説明

耐火被覆材

【課題】火災時の燃焼熱によって、該燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材において、所定の耐火性能を得るための被覆厚を薄くする。
【解決手段】金属硫酸塩としての硫酸アルミニウムと二酸化チタンとを含有する耐火被覆材を施工現場において混練水としての水と混合し、圧送機としてのモルタルポンプを用いて、角形鋼管の外表面に被覆厚8mmで吹付け施工する。施工後、硫酸アルミニウムの再結晶により、耐火被覆材が硬化し、耐火被覆された鉄骨構造体を得る。該鉄骨構造体が火災時の燃焼熱にさらされると、鉄骨構造体の温度が上昇し、耐火被覆材の内部温度が約50℃に到達した段階から、該耐火被覆材の組成中、硫酸アルミニウムの結晶水が脱離し、蒸発する際に吸熱反応によって温度上昇を抑制する。その結果、火災時の燃焼熱の鉄骨構造体への伝達速度が抑制され、耐火被覆材の被覆厚を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災時の燃焼熱から鉄骨構造を保護する耐火被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、火災時の燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材としては、ロックウール、軽量セメントモルタル等の吹付け、セラミックファイバーブランケット等の巻き付け、ALC板、ケイ酸カルシウム板等の板部材による囲い込み等が行われてきた。しかし、これらの耐火被覆材は1時間の火災から鉄骨を保護するために必要な被覆厚が30〜50mmと厚く、建築物の美観、施工性の向上、有効スペースの確保等の観点からより薄い被覆厚の耐火被覆材が求められてきた。
【0003】
より被覆厚を薄くする技術として、水酸化アルミニウム等のように結晶水を有する吸熱物質と軽量骨材とをセメント、石膏等の水硬性材料により固化させた耐火被覆材がある(例えば、特許文献1参照。)。これらの耐火被覆材は1時間の火災から鉄骨構造体を保護するために必要な被覆厚が15〜20mm前後であり、被覆厚は十分に薄いというわけではない。
【0004】
このほか、合成樹脂、リン系難燃剤、メラミン系化合物、多価アルコール系炭化層形成剤を含有し、火災時の燃焼熱により発泡、断熱層を形成する耐火塗料と呼ばれる耐火被覆材がある(例えば、特許文献2参照。)。これらの耐火被覆材は1時間の火災から鉄骨構造体を保護するために必要な被覆厚が1〜5mmと薄膜であるが、発泡後の断熱層が脆弱であるため形状保持性が十分でなく、火災時に家財等が倒壊して衝撃が加わった場合に脱落してしまうおそれがあった。また、有機物である合成樹脂が結合剤として用いられているため、紫外線に対する耐久性が十分でなく、耐火被覆自体が燃焼して燃焼熱を発生することにより、耐火塗料の吸熱性能を十分に発揮できないという問題があった。
【0005】
金属硫酸塩を含有する耐火被覆材としては例えば、硫酸アンモニウムアルミニウム12水和物、硫酸鉄(III)9水和物、硝酸鉄(III)9水和物、硫酸マグネシウム7水和物、亜硫酸ナトリウム7水和物、硫酸ナトリウム10水和物、硫酸ニッケル(II)6水和物等からなる発泡剤を含有する、α,β−不飽和カルボン酸(共)重合体金属架橋物形成性組成物からなる発泡性耐火塗料がある(例えば、特許文献3参照。)。また、これらの耐火塗料は金属酸化物をα,β−不飽和カルボン酸(共)重合体の架橋に用いることができる。これらの塗料において発泡剤は不燃性ガスの発生や結晶水を放出することにより、α,β−不飽和カルボン酸(共)重合体やペンタエリスリトールが炭化して多孔質の炭化層を膨張させて断熱効果を発揮するものである。
【0006】
しかし、やはり発泡後の断熱層が脆弱であるため形状保持性が十分でなく、火災時に家財等が倒壊して衝撃が加わった場合に脱落してしまうおそれがあるという問題があった。また、有機物である合成樹脂を主たる結合剤として用いているため、紫外線に対する耐久性が十分でなく、耐火被覆自体が燃焼して燃焼熱を発生することにより、耐火塗料の吸熱性能を十分に発揮できないという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特公平2−28555号公報(第2〜3頁)
【特許文献2】特開平9−71752号公報(第2〜3頁)
【特許文献3】特開平11−35852号公報(第2〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、火災時の燃焼熱から鉄骨構造を保護する耐火被覆材において、所定の耐火性能を得るための被覆厚が厚く、発泡により断熱効果を発揮する耐火被覆材においては被覆材自体の燃焼熱により耐火性能が十分に発揮できない点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、火災時の燃焼熱から鉄骨構造を保護する耐火被覆材において、該耐火被覆材を形成する各組成物が金属硫酸塩により結合されてその形状を保持するとともに、金属酸化物を含有することを最も主要な特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記金属硫酸塩が多価金属の硫酸塩であることを最も主要な特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記多価金属がアルミニウムであることを最も主要な特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3に記載の発明において、前記金属硫酸塩100重量部に対して金属酸化物の含有量が5〜200重量部であることを最も主要な特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4に記載の発明において、前記耐火被覆材が還元ガス発生剤を含有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明の耐火被覆材によれば、再結晶化により結晶水を含有させることができるため、所定の耐火性能を得るための被覆厚を薄くすることができるという利点がある。
【0015】
請求項2に記載の発明の耐火被覆材によれば、火災時の燃焼熱にさらされた状態における耐火被覆材の形状保持性に優れるという利点がある。
