説明

耐切断割れ性とDWTT特性に優れた高強度・高靭性厚鋼板

【課題】せん断加工での切断の際の切断面での割れ発生防止とDWTT特性に優れる高強度・高靱性厚鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03〜0.12%、Si:≦0.5%、Mn:1.5〜3.0%、Al:0.01〜0.08%、Nb:0.01〜0. 08%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.001〜0.01%、更にCu、Ni、Cr、Mo、V、Bの1種又は2種以上、必要に応じてCa、REM、Zr、Mgの一種又は二種以上を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、ミクロ組織にベイナイトまたはマルテンサイトを含み、これらの組織中に存在するセメンタイトの平均粒径が0.5μm以下である厚鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度・高靱性厚鋼板関し、特に、せん断加工での切断の際の切断面での割れ発生防止とDWTT特性に優れ、天然ガスや原油の輸送用として用いられる引張強度が650MPa以上の高強度・高靱性のラインパイプ用厚鋼板に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,天然ガスや原油の輸送用として使用されるラインパイプは,高圧化による輸送効率の向上や薄肉化による現地溶接施工能率の向上のため、年々高強度化し、既にAPI規格でX100グレードのラインパイプが実用化され、引張強度900MPaを超えるX120グレードに対する要望が具体化されている。
【0003】
このような高強度ラインパイプ用溶接鋼管用の厚鋼板の製造方法に関し、例えば特許文献1に、熱間圧延後2段冷却を行い、2段目の冷却停止温度を300℃以下とすることで高強度化を達成する技術が開示されている。また、特許文献2には、Cu析出強化による高強度化を加速冷却+時効熱処理条件により達成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−293089号公報
【特許文献2】特開平08―311548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のように冷却停止温度を低くし、低温変態生成する硬質なベイナイトあるいはマルテンサイト組織を導入することで高強度を達成した場合、冷却ままの鋼板を必要なサイズにせん断加工で切断すると鋼中に残存する拡散性水素が原因で板面に平行な割れ(以降切断割れと称する)が発生する。
【0006】
一方、特許文献2記載のように、加速冷却後に熱処理を行うと、鋼中の水素は十分拡散し切断割れは抑制できるものの熱処理過程においてベイナイトあるいはマルテンサイト中にセメンタイトが析出・粗大化し、靱性低下、特に脆性亀裂伝播停止特性の評価を行うDWTT(Drop Weight Tear Test)特性が劣化する。
【0007】
本発明は、靱性、特に脆性亀裂伝播停止特性を劣化させずに耐切断割れ性を向上させた板厚10mm以上の高張力厚鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は冷却ままの高張力鋼の切断割れについて鋭意研究を重ねた結果、
1.鋼中の拡散性水素が、各トラップサイトにトラップされることを阻止するためには、少なくとも300℃以上での脱水素の熱処理が必要であること。
【0009】
2.冷却停止後,ただちに再加熱を開始し、鋼板温度を300℃以上に昇温すると水素の拡散が促進される結果、鋼中に残留する水素量が割れ発生限界量を下回ること
を見出した。
【0010】
また、DWTT特性劣化の原因となるベイナイトあるいはマルテンサイト中のセメンタイトの粗大化挙動については、再加熱時の加熱速度を速くすると300〜500℃の温度域に加熱してもセメンタイトが粗大化せず、0.5μm以下に抑制され、DWTT特性の劣化が抑制されることを見出した。
【0011】
本発明は以上の知見を基に、さらに検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.質量%で、
C:0.03〜0.12%
Si:≦0.5%
Mn:1.5〜3.0%
Al:0.01〜0.08%
Nb:0.01〜0.08%
Ti:0.005〜0.025%
N:0.001〜0.01%
更に、
Cu:0.01〜2%
Ni:0.01〜3%
Cr:0.01〜1%
