(C)=100/0.1〜20/1〜50の重量比率で構成されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性に優れた高強力繊維および繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
高強力繊維として、全芳香族ポリアミド繊維や全芳香族ポリエステル繊維、さらには全芳香族ポリエステルアミド繊維等が知られており、ロープ、コード、あるいは補強材として各種産業資材用途で使用されている。しかしながら、これらの全芳香族系高強力繊維は、いずれも紫外線によって劣化を起こし易く、耐候性が低いという欠点をもっている。このため、繊維が高強力という特徴を持ちながら、直接日光にさらされる屋外においては長期間の使用が困難であり、その特性が十分に生かされていない。
【0003】
これらの全芳香族系高強力繊維の耐候性を向上させるために、種々の方法が試みられている。例えば、特許文献1(特開平6−57635号公報)には、溶融異方性ポリマーからなる繊維に、樹脂、カーボンブラックおよびイオウ系過酸化物分解剤を付与することが開示されている。また、特許文献2(特開平5−287680号公報)には、溶融異方性ポリマーからなる繊維に、樹脂並びにカーボンブラックおよび/または紫外線吸収剤を付与した後、添加物を実質的に含まないクリアコート用樹脂をコートしてなる高強力率繊維の製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−57635号公報
【特許文献2】特開平5−287680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、カーボンブラックおよびイオウ系過酸化物分解剤により耐候性を付与することが可能であるが、そのままではカーボンブラックが脱落し、耐磨耗性が十分でない。また、特許文献2においては、カーボンブラックの脱落に伴う耐磨耗性の低下を防ぐため、さらなる樹脂コーティングが必須であるが、このような二重のコーティングは、繊維の柔軟性が低下し、加工時および使用時の取り扱いが困難となりやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
我々は、高強力繊維の耐候性および耐磨耗性を向上させる方法として種々検討した結果、高強力繊維に対して、特定の顔料微粒子を特定の粒子径にするとともに、その顔料微粒子を混和したバインダー樹脂で、繊維を表面をコーティングすることにより、複数回の樹脂コーティングを行なわなくとも、高強力繊維に対して、耐候性を付与できると共に、顔料微粒子の脱落を有効に防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、高強力繊維表面に平均粒子径10〜250nmの顔料微粒子とバインダー樹脂とを含む層がコーティングされ、前記顔料微粒子は、有機顔料または比重2.0以上の無機顔料で構成されている耐候性高強力繊維である。
【0008】
この耐候性高強力繊維においては、高強力繊維(A)、顔料微粒子(B)、バインダー樹脂(C)が(A)/(B)/(C)=100/0.1〜20/1〜50の重量比率で構成されていてもよい。
【0009】
そして、本発明の耐候性高強力繊維においては、顔料微粒子(B)とバインダー樹脂(C)とを含む層の厚みが1〜50μmであることが好ましい。
【0010】
また、本発明の耐候性高強力繊維においては、バインダー樹脂(C)がポリウレタン系樹脂またはアクリル系樹脂であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明における高強力繊維は、液晶ポリマー繊維であることが好ましく、また、液晶ポリマー繊維が、全芳香族ポリエステル繊維または全芳香族ポリエステルアミド繊維であることがより好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記耐候性高強力繊維から形成された繊維構造体や、高強力繊維から形成された繊維構造体の表面に平均粒子径10〜250nmの顔料微粒子とバインダー樹脂とを含む層がコーティングされている繊維構造体をも包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高強力繊維は、繊維表面に特定の粒子径を有する特定の顔料微粒子とバインダー樹脂とを含むコーティング層を有しているため、耐候性に優れているとともに、顔料微粒子の脱落を防止できる。さらに、このような顔料微粒子を用いるため、高強力繊維に対する幅広い色の選択が可能となる。