【0016】
請求項3に記載の発明の耐火被覆材によれば、請求項1に記載の効果に加え、金属イオンと硫酸イオンの架橋的三次元構造を形成することができるため、再結晶化による結合力に優れるという利点がある。
【0017】
請求項4に記載の発明の耐火被覆材によれば、請求項1又は請求項2に記載の効果に加え、火災時の燃焼熱により生成する酸化アルミニウムが火災の輻射熱を反射するため、鉄骨構造体の温度上昇を抑制することができるという利点がある。
【0018】
請求項5に記載の発明の耐火被覆材によれば、金属(硫酸塩由来)−イオウ−金属(酸化物由来)−酸素の構成比率が最適となるため、耐火被覆材の形状保持性に優れるという利点がある。
【0019】
請求項6に記載の発明の耐火被覆材によれば、還元ガスの発生によりSOxガスを還元することができるため、火災時の燃焼熱にさらされている状態において安全性に優れるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態について説明する。
本発明の耐火被覆材は金属硫酸塩と金属酸化物とを含有することが必要であり、その組成は例えば以下のようなものである。
【0021】
耐火被覆材の組成例:金属硫酸塩としての硫酸アルミニウム100重量部、金属酸化物としての酸化チタンとしての二酸化チタン50重量部、増粘剤1重量部、粉末樹脂5重量部、繊維1重量部、凝結遅延剤1重量部。
【0022】
前記耐火被覆材が金属硫酸塩を含有することにより、耐火被覆材の粉末を水に溶解した際、再結晶化させることができる。この再結晶化により、結合剤として作用させることができるため、別途結合剤を混合する必要がなくなるとともに、結晶水を含有させることができるため、耐火性能に優れる。すなわち、所定の耐火性能を得るための被覆厚を薄くすることができる。また、有機物によって耐火被覆材の組成物同士を結合させる場合に比べて紫外線に対する耐久性に優れるとともに、火災の炎にさらされても耐火被覆材自体は発熱しないため、基材としての鉄骨の温度上昇を抑制する効果に優れる。
【0023】
前記金属硫酸塩とは硫酸の水素が金属もしくはアンモニウムイオンで置換された塩をいい、例えば、単金属硫酸塩、ミョウバン、金属アンモニウム塩、複核金属硫酸塩、硫酸水素塩等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2以上を混合して用いても良い。
【0024】
前記単金属硫酸塩とは、単一の金属からなる硫酸塩をいい、例えば、硫酸金、硫酸銀、硫酸銅、硫酸鉛、硫酸ニオブ、硫酸ニッケル、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸カドミウム、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸ジルコニウム、硫酸バナジウム、硫酸クロム、硫酸マンガン、硫酸鉄、硫酸水銀、硫酸コバルト、硫酸イットリウム、硫酸イリジウム、硫酸アンチモン、硫酸インジウム、硫酸カリウム、硫酸ウラン、硫酸エルビウム、硫酸カドミウム、硫酸ガドリニウム、硫酸ガリウム、硫酸サマリウム、硫酸スカンジウム、硫酸ストロンチウム、硫酸タリウム、硫酸チタン、硫酸スズ、硫酸セシウム、硫酸セリウム、硫酸トリウム、硫酸ナトリウム、硫酸ネオジム、硫酸ネプツニウム、硫酸白金等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2以上を混合して用いても良い。
【0025】
前記ミョウバンとは、M3+(SO3・M1+SO・24HOで表される複塩をいい、MIに相当する1価金属にはNa、K、Rb、Cs、NH、Tl1+等が挙げられ、M3+に相当する3価金属にはAl、Ga、In、Ti3+、V3+、Cr3+、Mn3+、Fe3+、Co3+、Rh3+、Ir3+等が挙げられる。これらの組み合わせとしては例えば、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸ニッケルアンモニウム、硫酸アルミニウムセシウム、硫酸アルミニウムタリウム、硫酸アルミニウムナトリウム、硫酸アルミニウムメチルアンモニウム、硫酸アルミニウムルビジウム等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2以上を混合して用いても良い。
【0026】
前記金属アンモニウム塩とは金属とアンモニアとの硫酸塩をいい、広義には一部のミョウバンも含まれるが、本発明においてはミョウバンを除くものをいう。例えば、硫酸アンモニウムナトリウム、硫酸インジウムアンモニウム、硫酸イリジウムアンモニウム、硫酸コバルトアンモニウム、硫酸カドミウムアンモニウム、硫酸スカンジウムアンモニウム、硫酸銅アンモニウム、硫酸ガリウムアンモニウム、硫酸クロム(III)アンモニウム、硫酸トリウムアンモニウム、硫酸セリウムアンモニウム、硫酸鉄アンモニウム、硫酸チタンアンモニウム、硫酸イットリウムアンモニウム等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2以上を混合して用いても良い。
【0027】
前記複核金属硫酸塩とは複数の金属を含有する硫酸塩をいい、広義には一部のミョウバンや前記金属アンモニウム塩も含まれるが、本発明においてはミョウバン及び金属アンモニウム塩を除くものをいう。例えば、硫酸イットリウムカリウム、硫酸イットリウムナトリウム、硫酸イリジウムカリウム、硫酸ニッケルカリウム、硫酸ニッケルセシウム、硫酸ニッケルタリウム、硫酸ニッケルナトリウム、硫酸ニッケルルビジウム、硫酸イリジウムセシウム、硫酸亜鉛カリウム、硫酸イリジウムタリウム、硫酸ナトリウムカリウム、硫酸銅カリウム、硫酸銅セシウム、硫酸銅タリウム、硫酸銅ナトリウム、硫酸銅ルビジウム、硫酸イリジウムルビジウム、硫酸ウラニル、硫酸ウラニルナトリウム、硫酸塩化マグネシウムカリウム、硫酸鉄カリウム、硫酸鉄セシウム、硫酸鉄タリウム、硫酸鉄ルビジウム、硫酸トリウムカリウム、硫酸カドミウムカリウム、硫酸ガドリニウムカリウム、硫酸バリウム、硫酸ガリウムカリウム、硫酸ガリウムセシウム、硫酸ガリウムルビジウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウムカリウム、硫酸カルシウムナトリウム、硫酸クロム(III)カリウム、硫酸クロムルビジウム、硫酸チタンカリウム、硫酸コバルトセシウム、硫酸コバルトタリウム、硫酸コバルトルビジウム、硫酸スカンジウムカリウム、硫酸スカンジウムナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2以上を混合して用いても良い。
