説明

耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板

【課題】850℃超の高温でも高い耐熱性を有するフェライト系ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】質量%にて、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:0.30%以下、Mn:0.10〜1.00%、Cr:16.5〜20.0%、Nb:0.50超〜0.80%、Mo:2.00〜3.50%、W:0.05〜1.50%、Cu:1.00〜2.00%、O:0.001〜0.01%、さらに2.3≦Mo+W≦3.5%を満たす耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。B:0.0015%以下、Mg:0.0050%以下、Ni:1.0%以下、Al:1.0%以下、V:0.50%以下、Sn:0.50%以下、Hf:0.5%以下、Zr:0.5%以下、Ta:1.0%以下を加えても良い。鋼中のNbを主相とした粒子径0.2μm以上の酸化物が10個/25μm2以上でそのうち粒子径が1μm超のものが5個/25μm2以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、特に熱疲労特性が必要な排気系部材などの使用に最適な耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエキゾーストマニホールドなどの排気系部材は、エンジンから排出される高温の排気ガスを通すため、排気部材を構成する材料には高温強度、耐酸化性、熱疲労特性など多様な特性が要求され、耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼が用いられている。
【0003】
排ガス温度は、車種によって異なるが、近年では800〜900℃程度が多く、エンジンから排出される高温の排気ガスを通すエキゾーストマニホールドの温度は750〜850℃と高温となる。しかし、近年の環境問題の高まりから、さらなる排ガス規制の強化、燃費向上が進められており、排ガス温度はさらに1000℃まで高温化するものと考えられている。
【0004】
近年使用されているフェライト系ステンレス鋼には、SUS429(Nb−Si添加鋼)、SUS444(Nb−Mo添加鋼)があり、Nb添加を基本に、Si、Moの添加によって高温強度を向上させるものである。この中で、SUS444は2%程度のMoを添加するため、最も高強度である。しかし、排ガス温度の900℃超の高温化にSUS444では対応不可であり、SUS444以上の耐熱性を有するフェライト系ステンレス鋼が要望されている。
【0005】
このような要望に対して、様々な排気系部材の材料が開発されている。例えば、特許文献1には、Alの含有量を鋼中のO含有量との関係において厳格に規定することで、溶接部の靭性に優れ、かつ、適正造管条件の自由度を広く確保できる技術が開示されているが、この場合のAl添加は、Al23やAlNを生成して内部へOやNが拡散するのを抑制し、二次加工性を改善させるためであり、熱疲労特性向上のための添加ではない。特許文献2には、熱疲労特性向上のために長径0.5μm以上のCu相が10個/25μm2以下、かつ長径0.5μm以上のNb化合物相が10個/25μm2以下に制御する方法が検討されているが、ラーベス(Laves)相やε―Cu相の粗大析出物のみが規定されており、その他の析出物に関しては開示がない。特許文献3,4には、析出物量を規定することでNb,Moの固溶強化の他にCuの固溶強化、ε−Cu相による析出強化により、SUS444以上の高温強度にする方法が開示されているが、熱疲労特性と高温強度との関係は開示されていない。特許文献5,6には、Nb,Mo,Cu添加以外にW添加を行う技術が開示されている。特許文献5では、Cu、Nb、Mo、Wの固溶強化を用いる方法が開示されているが、析出物との関係については開示がない。特許文献6では穴拡げ率の向上のため、Laves相やε−Cu相の析出を抑制させる技術が開示されているが、加工性の向上のためであり、耐熱性の観点からではない。
【0006】
発明者らは、直近、特許文献7において、Nb−Mo−Cu−Ti−Bの複合添加により、Laves相およびε−Cu相を微細分散させ、850℃で優れた高温強度を得る技術を開示している。
【0007】
以上より、排気系部材の耐熱性向上のための析出物制御に関する従来知見は、主にLaves相やε−Cu相、あるいはAl析出物に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−144199号公報