Mo:0.01〜1%
V:0.01〜0.1%
B:0.0005〜0.005%
の1種又は2種以上を含有し
残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成で、ミクロ組織にベイナイトまたはマルテンサイトを含み、これらの組織中に存在するセメンタイトの平均粒径が0.5μm以下であることを特徴とする耐切断割れ性とDWTT特性に優れた高強度・高靭性厚鋼板。
2.成分組成に更に、質量%で、
Ca: 0.0005〜0.01%
REM:0.0005〜0.02%
Zr:0.0005〜0.03%
Mg:0.0005〜0.01%
の1種または2種以上を含有する成分組成で、ミクロ組織にベイナイトまたはマルテンサイトを含み、これらの組織中に存在するセメンタイトの平均粒径が0.5μm以下であることを特徴とする1記載の耐切断割れ性とDWTT特性に優れた高強度・高靭性厚鋼板。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、せん断による切断割れ防止とDWTT特性に優れる、天然ガスや原油の輸送用の引張強度が650MPa以上の高強度・高靱性のラインパイプ用として好適な厚鋼板が得られ産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は鋼板の成分組成と製造条件において、スラブ加熱温度、熱間圧延条件、冷却条件および再熱処理条件を規定する。以下、限定理由を説明する。
【0014】
[成分組成]
C:0.03〜0.12%
Cは低温変態組織においては過飽和固溶することで強度上昇に寄与する。この効果を得るためには0.03%以上の添加が必要であるが、0.12%を超えて添加すると,パイ
プの円周溶接部の硬度上昇が著しくなり、溶接低温割れが発生しやすくなるため、上限を0.12%とする。
【0015】
Si:≦0.5%
Siは変態組織によらず固溶強化するため、強度上昇に有効であるので添加する。しかし、0.5%を超えて添加すると靱性が著しく低下するため上限を0.5%とする。
【0016】
Mn:1.5〜3.0%
Mnは焼入性向上元素として作用し、1.5%以上の添加によりその効果が得られるが連続鋳造プロセスでは中心偏析部の濃度上昇が著しく、3.0%を超える添加を行うと偏析部での遅れ破壊の原因となるため、上限を3.0%とする。
【0017】
Al:0.01〜0.08%
Alは脱酸元素として作用する。0.01%以上の添加で十分な脱酸効果が得られるが、0.08%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し、靱性劣化の原因となるため上限を0.08%とする。
【0018】
Nb:0.01〜0.08%
Nbは熱間圧延時のオーステナイト未再結晶領域を拡大する効果があり、特に950℃まで未再結晶領域とするためには0.01%以上の添加が必要である。一方、0.08%を超えて添加するとHAZの靱性を著しく損ねることから上限を0.08%とする。
【0019】
Ti:0.005〜0.025%
Tiは窒化物を形成し、鋼中の固溶N量低減に有効で、析出したTiNがピンニング効果でオーステナイト粒の粗大化抑制防止をすることで,母材,HAZの靱性向上に寄与する。
【0020】
必要なピンニング効果を得るためには0.005%以上の添加が必要であるが0.025%を超えて添加すると炭化物を形成するようになり、その析出硬化で靱性が著しく劣化するため、上限を0.025%とする。
【0021】
N:0.001〜0.01%
Nは通常鋼中の不可避不純物として存在するが、前述の通りTi添加を行うことで、オーステナイト粗大化を抑制するTiNを形成するため規定する。
【0022】
必要とするピンニング効果を得るためには0.001%以上鋼中に存在することが必要であるが、0.01%を超える場合、溶接部、特に溶融線近傍で1450℃以上に加熱されたHAZでTiNが分解し、固溶Nの悪影響が著しいため、上限を0.01%とする。
【0023】
本発明では更に、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bの一種または二種以上を添加する。Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bはいずれも焼入性向上元素として作用し、これらの元素の1種または2種以上を添加することで板厚10mm以上の厚鋼板において高強度化が可能となる。
【0024】
Cu:0.01〜2%
