説明

耐傷付き性に優れた塗装鋼板の製造方法及び塗装鋼板

【課題】 耐傷付き性と耐食性に優れ、特に優れた繰り返し摺動性を有する塗装鋼板を提供する。
【解決手段】 化成処理を施した亜鉛めっき鋼板またはアルミニウム/亜鉛合金めっき鋼板上に、防錆顔料を含有するプライマーを乾燥塗膜厚が2〜30μmになるように塗装して焼付けてプライマー塗膜を形成する工程と、該プライマー塗膜上に、樹脂成分がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びアマイド樹脂の群から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなるワックス粒子の表面にダイヤモンド粒子を固定したダイヤモンド粒子固定ワックス粒子が固形分換算値で、塗料固形分全量に対して0.3〜5質量%の割合で分散されている上塗塗料を乾燥塗膜厚が10〜30μmになるように塗装し、焼付けて上塗塗膜を形成する工程とからなることを特徴とする塗装鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐傷付き性に優れ、耐食性に優れた塗装鋼板の製造方法及び塗装鋼板に関する。特に、この塗装鋼板は優れた繰り返し摺動性を有するため、シャッター材として好適である。
【背景技術】
【0002】
めっき鋼板に予め塗装が施してあり、加工後に塗装の必要がない塗装鋼板(プレコート鋼板)は、屋内や屋外の建材用途に従来から広く使用されている。建材用の代表的な塗装鋼板としては、用途別にポリエステル樹脂系やフッ素樹脂系、塩化ビニル系等の塗装鋼板が挙げられる。
ポリエステル樹脂系塗装鋼板は、平均分子量3,000〜5,000程度のポリエステル樹脂を主成分とし、架橋剤を含有する熱硬化型塗料をおよそ15μm程度の膜厚で塗装したものである。このポリエステル樹脂系塗装鋼板は、安価であるが膜厚が小さいため傷つきを生じると傷部から錆が発生し不十分であるという欠点がある。
【0003】
この欠点を改善するものとして、プライマー層を厚膜化し、上塗り層にアクリル樹脂やナイロン等の樹脂ビーズやガラス繊維、アルミナ繊維、窒化ホウ素などの無機フィラーを添加することで耐傷付き性、耐久性に優れた塗装鋼板が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
また、フッ素樹脂系微粒子を添加することで繰り返し摺動性を向上した塗装鋼板が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
しかしながら、これらの塗装鋼板は、塗膜外観や耐傷付き性が無機フィラーや樹脂ビーズの粒径に影響されるため、上塗塗膜の膜厚によっては安定した塗膜性能が得られず、さらに、これらの塗装鋼板をシャッターのような繰り返し摺動特性が必要な用途に適用した場合、耐傷付き性は不十分である。
また、フッ素樹脂系微粒子の場合も同様にフッ素樹脂の粒径が傷付き性や繰り返し摺動性に影響するため、膜厚によっては十分な繰り返し摺動性が得られないという問題がある。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−192254号公報
【特許文献2】特開2000−185260号公報
【特許文献3】特開2007−276187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐傷付き性と耐食性に優れ、特に優れた繰り返し摺動性を有する塗装鋼板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上塗塗料中に特殊なワックス成分を加えることにより、膜厚に影響されず安定した耐傷付き性、耐食性、繰り返し摺動性に優れた塗装鋼板を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、化成処理を施した亜鉛めっき鋼板またはアルミニウム/亜鉛合金めっき鋼板上に、防錆顔料を含有するプライマーを乾燥塗膜厚が2〜30μmになるように塗装して焼付けてプライマー塗膜を形成する工程と、該プライマー塗膜上に、樹脂成分がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びアマイド樹脂の群から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなるワックス粒子の表面にダイヤモンド粒子を固定したダイヤモンド粒子固定ワックス粒子が固形分換算値で、塗料固形分全量に対して0.3〜5質量%の割合で分散されている上塗塗料を乾燥塗膜厚が10〜30μmになるように塗装し、焼付けて上塗塗膜を形成する工程とからなることを特徴とする塗装鋼板の製造方法を提供するものである。
