説明

耐屈曲低摩擦性を有するケーブル外被又はエアホースのための樹脂組成物

【課題】ロボットアーム等の作用部が移動機器に搭載される、産業用ロボット等のFA機器にあって、該作用部に接続するケーブル(1)がケーブル支持案内装置(8)内で屈曲、摩擦を受け続けるものにおいて、安価で長期継続使用に耐えるケーブルを与える。
【解決手段】ケーブル外被(2)として、塩化ビニル樹脂または塩化ビニル系共重合体樹脂100重量部に対して液体可塑剤を55〜90重量部、脂肪酸アミドを0.2〜3.0重量部添加した組成物からなるものを用いる。または、熱可塑性ウレタン樹脂に脂肪酸アミドを0.2〜3.0重量部添加した組成物からなるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐屈曲性に優れた低摩擦性ケーブルに関する。詳しくは、ロボットアーム等の作用部が移動機器に搭載される、産業用ロボット等のFA機器のためのケーブルに関する。
【0002】
本発明は、また、FA機器の駆動のための圧縮空気用エアホースに関する。
【背景技術】
【0003】
近年、産業用ロボット等のFA機器が急速に普及しているが、ロボットアーム等の作用部を平行移動させる移動機器を備えたものにおいては、多くの場合ケーブル・ホース支持案内装置が使用される。移動機器に搭載された作用部と駆動、供給側の固定端との間には、作用部の移動に追随して変形自在であるケーブル・ホース支持案内装置(以下支持案内装置と呼ぶ)が配されて、多数のケーブルおよびエアホースを案内している。
【0004】
ここで、支持案内装置内のケーブルは、前記作用部の移動に伴い絶えず屈伸し周囲と摩擦する。ケーブルが絶えず屈曲されては引き延ばされると共に、ケーブルの外面間、ケーブルの外面とエアホースの外面、およびケーブル外面と支持案内装置の内面とが摩擦を受け続ける。その結果、ケーブル外被の耐屈曲性および表面滑り性が十分でない場合には、短時間の継続使用でケーブルが変形、被覆破れを起こす。そして最後には導体の断線に至る。
【0005】
ケーブル外被に耐屈曲性を与える方法としては、例えば特開平5−325651のように、アラミド繊維やフッ素系樹脂をケーブル外被の補強材として用いることが知られている。
【0006】
しかし、このような高価な樹脂を汎用産業機器に用いることはコスト増加につながり好ましくない。
【0007】
電線被覆材表面の滑り性のみを改良することは、特許公報4−74803に示されているが、耐屈曲性の向上については全く言及されておらず示唆もされていない。該公報に開示された発明は、半硬質塩化ビニル樹脂からなるジャンパ線といった本来それほど耐屈曲性を要しない半硬質被覆電線に関するものであって、上記のような支持案内装置に配置されるケーブルには適用できない。
【0008】
一方、近年、熱可塑性ウレタン樹脂でケーブル外被を構成したケーブルや熱可塑性ウレタン樹脂からなる各種チューブ・ホース類が用いられている。低温柔軟性及び耐油性に優れ、機械物性が良好であるからである。しかし、上記の様な高度の耐屈曲性と表面滑り性とが要求される用途には十分ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記問題点を解決することのできる、耐屈曲性と低摩擦性に優れたケーブルを提供することにある。すなわち、移動機器を備えた産業用ロボット等において、移動機器の移動に追随して変形自在の支持案内装置内に案内されるケーブルが変形、被覆破れを起こすことを防止することにある。特には、多数のケーブルおよびエアホースが支持案内装置内に配された場合に発生する、ケーブルの変形による蛇行、ならびに座屈(折れ曲がり)および被覆破れを大幅に抑制するケーブルを与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の耐屈曲低摩擦性ケーブル外被用の樹脂組成物においては、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、または、エチレン・酢酸ビニル共重合体に塩化ビニルをグラフトした3元共重合体樹脂のいずれかの樹脂100重量部に対して、脂肪酸アミドを0.2〜3.0重量部、液体