【特許文献2】特開2008−189974号公報
【特許文献3】特開2009−120893号公報
【特許文献4】特開2009−120894号公報
【特許文献5】特開2009−197305号公報
【特許文献6】特開2009−197307号公報
【特許文献7】特開2009−215648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のフェライト系ステンレス鋼においては、850℃よりも高い温度域で使用する場合、例えば従来技術の特許文献7の技術であっても、充分な耐熱性、特に950℃の熱疲労特性を安定的に得られない場合があることがわかった。
【0010】
本発明は、排気系部材の最高温度が950℃程度になる環境下において、従来技術では達成できなかったより高い熱疲労特性を有するフェライト系ステンレス鋼を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた。その結果、Cu−Nb−Mo−W−Si添加鋼において、Nbが0.50%超の添加量の場合、Siの量を一定の成分範囲に制御することで、Nbを主相としたNb酸化物が組織内に均一に分散し、最高温度950℃の熱疲労特性をSUS444よりも向上させることを見出した。さらにMo+Wの量を2.3〜3.5%程にすることにより、自動車排気系部品を加工する際に充分な加工性を有することを見出した。ここで、Nbを主相とした酸化物とは(Nb,X)yzのことであり、以後Nb酸化物と呼ぶ。Xには他元素(例えばCrなど)が入り、NbはXよりもモル濃度が高い。
【0012】
図1に17.0〜18.0%Cr−0.005〜0.010%C−1.42〜1.53%Cu−0.55〜0.65%Nb−2.45〜2.60%Mo−0.15〜0.30%W−0〜0.52%Si−0.10〜0.20%Mn−0.009〜0.014%N鋼を用いて、添加Si量と粒子径0.2μm以上のNb酸化物の分布密度の関係を示した。Siの添加量が0.30%を超えると、Nb酸化物の分布密度が急激に粗になっていることがわかる。添加Si量を低減させた方がNb酸化物の分布密度が密になる理由は明確ではないが、添加Si量が多い場合、Si酸化物が表層に観察されることから、Si酸化物の生成が優先され、Nb酸化物が生成できないためだと推定される。
【0013】
また、図2は、図1と同様の試験片を用いてNb酸化物の分布密度と最高温度950℃の熱疲労寿命の結果である。Nb酸化物の分布密度が10個/25μm2以上であると、熱疲労寿命が急激に向上していることがわかる。Nb酸化物を析出させた方が熱疲労特性に優れる理由は明確ではないが、高温時に析出するLaves相やε−Cu相と共に粒子分散強化として寄与し、さらに長時間熱処理後にも酸化物は安定して存在しているため、析出物の粗大化が起こり、長時間熱処理後に強度が低下するLaves相やε−Cu相のみの場合よりも強度が維持されると推定される。
【0014】
上記課題を解決する本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)質量%にて、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:0.30%以下、Mn:0.10〜1.00%、Cr:16.5〜20.0%、Nb:0.50超〜0.80%、Mo:2.00〜3.50%、W:0.05〜1.50%、Cu:1.00〜2.00%、O:0.001〜0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに2.3≦Mo+W≦3.5%を満たすことを特徴とする耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(2)質量%にて、B:0.0015%以下を含有することを特徴とする(1)記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(3)質量%にて、Mg:0.0050%以下、Ni:1.0%以下の1種以上を含有することを特徴とする(1)または(2)の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(4)質量%にて、Al:1.0%以下、V:0.50%以下、Sn:0.50%以下の1種以上を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(5)質量%にて、Hf:0.5%以下、Zr:0.5%以下、Ta:1.0%以下の1種以上を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
