説明

耐火・耐熱性膜材料

【課題】耐熱・耐火性を有し、熱曝露を受けた後も強度保持率が高くさらには折り曲げによる曲げ痕が残りにくい膜材料を提供する。
【解決手段】線径が300μm以下の金属線からなる面状の布帛の片面もしくは両面に無機物系フィラーを含む物質を積層してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火シャッター類、防炎垂れ壁、照明カバー類、内部照明式看板、火花受けシートなどに使用される耐火・耐熱性膜材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでの耐火・耐熱性に優れる膜材料は無機系繊維であるガラス繊維からなる布帛やシリカクロス(二酸化珪素を主成分とするガラス繊維布帛)または炭素繊維布帛など耐熱性に優れる繊維と樹脂の積層体が用いられている。
【0003】
これら膜材はフレキシブル且つ耐熱性を有することから、防火シャッター類、防炎垂れ壁、照明カバー類や、内部照明式看板、火花受けシートなど広く用いられている。
これまでの技術として防火シャッターは古くは鉄のシャッターなどが使用されているが、シャッターが閉まった状態での避難が困難なことやシャッターの降下の際に人が挟まれて死亡事故が起きるなどの問題から近年、特許文献1に開示されているように、ガラス繊維より耐熱性の高いシリカクロスに樹脂コーティングしたフレキシブルな膜材が防火シャッターとして使われている。フレキシブルな防火シャッターは非難が遅れた場合でも、シャッターを手で捲り上げ避難できる優位性のある商品である。
【0004】
また、これらの防火シャッター膜材はコーンカロリーメーター試験法での不燃性が求められているものの、概ねガラス繊維布帛類に樹脂コーティングした膜材が用いられる。
このガラス繊維布帛やシリカクロスを基材とした防火シャッター用膜材には改良すべき点が2点ある。第1点は火災の高温の熱暴露によって繊維の強度劣化が顕著に起こることにある。第2点は厚くて重いことがある。防火シャッター用膜材が厚くて重くなる理由はコーティング樹脂が焼失しても炎の通り抜けを防ぐために生地組織の密度を高くすることによる。また、熱曝露後の基材強度を維持するためでもある。よって、単位面積あたりの糸量を多くする織組織として綾織や朱子織などが用いられる。
【0005】
炎が抜け難く且つ薄く軽量な素材がであれば、防火シャッター全体の構造も低コストとなることになり望ましい。
耐火・耐熱性の膜材用途として防炎垂れ壁の分野がある。防炎垂れ壁は火災時に天井に溜まる煙を一時的に溜め避難を容易にする目的があり、一般的に金属繊維入りのガラス板が使用されている。これらは無論不燃性の素材であるが、重量が重く、且つ人の頭上1m以上高い天井に設置されている。
【0006】
このため地震の際の落下や経年劣化などによる落下を想定した場合、人災の原因となりうる問題を有し、且つ経済的には重いガラス板を保持するため工事費や材料費が高くなる経済的問題もある。
【0007】
これらの問題を解決するものとして、特許文献2に開示されているように、落下時の人災の危険性が少なく、不燃性であり透明性に優れる素材として、プリント基板などの加工技術を応用したガラス繊維布帛を用い屈折率を調整したものが知られている。この特許文献2には、熱硬化性樹脂などで構成される透明不燃性シートとその製造方法が示されている。この素材はガラス板を用いた従来の単位重量を10kgとした場合1.3kgと格段に軽量化されて且つ良好な透明性を持つ素材となっている。
【0008】
しかしながらガラス繊維の欠点として屈曲や曲げに対して弱い欠点があり、防炎垂れ壁は屋内に設置されるものであるが、空調風圧や出入り口に近い部分での外気の吹き込みなどによる風圧により、膜材の割れや、繊維の折れが起きるという問題や、施工時に皺が入ると屈曲部の皺跡が回復しないという問題を有している。
【0009】
そこで、防炎垂れ壁の用途において屈曲に対し膜材の割れや、繊維の折れが起きず、屈曲部に皺が残らないものが望まれている。
次に、照明カバー類に関して、従来アクリル板成型品が多く用いられているが、火災や地震などの危機管理を考えたとき、アクリル板は極めて燃えやすく、割れるなどの問題があり安全面から適切ではない。
【0010】
近年、これらの問題を解決すべくガラス繊維やシリカクロスを基材とした積層体が使用されるようになった。この積層体はアクリル板の燃える、割れるの問題に対する優れた素材であるが、フレキシブルな素材でありながら、施工時の不本意な曲げが加わると、屈曲部位での光の透過状態が変わり、照明を通してこの部位の光線透過斑が発生し致命的欠点となるため、施工しにくい素材である。
