説明

耐浸炭性及び高温強度に優れた浸炭処理用金属複合パイプ

【課題】耐浸炭性,高温強度の何れの特性も良好で、細管且つ長尺管にも適用可能な浸炭処理用金属複合パイプを提供する。
【解決手段】浸炭処理用金属複合パイプ10を、母管12の外面に母管12とは異なった化学組成の耐浸炭性の高い合金の第1肉盛溶接層14を積層形成するとともに、第1肉盛溶接層14の更に外面にそれら母管12及び第1肉盛溶接層14とは異なった化学組成の高温強度を有する合金の第2肉盛溶接層16を積層して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐浸炭性及び高温強度に優れた浸炭処理用金属複合パイプに関し、特に浸炭炉の内部に炉心管として配設され、内部に浸炭用ガスを流して浸炭雰囲気とした状態で被処理材としての金属線材を内部に通してこれを浸炭処理するためのパイプに用いて好適な金属複合パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浸炭炉の内部の炉心管として浸炭処理用パイプ(以下単にパイプとする)を配設し、その内部にエチレンガス等の浸炭用ガスを流して浸炭雰囲気とするとともに、パイプ内に被処理材としての金属線材を連続的に通してこれを浸炭処理することが行われている。
このパイプを用いた浸炭処理では、浸炭炉内を真空引きして減圧状態となすとともに加熱によって浸炭炉内部を高温状態とし、そしてパイプ内部に浸炭用ガスを供給して金属線材を連続的に浸炭処理する。
【0003】
従来、この種用途に向けたパイプは提供されておらず、そこでパイプとして比較的耐食性の良好なJIS SUS310S等のステンレスから成るパイプを用いることが考えられる。
しかしながらステンレスから成るパイプは耐浸炭性が十分でなく、使用中にパイプ自体が浸炭を受けてしまって炭素がパイプ表面から内部に拡散浸透してしまう。
而してこのような浸炭がパイプ自体に生ずるとパイプの脆化がもたらされたり、耐食性が低下して腐食が進行するなどパイプの劣化が促進されてしまい、パイプが早期に寿命に達してしまう。
パイプが寿命に達するとその交換が必要となるが、その交換には多大の手間と時間とを要し、更にその間浸炭処理の中断を余儀無くされてしまう。
従ってパイプは長寿命を有することが求められる。
【0004】
またパイプは浸炭炉の内部で850℃以上の高温に晒されるが、ステンレス製のパイプはこれに耐え得るだけの高温強度を有しておらず、高温強度不足により使用中に曲がりを生ずる恐れがある。
この場合その内部の金属線材がパイプの内面に接触してしまう問題を生ずる。
【0005】
その対策として、ステンレス製のパイプを母管としてその内面に母管よりも耐浸炭性の高い合金の肉盛溶接層を積層形成することが考えられる。
因みにこのように母管の内面に耐浸炭性の高い合金の肉盛溶接層を積層形成する点については下記特許文献1,特許文献2,特許文献3等に開示されている。
しかしながら母管内面への肉盛溶接層の形成は、母管の内径が大きい場合には可能であるものの内径の小さい母管の場合(例えば内径が40mm以下の細管の場合)、実際上これを行うことができない。
【0006】
この肉盛溶接層の形成手法としてプラズマ粉末溶接法を好適に用い得るが、プラズマ粉末溶接法の場合溶化材として粉末を用いることからワイヤを溶化材として用いる溶接手法に比べて内径のより小さい母管に対しても内面への肉盛溶接が可能である。
しかしながら浸炭処理用として用いられる上記パイプは内径が40mm以下の細管である場合があり、この場合かかるプラズマ粉末溶接法によっても内面への肉盛溶接は実際上行うことができない。
【0007】
加えてこの浸炭処理用のパイプは長さが1000mm以上の長いもの(例えば10m)である場合があり、例え内径がある程度大きい場合であってもそのような長尺の母管の内面に肉盛溶接を行うこと自体も著しく困難である。
また仮に母管よりも耐浸炭性の高い合金の肉盛溶接層を形成し得たとしても高温強度が不足する問題は依然として残る。
【0008】
そこでステンレス製の母管に代えてHP材等の市販の耐熱管を母管として適用することが考えられるが、この耐熱管は遠心鋳造管であり、かかる遠心鋳造では内径が40mm以下の径の小さい細管を製造することは困難で、従って母管自体を高耐熱性とすることもまた実現困難である。
【0009】
【特許文献1】特開2001−113389号公報
【特許文献2】特開2003−001427号公報
