説明

耐水・耐油機能を有する紙製品

【課題】耐水性、耐油性、及び抗菌性を向上でき且つ特殊な設備を必要とせず安価に製造できる紙用塗料等を提供すること。
【解決手段】紙の表面に塗布される紙用塗料は、シェラック樹脂と、銀ゼオライトと、以下の一般式(1)で示される化合物を含む分散剤と、を含有する。


・・・・(1)
(式中、R及びRは、同一又は異なってよいメチル基又はエチル基であり、R及びRは、同一又は異なってよい直鎖又は分岐のアルキル基であり、m及びnは、同一又は異なってよい100以下の自然数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙用塗料、紙製品、及び紙製包装容器、並びに紙用塗料及び紙製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活空間には、細菌やカビといった種々の微生物が存在する。これら微生物は、しばしば、食品を腐敗させ、悪臭を発生するのみならず、人体に食中毒等の悪影響を及ぼす原因にもなっている。
【0003】
ところで、交通手段及び商品流通網が発達した今日、工業製品から日常用品に至る大部分の商品は、包装材で保護された形態で搬送されており、この状況は食品分野においても例外ではない。
【0004】
高級和菓子やケーキといった主にテイクアウトされる菓子類、果物等の食品の包装や梱包等においては、紙製包装材が多用されている。これら食品は鮮度が要求されるため、搬送中における衛生管理に対して、特に注意を払う必要がある。このようなことから、優れた抗菌性を有する紙製包装材への要請が強まっている。
【0005】
紙に抗菌性を付与する抗菌剤としては、従来、塩化ベンザルコニウム等の第4級アンモニウム塩(特許文献1参照)、フェノール、イソプロピルメチルフェノール、クロルヘキシジン誘導体(特許文献2参照)等が開示されている。
【0006】
しかし、これらの抗菌剤によれば、紙に優れた抗菌性を付与できるものの、使用者の人体に対する安全性が不充分であり得る。そこで、一価の銀イオンを含むガラス抗菌剤が分散された抗菌液を紙に含浸処理する技術が開発されている(特許文献3参照)。この技術によれば、人体への悪影響が小さい一価の銀イオンを使用したので、安全性を向上でき且つ抗菌性を付与できる。
【0007】
ところで、コロッケやシュウマイといった油を帯びた食品の包装材には、更に耐油性が必要とされるため、フッ素系耐油剤が主に使用されている。しかし、フッ素系耐油剤は、100℃以上に加熱されると、難分解性のフッ素系炭化水素を発生する。かかる包装材は、電子レンジ等で食品を加温する際に高温下で使用されることもあるため、フッ素系炭化水素の発生が懸念される。
【0008】
そこで、フッ素系耐油剤の代替技術として、紙表面を所定の組成物でラミネート加工する技術(特許文献4参照)、紙を所定のプラスチックと複合化する技術(特許文献5参照)が開発されている。
【0009】
一方、抗菌剤を紙に供給する方法としては、従来、抗菌剤を紙に霧状散布する方法が一般に行われている。しかし、高価な抗菌剤のかなりの部分が周辺環境に飛散し失われるため、経済的でなく、経済性を向上するために散布量を減らすと、抗菌剤の存在量が不足し、充分な抗菌性が得られない。そこで、紙原料に抗菌剤を添加した後に製紙する方法が提案されている(特許文献6参照)。この技術によれば、使用する抗菌剤の全体が紙に含有されることとなるため、経済的に抗菌性を向上できる。
【特許文献1】特開2006−149989号公報
【特許文献2】特開2000−191511号公報
【特許文献3】特開2002−69897号公報
【特許文献4】特開2006−291040号公報
【特許文献5】特開2003−74000号公報
【特許文献6】特開2005−232636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に示される技術においては、銀イオンの触媒作用により、樹脂が短期間の間に硬化する。このため、抗菌液の寿命が極めて短く、抗菌液を頻繁に製造し直す必要があるため、製造コストが多大なものとなる。
【0011】