【0011】
施工時の不本意な曲げによる光線透過斑が発生しにくく、燃えない、割れない素材が望まれている。
照明カバー類に近い用途として、内部照明式看板がある。内部照明式看板とは光透過性を有すカバー表面に文字、図形などを書き込み、夜間に照明点灯することにより、夜間でも鮮明に文字、図形を表示することができる看板類である。
【0012】
内部照明式看板も、従来のアクリル板から、合成繊維布帛と樹脂の積層体やガラス繊維布帛と樹脂の積層体が近年多用されてきている。これらの積層体を用いる理由は火災や地震などによる火災・割れ・落下などの危険を回避できる点にある。
【0013】
特に市街地ビルの袖看板では、建築基準法改正により不燃材であることが求められており、ガラス繊維に樹脂を積層した膜材が多用されている。これらの膜材料は火災・割れ・落下などの危険を回避可能な素材であり、アクリル板同様に光透過性を有する特長がある。
【0014】
しかしながら、照明カバー用途と同様に屈曲・曲げに対して曲げ痕が残りやすく且つ屈曲部の皺跡が回復しないという問題を有している。よって施工時の不本意な曲げ痕が残ると、屈曲部位での光の透過状態が変わり、照明を通して、この部位の光線透過斑が発生し致命的欠点となる。内部照明式看板においても屈曲に対し膜材の割れや、繊維の折れが起きず、屈曲部の光透過斑が出ないものが望まれている。
【0015】
以上のような防火シャッター類、防炎垂れ壁、照明カバー類や、内部照明式看板においては、防火上の問題からコーンカロリーメーター試験による評価基準が定められている。コーンカロリーメーター試験法はASTM E 1354 または建築基準法第2条第九号(不燃材料)の規程に示されており、HuggettおよびPaker(米国)の「多くの有機材料は燃焼時に消費する酸素の量1kgに対し13.1MJのエネルギーを発生し、その誤差は5%以内である」なる著名な理論に基づいた試験方法である。
【0016】
上記試験の概略は、100×100mm角の試料に対して25mmの距離より100kW/m2の均一な熱放射を与えて加熱すると同時に、高電圧火花を発生させて、試料から次第に発生する可燃性ガスを着火・燃焼させ、当該試料から所定時間内に発生する総発熱量、最高発熱速度、および試料の損傷を測定する。また、各測定値として総発熱量が8MJ/m2以下であることと加熱開始後20分以内に最高発熱速度が10秒間継続して200KW/m2を越えないことが規定されている。
【0017】
この試験では試料は700℃近いヒーター加熱を20分間受けるために、基材の多くはガラス繊維布帛が用いられる。熱曝露を受けた場合、コーティング樹脂類は焼失し且つ基材の劣化がはなはだしく劣化することが起きる。火災初期の防火基材としては適当であるが、熱曝露も基材強度を有す膜材が望まれる。
【0018】
さらに、ガラス繊維布帛は熱曝露を受けることを見込んで膜材設計されるため、厚みを厚くする、または、単位面積あたりの糸量を多くする織組織とするために光透過量を自由に変えられないのが現状である。
【0019】
他の、耐熱製に優れる繊維類としては鉱物繊維、グラスウール、炭素繊維、セラミックス繊維、有機高分子繊維などがあるが、コーンカロリーメーター試験法などの火災を想定した燃焼試験では700℃近いヒーター加熱を20分間実施するために強度低下が起きる。熱曝露後も十分な強度を有し、且つ光透過量を自由に変えられる膜材料が望まれる。
【0020】
特殊な、耐熱性膜材料が使用されているものとしては火花受けシートがある。この火花受けシートに使用されている膜材は溶接時の火花や「のろ」の飛散を防ぎ火災を防ぐ効果がある。この膜材を製造する方法としては、炭素繊維やガラス繊維布帛類に樹脂コーティングし、組織の小さな隙間から小さな火の粉の貫通を防ぐようにする方法や、特許文献3で示されるように150g/m2〜2000g/m2の目付の朱子織により織目をなくし小さな火の粉の貫通を防ぐようにする方法が採られている。この膜材は炭素繊維やガラス繊維布帛類を基材とするために重く不透明且つ光透過率の低いものとなる。
【0021】
使用用途から考えても火花受けシートに適度な光透過性があれば、シート下のものが判別でき未然に可燃性材料を除くことができるが、このような機能を有する火花受けシートが望まれている。
【0022】