【特許文献3】特開2004−149856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような事情を背景とし、耐浸炭性,高温強度の何れの特性も良好で、細管且つ長尺管にも適用可能な浸炭処理用金属複合パイプを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
而して請求項1のものは、金属母管の外面に該母管とは異なった化学組成の耐浸炭性の高い合金の第1肉盛溶接層を積層形成するとともに、該第1肉盛溶接層の更に外面に、それら金属母管及び第1肉盛溶接層とは異なった化学組成の高温強度を有する合金の第2肉盛溶接層を積層して成ることを特徴とする。
【0012】
請求項2のものは、請求項1において、前記第1肉盛溶接層及び第2肉盛溶接層がプラズマ粉末溶接法にて形成されたものであることを特徴とする。
【0013】
請求項3のものは、請求項1又は請求項2において、内径が40mm以下の細管であることを特徴とする。
【0014】
請求項4のものは、請求項1又は請求項2において、長さが1000mm以上の長尺管であることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0015】
以上のように本発明は、金属母管の外面に耐浸炭性の高い合金の第1肉盛溶接層を積層形成するとともに、更にその外面に高温強度を有する合金の第2肉盛溶接層を積層して浸炭処理用金属複合パイプと成したものである。
かかる本発明によれば、浸炭処理用金属複合パイプに耐浸炭性と高温強度の両特性を付与することができる。
これにより浸炭処理用パイプの寿命を高寿命化し得、従来その交換に要していた手間と時間とを節減することができ、また浸炭処理操業の中断時間を少なくすることができる。
【0016】
本発明の金属複合パイプを用いて浸炭処理を行った場合、最内層の母管が浸炭を受けて次第に劣化して行くのを避けられない。
但しその外面には耐浸炭性の第1肉盛溶接層が形成されているため、この第1肉盛溶接層によってそれ以上の浸炭が食い止められる。
またこの耐浸炭性の第1肉盛溶接層は必要な高温強度を有していないが(耐浸炭性の材料で高温強度を有するものは現在知られていない)、高温強度は第1肉盛溶接層の外面の第2肉盛溶接層にて確保されるため、金属複合パイプが高温に長時間晒されても曲がりが生ずるのが防止され、内部の被処理材が金属複合パイプ内面に接触してしまうといった不具合の発生を防止することができる。
尚、最内層の母管については場合によってこれを削り取って除去するようにしても良い。
【0017】
本発明において、上記第1肉盛溶接層及び第2肉盛溶接層はプラズマ粉末溶接法にて形成したものとなしておくことができる(請求項2)。
このように第1肉盛溶接層及び第2肉盛溶接層を溶化材として粉末を用いたプラズマ粉末溶接法にて形成することで、それぞれの溶接層を容易に最適の成分組成を有するものとして形成しておくことができる。
【0018】
本発明は、特に内径が40mm以下の細管から成るパイプに適用して効果の大なるものであり(請求項3)、また長さが1000m以上の長尺管から成る金属複合パイプに適用して効果の大なるものである(請求項4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図1において、10は本実施形態の浸炭処理用金属複合パイプ(以下単に金属複合パイプとする)で、図中12は母管であり、その外面に母管12とは異なった化学組成の耐浸炭性の高い合金から成る第1肉盛溶接層14が積層形成され、更にその外面にそれら母管12,第1肉盛溶接層14とは異なった化学組成の高温強度を有する合金の第2肉盛溶接層16が積層形成されている。
本実施形態において、金属複合パイプ10は内径Dが28.4mm,外径Dが42mmの細管で、長さが10mのものである。
【0020】
ここで第1肉盛溶接層14及び第2肉盛溶接層16のそれぞれはプラズマ粉末溶接法(PPW法)にて形成されている。
このプラズマ粉末溶接法は、熱集中の良好なプラズマを熱源とし、そのプラズマ中に粉末を溶化材として供給してこれを溶融させ、被溶接材に吹き付けて表面に溶着金属膜を形成する。
【0021】
母管12は、ここでは外径が34mm,肉厚が2.8mmのものである。
この母管12の材料としては各種のものを使用することが可能で、場合により炭素鋼を用いることも可能である。
但し炭素鋼の場合第1肉盛溶接層14を形成する際、母管12のFeが第1肉盛溶接層14に入り込んで第1肉盛溶接層14における母管12との境界部の耐浸炭性を低下せしめるから、かかる母管12としてはFe分の少ないステンレス鋼が望ましく、とりわけCrとNi量が多くFe分の少ないSUS310Sから成るものが望ましい。
この実施形態では母管12としてSUS310Sが用いられている。