【0028】
前記硫酸水素塩とは硫酸の水素が半分だけ金属で置換された硫酸塩をいい、例えば、硫酸水素カリウム、硫酸水素カルシウム、硫酸水素ストロンチウム、硫酸水素セシウム、硫酸水素タリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素鉛、硫酸水素バナジウム、硫酸水素バリウム、硫酸水素ビスマス、硫酸水素マグネシウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素ルビジウム、硫酸水素ロジウム等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2以上を混合して用いても良い。
【0029】
前記金属硫酸塩は好ましくは多価金属の硫酸塩であり、より好ましくは3価の金属の硫酸塩であり、最も好ましくはアルミニウムの硫酸塩である。多価金属とは、2価以上の原子価を示す金属をいう。金属硫酸塩が多価金属の硫酸塩であることにより、金属イオンと硫酸イオンの架橋的三次元構造を形成することができるため、再結晶化による結合力に優れるとともに、触媒活性を有するため、火災時の燃焼熱による金属(硫酸塩由来)−イオウ−金属(酸化物由来)−酸素を含有するガラス質の焼成化合物(前記組成例においては、アルミニウム−イオウ−チタン−酸素の焼成化合物)の生成を助けることができる。
【0030】
このことにより、火災時の燃焼熱にさらされた状態の耐火被覆材の形状保持性に優れるため、火災による家財等の倒壊により、耐火被覆材によって被覆された鉄骨構造に衝撃が加わった場合でも、その形状を保持することができ、脱落・欠損による鉄骨構造体の急激な温度上昇を抑制することができる。
【0031】
また、前記金属硫酸塩が3価金属の硫酸塩であることにより、耐火被覆材の粉末を水に溶解して再結晶化させる場合に、金属硫酸塩に配位する結晶水の数が適度なものとなるため、凝結による膨張クラックが生じにくい。
【0032】
さらに、前記金属硫酸塩がアルミニウムの硫酸塩であることにより、火災時の燃焼熱によって酸化アルミニウムを生成し、これが触媒として作用することによって前記焼成化合物の生成を助けることができるので、火災時の燃焼熱にさらされた状態の耐火被覆材の形状保持性に優れる。また、生成した酸化アルミニウムが火災の輻射熱を反射するため、鉄骨構造体の温度上昇を抑制することができる。
【0033】
前記アルミニウムの硫酸塩としては例えば、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムセシウム、硫酸アルミニウムタリウム、硫酸アルミニウムナトリウム、硫酸アルミニウムメチルアンモニウム、硫酸アルミニウムルビジウム等が挙げられる。これらのうち、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウムを用いることが好ましい。硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウムを用いることにより、耐火被覆材の粉末を水に溶解して再結晶化させる場合に、金属硫酸塩に配位する結晶水の数が適度なものとなるため、凝結による膨張クラックが生じにくい。
【0034】
前記アルミニウムの硫酸塩として硫酸アルミニウムを用いることにより、金属(硫酸塩由来)−イオウ−金属(酸化物由来)−酸素の焼成化合物間の結合が適度なものとなり、火災時の燃焼熱によって蒸発する結晶水によって耐火被覆材が発泡することを妨げない。その結果、形状保持性に優れた強固な断熱層を形成することができ、より耐火性能に優れる。
【0035】
前記金属硫酸塩がアルミニウムの硫酸塩である場合には、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩を含有することが好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩を含有することにより、アルミニウムの硫酸塩とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩とが火災時の燃焼熱により溶融して反応し、二酸化炭素を発生することによって、火災を消化することができる。該二酸化炭素は耐火被覆材を発泡させて断熱層を形成することができるため、耐火性能に優れる。また、火災時の燃焼熱によりゲル状の水酸化アルミニウムが生じて二酸化炭素の気泡に粘性を付与することにより、発泡した耐火被覆材の形状保持性に優れる。
【0036】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩としては例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸バリウム、ホウ酸カリウム等のホウ酸塩等の無機酸塩、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸リチウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸バリウム、クエン酸カリウム等のクエン酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸リチウム、酢酸マグネシウム、酢酸バリウム、酢酸カリウム等の酢酸塩、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸バリウム、シュウ酸カリウム等のシュウ酸塩、酒石酸ナトリウム、酒石酸カルシウム、酒石酸リチウム、酒石酸マグネシウム、酒石酸バリウム、酒石酸カリウム等の酒石酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