以上のように、耐熱・耐火性を有しながら光透過性を有する膜材であって、熱曝露を受けた後も強度を有しさらには折り曲げによる曲げ痕が残りにくく、目的によってはコーンカロリーメーター法による評価基準を満たすような膜材料が望まれている。
【特許文献1】特開2001−79104号公報
【特許文献2】特開2005−319746号公報
【特許文献3】特開2004−339625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、耐熱・耐火性を有し、熱曝露を受けた後も強度保持率が高くさらには折り曲げによる曲げ痕が残りにくく、必要に応じコーンカロリーメーター法による評価基準を満たすような膜材料を開発することを目的として鋭意研究を種み重ねる過程で、金属細線からなる布帛に無機系フィラーを含む物質を積層した膜材が、これらの機能を満足することの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の請求項1に記載の耐火・耐熱性膜材料は、線径が300μm以下の金属線からなる面状の布帛の片面もしくは両面に無機物系フィラーを含む物質を積層してなることを特徴とする。
【0025】
請求項2に記載の耐火・耐熱性膜材料は、無機物系フィラーの含有量は72%〜5%であり、物質の量は1250g/m2〜30g/m2であることを特徴とする。
請求項3に記載の耐火・耐熱性膜材料は、無機物系フィラーは炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ベントナイトなどの鉱物性無機系材料あるいは水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどの難燃性を有する無機系材料あるいは変性粘土類成分であることを特徴とする。
【0026】
請求項4に記載の耐火・耐熱性膜材料は、無機物系フィラーを含む物質は合成樹脂や天然ゴムなどの高分子化合物であることを特徴とする。
請求項5に記載の耐火・耐熱性膜材料は、光透過率が70%以下であることを特徴とする。
【0027】
上記構成において、金属細線の線径は300μmより太い場合、布帛は織物や編物、不織布いずれにしても線径の2倍以上の厚みとなり、これらに樹脂加工を実施した場合、線のクリンプおよび積層物の厚みが加わり700μm近い厚みとなり膜材としての柔軟性が失われる問題がある。線径は膜材の強度を必要とする場合と厚みを薄くしたい場合によって選定されるが、線径の下限値は現状の製造技術且つ経済面から10μm程度が好ましい。
【0028】
金属の種類は特に限定しないが、鉄、アルミニウム、銅、ニッケルなどやこれらの合金類が望ましい。これらの金属または合金類を素材とした、ステンレス線、硬鋼線、ピアノ線、鉄線など、高強度且つ細線の製造が可能なものが好ましい。より好ましくは耐蝕性や引張強度および屈曲疲労性に優れていることからステンレス線が好ましい。なお、金属線の断面は特に円形にこだわらず異型断面でも問題ない。なお透明性や厚みを考えると、できるだけ線径は小さい方が好ましい。
【0029】
金属線はモノフィラメントやマルチフィラメントと呼ばれる細線を束にしたものが用いられる。マルチフィラメントは、曲げに対し柔軟性がある特長を有しているが、屈曲が加わった場合、束の組織が崩れ、この結果、正常部と比較して光線の反射状態が変わるために透光性を重要視しない用途に向く。
【0030】
特にステンレス繊維の場合、屈曲を受けるとその部分が硬化し疲労が一箇所に集中しない特長を持っている。一方、ガラス繊維布帛類は屈曲部に折れ癖がつきやすく、繰り返しの屈曲が加わると一部分に負荷が集中し破断、切断を起こしやすいのに対し、ステンレス繊維は屈曲を受けても破断、切断が起きない特長を有する。
【0031】
布帛の組織は、織物、編物、不織布などから選ばれるが、膜材の光透過性を高める場合には、布帛の開口率を容易に調整できる点と、製織のし易さなど品質や経済性の面から平織り組織が好ましい。
【0032】
開口率は線径と1インチ間の繊維本数である密度によって開口幅「開口幅=(1インチ÷インチ間の線数)−線径」が決定され、「開口率%=(開口幅の2乗÷(開口幅+線径)の2乗)×100」で表現されるものである。よって、線径とインチ間の線数により自由に設計できる点にある。
【0033】
本発明に用いられる金属線からなる面状の布帛の開口率は目的により異なるが、70+数パーセントが上限である。75%以上の開口率においても可能ではあるが、平織り組織の場合、目ズレ(経・緯の線間が外力により不均一に成る不良現象)が起き易くなる。一方、下限値は綾織、朱子織などの場合0%まで設定可能であり、透光性を必要としない場合はこのような高密度の織組織とすることも可能である。