さらに、本発明は、上記塗装鋼板の製造方法によって得られる塗装鋼板を提供するものである。
なお、以降において、上記ダイヤモンド粒子固定ワックス粒子を、ダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子ともいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗装鋼板の製造方法により得られた塗装鋼板は、耐傷付き性と、耐食性とに優れ、特に繰り返し摺動性に優れた性能を有している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いる素材となる鋼板は、防錆性の観点から亜鉛めっき鋼板またはアルミニウム/亜鉛合金めっき鋼板であり、化成処理を施したものを被塗物とする。
亜鉛めっき鋼板や、アルミニウム/亜鉛合金めっき鋼板の厚みは、種々の厚みであることができ、通常0.1〜2mmが好ましい。
亜鉛めっき鋼板またはアルミニウム/亜鉛合金めっき鋼板上に形成される化成処理皮膜には特別な制約はなく、例えば、リン酸塩処理皮膜、クロメート処理皮膜、シリカ含有クロメート処理皮膜、各種金属酸化物、有機樹脂などを単独又は複合して用いることができる。付着性に優れ、かつ、均一な外観性に優れた皮膜を形成させるという観点からは、化成処理皮膜として、有機樹脂とクロム酸を含む薄膜が挙げられ、好ましくは、有機樹脂とクロム酸を主成分とする薄膜が挙げられる。有機樹脂としては、クロム酸溶液中に安定して分散可能な水分散性樹脂が好ましい。この水分散性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂やウレタン樹脂を乳化剤で分散させたものが好適である。クロム酸を含む化成処理皮膜では、化成処理皮膜の付着量は、適宜選定すればよいが、クロム金属換算で20〜80g/mであることが好ましい。
【0011】
また、クロム酸を含まない化成処理皮膜としては、ケイ酸、ケイ酸化合物、カルシウム、カルシウム化合物、ジルコン酸、ジルコン酸化合物、バナジン酸、バナジン酸化合物、モリブデン酸化合物、リン酸、リン酸系化合物のうちの1種以上を含む化成処理皮膜が挙げられる。この場合、結合剤として有機樹脂を用いてもよい。その有機樹脂としては、例えば水分散性のアクリル樹脂やウレタン樹脂などが挙げられる。
化成処理皮膜の付着量は、適宜選定すればよいが、0.3〜3g/mであることが好ましい。
【0012】
次に、上記化成処理皮膜上に塗装される防錆顔料を含有するプライマーについて説明する。
プライマーに含有される塗料用基体樹脂は、通常プレコート鋼板用の下塗塗料に用いられる樹脂であればよいが、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。基体樹脂は種々の数平均分子量を有するものであってもよい。例えば、ポリエステル系樹脂の場合、数平均分子量は1,000〜30,000の範囲が好ましい。また、基体樹脂は、水酸基などの官能基を有してもよい。例えば、ポリエステル系樹脂の場合、水酸基価は3〜100mgKOH/gの範囲が好ましい。また、基体樹脂は、樹脂に含有される水酸基等の官能基と架橋反応する、ブチル化メラミン、メチル化メラミン、ブチルメチル混合メラミン、尿素樹脂、イソシアネート等の架橋剤と共に用いることができる。これらの基体樹脂、架橋剤は、1種単独で用いてもよいし、2種類以上用いてもよい。架橋剤の使用量は、通常用いられる量であればよい。架橋剤を用いない場合の基体樹脂の含有量、及び架橋剤を用いる場合の基体樹脂と架橋剤の合計含有量は、それぞれ塗膜の全固形分に対して固形分で通常50〜80質量%が好ましく、60〜75質量%がさらに好ましい。
【0013】
