説明

耐水性記録用紙

【課題】環境に優しく、耐水性を有し、且つ、浸水状態での鉛筆、ボールペンによる筆記性を有する耐水性記録用紙を提供する。
【解決手段】パルプ繊維から成る紙を基材とし、該基材の情報記録面に耐水性の塗工層を有する耐水性記録用紙において、塗工層が、合成ゴムを含む接着剤成分と脂肪酸エステルとを含む塗料中に、塗料全体を100重量部としたとき、シラノール基によって被覆処理を施した、平均粒子径が3〜15μmである顔料が10〜30重量部と、架橋剤が1重量部以上配合された塗料で構成され、基材の少なくとも片面に塗料を4〜20g/m2塗工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性と筆記適性を兼ね備えた耐水性記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、野外などで使用される地図やスケッチ用紙、情報記録紙用途としては、その耐水性、耐油性、浸水時の用紙強度などの耐候性を求められる理由から樹脂延伸フィルムからなる合成紙が広く用いられてきた。しかし、樹脂延伸フィルムからなる合成紙は、上記のような長所を有すると同時に石油化学製品であることからリサイクルが困難であり、従来焼却処分や埋立て処分が必要なため環境負荷が大きく、また、情報の記録、追記の際において一般的に使用されるヒートロールタイプの電子プリンターでは、定着部の高熱(約200℃)により通紙時のカール、溶融、搬送不良を生じてしまうという短所を併せ持っていた。
そこで近年、野外などで使用される耐水性記録用紙として、紙基材をベースとして塗料が塗工されたものや、紙基材に樹脂フィルムを貼り合せた耐水性記録用紙が用いられるようになった(例えば、特許文献1参照)。
これらの記録用紙は、紙を基材とするため、ヒートロールタイプの電子プリンターやレーザープリンターでの100度を越えるトナー熱定着処理においても用いることが出来、その用途の広さが注目されており、紙基材と塗工層もしくは樹脂フィルムとの組合せにて構成されているため、容易に分離・剥離することが可能であり、リサイクルできる商品などとして販売され、合成紙との差別化が図られている。
【特許文献1】特開2003−191401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、耐水性記録用紙に求められる要求品質である、屋外での使用におけるボールペンや鉛筆筆記性、特に雨水等により耐水性記録用紙が湿潤した状態、所謂浸水状態での筆記性を満足するまでには至っていなかった。これら紙基材をベースにしたものにおいても、環境に優しく、「用紙を浸水し、乾燥させた後の形状変化が少ない」「レーザー印刷機で印刷できる」という特徴を有するものの、耐水紙表面へのボールペン、鉛筆による筆記性、特に浸水状態での筆記性は殆どなく、記録用紙としては十分な機能を果たせないケースがあった。
また、簡便にフルカラー印刷を可能にしたインクジェットプリンタによる印字適性も求められており、水性のインクジェットプリンターインクの定着性にも適合した耐水記録紙が求められている。
【0004】
そこで、本願発明の目的は、環境に優しく、耐水性を有し、且つ、浸水状態での鉛筆、ボールペンによる筆記性を有する耐水性記録用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、パルプ繊維から成る紙を基材とし、該基材の情報記録面に耐水性の塗工層を有する耐水性記録用紙において、前記塗工層が、合成ゴムを含む接着剤成分と脂肪酸エステルとを含む塗料中に、前記塗料全体を100重量部としたとき、シラノール基によって被覆処理が施された、平均粒子径が3〜15μmである顔料が10〜30重量部と、架橋剤が1重量部以上配合された塗料で構成され、前記基材の少なくとも片面に前記塗料が4〜20g/m2塗工されていることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の耐水性記録用紙において、前記架橋剤が5重量部以下であることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の耐水性記録用紙において、前記顔料に、少なくとも炭酸カルシウムが含まれることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の耐水性記録用紙において、前記塗料が前記基材の両面に塗工されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、合成ゴムを含む接着剤の中に脂肪酸エステルと架橋剤が含まれることによって、脂肪酸エステル中のカルボキシル基と架橋剤が反応し、三次元構造を形成することにより、耐水性記録用紙が、耐水性 、耐溶剤性を備え、密着性に優れた光沢の良い塗膜を備えることとなる。