また、特許文献4及び5に示される技術においては、紙用印刷機に加えて、作製すべき紙の特性ごとに特殊な設備が必要となるため、製造コストがかさむ。そこで、特殊な設備の設置数を減らすべく、紙の大きさ等の規格化が行われている。しかし、紙から製造される包装容器は、その大きさ、形が千差万別である。このため、規格化された紙を用いて包装容器を製造する際には、相当量の紙が無駄となって廃棄されることになる。
【0012】
特許文献6に示される技術においては、表面に更に印刷処理、耐水剤や耐油剤の塗布等がされた場合、形成された層が表面を被覆し、抗菌効果を阻害する。これにより、充分な抗菌性が得られない場合がある。耐水剤や耐油剤を、紙表面の代わりに紙の中間層等に配置すると、表面の耐水性や耐油性が不充分であるため、スープやジュースに含有される水や油の液体が染み込む。
【0013】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであって、耐水性、耐油性、及び抗菌性を向上でき且つ特殊な設備を必要とせず安価に製造できる紙用塗料、紙製品、及び紙製包装容器、並びに耐水性、耐油性、及び抗菌性を向上でき且つ特殊な設備を必要とせず安価に製造でき、更に紙への液体の染込みを抑制できる紙用塗料及び紙製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1) 紙の表面に塗布される紙用塗料であって、
シェラック樹脂と、銀ゼオライトと、以下の一般式(1)で示される化合物を含む分散剤と、を含有する紙用塗料。
【化1】

・・・・(1)
(式中、R及びRは、同一又は異なってよいメチル基又はエチル基であり、R及びRは、同一又は異なってよい直鎖又は分岐のアルキル基であり、m及びnは、同一又は異なってよい100以下の自然数である。)
【0015】
(1)の発明によれば、シェラック樹脂を含有させたので、紙に耐水性及び耐油性を安全に付与できる。つまり、シェラック樹脂は、タイやインドに生息するラックカイガラムシが体内で生産する樹脂を精製することで得られるもので、その安全性はJECFA、FDA、EUなども認めており、日本では、1965年厚生省より食品に使用されるシェラックの取り扱いについての指針が示されるとともに、昭和55年度厚生省による食品添加物の安全性評価作業の「Ames試験」及び「哺乳動物培養細胞に対する異変原性試験」の双方においてマイナスであったとの結果が得られている。このように安全性が確立されていることから、従来頻繁に使用されている(日本シェラック工業社発行、ラックグレーズ類カタログ第1頁)。
【0016】
また、安全な抗菌剤として認められている銀ゼオライトを含有させたので、紙に抗菌性を安全に付与できる。例えば、銀ゼオライトの一種である「ゼオミック」(シナネンゼオミック社製)が、米国食品医薬品局(FDA)に食品接触物質(Food Contact Substance Notification FCN000047)として認可され、全食品の包装樹脂に適応できるという実績がある。
【0017】
しかし、銀ゼオライトを用いると、銀イオンの触媒作用によって塗料が短時間でゲル化又は固化し、操作性が悪化することが懸念される。そこで、塗料を常時流動させたり、塗料を頻繁に製造し直したりする必要があり、製造コストがかさむ。
そこで(1)の発明によれば、一般式(1)で示される分散剤を添加した。この分散剤の分子内のポリエチレングリコール構造と、銀ゼオライト中の銀イオンとで錯体が形成される。これにより、液体に分散された状態では、銀イオンが有する樹脂硬化作用が弱められる。しかも、プロピレングリコール基が親水基として作用し、銀ゼオライト自体の水分散性が向上する。よって、紙用塗料の寿命がより長期化するので、製造コストを低減できる。また、塗料を流動させる循環装置のような機構を設ける必要がないため、従来の印刷機を使用できる。
【0018】
また、インク等で印刷処理されていると、紙表面が疎水性になるため、水系塗料の紙表面への濡れ性が低下する。これにより、水系塗料が紙表面に均一に塗布されず、均一な塗膜を形成するのが困難になることが懸念される。一方、疎水性表面への濡れ性のみを追求すると、銀ゼオライトの水系中での分散性が低下する。これにより、均質な塗膜を形成するのが困難になることが懸念される。
