説明

耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料、ろう付用アルミニウム合金板及びそれを用いた自動車熱交換器用アルミニウム合金部材、並びに自動車熱交換器

【課題】如何なる製造条件であっても、ろう材やフラックスを含有する塗膜のアルミニウム合金板からの剥離を防止することができ、また、吸湿作用による密着性やろう付性の低下が生じることが無い塗膜を形成することができる耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料、ろう付用アルミニウム合金板及びそれを用いた自動車熱交換器用アルミニウム合金部材、並びに自動車熱交換器を提供する。
【解決手段】フラックス粉末と、アクリル樹脂系バインダと、シランカップリング剤を含有し、必要に応じてろう材粉末を配合し、残部が溶媒とされたアルミニウム合金ろう付用塗料としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付法によって製造される自動車熱交換器に用いられ、耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料、ろう付用アルミニウム合金板及びそれを用いた自動車熱交換器用アルミニウム合金部材、並びに自動車熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジエータやヒータコア等の水冷式の自動車熱交換器に用いられるアルミニウム部材においては、例えば、チューブ材やヘッダー材の片面にAl-Si系ろう材、もう一方の面にJIS規定7072合金などの犠牲陽極皮材をクラッドしたブレージングシートが使用されており、ベアフィン材と組み合わされ、ろう付けされて使用されている。
また、コンデンサ等のカーエアコン用材料においては、押出多穴管と、両面にろう材をクラッドした所謂クラッドフィン材が組み合わされ、ろう付けされて使用されている。このような自動車熱交換器用部材は、成形加工して熱交換器としての形状に組み付けられた後、フッ化物系フラックス(主としてKAlF)が塗布され、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中でろう付されている。
【0003】
しかしながら、上述のような従来のろう付方法を用いた場合、アルミニウム合金クラッド材が非常に高価であり、また、フラックスが不均一で余剰となることから、製造コストが上昇するという問題がある。また、塗布工程においてフラックスの飛散が生じるので、作業者の健康管理等、環境面での対策が必要となり、設備管理面で維持費がかかることから、製造コストが大幅に上昇するという問題がある。またさらに、フラックスの脱落により、部材間の接合にろう付不良が生じるという問題がある。
【0004】
このため、最近では、上述のようなクラッド材を使用することなくろう付けする技術が開発されており、例えば、アルミニウム、銅、黄銅、鋼等の表面にSi、Cu、Geとフラックスからなる組成物を塗布し、上記金属とアルミニウム製部材とをろう付する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の技術は、カーエアコンのコンデンサ等に応用され、押出多穴管に塗布したろう材組成物とベアフィンと組み合わせにより接合した熱交換器が実用化されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、上記クラッド材を用いた場合と同様に、フラックスの塗布量が不均一となって余剰のフラックスが生じ、製造コストが上昇してしまうという問題がある。また、このような方法でろう付を行なう場合にはバインダを使用しないケースも多いため、上記同様、塗布後に行なわれる工程処理等において塗膜(フラックス)が欠落し、ろう付不良が生じる虞がある。さらに、上記同様、塗布工程においてフラックスの飛散が生じるので環境面での対策が必要となり、さらに製造コストが上昇するという問題がある。
【0006】
また、加工前のアルミニウム合金基材にろう材やフラックス粉末を塗布し、これがプレス等の方法によって成形されてなる熱交換器が提案されている(例えば、特許文献2)。 特許文献2に記載のアルミニウム製熱交換器によれば、高価なアルミニウム合金クラッド材を使用することなく、また、フラックスが過剰に塗布されるのを防止できるとともに、バインダを用いた塗布処理を行うことで後工程における塗膜脱落を防止でき、ろう付法によって効率良く熱交換器を得ることが可能となる。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の熱交換器では、アルミニウム合金基材に対する塗膜の密着性はあまり高くないため、アルミニウム合金材に対して大きな変形を伴う加工処理を施した場合、塗膜の剥離が生じる虞がある。このため、上述のような塗膜を、成形加工が殆ど施されることのない押出材に塗布して用いた場合には問題が生じないものの、板材のように大きな成形加工が施される材料に塗布して用いる場合には、密着性が不足して塗膜剥離が生じ、ろう付不良が発生する虞がある。
また、特許文献2に記載のような塗膜が板材に形成されたものが用いられることもあるが、このような場合には、成形加工時に金型と接触しない部位にのみ塗膜が形成されて用いられるため、複雑な製品形状のものには適用することが出来ないという問題があった。
【0008】
上述したように、成形加工後の部材に上記塗膜を形成する特許文献1に記載のろう付方法においては、熱交換器組付け時に塗膜剥離が生じてしまい、また、予め上記成分からなる塗膜が形成されたプレコート板を用いて熱交換器を構成する特許文献2に記載の熱交換器のろう付方法では、部材の成形加工時に塗膜剥離が生じてしまい、何れにおいても高いろう付強度が得られないという問題があった。
【0009】