これにより、水や溶剤に対する耐性が向上し、野外や浸水状態であっても耐水性記録用紙が変形したり、破れたりすることなく使用することができる。
さらに、平均粒子径3〜15μmのシラノール基によって被覆処理が施された顔料を塗料全体に対して10〜30重量部含有することにより、シラノール基を介在して塗膜成分と顔料の親和性が高まり、紙基材に塗工された塗料によって形成された塗膜表面に均等な顔料による微細な凹凸を形成するため、ボールペンではスリップが生じず、鉛筆では適度な摩擦が得られることにより、浸水状態であっても筆記用具での筆記が可能となる。また、シラノール基は、インクジェットプリンタ用インクの定着性に優れるため、インク乾燥後に浸水状態下にあっても、記録情報が判読不良となることを回避することができる。
その上、低生分解能の樹脂等を用いることなく、生分解能の高いパルプ繊維からなる紙を基材として用いることにより、環境に優しい耐水性記録用紙を実現することができる。
さらに、塗料を4〜20g/m2塗工することによって、好適な耐水性と筆記特性に併せて、高い生産性(操業性)を実現することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果である筆記適性が得られるのは無論のこと、耐久性や耐溶剤性を向上させる架橋剤が、多くとも5重量部、即ち、配合量に見合った適切な効果が発揮されるだけ配合されるため、良好な生産性が得られる。
架橋剤の過剰な配合はコストアップになるだけでなく、塗料粘度を高くする問題があり、塗膜形成の操業性悪化を招くことになる。塗料粘度の上昇は、顔料の塗料成分中での分散性を悪化させる原因にもなり、塗工層表面の顔料による微細な凹凸の生成が損なわれ、ボールペンにおけるスリップ、鉛筆では摩擦低下による筆記不良を生じさせる原因にもなるからである。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果が得られるのは勿論のこと、特に、顔料として、表面にシラノール基の電気的な2重層を形成しやすく、塗膜成分との親和性に優れる炭酸カルシウムが含まれることによって、紙基材に塗工された塗料によって形成された塗膜の連続性を向上させ、良好なインクジェットプリンタ適性(インク定着性)を実現することができる。
また、炭酸カルシウムは、高白色度であって、廉価であるため、塗料の白色度を高めつつも、安価な塗料とすることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3に記載の発明の効果が得られるのは無論のこと、特に、基材が、塗料によって形成される塗工層によって上下から挟み込まれた構造をとることとなり、これにより、パルプ繊維から成る紙である基材が表面に露出することがなくなるため、当該基材に難解離性物質を配合することなく浸水時における断裁面の波打ちを防ぐことが出来る
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の耐水性記録用紙は、パルプ繊維からなる紙によって形成される基材(以下、「紙基材」という。)と、この紙基材の情報記録面の両面に耐水性の塗料が塗工されることにより形成された塗工層と、を備えて構成されている。
ここで、情報記録面とは、耐水性記録用紙として、情報を記録可能な面を意味する。
(紙基材)
紙基材に用いられる原料は、例えば、古紙パルプ(DIP)、化学パルプ(例えば、広葉樹クラフトパルプ:LBKP、針葉樹クラフトパルプ:NBKPなど)、機械パルプ(例えば、サーモメカニカルパルプ:TMP、プレッシャライズドグランドパルプ:PGW、リファイナーグランドパルプ:RGP、グランドパルプ:GP等)や、ケナフ、バガス、麻、コットンなどの非木材パルプなどであるが、あらゆるパルプ原料を用いることができる。
紙基材を再資源化することにより、紙基材の解離分散性が低下するが、耐水性を向上させる耐水化剤を適宜添加することにより、耐水性記録用紙としての耐候性及び保存性を向上させることができる。
【0014】
塗工層は、塗料100重量部中に、合成ゴムを含む接着剤成分と、脂肪酸エステルと、平均粒子径が3〜15μmである少なくとも1種類以上の顔料を10〜30重量部と、架橋剤1〜5重量部を配合してなる塗料を、紙基材の両面に4〜20g/m2ずつ塗工することにより形成される。
また、塗料には、適宜、界面活性剤、表面サイズ剤が添加される。
【0015】
(合成ゴム)