可塑剤を55〜90重量部配合してなることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の耐屈曲低摩擦性のケーブル外被又はエアホースのための樹脂組成物は、熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、エルシルアミドを0.2〜3.0重量部配合してなることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の耐屈曲低摩擦性のケーブル外被又はエアホースのための樹脂組成物は、ソフトセグメントがポリテトラメチレングリコール又はポリプロピレングリコールからなる熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、炭素数20〜30の脂肪酸の第1アミドを0.2〜3.0重量部配合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
ケーブル外被として、塩化ビニル樹脂または塩化ビニルと酢酸ビニル等との共重合体樹脂に比較的多量の液体可塑剤と適量の脂肪酸アミドとを添加した組成物からなるものを用いることにより、耐屈曲性に優れた低摩擦性ケーブルを与える。特に、ロボットアーム等の作用部が移動機器に搭載されるFA機器にあって、該作用部に接続するケーブルが、該作用部の移動に追随して変形自在な支持案内装置内に配されるものにおいて、安価で長期継続使用に耐えるケーブルを与える。
【0014】
ケーブル外被として、熱可塑性ウレタン樹脂に脂肪酸アミドを0.2〜3.0重量部添加した組成物からなるものを用いることによっても、同様に、耐屈曲性に優れた低摩擦性ケーブルを与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の請求項1の組成物は、ケーブル外被を構成する組成物のベース樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂または塩化ビニル系共重合体樹脂を用いている。塩化ビニル系樹脂は安価で難燃性であり加工が容易であるためである。
【0016】
ポリ塩化ビニル樹脂としては、一般的なものならば全て使用でき、部分架橋されたものも用いられる。塩化ビニル系共重合体樹脂としては、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、または、エチレン・酢酸ビニル共重合体に塩化ビニルをグラフトした3元共重合体樹脂などが好適に用いられるがその他のものも可能である。
【0017】
塩化ビニル系樹脂に添加する脂肪酸アミドとしては、エルシルアミドおよびオレイルアミドが特に好ましいものとして挙げられる。しかし、その他の脂肪酸アミド、例えばエチレンビスアミド、メチロールアミドなども使用可能である。
【0018】
脂肪酸アミドの配合量は、上記塩化ビニル樹脂又は塩化ビニル系共重合体樹脂100重量部に対して0.2〜3.0重量部であり好ましくは0.4〜2.0重量部である。脂肪酸アミドの配合量が0.2重量部より少ないとケーブル外被の耐屈曲低摩擦性が不十分であり、3.0重量部を越えると該組成物からケーブル外被を成形する混練、押し出しの際の加工性に劣る。
【0019】
液体可塑剤としては、DOP(ジオクチルフタレート)をはじめ、フタル酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、脂肪酸エステル系など種々の塩化ビニル系樹脂用の液体可塑剤が単独または併用で使用できる。フタル酸エステル系のものとしては、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、ジトリデシルフタレート等が挙げられ、トリメリット酸系のものとしては、トリオクチルトリメリテート、トリ−n−オクチルトリメリテート等が、脂肪酸エステル系のものとしては、ジオクチルアジペート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルセバケート等が挙げられる。また、リン酸エステル系の液体可塑剤としてトリクレジルホスフェートが用い得る他、大豆油等の植物系油をエポキシ化して安定化させたものも用い得る。