プライマーには、耐食性を向上させる目的で、防錆顔料を含有する。防錆顔料としては公知のものが適用でき、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カルシウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム等のリン酸系防錆顔料、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム等のモリブデン酸系防錆顔料、酸化バナジウム等のバナジウム系防錆顔料、カルシウムシリケート等のシリケート系顔料、ストロンチウムクロメート、ジンククロメート、カルシウムクロメート、カリウムクロメート、バリウムクロメート等のクロメート系防錆顔料、水分散シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、ヒュームドシリカ等の微粒シリカ、フェロシリコン等のフェロアロイを用いることができる。中でも、耐食性の観点からは、クロメート系防錆が好ましく、ストロンチウムクロメートが特に好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種類以上用いてもよい。防錆顔料の含有量は、プライマー塗膜の全固形分に対して固形分で通常5〜25質量%が好ましく、15〜20質量%がさらに好ましい。
【0014】
また、プライマーには、素地を隠蔽する目的で、通常プレコート鋼板のプライマーに用いられる酸化チタン、酸化鉄などの有機又は無機の着色顔料を用いてもよい。また、必要に応じて、耐スクラッチ性を付与したり、塗料の流動性を改良したりする目的で、体質顔料を用いてもよい。これらの有機又は無機の着色顔料及び/又は体質顔料の含有量は、塗膜の全固形分に対して通常0.5〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がさらに好ましい。
【0015】
プライマー塗膜の膜厚は、2〜30μmが好ましく、より好ましくは4〜20μmである。2μm未満では、プレコート鋼板としての耐食性、加工性などの基本性能が得られないことがあり、30μmを超えた場合は、焼付け時にワキなどが発生して塗装作業性が低下することがある。
【0016】
次に、上記プライマー層の上に形成される上塗塗料について説明する。
本発明における上塗塗料には、ダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子を上塗塗料に含有させることにより、塗膜の耐傷付き性及び繰り返し摺動性を著しく向上させることができる。
このダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子は、上塗塗料中で分散されている。
ダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子の含有量は、上塗塗膜の全固形分に対して、0.3〜5質量%であり、さらに好ましくは、0.5〜3.0質量%である。ダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子の含有量が0.3質量%未満では、耐傷付き性の効果が不十分であり、5質量%を超えた場合には、それ以上添加しても添加量に見合う効果は得られず、製造コストの上昇を招いてしまうだけで好ましくない。
【0017】
本発明に用いるダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子は、下記の公知の製法に準拠して得ることができる。
従来、大粒径のメディア粒子の表面に小粒径の粒子を固定する方法が知られている。
この方法の一例として、例えば、特開2002−346908号公報には、平均粒径0.1〜100μmの範囲にあるポリエチレン、アクリル、ウレタン、シリコン、ナイロン、ポリイミド、又はポリエステルからなる高分子粒子をメディア粒子とし、このメディア粒子よりも小粒径の平均粒径0.001〜20μmの範囲にあり、前記メディア粒子の表面に付着固定されるシリカ、アルミナ、炭化珪素、ダイヤモンド、又は酸化セリウムからなる硬質の粒子を研磨粒子とする複合粒子、及びこの複合粒子を懸濁する潤滑液から成る、マイクロバレル研磨に用いられる研磨剤が開示されている。
【0018】
また、他の例として、例えば、特開2009−072679号公報には、大小少なくとも2種以上の平均粒径からなる粉末を密閉容器内に収容し、収容された粉末を気流によって浮遊循環して前記大粒径の粉末の表面に前記小粒径の粉末を付着することを特徴とするコーティング方法が開示され、小粒径の粉末が、金属、酸化物、炭化物、窒化物、樹脂及びダイヤモンドから選ばれる少なくとも1種の粉末であり、前記大粒径の粉末が、金属、樹脂及びセラミックスから選ばれる粉末であることが記載されている。
【0019】
