説明

耐火構造部材

【課題】本発明は、急速加熱かつ高温の条件下でも良好な発泡断熱層を形成・保持でき、ひび割れや脱落が生じない塗膜を設けた耐火構造部材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、発泡して断熱層を生成する塗膜を表面に形成してなる耐火構造部材であって、前記塗膜が以下の特性を有することを特徴とする耐火構造部材。
(A)発泡開始温度が200〜500℃。
(B)昇温速度20℃/分で1200℃まで加熱し、1200℃を30分間保持した後、室温まで冷却したときの発泡倍率が5〜30倍。
(C)昇温速度20℃/分で加熱して1200℃に達したときを始期とし、そのまま20分間保持したときを終期とした場合の、その間の塗膜の重量減少率が1%未満。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災等の高温下で建築土木構造物の耐力低下を抑制する耐火構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築土木構造物内の鋼材や鋳鉄材等は、その温度が火災等により耐火温度以上になると、強度が低下し構造耐力を維持できなくなるという問題があった。そこで、現在では、火災時に鋼材や鋳鉄材等の温度を耐火温度以下に抑制するため、建築土木構造物の表面に耐火被覆材を設置することが必須となっている。
【0003】
一方、これまで、コンクリート自体は耐火性能に優れる材料であると言われてきたが、近年多用されつつある高強度コンクリートでは、特にマトリックス相が緻密なため、加熱による熱応力とコンクリート内部の水の蒸発による水蒸気圧が相俟ってコンクリートの爆裂現象を引き起こし易く、構造耐力を保持できない虞がある。かかる爆裂現象を防止するため、コンクリートにおいても耐火対策を施すことが必要になってきた。
【0004】
そこで、鋼材やコンクリート製構造部材に耐火性能を付与する方法として、湿式モルタルの吹付け、乾式ボードの貼付、無機繊維マットの貼付、又は耐火塗材の塗装等が実施されている。特に、耐火塗材の塗膜は、他の耐火被覆材に比べて格段に薄くて済み、意匠性にも優れている。
【0005】
更に、近年では、トンネル構造物にも高い耐火性能が求められ、トンネル構造物に対する耐火技術がいくつか提案されている。例えば、高温時に発泡する塗膜をトンネル一次覆工の表面に設けることにより、トンネル構造物に耐火性能を付与する技術が提案されている(特許文献1)。
また、耐火塗材にチタン等を含む炭化物や窒化物等を配合することにより、高温加熱下での発泡層の酸化による減量を遅延させて、1000℃前後に晒された場合でも発泡層の脱落等を防止し得る技術が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平8−74497号公報
【特許文献2】特開平5−6543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、現実の火災の条件を考慮すると、本来、耐火性能は急速加熱条件下で評価すべきところ、特許文献1ではJIS A 1304に規定する緩和な加熱条件下で評価している。この条件下で評価して良好な結果を得たとしても、塗膜を急速加熱した場合には、生成した発泡層にひび割れが発生したり脱落する虞があり、断熱性に優れた塗膜層を得ることは難しい。
また、特許文献2に記載されているRABT加熱曲線に沿った急速加熱条件下では、発泡層の酸化による減量を1000℃までは防止できたとしても、次の1200℃に保持する過程で発泡層の減量が進むため、発泡層のひび割れや脱落を十分に防止できない虞がある。
そこで、本発明は、急速加熱かつ高温の条件下でも良好な発泡断熱層を形成・保持でき、ひび割れや脱落が生じない塗膜を設けた耐火構造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記の発明は急速加熱条件下でも良好な発泡断熱層を形成・保持でき、ひび割れや脱落を生じない塗膜を設けた耐火構造部材を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、第1の発明は、発泡して断熱層を生成する塗膜を表面に形成してなる耐火構造部材であって、前記塗膜が以下の特性を有することを特徴とする耐火構造部材。
(A)発泡開始温度が200〜500℃。