(6)鋼中のNbを主相とした粒子径0.2μm以上の酸化物が10個/25μm2以上でそのうち1μm超のものが5個/25μm2以下である組織を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
【0015】
ここで、下限の規定が無いものについては、不可避的不純物レベルまで含むことを示す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によればSUS444以上の熱疲労特性が得られ、即ち950℃における熱疲労特性がSUS444と同等以上のフェライト系ステンレス鋼を提供できる。特に自動車などの排気系部材に適用することにより、950℃付近までの高温化に対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】添加Si量とNb酸化物の分布密度との関係を示すグラフである。
【図2】Nb酸化物の分布密度と最高温度950℃の熱疲労寿命との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。以下、特に断らない限り、%は質量%を意味する。まず、本発明の限定理由について説明する。
【0019】
Cは、成形性と耐食性を劣化させ、Nb炭窒化物の析出を促進させて高温強度の低下をもたらす。その含有量は少ないほど良いため、0.02%以下とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、0.003%〜0.015%を好ましい範囲とする。
【0020】
NはCと同様、成形性と耐食性を劣化させ、Nb炭窒化物の析出を促進させて高温強度の低下をもたらす。その含有量は少ないほど良いため、0.02%以下とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、0.005〜0.020%を好ましい範囲とする。
【0021】
Siは、脱酸剤としても有用な元素であるが、Cu−Nb−Mo−W添加鋼において、0.50%超のNb添加した場合、Nb酸化物を生成させるために制限する必要のある非常に重要な元素である。Nb酸化物を生成させるためにはSi含有量が0.30%以下である必要があるため、上限を0.30%とした。一方、熱疲労特性に関して、Siは高温でLaves相と呼ばれるFeとNb,Mo,Wを主体とする金属間化合物の析出を促進する。また、耐酸化性に関して、Si添加量が0.10%以下の場合、異常酸化が起こりやすい傾向となるので、0.10〜0.25%が望ましい。さらに、表面疵の発生等耐酸化を劣化させる要因が加わることを想定すると、耐酸化性に余裕があることが好ましく、この場合、0.10超〜0.20%が望ましい。
【0022】
Mnは、脱酸剤として添加される元素であるが、長時間使用中にMn系酸化物を表層部に形成し、スケール密着性や異常酸化抑制に寄与する。その効果は0.10%以上で発現する。一方、1.00%超の過度な添加は、常温の均一伸びを低下させる他、MnSを形成して耐食性を低下させたり、耐酸化性の劣化をもたらす。これらの観点から、上限を1.00%とした。更に、高温延性やスケール密着性を考慮すると、0.10〜0.60%が望ましい。
【0023】
Crは、本発明において、耐酸化性確保のために必須な元素である。16.5%未満では、その効果は発現せず、20.0%超では加工性を低下させたり、靭性の劣化をもたらすため、16.5〜20.0%とした。更に、高温延性、製造コストを考慮すると17.0〜19.0%が望ましい。
【0024】
Nbは、Cu−Nb−Mo−W添加鋼において、0.50%超のNb添加した場合、Nbの固溶強化およびNb酸化物やLaves相の微細析出による粒子分散強化による熱疲労特性向上のために必要な重要元素である。また、CやNを炭窒化物として固定し、製品板の耐食性やr値に影響する再結晶集合組織の発達に寄与する役割もある。本発明のCu−Nb−Mo−W添加鋼においては、Nb酸化物やLaves相の微細析出による析出強化が0.50%超のNb添加で得られることから、下限を0.50%超とした。また、0.80%超の過度な添加はLaves相の粗大化を促進して熱疲労寿命には寄与せず、かつコスト増になることから、上限を0.80%とした。更に、製造性およびコストを考慮すると、0.50超〜0.70%が望ましい。
【0025】
Moは、耐食性を向上させるとともに、高温酸化を抑制、Laves相の微細析出による析出強化および固溶強化による熱疲労特性向上に対して有効である。しかし、過度な添加はLaves相の粗大析出を促進し、析出強化能を低下させ、また加工性を劣化させる。本発明では先述したCu−Nb−Mo−W添加鋼で、Laves相の微細析出による析出強化および固溶強化が2.00%以上のMo添加で得られることから、下限を2.00%とした。3.50%超の過度な添加はLaves相の粗大化を促進して熱疲労寿命には寄与せず、かつコスト増になることから、上限を3.50%とした。更に、製造性およびコストを考慮すると、2.00〜3.00%が望ましい。