【0034】
よって70+数パーセントの開口率の基材に積層物を片面若しくは両面に積層した膜材料としては結果的に透過率おおよそ70%を上限とした透過性に優れる膜材となる。
次に、積層される物質は無機物系フィラーを72%以下5%以上含有していることが望ましい。積層される物質に対するフィラーはその種類によって分散性や充填率が変わるものの、本発明者等はナノコンポジットに適した有機化粘度を用い検討した結果、その上限が72%以下にあるとの結果を得た。また、その下限においては同じく少量の充填量で効果を発現する有機化粘度に関する文献「スメクタイト研究会 会報第13巻第1号 「有機ベントナイトの特性及び今後の展開」 株式会社ホージュン 鬼形 正伸氏 (9ページ5。今後の展開)」に、最少添加量が3〜5%必要とされていることに基づいている。
【0035】
また、フィラーを含む物質は高分子化合物であることが必要であり、その中でも合成樹脂が一般的であり、熱可塑性または熱硬化性樹脂の何れでも良く、おおよそ列記すれば、セルロイド、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ユリア謝脂、酢酸セルロース、酢酸ビニール樹脂、アクリル楷脂、スチレン樹脂、塩化ビニール謝脂、メラミン樹脂、ポリエチレン、ポリウレタン樹朧、塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド謝脂、不飽和ポリエステル、シリコン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、フッソ樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタラート、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミドの1種以上が使用できる。また、これらの合成樹脂以外にも天然ゴム類や澱粉や生分解性樹脂類などがあり、おおよそ列記すれば、ポリベーターヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、ポリエステルアミド、変性澱粉類の内の1種以上が使用できる。
【0036】
次に、無機物系フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ベントナイトなどの鉱物性無機系材料あるいは水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどの難燃性を有する無機系材料あるいは変性粘土類成分が1種類以上が用いられる。
【0037】
炭酸カルシウムやタルク、マイカ、ベントナイト類は、これらを含む物質の耐熱性向上や耐火性向上に寄与し、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどは、これらを含む物質の初期燃焼時の発熱速度を低減することや延焼速度を低減させる効果がある。さらに、有機化粘土類はナノコンポジットと呼ばれるナノオーダーのフィラーの分散が容易な材料として、耐熱性向上や耐火性向上と発熱速度を低減することや延焼速度を低減させる難燃性と耐熱性に関し効果が得られ、且つ、他の無機物系フィラーに比較して高い透明性が得られる特徴がある。
【0038】
無機物系フィラー成分は変性粘土類成分を構成成分とすると有機物とのナノコンポジットが容易となる。ナノコンポジットの考えは従来のフィラーがミクロンメーターサイズの分散に対しナノオーダーの分散が可能となり、ほぼ均一分散となり物質の機械的性能が低下しない点にある。
【0039】
これらの膜材料の用途によってはASTM E 1354 コーンカロリーメーター試験法において加熱開始後20分以内に総発熱量が8MJ/m2以下であることと加熱開始後20分以内に最高発熱速度が10秒間継続して200KW/m2を越えないという評価基準を満たすことが必要となる。特に防火シャッター類、防炎垂れ壁、照明カバー類や、内部照明式看板類においてはその使用される場所によっては建築基準法第2条第九号(不燃材料)の規程にそって基準値を満たすことができる。
【0040】
特に、積層物質に72%未満の無機物系フィラーを加えた場合、コーンカロリーメーター試験において熱曝露を受けた後も、無機物が金属線からなる面状の布帛の表面に燃焼残渣となり皮膜を形成し炎の貫通を防ぐ効果が得られる。