本発明で用いられるダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びアマイト゛樹脂から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなるワックス粒子をメディア粒子とし、その表面に、ダイヤモンド粒子を硬質の研磨粒子とするものである。従って、本発明で用いられるダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子は、上記公知の製法において、メディア粒子の代わりにワックス粒子を用い、研磨粒子としてダイヤモンド粒子を用いて、製造することができる。
メディア粒子が、上記高分子樹脂から選ばれた樹脂からなるワックス粒子でないと適度なスベリ性が確保できないため繰り返し摺動性が得られず、硬質の研磨粒子がダイヤモンド粒子でないと十分な耐傷付き性が得られない。
【0020】
本発明で用いられるダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びアマイト゛樹脂から選ばれた1種の樹脂からなるが、1種の樹脂からなってもよいし、2種以上を組み合わせた樹脂からなっていてもよい。ここで、ポリエチレン樹脂とは、低密度ポリエチレンであってもよいし、高密度ポリエチレンであってもよい。また、ポリプロピレン樹脂とは、プロピレンのホモポリマー樹脂であってもよいし、エチレンなどの他のオレフィンを共重合したプロピレンのコポリマー樹脂であってもよい。また、アマイト゛樹脂とは、ナイロン樹脂などのアミド結合を有する種々の樹脂が含まれる。
ダイヤモンド粒子は、種々の工業用ダイヤモンド粒子が用いられる。
本発明で用いられるダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子の成分組成は、ワックス粒子となる樹脂が50〜95質量%に対し、ワックス粒子の表面に固定されるダイヤモンド粒子の量が5〜50質量%が好ましく、ワックス粒子となる樹脂が60〜90質量%に対し、ワックス粒子の表面に固定されるダイヤモンド粒子の量が10〜40質量%がより好ましい。
【0021】
本発明で用いられるダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子の粒径は、大部分が100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。ここで、大部分の意味としては、通常80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。
また、ダイヤモンド粒子の粒径は、ワックス粒子の粒径の1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましく、1/20以下であることがさらに好ましい。
【0022】
該ダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子の市販品としては、例えば、DEULEX社製のMXD3920、VP765、VP749、VP750等がある。
本発明に用いられる上塗塗料において、ダイヤモンド粒子を表面に固定したワックス粒子の含有量は、塗料固形分全量に対して0.3〜5質量%であり、好ましくは0.5〜4質量%である。
【0023】
上塗塗料に含有される塗料用基体樹脂は、通常プレコート鋼板用の上塗塗料に用いられる樹脂であればよく、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、又は、これらを変性した樹脂などの樹脂が挙げられる。基体樹脂としては種々の数平均分子量を有するものが挙げられる。例えば、ポリエステル系樹脂の場合、数平均分子量は1,000〜30,000の範囲が好ましい。また、基体樹脂は、水酸基などの官能基を有してもよい。例えば、ポリエステル系樹脂の場合、水酸基価は3〜100mgKOH/gの範囲が好ましい。また、基体樹脂は、樹脂に含有される水酸基等の官能基と架橋反応する、ブチル化メラミン、メチル化メラミン、ブチルメチル混合メラミン、尿素樹脂、イソシアネート等の架橋剤と共に用いることができる。これらの基体樹脂、架橋剤は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種類以上用いてもよい。架橋剤の使用量は、通常用いられる量であればよい。架橋剤を用いない場合の基体樹脂の含有量、及び架橋剤を用いる場合の基体樹脂と架橋剤の合計含有量は、それぞれ塗膜の全固形分に対して固形分で通常40〜90質量%が好ましく、50〜85質量%がさらに好ましい。