【0037】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩の表面は、酸に不活性な物質で被覆されていることが好ましく、合成樹脂により被覆されていることがより好ましい。酸に不活性な物質で被覆することにより、耐火被覆材の粉体を水で練ったときにアルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩と金属硫酸塩とが反応することを抑制することができる。合成樹脂で被覆することにより、被覆の容易性に優れる。
【0038】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩の表面の被覆方法は特に限定されない。例えば、界面重合法、in situ重合法、液中硬化被覆法、コアセルベーション法、界面沈殿法、スプレードライング法、無機質壁カプセル化技法など公知の被覆方法を用いることができる。
【0039】
前記耐火被覆材100重量部に占める金属硫酸塩の含有量は好ましくは30〜90重量部、より好ましくは40〜80重量部、最も好ましくは50〜70重量部である。この範囲にあるとき、耐火被覆材の常温時及び火災時の燃焼熱にさらされた時の形状保持性に優れる。耐火被覆材100重量部に占める金属硫酸塩の含有量が30重量部未満の場合には、耐火被覆材を構成する組成物同士の結合力が弱く、常温時の形状保持性が十分でないとともに、吸熱量が少ないために耐火性能が十分でない。逆に90重量部を超える場合には、火災時の燃焼熱により発泡した発泡層の形状保持性が十分でないため、脱落してしまうおそれがある。
【0040】
前記耐火被覆材が金属酸化物を含有することにより、火災時の燃焼熱にさらされた場合に輻射熱を反射するとともに、該金属酸化物が触媒としての役割を果たすことで焼成化合物中にイオウ原子を取り込んで金属(硫酸塩由来)−イオウ−金属(酸化物由来)−酸素の焼成化合物を生成し、有毒なSOxガスを生じにくい。また余分に生じたSOxガスは還元分解されると考えられる。さらに、金属(硫酸塩由来)−イオウ−金属(酸化物由来)−酸素の焼成化合物の形状保持性に優れる。
【0041】
前記金属酸化物は多価金属の酸化物であることが好ましい。多価金属の酸化物としては例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化金、酸化銀、酸化銅、酸化鉛、酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化マグネシウム、酸化カドミウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化水銀、酸化コバルト、酸化イットリウム、酸化イリジウム、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化白金、酸化パラジウム、酸化ルテニウム、酸化ランタン,酸化コバルトランタン、酸化鉄ランタン,酸化コバルトストロンチウム等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2以上を混合して用いても良い。前記金属酸化物が多価金属の酸化物であることにより、触媒活性を持つとともに、既に十分に酸化されているため、火災時の燃焼熱による酸化反応を受けにくいので、酸化熱によって鉄骨構造の温度を上昇させるおそれが小さい。
【0042】
前記多価金属の酸化物は好ましくは2価〜6価の金属の酸化物、より好ましくは3価〜4価の金属の酸化物である。多価金属の酸化物が2価〜6価の金属の酸化物であることにより、触媒活性に優れる。2価〜6価の金属の酸化物としては例えば、二酸化チタン(4価)、酸化亜鉛(2価)、酸化アルミニウム(3価)、酸化銅(2価)、三酸化二鉄(3価)等が挙げられる。
【0043】
前記金属酸化物の表面は常温で不活性な保護剤で被覆されていることが好ましい。保護剤で被覆することにより、常温で水と混合した際に金属硫酸塩と金属酸化物とが化学反応することを抑制することができる。保護剤としては例えば、アルミナ、二酸化ケイ素、トリエタノールアミン等のアミン類、シリコーンオイル等のシロキサン類、ラウリン酸等の脂肪酸類等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2以上を混合して用いても良い。これらのうち、アルミナ又は二酸化ケイ素を用いることが好ましい。アルミナ又は二酸化ケイ素を用いることにより、金属酸化物の表面が親水性となって、水との混合が容易になる。
【0044】
前記保護剤の金属酸化物の表面への被覆方法は特に限定されない。例えば、界面重合法、in situ重合法、液中硬化被覆法、コアセルベーション法、界面沈殿法、スプレードライング法、無機質壁カプセル化技法など公知の被覆方法を用いることができる。保護剤としてアルミナ又は二酸化ケイ素を被覆する場合には、金属酸化物の懸濁液にその可溶性塩類(例えば、アルミナの場合には硫酸アルミニウム、二酸化ケイ素の場合には珪酸ナトリウム)を添加し、中和することによって被覆することもできる。
【0045】
前記多価金属の酸化物のバンドギャップは好ましくは1.0eV〜10.0eV、より好ましくは2.3eV〜8.3eV、最も好ましくは3.0eV〜5.8eVである。バンドギャップがこの範囲にあるとき、金属酸化物の価電子帯電子が火災時の燃焼熱によって伝導帯へと移り、優れた触媒活性を呈する。バンドギャップが1.0eV未満の場合には、波長が800nm以下の弱い光にも応答してしまうため、屋内においても耐火被覆材中の有機物が分解されやすくなる。逆に10.0eVを超える場合には、火災時の燃焼熱によっても十分な触媒活性を呈しない。
【0046】
前記バンドギャップが上記範囲にある多価金属の酸化物としては例えば、酸化チタン(ルチル型:3.0eV、アナターゼ型:3.2eV)、酸化亜鉛(3.2eV)、酸化カドミウム(2.1eV)、酸化鉄(2.2eV)、酸化タングステン(2.5eV)、酸化スズ(3.5eV)、酸化ジルコニウム(5.0eV)等が挙げられる。これらのうち、酸化チタン又は酸化亜鉛を用いることが好ましく、酸化チタンを用いることが最も好ましい。酸化チタン又は酸化亜鉛を用いることにより、赤外光を反射して温度上昇を抑制する作用に優れる。また、酸化チタンを用いることにより、隠ぺい力に優れるため、耐火被覆材を着色する場合の着色顔料の添加量を抑制することができる。
【0047】
