説明

耐火構造体

【課題】 本発明は、耐火構造体を提供する。
【解決手段】 本発明の耐火構造体Aは、コンクリート構造物1の表面が、不定形耐火物を固化させてなる耐火被覆層2で被覆されてなる耐火構造体であって、上記耐火被覆層2中に、熱硬化性樹脂が含浸された耐熱性繊維から形成され且つ通孔を有する網状体3が配設されており、この網状体3の両側にある不定形耐火物21、22同士が上記通孔31を通じて連結一体化してなり、耐火被覆層2は、網状体3によって分離されることなく全体として一体化され且つ網状体3が内部に配設されて優れた強度を有しており、耐火構造体Aはその耐用年数が長い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、焼却炉や工業用炉の壁部は、その内面にスタッドを突設された上でキャスタブルやプラストなどの不定形耐火物を塗布或いは吹き付けることによって耐火被覆層によって被覆されている。不定形耐火物はアルミナを主成分とし耐熱性は充分であるが、壁部自体の補強の点では不充分である。
【0003】
又、特許文献1には、焼却炉本体の内壁面と耐熱性コンクリートプレートとの間に耐熱性繊維質断熱材を設けた廃棄物用焼却炉が開示されており、段落番号〔0014〕には、この耐熱性繊維質断熱材としては、シリカファイバーやアルミナファイバーなどの耐熱性セラミックからなるフェルトやブランケットであることが記載されている。
【0004】
しかしながら、耐熱性繊維質断熱材は、フェルトやブランケットであることから、耐熱性コンクリートプレートを構成している耐熱性コンクリート組成物が充分に含浸せず、耐熱性繊維質断熱材と耐熱性コンクリートプレートとの一体化が不充分となり、焼却炉の強度が不充分となるといった問題点がある。又、フェルトは、強度に方向性があり、強度にバラツキが生じるといった問題点もある。
【0005】
【特許文献1】特開平9−100774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた強度を有する耐火構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の耐火構造体は、コンクリート構造物の表面が、不定形耐火物を固化させてなる耐火被覆層で被覆されてなる耐火構造体であって、上記耐火被覆層中に、熱硬化性樹脂が含浸された耐熱性繊維から形成され且つ通孔を有する網状体が配設されており、この網状体の両側にある不定形耐火物同士が上記通孔を通じて連結一体化していることを特徴とする。又、上記耐火構造体において、耐熱性繊維がバサルト繊維を含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐火構造体は、コンクリート構造物の表面を被覆している耐火被覆層中に網状体を配設し、この網状体に形成された通孔を通じて耐火被覆層を構成している不定形耐火物同士が連結一体化しているので、耐火被覆層は、網状体によって分離されることなく全体として一体化され且つ網状体が内部に配設されて優れた強度を有しており、耐火構造体はその耐用年数が長い。
【0009】
そして、網状体は、その耐熱性繊維に熱硬化性樹脂が含浸されており、耐熱性繊維の表面が熱硬化性樹脂によって被覆されて滑らかな状態となっているので不定形耐火物との間に隙間が殆ど生じることはなく、網状体と耐火被覆層とを強固に一体化させることができ、耐火被覆層は網状体による補強によって優れた強度を有している。
【0010】
又、耐熱性繊維がバサルト繊維を含有している場合は、不定形耐火物に起因したアルカリによって腐食するようなことはなく、耐火構造物は長期間に亘って優れた強度を維持する。
【0011】
更に、耐火構造体を解体後に焼却する際にもバサルト繊維は溶融することなく、形態を保持したまま炭化するので、焼却炉の炉壁を痛めることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の耐火構造体の一例を図面を参照しつつ説明する。耐火構造体Aは、図1及び図2に示したように、コンクリート構造物1の表面が耐火被覆層2で被覆されてなる。このようなコンクリート構造物1としては、特に限定されず、焼却炉や工業用炉の炉壁部などが挙げられる。
【0013】
そして、コンクリート構造物1の表面には耐火被覆層2が積層一体化されている。なお、コンクリート構造物1の表面にはスタッド11が固定されており、このスタッド11は耐火被覆層2内に埋没した状態となっている。
【0014】
耐火被覆層2は、コンクリート構造物1の表面に、キャスタブル耐火物やプラストなどの不定形耐火物を所定厚みに塗布し或いは吹き付けて固化させることによって形成されたものである。
【0015】
更に、耐火被覆層2中には網状体3が配設されており、この網状体3によって耐火構造体全体Aの強度の向上を図っている。
