説明

耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体

【課題】特別な装置を設置することなく、塩害環境の厳しい海洋においても長期の耐久性を有する構造物部材とすることができる耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体を提供すること。
【解決手段】鉄筋を内部に有する水和硬化体が、少なくとも製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを含有し、前記鉄筋が表面処理を施した炭素鋼であることを特徴とする耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体を用いる。かぶりが20mm以上であること、鉄筋の長さ方向に垂直な断面において水和硬化体の面積に対する前記鉄筋の面積率が0.2〜10%であること、水和硬化体における高炉スラグ微粉末の含有量が100〜600kg/m3であること、水和硬化体がさらにフライアッシュを含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋環境等の腐食の極めて厳しい環境で用いる構造物での利用に好適な耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートは、コンクリート中の高アルカリによって鉄筋の表面に不動態皮膜が形成されるため鉄筋が防食され、長期に渡って強度と耐久性を発揮する構造部材である。
【0003】
しかしながら、近年のコンクリートは、骨材の入手事情が悪化し、例えば、アルカリ骨材反応を生じる可能性がある安山岩や、塩分を含む海砂等を骨材として使用せざるを得ない場合がある。良質な骨材を使用したコンクリートと比較して、これらの骨材を使用した場合、耐鉄筋腐食性に劣る等の問題があった。また良質な骨材を使用したコンクリートの場合であっても、これを海洋構造物に適用した際には、コンクリートを透過した塩化物イオンによって鉄筋表面の不動態皮膜が破壊されて鉄筋が腐食し、発生した錆に起因する体積膨張によってコンクリートが剥落する。当然のことながら、鉄筋と外界との間に存在するコンクリートの厚み(かぶり厚)を増大させることにより、塩化物イオンが鉄筋の表面に到達する時間を遅延させることができるが、コンクリートのかぶり厚の増大により構造物が大型化するためコストが増大するという問題がある。
【0004】
上記のような鉄筋コンクリートの塩害を克服する手段としては、例えば以下の(a)〜(c)の公知の技術が上げられる。
【0005】
(a)犠牲陽極を用いてコンクリート中の鉄筋をカソードに分極し、防食する技術:犠牲陽極を用いてコンクリート中の鉄筋をカソードに分極する際に、鉄筋コンクリート構造物の海水浸漬面上の気中部である飛沫帯から海上大気部についてはコンクリートの乾燥により電気抵抗が高くなるために電気防食が困難であるが、ポンプで海水をくみ上げ、予め構造体の気中部の表面を覆った保水材で電解質となる海水を保持してコンクリートの電気抵抗を減じることにより、電気防食を有効にする技術である(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
(b)鉄筋の表面にエポキシ樹脂とシランカップリング処理層を積層する技術:鉄筋の表面にエポキシ樹脂とシランカップリング処理層を積層することにより、コンクリート中の鉄筋の耐塩害性を向上させる技術である(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
(c)鉄筋の表面に亜鉛・アルミニウムの擬似合金を溶射することにより、耐塩害性を向上させる技術:鉄筋の表面に亜鉛・アルミニウムの擬似合金を溶射することにより、耐塩害性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平6−65936号公報
【特許文献2】特開平5−9760号公報
【特許文献3】特開平9−41119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、(a)犠牲陽極を用いてコンクリート中の鉄筋をカソードに分極し、防食する技術を実際の構造物で実施するためには極めて大掛かりな装置が必要となり、このような装置を長期間に渡って運転・管理・維持することは非常にコスト高である。
【0009】
また、(b)鉄筋の表面にエポキシ樹脂とシランカップリング処理層を積層する技術では、エポキシ樹脂が硬く破断伸びを数%程度しか有していないため、鉄筋を曲げた際に、エポキシ層にクラックや剥離が発生し、その部分の耐食性が失われてしまうという問題がある。またエポキシ樹脂で被覆した鉄筋は溶接性が悪く溶接欠陥が発生するだけでなく、溶接部は樹脂層が焼失するため耐食性が劣るという問題がある。
【0010】
さらに、(c)鉄筋の表面に亜鉛・アルミニウムの擬似合金を溶射することにより、耐塩害性を向上させる技術では、溶射皮膜が金属間化合物を形成するため極めて脆く、鉄筋を曲げ加工した際には溶射皮膜にクラックが発生したり、溶射皮膜が剥落して、防食性が失われるという問題が生じる。