Cuは、0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与し、0.8%以上添加した場合、時効熱処理で析出強化が著しいことから溶接熱影響部の軟化防 止にも寄与する。しかし、2%以上の添加を行うと,靱性劣化が生じるため上限は2%で、添加する場合は0.01〜2%とする。
【0025】
Ni:0.01〜3%
Niは0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。特に、多量に添加しても靱性劣化を生じないため、強靱化に有効であるが高価な元素であり、且つ、3%を超えて添加しても強度上昇が飽和するため、上限は3%で、添加する場合は0.01〜3%とする。
【0026】
Cr:0.01〜1%
Crもまた0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。一方、1%を超えて添加すると靱性が劣化するため、上限は1%で、添加する場合は0.01〜1%とする。
【0027】
Mo:0.01〜1%
Moもまた0.01%以上添加することで鋼の焼入性向上に寄与する。一方、1%を超えて添加すると靱性が劣化するため、上限は1%で、添加する場合は0.01〜1%とする。
【0028】
V:0.01〜0.1%
Vは炭窒化物を形成することで析出強化し、特に溶接熱影響部の軟化防止に寄与する。0.01%以上の添加によりこの効果が得られるが、0.1%を超えて添加すると析出強化が著しく靱性が低下するため、上限は0.1%で、添加する場合は0.01〜0.1%とする。
【0029】
B:0.0005〜0.005%
Bはオーステナイト粒界に偏析し、特に0.0005%以上の添加でフェライト変態が抑制され、強度低下防止に寄与する。しかし、0.005%を超えて添加してもその効果は飽和するため、上限は0.005%で、添加する場合は、0.0005〜0.005%とする。
【0030】
本発明の基本成分組成は以上であるが、更に靭性を向上させる場合、Ca、REM、Zr、Mgの一種または二種以上を添加することができる。
【0031】
Ca,REM,Zr,Mgは鋼中の非金属介在物であるMnSの形態制御、あるいは酸化物あるいは窒化物を形成し、主に溶接熱影響部におけるオーステナイト粒粗大化をピンニング効果で抑制する。
【0032】
Ca:0.0005〜0.01%
Caは鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、0.0005%以上添加することで靱性に有害なMnSの生成を抑制する。しかし、0.01%を超えて添加するとCaO−CaSのクラスターを形成し、靱性を劣化させるようになるので、上限は0.01%で、添加する場合は0.0005〜0.01%とする。
【0033】
REM:0.0005〜0.02%
REMもまた鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、0.0005%以上添加することで靱性に有害なMnSの生成を抑制する。しかし、高価な元素であり、且つ0.02%を超えて添加しても効果が飽和するため、上限は0.02%で、添加する場合は0.0005〜0.02%とする。
【0034】
Zr:0.0005〜0.03%
Zrは鋼中で炭窒化物を形成し、特に溶接熱影響部においてオーステナイト粒の粗大化を抑制するピンニング効果をもたらす。十分なピンニング効果を得るためには0.0005%以上の添加が必要であるが、0.03%を超えて添加すると鋼中の清浄度が著しく低下し、靱性が低下するようになるので、上限は0.03%で、添加する場合は0.0005〜0.03%とする。
【0035】
Mg:0.0005〜0.01%
Mgは製鋼過程で鋼中に微細な酸化物として生成し、特に、溶接熱影響部においてオーステナイト粒の粗大化を抑制するピンニング効果をもたらす。十分なピンニング効果を得るためには、0.0005%以上の添加が必要であるが、0.01%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し、靱性が低下するようになるため、上限は0.01%で、添加する場合は、0.0005〜0.01%とする。
【0036】
[製造条件]
製造方法の限定理由について説明する。
スラブ加熱温度:1000〜1200℃
スラブをオーステナイト化するための下限温度が1000℃である.一方、1200℃を超える温度まで鋼片を加熱すると、TiNピンニングを行っていても、オーステナイト粒成長が著しく、母材靱性が劣化するため、上限を1200℃とする。
【0037】
熱間圧延:950℃以下での累積圧下量≧67%