【0020】
液体可塑剤の添加量は、上記塩化ビニル樹脂又は塩化ビニル系共重合体樹脂100重量部に対して55〜90重量部、好ましくは60〜80重量部である。液体可塑剤の量が55重量部以下の場合には十分な柔軟性が得られずしたがって、脂肪酸アミドの量が十分であっても、十分な耐屈曲性が得られない。逆に液体可塑剤の量が90重量部を越えるとケーブル外被が過度に柔軟となり、特に耐摩擦性の低下を招く。
【0021】
本発明の請求項1の組成物において、上記基本成分のほか、塩化ビニル系樹脂に一般に用いられる、充填材および安定剤、ならびに、難燃剤、滑剤および着色剤を適宜添加することができる。充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム(焼成クレー)などを、安定剤としては、例えば、鉛系、カルシウム−亜鉛系、スズ系のものなどを用いることができる。
【0022】
本発明の請求項2及び3の組成物は、ケーブル外被又はエアホースを構成するための組成物であって熱可塑性ウレタン樹脂に特定の脂肪酸アミドを適量加えたものである。
【0023】
熱可塑性ウレタン樹脂とは、長鎖ジオール成分に由来するソフトセグメントと短鎖ジオール成分に由来するハードセグメントからなる。加熱溶融時には全体が均一に流動するが、成形後には、ソフトセグメントがゴム状態〜軟化状態、ハードセグメントがガラス状態にあって物理的架橋部(加硫と同様の効果をなす部分)を形成する。
【0024】
熱可塑性ウレタン樹脂としては、長鎖ジオールが、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)又はポリプロピレングリコール(PPG)である最も一般的なものの他、長鎖ジオールがポリカプロラクトン(PCL)やポリカーボネートポリエステル(PCP)といったポリエステルジオールであるもの又はポリブタジエンジオールといった特殊ジオールであるものを用いることもできる。物性及び耐久性と価格とのバランスからポリテトラメチレングリコール(PTMG)型が好ましい。
【0025】
熱可塑性ウレタン樹脂に加える脂肪酸アミドとしては、炭素数20〜30の高級脂肪酸アミドが好ましく、さらに好ましくはこのようなものであってモノエン不飽和脂肪酸の第1アミドであり、特に好ましくはエルシルアミドである。ポリテトラメチレングリコール(PTMG)型又はポリプロピレングリコール型の熱可塑性ウレタン樹脂に加える脂肪酸第1アミドとしては、炭素数が20〜30であることを要する(請求項3)。
【0026】
脂肪酸アミドの配合量は、熱可塑性ウレタン樹脂100重量部に対して0.2〜3.0重量部であり好ましくは0.3〜2.5重量部である。脂肪酸アミドの配合量が0.2重量部より少ないとケーブルの耐屈曲低摩擦性が不十分であり、3.0重量部を越えると該組成物からケーブル外被を成形する混練、押し出しの際の加工性に劣る。
【0027】
上記の請求項1、2又は3に係る組成物から押し出し成形等によりケーブル外被が成形される。
【0028】
また、請求項2又は3に係る熱可塑性ウレタン樹脂組成物から同様にしてFA機器駆動用のエアホースが成形される。エアホースは、例えば、ロボットアームの屈伸させるための圧縮空気を導くものであって、下記のような支持案内装置にケーブルと共に収納され該ケーブルのケーブル外被と全く同様の繰り返し屈曲・摩擦を受ける。したがって、耐圧性を備えたものである熱可塑性ウレタン樹脂ベースの組成物にあってはケーブル外被に用いられるものをそのままエアホースに用いることができる。
【0029】
ケーブル外被の耐屈曲低摩擦性に係るケーブルの耐久性能の評価は以下のように行った。
【0030】
耐久性能の評価に用いたケーブルは、図1の断面図で示すように、4対の導体線を含む、対より形ビニル絶縁ビニルシースケーブル(1)である。0.2平方ミリの断面積をもつ2本の導体(3)をそれぞれ絶縁体(4)で被覆し互いに撚り合わせ、このような対より電線を4対束ねて円筒形のケーブルとしたものである。ここで、ケーブル外被(2)の断面内には電磁遮蔽層が設けられている。
【0031】