【0024】
上塗塗料には、意匠性の目的で、着色顔料や染料を用いることができる。着色顔料としては、特に限定するものではなく、無機系、有機系、又は両者の複合系であってもよく、種々の公知のものを使用することができる。具体的な例としては、酸化チタン、赤色酸化鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、焼成顔料、シアニンブルー、シアニングリーン、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料、紺青、縮合多環系顔料等があり、必要に応じてカーボンブラック、アルミニウム顔料やパール顔料を用いてもよい。染料としては、インジゴイド染料、硫化染料、フタロシアニン染料、ジフェニルメタン染料、ニトロ染料、アクリジン染料等の染料が挙げられる。顔料又は染料の濃度は特に限定されず、必要な色や隠蔽力に基づいて選ぶことができる。
【0025】
また、上塗塗膜には、炭酸カルシウム、タルク、石膏、クレー、硫酸バリウム等の体質顔料、有機架橋微粒子、又は無機微粒子等も必要に応じて含有させることができる。体質顔料、有機架橋微粒子、無機微粒子等の含有量は、塗膜の全固形分に対して通常0〜20質量%が好ましく、0〜15質量%がさらに好ましい。
また、上塗塗膜には、必要に応じて、表面平滑剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、粘度調整剤、硬化触媒、顔料分散剤、顔料沈降防止剤、色別れ防止剤等の添加剤を含有させることができる。
【0026】
本発明の上塗塗膜の塗膜厚は、10〜30μmであり好ましくは12〜25μmであり、さらに好ましくは15〜20μmである。10μm未満では、十分な繰り返し摺動特性が得られず、また、塗料の色調が安定しなくなり、30μmを超えた場合は、加工性の低下やワキなどの塗膜欠陥が発生しやすくなるため好ましくない。
前記プライマー及び上塗塗料には、その他に、希釈剤として、有機溶剤が含有されていてもよい。
【0027】
有機溶剤としては、通常塗料に使用される種々の有機溶剤が適用でき、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、n−ブタノール、iso−ブタノール等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸3−メトキシブチル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)等のエステル系溶剤、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン等のエーテル系溶剤、アセトニトリル、バレロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の含窒素系溶剤が挙げられる。有機溶剤は、1種単独であっても、あるいは2種以上の複数溶剤の混合溶剤であっても差し支えない。また、有機溶剤の塗料中の含有量は、30〜80質量%が好ましく、40〜65質量%がより好ましい。
【0028】
本発明に用いるプライマー及び上塗塗料は、通常プレコート鋼板に用いられる方法で塗装することができる。例えば、バーコーター、ロールコーター、オーバーフローカーテンコーター、スリットカーテンコーター、ローラーカーテンコーター、Tダイ、複層カーテンコーター等が挙げられる。
本発明に用いるプライマーおよび上塗塗料を硬化させて塗膜を得る工程における硬化方法は、熱風加熱、高周波誘導加熱等の加熱乾燥や、場合によっては、電子線、紫外線の照射による硬化等があり、使用する塗料に適した方式を選択すればよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0030】
(プライマーの製造)
<製造例1>プライマーA−1の製造