前記多価金属の酸化物のバンドギャップが3.0eV未満の場合には、可視光では価電子帯電子が励起するおそれがあるため、耐火被覆材に混合した合成樹脂、繊維等の有機物が励起された電子によって分解されることを抑制するために、耐火被覆材表面に光遮断層を設ける必要がある。逆にバンドギャップが5.8eVを超える場合には、金属硫酸塩としてアルミニウムの硫酸塩を使用した場合における断熱層の形成が十分でない。
【0048】
前記金属硫酸塩100重量部に対する金属酸化物の含有量は好ましくは5〜200重量部、より好ましくは10〜150重量部、最も好ましくは30〜100重量部である。この範囲にあるとき、金属(硫酸塩由来)−イオウ−金属(酸化物由来)−酸素の構成比率が最適となるため、火災の炎にさらされた後、ガラス質となった耐火被覆材の形状保持性に優れる。また、前記金属硫酸塩100重量部に対する金属酸化物の含有量が10〜150重量部の場合には、上記効果に加えて、火災による輻射熱を有効に反射することができるため、耐火性能に優れる。
【0049】
前記耐火被覆材は還元ガス発生剤を含有することが好ましい。還元ガス発生剤を含有することにより、金属硫酸塩の分解により発生するSOxガスを無害なイオウに還元することができる。
【0050】
前記還元ガス発生剤としては例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール等の多価アルコール、アクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル酸塩、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチルセルロース、硝酸セルロース、ポリメチルメタクリレート樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、酢酸フタル酸セルロース、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体樹脂、ポリビニルホルマール樹脂等の合成樹脂、でんぷん、ショ糖等の炭酸ガス発生剤、メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾジカルボンアミド、尿素、チオ尿素等の窒素ガスもしくはアンモニアガス発生剤等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2以上を混合して用いても良い。
【0051】
前記還元ガス発生剤はメラミン及びその誘導体を用いることが好ましい。メラミン及びその誘導体を用いることにより、還元ガスとしてのアンモニアガスを発生するため、SOxガスの還元性能に優れる。
【0052】
前記耐火被覆材100重量部に対して、有機物が占める量は好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、最も好ましくは3重量部以下である。この範囲にあるとき、火災時の燃焼熱により耐火被覆材自体が発する熱量を抑制することができる。耐火被覆材100重量部に対して、有機物が占める量が10重量部を超える場合には、耐火被覆材自体の発熱によって基材としての鉄骨の温度を上昇させてしまうおそれがある。
【0053】
前記繊維は耐火被覆材のひび割れを抑制するために使用される。アクリル樹脂繊維に限らず、任意に設定することができる。例えばアクリル繊維、ビニロン樹脂繊維等の合成樹脂繊維、パルプ、綿、絹、羊毛等の天然繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、カーボン繊維等の無機繊維等が挙げられる。これらのうち、無機繊維を使用することにより、火災発生前のひび割れを抑制するとともに、熱によっても変性しないため、火災時の燃焼熱による耐火被覆材のひび割れをも抑制することができる。
【0054】
前記凝結遅延剤は金属硫酸塩としてのアルミニウムの硫酸塩の再結晶化速度を制御するために用いられる。凝結遅延剤としては例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸塩、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等のクエン酸塩等の有機弱酸のアルカリ金属塩、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等の無機弱酸のアルカリ金属塩、クエン酸、酢酸、ホウ酸、アルギン酸等の弱酸、血液、寒天等のコロイド溶液等が挙げられる。
【0055】
前記金属硫酸塩として硫酸アルミニウムを用いる場合には、再結晶化速度が速いため、凝結遅延剤を用いることが好ましい。凝結遅延剤を用いることにより、再結晶化速度を抑制することができるため、施工作業を開始してから終了するまでの間、再結晶しないように調整することができる。
【0056】
前記金属硫酸塩として硫酸アルミニウムを用いる場合には、凝結遅延剤としてアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸塩、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等のクエン酸塩等の有機弱酸のアルカリ金属塩、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等の無機弱酸のアルカリ金属塩を用いることが好ましい。これらを用いることにより、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウム中のアルミニウムイオンと凝結遅延剤中のアルカリ金属イオンとが置換し、該アルカリ金属イオンが全て消費されるまでは硫酸アルミニウムの再結晶を阻害することができる。
【0057】
前記増粘剤は耐火被覆材を施工する際に適度な粘性を付与することにより、適度な作業性を与えるために用いられ、通常の建築仕上材に使用されるものを任意に設定することができる。
【0058】
前記粉末樹脂は耐火被覆材に鉄骨構造体に対する付着性を付与するとともに、弾性を付与するために用いられ、通常の建築仕上材に使用されるものを任意に設定することができる。また、粉末の状態ではなくエマルジョンの状態で使用しても良い。
【0059】
前記耐火被覆材は軽量骨材を含有することが好ましい。軽量骨材を含有することにより耐火被覆材が全体として軽量化されるため、耐火被覆材が火災時の燃焼熱にさらされ、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウムが溶融し流動化した段階において、自重によって生じるダレを抑制することができる。