【0011】
このように従来の技術を用いてコンクリートやモルタル等の水和硬化体中の鉄筋の腐食を防止して、鉄筋を有する水和硬化体の塩害を克服することは困難である。
【0012】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、特別な装置を設置することなく、塩害環境の厳しい海洋においても長期の耐久性を有する構造物部材とすることができる耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)鉄筋を内部に有する水和硬化体が、少なくとも製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを含有し、前記鉄筋が表面処理を施した炭素鋼であることを特徴とする耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
(2)かぶりが20mm以上であることを特徴とする(1)に記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
(3)鉄筋の長さ方向に垂直な断面において水和硬化体の面積に対する前記鉄筋の面積率が0.2〜10%であることを特徴とする(1)または(2)に記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
(4)水和硬化体における高炉スラグ微粉末の含有量が100〜600kg/m3であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
(5)水和硬化体が、さらにフライアッシュを含有することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
(6)水和硬化体におけるフライアッシュの含有量が50〜300kg/m3であることを特徴とする(5)に記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
(7)水和硬化体が、さらにアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、エコセメントから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
(8)炭素鋼の表面処理が、燐酸鉄処理、燐酸亜鉛処理、燐酸亜鉛カルシウム処理、亜鉛めっきのいずれかであることを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内部の鉄筋に対する防食性に優れた水和硬化体が得られる。このため、塩害により従来の鉄筋コンクリートが短期間で崩壊するような海洋環境においても、長期間の使用が可能な構造物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、水和硬化体の配合原料を最適化することにより、従来のセメント等を結合材として用いたコンクリートよりも緻密な組織を有する水和硬化体を得て、これを鉄筋と組み合わせることで、塩害環境の厳しい海洋においても長期の耐久性を有する構造物部材として使用できることを見出し、本発明を完成した。まず水和硬化体の配合原料について説明する。
【0016】
水和硬化体は、少なくとも製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを含有する。
【0017】
水和硬化体の原料のうち、製鋼スラグは骨材および結合材として作用する。骨材として作用させるための製鋼スラグの粒度分布は、コンクリート用の細骨材や粗骨材に相当するような粒度とし、粒径が0.075mm以上程度、また最大粒径が40mm以下程度とすることが好ましい。また、結合材として作用させるための製鋼スラグは微粉であることが好ましく、粒径が0.15mm未満程度であることが好ましい。したがって、結合材としての粒径と骨材としての粒径をそれぞれ満足するスラグ粒子が含まれている適当な粒度分布を有する製鋼スラグ(例えば、或る条件で粉砕処理した製鋼スラグやその粉砕処理後に篩分した製鋼スラグ)を使用することが望ましい。
【0018】
製鋼スラグは長期間に渡り弱アルカリ性を持続することから、鉄筋の耐腐食性に対して極めて高い効果を発揮する。これは製鋼スラグの塩基度(CaO/SiO2)が大きいほど効果が高い。なお、水和硬化体の材料として使用する製鋼スラグの塩基度は、通常1〜3の範囲である。また、製鋼スラグは通常の砂利等の骨材と異なりアルカリ骨材反応を起こさないため、水和硬化体そのものの耐久性が優れるだけでなく、アルカリ骨材反応に起因するひび割れも抑制できるので、ひび割れを介した酸素や塩化物イオンの浸透が起こらず、水和硬化体中の鉄筋の防食の観点からも好ましい。
【0019】