【0041】
さらに、金属線からなる布帛に積層されるのに使用される物質の量は1250/m2以下であることが必要である。その理由としては有機系の炭化水素化合物と無機物系フィラーを最大量混合させた際の燃焼時に発生する総発熱量が8MJ/m2以下となるようにするためである。布帛に積層されるのに使用される物質としては炭化水素化合物やシリコン系化合物、塩化ビニール樹脂など、種々の物質が選定されるが、この中で燃焼時の酸素消費量が最も大きいものは炭化水素化合物であり、この炭化水素化合物の1kgの燃焼には1.7kgの酸素が必要である。1kgの酸素の消費の際の発熱量は13.1MJ/m2であり、発熱量を8MJ/m2未満(具体的には7.9MJ/m2)とする場合の酸素量は7.9/13.1=0.60kgとなる。よって、7.9MJ/m2の発熱にするには、炭化水素化合物1kg:酸素1.7kg=炭化水素化合物Xkg:酸素0.6kgの比例式で炭化水素化合物Xkgは0.35kgとなる。但し、本発明では無機物系フィラーを最大72%含むため、全物質重量=0.35kg/0.28=1.25kgとなり、この1.25kgはm2当たりの重量となる。なお、下限は膜材として、無機物系フィラーを含む物質の量として経済面や膜強度を鑑み30g/m2が好ましい。より好ましくは無機物系フィラーを含む物質の量は300g/m2〜500g/m2である。
【0042】
本発明のさらに優れる点は、耐火・耐熱性膜材料でありながら、光透過率が70%以下の採光性のあるものとすることができる点にある。ここでいう光透過率は可視光線量100%としたときに膜材料を通過する可視光線量とする。
【0043】
光透過性は布帛の開口率と積層物質の積層厚みと透明性によって決定される。よって積層物質の透明性を調整することにより自由に0%〜70%の範囲で光透過率を調整できる。
【0044】
積層物質には、各種機能付与のために各種添加剤を添加する。例えば、顔料・染料などの着色剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤、架橋剤、防カビ剤、抗菌剤、可塑剤、熱安定剤、防錆剤、充填剤、難燃剤など、プラスチック類の改質を目的とし各種添加剤などがある。
【0045】
この膜材料に難燃剤などを用いて難燃性を付与した場合、おおよそ言及すると、自動車関連規格MVSS302などの水平燃焼試験法や鉄道車両関連のA−A様式の難燃性評価試験、JIS Z2150における45度試料保持の難燃性評価試験、JIS A1323における建築工事用シートの溶接及び溶断火花に対する難燃性試験方法などがその対象である。
【0046】
特に、JIS A1323における建築工事用シートの溶接及び溶断火花に対する難燃性試験方法などにおいては、本発明では使用する布帛が不燃性であるために、積層物の処方設計が容易である。
【0047】
さらに、用途によっては、積層物質の表面皮膜強度や耐水性、撥水性、耐薬品性などの機能面を改良すべき場合がおきるが、この場合には膜材料の表面改質を目的とし、シリコン系膜、フッ素系膜、ポリシロキサン膜、アクリル系膜、ポリウレタン系膜、光触媒性能を有する酸化チタン系など積層することにより表面皮膜強度や耐水性や撥水性、耐汚染性、耐磨耗性、耐薬品性、耐油性、光触媒機能の付与などを行なうことができる。
【0048】
積層物質の積層方法は、コーティング法、ラミネート法、ディッピング法、カレンダー法、押し出しラミネート法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、蒸着法、スパッタリング法、CVD法など特に限定されるものではない。
【0049】
本発明の場合、積層物質の光散乱性が低く、光透過性のあるものを用いた場合や網状の形態とすれば、膜材を通し視認性の高い膜材とすることができ、光透過率が少なくとも20〜30%を必要とする内部照明式看板などに利用可能となる。なお、ここでいう視認性とは、膜材を通して物の形が見えるということである。
【0050】
本発明の付帯的性能として、金属性布帛を用いることにより放熱・伝熱速度の速さなどの熱的性能や、導電性や帯電防止性や電磁波シールド性さらには摩擦耐電圧減衰速度の速さなどの電気的性能、ベントナイトなどの有機化粘土をフィラーとして使用した場合はガスバリア性能に優れることがある。
【発明の効果】
【0051】
以上のように、本発明の耐火・耐熱性膜材料は、次の効果を奏する。