【0060】
前記軽量骨材としては例えば、パーライト、バーミキュライト、ひる石、シラスバルーン等の無機軽量骨材、発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン等の有機軽量骨材等が挙げられる。
【0061】
前記耐火被覆材100重量部中において軽量骨材が占める割合は好ましくは3〜20重量部、より好ましくは5〜15重量部、最も好ましくは8〜12重量部である。この範囲にあるとき、耐火被覆材が火災時の燃焼熱にさらされて流動化した段階において生ずるダレを抑制することができる。
【0062】
前記耐火被覆材100重量部中において軽量骨材が占める割合が3重量部未満の場合には、耐火被覆材が火災時の燃焼熱にさらされて流動化することにより、自重に耐え切れずダレが生ずるおそれがある。逆に20重量部を超える場合には、相対的な金属硫酸塩の料が不足することにより耐火性能が十分でない。
【0063】
前記耐火被覆材100重量部中において軽量骨材が占める割合が5〜15重量部である場合には、軽量骨材とその他の組成物との比率が最適となるため、受熱が不均一である場合に耐火被覆材の膨張速度の差異から生ずるクラックを抑制することができる。
【0064】
以上のように構成された耐火被覆材は次のように施工される。まず始めに、施工現場において耐火被覆材を混練水としての水と混合し、圧送機としてのモルタルポンプを用いて、鉄骨構造体としての300×300×9mmの角形鋼管の外表面に被覆厚8mmで吹付け施工する。施工後、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウムの再結晶により、耐火被覆材が硬化し、耐火被覆された鉄骨構造体を得る。該再結晶により、硫酸アルミニウムは18水塩となる。
【0065】
前記混練水量は耐火被覆材100重量部に対して、好ましくは30〜150重量部、より好ましくは50〜120重量部、最も好ましくは60〜100重量部である。この範囲にあるとき、耐火被覆材に適度な流動性を付与することができるとともに、水の界面張力によって鉄骨構造体への付着力を付与することができる。混練水量が30重量部未満の場合には、耐火被覆材は流動性に欠けるため吹付が困難になるとともに、付着力が低下する。逆に150重量部を超える場合には、流動性が過多となり、タレが生じて所定の被覆厚を形成するための吹付施工回数が増加する。混練水量が50〜120重量部の範囲にある場合には、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウムに結晶水として配位されなかった水分が揮発した後、耐火被覆材に適度な空隙を形成し、火災時の燃焼熱により発生する水蒸気の通り道となるため、耐火被覆材のひび割れを抑制することができる。
【0066】
前記圧送機はモルタルポンプに限らず、耐火被覆材を圧力により排出するものであれば任意に設定することができる。圧送機を使用することにより、施工速度を向上することができる。
【0067】
前記被覆厚は耐火被覆材の耐火性能、法律等で要求される耐火時間、鉄骨構造体の形状等に応じて異なる。従来の耐火被覆材が必要とする建築基準法の1時間耐火に相当する被覆厚が20〜50mmであるのに対して、本実施形態の場合には、1時間耐火に相当する被覆厚は8mmであり、2時間耐火に相当する被覆厚は15mmである。
【0068】
前記施工は吹付けに限らず、コテ塗り、ハケ塗り等、建築仕上材の施工に用いられる通常の施工方法を用いることができる。また、耐火被覆材を水と混練して板状に成形し、ビス等により鉄骨構造体に固定しても良い。
【0069】
以上のように構成された耐火被覆材により被覆された鉄骨構造体が火災時の燃焼熱にさらされると、鉄骨構造体の温度が上昇する。耐火被覆材の内部温度が約50℃に到達した段階から、該耐火被覆材の組成中、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウムの結晶水が脱離し、蒸発する際に吸熱反応によって温度上昇を抑制する。その結果、鉄骨構造体の温度は約100℃に保たれる。同時に、金属酸化物が火災による輻射熱を反射するとともに、アルミニウム(硫酸塩由来)−イオウ−チタン(酸化物由来)−酸素を含有する焼成化合物を生成する。さらに、溶融状態となった耐火被覆材は結晶水の蒸気圧によって発泡し、断熱層を形成する。該断熱層はアルミニウム(硫酸塩由来)−イオウ−チタン(酸化物由来)−酸素の焼成化合物を含有し、これに還元ガス発生剤としてのメラミンが分解し、アンモニアガスを発生することにより、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウムから硫化物を生成するSOxの発生が抑制される。
【0070】
その結果、火災時の燃焼熱の鉄骨構造体への伝達速度が抑制され、ISO834の標準加熱曲線に従って鉄骨構造体を加熱した場合において、耐火被覆材を被覆厚さ8mmで被覆した鉄骨構造体が500℃に達する時間を1時間以上とすることができる。500℃は荷重がかけられた鉄骨構造体が崩壊する温度である。従って、従来の耐火被覆材が必要とする被覆厚である20〜50mmに比べて耐火被覆材の被覆厚を低減することができる。
【0071】
前記発泡断熱層は、アルミニウム(硫酸塩由来)−イオウ−チタン(酸化物由来)−酸素を含有するガラス質の焼結体であるため、形状保持性に優れ、火災時の燃焼熱にさらされた後に家財棟の倒壊により、発泡断熱層に衝撃が加わった場合においても、耐火被覆材はその形状を保つことができる。
【0072】
本実施形態は以下に示す効果を発揮することができる。
・前記耐火被覆材が金属硫酸塩を含有することにより、耐火被覆材の粉末を水に溶解した際、再結晶化させることができる。この再結晶化により、金属硫酸塩を結合剤として作用させることができるとともに、結晶水を含有させることができるため、耐火性能に優れる。すなわち、所定の耐火性能を得るための被覆厚を薄くすることができる。
【0073】
・前記金属硫酸塩が多価金属の硫酸塩であることにより、火災時の燃焼熱にさらされた状態の耐火被覆材の形状保持性に優れるため、脱落・欠損による鉄骨構造体の急激な温度上昇を抑制することができる。