また、アルミニウム合金材加工時における塗膜密着性の向上を目的とし、特定基で置換されたエチレングリコールのモノアクリレートに由来する構成単位及び酸基含有エチレン性不飽和単量体に由来する構成単位を含有するアクリル酸エステル系共重合体からなるろう付け用バインダと、このろう付けバインダ100重量部あたり0.1〜50重量部の架橋剤とを含有するバインダ組成物とを用いてなるろう付け用組成物が提案されている(例えば、特許文献3)。
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載のろう付用組成物をアルミニウム合金材に塗布して用いた場合、プレス加工やロールフォーミング等の強加工を施した際に、充分な耐塗膜剥離性が得られないという問題がある。
また、ろう付用組成物からなる塗膜は、吸湿作用により、塗膜と基材との間の密着性やろう付の低下を招くことが知られているが、特許文献3に記載のろう付用組成物においても、吸湿作用によって塗膜密着性やろう付性が低下するという問題がある。このような吸湿作用は、高湿度環境下においては1日程度の放置期間であっても影響が大きいため、塗膜を形成した後の熱交換器用部材の湿度管理が重要となる。このため、空調管理の行き届いた保管場所の確保等、塗膜形成後の部材管理に多大なコストを要し、製造コストが上昇してしまうという問題があった。
【特許文献1】特表平6−504485号公報
【特許文献2】特開平9−029487号公報
【特許文献3】特開2005−028400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、従来のろう付用組成物を用いてアルミニウム合金をろう付した場合、塗膜剥離が生じてろう付後のろう付強度が低下する虞があり、また、フラックスを用いるろう付工程においては、工程内の環境対策等が必要となり、製造コストが上昇するという問題がある。また、ろう付用組成物の吸湿による塗膜剥離を防止するためには、空調等の部材管理が必要となり、製造コストがさらに上昇するという問題があった。このため、フラックスやろう材粉末等を含むアルミニウム合金ろう付用塗料において、成形前のプレコート材に塗布した場合には、プレス成形やロールフォーミング等の強加工においても塗膜剥離が生じない優れた密着性を備え、成形後の部材に塗布した場合でも、熱交換器等の組み付け工程において塗膜剥離を生じない優れた密着性を備え、また、塗膜の耐湿性を向上させ、従来の塗膜で生じていた吸湿作用による密着性の経時劣化やろう付性の低下を防止できる塗膜の形成が可能なアルミニウム合金ろう付用塗料が求められていた。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、如何なる製造条件であっても、ろう材やフラックスを含有する塗膜のアルミニウム合金材からの剥離を防止することができ、また、吸湿作用による密着性やろう付性の低下が生じることが無い塗膜を形成することができる耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料、ろう付用アルミニウム合金板及びそれを用いた自動車熱交換器用アルミニウム合金部材、並びに自動車熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記問題を解決するため、アルミニウム合金ろう付用塗料に用いるバインダについて鋭意検討したところ、バインダ中の水酸基の配合量を増量した場合、密着性向上効果は他の官能基に比べて小さいものの、ろう付性の低下については他の官能基を増量した場合に比べて小さいというメリットがあることを見出した。そこで、水酸基とシランカップリング剤を反応させたバインダを用いてアルミニウム合金ろう付用塗料を構成し、バインダとアルミニウム合金基材との間、及び、バインダと粉末との間の密着性を向上させることにより、優れた耐塗膜剥離性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下に関する。
【0014】
(1)請求項1に記載の発明
フラックス粉末と、アクリル樹脂系バインダと、シランカップリング剤を含有し、必要に応じてろう材粉末を配合し、残部が溶媒とされていることを特徴とする耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
(2)請求項2に記載の発明
前記シランカップリング剤の有機官能基が、アミノ、ジアミノ、エポキシ、ビニル、メタクリロキシ、アクリロキシ、イソシアネートの内の何れか一つ、または、これらの内の二つ以上が組み合わせられた官能基であることを特徴とする請求項1に記載の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
(3)請求項3に記載の発明
前記アクリル樹脂系バインダは、
(a)メタクリル酸アルキルエステル単量体、
(b)アクリル酸アルキルエステル単量体、
(c)水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体
の各々を共重合して得られるアクリル系樹脂からなり、これら各単量体の重量比(a):(b):(c)が、93:2:5〜55:15:30の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
(4)請求項4に記載の発明
前記シランカップリング剤の加水分解促進剤として水が添加されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
【0015】
(5)請求項5に記載の発明
請求項1〜4の何れか1項に記載の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料からなるろう付塗膜層が、アルミニウム合金基材の少なくとも何れかの面に形成されてなることを特徴とするろう付用アルミニウム合金板。
(6)請求項6に記載の発明
請求項5に記載のろう付用アルミニウム合金板が用いられてなる自動車熱交換器用アルミニウム合金部材。