水和硬化体の原料として高炉スラグ微粉末を用いるのは、潜在水硬性を有する高炉スラグ微粉末が製鋼スラグによりアルカリ刺激を受け効率的に水和反応するためだけでなく、従来のコンクリートよりも硬化物が緻密な組織を有するため、水和硬化体中の鉄筋の腐食に有害な酸素や塩化物イオンの透過を著しく抑制できるからである。また、高炉スラグ微粉末と製鋼スラグ中の遊離CaO(free-CaO)が反応し、製鋼スラグの水和膨張を抑制するためである。高炉スラグ微粉末としてはJIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」を特に好ましく用いることができる。
【0020】
高炉スラグ微粉末の水和硬化体中の配合量は、100〜600kg/m3であることが好ましい。100kg/m3未満ではコンクリート代替として必要な18N/mm2以上の圧縮強度が得られない場合があり、600kg/m3を超えると強度の増加はほとんど無く不経済となるためである。高炉スラグ微粉末のより好ましい配合量は、200〜400kg/m3である。
【0021】
水和硬化体は、さらにフライアッシュを含有することが好ましい。
【0022】
水和硬化体の原料としてフライアッシュを用いるのは、製鋼スラグ中のCa成分とフライアッシュが効率的に反応することによりフライアッシュのポゾラン反応が進むためである。また、フライアッシュと製鋼スラグ中の遊離CaOが反応し、製鋼スラグの水和膨張を抑制するためである。さらに、フライアッシュの適量の配合でワーカビリティを向上させる効果もある。フライアッシュはJIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」を用いることが好ましいが、原粉および加圧流動床灰の使用等も可能である。
【0023】
フライアッシュの水和硬化体中の配合量は、50〜300kg/m3であることが好ましい。50kg/m3未満では製鋼スラグの水和膨張を抑制する効果が低く、300kg/m3を超えると水を加えて練混ぜた後のフレッシュな状態の粘性が高くなり、ワーカビリティが悪化するため、また製鋼スラグの水和膨張を抑制する効果も変わらず不経済であるためである。フライアッシュのより好ましい配合量は、50〜150kg/m3である。この範囲の配合量では、製鋼スラグの水和膨張抑制効果に加えて、大きなワーカビリティ向上効果が得られる。
【0024】
水和硬化体の原料として、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、および各種セメントから選ばれる1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0025】
水和硬化体の原料として、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、および各種セメントから選ばれる1種または2種以上を使用する場合、高炉スラグ微粉末に対して、質量比で1%以上配合することが好ましい。これは、高炉スラグ微粉末が有する潜在水硬性を効率的に発現させるためのアルカリ刺激材として配合するものであり、製鋼スラグのアルカリ刺激だけでは不足する場合に配合することが望ましい。1mass%以上としたのは、1mass%未満ではアルカリ刺激としての効果が低いためである。上限は特に設定しないが、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物の場合、100mass%を超えて配合してもアルカリ刺激効果が変わらず不経済となる。アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物配合の場合、好ましくは、5〜20mass%の配合とする。なお、各種セメントの場合は、高炉スラグ微粉末に対するアルカリ刺激だけでなく、セメント自体の水硬性も発揮されるため、100mass%を超えて配合しても圧縮強度が増加する効果を有する。各種セメント配合の場合、好ましくは10〜150mass%の配合とする。
【0026】
なお、各種セメントとは、JIS R 5210「ポルトランドセメント」、JIS R 5211「高炉セメント」、JIS R 5212「シリカセメント」、JIS R 5213「フライアッシュセメント」、JIS R 5214「エコセメント」のことである。
【0027】
次に、水和硬化体中の鉄筋について説明する。
【0028】
鉄筋に用いる鋼材としては炭素鋼を用いるものとし、特に本発明では炭素鋼に表面処理を施した鉄筋を用いるものとする。鉄筋の表面に表面処理を施すことで、鉄筋を有する水和硬化体の耐塩害性が向上する。
【0029】
鉄筋の表面から水和硬化体外面までの厚さであるかぶり(以下、「かぶり厚」と記載する。)は、20mm以上とすることが好ましい。かぶり厚が20mm未満の場合には、外界から浸透する腐食因子である塩化物イオンを十分に遮断できない場合があるからである。
【0030】