【0074】
・前記金属硫酸塩が3価金属の硫酸塩であることにより、耐火被覆材の粉末を水に溶解して再結晶化させる場合に、金属硫酸塩に配位する結晶水の数が適度なものとなるため、凝結による膨張クラックが生じにくい。
【0075】
・前記金属硫酸塩がアルミニウムの硫酸塩であることにより、火災時の燃焼熱によって酸化アルミニウムを生成し、これが触媒として作用することによって前記焼成化合物の生成を助けることができるので、火災時の燃焼熱にさらされた状態の耐火被覆材の形状保持性に優れる。また、生成した酸化アルミニウムが火災の輻射熱を反射するため、鉄骨構造体の温度上昇を抑制することができる。
【0076】
・前記アルミニウムの硫酸塩として硫酸アルミニウムを用いることにより、形状保持性に優れた強固な断熱層を形成することができ、より耐火性能に優れる。
【0077】
・前記金属硫酸塩がアルミニウムの硫酸塩である場合には、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩を含有することにより、二酸化炭素を発生させることによって耐火被覆材をより発泡させて断熱層を形成することができるため、耐火性能に優れる。
【0078】
・前記耐火被覆材が金属酸化物を含有することにより、火災時の燃焼熱にさらされた場合に輻射熱を反射するとともに、該金属酸化物が触媒としての役割を果たすことで焼成化合物中にイオウ原子を取り込んで金属(硫酸塩由来)−イオウ−金属(酸化物由来)−酸素を含有する焼成化合物を生成するため、有毒なSOxガスを生じにくい。
【0079】
・前記金属酸化物が多価金属の酸化物であることにより、触媒活性を持つとともに、既に十分に酸化されているため、火災時の燃焼熱による酸化反応を受けにくいので、酸化熱による鉄骨構造の温度上昇を抑制することができる。
【0080】
・前記金属硫酸塩100重量部に対する金属酸化物の含有量が5〜200重量部であることにより、金属(硫酸塩由来)−イオウ−金属(酸化物由来)−酸素の構成比率が最適となるため、耐火被覆材の形状保持性に優れる。
【0081】
・前記耐火被覆材が炭化剤を含有することにより、高温により溶解した状態でも適度な粘性を保つことができるため、火災時の燃焼熱にさらされている状態において耐火被覆材の鉄骨構造体に対する付着力に優れる。
【0082】
・前記耐火被覆材が炭化剤を含有することにより、該炭化剤が還元剤として機能し、金属硫酸塩から硫化物を生成してSOxガスの発生をより抑制することができる。
【0083】
なお、本発明の前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記実施形態においては耐火被覆材の組成として凝結遅延剤を使用したが、使用しなくとも良い。逆に再結晶を促進させたい場合には、凝結促進剤を用いても良い。硬化促進剤としては例えば、塩化ナトリウム、硫酸カリウム等が挙げられる。塩化ナトリウム水溶液は6〜8%の濃度で使用した場合には凝結促進剤として作用し、16%を超えると凝結遅延剤として作用させることができる。
このように構成した場合、耐火被覆材の凝結時間を制御することができる。
【0084】
・前記実施形態においては、耐火被覆材を角形鋼管に施工したが、H形鋼、丸形鋼管、等辺山形鋼等、任意の形状の鉄骨構造体に施工しても良い。また、コンクリート等に施工しても良い。
【0085】
・前記実施形態においては耐火被覆材の組成として増粘剤を使用したが、使用しなくとも良い。
【0086】
・前記実施形態においては耐火被覆材の組成として粉末樹脂を使用したが、使用しなくとも良い。
【0087】
次に、前記実施形態から把握される請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に記載する。
(1)前記金属硫酸塩がアルミニウムの硫酸塩であり、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の弱酸塩を含有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の耐火被覆材。
このように構成した場合、二酸化炭素を発生させることにより耐火被覆材をより発泡させて断熱層を形成させることができるため、耐火性能に優れる。
【0088】
(2)前記金属硫酸塩が硫酸アルミニウムであり、前記金属酸化物が酸化チタンであることを特徴とする請求項1〜請求項5又は上記(1)のいずれか一項に記載の耐火被覆材。
このように構成した場合、形状保持性に優れた強固な断熱層を形成することができるとともに、赤外光を反射して温度上昇を抑制する作用に優れるため、より耐火性能に優れる。
【0089】
(3)火災時の燃焼熱により発泡し、ガラス質の断熱層を形成することを特徴とする耐火被覆材。
このように構成した場合、発泡断熱層の形状保持性に優れる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例についての比較試験により、従来の技術に比べた本発明の顕著な効果を説明する。
試験は実施例及び比較例の耐火被覆材100重量部を混練水量50重量部により混練し、300mm×300mm×9mm、長さ1000mmの角形鋼管にコテ塗りによって施工し、常温で含水率が恒量となるまで放置して試験体とした。この際の被覆厚は5mm、10mm、15mm、20mmとした。
【0091】
その後、試験体をISO834に規定されている標準加熱曲線により加熱して、試験体の裏面温度を500℃以下に保持できる時間が1時間以上となる最低の被覆厚を決定した。また、加熱終了後、被覆厚10mmの試験体を用いて、重さ50gの鉄球を30cmの高さから試験体の耐火被覆材施工面に垂直に落下させ、貫通深さをノギスによって測定することによって加熱終了後の耐火被覆材の形状保持性を確認した。
【0092】
(実施例1)
実施例1の耐火被覆材の組成は、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウム500重量部、増粘剤1重量部、繊維としてのアクリル繊維5重量部である。
【0093】
試験の結果、試験体の裏面温度を1時間の間500℃以下に保持できる最低の被覆厚は15mmであった。また、加熱終了後の被覆厚10mmの耐火被覆材は厚み29mmのガラス質の発泡体となっており、鉄球の貫通深さは25mmであった。