合成ゴムは、顔料同士を結合し、顔料を紙基材に接着するためのバインダーとして配合される。合成ゴムとしては例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレンアクリル、アクリルアミド、アクリロニトリルなどを用いることができる。また、スチレン・ブタジエン(SBR)やアクリロニトリル・ブタジエン(NBR)、ブタジェン(BR)などの合成ゴム系エマルジョンおよび、ポリビニルアルコール(PVA)などを適宜併用しても良い。この中で、合成ゴム系エマルジョンとしてスチレン・ブタジエン系エマルジョンあるいはアクリロニトリル・ブタジエン系エマルジョンを使用したものが、印刷インキ受理性、表面強度、耐刷力、耐ブロッキング性、耐熱性、顔料の固着性などを向上し、カチオン性樹脂の湿し水への溶出を抑制させるのでより好ましい。
アクリル系合成ゴムのガラス転移点は−40〜35℃の範囲が好ましい。−40℃を下回ると耐油性、耐水性は良好であるが、熱により形状変化を起こしやすくなるので、紙基材の搬送性が悪くなってしまうとともに、塗膜の遅粘性が増し剪断しにくくなるため離解性が悪くなるからである。一方、35℃を上回ると、離解性は良くなるが、造膜性が悪くなるため耐油性、耐水性が悪くなってしまうからである。
また、顔料100重量部に対する合成ゴムの配合量は200〜800重量部であることが好ましい。合成ゴムの配合量が200重量部未満では顔料の固着性が弱く、粉落ちを生じるからであり、800重量部を超えると顔料が完全に被覆されかつ平坦すぎてボールペンでスリップを生じるからである。
【0016】
(脂肪酸エステル)
脂肪酸エステルが有するカルボキシル基は、塗料に配合されている架橋剤と反応して三次元構造を形成する。この三次元構造より、接着剤の強度が向上することとなって、塗工層が耐水性、耐溶剤性を有することとなる。塗工膜が耐水性及び耐溶剤性を有することによって、浸水状態や野外などでも好適に使用することが出来る。
塗料中の脂肪酸エステルの配合量は、合成ゴム100重量部に対して、2.5〜8重量部が好ましい。この配合量が2.5重量部未満では、架橋剤との反応性が低く、接着剤強度が得られず、一方、配合量が8重量部を超えると、架橋剤に対して過剰となり、耐水強度の向上は頭打ちの状態となるからである。
【0017】
(顔料)
表面をシラノール基によって被覆処理が施された顔料を配合することによって、塗工層表面の筆記具に対する摩擦性が得られる。即ち、塗膜の連続性が上がり、耐水性、耐溶剤性が向上するのみならず、印刷適性、画像再現性を備えることとなる。耐水性、耐溶剤性が向上することによって、浸水時や野外において好適に使用することが出来るのみならず、印刷適性や画像再現性を備えることとなって、プリンター適性をも向上させることとなる。
シラノール基により被覆処理される顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、石膏、タルク、カオリン、クレー、焼成カオリン、ホワイトカーボン、非晶質シリカ、デラミカオリン、ケイソウ土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等の無機顔料を単体若しくは2種類以上併用して用いることが出来る。
ここで、無機顔料の含有量を、塗料全体を100重量部として、下限を10重量部としたのは、これを下回ると塗工層表面の摩擦性が得られないからであり、一方、上限を30重量部としたのは、これを上回ると平坦性が悪化して画線の鮮明さが得られないためである。
また、この配合量において、顔料の平均粒子径を3〜15μmとしたのは、3μm以下では配合量30重量部においても、摩擦性が得られないからであり、一方、15μm以上では配合量が10重量部であっても、画線の鮮明さが得られないためである。
無機顔料としては、炭酸カルシウムが最も好ましく、本実施形態においては、シラノール基による表面処理が容易である軽質炭酸カルシウムを単体で用いた。
【0018】
(架橋剤)
架橋剤を配合することによって、塗工層が耐水性、耐溶剤性を有し、密着性に優れる光沢の良い塗膜が得られることとなる。耐水性、耐溶剤性を有することによって浸水時や野外においても好適に使用することが出来るのみならず、密着性にすぐれる塗膜が形成されることによって、プリンター適性を向上させることが出来る。
架橋剤としては、ポリアクリルアミド系、ポリエチレンイミン系、ポリアミドポリアミン系、エポキシ化ポリアミドポリアミン系などを用いることが出来る。
塗料における架橋剤の配合量は、脂肪酸エステル100重量部に対して、20〜250重量部である。この配合量が20重量部未満では十分な耐水性が得られず、250重量部を超えると添加量に見合った耐水性の向上が見られないからである。
また、塗料全体を100重量部とした場合、架橋剤の含有量は1重量部以上である。より好ましくは、100重量部の塗料に対して、1重量部以上であって、5重量部以下である。架橋剤の下限を1重量部としたのは、これを下回ると耐水性が低下するからであり、上限を5重量部としたのは、これを上回ると、耐水性に対するの架橋剤の効果が頭打ちとなるため、操業性が低下してしまうからである。