水和硬化体に占める鉄筋の割合が、鉄筋の長さ方向に垂直な断面において、水和硬化体部分の断面積に対して鉄筋の断面積が0.2〜10%の面積率となるように配筋する。本発明の鉄筋を有する水和硬化体で構造物を製造する場合、構造物の断面において硬化体の断面積に対して鉄筋の断面積が0.2%未満の場合には、鉄筋配合による耐力の増強効果が得られず好ましくない。また、構造物の断面において硬化体の断面積に対して鉄筋の断面積が10%を超える場合には、資材コストに見合った効果が得られないだけでなく、作業効率が著しく低下するので好ましくない。
【0031】
水和硬化体中の鉄筋の表面に行なう表面処理としては、例えば、燐酸鉄処理、燐酸亜鉛処理、燐酸亜鉛カルシウム処理、或いは亜鉛めっきが挙げられる。
【0032】
本発明では各々の表面処理の詳細を規定するものではないが、例えば皮膜質量を例にとると、燐酸鉄処理は0.1〜1.5g/m2、燐酸亜鉛処理は0.5〜15g/m2、燐酸亜鉛カルシウム処理は0.5〜15g/m2、亜鉛めっきは20g/m2以上とすることが好ましい。各々の表面処理の皮膜質量の下限値未満の皮膜質量の表面処理を施した場合には、耐食性向上の効果が得られない場合があり好ましくない。一方、上限値を越える皮膜質量の表面処理を施した場合には、コストに見合うだけの効果が得られないだけでなく、表面処理層のクラックの発生や剥離が発生し、耐食性が低下するので好ましくない。
【0033】
燐酸亜鉛皮膜の主成分はホパイト(Zn3(PO424H2O)とフォスフォフィライト(FeZn2(PO424H2O)から成っているが、ホパイトとフォスフォフィライトの質量の和に占めるフォスフォフィライトの質量の割合(P比)が0.8以上のものが好ましい。アルカリ環境におけるフォスフォフィライトの溶解度がホパイトよりも低く、水和硬化体中でより安定的に存在するからである。
【0034】
また、燐酸亜鉛皮膜中のホパイトおよびフォスフォフィライトの結晶粒径を細かくし、耐食性を向上させるために、Zn原子の一部をMnやNi原子で置換することもできる。
【0035】
亜鉛めっきについては電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛合金めっき等のいずれの処理方法でも用いることができる。
【0036】
水和硬化体は、上記の原料を配合して、水を加えて混練して、所定の型枠等に打ち込んで養生して製造する。打ち込みの際に表面処理を施した鉄筋を配筋して、鉄筋を有する水和硬化体とする。
【0037】
水和硬化体の養生方法は、所定の強度が確保できれば、水中養生、現場養生、蒸気養生等の通常用いられる何れの方法をも用いることができる。
【実施例1】
【0038】
製鋼スラグは表1に示す化学成分、物性値(最大粒径、粗粒率、細骨材率、表乾密度)のものを用いた。粗粒率とはJIS A 0203に記載の番号3115の粗粒率のことである。細骨材率とは全粒度の製鋼スラグ量に対する粒径5mm以下の製鋼スラグ量の絶対容積比を百分率で表した値である。
【0039】
【表1】

【0040】
高炉スラグ微粉末はJIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」における高炉スラグ微粉末4000を、フライアッシュはJIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」におけるII種を使用した。アルカリ刺激材は、JIS R 5201に適合する普通ポルトランドセメントまたは、JIS R 9001に適合する工業用消石灰・特号を使用した。混和剤は、JIS A 6204に適合するポリカルボン酸系の高性能AE減水剤を使用した。
【0041】
鉄筋の表面処理として、表3に記載の化学成分と機械的特性を有する鉄筋に燐酸鉄処理、燐酸亜鉛処理、燐酸亜鉛カルシウム処理、亜鉛めっきを行なった。
【0042】
燐酸鉄処理に関しては、20g/lの濃度の脱脂液(CL-N364S:日本パーカライジング(株)製)を55℃で120秒スプレーした後に水洗し、50℃の燐酸鉄処理液(PF-1077:日本パーカライジング(株)製)に60秒間浸漬し、水洗・乾燥した。鋼材の表面に形成された燐酸鉄皮膜の皮膜質量は0.35g/m2であった。
【0043】
燐酸亜鉛処理については、20g/lの濃度の脱脂液(FC-L4460:日本パーカライジング(株)製)を43℃で120秒スプレーした後に水洗し、濃度3g/lの表面調整用の薬液(PL−X:日本パーカライジング(株)製)で表面にTiコロイドの核を付着させた後に、43℃の燐酸亜鉛処理溶液(PB-L3020:日本パーカライジング(株)製)に120秒間浸漬し、水洗・乾燥させた。鋼材の表面に形成された燐酸亜鉛処理皮膜の皮膜質量は2.75g/m2、P比は0.90、Ni付着量は23.2mg/m2、Mn付着量は49.5mg/m2であった。
【0044】
燐酸亜鉛カルシウム処理としては、燐酸鉄処理と同様に脱脂した後に、90℃の燐酸亜鉛カルシウム溶液(PB−880:日本パーカライジング(株)製)に360秒間浸漬し、水洗・乾燥させた。鋼材の表面に形成された燐酸亜鉛カルシウム処理皮膜の皮膜質量は5.7g/m2であった。
【0045】
亜鉛めっきについては、目付け量90g/m2の溶融亜鉛めっき鉄筋を用いた。
【0046】