Nb添加によって950℃以下はオーステナイト未再結晶域である.該温度域にて累積で大圧下を行うことにより、オーステナイト粒を伸展させ、特に板厚方向で細粒とし、加速冷却して得られるベイナイト鋼の靱性を向上させる。
【0038】
圧下量を67%未満では,細粒化効果は不十分でベイナイト鋼の靱性向上が得られないため,累積圧下量の下限を67%とする。なお,著しく靱性向上を狙うための好適範囲は75%以上である。
【0039】
冷却の冷却開始温度≧600℃
熱間圧延後,冷却を開始するまでの空冷過程においてオーステナイト粒界から初析フェライトが生成し、ミクロ組織の大部分がフェライトとなり、母材強度が低下するため、冷却の冷却開始温度の下限温度を600℃とする。
【0040】
冷却の冷却速度:20〜80℃/s
強度低下の原因となるフェライト変態を抑制するために20℃/s以上で冷却を行う。一方、80℃/sを超える冷却速度では鋼板表面近傍でマルテンサイト変態が生じ、鋼板強度は上昇するものの、靱性劣化、特にシャルピー吸収エネルギー低下が著しいため冷却速度の上限を80℃/sとする。
【0041】
冷却の冷却停止温度:≦250℃
鋼板のミクロ組織をベイナイトやマルテンサイト組織化して、高強度化するため,冷却の冷却停止温度を規定する。冷却停止温度が250℃を超えると強度や靱性に劣る上部ベイナイト組織となるため、冷却停止温度は250℃以下とする。
【0042】
再加熱処理
再加熱処理は、切断割れを防止するために行う。冷却による低温変態で高強度化した鋼板は空冷後において、拡散性水素が鋼中に残留し、切断割れを起こす場合がある。
【0043】
再加熱処理は、再加熱までの時間が長いとその間の空冷過程での温度低下によって水素が拡散しにくくなるため、冷却停止後すみやかに行い、望ましくは300秒以内、更に望ましくは100秒以内とする。再加熱方法は,炉加熱、誘導加熱いずれでも良く本発明では特に規定しない。
【0044】
再加熱時の昇温速度:≧5℃/s
冷却を停止した鋼を直ちに再加熱することで、冷却によって変態生成したベイイナイトあるいはマルテンサイト中に過飽和固溶している炭素がセメンタイトとして均質・微細に析出する。
【0045】
そして、300℃を超える温度域から凝集・粗大化し、特にDWTT特性に悪影響を及ぼす。
【0046】
しかし、発明者等の研究の結果、加熱時の昇温速度を早くするほどこの凝集過程が抑制され、セメンタイトが粗大化しなくなることを見出した。
【0047】
そして、昇温速度を5℃/s以上とすることで、セメンタイトがほぼ析出直後の微細な状態を維持できたことから昇温速度は5℃/s以上とする。
【0048】
再加熱温度:300℃〜500℃
再加熱温度が300℃未満の場合、鋼中において十分に水素が拡散せず、切断割れを防止することができないため,再加熱温度は300℃以上とする。一方、500℃を超える温度まで加熱すると、焼き戻しによる軟化で強度低下が著しいため、上限を500℃とする。
【0049】
[ミクロ組織]
ベイナイトまたはマルテンサイトを含み、かつこれらのベイナイトまたはマルテンサイト中に存在するセメンタイトの平均粒径が0.5μm以下、引張強度650MPa以上の高強度を得るためには、ミクロ組織にベイナイトあるいはマルテンサイトを含む必要がある。
【0050】
ベイナイト、マルテンサイト、ベイナイトとマルテンサイトのいずれの面積率は60%以上であることが望ましく、その他の組織としてフェライトやパーライトを30%未満含むことが許容される。
【0051】
さらにこれらの組織中のセメンタイトが粗大化するとDWTT特性が劣化するので、セメンタイトの平均粒径は0.5μm以下とする。好ましくは0.2μm以下である。
【0052】
尚、本発明では鋼の製鋼方法は特に限定しない。経済性の観点から転炉法による製鋼プロセスと、連続鋳造プロセスによる鋼片の鋳造を行うことが望ましい。
【実施例】
【0053】
表1に示す化学組成の鋼を用い、表2に示す熱間圧延・冷却、再加熱条件で鋼板A
〜Kを作製した。尚、再加熱処理は冷却(水冷)設備と同一ライン上に設置した誘導加熱型の加熱装置を用いて行った。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
まず、それぞれの鋼板をせん断機により20箇所切断し、その切断端面を磁粉探傷により調査し、切断割れが認められた切断端面の数を求めた。1つの端面内に複数の割れが確認できた場合でも、端面としては1つなので、切断割れの発生数は1とした。全ての切断箇所において、切断割れが認められない場合を切断割れ発生数0とした.