(B)昇温速度20℃/分で1200℃まで加熱し、1200℃を30分間保持した後、室温まで冷却したときの発泡倍率が5〜30倍。
(C)昇温速度20℃/分で加熱して1200℃に達したときを始期とし、そのまま20分間保持したときを終期とした場合の、その間の塗膜の重量減少率が1%未満。
また、第2の発明は 前記塗膜が、難燃性発泡剤、炭化剤、バインダー、繊維およびフィラーを含む耐火構造部材であり、第3の発明は、前記塗膜が、難燃性発泡剤100質量部に対して、炭化剤5〜80質量部、バインダー30〜350質量部(固形分換算)、繊維5〜100質量部、およびフィラー10〜200質量部を含む耐火構造部材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、急速加熱および高温条件下でも良好な発泡断熱層を形成・保持でき、ひび割れや脱落を生じ難い塗膜を設けた耐火構造部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の耐火構造部材の表面に形成する塗膜は、難燃性発泡剤、炭化剤、バインダー、繊維およびフィラー等を含むものであるが、これら以外に、体質顔料、着色顔料等の顔料、増粘剤、界面活性剤、消泡剤等をさらに含んでもよい。
【0011】
前記塗膜に含まれる難燃性発泡剤としては、例えば、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、リン酸メラミン等のリン酸化合物が挙げられ、これらが単独で含まれていても良いし、混合されて含まれていても良い。これらのリン酸化合物を含む塗膜は、火災等により高温雰囲気下に晒されると発泡し、火災の勢いによってひび割れることのない耐火層を構成し、耐火性能を長時間保持することができる。
【0012】
前記塗膜に含まれる炭化剤としては、例えば、モノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、テトラペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらの炭化剤は、単独で塗膜に含まれても良いし、混合して含まれても良い。
【0013】
炭化剤の配合量は、難燃性発泡剤100質量部に対して5〜80質量部が好ましく、10〜55質量部がより好ましい。炭化剤の配合量が5質量部未満では、発泡層強度の低下により、発泡層の保持が困難になり、耐火性能の低下がみられ、炭化剤の配合量が80質量部を超えても、断熱性の高い発泡層が得られず、耐火性能が同様に低下する。
【0014】
前記塗膜に含まれるバインダーとしては、例えば、エチレンー酢酸ビニル共重合体等の酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の合成樹脂が挙げられ、これらの合成樹脂は、水性エマルジョン等の形態で使用するのが好ましい。
【0015】
バインダーの配合量は、難燃性発泡剤100質量部に対して、固形分換算で30〜350質量部が好ましく、60〜180質量部がより好ましい。バインダーの配合量が30質量部未満では塗装性が低下し、バインダーの配合量が350質量部を超えると、塗膜の難燃性が低下する。
【0016】
前記塗膜に含まれる繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール繊維、スラグウール繊維、パルプ繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、鋼繊維等が挙げられる。これらの繊維は、単独で塗膜に含まれても良いし、混合して含まれても良い。
【0017】
繊維の配合量は、難燃性発泡剤100質量部に対して、5〜100質量部が好ましく、15〜70質量部がより好ましい。繊維の配合量が5質量部未満では発泡層の強度が十分でなく、繊維の配合量が100質量部を超えると、塗装性が低下するとともにコスト高になる。
【0018】
前記塗膜に含まれるフィラーとしては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化鉛、シリカ、粘土、クレー、シラス、マイカ等が挙げられる。これらのフィラーは、単独で塗膜に含まれても良いし、混合して含まれても良い。
【0019】