表2の配合により水和硬化体原料を練混ぜ、養生してコンクリートNo.1〜8の圧縮強度測定用のテストピースを製作した。圧縮強度の測定は、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」にしたがって行った。養生条件は標準養生28日とした。圧縮強度の測定結果を表2に合わせて示す。
【0047】
【表2】

【0048】
また、表2の水和硬化体原料の配合で、JIS G 3112記載のSD490に相当する表3に記載の化学成分と機械的特性を有する鉄筋に、表5に記載の所定の表面処理を施したものを、鉄筋の長さ方向に垂直方向での水和硬化体の断面積に対して2%になるような条件でかぶり厚を20〜30mmに変化させて配し、100×100×400mmの型枠に打込んだ。供試体は脱枠後20℃の水中で材齢28日まで養生を行い、かぶり厚を制御した面を残し、他の面を全てエポキシ樹脂で被覆した。60℃の3%NaCl水溶液に3日間浸漬した後に60℃、50%RHの恒温恒湿槽で4日間乾燥することを1サイクルとする、乾湿繰り返しによる腐食促進試験を行った。腐食促進試験を100サイクル実施した後に水和硬化体を破壊して鉄筋を取り出し、鉄筋を10mass%の水素クエン酸アンモニウム水溶液で除錆し、腐食面積率と最大腐食深さをマイクロメーターで測定した。同様の試験を表4に記載の組成を有する従来のコンクリート(コンクリートNo.9〜12)に対しても、かぶり厚を変化させて行った。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
これらの表面処理を施した鉄筋を有する(有筋の)水和硬化体の腐食促進試験の結果を表5に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
水和硬化体の原料として、少なくとも製鋼スラグと高炉スラグ微粉末と水を用いたものは、かぶり厚が20mmの場合でもいずれも良好な耐食性を示し、腐食促進試験100サイクル後においても硬化体中の鉄筋には何ら腐食が認められなかった(本発明例1〜12)。
【0054】
一方、普通セメント或いは高炉セメントB種を用いた従来のコンクリートを用いた場合は、かぶり厚20mmではいずれの水和硬化体中の鉄筋も表面処理を施したにもかかわらず腐食し、耐食性が劣っていた(比較例1、3、5、7)。また、従来のコンクリートにおいてかぶり厚を倍の40mmと深くしたものについては腐食の程度はいずれも軽減されたが、依然全ての硬化体中の鉄筋に腐食が認められ、十分な耐食性が得られなかった(比較例2、4、6、8)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋を内部に有する水和硬化体が、少なくとも製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とを含有し、前記鉄筋が表面処理を施した炭素鋼であることを特徴とする耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
【請求項2】
かぶりが20mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
【請求項3】
鉄筋の長さ方向に垂直な断面において水和硬化体の面積に対する前記鉄筋の面積率が0.2〜10%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
【請求項4】
水和硬化体における高炉スラグ微粉末の含有量が100〜600kg/m3であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
【請求項5】
水和硬化体が、さらにフライアッシュを含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
【請求項6】
水和硬化体におけるフライアッシュの含有量が50〜300kg/m3であることを特徴とする請求項5に記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
【請求項7】
水和硬化体が、さらにアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、エコセメントから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。
【請求項8】
炭素鋼の表面処理が、燐酸鉄処理、燐酸亜鉛処理、燐酸亜鉛カルシウム処理、亜鉛めっきのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の耐塩害性に優れた鉄筋を有する水和硬化体。

【公開番号】特開2006−273688(P2006−273688A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98314(P2005−98314)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】