耐久性能試験装置および試験条件について図2〜3を用いて説明する。
【0032】
図2に示すように、水平のレール(5)に沿って移動端(6)が移動可能に配されており、レール(5)の下方の台面(9)上に固定端(7)が設けられている。移動端(6)と固定端(7)との間にはキャタピラチェーン形の支持案内装置(8)が配される。支持案内装置(8)は、移動端(6)が固定端(7)の真上に来たとき、横に伏せた細長の略U字形をなしており、移動端(6)の左右への移動に伴い、台面(9)上を左右に走行するキャタピラのチェーンの一部分のような動きをする。ここで、支持案内装置としては、(株)椿本チエイン社製TKP0320−2B(キャタピラ湾曲部の曲率半径(R)37mm)を用いた。
【0033】
このような装置に、6本のケーブル(1)を取り付けた。ケーブル(1)は、固定端(7)および支持案内装置(8)中において3本ずつ2段に緩やかに配線されており(図3)、移動端(6)においてだけ治具により圧締されてケーブルの長さ方向の移動が規制されている。
【0034】
移動端(6)をレール(5)上に繰り返し往復運動させることでケーブルの耐屈曲性試験を行った。ここで、レール上での移動端の移動ストロークを100cmに、移動速度を100m/minに設定した。それぞれのケーブルは屈伸を続けるとともに、隣接するケーブルならびに支持案内装置の内面との摩擦を受け続ける。屈曲を繰り返すと、ケーブル中にまず蛇行部分が発生し、次いでケーブルの被覆破れが生じる直前でケーブルが折れ曲がる。この状態を座屈と判定した。座屈を起こすまでの移動端の往復回数を耐屈曲回数とし、3回測定を繰り返して、測定値の概略範囲でもって表した。
【0035】
(実施例1〜3)
ケーブル外被(2)を構成する組成物のベース樹脂として、信越化学工業(株)製ポリ塩化ビニル樹脂TK−2500LS(平均重合度2250)を用いた。ベース樹脂100重量部に対して、液体可塑剤として60、80、および70重量部のDOPをそれぞれ加えた。また、脂肪酸アミドとしては、ライオンアクゾ社製のエルシルアミド製品であるアーモスリップE(登録商標)を0.5重量部加えた。さらに、安定剤として三塩基性硫酸鉛6重量部およびステアリン酸鉛1重量部を、充填剤として炭酸カルシウム50重量部を加えた組成物を用いた。
【0036】
表1に、耐屈曲回数で表される耐久性能評価の結果を組成の一覧とともに示す。実施例1〜3いずれにおいても、50,000〜60,000という非常に優れた耐久性能が得られた。また、表1の下端に示すようにケーブル外被を成形する際の加工性にはなんら問題がなかった。
【表1】

【0037】
(実施例4〜5)
実施例4〜5においては、脂肪酸アミドの添加量を0.25重量部とした。
【0038】
実施例4においては、脂肪酸アミドの添加量を0.25重量部と減少させ、炭酸カルシウムの添加量を60重量部と増加させた他は実施例3と同条件とした。
【0039】
実施例5においては、脂肪酸アミドとして、エルシルアミド製品であるアーモスリップE(登録商標)に代えライオンアクゾ社製のオレイルアミド製品であるアーモスリップCP−P(登録商標)0.25重量部を用い、炭酸カルシウム添加量を40重量部とした他は実施例3〜4と同条件とした。
【0040】
表1中に示すように、エルシルアミドとオレイルアミドとのいずれを用いても、脂肪酸アミドの量が0.25重量部では耐屈曲回数30,000〜40,000となり実用上十分な耐久性能を備えたケーブルが得られた。しかし、0.5重量部添加の実施例1〜3に比べケーブルの耐久性能は少し低いものであった。
【0041】
(実施例6)
アーモスリップE(エルシルアミド)の添加量を2.8重量部と増加させた他は実施例3と全く同じ条件とした。表1に示すように、測定された耐屈曲回数は0.5重量部添加の実施例3と同様であり、添加量増加によるさらなる効果は見られなかった。一方、表1の下端に示す加工性に問題は見られなかった。
【0042】
(比較例1〜3)