【0014】
また、高強力繊維、顔料微粒子、バインダー樹脂を特定の割合にしたり、前記バインダー樹脂によるコーティング層が特定の厚みとすると、耐候性をより向上することができ、好ましい。
【0015】
さらに、特定のバインダー樹脂は、顔料微粒子の繊維への付着性を向上することができる。
【0016】
また、高強力繊維で形成した繊維構造体に対して、特定の粒子径の顔料微粒子とバインダー樹脂とがコーティングされている場合でも、繊維構造体に対する耐候性を付与できるとともに、顔料微粒子の脱落を有効に防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の耐候性高強力繊維は、繊維表面に平均粒子径10〜250nmの顔料微粒子とバインダー樹脂とを含む層がコーティングされている。
【0018】
(高強力繊維(A))
本発明の高強力繊維(A)としては、液晶ポリマー繊維(リオトロピック液晶ポリマー繊維、サーモトロピック液晶ポリマー繊維)、ポリフェニレン−p−ビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維などが挙げられ、その強度としては15cN/dtex以上であることが好ましい。その中でも、強度および耐候性に優れる観点から液晶ポリマー繊維が好ましい。
【0019】
リオトロピック液晶ポリマー繊維としては、全芳香族ポリアミド繊維(例えば、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維)が例示でき、サーモトロピック液晶ポリマー繊維としては(例えば、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリエステルアミド繊維など)が例示できる。
【0020】
これらのうち、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維および全芳香族ポリエステルアミド繊維が好ましく、特に、全芳香族ポリエステル繊維(いわゆるポリアリレート繊維)および全芳香族ポリエステルアミド繊維は、高強力・高弾性といった特徴に加え、吸湿性が低い、耐摩耗性に優れる、切断し難い、衝撃吸収性に優れるなどの特徴も有しており、幅広い用途展開が期待できる。
【0021】
本発明にいう全芳香族ポリエステルおよび全芳香族ポリエステルアミドとは、溶融相において光学的異方性(液晶性)を示す芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルアミドであり、例えば試料をホットステージに載せ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0022】
本発明で用いる全芳香族ポリエステルは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸の反復構成単位を主成分とするものであり、また全芳香族ポリエステルアミドは、上記構成単位に芳香族ヒドロキシアミンを加えた反復構成単位を主成分とするものである。
【0023】
また本発明で用いる全芳香族ポリエステルおよび全芳香族ポリエステルアミドは、本発明の効果が損なわれない程度に、他の芳香族、脂環族、脂肪族のジオ−ル、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ジアミン、ヒドロキシアミン等を含んでいてもよい。具体的には、イソフタル酸、ナフチレンジカルボン酸、ジオキシナフタレン、べンゼンジアミン等が挙げられる。しかしながら、これらのモノマーが10モル%を越えると本発明の効果は損なわれるおそれがある。
【0024】
本発明で用いられる全芳香族ポリエステルおよび全芳香族ポリエステルアミドの融点(Tm)は260〜380℃であることが好ましく、270〜350℃であることがより好ましい。ここでいう融点とは、JIS K 7121試験法に準拠し、示差走査熱量計(DSC:例えばメトラー社製TA3000)で観察される主吸熱ピークのピークトップ温度である。
【0025】