(7)請求項7に記載の発明
請求項6に記載の自動車熱交換器用アルミニウム合金部材が用いられてなる自動車熱交換器。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料によれば、上述したように、フラックス粉末と、アクリル樹脂系バインダと、シランカップリング剤を含有し、必要に応じてろう材粉末が配合された構成により、密着性が高く、また、吸湿性が抑制されたろう付塗膜層をアルミニウム合金板上に形成することができる。
これにより、ろう付塗膜層の耐剥離性が向上し、また、ろう付性及びろう付後の強度特性に優れたろう付用アルミニウム合金板が得られ、また、該ろう付用アルミニウム合金板が用いられてなる自動車熱交換器用アルミニウム合金部材を構成することができる。
従って、自動車熱交換器をろう付法によって製造する際の組立効率が向上し、また、自動車熱交換器の組立後の強度向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料(以下、ろう付用塗料と略称することがある)、ろう付用アルミニウム合金板(以下、アルミ合金板と略称することがある)、及びそれが用いられてなる自動車熱交換器用アルミニウム合金部材(以下、アルミ合金部材と略称することがある)、並びに自動車熱交換器の実施の形態について、図1〜3を適宜参照しながら説明する。
【0018】
[アルミニウム合金ろう付用塗料]
本実施形態のろう付用塗料(図1に示すろう付塗膜層3も参照)は、フラックス粉末と、アクリル樹脂系バインダと、シランカップリング剤を含有し、必要に応じてろう材粉末を配合し、残部が溶媒とされ、概略構成されてなる。
【0019】
「フラックス粉末」
フラックス粉末は、アクリル系樹脂バインダ、シランカップリング剤及びろう材粉末とともに配合されてろう付用塗料をなす。
フラックス粉末としては、一般的に用いられる、KAlF、KZnF、KSiF等のフッ化物系フラックスを適宜選択し、何ら問題なく使用することができる。
フラックス粉末は、図1に例示するような、ろう付用塗料からなるろう付用塗膜層3が形成されたアルミ合金板1のろう付を行う際に、フラックス粉末をなすKAlF等が溶融してアルミ合金板1及びろう材粉末の酸化膜を破壊し、ろう付性を高める。
【0020】
フラックス粉末の粒径は、例えば、図1に示すようなアルミニウム合金基材2上に本実施形態のろう付用塗料を塗布して形成されるろう付塗膜層3の厚みに制限を受けるが、本質的に密着性や塗膜強度に影響を及ぼすことは無い。
また、フラックス粉末は、その成分組成の全粒子の平均粒径が1〜5μm以下であることが好ましい。フラックス粉末の全粒子の粒径を上記とすることにより、ろう付性を向上することができる。
フラックス粉末の粒径が5μmを超えると、例えば、図3に示すような、複数のチューブが整列されてなるラジエータ20を組み付けた際、チューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材)10とフィン22の接合部に、粒径の大きなフラックス粉末が介在して組み付けられた状態となる。この状態で加熱ろう付処理を行った場合、粒径の大きなフラックス粉末が溶解することにより、チューブ10とフィン22の間が縮寸してろう付される。チューブ10及びフィン22を、例えば数10段重ねて組み付けた場合には、各接合部における縮寸が積算され、ラジエータコア内の寸法が数mm単位で大きくずれてしまい、ろう付不良を起こす虞がある。
なお、通常使用するフラックス粉末の粒径の下限は1μmである。
【0021】
「アクリル樹脂系バインダ」
本実施形態のろう付用塗料に配合されるアクリル樹脂系バインダは、ろう材粉末やフラックス粉末をアルミニウム合金基材2に固定する作用を有する。
【0022】
本発明者等は、アルミニウム合金ろう付用塗料に用いられるバインダについて鋭意検討した結果、以下に説明するような知見が得られた。
一般的に、ろう付に用いられるバインダとしては、ろう付塗料からなるろう付用塗膜層のアルミニウム合金基材に対する密着性や塗膜強度を付与する基として、リン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基等の官能基が採用され、これらの配合比が、ろう付時の残炭性を考慮しながら決定される。しかしながら、上記各官能基は、バインダ中における配合比が増量されるほど密着性の向上に寄与する一方、ろう付性を低下させてしまうという問題もあり、官能基の増量のみによる改良には限界がある。
【0023】
ここで、本発明者等は、上記各官能基の内の水酸基に関して、この水酸基の配合量を増量した際の密着性向上効果については他の官能基に比べて小さいものの、ろう付性の低下については他の官能基を増量した場合に比べて小さいというメリットがあることを見出した。そこで、本発明者等は水酸基に着目し、水酸基と詳細を後述するシランカップリング剤とを反応させ、アクリル樹脂系バインダとアルミニウム合金基材との間、並びにアクリル樹脂系バインダと粉末(フラックス粉末、ろう材粉末)との間の密着性を向上させることによって、塗膜密着性を向上させるべく実験検討を重ねた。その結果、従来のような、官能基の配合量の増量による改良に頼らず、強加工成形にも耐え得る優れた密着性を備えたアクリル樹脂系バインダが得られることが明らかとなった。さらに、このような構成によって塗膜の耐湿性も大幅に向上し、従来の塗膜で生じていた吸湿作用による密着性及びろう付性の低下を防止することが可能となった。
【0024】
このような効果が得られる要因の一つとして、アクリル樹脂系バインダとアルミニウム合金基材の隙間、並びにアクリル樹脂系バインダと粉末の隙間にシランカップリング剤が配されることにより、湿気の侵入経路が減少することが考えられる。また、化学結合的な見地からは、従来の塗膜中の水酸基は、アルミニウム合金基材や粉末と水素結合によって接着されていたものと考えられるが、水素結合は水の介入によって容易に剥離してしまう弱い結合であるため、塗膜の吸湿作用によって塗膜強度が低下し易く、さらに、吸湿による水分がろう付時の酸素濃度を増大させ、ろう付性の低下を招いていたものと考えられる。