このSUS310SにはCrが24〜26%(質量%,以下同じ),Niが19〜22%含まれている。
【0022】
例えば母管12として上記の炭素鋼を用いると、第1肉盛溶接層14における母管12との境界部でFeが多くなって耐浸炭性が損われるため、第1肉盛溶接層14の厚みを厚く形成することが必要となり、その分金属複合パイプ10の外径を大径化してしまう。
しかるに母管12としてSUS310Sを用いれば、第1肉盛溶接層14における母管12との境界部へのFeの溶け込みを抑制できるため、第1肉盛溶接層14の母管12との境界部での耐浸炭性を高く保持することができる。
従って第1肉盛溶接層14の肉厚を薄くでき、ひいては金属複合パイプ10の外径の大径化を防ぐことができる。
【0023】
第1肉盛溶接層14は、ここでは肉厚2mmで形成されている。
この第1肉盛溶接層14はCr含有のNi基合金から成っている。
この耐浸炭性の第1肉盛溶接層14の材料としてはCrを20〜49%,Niを35〜80%含有したものを好適に用いることができる。
特にこの実施形態では45Cr−Niから成る組成の合金が用いられている。
【0024】
一方、高温強度材から成る第2肉盛溶接層16は、ここでは第1肉盛溶接層14と同じく肉厚2mmで形成されている。
耐浸炭性を有する材料から成る第1肉盛溶接層14の場合、Cが耐食性にとって有害であるためその含有量が例えば0.1%以下に抑制されるが、その結果として第1肉盛溶接層14は高温強度の弱いものとなる。
第2肉盛溶接層16は高温強度を受け持つ層であることから、第1肉盛溶接層14に対してC含有量の多い材料が用いられる。
この高温強度を受け持つ第2肉盛溶接層16においても耐熱鋼として分類されている様々な材料を用いることが可能であるが、ここではCを0.35%含有するHP-Nb材(0.35C−25Cr−35Ni−Nb)が用いられている。
【0025】
以上のような本実施形態によれば、金属複合パイプ10に耐浸炭性と高温強度の両特性を付与することができる。
これにより浸炭処理用パイプの寿命を高寿命化し得、従来その交換に要していた手間と時間とを節減することができ、またその交換の際の浸炭処理操業の中断時間を少なくすることができる。
【0026】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば母管,第1肉盛溶接層,第2肉盛溶接層として上記例示した材料はあくまで一例示であり、それぞれに他の種々材料からなるものを用いることができる。
更に金属複合パイプ10の上記した寸法もまた一例示であり、他の種々寸法にて金属複合パイプ10を構成することが可能であるなど、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態である浸炭処理用金属複合パイプを示した図である。
【符号の説明】
【0028】
10 浸炭処理用金属複合パイプ
12 母管
14 第1肉盛溶接層
16 第2肉盛溶接層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属母管の外面に該母管とは異なった化学組成の耐浸炭性の高い合金の第1肉盛溶接層を積層形成するとともに、該第1肉盛溶接層の更に外面に、それら金属母管及び第1肉盛溶接層とは異なった化学組成の高温強度を有する合金の第2肉盛溶接層を積層して成ることを特徴とする耐浸炭性及び高温強度に優れた浸炭処理用金属複合パイプ。
【請求項2】
前記第1肉盛溶接層及び第2肉盛溶接層がプラズマ粉末溶接法にて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の耐浸炭性及び高温強度に優れた浸炭処理用金属複合パイプ。
【請求項3】
内径が40mm以下の細管であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐浸炭性及び高温強度に優れた浸炭処理用金属複合パイプ。
【請求項4】
長さが1000mm以上の長尺管であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐浸炭性及び高温強度に優れた浸炭処理用金属複合パイプ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−181841(P2007−181841A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380629(P2005−380629)
【出願日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)