しかし、一般式(1)で示される分散剤は分子内にポリエチレングリコール構造及びアセチレングリコール構造を兼ね備えるので、ポリエチレングリコール構造によって、水と疎水性の紙表面との相溶性が向上するため、疎水性の紙表面への水系塗料の濡れ性を向上できる。また、アセチレングリコール構造によって、銀ゼオライトの水への分散性が向上する。これにより、紙表面が疎水性であっても、均一且つ均質な塗膜を形成できる。
【0019】
また、以上の紙用塗料は従来行われている通常の方法で紙表面に塗布すればよく、特段の下処理等を行わなくてもよい。よって、特殊な設備を必要とせず、安価に紙用塗料を製造できる。
【0020】
なお、本明細書で言う「紙用塗料」は、抗菌性が要求されるあらゆる用途、特に人体との直接的又は間接的な接触が予想される製品に適用できる。具体的には、ダンボールや厚紙に代表される包装用紙(特に食品)、加湿器や湿度調節器に使用される保水体、衛生関連の製品(例えば、ウェットティッシュ、おしぼり)、建築関連の壁材、床材、結露防止材、農業関連の保水体、空調用又は水処理用のフィルタ、水の抗菌処理材等が挙げられる。
【0021】
本明細書で言う「塗布」は、紙の表面に抗菌効果が付与される限りにおいて、その方法は特に限定されない。例えば、含浸、印刷用ロール等による転写、スプレーによる散布等であってよい。
【0022】
(2) 一般式(1)におけるm又はnは、4以上である(1)記載の紙用塗料。
【0023】
一般式(1)におけるm又はnが小さすぎると、水と疎水性の紙表面との相溶性が充分に向上しないために、疎水性の紙表面への水系塗料の濡れ性を充分に向上できないことが懸念される。
そこで、(2)の発明によれば、m又はnを4以上としたので、疎水性の紙表面への水系塗料の濡れ性を充分に向上でき、より均一な塗膜を形成できる。
【0024】
(3) パラヒドロキシ安息香酸を更に含有する(1)又は(2)記載の紙用塗料。
【0025】
包装容器には高度の衛生が要求されるところ、カビの増殖が懸念される。
そこで(3)の発明によれば、パラヒドロキシ安息香酸を更に添加したので、紙製品に防カビ性が付与される。よって、安全性をより向上できる。
【0026】
なお、パラヒドロキシ安息香酸アルキルは水に不溶性ではあるが、メタノールやエタノールなどの低級アルコールには可溶である。ここで、パラヒドロキシ安息香酸のアルキル基部分は、低級アルコールへの溶解性を確保する点で、炭素数2以上4以下の直鎖又は分岐鎖状であることが好ましい。また、炭素数2以上4以下のパラヒドロキシ安息香酸アルキルは、食品添加物として認められていることから、安全性に優れる。
【0027】
(4) エタノールに分散されている(1)から(3)いずれか記載の紙用塗料。
【0028】
(4)の発明によれば、エタノールの添加量を変化させると、紙用塗料の粘性が増減する。よって、エタノールの添加量を適宜設定することで、所望の粘性を有する紙用塗料が製造され、紙に均一量の塗料を容易に印刷できる。また、エタノールは、塗布後に短い時間で乾燥するため、長時間の乾燥による紙製品の反り返り等を抑制できる。
【0029】
また、紙用塗料が塗布された紙製品に分散媒が残存していると、包装対象の特性(特に食品の味や香り)を損なうことが懸念される。しかし、エタノールによれば、速乾性を有し且つ人体への毒性がないので、紙製品への残存を抑制できるとともに、安全性を向上できる。
【0030】
なお、エタノールは通常、シェラック樹脂の溶媒として用い、樹脂25〜50%溶液となるような添加量とすればよい。
【0031】
(5) (1)から(4)いずれか記載の紙用塗料が紙の表面に塗布された紙製品。
【0032】
本明細書で言う「塗布」は、紙の表面に抗菌効果が付与される限りにおいて、その方法は特に限定されない。例えば、含浸、印刷用ロール等による転写、スプレーによる散布等であってよい。また、「紙」としては、コートボール紙、和紙、不織布、ダンボール紙等が挙げられる。
【0033】
(6) (5)記載の紙製品で形成された紙製包装容器。
【0034】
本明細書で言う「紙製包装容器」は、箱状、袋状等任意の形状であってよい。
【0035】