本発明のアルミニウム合金ろう付用塗料では、水酸基とシランカップリング剤とが共有結合で強固に結合してなるバインダが用いられているため、上述のような湿気による経時変化を防止することが可能となる。
【0025】
なお、上記説明においては、耐湿性の向上について述べているが、アルミニウム合金基材と粉末の間隙が無くなることで、例えば、成形加工時に使用する成形油の塗膜中への侵入経路が減少するので、各種耐性の向上効果が得られるものと考えられる。
【0026】
本実施形態のろう付用塗料に用いられるバインダは、一般的なアクリル系樹脂であれば、何れの樹脂であっても一定の効果が望めるが、分子量が約20000〜500000の範囲のものであれば、より大きな効果が得られる。さらに、主骨格として、(a)メタクリル酸アルキルエステル単量体、(b)アクリル酸アルキルエステル単量体、(c)水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体、の各々を共重合して得られるアクリル系樹脂を用い、さらに、後述のシランカップリング剤を併用すれば、塗膜の密着性がより向上するので好ましい。
【0027】
また、上記各単量体(a)、(b)、(c)の重量比は、(a):(b):(c)=93:2:5〜55:15:30の範囲とされていることが好ましく、密着性及びろう付性の観点から、(a):(b):(c)=90:5:5〜65:15:20の範囲とされていることがより好ましい。
ここで、上記単量体{(b)アクリル酸アルキルエステル単量体}が重量比で2未満だと、シランカップリング剤との反応部位が少なく、バインダと粉末の隙間を埋める効果が低いため、吸湿性低減効果が得られなくなる。また、上記単量体(b)が重量比で15を超えると、上述と逆に、シランカップリング剤との反応部位が多いため、バインダと粉末の隙間を埋める効果は高くなるものの、ろう付時の残炭が増加し、ろう付性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0028】
また、単量体{(c)水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体}が多いと、熱分解性が低下するため、重量比で30以上の単量体(c)が添加された場合には、ろう付時の残炭が増加し、ろう付不良の原因となる。この際、ろう付性に悪影響を及ぼさない範囲で官能基の配合量が抑制されていれば、アクリル樹脂系バインダには、上述したような水酸基以外の官能基が含まれていても良い。
【0029】
また、上記メタクリル酸アルキルエステル単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸2−メチルプロピル、メタクリル酸ノルマルブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ジメチルアミノメチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等が挙げられる。
【0030】
また、アクリル酸アルキルエステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アタクリル酸プロピル、アタクリル酸2−メチルプロピル、アクリル酸ノルマルブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ジメチルアミノメチル、アクリル酸ジメチルアミノエチルなどが挙げられる。
【0031】
また、水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどのモノヒドロキシ含有(メタ)アクリレートや1分子中にヒドロキシル基が2個以上含有する1,2−ジヒドロキシエチルメタクリレート、1,2−ジヒドロキシプロピルメタクリレート、1,2−ジヒドロキシブチルメタクリレート、1,2−ジヒドロキシ5−エチルヘキシルメタクリレート、1,2,3−トリヒドロキシプロピルメタクリレート、1,2,3−トリヒドロキシブチルメタクリレート、1,1−ジヒドロキシエチルメタクリレート、1,1−ジヒドロキシプロピルメタクリレート、1,1−ジヒドロキシブチルメタクリレート1,1,2−トリヒドロキシプロピルメタクリレート、1,1,2−トリヒドロキシブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0032】
なお、ろう付性に悪影響を及ぼさない範囲に官能基の配合量が抑えられていれば、アクリル系樹脂バインダには、上述した水酸基以外の官能基が含有されていても良い。なお、本発明者等は、別途、水酸基を用いた架橋反応等も検討し、グリオキザール、ポリエポキシ系剤、チタンキレート剤、尿素樹脂等の配合試験を行ったが、これらの成分を配合した場合には、後述するシランカップリング剤ほどの効果が得られなかった。
【0033】
「シランカップリング剤」
ろう付用塗料に含有されるシランカップリング剤は、例えば、図1に示すようにアルミニウム合金基材2に塗布された後、塗膜乾燥時の脱水縮合反応により、アルミニウム合金基材2とアクリル樹脂系バインダの間、及びフラックス粉末並びにろう材粉末とアクリル系樹脂バインダの間に配され、塗膜強度や基材密着性の向上に寄与する。
【0034】