フィラーの配合量は、難燃性発泡剤100質量部に対して、10〜200質量部が好ましく、20〜100質量部がより好ましい。フィラーの配合量が10質量部未満では発泡層の強度が十分でなく、フィラーの配合量が200質量部を超えると発泡性が低下し好ましくない。
【0020】
前記塗膜の下地材である構造部材は、特に限定されず、一般に建築又は土木用途の構造部材が挙げられる。具体的には、H形鋼、みぞ形鋼、I鋼、等辺山形鋼、不等辺山形鋼、角形鋼管および丸形鋼管等の通常使用される鉄骨や鋼管、並びにコンクリート等を用いることができる。その他、硬質木片セメント板、パルプ混入石綿セメント板、スラグ石膏セメント板、ガラス繊維混入スラグ石膏板、石綿セメント押出成形板、繊維混入セメントパーライト板等の窯業サイディング板等も用いることができる。
【0021】
前記塗膜は、火災等により高温雰囲気下に晒されると発泡して断熱層を形成し、前記構造部材を高温から保護する機能を発揮する。かかる塗膜の発泡開始温度は200〜500℃が好ましい。塗膜の発泡開始温度が200℃未満では発泡性が低下し、500℃を超えると適切な時期に断熱性を発揮することができない。
【0022】
また、前記塗膜を昇温速度20℃/分で1200℃まで加熱し、1200℃を30分間保持した後、室温まで冷却したときの前記塗膜の発泡倍率は5〜30倍が好ましく、7〜25倍がより好ましい。当該発泡倍率が5倍未満では断熱性能が低くなり、30倍を超えると発泡層の強度が低下するとともにひび割れが発生しやすくなる。
【0023】
また、前記塗膜を昇温速度20℃/分で加熱して1200℃に達したときを始期とし、そのまま20分間保持したときを終期とした場合の、その間の塗膜の重量減少率が1%未満が好ましく、0.8%未満がより好ましい。当該重量減少率が1%以上になると、発泡層の強度が低下し、ひび割れ易くなる。
【0024】
本発明の耐火構造部材は、前記塗膜の各構成成分を含む発泡性耐火塗料をスプレー,こて、ローラー又は刷毛等により構造部材に塗布して製造される。
【実施例】
【0025】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
使用した発泡性耐火塗料および下地材を以下に示す。
1. 発泡性耐火塗料
(1)A
・商品名 Spray film WB3(Cafco社製)
・発泡開始温度300℃
・昇温速度20℃/分で1200℃まで加熱し、1200℃を30分間保持した後、室温まで冷却したときの発泡倍率が10倍。
・昇温速度20℃/分で加熱して1200℃に達したときを始期とし、そのまま20分間保持したときを終期とした場合の、その間の塗膜の重量減少率が0%。
(2)B
・商品名 Spray film WB2(Cafco社製)
・発泡開始温度300℃
・昇温速度20℃/分で1200℃まで加熱し、1200℃を30分間保持した後、室温まで冷却したときの発泡倍率が30倍。
・昇温速度20℃/分で加熱して1200℃に達したときを始期とし、そのまま20分間保持したときを終期とした場合の、その間の塗膜の重量減少率が1.8%。
2.下地材
(1)コンクリート
・普通セメントコンクリート
・水セメント比 35%
・耐火温度 350℃
(2)鋳鉄
・株式会社クボタ社製 ダクタイル鋳鉄
・耐火温度 350℃
(3)鋼材
・新日本製鐵株式会社社製 SS400材
・耐火温度 350℃
【0027】
試験体の作製方法、試験体の耐火性能の評価方法、塗膜の発泡倍率の測定方法、および塗膜の重量減少率の測定方法は、以下のとおりである。
1.試験体の作製方法
(1) コンクリート試験体(以下「a」という。)
300×300×200mmのコンクリートブロックの1面(300×300mm面)の表面に温度測定用のクラス2のK型熱電対を設置し、同面をアセトン拭きで清掃した後、耐火塗料を所定の厚みに塗布し、2週間乾燥したものを試験体とした。
(2) 鋳鉄試験体(以下「b」という。)
300×300×26mmのダクタイル鋳鉄の1面(300×300mm面)の表面に温度測定用のクラス2のK型熱電対を設置し、同面をアセトン拭きで清掃した後、耐火塗料を所定の厚みに塗布し、2週間乾燥したものを試験体とした。
(3) 鋼材試験体(以下「c」という。)
300×300×26mmのSS400材の1面(300×300mm面)の表面に温度測定用のクラス2のK型熱電対を設置し、同面をアセトン拭きで清掃した後、耐火塗料を所定の厚みに塗布し、2週間乾燥したものを試験体とした。
(4) 合成構造試験体(以下「d」という。)