(1)金属線からなる布帛を使用しているので割れない、フレキシブルであるという効果が得られ、ASTM E 1354 コーンカロリーメーター試験法における不燃性評価試験に合格可能である。
(2)高い熱エネルギーを受けた後でも基材としての強度を有することが可能である。
(3)燃焼後に金属線からなる布帛の表面に無機物系残渣が残り、膜材料としての熱や炎の遮蔽機能を有することができる。
(4)さらに、この膜材料は金属線を基材とするために、導電性能や帯電防止性能を有する。
(5)また、無機物系フィラーとしてベントナイト類を原料とする有機ベントナイトは、スメクタイト型粘土であるベントナイトまたはその層状粘土鉱物であるモンモリロナイトを有機カチオンで反応させた有機粘土類を用いることにより、邪魔板効果による高いガスバリア性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
実施の形態1
大日本インキ化学工業株式会社製 特殊柔軟性エポキシ樹脂 EPICLON EXA−4850−150を7.2gとトルエンを623gおよび、株式会社ホージュンの有機ベントナイト エスベンNEZを18.2g計量し1リットル容量のポリエチレン製瓶に入れる。
【0053】
さらに、このポリエチレン製瓶の中に四フッ化ポリエチレン樹脂被覆の攪拌子を入れ、シェーカーで室温下で振とうを行ない、有機ベントナイトの塊(分散不良)がなくなるようにした。
【0054】
十分に振とうさせた後、エポキシ樹脂の硬化剤としてトリエチレンテトラミンを0.58g添加し、さらに40分間の振とうを行なった。
その後、真空脱気装置を使用し、調合材料の脱泡を実施した。脱泡のタイミングはエポキシ樹脂にトルエンを多量に含むためにトルエンの沸騰直前の気泡が連続して発生するときを見計らって、装置を停止させた。
【0055】
これにより得られた溶液を用い、四方を2mm厚みの縁をつけた四フッ化ポリエチレン樹脂コートされた30cm角の鉄板に流し込んだ。
鉄板に流し込まれた溶液の上に、日本特殊織物株式会社製 SUS316製 品番「SUS316−L 130−40」線径 40ミクロンメーターの金属線を材料とし、密度経緯とも130本/吋で織られた平織組織織物を置いた。
【0056】
次に、これをドラフト中で30分間トルエンの自然蒸発を促した。
さらに、同試料を室温から80℃まで30分かけて昇温させた後、さらに80℃で3時間の雰囲気下に置き、さらに80℃から125℃まで1時間掛けて昇温させ125℃から最終150℃まで2時間かけて昇温させ、2時間かけて樹脂架橋反応を完了させた。
【0057】
同試料を室温に戻して試料を鉄板より剥離した。
得られた試料の厚みは80ミクロンメーターであった。
同試料について東洋精機製作所製 コーンカロリーメーター IIIを用い、ASTM E 1354 コーンカロリーメーター試験法にて試験した。
【0058】
測定試料の重量は10cm角1.247gであり、総発熱量は1.03MJ(規格8MJ以下)であった。また、最高発熱速度は200KW/m2以下のため(規格200KW/m2を超過する時間が10秒以下)超過時間は0秒であり規格の合格基準を満たした。
【0059】
また、燃焼後の試料表面にはベントナイト類に起因する無機残渣が金属製織物の表面に残っていた。
燃焼試験前の試料について150℃雰囲気下に24時間放置して重量の変化を測定した。元の10cm角1.247gの試料の重量は1.245gとなり、殆ど変化が無かった。
【0060】
前記コーンカロリーメーター試験法にて測定した燃焼試験後の10cm角試料を用いて、JIS L1096に準拠した引張試験を実施した。なお、試料サイズは幅3cm、長さ10cmであり、測定器チャック間隔は50mmとした。測定値は155N/3cmであり、同素材の燃焼試験前の測定値が159N/3cmと殆ど強度低下が無かった。
【0061】
さらに、燃焼試験後の10cm角試料を180度に折り曲げたが、割れや傷穴は発生しなかった。
燃焼後の試料表面にはベントナイト類に起因する無機残渣が金属製織物の表面に残っていた。
実施の形態2
実施の形態1と同じ日本特殊織物株式会社製 SUS316製 品番「SUS316−L 130−40」線径 40ミクロンメーターの金属線を材料とし、密度経緯とも130本/吋で織られた平織組織織物を置いた。
【0062】