(7) 紙の表面に塗布される紙用塗料の製造方法であって、
シェラック樹脂の溶液に以下の一般式(1)で示される化合物を含む分散剤、及び銀ゼオライトを添加する手順を有する製造方法。
【化2】

・・・・(1)
(式中、R及びRは、同一又は異なってよいメチル基又はエチル基であり、R及びRは、同一又は異なってよい直鎖又は分岐のアルキル基であり、m及びnは、同一又は異なってよい100以下の自然数である。)
【0036】
(8) 一般式(1)におけるm又はnは、4以上である(7)記載の製造方法。
【0037】
(9) 前記分散剤を添加した後、銀ゼオライトを添加する(7)又は(8)記載の製造方法。
【0038】
(9)の発明によれば、銀ゼオライトを分散剤の後に添加したので、銀ゼオライトがシェラック樹脂内に速やかに分散する。これにより、ゲル化又は固化がより抑制されるので、紙用塗料の寿命がより長期化し、製造コストを低減できる。
【0039】
(10) パラヒドロキシ安息香酸を添加する手順を更に備える(7)から(9)いずれか記載の製造方法。
【0040】
(11) 前記シェラック樹脂の溶液はエタノール溶液である(7)から(10)いずれか記載の製造方法。
【0041】
(12) 紙製品の製造方法であって、
(1)から(4)いずれか記載の紙用塗料を紙表面に塗布する塗布手順と、
前記紙用塗料を硬化させる硬化手順と、を含む製造方法。
【0042】
(12)の発明によれば、紙用塗料として(1)から(4)いずれか記載の紙用塗料を採用したので、塗布手順及び硬化手順という特殊な設備を用いない手順によって、耐水性、耐油性、及び抗菌性を安価に向上できる。
【0043】
なお、紙用塗料の硬化は、熱風乾燥、活性エネルギー線照射といった従来公知の種々の方法で行われてよい。このうち、活性エネルギー線(例えば、遠赤外線)照射は、熱による紙製品の損傷を抑制できる点で好ましい。
【0044】
(13) 前記塗布手順は、紙表面に印刷処理を行う印刷手順の後に行われる(12)記載の製造方法。
【0045】
紙用塗料を塗布した後に印刷処理を行う場合、形成された印刷層が印字部分の表面を被覆し、抗菌効果を阻害する。これにより、充分な抗菌性が得られないことが懸念される。
そこで、(12)の発明によれば、塗布手順を印刷手順の後に設けたので、印字部分を含む全表面に紙用塗料が塗布される。よって、抗菌性をより向上できる。
【0046】
印刷手順は、文字、模様、色彩を印字するものである。印字内容としては、例えば、包装される内容物の情報が挙げられ、具体的には、包装される食品の絵柄、商品名、生産地、流通者等が挙げられる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、シェラック樹脂を含有させたので、紙に耐水性及び耐油性を安全に付与できる。また、安全な抗菌剤として認められている銀ゼオライトを含有させたので、紙に抗菌性を安全に付与できる。しかも、一般式(1)で示される分散剤を添加したので、紙用塗料の寿命がより長期化し、製造コストを低減できる。以上の紙用塗料は従来行われている通常の方法で紙表面に塗布すればよいので、特殊な設備を必要とせず、安価に製造できる。
【実施例】
【0048】
<実施例1>
シェラック樹脂100gに対してエタノール100gを加えた溶液である「ラックグレーズ50E」(日本シェラック工業社製)100gに、エタノール67gを加え、約30分間撹拌した。次に、一般式(1)に示される化合物としての「サーフィノール485」(日信化学工業社製)2.5gを添加した後、銀ゼオライト(シナネンゼオミック社製)12gを添加した。その後、室温にて60分間撹拌することで、透明な紙用塗料を製造した。
【0049】
次に、グラビア印刷機の印刷面の平らな印刷用ロールを使用し、この表面に紙用塗料を塗布した。このロールに「コートボール紙」(丸善社製)を通すことで、紙用塗料を紙表面に転写した(塗布手順)後、130℃で120秒間、続いて20秒間送風乾燥させる(硬化手順)ことで、紙製品を製造した。
【0050】
<実施例2>