厚さ9mmのSS400材で製作された300×300×200mmの鋼製箱にコンクリートを充填した合成構造モデル体の金属面(300×300mm面)の表面に温度測定用のクラス2のK型熱電対を設置し、同面をアセトン拭きで清掃した後、耐火塗料を所定の厚みに塗布し、2週間乾燥したものを試験体とした。
【0028】
2.試験体の耐火性能の評価方法
前記の各種試験体を高性能水平炉に載置した後、RABT加熱曲線(昇温速度240℃/分で1200℃まで加熱し、1200℃を55分間保持した後、降温速度11℃/分で冷却する)に沿って加熱し、試験体の下地材最高温度を測定することにより、耐火構造部材の耐火性能を評価した。その結果を表1に示す。
3.塗膜の発泡倍率の測定方法
発泡倍率は、加熱発泡冷却後の発泡層の厚さを加熱前の塗膜の厚さで除して求めた。
なお、加熱前の塗膜の厚さは、超音波式膜厚計(デフェルスコ社製 Positector100)にて9点測定しこの平均値として求めた。また、加熱発泡冷却後の発泡層の厚さは、ノギス等で9点測定してこの平均値として求めた。
4.塗膜の重量減少率の測定方法
塗料A、塗料B、および図1に示す比でこれらを混合して得た塗料を、室温にて2週間乾燥して塗膜を作製した。次に、これらの塗膜を示差熱分析装置(理学社製 TG8101C)内に載置し、昇温速度20℃/分で加熱して1200℃に達したときを始期とし、そのまま20分間保持したときを終期とした場合の、その間の塗膜の重量減少率を、示差熱分析により測定した。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から分かるように、実施例1〜8の試験体において、いずれも、昇温速度20℃/分で1200℃まで加熱し、1200℃を30分間保持した後、室温まで冷却したときの塗膜の発泡倍率が7倍(実施例1、4)〜19倍(実施例5)、また、昇温速度20℃/分で加熱して1200℃に達したときを始期とし、そのまま20分間保持したときを終期とした場合の、その間の塗膜の重量減少率が0.9%以下(実施例1〜5)であり、これによって、下地材の最高温度を、下地材の耐火温度(いずれの下地材も350℃)以下である163℃(実施例5)〜345℃(実施例1)の範囲に抑えることができた。その結果、下地材は爆裂することがなく、また発泡層の状態は正常であった。
これに対し、昇温速度20℃/分で加熱して1200℃に達したときを始期とし、そのまま20分間保持したときを終期とした場合の、その間の塗膜の重量減少率が1.5%の比較例3、および同1.8%の比較例2では、下地材の最高温度がそれぞれ386℃、376℃になって、それぞれの下地材の耐火温度を上回り、発泡層にひび割れが発生した。また、昇温速度20℃/分で1200℃まで加熱し、1200℃を30分間保持した後、室温まで冷却したときの発泡倍率が4%であった比較例1では、下地材の最高温度が1123℃にも達し、発泡層が脱落した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡して断熱層を生成する塗膜を表面に形成してなる耐火構造部材であって、前記塗膜が以下の特性を有することを特徴とする耐火構造部材。
(A)発泡開始温度が200〜500℃。
(B)昇温速度20℃/分で1200℃まで加熱し、1200℃を30分間保持した後、室温まで冷却したときの発泡倍率が5〜30倍。
(C)昇温速度20℃/分で加熱して1200℃に達したときを始期とし、そのまま20分間保持したときを終期とした場合の、その間の塗膜の重量減少率が1%未満。
【請求項2】
前記塗膜が、難燃性発泡剤、炭化剤、バインダー、繊維およびフィラーを含むことを特徴とする請求項1記載の耐火構造部材。
【請求項3】
前記塗膜が、難燃性発泡剤100質量部に対して、炭化剤5〜80質量部、バインダー30〜350質量部(固形分換算)、繊維5〜100質量部、およびフィラー10〜200質量部を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の耐火構造部材。

【公開番号】特開2008−106475(P2008−106475A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288801(P2006−288801)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】