ケーブル外被(2)を構成する組成物において他の組成は実施例3と同様とし、脂肪酸アミドの添加量を0、0.1および0.15重量部とした。ここで、比較例2においてだけは、アーモスリップE(エルシルアミド)に代えてアーモスリップCP−P(オレイルアミド)を用いた。結果を表2に示す。添加量0の比較例1および添加量0.15重量部の比較例2では耐屈曲回数が20以下に過ぎず、添加量0.15重量部の比較例3でも耐屈曲回数が40以下に過ぎなかった。これらの結果から、脂肪酸アミドの添加量が0.15重量部以下ではほとんど添加の効果が見られないことが知られる。実施例4〜5の結果と照らし合わせると添加量0.15重量部と0.25重量部の間でケーブルの耐久性能が劇的に変化することが知られる。
【表2】

【0043】
(比較例4)
脂肪酸アミドの添加量を3.5重量部とした他は実施例3および6と同条件とした。耐屈曲回数は、実施例1〜3および6と同様の50,000〜60,000であったが、混練および押し出しにおける加工性に難があり工業的にケーブル外被を成形することには困難を伴う。すなわち、脂肪酸アミドの量を3.5重量部程度に増加しても耐久性能向上の効果は見られず加工性を損なう結果とだけなった。
【0044】
(比較例5〜6)
DOPの添加量を45重量部および100重量部とし他の組成は実施例1〜3と同様とした。表2に示すように、いずれも耐久性能が不十分であった。
【0045】
DOP添加量が過小である比較例5においては、ケーブルの柔軟性が低いので、ケーブルが曲がりにくく、ケーブルの曲がりのRを大きくし支持案内装置(8)の湾曲を押し拡げてしまい、移動端(6)の移動に支障を来すだけでなく、実際の使用条件においては、支持案内装置に隣接する他の部材と接触や衝突を起こし、該部材ならびに支持案内装置の損傷を引き起こすこととなる。したがって、支持案内装置(8)の湾曲部の盛り上がりが明瞭に観察される時点で使用不能と判定した。引き続き移動端(6)の往復を続けると、20,000〜30,000で座屈を生じた。ケーブルの柔軟性が低く屈曲性が悪いために、支持案内装置内での摩擦が大きくなり、耐久性能が不十分であったと考えられる。
【0046】
逆にDOP添加量が過剰であると、耐屈曲回数は5,000〜10,000と、実施例のものに比べ著しく低い値となった。ケーブルが過度に柔軟となり特に低摩擦性が得られないために耐屈曲回数で表される耐久性能が不十分であったと考えられる。
【0047】
以上の結果は、適量のDOPと適量の脂肪酸アミドとの相乗効果によってはじめて本発明の効果が得られることを示している。
【0048】
(実施例7〜9)
ケーブル外被(2)を構成する組成物のベース樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂に代えて、塩化ビニル系共重合体樹脂を用い他の条件は実施例1〜3と同様とした。塩化ビニル共重合体樹脂としては以下の3種類の樹脂をそれぞれ用いた。エチレン−塩化ビニル共重合体樹脂である東ソー(株)製リュウロンE−2800(平均重合度2750)、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体樹脂であるVA−PVC樹脂であるチッソ(株)製ニポリットMH(平均重合度1500)、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体に塩化ビニルをグラフトした3元共重合体樹脂である新第一塩ビ(株)製ZEST GR5F(平均重合度1400)を用いた。
【0049】
表3に示すように、これら共重合体樹脂を用いてもポリ塩化ビニル樹脂を用いた場合と同様の結果が得られた。
【表3】

【0050】
(実施例10〜12)
ケーブル外被(2)を構成する樹脂組成物として、(株)クラレ社製熱可塑性ウレタン樹脂クラミロンU−9185にアーモスリップE(登録商標)をそれぞれ0.3重量部、0.5重量部及び2.5重量部加えたものを用いた。
【0051】
表4に、耐屈曲回数で表される耐久性能評価の結果を示す。実施例10において30,000〜40,000、実施例11〜12において、50,000〜60,000という非常に優れた耐久性能が得られた。また、表4の下端に示すようにケーブル外被を成形する際の加工性にはなんら問題がなかった。
【表4】

【0052】
(比較例7〜8)