本発明で用いられる全芳香族ポリエステル繊維および全芳香族ポリエステルアミド繊維は、常法によりポリマーを溶融紡糸して得られるが、該芳香族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルアミドの融点よりさらに10℃以上高い紡糸温度(かつ溶融液晶を形成している温度範囲内)で、剪断速度10sec−1以上、紡糸ドラフト20以上の条件で紡糸するのが好ましい。かかる剪断速度および紡糸ドラフトで紡糸することにより、分子の配向化が進行し優れた強度等の性能を得ることができる。剪断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔当たりのポリマーと吐出量をQ(cm/sec)とするときr=4Q/πrで計算される。ノズル横断面が円でない場合には、横断面積と同値の面積を有する円の半径をrとする。
【0026】
本発明の繊維を得るためには、強度、弾性率、耐摩耗性、耐疲労性および耐切創性等を向上させるために、紡糸原糸を熱処理および/あるいは延伸熱処理する必要がある。熱処理は、不活性雰囲気のみで行っても良いし、途中から活性雰囲気化で熱処理を行っても良い。
【0027】
なお、不活性雰囲気下とは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中あるいは減圧下を意味し、酸素等の活性ガスが0.1体積%以下であることをいう。また活性雰囲気下とは、酸素等の活性ガスを1%以上含んでいる雰囲気を言い、好ましくは10%以上の酸素含有気体であり、コスト的には空気を用いることが好ましい。水分が存在すると加水分解反応も併行して進行するので、露点が−20℃以下,好ましくは−40℃以下の乾燥気体を使用する。
【0028】
好ましい熱処理の温度条件は、溶融紡糸前のポリマーの融点Tmに対して、Tm−35℃からTm−2℃の温度範囲であり、このような温度条件で加熱することにより高温下において高い強度をおよび弾性率を実現できる高強力ポリエステル繊維およびポリエステルアミド繊維を得ることができる。また、加熱処理は、一定の温度で行っても良いし、加熱により漸進的に上昇する繊維の融点にあわせて、順次昇温してもよい。
【0029】
また、熱処理条件は、単繊維繊度(dtex)あたりに加熱された、(融点との温度差:℃)と(加熱時間:時間)との積によって表わすことも可能であり、この場合、
50≦(融点との温度差)×(加熱時間)/(単繊維繊度)≦100
程度の熱処理により、本発明で規定する特定の高強力ポリエステル繊維およびポリエステルアミド繊維を得ることが可能となる。
【0030】
熱の供給は、気体等の媒体によって行う場合、加熱板、赤外ヒーター等による輻射を利用する方法、熱ローラー、プレート等に接触させて行う方法、高周波等を利用した内部加熱方法等があり、目的により、緊張下あるいは無緊張下で行われる。処理の形状は、カセ状、チーズ状、トウ状(例えば金網等にのせて行う)、あるいは、ローラーの連続処理によって行われ、繊維の形態としてはフィラメント、カットファイバーいずれも可能である。
【0031】
さらに、前記ポリエステルアミド繊維は、必要に応じてポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエステルケトン、フッソ樹脂等の熱可塑性ポリマーを含有していても良く、酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を含んでいても良い。
【0032】
(顔料微粒子(B))
次に、本発明で用いる顔料微粒子(B)としては、水および水性溶媒に分散する顔料微粒子であって、有機顔料または比重2.0以上の無機顔料で構成されているものが挙げられる。
【0033】
有機顔料は、コーティングでの付着性に優れるため、その比重は特に限定されないが、一方、無機顔料では、例えばカーボンブラックのようにコーティングでの付着性に劣るものが存在する。そのため、無機顔料では、その比重が2.0以上であることが必要であり、好ましくは2.5以上であってもよい。また、比重の上限は顔料の種類に応じて適宜選択可能であるが、通常7.0以下であることが多い。
【0034】
例えば、無機顔料としては、ウルトラマリン青、プロシア青、黄鉛、亜鉛黄、鉛丹、酸化鉄赤、亜鉛華、鉛白、リトポン、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウムおよびバライト紛等が挙げられる。