【0016】
網状体3は通孔31を有しており、この網状体3の両側にある不定形耐火物21、22同士が網状体3の通孔31を通じて連結一体化している。このような網状体3としては、複数条の繊維束を交差させていると共に繊維束同士の交差部を一体化させてなり、互いに隣接する繊維束間に通孔が形成された網状体が好ましい。
【0017】
具体的には、網状体3としては、例えば、図3又は図4に示したように、繊維束1a、1a・・・を多数本、所定間隔毎、好ましくは5〜20mm、より好ましくは5〜10mm毎に並設してなる繊維束列1Aと、この繊維束列1Aの繊維束1aに斜行又は直交する方向に、多数の繊維束1b、1b・・・を所定間隔、好ましくは5〜20mm、より好ましくは5〜10mm毎に並設してなる繊維束列1Bとからなり、これらの繊維束列1A、1Bの繊維束1a、1bの交差部を熱融着や接着剤などの公知の手段でもって一体化することにより多数の通孔31が設けられてなるものや、このようにして得られた網状体の一面に、図5又は図6に示すように、多数本の繊維束1d、1d・・・を所定間隔毎、好ましくは5〜20mm、より好ましくは5〜10mm毎に並設してなる繊維束列1Dを、網状体を形成している上記2列の繊維束列1A、1Bに斜行する方向に重ね合わせ、繊維束列1A(1B)の繊維束1a(1b)と、繊維束列1Dの繊維束1dとの交差部を接着剤或いは熱融着により一体化させて多数の通孔31を設けてなるように形成してなる網状体、図7に示したように、多数本の繊維束1d、1d・・・を所定間隔毎、好ましくは5〜20mm、より好ましくは5〜10mm毎に並設してなる繊維束列1D及び多数本の繊維束1e、1e・・・を所定間隔毎、好ましくは5〜20mm、より好ましくは5〜10mm毎に並設してなる繊維束列1Eを、網状体を形成している上記2列の繊維束列1A、1Bに斜行する方向に重ね合わせ、繊維束列1A(1B)の繊維束1a(1b)と、繊維束列1D、1Eの繊維束1d、1eとを接着剤或いは熱融着により一体化させて多数の通孔31を設けてなるように形成してなる網状体を挙げることができ、様々な方向の強度に優れた図5に示した網状体が好ましい。なお、網状体は、例えば、特公平3−80911号公報に記載の方法を用いて製造することができる。
【0018】
そして、網状体3を構成している耐熱性繊維としては、特に限定されず、例えば、アラミド繊維、バサルト繊維(玄武岩繊維)などが挙げられるが、優れた耐熱性を有していることら、バサルト繊維が好ましい。なお、アラミド繊維としては、例えば、ポリフェニレンテレフタルアミド繊維やポリフェニレンジフェニルエーテルテレフタラミド繊維などが挙げられる。
【0019】
ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維は、東レ・デュポン社から商品名「ケブラー」にて市販され、ポリ−p−フェニレンジフェニルエーテルテレフタラミド繊維は、帝人社から商品名「テクノーラ」にて市販されている。
【0020】
繊維束は、モノフィラメントが束ねられたものであって、所謂、マルチフィラメントといわれるが、モノフィラメントが撚られたものであっても無撚り状であってもよいが、熱硬化性樹脂の含浸性に優れ、網状体に熱硬化性樹脂を均一に且つ充分に含浸することができ、何れの方向に対しても優れた機械的強度を有しており、表面平滑性に優れた網状体3を得ることができるので、モノフィラメントが無撚り状であることが好ましい。
【0021】
モノフィラメントの繊維径は、細いと、網状体の強度が低下することがあり、太いと、繊維束の形成に支障を生じることがあるので、2〜30μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。
【0022】
又、繊維束の繊度は、低いと、網状体の保持強度が低下することがあり、高いと、網状体の厚みが厚くなり過ぎることがあるので、100〜2000dtexが好ましく、1000〜2000dtexがより好ましい。
【0023】
そして、網状体3には完全に硬化された状態の熱硬化性樹脂が含浸されている。網状体3に熱硬化性樹脂が含浸されていることによって、網状体3を構成している繊維束の表面が熱硬化性樹脂で被覆されて滑らかに形成されており、耐火被覆層2を構成している不定形耐火物と網状体3との間に隙間が生じるのを防止して、網状体3と耐火被覆層2とが強固に一体化されている。
【0024】
網状体3に含浸されている熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂などが挙げられる。
【0025】
網状体3は耐火被覆層2中に単層で配設されていても、図1及び図2に示したように、複数枚の網状体3が耐火被覆層2の厚み方向に重ね合わせられた状態で或いは間隔を存して配設されていてもよいが、複数枚の網状体3、3・・・が耐火被覆層2の厚み方向に重ね合わせられた状態で或いは間隔を存して配設されていることが好ましい。