一般に、シランカップリング剤の脱水縮合反応を起すアルコキシル基は、無機物(アルミニウム合金基材2、フラックス粉末、ろう材粉末)と結合し、一方、有機反応基はアクリル樹脂系バインダと結合する。本発明では、一般的なシランカップリング剤を用いれば、水素結合やアルキル基同士の弱い相互作用等の効果があり、何れも一定の効果が得られるが、アクリル樹脂系バインダ中の水酸基と反応する官能基を有するシランカップリング剤を用いれば強固な化学結合が生じるため、高い効果が得られる。また、シランカップリング剤の有機官能基に、アミノ基、ジアミノ基、エポキシ基、ビニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、イソシアネート基を用いると、アクリル系樹脂バインダと強固に結合し、より優れた密着性を得ることができる。これとともに、さらに、無機官能基にメトキシ基を用いた場合には、より一層良好な密着性を得られる点で好ましい。
【0035】
本実施形態のろう付用塗料におけるシランカップリング剤の配合量は、ろう付塗膜中のアクリル樹脂系バインダの配合量を基準として、該アクリル樹脂系バインダとシランカップリング剤の重量比が100:0.5〜100:50の範囲であることが好ましい。シランカップリング剤の配合量が、上記重量比で0.5未満だと、密着性向上効果が得られず、上記重量比で50超としても、多量添加による効果は望めない。
【0036】
本実施形態で用いられるシランカップリング剤としては、例えば、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(有機官能基:アクリロキシ基)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(同アミノ基)、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(同ジアミノ基)、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(同イソシアネート基)、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(同エポキシ基)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(同エポキシ基)、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(同エポキシ基)、ビニルトリメトキシシラン(同ビニル基)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(同メタクリロキシ基)、p−スチリルトリメトキシシラン(同スチリル基)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(同メルカプト基)等が挙げられる。
【0037】
「ろう材粉末」
ろう材粉末は、フラックス粉末及びアクリル樹脂系バインダとともにろう付用塗料に含有されるろう材であり、ろう付時にアルミニウム合金基材(図1の符号2参照)内部に拡散することによってろうを形成する。
ろう材粉末としては、例えば、Si粉末、Al-Si合金粉末、Al−Cu合金粉末等、従来公知のものを使用することが可能であり、これらの内の何れかを単独又は2種類以上を混合して使用することができ、さらに不可避的不純物を含有するものである。
【0038】
ろう材粉末の粒径は、上述のフラックス粉末と同様、アルミニウム合金基材2上に形成されるろう付用塗膜層3の厚みに制限を受けるが、本質的に密着性や塗膜強度に影響を及ぼすことは無い。
アルミニウム合金基材がラジエータチューブ材等に用いられ、塗膜塗布量が20g/m以下と比較的薄膜を適用する場合には、エロージョンを抑制するために、ろう材粉末の粒径は10μm以下とすることが好ましい。但し、主粒径が1μm未満だと、粉末の表面積が増大し、フラックスを増量することが必要となるため、ろう材粉末の粒径は1〜10μmの範囲とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金基材がラジエータヘッダープレート材等に用いられ、塗布量が40g/m以上と比較的厚膜を適用する場合には、粒径による酸化膜の増大を抑制するため、10μm以上の粒径とすることが好ましく、20μm以上の粒径のものを用いるのがより好ましい。但し、部材の板厚により、許容できるエロージョン深さが限られることから、例えば、1mmt以上のヘッダー部材においては、粒径の上限を75μm程度とすることが好ましい。
【0039】
以上説明したような、本実施形態の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料によれば、上述したように、フラックス粉末と、アクリル樹脂系バインダと、シランカップリング剤を含有し、必要に応じてろう材粉末が配合された構成により、密着性が高く、また、吸湿性が抑制されたたろう付塗膜層をアルミニウム合金基材上に形成することができる。これにより、耐塗膜剥離性に優れるろう付塗膜層がアルミニウム合金基材上に形成され、ろう付性及びろう付後の強度特性に優れたろう付用アルミニウム合金板を構成することが可能となる。
【0040】
[ろう付用アルミニウム合金板]
以下に、本発明に係るろう付用アルミニウム合金板(アルミ合金板)1について、図1〜3を適宜参照しながら説明する。
本実施形態のアルミ合金板1は、上述したような本発明に係る耐塗膜剥離性に優れたアルミニウム合金ろう付用塗料が、アルミニウム合金基材2の少なくとも何れかの面に形成されてなる。図1に示す例の本実施形態のアルミ合金板1は、アルミ合金基材2の一面2a側に、上記ろう付用塗料からなるろう付塗膜層3が形成されている。
【0041】
(アルミニウム合金基材)
アルミニウム合金基材2は、本実施形態のアルミ合金板1の基材であり、従来公知のアルミニウム合金材を何ら問題無く用いることができ、例えば、Siと、Mnと、残部Al及び不可避不純物を含有した成分組成とされ、必要に応じて強度特性や耐エロージョン性等を向上させるための、他の元素が添加されてなる。
図1に示す例では、アルミニウム合金基材2の一面2aのみに、上述したようなろう付用塗料からなるろう付塗膜層3が形成されているが、他面2a側にもろう付塗膜層3が設けられた構成としても良い。また、一面2a側にろう付塗膜層3を設け、他面2b側に、アルミ合金板の耐食性を向上させるためのZnを含む犠牲材塗膜層を設けた構成とすることもできる。