使用樹脂はディ・エイチマテリアル株式会社製の液状ポリエステル樹脂アクリメート1000とした。アクリメート1000を75質量部に、株式会社ホージュンの有機ベントナイトである S−BEN NEZを25質量部加え攪拌機で粗分散混合した後、さらに三本ロールミルを用いて高分散を実施した。高分散した調合液に樹脂硬化剤として、ジオクチルフタレート60%と過酸化ベンゾイル40%を混合した溶液を0.5質量部加え均一分散するよう攪拌した。さらに、この溶液をベル型真空装置の中に入れ溶液中の脱気を行なった。
【0063】
次に、厚さ50μmのポリエステルフィルムの上に、作成した溶液を250μmの厚みとなるよう室温下でコーティングした。そして、このコーティング層の上に品番「SUS316−L 130−40」の金属織物を載せた。さらに、この上に厚さ50μmのポリエステルフィルムを載せ、最上のポリエステルフィルムの上を金属棒でしごきながら、脱気を行なった。
【0064】
このようにして作られたシートを120℃に調整された加熱オーブンに20分間放置し樹脂の硬化を完了させた。
オーブンより試料を取り出し、常温になった時点で両側にあるポリエステルフィルムを剥がし金属織物を基材とする膜材料を得た。
【0065】
この膜材料は厚みが100μmであり、透明性は11ポイントの文字を印刷した用紙の上から10cm離し、視認性を確認したが充分文字が充分読めるものであった。
同試料について東洋精機製作所製 コーンカロリーメーター IIIを用い、ASTM E 1354 コーンカロリーメーター試験法にて試験した。
【0066】
測定試料の重量は229g/m2であり、総発熱量は3.24MJ(規格8MJ以下)であった。また、最高発熱速度は225KW/m2で200KW/m2を超過する時間が4.2秒であり規格の10秒以下の合格基準を満たした。
【0067】
同試料について150℃雰囲気下に24時間放置して重量の変化を測定した。10cm角試料2.281gの試料の重量は2.191gであり、殆ど変動無く測定誤差内であり、また外観なども変化無く耐熱性に優れるものであった。
【0068】
前記コーンカロリーメーター試験法にて測定した燃焼試験後の10cm角試料を用いて、JIS L1096に準拠した引張試験を実施した。なお、試料サイズは幅3cm、長さ10cmであり、測定器チャック間隔は50mmとした。測定値は152N/3cmであり、同素材の燃焼試験前の測定値が159N/3cmと比較して殆ど強度低下が無かった。また、実用的な判定として試験後の試料を180度に折り曲げたが、割れや傷穴は発生しなかった。
【0069】
燃焼後の試料表面にはベントナイト類に起因する無機残渣が金属製織物の表面に残り、織物組織の目が詰まっていた。
比較例1
基材をガラス繊維としてガラス繊維製布帛(カネボウ株式会社製 GV818J 糸密度 縦糸×緯糸=33×43本/吋 平織組織生地重量 190g/m2を用いた。
【0070】
加工用溶液の調整としてEPICLON EXA−4850−150を7.2gと有機ベントナイトであるエスベンNEZを18.2g計量し1リットル容量のポリエチレン製瓶に入れた。
【0071】
さらに、このポリエチレン製瓶の中に四フッ化ポリエチレン樹脂被覆の攪拌子を入れ、シェーカーで室温下で振とうを行ない、有機ベントナイトの塊(分散不良)がなくなるようにした。
【0072】
十分に振とうさせた後、エポキシ樹脂の硬化剤としてトリエチレンテトラミンを0.58g添加し、さらに40分間の振とうを行なった。
その後、真空脱気装置を使用し、調合材料の脱泡を実施した。脱泡のタイミングはエポキシ樹脂にトルエンを多量に含むためにトルエンの沸騰直前とし溶液を調整した。
【0073】
これにより得られた溶液を用い、四方を2mm厚みの縁をつけた四フッ化ポリエチレン樹脂コートされた30cm角の鉄板に流し込んだ。
鉄板に流し込まれた溶液の上に、前記ガラス繊維製布帛を置いた。
【0074】
次に、これをドラフト中で30分間トルエンの自然蒸発を促した。
さらに、同試料を室温から80℃まで30分かけて昇温させた後、さらに80℃で3時間の雰囲気下に置き、さらに80℃から125℃まで1時間掛け昇温させ125℃から最終150℃まで2時間かけて昇温させ、2時間かけて樹脂架橋反応を完了させた。
【0075】
同試料を室温に戻して試料を鉄板より剥離した。
同試料について東洋精機製作所製 コーンカロリーメーター IIIを用い、ASTM E 1354 コーンカロリーメーター試験法にて試験した。
【0076】
測定試料の重量は270g/m2であり、総発熱量は3.18MJ(規格8MJ以下)であった。また、最高発熱速度は200KW/m2以下のため(規格200KW/m2を超過する時間が10秒以下)超過時間は0秒であり規格の合格基準を満たした。