また有機顔料としては、モノアゾ顔料、レーキ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料;イミダゾロン黄、イソインドリノン黄、イソインドリン黄、キノフタロン黄、ピラゾロン黄、フラバトロン黄、アントラキノン黄、イミダゾロン橙、ジケト−ピロロ−ピロール橙、ピラゾロン橙、ピランスロン橙、アントラキノン橙、ペリノン橙、ペリレン橙、キナクリドン橙、アントラキノン赤、キナクリドン赤、ジケト−ピロロ−ピロール赤、ペリレン赤、インジゴイド赤、アントラキノン紫、オキサジン紫、キナクリドン紫、ペリレン紫、インジゴイド紫、イミダゾロン紫、キサンテン紫、カルボニウム紫、ビオランスロン紫、フタロシアニン青、アントラキノン青、インジゴイド青、カルボニウム青、フタロシアニン緑、ペリレン緑、ニトロソ緑、カルボニウム緑等の多環式系顔料等が挙げられる。
【0035】
本発明における顔料微粒子(B)の平均粒子径は10〜250nmであり、25〜200nmであることが好ましく、40〜150nmであることがより好ましい。平均粒子径が10nmより小さい場合、もしくは、平均粒子径が500nmより大きい場合には、紫外線を十分に遮蔽することができず、耐候性の低下を抑制することができない。
【0036】
本発明においては、顔料微粒子(B)の平均粒子径を10〜250nmに調整する目的で、界面活性剤や親水性ポリマーの付与、アルカリ処理、酸化処理、プラズマ処理等により顔料微粒子表面が親水化されていること、および/または、分散剤、湿潤剤、水および水性溶媒等により顔料微粒子が分散安定化されていることが好ましい。
【0037】
(バインダー樹脂)
本発明で用いられるバインダー樹脂(C)は、本発明の目的を満足するものであれば特に制限はなく、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン系樹脂(例えば、エステル系ポリウレタン、ラクトン系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン、カーボネート系ポリウレタンなど)、およびアクリル系樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル又はメタクリル樹脂の単独又は共重合樹脂など)などを挙げることができる。なかでも、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、および全芳香族ポリエステルアミド繊維との接着性を考慮した場合、ポリウレタン系樹脂もしくはアクリル系樹脂であることが好ましい。
また、コーティング加工において、バインダー樹脂(C)を微分散液として使用する場合、バインダー樹脂の平均分散粒子径は250nm以下であることが好ましい。
【0038】
(耐候性高強力繊維)
本発明の耐候性高強力繊維は、高強力繊維(A)から形成され、前記高強力繊維(A)表面に、特定の顔料微粒子(B)およびバインダー樹脂(C)とを含む層がコーティングされている。
【0039】
高強力繊維(A)、顔料微粒子(B)、バインダー樹脂(C)は、(A)/(B)/(C)=100/0.1〜20/1〜50の重量比率で構成されていることが好ましい。高強力繊維(A)に対する顔料微粒子(B)の重量比率が0.1重量部未満の場合、十分な紫外線遮蔽効果を発現できない場合がある。また顔料微粒子(B)の重量比率が20重量部を超えると、加工工程中に顔料微粒子が脱落する場合があり、安定な加工を行うことが困難な場合がある。
【0040】
一方、高強力繊維(A)に対するバインダー樹脂(C)の重量比率が1重量部未満の場合、繊維表面を均一に被覆することが困難な場合があり、十分な紫外線遮蔽効果を発現できない場合がある。またバインダー樹脂(C)の重量比率が50重量部を超えると、繊維の柔軟性が低下し、加工時および使用時の取り扱いが困難な場合がある。
【0041】
耐候性高強力繊維においては、顔料微粒子(B)とバインダー樹脂(C)とからなるコーティング層の厚みが1〜50μmであることが好ましく、より好ましくは2〜30μmであってもよい。コーティング層の厚みが1μm未満の場合、繊維表面を均一に被覆することが困難な場合があり、十分な紫外線遮蔽効果を発現できない場合がある。またコーティング層の厚みが50μmを超えると、繊維の柔軟性が低下し、加工時および使用時の取り扱いが困難な場合がある。
【0042】
本発明の顔料微粒子(B)およびバインダー樹脂(C)は、分散液や溶液に均一に微分散した状態でコーティングするために、水や有機溶剤に溶解あるいは微分散させた状態で混合することが好ましい。
【0043】