シェラック樹脂32gに対してエタノール100gを加えた溶液である「ラックグレーズ32E−N」(日本シェラック工業株式会社製)100gに、「サーフィノール485」(日信化学工業社製)2.1gを添加した後、銀ゼオライト10gを添加した。その後、室温にて60分間撹拌することで、黄色の紙用塗料を製造した。この紙用塗料を用いて、実施例1と同様の手順で紙製品を製造した。
【0051】
<実施例3>
「サーフィノール485」を添加する前に、「ラックグレーズ32E−N」に水18.7gを加え、30分間撹拌した点を除き、実施例2と同様の手順で紙用塗料を製造し、紙製品を製造した。
【0052】
<実施例4>
実施例1における銀ゼオライトの添加後、室温にて60分間撹拌した。次に、パラヒドロキシ安息香酸エステルとしてのパラヒドロキシ安息香酸プロピルを8.8g添加し、更に60分間撹拌することで、透明な紙用塗料を製造した。この紙用塗料を用いて、実施例1と同様の手順で紙製品を製造した。
【0053】
<実施例5>
パラヒドロキシ安息香酸プロピルの代わりに、パラヒドロキシ安息香酸ブチルを8.0g添加した点を除き、実施例4と同様の手順で紙用塗料を製造し、紙製品を製造した。
【0054】
[評価]
(耐水性)
実施例1〜5で製造した紙製品及び未処理の「コートボール紙」の表面に、水道水0.2mLを滴下し、内部まで染み込むまでの時間を計測した。この結果を表1に示す。
【0055】
(耐油性)
実施例1〜5で製造した紙製品及び未処理の「コートボール紙」の表面に、オリーブオイル0.2mLを滴下し、内部まで染み込むまでの時間を計測した。この結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示されるように、実施例1〜5の紙製品では、未処理の「コートボール紙」に比べてはるかに長い時間に亘り、水道水及びオリーブオイルの染込みが観察されなかった。よって、実施例1〜5で製造した紙用塗料によれば、耐水性及び耐油性を向上できることが確認された。
【0058】
(抗菌性)
実施例1〜5で得られた紙製品及び未処理の「コートボール紙」について、「JIS Z2801」に基づき、抗菌性の評価を行った。具体的には、まず、実施例1〜5の紙製品及び未処理の紙の各々を湿熱滅菌(121℃、15分間)した後、各紙(4cm×4cm)の片面に、所定量の黄色ブドウ球菌又は大腸菌を接種した。続いて、35℃にて24時間保持した後、各紙上の菌数を測定した。この結果を、表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示されるように、未処理の紙では、初期菌数に比べ保持後の菌数が増えていたが、実施例1〜5で得られた紙製品では、菌は検出されない程度まで減少していた。よって、実施例1〜5の紙用塗料によれば、抗菌性を向上できることが確認された。
【0061】
(防カビ性)
実施例1〜5で得られた紙製品及び未処理の「コートボール紙」について、「JIS Z2911」に基づき、防カビ性の評価を行った。具体的には、まず、実施例1〜5の紙製品及び未処理の紙の各々を湿熱滅菌(121℃、15分間)した後、各紙(4cm×4cm)を無機寒天培地上に載置した。続いて、各紙の表面に一定量のカビを噴霧し、35℃で4週間保持した後、各紙上のカビの増殖状態を観察した。この結果を以下の基準で評価し、表3に示す。
評価基準
×:菌糸の発育が肉眼で認められ、菌糸が紙の表面全体を覆っている
○:菌糸の発育が肉眼及び顕微鏡下で認められない
【0062】
【表3】

【0063】
表3に示されるように、未処理の紙や実施例1〜3ではカビが増殖していたのに対し、実施例4〜5ではカビの増殖が観察されず、防カビ性が大幅に向上していることが分かった。これにより、パラヒドロキシ安息香酸エステルによって防カビ性を飛躍的に向上できることが確認された。
【0064】
<変形例>
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0065】
例えば、塗布手順は、平らな表面を有し且つこの表面に紙用塗料が付着された印刷用ロールに、紙表面を接触させる手順であることが好ましい。印刷用ロールに接触された紙表面に、ロール表面に付着した紙用塗料が転写される。このように、紙用塗料が無駄なく使用されるため、経済的である。また、平らな表面に紙用塗料を付着することで、ロールに接触された全表面に紙用塗料が転写される。よって、耐水性、耐油性、及び抗菌性をより向上できる。