ポリエステル樹脂「LH822−01」(商品名、エボニックデグサ社製、数平均分子量5,000、水酸基価50mgKOH/g、固形分55質量%) 55.8質量部、エポキシ樹脂「jer1001」(商品名、ジャパンエポキシレジン社製)のシクロヘキサノン60質量%溶液 6.3質量部、クロム酸ストロンチウム15質量部、二酸化チタン「R−960」(商品名、デュポン社製)5質量部、硫酸バリウム10質量部、シリカ「NIPSIL E−200A」(商品名、東ソー・シリカ社製)1質量部を混合し、ペイントシェーカーにて粒度が20μm以下になるように分散した。次に、硬化剤として、ブロック化イソシアネート化合物「スミジュールBL3175」(商品名、住化バイエルウレタン社製、NCO含有率11.2質量%、固形分75質量%)4.1質量部、触媒として、ジブチル錫ジラウリレートのキシレン50質量%溶液 0.2質量部、消泡剤として、「ディスパロンL1980−50」(商品名、楠本化成社製、固形分50質量%) 0.3質量部を添加して均一に撹拌混合し、「ソルベッソ#100」(商品名、エクソン化学社製芳香族ナフサ)2.3質量部で希釈することにより「プライマーA−1」を調製した。
【0031】
(上塗塗料ベースの製造)
<製造例2>上塗塗料ベースの製造
ポリエステル樹脂「ESPEL 1620」(商品名、日立化成社製、数平均分子量18,000、水酸基価7.5mgKOH/g、固形分40質量%)75質量部、二酸化チタン「R−960」(商品名、デュポン社製)30質量部を混合し、ペイントシェーカーにて粒度が10μm以下になるように分散した。次に、硬化剤として、メチル化メラミン樹脂「サイメル303」(商品名、日本サイテック社製、固形分100質量%)7.5質量部、酸触媒として、「Nacure1419」(商品名、楠本化成社製、固形分43質量%)3質量部、消泡剤として、「フローレンAC303」(商品名、共栄社化学社製、固形分77質量%)0.3質量部を添加し均一に攪拌し、シクロヘキサノン5質量部で希釈することにより「上塗塗料ベース」を調製した。
【0032】
<製造例3>上塗塗料B−1の製造
上記の上塗塗料ベース 120.8質量部に、ワックス「MXD3920」(商品名、DEUREX社製、ダイヤモンド粒子を表面に固定したポリエチレン樹脂のワックス粒子、固形分100質量%) 0.35質量部を加え、均一に撹拌して、上塗塗料B−1を得た。ダイヤモンド粒子を表面に固定したポリエチレン樹脂系ワックス粒子の塗料固形分中の含有量は、0.5質量%であった。
【0033】
<製造例4〜13>上塗塗料B−2〜11の製造
上記の上塗塗料B−1に加えるワックスを表1に記載のものに代えた以外は、上塗塗料B−1と同じ要領で、上塗塗料B−2〜11を調製した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1〜3において、上塗塗料中に含有されている表面にダイヤモンド粒子を固定したワックス粒子がワックス1〜6として記載されているが、そのワックス1〜6は、以下に示すものである。
ワックス1:MXD3920(商品名、DEUREX社製、ポリエチレン樹脂のワックス粒子(約85質量%)の表面にダイヤモンド粒子(約15質量%)が固定されたもの、粒子径は20μm未満のものが99%であり、7μm未満のものが50%である。)
ワックス2:VP750(商品名、DEUREX社製、ポリプロピレン樹脂のワックス粒子(約80質量%)の表面にダイヤモンド粒子(約20質量%)が固定されたもの、粒子径は13μm未満のものが99%であり、7μm未満のものが50%である。)
ワックス3:VP749(商品名、DEUREX社製、アマイド樹脂のワックス粒子(約80質量%)の表面にダイヤモンド粒子(約20質量%)が固定されたもの、粒子径は13μm未満のものが99%であり、5μm未満のものが50%である。)
ワックス4:ME1515(商品名、DEUREX社製、ポリエチレン樹脂のワックス粒子)
ワックス5:VP646(商品名、DEUREX社製、ポリエチレン樹脂のワックス粒子表面にシリカ微粒子が固定されたもの)
ワックス6:VP789(商品名、DEUREX社製、カルナバワックス粒子の表面にダイヤモンド粒子が固定されたもの)
また、表1〜3において、ワックス量/塗料中の固形分(質量%)は、塗料中の固形分に対する、表面にダイヤモンド粒子を固定したワックス粒子の含有量を質量%で表示したものである。
【0036】
<実施例1>
板厚0.4mmの55質量%アルミニウム/亜鉛合金メッキ鋼板(メッキ付着量片面65g/m)を脱脂処理した後、塗布型クロム処理(付着量1g/m)を施し、縦120mm、横250mmに裁断したものを素材として用いた。次に、プライマーA−1をバーコーターにより乾燥塗膜が15μmになるように塗布し、最高到達温度が230℃になるように40秒間の焼付けを行ってプライマー塗膜を形成した。このプライマー塗膜の上に、上塗塗料B−1をバーコーターにより乾燥膜厚が20μmになるように塗布し、最高到達温度が220℃になるように50秒間の焼付けを行って上塗り塗膜を形成し、塗装鋼板のサンプルを得た。プライマー塗膜の乾燥膜厚、上塗塗料の種類と乾燥膜厚、及び得られた塗膜の評価結果を表2に示した。