【0042】
(ろう付塗膜層の形成方法)
上述のろう付塗料をアルミニウム合金基材2の一面2aに塗布してろう付塗膜層3とする際に用いられる溶媒としては、特に限定されず、バインダに用いられる樹脂が有機系の場合には従来公知の有機溶剤を用い、水溶性樹脂の場合には水を溶媒とすることができる。有機溶剤としては、作業上の取り扱いの容易さや環境面等から、3−メトキシ−3メチル−1−ブタノールを好適に用いることができる。
【0043】
本実施形態のろう付用塗料に配合されるシランカップリング剤は、アルミニウム合金基材2に塗布されてろう付塗膜層3とされる前に、アルコキシル基側の加水分解が必要となるが、有機溶剤を用いた場合でも、空気中に含まれる湿気によって加水分解が進むため、積極的に水を添加しなくとも、シランカップリング剤を添加することによる作用は得られる。しかしながら、空気中の水分量は変動が大きいこともあり、必ずしも充分な加水分解が得られないことがある。加水分解されずに残ったアルコキシル基は、アルミ合金基材等との無機物との反応性が低いため、密着性の向上にも充分には寄与しない。また、加水分解されずにアルコキシル基が残ることは、ろう付雰囲気中において有害なガスの発生源ともなり得るため、好ましくない。
アルコキシル基を充分に加水分解するため、ろう付用塗料に、予め、シランカップリング剤の加水分解に必要な量の水を添加することで、未加水分解のアルコキシル基が残るのを抑制することができ、優れた塗膜密着性が得られる。
【0044】
上記ろう付用塗料のアルミニウム合金基材2の一面2aへの塗布方法としては、塗布される部材や塗布量等を勘案しながら適宜選択すれば良く、例えば、ロールコート、ダイコート、フローコート、スプレー、シャワー、浸漬、刷毛、バーコート等の各種手段を選択して用いることができる。これら塗布方法の違いにより、ろう付塗膜層3の特性に違いが生じることは無い。但し、各塗布方法において粘度等の最適値があるため、溶媒配合比を適宜最適化することが好ましい。また、用いられるアルミニウム合金基材2についても、その材質は塗膜密着性等の特性には影響しない。
また、ろう付塗膜層3は、アルミ合金基材2の一面2aの全体に形成しても良いが、例えば、アルミ合金板1においてろう付を行なう箇所にのみ形成された構成としても構わない。
【0045】
(犠牲材塗膜層)
本実施形態のアルミ合金板1では、上述したように、アルミニウム合金基材2の他面2b側に、Znを含有するフラックス粉末と、上述のようなバインダとを含有する組成物からなる犠牲材塗膜層が設けられた構成としても良い。
ここで、Znを含有するフラックス粉末としては、例えば、ZnF、KZnF等のフッ化物系フラックスを用いることができ、さらに、KAlF等を混合して用いても良い。
【0046】
アルミニウム合金基材2の他面2b側に、Znを含む犠牲材塗膜層を設けることにより、アルミ合金板1の他面1b(アルミニウム合金基材2の他面2b)側の耐食性を向上させることが可能となる。
また、図2に示す例のように、アルミ合金板1からなるチューブ10(ろう付用アルミニウム合金部材)を形成する際には、犠牲材塗膜層が設けられる他面1b(他面2b)側が内側となるようにチューブ形成することにより、チューブ10の内側に形成された流通孔10a内面の耐食性が向上し、該流通孔10a内を流れる冷却液による腐食進行を防止することができる。
【0047】
[自動車熱交換器用ろう付用アルミニウム合金部材並びに自動車熱交換器]
上述したような本実施形態のろう付用アルミニウム合金板1は、例えば、図2に示すようなラジエータチューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材:以下、チューブと略称することがある)10をなす合金板材として用いることができ、チューブ10は、図3に示すようなラジエータ(熱交換器)20に組み込まれて用いられる。
チューブ10は、アルミニウム合金板1を、他面1b側が内側となるように折り曲げ、両端部(図示略)を接合して加工することにより、内部に流通孔10aを有する中空扁平状のチューブ材として得られる。
【0048】
図3に示すラジエータ20は、例えば自動車のラジエータ等に用いられ、チューブ10と、ヘッダー21と、フィン22と、サイドサポート23とから概略構成されている。ラジエータ20は、ろう付接合によってチューブ10、ヘッダー21及びフィン22が各々一体化され、更に樹脂タンクが機械的接合(かしめ加工)により取り付けられて製造される。
そして、ラジエータ20において、ヘッダー21とチューブ10とは、ヘッダー21の下面に複数整列形成されたスロット(差込孔)21aに各チューブ10の端部を差し込み、差込部分の周りに配置したろう材を用いて両者を相互にろう付するとともに、チューブ10とフィン22は、チューブ10の表面に塗布された組成物、つまり、アルミ合金板1の一面1a側(アルミニウム合金基材2の一面2a側)に設けられたろう付塗膜層3を用いて、両者を相互にろう付けすることで組み立てられている。
【0049】
[ろう付方法]
図3に示すような、本実施形態のアルミニウム合金板1からなるチューブ10を備えたラジエータ20の組立、ろう付を行う際は、ヘッダー21に、ろう付塗膜層3が表面に設けられたチューブ10及びフィン22を組み付けた後、窒素雰囲気中等の適当な雰囲気で適温に加熱してろう材を溶解させる。
ろう付熱処理は、580℃乃至610℃程度で行うことが好ましく、保持時間は1分乃至10分程度が好ましい。
ろう付時の温度が580℃未満だと、ろう材及びアルミニウム合金基材の一部溶解が進まず、良好なろう付を行うことが困難になる。
ろう付時の温度が610℃を超えると、著しい侵食が生じる虞がある。
【0050】