【0066】
ここで、「平らな表面」とは、印刷用の凹凸の形成が行われていない表面を指す。また、「接触」の方式は、特に限定されないが、例えば、印刷用ロールに圧着されながら紙を通す方式であってよい。
【0067】
また、硬化手順は、100〜120℃の熱風中で行われることが好ましい。硬化方式として最も広く使用されている熱風乾燥を採用することで、製造ラインの新設、変更の必要がなく、経済的である。ただし、熱風温度は、低すぎると硬化が不充分となる一方、高すぎると紙に損傷を与えるおそれがある。そこで、100〜120℃の熱風中で硬化を行うことで、紙に与える損傷を抑制でき且つ充分に硬化できる。
【0068】
また、硬化手順は、60〜240秒間行われることが好ましい。熱風中での処理時間は、短すぎると硬化が不充分となる一方、長すぎると紙に損傷を与えるおそれがある。そこで熱風中での処理時間を60〜240秒間とすることで、紙に与える損傷を抑制でき且つ充分に硬化できる。
【0069】
更に、紙用塗料の塗布後の紙は6〜12時間程度、暗所で保存することが好ましい。これにより、膜が充分に硬化し、上述したような効果をより発揮できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙の表面に塗布される紙用塗料であって、
シェラック樹脂と、銀ゼオライトと、以下の一般式(1)で示される化合物を含む分散剤と、を含有する紙用塗料。
【化1】

・・・・(1)
(式中、R及びRは、同一又は異なってよいメチル基又はエチル基であり、R及びRは、同一又は異なってよい直鎖又は分岐のアルキル基であり、m及びnは、同一又は異なってよい100以下の自然数である。)
【請求項2】
一般式(1)におけるm又はnは、4以上である請求項1記載の紙用塗料。
【請求項3】
パラヒドロキシ安息香酸を更に含有する請求項1又は2記載の紙用塗料。
【請求項4】
エタノールに分散されている請求項1から3いずれか記載の紙用塗料。
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載の紙用塗料が紙の表面に塗布された紙製品。
【請求項6】
請求項5記載の紙製品で形成された紙製包装容器。
【請求項7】
紙の表面に塗布される紙用塗料の製造方法であって、
シェラック樹脂の溶液に以下の一般式(1)で示される化合物を含む分散剤、及び銀ゼオライトを添加する手順を有する製造方法。
【化2】

・・・・(1)
(式中、R及びRは、同一又は異なってよいメチル基又はエチル基であり、R及びRは、同一又は異なってよい直鎖又は分岐のアルキル基であり、m及びnは、同一又は異なってよい100以下の自然数である。)
【請求項8】
一般式(1)におけるm又はnは、4以上である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記分散剤を添加した後、銀ゼオライトを添加する請求項7又は8記載の製造方法。
【請求項10】
パラヒドロキシ安息香酸を添加する手順を更に備える請求項7から9いずれか記載の製造方法。
【請求項11】
前記シェラック樹脂の溶液はエタノール溶液である請求項7から10いずれか記載の製造方法。
【請求項12】
紙製品の製造方法であって、
請求項1から4いずれか記載の紙用塗料を紙表面に塗布する塗布手順と、
前記紙用塗料を硬化させる硬化手順と、を含む製造方法。
【請求項13】
前記塗布手順は、紙表面に印刷処理を行う印刷手順の後に行われる請求項12記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−30192(P2009−30192A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193660(P2007−193660)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(592167411)香川県 (40)
【出願人】(397034316)株式会社丸善 (6)
【Fターム(参考)】