次に、それぞれの鋼板より、API−5Lに準拠した全厚引張試験片およびDWTT試験片を、板厚中央位置からJIS Z2202(1980)のVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、鋼板の引張試験、DWTT試験およびシャルピー衝撃試験を実施して、強度と靱性を評価した。
【0057】
圧延方向断面に平行にミクロ組織観察用サンプルを採取し、鏡面研磨後、硝酸アルコールエッチング処理を行って光学顕微鏡にてミクロ組織観察を行った。
【0058】
次に、再度、鏡面研磨後、スピードエッチング処理を行って、走査型電子顕微鏡にてセメンタイトの観察を行い、無作為10視野で観察されたセメンタイト粒子の円相当径を平均して算出した。
【0059】
また、それぞれの鋼板より、再現熱サイクル試験片を採取し、溶融線近傍の粗粒熱影響部を模擬した最高加熱温度1400℃とする熱サイクルを付与後、JIS Z2202(1980)のVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を実施して溶接熱影響部靱性を評価した。
【0060】
更に、JIS Z 3158(1993)に準拠し、y形溶接割れ試験を実施した。試験雰囲気は気温30℃で湿度80%とし、該雰囲気内に1時間放置した100kgf級高張力鋼用の手溶接棒を用い、予熱温度100℃とした試験体に試験ビードを溶接した。溶接割れ感受性は試験ビードと直交する断面の断面割れ率で評価した。
【0061】
鋼板のせん断切断試験結果、母材の強度・靱性調査結果、再現熱サイクルによる溶接熱影響部の靱性調査結果、および溶接割れ感受性の評価結果をまとめて表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
本発明範囲は、せん断切断試験では割れ無し、母材の強度は引張強度650MPa以上、降伏強度550MPa以上、母材靭性vE−30200J以上、DWTT SA−3085%以上、溶接熱影響部の靱性vE−30100J以上、y形溶接割れ試験断面割れ率(%)0%を本発明範囲内とした。
【0064】
化学組成および圧延・冷却・再加熱条件が本発明の範囲内の発明例1〜8、17、18は切断割れが発生することなく、且つ高強度・高靱性を示した。
【0065】
一方,化学組成は本発明範囲内(鋼種C)であるものの、製造条件が本発明範囲外である比較例9〜12は耐切断特性などが本発明例と比較して劣る。
【0066】
熱間圧延後の加速冷却停止温度が上限を外れた比較例9は、発明例3に較べ強度が著しく低下した。
【0067】
また、冷却後の再加熱時の昇温速度が下限を下回った比較例10は、母材強度や溶接熱影響部靱性は本発明例と同等であったが、セメンタイト粒径が0.5μmを超える粗大化が生じ、DWTT特性が著しく低下した。
【0068】
再加熱温度が下限を下回った比較例11は、水素の拡散が十分でなかったため、切断割れが発生した。再加熱温度が上限を上回った比較例12は、母材強度が低下した。
【0069】
鋼のC量が上限を上回った鋼種Gによる比較例13は、母材および溶接熱影響部靱性が低く、溶接割れ試験において割れが発生した。Mn量が上限を上回った鋼種Hによる比較例14も同じく溶接割れ試験で割れが発生した。
【0070】
また,Nb量が上限を上回った鋼種Jによる比較例15、Ti量が上限を上回った鋼種Kによる比較例16はいずれも母材と溶接熱影響部の靱性が著しく低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03〜0.12%
Si:≦0.5%
Mn:1.5〜3.0%
Al:0.01〜0.08%
Nb:0.01〜0.08%
Ti:0.005〜0.025%
N:0.001〜0.01%
更に、
Cu:0.01〜2%
Ni:0.01〜3%
Cr:0.01〜1%
Mo:0.01〜1%
V:0.01〜0.1%
B:0.0005〜0.005%
の1種又は2種以上を含有し
残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成で、ミクロ組織にベイナイトまたはマルテンサイトを含み、これらの組織中に存在するセメンタイトの平均粒径が0.5μm以下であることを特徴とする耐切断割れ性とDWTT特性に優れた高強度・高靭性厚鋼板。
【請求項2】
成分組成に更に、質量%で、
Ca: 0.0005〜0.01%
REM:0.0005〜0.02%
Zr:0.0005〜0.03%
Mg:0.0005〜0.01%
の1種または2種以上を含有する成分組成で、ミクロ組織にベイナイトまたはマルテンサイトを含み、これらの組織中に存在するセメンタイトの平均粒径が0.5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の耐切断割れ性とDWTT特性に優れた高強度・高靭性厚鋼板。

【公開番号】特開2013−57125(P2013−57125A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−234574(P2012−234574)
【出願日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【分割の表示】特願2005−375432(P2005−375432)の分割
【原出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】