【0077】
また、燃焼後の試料表面にはベントナイト類に起因する無機残渣が金属製織物の表面に残っていた。
燃焼試験前の試料について150℃雰囲気下に24時間放置して重量の変化を測定した。10cm角試料2.751gの試料の重量は2.623gと僅かに減量があったが外観などの変化は少なく耐熱性に優れるものであった。
【0078】
前記コーンカロリーメーター試験法にて測定した燃焼試験後の10cm角試料を用いて、JIS L1096に準拠した引張試験を実施した。なお、試料サイズは幅3cm、長さ10cmであり、測定器チャック間隔は50mmとした。測定値は39N/3cmであり元の強度の2000N/3cmに対し強度低下が大きかった。また、実用的な判定として試験後の材料を180度折り曲げたときに基材の割れを確認したが、基材のガラス繊維は割れるように傷穴が発生した。
比較例2
株式会社ホージュンの有機ベントナイトである S−BEN NEZを用いない他は実施例2と同様に試料を作成した。
【0079】
同試料について150℃雰囲気下に24時間放置して重量の変化を測定した。10cm角試料2.202gの試料の重量は2.190gであり殆ど変動無く測定誤差内であり、また外観なども変化無く耐熱性に優れるものであった。
【0080】
この膜材は厚みが100μmであり、透明性は11ポイントの文字を印刷した用紙の上から2cm離し視認性を確認したが充分文字が読めるものであった。
同試料について東洋精機製作所製 コーンカロリーメーター IIIを用い、ASTM E 1354 コーンカロリーメーター試験法にて試験した。
【0081】
測定試料の重量は220g/m2であり、総発熱量は4.96MJであった。また最高発熱速度は225KW/m2で200KW/m2を超過する時間が8.8秒であり、規格の10秒以下の合格基準を満たした。
【0082】
コーンカロリーメーターで測定した燃焼試験後の10cm角試料を用いて、JIS L1096に準拠した引張試験を実施した。なお、試料サイズは3cm幅で長さ10cmであり、測定器チャック間隔は50mmとした。測定値は153N/3cmであり同素材の燃焼試験前の測定値が159N/3cmと比較して殆ど強度低下が無かった。また、実用的な判定として試験後の材料を180度折り曲げたときに基材の割れを確認したが割れは発生しなかった。
【0083】
燃焼後の試料表面にはベントナイト類に起因する無機残渣が金属製織物の表面に残っていた。
以上述べた実施の形態1および2、比較例1および2の測定ならびに評価結果を表1に示す。表1において◎は非常に優れており、○は優れており、×は劣るものを示す。
【0084】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
線径が300μm以下の金属線からなる面状の布帛の片面もしくは両面に無機物系フィラーを含む物質を積層してなることを特徴とする耐火・耐熱性膜材料。
【請求項2】
無機物系フィラーの含有量は72%〜5%であり、物質の量は1250g/m2〜30g/m2であることを特徴とする請求項1記載の耐火・耐熱性膜材料。
【請求項3】
無機物系フィラーは炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ベントナイトなどの鉱物性無機系材料あるいは水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどの難燃性を有する無機系材料あるいは変性粘土類成分であることを特徴とする請求項1または2記載の耐火・耐熱性膜材料。
【請求項4】
無機物系フィラーを含む物質は合成樹脂や天然ゴムなどの高分子化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項3までの何れか1項記載の耐火・耐熱性膜材料。
【請求項5】
光透過率が70%以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4までの何れか1項記載の耐火・耐熱性膜材料。

【公開番号】特開2008−296370(P2008−296370A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141186(P2007−141186)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000104412)カンボウプラス株式会社 (15)
【Fターム(参考)】