【0026】
Wは、Moと同様な効果を有し、熱疲労特性を向上させる元素である。この効果は0.05%以上から安定して発現するが、過度に添加するとLaves相の粗大化を促進して、析出物を粗大化させてしまうとともに製造性および加工性を劣化させるため、0.05〜1.50%が好ましい。さらに、コストや耐酸化性等を考慮すると、0.10〜1.20%が望ましい。
【0027】
Cuは、熱疲労特性向上に有効な元素である。これは、ε−Cuが析出することによる析出硬化作用であり、1.0%以上の添加により著しく発揮する。一方、過度な添加は、均一伸びの低下や常温耐力が高くなりすぎてプレス成型性に支障が生じる。また、2.0%以上添加すると高温域でオーステナイト相が形成されて表面に異常酸化が生じ、さらに熱疲労特性を劣化させるため上限を2.0%とした。さらに、製造性やスケール密着性を考慮すると、1.2〜1.8%が望ましい。
【0028】
Oは、Nb酸化物を形成させて、耐熱性をさらに向上させるのに必須の元素である。しかし、その含有量が0.01%超ではNb酸化物が極度に粗大化し、熱疲労特性に寄与せず、常温延性も著しく低下させるため、上限を0.01%以下とした。また、0.001%未満であるとNbが充分に添加されていてもNb酸化物があまり生成せず、熱疲労特性に寄与しないため、0.001%以上であることが好ましい。さらに、製造コストも考慮すると、0.003〜0.008%が望ましい。
【0029】
MoおよびWの総添加量は、本発明ではCu−Nb−Mo−W添加鋼においてMoおよびWの合計量が2.3%以上であれば、熱疲労寿命の安定性に寄与するが、3.5%超の過度な添加はLaves相の析出を促進して常温の加工性を劣化させるため、MoおよびWの総添加量を2.3〜3.5%の範囲にする必要がある。さらに、コストや耐酸化性等を考慮すると2.5〜3.3%が望ましい。
【0030】
鋼中のNbを主相とした粒子径0.2μm以上の酸化物が10個/25μm2以上の分散密度であれば、Laves相やε−Cu相の微細析出による析出強化にさらに寄与し、熱疲労特性も向上するため、本発明では粒子径0.2μm以上のNb酸化物が10個/25μm2以上の分散密度とする。また、Nb酸化物の粒子径が1μmを超えるものが5個/25μm2を超えると常温延性等の加工性が極端に低下するため、Nb酸化物のうち粒子径が1μm超のものが5個/25μm2以下に限定する。前述の鋼成分とすることにより、上記規定するNb酸化物を含有することができる。
【0031】
また、熱疲労特性等諸特性をさらに向上させるため、以下の元素を添加してもよい。
【0032】
Bは、製品のプレス加工時の2次加工性を向上させる元素でもある。ただし、過度な添加は硬質化や粒界腐食性を劣化させるため、上限を0.0015%とした。さらに、成型性や製造コストを考慮すると、B含有量は0.0003〜0.0010%が望ましい。
【0033】
Mgは、2次加工性を改善させる元素であり、0.0002%以上の添加により安定して効果を発揮する。しかしながら、0.0050%超の添加をすると加工性が著しく劣化するため、0.0002〜0.0050%が好ましい。さらに、コストや表面品位を考慮すると、0.0003〜0.0020%が望ましい。
【0034】
Niは、耐食性を向上させる元素であるが、過度の添加は高温域でオーステナイト相が形成されて表面に異常酸化およびスケール剥離が生じるため、上限を1.0%とした。また、その作用は0.1%から安定して発現するが、製造コストを考慮すると、Ni含有量は0.1〜0.6%が望ましい。
【0035】
Alは、脱酸元素として添加される他、耐酸化性を向上させる元素である。また、固溶強化元素としての強度向上に有用である。その作用は0.10%から安定して発現するが、過度の添加はNb酸化物を生成させるための酸素がAlと反応してしまい、Nb酸化物の析出量が減少してしまうため、上限を1.00%とした。また、靭性を考慮すると、0.10〜0.60が望ましい。さらに、表面疵の発生や溶接性、製造性を考慮すると、0.10〜0.30%が望ましい。なお、脱酸の目的でAlを添加する場合、鋼中に0.10%未満のAlが不可避的不純物として残存する。
【0036】
Vは、Nbと共に微細な炭窒化物を形成し、析出強化作用が生じて高温強度向上に寄与する。この効果は0.05%以上の添加で安定して発現するが、0.50%超添加するとNb炭窒化物が粗大化して高温強度が低下し、熱疲労寿命および加工性が低下してしまうため、上限を0.50%とした。更に、製造コストや製造性を考慮すると、0.05〜0.30%が望ましい。
【0037】