【0026】
次に、耐火構造体の施工要領について説明する。図8に示したように、焼却炉や工業用炉の炉壁部などのコンクリート構造物1の表面上に、耐熱性繊維から形成されて含浸された熱硬化性樹脂が好ましくは硬化され且つ通孔が形成されてなる網状体3を配設し仮固定する。なお、網状体3は一枚であってもよいし、複数枚の網状体3を重ね合わせた状態でコンクリート構造物1の表面上に配設してもよい。又、網状体3(3a、3b)中に含浸させている熱硬化性樹脂は取扱性を考慮して未硬化の状態であってもよく、所謂、網状体3(3a、3b)はプリプレグシートであってもよい。しかしながら、熱硬化性樹脂の硬化促進過程で熱硬化性樹脂の収縮によって網状体3(3a、3b)に反りや歪みを生じることがあるので、コンクリート構造物1の表面に配設する前に熱硬化性樹脂を硬化させておくことが好ましい。
【0027】
しかる後、コンクリート構造物1の表面に耐熱性を有するモルタルを介してスタッド11を固定する。この際、スタッド11を固定させるコンクリート構造物1の表面部分には網状体3を予め配設させないようにしておけばよい。なお、コンクリート構造物1の表面にスタッド11を固定した後に、網状体3をコンクリート構造物1の表面に配設してもよい。
【0028】
次に、網状体3上に固化前の不定形耐火物を塗布し或いは吹き付けることによって、網状体3にその通孔31を通じて不定形耐火物を含浸させて、不定形耐火物をコンクリート構造物1の表面に到達させ、コンクリート構造物1の表面全面には不定形耐火物が接触した状態として、固化前の不定形耐火物中に網状体3が埋没し配設された状態とする。
【0029】
なお、図9に示したように、網状体3a上に固化前の不定形耐火物3aを所定厚みだけ塗布し或いは吹き付けた後、固化前の不定形耐火物3a上に、上記と同様の網状体3bを配設し、更に、網状体3b上に不定形耐火物3bを所定厚みだけ塗布し或いは吹き付けてもよい。この場合、網状体3b上に塗布し或いは吹き付けた不定形耐火物3bは、網状体3bの通孔31を通じて、網状体3bを配設する前にコンクリート構造物1上に塗布し或いは吹き付けた不定形耐火物3aと一体化されることが必要である。
【0030】
そして、コンクリート構造物1上に塗布し或いは吹き付けた不定形耐火物を公知の要領で固化させることによって耐火被覆層2を形成して耐火構造体Aを構築することができる。
【0031】
このようにして得られた耐火構造体Aは、耐火被覆層2中に網状体3が配設されており、網状体3を中央にして、コンクリート構造物1側にある不定形耐火物21と、コンクリート構造物1とは反対側にある不定形耐火物22とが、網状体3の通孔31を通じて連結一体化しているので、耐火被覆層2が網状体3によって分離された状態とはなっておらず、耐火被覆層2は一体とされている。
【0032】
従って、耐火被覆層2は一体とされている上に網状体3が内部に配設されているので、耐火被覆層2は非常に優れた強度を有しており、よって、耐火構造体Aは優れた強度を有している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の耐火構造体の一例を示した模式断面図である。
【図2】本発明の耐火構造体の一例を示した模式断面図である。
【図3】網状体の一例を示した平面図である。
【図4】網状体の他の一例を示した平面図である。
【図5】網状体の他の一例を示した平面図である。
【図6】網状体の他の一例を示した平面図である。
【図7】網状体の他の一例を示した平面図である。
【図8】耐火構造体の構築途上の一例を示した模式断面図である。
【図9】耐火構造体の構築途上の一例を示した模式断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 コンクリート構造物
2 耐火被覆層
21、22 不定形耐火物
3、3a、3b 網状体
31 通孔
A 耐火構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面が、不定形耐火物を固化させてなる耐火被覆層で被覆されてなる耐火構造体であって、上記耐火被覆層中に、熱硬化性樹脂が含浸された耐熱性繊維から形成され且つ通孔を有する網状体が配設されており、この網状体の両側にある不定形耐火物同士が上記通孔を通じて連結一体化していることを特徴とする耐火構造体。
【請求項2】
耐熱性繊維がバサルト繊維を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐火構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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