【0094】
(実施例2)
実施例2の耐火被覆材の組成は、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウム900重量部、金属酸化物としての二酸化チタン100重量部、増粘剤1重量部である。
【0095】
試験の結果、試験体の裏面温度を1時間の間500℃以下に保持できる最低の被覆厚は5mmであった。また、加熱終了後の被覆厚10mmの耐火被覆材は厚み52mmのガラス質の発泡体となっており、鉄球の貫通深さは10mmであった。
【0096】
(実施例3)
実施例3の耐火被覆材の組成は、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウム700重量部、金属酸化物としての酸化亜鉛300重量部、増粘剤1重量部、粉末樹脂10重量部である。
【0097】
試験の結果、試験体の裏面温度を1時間の間500℃以下に保持できる最低の被覆厚は10mmであった。また、加熱終了後の被覆厚10mmの耐火被覆材は厚み33mmのガラス質の発泡体となっており、鉄球の貫通深さは18mmであった。
【0098】
(実施例4)
実施例4の耐火被覆材の組成は、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウムアンモニウム500重量部、金属酸化物としての酸化アルミニウム500重量部、増粘剤1重量部、繊維としてのアクリル繊維5重量部である。
【0099】
試験の結果、試験体の裏面温度を1時間の間500℃以下に保持できる最低の被覆厚は10mmであった。また、加熱終了後の被覆厚10mmの耐火被覆材は厚み25mmのガラス質の発泡体となっており、鉄球の貫通深さは15mmであった。
【0100】
(比較例1)
比較例1の耐火被覆材の組成は、普通ポルトランドセメント100重量部、パーライト100重量部、粉末樹脂5重量部、繊維としてのガラス繊維10重量部、増粘剤5重量部である。
【0101】
試験の結果、被覆厚20mmの場合でも試験体の裏面温度を1時間の間500℃以下に保持することができなかった。また、加熱終了後の被覆厚10mmの耐火被覆材の厚みには変化がなく、鉄球の貫通深さは7mmであった。
【0102】
(比較例2)
比較例2の耐火被覆材の組成は、普通ポルトランドセメント100重量部、バーミキュライト100重量部、水酸化アルミニウム500重量部、粉末樹脂5重量部、繊維としてのアクリル繊維5重量部、増粘剤1重量部である。
【0103】
試験の結果、試験体の裏面温度を1時間の間500℃以下に保持できる最低の被覆厚は20mmであった。また、加熱終了後の被覆厚10mmの耐火被覆材の厚さには変化がなく、鉄球の貫通深さは10mmであった。
【0104】
(比較例3)
比較例3の耐火被覆材の組成は、結合剤としてのアクリル樹脂エマルジョン100重量部、炭化層形成剤としてのペンタエリスリトール100重量部、発泡剤としてのポリ燐酸アンモニウム100重量部、発泡剤としてのメラミン100重量部、増粘剤5重量部、希釈剤としての水100重量部である。
【0105】
試験の結果、試験体の裏面温度を1時間の間500℃以下に保持できる最低の被覆厚は3.0mmであった。また、加熱終了後の被覆厚10mmの耐火被覆材は厚み120mmの疎な発泡体となっており、鉄球の貫通深さは120mmで完全に貫通した。
【0106】
(比較例4)
比較例4の耐火被覆材の組成は、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウム500重量部、金属酸化物としての酸化アルミニウム1200重量部、増粘剤1重量部、繊維としてのアクリル繊維5重量部である。
【0107】
試験の結果、試験体の裏面温度を1時間の間500℃以下に保持できる最低の被覆厚は15mmであった。また、加熱終了後の被覆厚10mmの耐火被覆材は厚み20mmのガラス質の発泡体となっており、鉄球の貫通深さは16mmであった。
【0108】
(比較例5)
比較例5の耐火被覆材の組成は、金属硫酸塩としての硫酸アルミニウム500重量部、金属酸化物としての酸化アルミニウム20重量部、増粘剤1重量部、繊維としてのアクリル繊維5重量部である。
【0109】
試験の結果、試験体の裏面温度を1時間の間500℃以下に保持できる最低の被覆厚は15mmであった。また、加熱終了後の被覆厚10mmの耐火被覆材は厚み31mmのガラス質の発泡体となっており、鉄球の貫通深さは24mmであった。
【0110】
なお、本明細書に記載されている技術的思想は以下に示す発明者により創作された。
段落番号[0001]〜[0109]に記載されている技術的思想は加藤圭一により創作された。また、願書に添付した特許請求の範囲、明細書の著作者は加藤圭一である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災時の燃焼熱から鉄骨構造を保護する耐火被覆材において、該耐火被覆材が金属硫酸塩を主たる結合材とすることを特徴とする耐火被覆材。
【請求項2】
金属酸化物を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐火被覆材。
【請求項3】
前記金属硫酸塩が多価金属の硫酸塩であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐火被覆材。
【請求項4】
前記多価金属がアルミニウムであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の耐火被覆材。
【請求項5】
前記金属硫酸塩100重量部に対して金属酸化物の含有量が5〜200重量部であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の耐火被覆材。
【請求項6】
前記耐火被覆材が還元ガス発生剤を含有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の耐火被覆材。

【公開番号】特開2006−143875(P2006−143875A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335633(P2004−335633)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】