Snは、原子半径が大きいため、固溶強化により高温強度にも寄与する有効な元素である。また、常温の機械的特性を大きく劣化させない。しかしながら、0.50%超添加すると製造性および加工性が著しく劣化するため、0.50%以下とした。更に、耐酸化性等を考慮すると、Sn含有量は0.05〜0.30%が望ましい。
【0038】
Hfは、耐酸化性を改善する元素であり、0.05%以上の添加により安定して効果を発揮する。しかしながら、0.50%超の添加により粗大なLaves相が析出し、製造性および加工性の劣化が著しくなるため、0.50%以下とした。更に、コストや表面品位を考慮すると、0.05〜0.30%が望ましい。
【0039】
Zrは耐酸化性を改善する元素である。しかしながら、0.5%超の添加により粗大なLaves相が析出し、製造性および加工性の劣化が著しくなるため、0.5%以下とした。更に、コストや表面品位を考慮すると、Zr含有量は0.05〜0.30%が望ましい。
【0040】
TaはHfと同様、耐酸化性を改善する元素であり、0.05%以上の添加により安定して効果を発揮する。しかしながら、1.0%超の添加により粗大なLaves相が析出し、製造性および加工性の劣化が著しくなるため、1.0%以下とした。更に、コストや表面品位を考慮すると、0.05〜0.50%が望ましい。
【0041】
鋼板の製鋼方法において、Nb酸化物は溶鋼中に分散する。
【0042】
なお、鋼板の製造方法については、一般的なフェライト系ステンレス鋼の製造方法で製造することが出来る。例えば、本発明範囲の組成を有するフェライト系ステンレス鋼を溶解してスラブを製造し、1000〜1200℃に加熱後、1100〜700℃の範囲で熱延し、4〜6mmの熱延板を製造する。その後、800〜1100℃で焼鈍、または焼鈍を行わず通板した後に酸洗を行い、その焼鈍酸洗板を冷延し、1.5〜2.5mmの冷延板を作製した後に、900〜1100℃で仕上焼鈍後、酸洗を行う工程によって鋼板を製造することが可能である。ただし、仕上焼鈍後の冷却速度においては、冷却速度が遅い場合、Laves相などの析出物が多く析出するため、常温延性等の加工性が劣化する可能性がある。そのため、最終焼鈍温度から600℃までの平均冷却速度が、5℃/sec以上に制御した方が望ましい。また、熱延板熱延条件、熱延板厚、熱延板焼鈍の有無、冷延条件、熱延板および冷延板焼鈍温度、雰囲気などは適宜選択すれば良い。また、冷延・焼鈍を複数回繰り返したり、冷延・焼鈍後に調質圧延やテンションレベラーを付与しても構わない。更に、製品板厚についても、要求部材厚に応じて選択すれば良い。
【実施例】
【0043】
<サンプル作成方法>
表1、表2に示す成分組成の鋼を溶製して、50kgのインゴットに鋳造した。そのインゴットを1100〜700℃で熱間圧延して5mm厚の熱延板とした。その後、熱延板を900〜1000℃で焼鈍した後に酸洗を施し、2mm厚まで冷間圧延し、焼鈍・酸洗を施して製品板とした。冷延板の焼鈍温度は、1000〜1200℃とした。表1のNo.1〜18は本発明例、表2のNo.19〜41は比較例である。本発明範囲から外れる成分値にアンダーラインを付している。
【0044】
<Nb酸化物の測定方法>
冷延焼鈍板のサンプルの厚さ1/2の部分を機械研磨し、圧延面の法線方向が観察できるようにし、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。10000倍で任意の箇所をSEM観察し、粒内析出したNb酸化物を数十枚撮影した。その写真をスキャナで取り込み、Nb酸化物のみに色画像処理をした後に、Scion Corporation製の画像解析ソフト「Scion Image」を用いて各粒子の面積を求め、面積から円相当径に換算して、Nb酸化物の粒子径を測定した。析出物の種類は、SEM付属のEDS装置(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)にてFe、Nb、Mo、W、Crを定量化することで分類した。Nb酸化物にMo,Wはほとんど含有しないので、最も多く含まれる元素がNbであり、Mo,Wがそれぞれ5mass%未満である場合をNb酸化物とした。Nb酸化物の析出密度の評価は、粒子径0.2μm以上のNb酸化物が10個/25μm2以上かつそのうち粒子径が1μm超のものが5個/25μm2以下の場合を合格として○、それ以外を不合格として×とした。
【0045】
<熱疲労試験方法>