【0019】
(界面活性剤)
界面活性剤を配合することにより、柔軟性や平滑性が向上し、帯電防止効果を備えることとなる。静電気の発生を防止することにより、プリンターにおける用紙搬入時のトラブルを防ぐこととなり、プリンター適性を向上させることが出来る。
界面活性剤の原料としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤の中から適宜選択して用いることができ、特にアニオン界面活性剤が好適である。
アニオン性親水基を持つアニオン界面活性剤としては、カルボン酸塩系、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、燐酸エステル塩系などを単体若しくは2種類以上用いることができる。特にアルキル燐酸エステル塩が好ましい。
【0020】
ノニオン界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノステアレート又はジエチレングリコールモノオレエートなどを用いることが出来る。
カチオン界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩、アミン塩、またはアミンなどを用いることが出来る。
また、両性イオン界面活性剤としては、カルボキシ、スルホネート、サルフェートを含有する第2級または第3級アミンの脂肪族誘導体、または複素環式第2級または第3級アミンの脂肪族誘導体などを用いることが出来る。
【0021】
(表面サイズ剤)
表面サイズ剤を配合することによって、印刷時における高いトナー定着性とインキセット性を備えることとなる。印刷時における高いトナー定着性とインキセット性を備えることによって、プリンター適性を向上させることが出来る。
表面サイズ剤としては、スチレンアクリレート系を使用することができる。本発明において表面層に使用する表面サイズ剤としては、例えば、溶液タイプ、あるいはエマルジョンタイプのものである。表面サイズ剤の添加量の下限は0.5重量部とすることが望ましい。これを下回ると、トナー定着性、印刷特性に対して効果が認められないからである。
【0022】
(耐水性)
本発明の耐水性記録用紙は、JIS P 8140の吸水度試験方法(コッブ法)に準じた2分後の吸水量が5.0g/m2以下である。
かかる範囲とした理由は、吸水量が5.0g/m2を越えると紙面の波打が大きくなるため、耐水性を必要とする条件での使用に際して、支障を生ずる可能性があるからである。
【0023】
(塗料の塗工量)
塗料の塗工量は、4〜20g/m2である。塗工量が4.0g/m2を下回ると、紙基材表面を被覆することができず、耐水性、筆記適性が得られないからである。
また、塗料の塗工量が20.0g/m2を上回ると、塗工量に見合った耐水効果が得られないだけでなく、製造工程において乾燥性が悪化し、生産性が低下するからである。
【0024】
以上に説明した耐水性記録用紙によると、塗料の中に、合成ゴムを含む接着剤成分と脂肪酸エステルと架橋剤が含まれることによって、脂肪酸エステル中のカルボキシル基と架橋剤が反応し、三次元構造を形成することにより、耐水性記録用紙が、耐水性 、耐溶剤性を備え、密着性に優れた光沢の良い塗膜を備えることとなり、水や溶剤に対する耐性が向上し、野外や浸水状態であっても耐水性記録用紙が変形したり、破れたりすることなく使用することができる。
また、平均粒子径3〜15μmのシラノール基によって被覆処理が施された顔料を塗料全体に対して10〜30重量部含有することにより、シラノール基を介在して塗料成分と顔料の親和性が高まり、塗膜表面に均等な顔料による微細な凹凸を形成するため、ボールペンではスリップが生じず、鉛筆では適度な摩擦が得られることにより、浸水状態であっても筆記用具での筆記が可能となる。また、シラノール基は、インクジェットプリンタ用インクの定着性に優れるため、インク乾燥後に浸水状態下にあっても、記録情報が判読不良となることを回避できる。
さらに、生分解能の低い樹脂等を用いることなく、生分解能の高いパルプ繊維からなる紙を基材として用いることにより、環境に優しい耐水性記録用紙を実現することができる。
そして、塗料を4〜20g/m2塗工することによって、好適な耐水性と筆記特性に併せて、高い生産性を実現することができる。
その上、顔料の主成分に、表面にシラノール基の電気的な2重層を形成しやすく、塗膜成分との親和性に優れる軽質炭酸カルシウムを用いることによって、紙基材に塗工された塗料によって形成された塗膜の連続性が向上し、良好なインクジェットプリンタ適性(インク定着性)を確保することができのみならず、軽質炭酸カルシウムは、高白色度であって、廉価であるため、塗料の白色度を高めつつ、安価な塗料とすることができる。