また本発明において、高強力繊維表面に平均粒子径10〜250nmの顔料微粒子(B)とバインダー樹脂(C)とを含む層をコーティングする方法としては、微分散液あるいは溶液の状態で公知のディップ方式やローラータッチ方式、あるいは一定量の液をノズルより高強力繊維(A)に付着させる方法等を適用することができる。
【0044】
コーティング条件に特に制限はないが、微分散液あるいは溶液中のバインダー樹脂濃度が2〜20重量%であることが好ましく、また繊維100重量部に対するバインダー液のピックアップ量は50〜250重量部であることが好ましい。
【0045】
さらに、乾燥および熱処理条件についても特に制限はないが、乾燥工程は70〜110℃で0.5〜5分間、熱処理工程は140〜180℃で0.5〜5分間の範囲で適宜調整することが好ましい。
【0046】
コーティング層は、高強力繊維に耐候性を付与できる範囲で、高強力繊維表面(または表層)を被覆していればよく、繊維表面全体を、均一に被覆していることが好ましい。顔料微粒子(B)とバインダー樹脂(C)の微分散液をコーティングした高強力繊維(A)は、乾燥・熱処理工程を経て、繊維表面にコーティング層が形成される。
【0047】
(耐候性繊維集合体)
本発明の耐候性繊維集合体は、第一の形態として、前記耐候性高強力繊維から形成された繊維集合体を例示できる。
このような繊維集合体では、前記耐候性高強力繊維を用いて、撚糸工程を経ることにより、ロープやコード、ネット等として、有効に利用できる。または、耐候性高強力繊維を用いて、通常の織編工程を経ることにより、織編物などの耐候性繊維集合体としてもよい。
【0048】
また、第二の形態としては、高強力繊維(A)を織物、編物、不織布等の布帛やコード、ロープ、ネットなどの繊維構造体に一旦成形した後、顔料微粒子(B)とバインダー樹脂(C)をこの繊維構造体に対してコーティングして、耐候性繊維集合体としてもよい。このコーティング層についても、高強力繊維構造体に耐候性を付与できる範囲で、高強力繊維構造体表面(または表層)を被覆していればよい。例えば、布帛では、布帛の外側が被覆されていればよく、布帛内部までコーティング層が含浸していなくともよい。また、平面状のものであれば、日光があたる面にコーティング層を有し、日光のあたらない面にはコーティング層を有していなくてもよい。ただし、より高い耐候性を達成する観点からは、繊維構造体の表面全体を均一に被覆していることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定されるものではない。
【0050】
[強度測定]
JIS L 1013に準じ、試長20cm、初荷重0.1g/d、引張速度10cm/minの条件で破断強度を求め、5点以上の平均値を採用した。
【0051】
[耐脱落性]
コーティング加工における熱処理後、樹脂・顔料微粒子のガイド・ロール等への付着状態を目視観察し、次の基準で耐脱落性を評価した。
◎:脱落なく極めて良好
○:わずかに脱落見られるも良好
△:コーティングは可能であったが顔料微粒子の脱落がみられた
×:脱落が激しくコーティング困難
【0052】
[耐候性評価]
高強力繊維をサンシャインウェザーメーターで200時間照射後、強度保持率を測定した。
【0053】
(実施例1)
p−アセトキシ安息香酸70モルおよび6−アセトキシ−2−ナフトエ酸30モルから全芳香族ポリエステルを得た。このポリマーの融点は280℃であった。該ポリマーを、ノズル径0.1mmφ、ホ−ル数300個の口金より、紡糸温度315℃、紡糸速度1000m/minで溶融紡糸し、1670dtex/300fのフィラメントを得た。得られた紡糸原糸の強度は8.5cN/dtexであった。
この紡糸原糸を260℃で2時間、280℃で12時間熱処理した。得られた熱処理糸の強度は26cN/dtexであった。
【0054】
上記高強力繊維に、平均粒子径98nmの酸化第二鉄(赤:比重5.24g/cm)3.5重量%およびポリウレタン樹脂(エステル系ポリウレタン)10重量%分散液を、ディップ−ニップ方式にて付着させ、80℃で2分間乾燥させ、さらに170℃で2分間熱処理した。付着量は繊維100重量部に対して酸化第二鉄(赤)4.2重量部、ポリウレタン樹脂12重量部であった。また繊維断面観察によりコーティング層の厚みを測定したところ、およそ10μmであった。
上記繊維について耐候性評価を行ったところ、強度保持率98%と良好な結果を示した。
【0055】
(実施例2〜4)