上述のラジエータ20の構造によれば、チューブ10を差し込むためのスロット21aが下面に設けられたヘッダー21にチューブ10が接合されているので、組立品全体のろう付け後の強度を高くすることができる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態のろう付用アルミニウム合金板1によれば、本発明に係るろう付用塗料からなるろう付塗膜層3が設けられた構成とされているので、該ろう付塗膜層3の耐剥離性が向上し、また、ろう付性及びろう付後の強度特性に優れたろう付用アルミニウム合金板1が得られる。また、本実施形態のろう付用アルミニウム合金板1を用いてチューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材)10を構成することができ、さらに、チューブ10を用いてラジエータ(自動車熱交換器)20を構成した場合には、該ラジエータ20をろう付法によって製造する際の組立効率が向上し、また、ラジエータ20の組立後の強度向上が可能となる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を示して、本発明の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
以下に、アルミニウム合金板の作製工程及び評価試験項目について説明する。
【0053】
[作製工程]
まず、アルミニウム合金材として3003−H14を用い、板厚が0.25mmtのアルミニウム合金基材を作製した。
また、ろう付塗膜層として塗布するろう付用塗料として、下記表1に示す組成比のものを配合して作製した。
そして、図1に示すように、アルミニウム合金基材の一面側に、各成分組成のろう付塗膜層をなす組成物を、約10g/mの量でバーコーターを用いて塗布した後、150℃の温度で5分間乾燥させてろう付塗膜層3を形成し、本発明に係るアルミニウム合金板1及び従来のアルミニウム合金板を、表1に示す作製条件毎に得た。
また、下記表1に示すアクリル樹脂系バインダは、(a)メタクリル酸アルキルエステル単量体、(b)アクリル酸アルキルエステル単量体、(c)水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体であり、メタクリル酸アルキルエステル単量体としてはメタクリル酸メチル又はメタクリル酸プロピル、アクリル酸アルキルエステル単量体としてはアクリル酸メチル又はアクリル酸ブチル、水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体としてはメタクリル酸2−ヒドロキシエチル又はメタクリル酸2−ヒドロキシブチルをそれぞれ用いた。
また、各実施例において用いられるシランカップリング剤としては、下記表2に示すA〜Kのものをそれぞれ用い、下記表1に符号で示した。
また、各比較例において用いられる添加剤としては、下記表3に占めすL及びMのものをそれぞれ用い、下記表1に符号で示した。
【0054】
[評価試験]
上記作製工程で得られたアルミニウム合金板について、以下に説明する「密着性」、「耐湿性」及び「ろう付性」の3項目について評価、判定した。
【0055】
(密着性)
上記各実施例及び比較例のアルミニウム合金板のサンプルから、50mm×50mm×0.25mmt(ろう付塗装膜含まず)の試験片を作製し、以下に説明するような曲げ部ラビング試験を行った。
まず、上記試験片を、ろう付塗膜層側の面を外側とし、曲げ部内径が1mmとなるように180°の角度で折り曲げた後、揮発油含浸フェルトを用い、約1kgの荷重で曲げ部頂点を10往復ラビング処理した。
そして、曲げ部における、アルミニウム合金基材からのろう付塗膜層の剥離状況を目視で観察し、ラビング対象箇所の長さに対する剥離箇所の長さを確認のうえ、以下の評価基準で判定した。
(1)○:曲げ部のラビング対象箇所において剥離が全く認められなかった。
(2)△:曲げ部のラビング対象箇所の一部において剥離が認められた。
(3)×:曲げ部のラビング対象箇所全体において剥離が認められた。
【0056】
(耐湿性)
上記各実施例及び比較例のアルミニウム合金板のサンプルから、50mm×50mm×0.25mmt(ろう付塗装膜含まず)の試験片を作製し、以下に説明するような曲げ部ラビング試験を行った。
まず、上記試験片を、30℃×相対湿度90%環境下に24時間放置した後、ろう付塗膜層側を外側とし、曲げ部内径が1mmとなるように180°の角度で折り曲げた後、揮発油含浸フェルトを用い、約1kgの荷重で曲げ部頂点を10往復ラビング処理した。
そして、上記密着性の評価と同様に、曲げ部における、アルミニウム合金基材からのろう付塗膜層の剥離状況を目視で観察し、ラビング対象箇所の長さに対する剥離箇所の長さを確認のうえ、以下の評価基準で判定した。
(1)○:曲げ部のラビング対象箇所において剥離が全く認められなかった。
(2)△:曲げ部のラビング対象箇所の一部において剥離が認められた。
(3)×:曲げ部のラビング対象箇所全体において剥離が認められた。
【0057】
(ろう付性)
下記表1に示す各組成のろう付用塗料を用い、上記作製工程と同様の方法を用いて、以下に示す仕様とされたアルミニウム合金板を、表1に示す各実施例及び比較例の作製条件毎に得た。
(a)合金:A3003/A4343
(b)板厚:0.25mm
(c)クラッド率:ろう付用塗料(ろう付塗膜層)…10%(両面)、芯材(アルミニウム合金基材)…80%
(d)調質:H14
【0058】
ぞして、図2に示すようにアルミニウム合金板を折り曲げ、両端部を接合して加工し、中空扁平状のチューブを、表1に示すアルミニウム合金板条件毎で製造した。
そして、上記方法で得られたチューブ材を、図3に示すようなラジエータ(熱交換器)に取り付けてろう付処理を行い、チューブへのフィン接合率を調べた。この際、フィンとして、A3003ベア材(0.1mmt)を用いた。
また、フィン接合率(%)は、次式(1)によって求めた。
(ろう形成面積/チューブとフィンとの設置面積)×100 ・・・(1)