このようにして得られた製品板から板をパイプ状に巻き、板の端をTIG溶接で溶接して、30mmφのパイプを作製した。さらに、このパイプを300mmの長さに切断し、評点間20mmの熱疲労試験片を作製した。この試験片を、サーボパルサ型熱疲労試験装置(加熱方法は高周波誘導加熱装置)を用いて、大気中で拘束率20%、「200℃〜950℃まで150secで昇温→950℃で120sec保持→950℃〜200℃までを150secで降温」を1サイクルとするパターンを繰り返し、熱疲労寿命の評価を行った。なお、亀裂が板厚貫通したときの繰り返し数を熱疲労寿命と定義した。貫通は100サイクル経過ごとに目視で確認した。評価は、2000サイクル以上を合格として○、2000サイクル未満を不合格として×とした。
【0046】
<常温の加工性評価方法>
圧延方向と平行方向を長手方向とするJIS13B号試験片を作製し、引張試験を行い、破断伸びを測定した。ここで、常温での破断伸びは30%以上あれば、一般的な排気部品への加工が可能なため、30%以上の破断伸びを有した場合は○、30%未満の場合は×とした。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
<評価結果>
表1、表2から明らかなように、本発明で規定する成分組成を有する鋼の本発明例は、比較例に比べて950℃における熱疲労寿命が優れていることがわかる。また、常温での機械的性質において破断延性が良好となり、比較例と同等以上の加工性を有することがわかる。
【0050】
No.19,20鋼では、それぞれC,Nが上限を外れているため、950℃の熱疲労寿命が本発明例に比べて低い。No.21鋼は、Siが上限を外れており、Nb酸化物の析出密度が低く、熱疲労寿命が本発明例に比べて低い。No.22鋼はMnが過剰に添加されており、常温における延性が低い。No.23,25,27,29鋼は、それぞれCr,Nb,Mo,Wが上限を外れており、熱疲労寿命が高いものの、常温延性が低い。No.24,26,28,30鋼は、それぞれNb,Mo,W,Cuが下限を外れており、熱疲労寿命が本発明例に比べて低い。No.31〜33鋼は、それぞれCu,OおよびBが上限を外れており、950℃の熱疲労寿命が低く、常温延性も低い。No.34〜41鋼は、それぞれ、Mg,Ni,Al,V,Sn,Hf,Zr,Taが上限を外れており、熱疲労寿命が高いものの常温延性が低い。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は耐熱性に優れるため、自動車排気系部材以外にも発電プラントの排気ガス経路部材としても用いることができる。さらに、耐食性の向上に有効であるMoを添加しているので、耐食性が必要である用途にも用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:0.30%以下、Mn:0.10〜1.00%、Cr:16.5〜20.0%、Nb:0.50超〜0.80%、Mo:2.00〜3.50%、W:0.05〜1.50%、Cu:1.00〜2.00%、O:0.001〜0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに2.3≦Mo+W≦3.5%を満たすことを特徴とする耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項2】
質量%にて、B:0.0015%以下を含有することを特徴とする請求項1記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
質量%にて、Mg:0.0050%以下、Ni:1.0%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
質量%にて、Al:1.0%以下、V:0.50%以下、Sn:0.50%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
質量%にて、Hf:0.5%以下、Zr:0.5%以下、Ta:1.0%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項6】
鋼中のNbを主相とした粒子径0.2μm以上の酸化物が10個/25μm2以上でそのうち粒子径が1μm超のものが5個/25μm2以下である組織を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐熱性に優れたフェライト系ステンレス鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−193435(P2012−193435A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59640(P2011−59640)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(503378420)新日鐵住金ステンレス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】