実施例1と同様の方法で熱処理糸を採取し、平均粒子径98nmの酸化第二鉄(赤)およびポリウレタン樹脂分散液をディップ−ニップ方式にて付着させるに際し、表に示す付着量になるようコーティング濃度・回数を調整して処理を行った。
【0056】
具体的には、実施例2では実施例1と同濃度の分散液を用い、実施例1と同条件のディップ−ニップと乾燥を3回繰り返した後、最後に熱処理を行うことで、目的とするコーティング糸を作製した。
【0057】
また実施例3では、酸化第二鉄(赤)0.6重量%およびポリウレタン樹脂2重量%分散液を用い、実施例1と同じ方法・条件でコーティングを行った。
【0058】
さらに実施例4では、酸化第二鉄(赤)0.3重量%およびポリウレタン樹脂10重量%分散液を用い、実施例1と同条件のディップ−ニップと乾燥を3回繰り返した後、最後に熱処理を行うことで、目的とするコーティング糸を作製した。
得られたコーティング糸の顔料微粒子およびバインダー樹脂の付着量、厚み、および耐候性評価結果を同じく表に示す。
【0059】
(実施例5〜8)
実施例1と同様の方法で熱処理糸を採取し、表に示す平均粒子径の酸化第二鉄(赤)を用いる以外は実施例1と同じ方法・条件でコーティングを行った。
得られたコーティング糸の顔料微粒子およびバインダー樹脂の付着量、厚み、および耐候性評価結果を同じく表に示す。
【0060】
(実施例9〜11)
実施例1と同様の方法で熱処理糸を採取し、表に示す種類および平均粒子径の微粒子顔料を用いる以外は実施例1と同じ方法・条件でコーティングを行った。なお、実施例9で用いた亜鉛(黄)の比重は3.4g/cmである。
得られたコーティング糸の顔料微粒子およびバインダー樹脂の付着量、厚み、および耐候性評価結果を同じく表に示す。
【0061】
(実施例12)
実施例1と同様の方法で熱処理糸を採取し、バインダー樹脂としてポリアクリル酸エチルを用いる以外は実施例1と同じ方法・条件でコーティングを行った。
得られたコーティング糸の顔料微粒子およびバインダー樹脂の付着量、厚み、および耐候性評価結果を同じく表に示す。
【0062】
(実施例13)
p−アセトキシ安息香酸60モル、6−アセトキシ−2−ナフトエ酸4モル、テレフタル酸18モル、4−4’−ビスフェノ−ル14モル、およびp−アミノフェノ−ル4モルから全芳香族ポリエステルアミドを得た。このポリマーの融点は340℃であった。該ポリマーを、ノズル径0.1mmφ、ホ−ル数300個の口金より、紡糸温度360℃、紡糸速度1000m/minで溶融紡糸し、1670dtex/300fのフィラメントを得た。得られた紡糸原糸の強度は7.9cN/dtexであった。
【0063】
この紡糸原糸を170℃に均一化した後、10℃/時間で310℃まで昇温し、8時間熱処理した。得られた熱処理糸の強度は22.5cN/dtexであった。
上記高強力繊維を用い、実施例1と同じ方法・条件でコーティングを行った。
得られたコーティング糸の顔料微粒子およびバインダー樹脂の付着量、厚み、および耐候性評価結果を同じく表に示す。
【0064】
(実施例14)
p−フェニレンジアミン50モルおよびテレフタル酸50モルからポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)を得た。該ポリマーを濃硫酸に溶かして濃度20%の溶液を作製し、ノズル径0.06mmφ、ホ−ル数1000個の口金より、温度80℃で紡糸、温度4℃の水中で凝固させ、水酸化ナトリウムで中和、さらにホットローラーで乾燥することにより、1670dtex/1000fのフィラメントを得た。得られた繊維の強度は20.9cN/dtexであった。
【0065】
上記高強力繊維を用い、実施例1と同じ方法・条件でコーティングを行った。
得られたコーティング糸の顔料微粒子およびバインダー樹脂の付着量、厚み、および耐候性評価結果を同じく表に示す。
【0066】
(実施例15)
実施例1と同様の方法で熱処理糸を採取し、この熱処理糸からなる織物を作製した。
上記高強力繊維織物を縦50cm、横30cmに切り出し、実施例1と同様の分散液をディップ−ニップ方式で付着させ、熱風乾燥機にて80℃で2分間乾燥し、さらに170℃で2分間熱処理を行った。
得られたコーティング織物の顔料微粒子およびバインダー樹脂の付着量、厚み、および耐候性評価結果を同じく表に示す。
耐候性評価について、強度保持率95%と良好な結果を示した。
【0067】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で熱処理糸を採取し、コーティングを行わず、そのまま耐候性評価結果を行った。結果を表に示す。