また、塗工層が紙基材の両面に設けられることによって、紙基材が、塗工層によって上下から挟み込まれた構造をとることとなり、これにより、パルプ繊維から成る紙である紙基材が表面に露出することがなくなるため、当該紙基材に難解離性物質を配合することなく浸水時における断裁面の波打ちを防ぐことが出来る。
以下に、本実施の形態の耐水性記録用紙の実施例及び比較例について述べる。
[実施例]
【0025】
以下の各成分を、その配合(単位;重量部)を変化させて複数の塗料を生成した。
各成分は、合成ゴムを含む接着剤成分(東永産業製/プレトップDS3−A(商品名))、脂肪酸エステル成分(日新化学工業製/TN−103(商品名))、架橋剤成分(日本軽金属製/ベイコート40(商品名))、顔料成分(米庄石灰製/TB−113(商品名))およびその他成分である。
各成分の配合および塗工量を表1に示すように変化させて、実施例1〜9に係る試料を作成した。
[比較例]
【0026】
実施例と同様の成分を用いて、各成分の配合および塗工量を表1に示す通りに変化させ、比較例1〜9に係る試料を作成した。
【表1】

[耐水性]
【0027】
次に、表1に示した各試料について、耐水性の試験を行った。耐水性試験は、JIS P8140の吸水度試験方法(コッブ法)に準じて実施し、判断は下記基準に準じた。
○:2分後の吸水量が5.0g/m2以下
×:2分後の吸水量が5.0g/m2を上回る
結果を表1に示した。
[筆記適性]
【0028】
筆記適性は、水を入れたバットにサンプルを浸漬し、10秒後に水中にて鉛筆(三菱鉛筆(株) No.9800 HB(商品名))およびボールペン(三菱鉛筆(株) SA−S(商品名))で筆記した時の筆記状態を官能評価した。判断は下記基準に準じた。
○:問題なく筆記できた。
△:カスレ等による筆記不良が発生した。
×:筆記が不可能であった。
結果を表1に示した。
【0029】
表1に示した結果より、架橋剤成分が1重量部を下回る場合(0.5重量部;比較例1)には、塗料を塗工した記録用紙の耐水性が低下し、5重量部を上回る場合(6重量部;比較例2)には、操業性が悪くなった。
また、顔料成分が10重量部を下回る場合(8重量部;比較例3)には、塗工層表面の摩擦性が得られないためにボールペンによる筆記適性が低下し、30重量部を上回る場合(33重量部;比較例4)には、塗工層の平坦性が低下して画線の鮮明さが得られないために鉛筆およびボールペンによる筆記適性が低下した。
さらに、顔料の粒径が3μmを下回る場合(2μm;比較例5)には、摩擦性が得られないことによって鉛筆による筆記適性がやや低下し、また、ボールペンによる筆記適性が低下した。一方、顔料の粒径が15μmを上回る場合(17μm;比較例6)には、画線の鮮明さが得られないために鉛筆およびボールペンによる筆記適性がともにやや低下した。
紙基材に塗工する塗料の量が4gを下回る場合(3g;比較例7)には、紙基材表面を被覆することができないため、耐水性および筆記適性が低下し、20gを上回る場合(25g;比較例8)には、製造工程において、乾燥に時間がかかるのみならず、操業性が低下し、さらに塗工量を増やすと(28g;比較例9)、その傾向が著しく確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維から成る紙を基材とし、該基材の情報記録面に耐水性の塗工層を有する耐水性記録用紙において、
前記塗工層が、合成ゴムを含む接着剤成分と脂肪酸エステルとを含む塗料中に、前記塗料全体を100重量部としたとき、シラノール基によって被覆処理が施された、平均粒子径が3〜15μmである顔料が10〜30重量部と、架橋剤が1重量部以上配合された塗料で構成され、
前記基材の少なくとも片面に前記塗料が4〜20g/m2塗工されていることを特徴とする耐水性記録用紙。
【請求項2】
請求項1に記載の耐水性記録用紙において、前記架橋剤が5重量部以下であることを特徴とする耐水性記録用紙。
【請求項3】
請求項1または2に記載の耐水性記録用紙において、前記顔料に、少なくとも炭酸カルシウムが含まれることを特徴とする耐水性記録用紙。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の耐水性記録用紙において、前記塗料が前記基材の両面に塗工されていることを特徴とする耐水性記録用紙。

【公開番号】特開2006−169685(P2006−169685A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366002(P2004−366002)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】