上記(1)式によって求めたフィン接合率から、各サンプルのろう付性を評価した。一般的に接合率は90%以上が良好で、80%以下では不良と判断される。
【0059】
各実施例及び比較例の作製条件及び評価試験結果の一覧を表1に示すとともに、シランカップリング剤の成分を表2に示し、また、添加剤の成分を表3に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表1に示すように、本発明で規定する成分組成を有するアルミニウム合金ろう付用塗料が、アルミニウム合金材に塗布されてなるろう付用アルミニウム合金板は、密着性の評価が全て○又は△(実施例11及び19)であり、良好な密着性を示した。また、ろう付性の評価が73〜99%と、非常に良好なろう付性を示し、また、耐湿性の評価も、全て○又は△(実施例11、16及び19)と、優れた特性を示した。
【0064】
これに対し、シランカップリング剤を添加しなかった比較例1では、ろう付性の評価は99%と良好であったものの、密着性及び耐湿性の評価がともに×となった。
また、シランカップリング剤を添加せず、ジアルデヒドを主成分とする架橋剤を添加した比較例2では、ろう付性の評価は95%と比較的良好であったものの、密着性及び耐湿性の評価がともに×となった。
また、シランカップリング剤を添加せず、チタンアセチルアセトナートを主成分とする有機チタン系カップリング剤を添加した比較例3では、密着性及び耐湿性の評価は○で良好であったものの、ろう付性の評価が63%と著しく低い結果となった。
【0065】
上記結果により、本発明の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料からなるろう付塗膜層が形成されたろう付用アルミニウム合金板が、如何なる製造条件であっても、ろう材やフラックスを含有するろう付塗膜層のアルミニウム合金基材からの剥離を防止することができ、また、ろう付性に優れていることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料が塗布され、ろう付塗膜層が形成されたろう付用アルミニウム合金板の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料が塗布され、ろう付塗膜層が形成されたろう付用アルミニウム合金板からなるチューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材)の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明のろう付用アルミニウム合金板からなるチューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材)を用いたラジエータ(自動車熱交換器)の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
1…ろう付用アルミニウム合金板、1a…一面、1b…他面、2…アルミニウム合金基材、2a…一面、2b…他面、3…ろう付塗膜層(アルミニウム合金ろう付用塗料)、10…チューブ、10a…流通孔、20…ラジエータ(自動車熱交換器)、21…ヘッダー、22…フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックス粉末と、アクリル樹脂系バインダと、シランカップリング剤を含有し、必要に応じてろう材粉末を配合し、残部が溶媒とされていることを特徴とする耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
【請求項2】
前記シランカップリング剤の有機官能基が、アミノ、ジアミノ、エポキシ、ビニル、メタクリロキシ、アクリロキシ、イソシアネートの内の何れか一つ、または、これらの内の二つ以上が組み合わせられた官能基であることを特徴とする請求項1に記載の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
【請求項3】
前記アクリル樹脂系バインダは、
(a)メタクリル酸アルキルエステル単量体、
(b)アクリル酸アルキルエステル単量体、
(c)水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体
の各々を共重合して得られるアクリル系樹脂からなり、これら各単量体の重量比(a):(b):(c)が、93:2:5〜55:15:30の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
【請求項4】
前記シランカップリング剤の加水分解促進剤として水が添加されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の耐塗膜剥離性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料からなるろう付塗膜層が、アルミニウム合金基材の少なくとも何れかの面に形成されてなることを特徴とするろう付用アルミニウム合金板。
【請求項6】
請求項5に記載のろう付用アルミニウム合金板が用いられてなる自動車熱交換器用アルミニウム合金部材。
【請求項7】
請求項6に記載の自動車熱交換器用アルミニウム合金部材が用いられてなる自動車熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−284565(P2008−284565A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130207(P2007−130207)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【出願人】(000162076)共栄社化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】