強度が大きく低下し、強度保持率60%との結果であった。
【0068】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で熱処理糸を採取し、エステル系ポリウレタン樹脂のみ10%分散させた液を用いる以外は、実施例1と同じ方法・条件でコーティングを行った。
得られたコーティング糸のバインダー樹脂の付着量、厚み、および耐候性評価結果を同じく表に示す。
バインダー樹脂でコーティングした場合であっても、比較例1と同じく強度が大きく低下し、強度保持率65%との結果であった。
【0069】
(比較例3〜6)
実施例1と同様の方法で熱処理糸を採取し、表に示す平均粒子径の酸化第二鉄(赤)を用いる以外は実施例1と同じ方法・条件でコーティングを行った。
得られたコーティング糸の顔料微粒子およびバインダー樹脂の付着量、厚み、および耐候性評価結果を同じく表に示す。
比較例1、2に比べて強度低下がわずかに抑えられたものの、強度保持率はおよそ70%であり、十分な耐候性改善には至らなかった。
【0070】
(比較例7)
実施例1と同様の方法で熱処理糸を採取し、微粒子顔料として平均粒子径84nmのカーボンブラックを用いる以外は実施例1と同じ方法・条件でコーティングを行った。
得られたコーティング糸の顔料微粒子およびバインダー樹脂の付着量、厚みおよび耐候性評価結果を同じく表に示す。
このコーティング糸では、耐候性については満足のいく結果であったが、ガイド・ロールへのカーボン付着がみられたため、顔料微粒子の耐脱落性の面では、改造の余地があると考えられる。
【0071】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明にて耐候性の改善された高強力繊維は、一般産業資材(例えば、自動車内各種コード、電気製品内の動力伝達コード、ロボットの力伝達コードなど)、スポーツ、防護衣等の分野に広く用いられるが、特に有効な用途としては、屋外の日光に曝される各種用途が例示でき、例えば、ロープ、コード、魚網、陸上ネット(安全ネット、ゴルフネット等)、釣糸、パラグライダー、気球、カイト等のライン、アンテナ支持、ペット用鎖代替品、ブラインド用コード、テント用ロープ、登山用ロープ等を挙げることができる。
【0073】
以上のとおり、本発明の好適な実施態様を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強力繊維表面に平均粒子径10〜250nmの顔料微粒子とバインダー樹脂とを含む層がコーティングされ、前記顔料微粒子は、有機顔料または比重2.0以上の無機顔料で構成されている耐候性高強力繊維。
【請求項2】
高強力繊維(A)、顔料微粒子(B)、バインダー樹脂(C)が(A)/(B)/(C)=100/0.1〜20/1〜50の重量比率で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の耐候性高強力繊維。
【請求項3】
顔料微粒子(B)とバインダー樹脂(C)とを含む層の厚みが1〜50μmである、請求項1また2に記載の耐候性高強力繊維。
【請求項4】
バインダー樹脂(C)がポリウレタン系樹脂もしくはアクリル系樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の耐候性高強力繊維。
【請求項5】
高強力繊維が液晶ポリマー繊維である請求項1〜4のいずれかに記載の耐候性高強力繊維。
【請求項6】
液晶ポリマー繊維が、全芳香族ポリエステル繊維または全芳香族ポリエステルアミド繊維である請求項5に記載の耐候性高強力繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の耐候性高強力繊維からなる耐候性繊維構造体。
【請求項8】
高強力繊維から形成された繊維構造体であって、その表面に平均粒子径10〜250nmの顔料微粒子とバインダー樹脂とを含むコーティング層を備えており、前記顔料微粒子は、有機顔料または比重2.0以上の無機顔料で構成されている耐候性繊維構造体。

【公開番号】特開2011−168933(P2011−168933A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35786(P2010−35786)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】