比較例7及び8では、アーモスリップE(登録商標)の添加量をそれぞれ0重量部及び0.1重量部とした他は実施例10〜12と同様とした。共に耐屈曲回数が1〜5と極端に低く、脂肪酸アミドを添加しないか、添加しても添加量が不足する場合には耐久性能が得られないことが知られる。
【0053】
(比較例9〜10)
比較例9及び10では、アーモスリップEに代えてアーモスリップCP−Pを0.5重量部及び1.0重量部加え、他は実施例10〜12と同様とした。比較例9及び10のケーブルでは表面に、脂肪酸アミドのブリードが観察されなかった。すなわち、アーモスリップCP−Pでは、上記熱可塑性ウレタン樹脂との相溶性が高すぎるため樹脂中に包含されてしまい、樹脂表面への滲出が認められなかった。
【0054】
エルシルアミド(アーモスリップE)とオレイルアミド(アーモスリップCP−P)とは共に、モノエン不飽和脂肪酸の第1アミドであって、炭素数がそれぞれ22及び18である点においてだけ相違している。したがって、実施例10〜12との対比より、この種の脂肪酸アミドにおいては、上記熱可塑性ウレタン樹脂に耐屈曲性を付与する性能が炭素数20前後で臨界的に変化することが知られる。
【0055】
(比較例11)
比較例11では、アーモスリップE(登録商標)の添加量を3.5重量部とした。耐屈曲回数は、実施例11〜12と同様の50,000〜60,000であったが、混練および押し出しにおける加工性に難があり工業的にケーブル外被を成形することには困難を伴う。すなわち、脂肪酸アミドの量を3.5重量部程度に増加しても耐久性能向上の効果は見られず加工性を損なう結果となった。
【表5】

【0056】
(実施例13)
実施例11と同一の組成物より上記ケーブル外被(2)と同一の径及び厚さでチューブを成形した。上記熱可塑性ウレタン樹脂は、耐圧ホースとして用いられるものであり、元来、圧縮空気に対する十分な耐圧性及びその信頼性を備えたものである。該チューブ内部を圧縮空気により約1気圧の陽圧に保った状態で、上記ケーブル(2)の場合と同様に耐屈曲性試験を行ったところ、耐屈曲回数は50,000回以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】耐久性能評価に用いたケーブルの断面図である。
【図2】耐久性能試験装置の模式図である。
【図3】耐久性能試験装置の固定端におけるケーブルの配列について示す。
【符号の説明】
【0058】
1 対より形ビニル絶縁ビニルシースケーブル 2 ケーブル外被 3 導体
4 絶縁体 6 移動端 7 固定端 8 支持案内装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン・塩化ビニル共重合体樹脂、または、エチレン・酢酸ビニル共重合体に塩化ビニルをグラフトした3元共重合体樹脂のいずれかの樹脂100重量部に対して、脂肪酸アミドを0.2〜3.0重量部、液体可塑剤を55〜90重量部配合してなることを特徴とする耐屈曲低摩擦性ケーブル外被用の樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、エルシルアミドを0.2〜3.0重量部配合してなることを特徴とする耐屈曲低摩擦性のケーブル外被又はエアホースのための樹脂組成物。
【請求項3】
ソフトセグメントがポリテトラメチレングリコール又はポリプロピレングリコールからなる熱可塑性ポリウレタン樹脂100重量部に対して、炭素数20〜30の脂肪酸の第1アミドを0.2〜3.0重量部配合してなることを特徴とする耐屈曲低摩擦性のケーブル外被又はエアホースのための樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−123281(P2007−123281A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326938(P2006−326938)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【分割の表示】特願平8−196580の分割
【原出願日】平成8年7月25日(1996.7.25)
【出願人】(000108742)タツタ電線株式会社 (76)
【Fターム(参考)】