【0037】
<実施例2〜11、比較例1〜8>
プライマー塗膜の乾燥膜厚、上塗塗料の種類と乾燥膜厚を表2及び表3に示した以外は、実施例1と同じ要領で塗装鋼板のサンプルを得た。プライマー塗膜の乾燥膜厚、上塗塗料の種類と乾燥膜厚、及び得られた塗膜の評価結果を表2及び表3に示した。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
実施例及び比較例の塗膜の評価は、以下に示す方法により行った。
(塗膜評価方法)
<1> 塗膜外観
塗装面を目視にて観察し、塗装面に突起や塗料ワキによる噴火上の凹み(塗膜欠陥)の有無で評価した。
◎:塗膜欠陥が全く見られない。
△:一部塗膜欠陥が見られる。
×:塗膜全体に欠陥が見られる。
【0041】
<2> 加工性
塗装鋼板を所定の枚数の板(試験材と同じ板厚の板)を挟んで、23℃で180℃曲げ加工を施し(T曲げ)、加工を受けた塗膜を10倍ルーペで観察し下記基準に従い評価した。
◎:0T(挟み板なし)でクラック発生がない。
○:1T(挟み板1枚)でクラック発生がない。
×:1T(挟み板1枚)でクラック発生が見られる。
【0042】
<3> 繰り返し摺動性
塗装鋼板のサンプルを2枚に切断する。切断された1枚のサンプルの表(おもて)面が凸になるように直径1/2インチ(1.27cm)、高さ4mmの凸部を作り、それを圧子としてラビング試験機「RUBBING TESTER」(商品名、大平理化工業(株)製)に取り付け、もう1枚の切断された塗装鋼板のサンプルをテーブルに載せて、その上を1kgの荷重をかけて約100mm長にわたり連続的に往復させ、1万回往復後の表面状態を下記基準に従い評価した。
◎:キズが目立たない。
○:僅かにキズが目立つ。
△:部分的に塗膜剥離(めっき面の露出)が発生した。
×:全長にわたり塗膜剥離(めっき面の露出)が発生した。
【0043】
<4> 耐食性
試験材の塗膜側にメッキ鋼板の素地に達するクロスカットを入れてから、JIS K5600−7−1に基づく塩水噴霧試験を500時間実施した後に表面観察を行い、下記基準に従い評価した。
◎:クロスカット部から膨れの発生が認められない。
○:片側膨れ幅が0mm超1mm以下の発生が認められる。
△:片側膨れ幅が1mm超3mm以下の発生が認められる。
×:片側膨れ幅が3mm超の発生が認められる。
【0044】
<5> 耐傷付き性
連続加重式引掻強度試験機(商品名、新東科学(株)製)の引っかき部にサファイア針を取り付け、塗装鋼板のサンプルをテーブルの固定し、100gの荷重をかけサファイア針を塗膜に接地させ、1cm/秒の速度で針を移動させたときに生じる傷を下記基準に従い評価した。
◎:メッキ面が露出しない。
△:メッキ面の一部が露出した。
×:全長にわたりメッキ面が露出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化成処理を施した亜鉛めっき鋼板またはアルミニウム/亜鉛合金めっき鋼板上に、防錆顔料を含有するプライマーを乾燥塗膜厚が2〜30μmになるように塗装して焼付けてプライマー塗膜を形成する工程と、該プライマー塗膜上に、樹脂成分がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びアマイド樹脂の群から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなるワックス粒子の表面にダイヤモンド粒子を固定したダイヤモンド粒子固定ワックス粒子が固形分換算値で、塗料固形分全量に対して0.3〜5質量%の割合で分散されている上塗塗料を乾燥塗膜厚が10〜30μmになるように塗装し、焼付けて上塗塗膜を形成する工程とからなることを特徴とする塗装鋼板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塗装鋼板の製造方法によって得られる塗装鋼板。










【公開番号】特開2011−94050(P2011−94050A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250089(P2009−250089)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】